MBA取得後にアメリカ就職する時の3つの壁とその越え方

Harvard Eye Catch

アメリカのビジネススクールへ留学するアメリカ人以外の学生にとって、卒業後の進路として魅力的な選択肢として米国での就職があります。分かりやすいメリットとしては、以下の5つがあります。

  1. MBA採用という仕組みをすでに多くの企業が持っており、昇進速度の早いLeadership Development Programなど魅力的なプログラムが多い
  2. 給与水準が他国よりも高い($135,000/yearがHBSでの卒業後の平均給与、これにボーナスや転勤費用補助などその他の福利厚生が加わる)
  3. 労働環境が相対的に良い(米国では日本よりも労働時間が相対的に短い職場が多い)
  4. 世界中から優秀な人が集まっており、働いていて楽しい
  5. 子育てをする環境としても良い(高額だが、保育所やNannyなど子供を預ける仕組みが整っている上に良質な教育機会が多い)

一方で、これらのメリットを求めてインターナショナル生が米国労働市場に殺到するため、競争は結構厳しく、米国就労には3つのハードルを超える必要があります。ハードルとその越え方について説明します。

ビザ(Visa)のハードル

最も大きなハードルはビザの壁です。アメリカ国籍や永住権(グリーンカード)を保有していない場合には、米国で就労し続けるためには労働ビザが必要です。

米国の大学を卒業したインターナショナル生の場合、OPT (Optional Practical Training)というプログラムで1年間は労働ビザなしで就労できますが、その期間を超えて就労しようとすると一般的にはH1-Bという労働ビザが必要となります。

このH1-Bですが、米国人の雇用を守るために年間の発行上限が定められており(20,000が大学院以上の学位保有者の優先枠で、65,000がそれ以外の全て)、それを超えた人数が応募した場合は抽選、とかなり留学生泣かせの作りになっています。

近年では200,000人以上が応募しているために、大卒の資格で応募した場合にはH1-Bが取得できる可能性は1/3以下。加えて、トランプ大統領の政策により、より移民抑制の方向に舵を切ろうとしているために、このH1-Bの制度自体がどうなるのかも不透明です。

ビザは個人にとってもリスクですが、企業にとってもせっかく採用してトレーニングした人材が国外に離れるために離職してしまうということでリスクとなります。おまけにH1-Bは企業にスポンサーしてもらう必要があるために、多くの企業はその手間やコストを嫌がります。

結果として、MBA生をターゲットとした採用枠でも、90%以上の企業はそもそもインターナショナル生は採用しません。残りの10%以下の枠でも一般的にはすでに労働ができることが決まっている米国国籍保有者・永住権保持者、もしくは過去にH1-Bを取得していた留学生(H1-Bの延長、とすれば抽選のプロセスから逃れられる)を採用する方が企業側にとってはリスクが低いため、ビザなしの応募者はそもそもかなりのハンデを負っての戦いとなります。

ビザの問題は個人の力でどうにもできないこともあり、悩ましいです。米国で就労したいという人はH1-Bのシステムが新しい大統領の下でどう変わるかを注視しておいた方が良いでしょう。

アメリカのMBAであれば移民法を専門にした弁護士によるビザに関するセッションが年数回開かれることが多く、個々人の状況に応じたアドバイスも受けられるため、積極的に利用するといいかもしれません。

言葉・文化のハードル

これは言わずもがなですが、米国で就労する場合には英語でコミュニケーションをとれる力があることが大前提となります。インターナショナル生の中でも同じ土俵で戦うのは、多くが高校や大学から米国に来て米国で就業した経験のある人や英語が母語の人なので、彼らの方が英語のレベルが高いです。

加えて、米国文化への理解もコミュニケーションの際に重要となるため、はじめてアメリカに留学に来る留学生には辛い点の1つです。例えば、ネットワーキングの機会でどれだけ会話を盛り上げられるか、は文化への理解度に結構左右されるので、英語が話せてもこの点で難しさを感じるインターナショナル生も多いです。

競争のハードル

ビザと言葉・文化の壁に問題がなかったとしても、米国は世界各地から就労したい人が来ることもあり、そもそもの競争環境が日本よりも厳しいです。

日本での就職活動以上に自分の強みと会社のニーズを理解し、どうして自分なのか、をうまく伝えることが求められます。特に競争相手となる米国人のMBA生は米国の就職活動というゲームのルールを理解した上で、かなりの時間を使って就職活動に挑むので、レジュメ、カバーレター、ネットワーキング、インタビューの各プロセスが高いレベルに仕上がっていないと、オファーまでたどり着くことは厳しいと思います。

いかにハードルを超えるか

そうは言っても、これらはあくまでもハードルであり、飛び越えれば良いだけの話です。ビザについてはそもそもインターナショナル生をスポンサーしている企業に絞る、もしくはネットワーキングを通じて窓口をこじ開けることができます。

言葉・文化についてはせっかく米国MBAにいるのですし、日々の生活で改善していけば良いです。競争の壁についても、自分が強みを有する分野を狙えば、十分戦えます。

MBAでは付属のキャリアセンターがレジュメやカバーレターを見て直してくれますし、キャリアコーチがどのような企業にどうやってアプローチをすれば良いかを一対一でアドバイスをくれます。ネットワーキングやインタビューについても練習の機会を提供してくれることが多いため、一般的には就職活動に必要な資源をMBAは提供してくれるでしょう。

僕の周りのClass of 2017のインターナショナル生では、大学内の就職活動支援やインターンを通じてMcKinsey、BCGなどのコンサルティング、Goldman Sachs、UBSなどの投資銀行、Amazonなどのテック系企業、Danaher、Samsung、Fordなどの大手製造業からオファーをもらった人が多いです。

これらの企業の特徴はグローバルに展開しており、もしH1-Bが受からなくても米国外への転勤が可能な企業ということです。海外オフィスのない中小企業やスタートアップは正攻法では門が開いていないために厳しいですが、個人的なネットワークを使ってオファーをもらい、米国に残る人もいます。

そもそもアメリカに残る必要はあるのか

また、昨今では母国へ帰る方が良いオプションとなることも多いため、なぜアメリカに残りたいのか、をはっきりさせた方が良いかもしれません。

米国MBA取得者が少ない日本のような国であれば、帰国した方がより差別化ができ、就きたい仕事に就きやすいです。例えば、アメリカのプライベートエクイティやヘッジファンドについては、米国本社についてはインターナショナル生が入るのはほぼ不可能と言われるくらい狭き門ですが、母国に帰れば支社の門が開いていることがあります。また、スタートアップの日本支社立ち上げの機会もあるようです。

実際、中国やインドのように急速に発展している国の出身者の場合、帰国した方がより将来性があると考える人も多く、最近はアメリカに無理に残ろうとせず、帰国する人の割合が増えてきています。母国の方が家族や友人がおり落ち着くし、ご飯も美味しい、というのもよく聞く理由の一つです。

アメリカ、自国以外に行くという選択肢

アメリカ、自国、以外の国に行くという選択肢もあります。アメリカのトップスクールのMBAのメリットとしては世界中に就労するためのパスポートを与えてくれ、特に英語圏であれば移動が比較的しやすい印象です。

米国内でオプションを探しても良いし、自国へ帰っても良い。あるいはシンガポールやロンドンなどの英語圏に行っても良い。特に、HBSは世界中に卒業生がいてネットワークがあること、HBSブランドが評価されていることなどから、行きたい場所にアプローチしやすいです。

こういった世界のどこでも働けるようになるための下地は日本で教育を受けただけではなかなか持つことが難しいため、世界のどこでも働けるようになりたい、と考える人にとってはアメリカのトップスクールのMBAは良いパスポート取得の機会になるかもしれません。

投稿者: aki

アキ。東京での勤務の後、ハーバードビジネススクール(HBS)へ留学しました。卒業後は、医療の世界で働いています。現在シドニー在住。ご連絡はTwitterまで。

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