MBA取得後にアメリカ就職する時の3つの壁とその越え方

アメリカのビジネススクールへ留学するアメリカ人以外の学生にとって、卒業後の進路として魅力的な選択肢として米国での就職があります。分かりやすいメリットとしては、以下の5つがあります。

  1. MBA採用という仕組みをすでに多くの企業が持っており、昇進速度の早いLeadership Development Programなど魅力的なプログラムが多い
  2. 給与水準が他国よりも高い($135,000/yearがHBSでの卒業後の平均給与、これにボーナスや転勤費用補助などその他の福利厚生が加わる)
  3. 労働環境が相対的に良い(米国では日本よりも労働時間が相対的に短い職場が多い)
  4. 世界中から優秀な人が集まっており、働いていて楽しい
  5. 子育てをする環境としても良い(高額だが、保育所やNannyなど子供を預ける仕組みが整っている上に良質な教育機会が多い)

一方で、これらのメリットを求めてインターナショナル生が米国労働市場に殺到するため、競争は結構厳しく、米国就労には3つのハードルを超える必要があります。ハードルとその越え方について説明します。

ビザ(Visa)のハードル

最も大きなハードルはビザの壁です。アメリカ国籍や永住権(グリーンカード)を保有していない場合には、米国で就労し続けるためには労働ビザが必要です。

米国の大学を卒業したインターナショナル生の場合、OPT (Optional Practical Training)というプログラムで1年間は労働ビザなしで就労できますが、その期間を超えて就労しようとすると一般的にはH1-Bという労働ビザが必要となります。

このH1-Bですが、米国人の雇用を守るために年間の発行上限が定められており(20,000が大学院以上の学位保有者の優先枠で、65,000がそれ以外の全て)、それを超えた人数が応募した場合は抽選、とかなり留学生泣かせの作りになっています。

近年では200,000人以上が応募しているために、大卒の資格で応募した場合にはH1-Bが取得できる可能性は1/3以下。加えて、トランプ大統領の政策により、より移民抑制の方向に舵を切ろうとしているために、このH1-Bの制度自体がどうなるのかも不透明です。

ビザは個人にとってもリスクですが、企業にとってもせっかく採用してトレーニングした人材が国外に離れるために離職してしまうということでリスクとなります。おまけにH1-Bは企業にスポンサーしてもらう必要があるために、多くの企業はその手間やコストを嫌がります。

結果として、MBA生をターゲットとした採用枠でも、90%以上の企業はそもそもインターナショナル生は採用しません。残りの10%以下の枠でも一般的にはすでに労働ができることが決まっている米国国籍保有者・永住権保持者、もしくは過去にH1-Bを取得していた留学生(H1-Bの延長、とすれば抽選のプロセスから逃れられる)を採用する方が企業側にとってはリスクが低いため、ビザなしの応募者はそもそもかなりのハンデを負っての戦いとなります。

ビザの問題は個人の力でどうにもできないこともあり、悩ましいです。米国で就労したいという人はH1-Bのシステムが新しい大統領の下でどう変わるかを注視しておいた方が良いでしょう。

アメリカのMBAであれば移民法を専門にした弁護士によるビザに関するセッションが年数回開かれることが多く、個々人の状況に応じたアドバイスも受けられるため、積極的に利用するといいかもしれません。

言葉・文化のハードル

これは言わずもがなですが、米国で就労する場合には英語でコミュニケーションをとれる力があることが大前提となります。インターナショナル生の中でも同じ土俵で戦うのは、多くが高校や大学から米国に来て米国で就業した経験のある人や英語が母語の人なので、彼らの方が英語のレベルが高いです。

加えて、米国文化への理解もコミュニケーションの際に重要となるため、はじめてアメリカに留学に来る留学生には辛い点の1つです。例えば、ネットワーキングの機会でどれだけ会話を盛り上げられるか、は文化への理解度に結構左右されるので、英語が話せてもこの点で難しさを感じるインターナショナル生も多いです。

競争のハードル

ビザと言葉・文化の壁に問題がなかったとしても、米国は世界各地から就労したい人が来ることもあり、そもそもの競争環境が日本よりも厳しいです。

日本での就職活動以上に自分の強みと会社のニーズを理解し、どうして自分なのか、をうまく伝えることが求められます。特に競争相手となる米国人のMBA生は米国の就職活動というゲームのルールを理解した上で、かなりの時間を使って就職活動に挑むので、レジュメ、カバーレター、ネットワーキング、インタビューの各プロセスが高いレベルに仕上がっていないと、オファーまでたどり着くことは厳しいと思います。

いかにハードルを超えるか

そうは言っても、これらはあくまでもハードルであり、飛び越えれば良いだけの話です。ビザについてはそもそもインターナショナル生をスポンサーしている企業に絞る、もしくはネットワーキングを通じて窓口をこじ開けることができます。

言葉・文化についてはせっかく米国MBAにいるのですし、日々の生活で改善していけば良いです。競争の壁についても、自分が強みを有する分野を狙えば、十分戦えます。

MBAでは付属のキャリアセンターがレジュメやカバーレターを見て直してくれますし、キャリアコーチがどのような企業にどうやってアプローチをすれば良いかを一対一でアドバイスをくれます。ネットワーキングやインタビューについても練習の機会を提供してくれることが多いため、一般的には就職活動に必要な資源をMBAは提供してくれるでしょう。

僕の周りのClass of 2017のインターナショナル生では、大学内の就職活動支援やインターンを通じてMcKinsey、BCGなどのコンサルティング、Goldman Sachs、UBSなどの投資銀行、Amazonなどのテック系企業、Danaher、Samsung、Fordなどの大手製造業からオファーをもらった人が多いです。

これらの企業の特徴はグローバルに展開しており、もしH1-Bが受からなくても米国外への転勤が可能な企業ということです。海外オフィスのない中小企業やスタートアップは正攻法では門が開いていないために厳しいですが、個人的なネットワークを使ってオファーをもらい、米国に残る人もいます。

そもそもアメリカに残る必要はあるのか

また、昨今では母国へ帰る方が良いオプションとなることも多いため、なぜアメリカに残りたいのか、をはっきりさせた方が良いかもしれません。

米国MBA取得者が少ない日本のような国であれば、帰国した方がより差別化ができ、就きたい仕事に就きやすいです。例えば、アメリカのプライベートエクイティやヘッジファンドについては、米国本社についてはインターナショナル生が入るのはほぼ不可能と言われるくらい狭き門ですが、母国に帰れば支社の門が開いていることがあります。また、スタートアップの日本支社立ち上げの機会もあるようです。

実際、中国やインドのように急速に発展している国の出身者の場合、帰国した方がより将来性があると考える人も多く、最近はアメリカに無理に残ろうとせず、帰国する人の割合が増えてきています。母国の方が家族や友人がおり落ち着くし、ご飯も美味しい、というのもよく聞く理由の一つです。

アメリカ、自国以外に行くという選択肢

アメリカ、自国、以外の国に行くという選択肢もあります。アメリカのトップスクールのMBAのメリットとしては世界中に就労するためのパスポートを与えてくれ、特に英語圏であれば移動が比較的しやすい印象です。

米国内でオプションを探しても良いし、自国へ帰っても良い。あるいはシンガポールやロンドンなどの英語圏に行っても良い。特に、HBSは世界中に卒業生がいてネットワークがあること、HBSブランドが評価されていることなどから、行きたい場所にアプローチしやすいです。

こういった世界のどこでも働けるようになるための下地は日本で教育を受けただけではなかなか持つことが難しいため、世界のどこでも働けるようになりたい、と考える人にとってはアメリカのトップスクールのMBAは良いパスポート取得の機会になるかもしれません。

ハーバードビジネススクールでの起業に関する授業外の機会

起業に関するHBSの機会は授業だけではなく、課外活動でも様々な機会がある。

iLab

まず、iLab (innovation Lab)と呼ばれる施設がHBSのキャンパス上にある。こちらはスタートアップに興味のある人が集まる場所で、様々な起業に関するイベントが毎週のように開かれている。イベントはアイデアピッチコンテスト、プロダクトマネジメント、マーケティング、デザイン、資金調達、知的財産、など様々で、スタートアップをする上で有用なアドバイスをかなり得られる。iLabはチームとして申請して、申請が通るとコワーキングスペースとして使え、他のチームとのやりとりで新しいアイデアがもらえる。また、アメリカのコワーキングスペースらしく、コーヒーなどの飲み物やスナックが飲み放題、食べ放題だ。

Rock Center

同様の施設としてRock Centerがあり、こちらでも時々スタートアップ関連のイベントが開かれる。特に法律関連のイベントは外で相談すると数百ドルかかるような内容が無料で聞けるのでおすすめだ。

1年目と2年目の間の夏休みにある「Rock Summer Fellows」も有用なプログラムだ。これは夏休みに自分のアイデアを試したい学生を対象にした金銭サポートのプログラム。スタートアップのアイデアに挑戦したいが、夏休み中にインターンをして少しでも学費の足しにしたい、という学生の悩みに対するHBSのアプローチで、Summer Fellowsに選択された学生には週$600が支給される。2016年は他国でリサーチする学生へ航空券代まで支給されたので、この種のプログラムとしてはかなり寛大だと思う。また、このFellowsはスタートアップに関心のある学生が集まるため、ここでの集まりも良いネットワークとなる。

New Venture Competition

HBSで最大のビジネスコンテストとなるのが毎年春学期に行われる「New Venture Competition」だ。こちらはいわゆるビジネスコンテストで、営利ビジネスと非営利ビジネスの2つのコースで審査がされる。HBSの学生が少なくとも一人はチームに含まれていることが参加条件で、多くのチームがHarvardの他スクールやMITなどのHBS以外の学生とチームを組んで出場している。MITの100Kと同様にボストン界隈では大きな学生ビジネスコンテストの1つで、優勝賞金も$75,000と起業の頭金として悪くない額だ。

クラブ活動

クラブとしてはEntrepreneurship Clubの活動などがある。こちらは年一回のSPARK Entrepreneurship Conferenceが主な活動で、カンファレンス運営に興味があれば良いが、クラブとしては正直集まりが少なく、あまり有用ではない。テクノロジー系であればCODEというコーディング系のクラブの方が活動が活発でほぼ毎週集まりがあってサービス開発の進捗管理ができるので、こちらの方が良いだろう。

他にもEntrepreneurship in Residenceとして起業経験者がHBS近くに住んでおり、この中からアドバイザーを見つけて相談をすることもできる。アドバイザーはテクノロジー系、サービス系、メディカル系などかなり幅広くいるため、たいていの分野で関連するアドバイザーを見つけることができるだろう。

ボストン

最後に、Harvardやボストンという場所も大きな魅力だ。HarvardはHBSのみならずMedical、Public Policy、Law、Engineering、Educationなど幅広い大学院を持つために、異なった専門分野の人と話をする機会にあふれている。ボストンはHarvard、MIT、Boston University、Boston Collegeなど多くの大学や研究機関が集積しており、大学や研究所にはスタートアップの種がゴロゴロと転がっている。具体的にはケンブリッジには研究所発のライフサイエンス系のスタートアップの集積がある。研究寄りのテクノロジー、特にライフサイエンスに興味のある人にとっては、ボストンは最適な場所だろうと思う。

ハーバードビジネススクールの起業に関する授業

今週で3月も終わり、残すところ授業はあと1ヶ月を切った。HBSの2年生の間では「卒業後どうする?」が定番の話題だ。すでに仕事が決まって卒業旅行の計画を練っている人もいれば、スタートアップなど卒業のタイミングギリギリから採用活動を始める会社への就職活動がピークになっている人もいる。起業してすでにバリバリと自分のビジネスを進めている人もいる。起業に興味のある人向けに、今回はHBSでの起業に関する授業について紹介したい。

カリキュラム

HBSでの授業は1年目は必修で、2年目は完全に選択授業だ。1年目の必修のうち、起業に関する直接的な授業は「The Entrepreneurial Manager」という2学期目の科目だ。この授業ではビジネスモデルの分析、資金調達、ビジネスモデルの改善などを扱い、扱う企業のサイズもまさしくアイデアの段階から上場するレベルの大きさまで扱う。ゲストも多く、実際の起業家の話を聞いたり、質疑応答をすることで、ケースの登場者から直接学ぶことができる。

また、1年目の冬休みには希望者向けにStartup Bootcampがあり、こちらは10日間でアイデアを実際の形にするところまでを実践できる、かなり密度の濃いプログラムだ。スケジュールを見てみればわかるが、スタートアップのCEOやベンチャーキャピタルのパートナーなどゲストもそうそうたる顔ぶれで、ゲストからの学びも非常に多い。

2年目の選択授業でも起業に関する科目が多く提供されている。個人的なオススメはRobert Whiteの「Entrepreneurial Finance」とShikhar Ghoshの「Founders Dilemma」だ。Robert WhiteはBain Capitalの創設メンバーであり豊富な実務経験を持つとともに、Mitt Romneyの2012年の選挙参謀を担うという政治にも明るい教授で、まさしくHBSでないと出会えないような人だ。Shikhar GhoshもCEOとしてAppex、Open Marketを成長させ、どちらもExitを成功させるなど実務経験が豊富な教授で学びが多い。

他にも、HubspotのChief Revenue OfficerであるMark Robergeが教える「Entrepreneurial Sales and Marketing」も評判が良い。テクノロジー系に興味がある人には「Launching Tech Ventures」や「Scaling Tech Ventures」、ヘルスケア系に興味がある人には「Innovating in Health Care」など分野別に特化した科目もあり、その気になれば起業系の科目だけで選択授業の大半を埋めることができる。「Launching Tech Ventures」や「Scaling Tech Ventures」はほぼ毎回ゲストがいるので、起業家とネットワーキングをしたい人にとっても非常に価値がある授業だ。

また、起業に集中する人は、FIELDという実践系の授業や「Independent Study」という教授と組んで自分のスタートアップを題材にしたレポートを出す授業を取る人が多い。これは、①教授からアドバイスを定期的に受けられる、②授業を受けなくて良いのでその分の時間をスタートアップに使える、という2つのメリットがある。

他の大学との比較はできないが、起業に関する授業に関しては、①サイズの大きなMBAプログラムのため選べる科目数が多い、②実務経験とアカデミックの両方を併せもった経験豊富な教授が多い、③ゲストが来る率が非常に高くゲストから直接学べ、しかもネットワーキングの機会もある、という3点がHBSでは強みとしてあるのではないかと思う。

そのほかのプログラム

加えて、授業はあくまでもほんの1部分でしかない。他にもHBSが用意している起業家向けのプログラム(Rock Summer Fellows、New Venture Competition)や施設(iLab、Rock Center)や課外活動の機会(Club etc)も豊富にあるため、こちらは次回以降に紹介したい。

短期留学の高校生へレクチャーをする

縁あって日本から来ている高校生十数名にビジネスについてレクチャーをする機会があった。構成は高校生側からの英語でのプレゼンテーション、僕からのビジネスプランとリーンスタートアップについてのレクチャー、最後にキャリアについての質疑応答。

プレゼンテーションは高校生とは思えないほどしっかりしていたし、臆せず手をあげて質問をする学生が多いなど、自分が高校生の時よりもずっとしっかりしているな、と感じた。彼ら・彼女らのような学生が増えれば、日本の将来も明るいだろう。

今、高校生だったら海外の大学に進学しますか?

キャリアについてはいくつか質問を受けたが、面白いなと思ったのは、「今、高校生だったら海外の大学に進学しますか?」という質問。

僕は「僕が君らと同じ立場ならすると思う」、と答えた。日米の大学での学生生活を経験して感じるのは、やはり米国・英国トップレベルの大学には世界中から優秀な人が集まっており、より刺激的だということだ。

僕が通った大学も良い大学だと思うし優秀な人に囲まれていたと感じるが、同じかそれ以上に優秀な人がおり、かつ多様性があるという点ではやはり米国・英国の大学が勝る。加えて、今は孫さんや柳井さんの奨学金があるため、受給できれば金銭面でもかなりの部分がカバーされる。日本国外でも勝負したいならば、挑戦しない手はないと思う。

また、「それだけ色々な経験をしてきているという話を聞いて、安心しました。大人はみんな夢を持て、やりたいことを見つけてそれを続けるんだ、と言うのだけど、途中で変えても良いのですよね」、というコメントはそうだよな、と思った。そして、「そうだと思うよ」、と答えた。

高校生に伝えたこと

僕が高校生の時は、社会のことなんて全然分かっていなかったし、「多くの人の命を救えるような仕事をしたい」(当時はHIVやガンを完治させる薬を作り出したい)、というようなある意味漠然とした思いしかなかった。

就職の際も軸は持っていたが、これが自分の生きる道だ、とまで言い切れるほどのものはなかった。働き始めて、色々試して、自分を振り返って、より自身を理解して、ようやく自分がやりたいことが見えてきた、というのが正直なところだ。

ずっと好きなもの・やり続けていたいものがあれば、それをやり続ければ良いと思う。好きなことが見つかっているのは、幸せなことだ。

ただ、好きなことが見つかっていなくとも焦る必要はなく、今、興味があったりやりたいものを選べば良いと思う。そうやって選んで、試してみて、考えて、また選んでいけば、真にやりたいことに出会えるのではないかな、と思う。

HBS授業紹介: U.S. Healthcare Strategy

HBSはInitiativesとしていくつかの領域の強化をしており、Healthcare Initiativeもそのうちの一つだ。日本人の視点からすると、なぜヘルスケア?、非営利の分野なのではないか?、と思う人もいるかもしれないが、米国ではヘルスケアはGDPの17.8%を占め、インフレ率以上の成長を続ける民間主導の産業であり非常に重要度が高い(2015年)。おまけに、国民一人当たり$8,508 (約92万円)も使っていながらOECD Health Statisticsによれば、医療の質はOECDの国の中でも低い位置にあり、HBSとしても「どげんかせんといかん」というわけだ。

U.S. Healthcare Strategyは元McKinsey、元Kelloggの教授であるLeemore S. Dafnyが開講しているコースだ。Leemoreは特にヘルスケアに関する公共政策の分野ではかなり知られた教授。

2017年のコースは半セメスター(約8週間)で、扱うケースは米国のヘルスケア業界の幅広さを示すように、病院、クリニック、製薬、保険とかなり幅広い。具体的には病院では保険と診療の垂直統合モデルであるKaiser、水平統合のケースであるPartners Healthcare、クリニックは透析クリニックのDaVita、保険は米国のAffordable Care Act成立後に急伸したOscar、Preventive Careに焦点をあてたOak Street Healthなど、それぞれの分野で注目すべき企業・組織が選択されている。教授が経済学に強いためか、視点は公共政策に近く、マクロ経済やミクロ経済の視点を多く用いる。具体的に扱うコンセプトの例は、垂直統合モデル、水平統合モデル、代替財・補完財、規模の経済・範囲の経済、など。買収に関連して、独占禁止法や米国の訴訟プロセスについても触れる。HBSの1年目の必修では特にミクロ経済はさわり程度でほとんど扱わないため、必修科目との重なりはかなり少ない。

教授のファシリテーションはうまく、結構バシバシと突っ込んでいくし、生徒同士で議論もさせる。学生はMD/MBA (医者とMBAのダブルディグリープログラム)、元ヘルスケア業界、Public Health専攻の学生が多く、業界の知識がかなり出てきたりして生徒同士の議論からの学びも多い。米国のヘルスケア業界に知見がない人はついていくためにやや努力が必要だが、毎回ハンドアウトが配られるので、要点を掴むのは難しくはない。

授業の負荷は普通からやや重い程度。元々業界の知見がある人であれば、ケースや資料をすんなり読めるのだろうが、僕のように米国ヘルスケア業界に知見がない人にとっては、その度に調べることが出てきて、やや時間がかかる。例えばMedicare Advantageとは何か、Primary/Secondary/Tertiary Careの定義は何か、などは知っていることが前提として議論がなされるため、授業についていくためにはそれらを知っている必要がある。僕は最初はさっぱり分からなかったので、新しい単語が出てくるたびに毎回Googleで検索をしていた。

全体として、ヘルスケアに興味のある僕としては非常に満足度が高いコースで、5段階中4.5くらいの評価だ。米国の広大なヘルスケア産業をこれだけ全体感をもって説明してくれる授業は初めて。公共政策的な観点も企業視点の科目が多いHBSでは新鮮。また公共政策的な観点のみならず、企業視点としてもヘルスケア業界の特殊性を活かしてどんな戦略がありえるか、ということを扱い、これも非常に学びが多かった。

製薬業界をもとに学びの具体例を挙げると、ジェネリックが入ってきて独占的な利益を失うことを防ぐために、①Product Hopping (同じ効能の薬を容量や摂取方法などマイナーチェンジをすることで新たに特許を取得して、独占的な利益を享受できる期間を伸ばす)、②Pay-for-Delay (ジェネリック薬製造企業に金銭または金銭的価値があるものを払うことによってジェネリックが入ってくる時期を遅らせること)、③Shadow Pricing (独禁法に触れない範囲で競争相手に価格上昇でシグナルを送り、お互いに価格を上げる行為)など。業界ごとにこういった学びがあり、卒業後に米国ヘルスケア業界で働く人に対しては履修を強くお勧めできる授業だ。来年は1セメスターを通してのコースになるようなので、より深く、広くアメリカのヘルスケア業界が学べると思う。

一方、得られる学びは他の規制が強い業界にも適用できる(電力などインフラ系など)と思うが、かなり業界特化した授業なので、ヘルスケア業界に関心がない人にとっては他の授業を履修した方が良いかもしれない。

HBS授業紹介: Launching Tech Venture

HBSでは起業家教育に力を入れており、起業家向けのコースも多い。米国ではテクノロジー系の起業が特に多いこともあり、テクノロジー系の起業家育成に焦点をあてたのが、この”Launching Tech Venture”だ。教授はJeffrey RayportJeffrey Bussang。僕の履修している授業の教授はJeffrey Rayportで、Ph.Dを持ちながらPEや起業家としての経験も豊富な、ハイブリッドタイプだ。

2017年のコースでは半セメスターで、扱うケースはほとんどがシードからSeries Bくらいまで、とアーリーステージの企業を扱う。ケースで扱われるビジネスはアメリカでのトレンドを反映してか、ソフトウェア系が多く、マルチサイドプラットフォーム(Amazonやメルカリなどの売り手と買い手を結びつけるサービス)やSaas (Service as a software)の企業を扱う。有名どころだとRapid SOSなど。扱う分野はプロダクトマネジメント、グロースハック、ビジネスディベロップメントで、学ぶコンセプトの代表例はPMT (Product Market Fit)、LTV (Life Time Value)、CAC (Customer Acquisition Cost)、Sales Learning Curve、など。基本的には1年目の必修であるTEM (The Entrepreneurial Manager)で浅く学んだ科目をテック企業に焦点を当ててもう少し深めた科目だ。

僕は元々プロダクトマネジメント、グロースハックに近い仕事をしていたために、これらの分野は元々仕事でやっていたことを整理するのに役立ったレベルだが、ビジネスディベロップメントについては新しいことが多く、学びが多かった。最初のSales責任者の選び方、Sales Learning Curve、Sales Cycleの長さとインパクトの大きさのトレードオフをスタートアップでどう考えるか、など知るのと知らないのとでは営業やパートナーシップチームを設計する際に大きく差が出ると思う。

教授のJeffreyは学生の議論のファシリテーションがうまく、しかも取締役会さながらに突っ込んだ質問をしてきたりと、学生からの発言をうまく引き出している。話し方もエネルギッシュで、退屈させないし、毎回のケースからのTakeawayもしっかり説明するため、何を学んでいるかが明確だ。

最も良い点は、ほぼ毎回、ケースの当事者の起業家が来ることだ。授業の後半20分はケースの当事者からの議論を聞いての感想と、当事者への質疑応答に使われる。その後、ランチまたはコーヒーチャットのセッションが用意され、そこでより深い質疑応答をすることができる。起業家は年齢が同じくらいな人が多く、彼らから生の体験を聞ける機会は、かなり貴重だ。

要求されるケース自体のワークロードは軽め。ただ、Optional Readingや毎週日曜日に補足として扱ったトピックに関するブログや記事を全て読めばそれなりの量になるし、各トピックについての理解を深める助けになるので、学びたい人にとっても期待に応えられる授業になっている。

全体を通して、僕にとっては5段階中の3.5くらいの満足度。元々同じ業界にいたためか、得られた学びは他の授業と比べると少なかった。元GoogleでProduct Mangerをやっていた友人も同じような感想を抱いていた。一方、コースの内容としてはテクノロジーのスタートアップで働く人に役立つ学びが多く含まれており、教授も良いため、前職まででこの業界に経験がない人であれば4以上となると思う。教授についてはJeffery Bussangの方の評価が高いが(HBS生活の中で最も良かったという人も多い)、人気なため、ビッディングのプロセスで高めにする必要があると思う。

2年間のHBS留学生活で得られたもの

HBSの2年間もあっという間に最終学期ということで、「この留学生活で得られた一番のものはなんだっただろうね」、という話をある食事でした。ある人は「友人」と答え、ある人は「広い視野」と答えた。

僕の番になって、僕が答えたのは「自信」だ。「挑戦して失敗しても、最後には成し遂げられる。たとえ失敗したところで、食うには困らない」という自信。これは、「失敗したってなんとかなるのだから、世の中のためになること、自分の好きなことをやろう」という気持ちに繋がる。

HBSで育てられる楽観主義

HBSでの生活の中で、何十、何百という成功または失敗した起業家やビジネスパーソンと話をしたり、経営者の判断をケースで議論していると、楽観主義が湧いてくる。自分が意義あると思うことをやって、成功したら楽しい。失敗しても失敗の仕方を間違えなければ次に繋げられる。失敗を何度繰り返しても、そこから学んで挑戦することで、ある程度の成功まではいける。成功した起業家やビジネスパーソンは別次元の人間ではなく、自分と同じ人。成功と失敗のリアリティを身近で感じられたことは、自分でもやればできる、という自信に繋がった。また、セクションメイトと青臭い話ができたり、教授からフィードバックを受けられるこの理想的な環境も、この楽観主義を育てるのに一役買っている。

HBSが与えてくれるセーフティネット

加えて、「失敗」してもセーフティネットがあるとも感じる。HBSのMBAというのは、学校側の絶え間ないカリキュラムの改善と卒業生たちの功績のおかげで一つの品質の保証となっており、これを取得していることで、日米に限らず、世界中の企業で働く可能性が開ける。

また、卒業生のネットワークもかなり強いため、本当にどうしようもなくなっても、きっと助けてくれる人がいるだろうな、という安心感がある。つまり、MBAがセーフティネットとして機能して、失敗したところで、(よほどひどい失敗の仕方をしなければ)家族が食うに困るということはないだろう。

こういった気持ちの変化があることはMBAに来るまでは予想していなかったが、僕はとても価値ある変化だと思うし、そういう変化をもたらしてくれたHBSでの機会に感謝している。

HBS最終学期開始

1月23日から、いよいよ2年生にとっては最終学期となる、2年目の春学期が始まった。春学期は授業が4月28日までで、間に1週間の春休みが入っているため、HBS生活もあと実質90日を切っている。最後の学期は学業、友人関係に力を入れて、悔いのないように過ごしたいと思う。

学業

卒業後に米国のヘルスケア関連企業に進むことから、春学期はHealth CareとGeneral Managementを中心とした7つの授業を履修する予定だ。

Innovating Health Care (Prof. Regina Herzlinger)

米国のヘルスケア業界の経営研究では知らない人がいないと言われるほど有名なHerzlingerの、いかにヘルスケア業界で新しいビジネスを起こすか、という授業。授業はケーススタディ形式の授業とビジネスプランを作るという最終提案の二本立て。HBSに入学する前から履修したかった授業なので楽しみだ。まだ一度しか受けていないが、ヘルスケア業界のユニークな構造にかなり深く突っ込んでいくため、ケースの内容が非常に専門的。また、参加している生徒のほとんどが元々ヘルスケアのバックグラウンドを持つ人やMD/MBA(医者とMBAのダブルディグリープログラム)のため、生徒の議論も専門性が高い。例えば、Medicare/Medicaidと呼ばれる米国政府が運営している保険がどのようにreimburseするか、という門外漢には分かりづらい点も普通に議論に出てくる。教授がヘルスケア業界にかなりネットワークがあるので、ケースで扱われている経営者が実際に教室に来る機会がそれなりにありそう。ヘルスケア業界初心者の僕にとってはかなりついていくのが大変そうだが、その分得るものも多そうだ。

U.S. Healthcare Strategy (Prof. Leemore Dafny)

ヘルスケア業界に特化して、どのように状況を分析し、企業戦略を立てていくかという授業で、教授はヘルスケア業界のStrategyコースを作ったパイオニアであり、元McKinseyのコンサルタントでもあるDafny。こちらも内容が非常に専門的かつ履修している生徒がヘルスケアバックグラウンドの人ばかりなので議論の内容も深い。教授の説明が非常に明確で分かりやすい点が授業の魅力を高めている。こちらも業界初心者の僕にとってはついていくのが大変だが、得るものがその分多い業界特化の授業。例年の授業評価も高い。

Launching Tech Venture/Scaling Tech Venture (Jeffery F. Rayport, Thomas R. Eisenmann)

テクノロジー業界でいかに新しい企業を立ち上げて、スケールさせていくか、を扱った授業。春学期の前半がLaunchingで後半がScalingの内容となり、教授も変わる。授業履修としては別々だ。Rayportは教授職と起業家の両方を経験しているハイブリッドで、Eisenmannは起業研究の大家かつteachingでの高い評価をコンスタントに得ている教授だ。ほぼ毎回、ケースに登場する登場人物がゲストとして授業に来てくれるため、生の起業家と接することが多い授業だ。似た科目として、Entrepreneurship in Healthcare IT and Servicesという科目も開講されていたのだが、他に取りたい授業と時間が重なっていたことと、こちらのLaunching/Scaling Tech Ventureの方が教授が良いのでこちらにした。ケースメソッドでは教授の良し悪しで得られるものがだいぶ変わってくるので、良い教授を選ぶことが非常に重要だ。あくまで個人的な印象だが、実務経験(特にマネジメント経験)がある教授の方がインサイトのある学びをくれることが多く、僕は実務経験がある教授を選ぶようにしている。

General Management: Process and Action (Prof. Joseph B. Fuller)

世界的なコンサルティングファームであるMonitor Groupの創設メンバーの一人であるFullerが教える、事業責任者 (General Manager)としてどのように戦略を実行(Implementation)するかについての授業。実行に重点を置いており、どのようにプロセスを設計・運営し、どのように動くことでどのような影響力を組織に及ぼすべきか、が学べる。昨年度の授業評価が非常に高く、今季も人気授業の一つ。戦略論については1年目と先学期に履修したが、戦略実行の難しさは立てることよりも実行することにある。より戦略を効果的に実行するためのツールボックスを増やしたいと思い、履修することにした。

Designing Competitive Organization (Robert Simons)

管理系の科目の大家であるSimonsが教える組織設計と運営に関する授業。戦略がすでにある前提で、組織をどのように設計するか。何を成果の指標として測るか。どのようにインセンティブの仕組みを設計するか。やるべきこととやるべきでないことをどのように決めてコミュニケーションし、どのように仕組み化するか、など。僕も日本で働いていた時に組織設計や変更がもたらす正と負の影響のどちらも経験しているので、組織運営においてはどのようなレバーがあり、どのレバーを引くとどうなるか、と知ることは非常に有益だと思う。こちらも戦略の実行について、自分が持てるツールボックスを増やしたいために履修することにした。一つ上の学年のある日本人の先輩が絶賛していたこともあって、同じ時間帯の授業に日本人が6人くらいいる。毎週、ちょっとした同期会だ。

Strategic IQ (John Wells)

1年目に必修授業の戦略(Strategy)を僕のクラスに教えていたJohn Wellsが開講する戦略の授業。WellsはPhD取得後にPepsicoで欧州の事業責任者を担うなど実務家と研究者のハイブリッドで、授業は非常にsarcasticかつentertaining。受けていて楽しい教授の一人だ。1年目の必修のStrategyは教授は良かったのだがコースの設計がイマイチで得られたものが少なかったため、今回はWellsの手腕に期待。

* * * * *

今学期は以上の7科目(そのうちの3科目は前半か後半のみで、他の4科目は通期)を履修予定だ。先学期よりも量が多いのでやや大変だが、これだけ学びに集中できる環境は働き始めたらなかなか得られないと思うことと、HBSの教授のようなそれぞれの分野の第一人者から学べる機会の貴重さに改めて気づいたことから、最後に詰め込んだ。また、今回の科目はU.S. Healthcare StrategyとGeneral Managementの2科目を除く5科目は全てペーパーのため、書くトレーニングにもなるかと思っている。

先学期と同じく、今学期も全科目において半分以上の授業で発言すること、2以上の評価を取ることを目標にしたい。

友人関係

HBS生活も3学期を経ると、だいぶ人間関係も固まってくる。僕の場合、やはり仲が良いのは大きく分けると、①テクノロジー業界に関わるアメリカ人、②セクション内のインターナショナルの学生、③アジア系学生、④Harvardに関わりのある日本人、だ。先学期は妻の協力もあって、平均すると週1回は自宅に友人を呼んでホームディナーができていたので、今学期も週1回のホームディナーは継続し、ホームディナーを含めて週2回は友人関係を深めるためにディナーの機会を利用したい。また、お昼も友人とキャッチアップする良い機会であるので、週4回はランチまたはコーヒーを友人と一緒にするようにしたいと思う。

3学期を通じて、なんだかんだで200人以上とは繋がっており、卒業後も仕事に関するメールのやり取りができるくらいの仲にはなっている。今学期は友人関係を広げるよりも深めて、最終的には人生や仕事について、卒業後にも定期的に話をしていける一生の友人が数人できればいいなと思う。

キャリア

元々はNew Venture Competitionに出る気でいたのだが、米国のヘルスケア関連企業に就職し、卒業後も米国に残ることにしたので(先学期はこの点についてかなり時間を使って考えた。この意思決定については落ち着いたら書く予定)、今年は参加を見送る予定。ビジネスプランについてはInnovating in Healthcareの授業内でチームで書く予定なので、そちらを将来自分でやりたい事業について考える機会にあてる予定だ。

また、特にヘルスケア業界について先学期感じたのだが、この業界では深い業界知識とネットワークがないとビジネスをやることが非常に難しい。僕は業界については完全に素人なので、現状では医者や病院とまともに話ができない。そのため、今学期のゴールは専門家の言っていることが分かり、まともに会話ができるレベルまで達することだ。そのために、2つのヘルスケア関係の授業に加えて、John WellsのStrategic IQなどのペーパーのお題でもヘルスケア業界の企業を選択し、業界の知識やそもそものヘルスケア関連の語彙を増やしていきたいと思う。

時間の使い方

今学期は授業外でもやりたいことが多い。まず、教授から選んでもらったこともあり、FIN2 (Finance 2)という授業のTutorをやる予定だ。TutorはHBSの1年生が分からないことがあったときに1対1のセッションをやる、という2年生による個別指導だ。どれくらいの依頼があるのか分からないが、Tutorをするというのは面白い経験であり、依頼があったら積極的に受けていきたい。今学期は4月末までに10時間はこれに時間を割く予定。

授業外では、Accent Americanという発音・イントネーションに関する10週のプログラムを履修しており、こちらは2月末まで続く予定だ。1日1時間は練習するように、と言われており結構大変だが、良い発音・イントネーションは一生の財産になるため、しっかりとこなして得るものを得たい。

また、米国で卒業後に生活することを考えて、こちらで運転免許を取ろうと思っている。僕自身は日本で免許は持っているがほとんど運転していなかったので、勘を取り戻すことも含めて、教習所通いで時間がややかかりそう。卒業後に行く先は車が必須なので、4月末までにはなんとかして免許を取りたい。

加えて、働き始める前に体力づくりをしたい。先学期は膝をやや痛めて走れなくなってしまい、その後運動不足になり、旅行の前後に風邪をひいたりとかなり体力が落ちてきてしまっているので、運動習慣の改善が必要。体重も約1年半の米国生活で2キロ増えてしまった。今学期は少しずつ運動量を増やして週2回はジムに行き、働き始める7月にはハーフを怪我なく走れるくらいまでもっていきたいと思う。

最後にだが、授業終了から卒業式前までには2週間強の時間がある。引っ越しがあるためにフルに時間を使うことはできないが、MBA中は旅行をして世界を知る良いチャンスでもあるので、その期間にまだ行ったことがない場所へ行き、視野をさらに広げたいと思う。

2年生秋学期の振り返り

すでに春学期が始まってしまっているが、2年生の秋学期を振り返ってみる。

学業 (Academics)

秋学期は”Strategy and Technology”、”Negotiation”、”Entrepreneurial Finance”、”Globalization and Emerging Markets”、”Founders Dilemma”の5科目を履修した。このうち、Entrepreneurial Finance、Globalization and Emerging Markets、Founders Dilemmaは内容と教授も人気の授業。受講した科目はどれも良い科目で、選択授業の良さを実感した。

“Strategy and Technology”ではIntelやMobileyeの社外取締役も務めるDavid Yoffee教授からテクノロジーの業界で特に重要となる戦略の5つの原則、ネットワーク効果、マルチサイドプラットフォーム、柔道・相撲戦術、知的財産、ガバナンスについてどのような点を考慮して戦略を立てるべきかを学んだ。特に5つの原則のうち、”Look forward, Reason back”、未来に世界がどのように変化するかを予想して、そこから逆算して今行うことを考える、というのは技術変化でビジネスがガラリと変わるテクノロジー業界では特に重要だと感じた。

”Negotiation”はMichael Wheeler教授。交渉を分析するフレームワークとその適用方法、信用構築の方法、交渉における学び・適応・影響のサイクル、相手の感情を用いて交渉をいかに有利に進めるかのテクニック、突っ込みすぎた時の対応の仕方、多数のステークホルダーがいる際に有利な状況を作り出すためのプロセスなどを交渉のシミュレーションや優れた交渉人の交渉過程を観察することから学んだ。授業は振り返りや観察からの学びに重点が置かれており、卒業後にも交渉力を高めていくための手法を学べたのが良かった。

”Entrepreneurial Finance”はBain Capitalの創設メンバーであるRobert White教授。起業をする際に「いくら、誰から、どんな条件で」資金調達を行うべきかに加え、近年広がりつつあるベンチャー向けの貸出、クラウドファンディング、売掛金の現金化などの現金調達の手法について学んだ。スタートアップを評価する上で、PDCOフレームワーク(People, Deal, Context, Opportunity)や3 Statge Model (Growth, Profitability, Asset Intensity)は有用だと感じたし、特に資金調達の際の契約書の内容について一つ一つの条項レベルである程度学べたのが良かった(Participation, Anti-dillusion, etc.)。資金調達の際に、どの条項が何にどのようにきいてくるか、を理解していることは必須だと感じたし、将来的によりフェアな条件交渉をするための下地ができたという点で非常に有益だった。実践的には今の市場のスタンダードを知り、良い弁護士を雇うことが大事。

”Globalization and Emerging Markets”はSophus Reinert教授の人気授業だ。新興国が国の発展のために用いている戦略とその国がどのような産業構造になっているのかをフレームワークで分析する手法を学び、それぞれの国でどのような仕組み(institutions)が欠けており、どのステークホルダーがその欠けている仕組みを活かしており、そのような環境へどのように進出するのが良いのか、という企業の進出戦略についても学んだ。例えば、キューバやロシアでinstitutional void(欠けている部分)を活かして事業をする例からは、新興国では機会もあるが、obsoleting bargaining powerのリスク(最初は政府に必要とされて進出しても、徐々に政府がノウハウを吸収して、会社ごと国有化されるなど、必要とされなくなるリスク)があるため、政府とかなりデリケートな関係を築かなければいけないことを学んだ(例えば、こちらを刺したら国際社会から相手も刺されるような状況を作り出すなど)。

これらの授業を履修したことで、①戦略を立て、②多数のステークホルダーと交渉し、③事業提携や資金調達を行い、④新興国までサービスを広げる、という点についてより失敗のリスクを減らし、成功の可能性を高められるようになったと思う。

5つ目のSkikhar Ghosh教授の”Founders’ Dilemma”は僕にとって特に思い出に残る授業となった。秋学期のその他の4つの授業を含めてHBSでこれまで受けてきた授業の中にはビジネスをする上での視点を広げてくれたり、知識を増やしてくれるものは多かったが、”Founders’ Dilemma”は自分の人生観にまで影響を与える授業だった。Hard choiceをいかに行うか、いかに公平さを互いに感じるようなプロセスを築くか、採用と解雇の手法、建設的な失敗の仕方、など、学びは多かったのだが、特に印象深かった授業は、「成功とは何か、失敗とは何か、幸せは何で決まるか」についてだ。端的に言えば、幸せはquality of relationships=どれくらい深い人間関係を築けたか、で決まるというのが主な学びだが、彼が自分の人生のストーリーを交えて語ってくれたその教えは心に残った。

彼の講義は、自分自身を振り返る良い機会となると同時に、行動を変えるきっかけとなった。彼の授業を履修して以降、人からの評価を気にして物事を決めていないだろうか、自分の周囲の人を大切にできているだろうか、意義あることに時間を使えているだろうか、を定期的に振り返るようになった。また、より頻繁に家族と連絡を取るようになり、留学以降やや離れてしまっていた日本の友人と連絡を取る頻度も増えた。これらの行動の変化は、人間関係という点で数年、数十年単位で人生をより良い方向に導いてくれると思う。彼の授業を受けられたことは、幸運だ。

成績は、特に好きな授業であったFounders DilemmaとNegotiationが「1 (優)」で残り3つが「2 (良)」だった。成績は全てが「2」以上取れれば良いと思っているので、目標達成。また、「1」の割合が先学期よりも増えたのも英語での学習環境に慣れてきたということで良い傾向。そのうち一つの授業では教授からも「Final(期末テスト)がとても良かった」と褒められ、嬉しかった。

友人、課外活動

先学期より妻がボストンへ来て、単身用の寮からキャンパス内のアパートへ引越しを行ったため、自宅に友人を呼ぶことができるようになった。そのため、平均して週に一度は2〜4人程度の友人を家に呼んで日本食をふるまうという小さなホームディナーをした。

ディナーの席では話題も様々で、キャリアや家庭といったプライベートな話から、学校生活、国際政治や歴史の話まで及び、話が尽きることがない。ホームディナーでは時間を気にせずゆっくり話せるし、集団ではなかなかしにくい突っ込んだ話もできるので、非常に良い。昨年はアメリカ大統領選挙の年ということもあり政治関連の話を多くした。これらの話を通じて、世界の政治に関する自分の感度がより高くなったように感じる。

一方、昨年の同時期はハーバード日本人会やボーゲル塾に参加していたが、2年目の秋学期はキャリアに集中するため、あまり参加しなかった。

キャリア

卒業後にどうするか、についてじっくりと考え、行動し、人と話す期間だった。ビジネスプランについて投資家と話し、同時に就職活動も行い、米国企業からオファーももらった。MBA卒でもインターナショナル生が米国でのオファーをもらうのはかなり狭き門なため(H1Bビザの関門が大きく、99%の企業は永住権のないインターナショナル生が応募しても門前払い)、自信に繋がったという点でも良かった。色々と考えたが、いくつかの選択肢の中から米国に残る選択肢を選んだ。卒業後に新しいチャレンジが待っていると考えると、ワクワクする。

* * * * *

2年生の秋学期は特に過ぎるのが早かったという印象だ。特に大きな活動があったわけではないが、卒業後の進路を決めるため、9月、10月はキャリア関係に使っている時間が多かった。リサーチや受け答えの練習など、想像以上に時間がかかった。11月、12月は課題とレポートに追われていてあっという間だった。また、友人とも1年生の時以上に会っていたので、その点でも時間を使っていた。秋学期は英語やトレーニングなどの自己研鑽を怠ってしまったが、学問、友人関係、キャリアで目標はある程度達成していたため、点数をつけるならば70点というところだ。もう少し自分への目標を高く設定しておいても良かったかもしれない。

最後の学期である2年生の春学期は、振り返りをより仕組み化して、悔いのないような学期にしたいと思う。

HBS生の冬休みの過ごし方

冬休みも今週で終わりで、来週の月曜日(1/23)から授業が始まる。たいていのHBSの2年生は12/14くらいまでに試験とレポートをほぼ終わらせているので、冬休みは約6週間だ。2年目は1年目にあったような全員参加のFIELDという海外での授業がないため、冬休みの過ごし方は人それぞれだが、大きく分けて5パターンがある。

  1. 実家へ帰り、その後にトレックまたはIFC(冬休み期間を利用してボストン以外の各地で行われる2-3週間程度の授業)に参加して、そのまま旅行
    ほとんどのアメリカ人はクリスマスを実家で過ごすため、試験終了後は実家に帰って、クリスマスまで2週間程度のんびりしていることが多い。その後に、多くが2週間から3週間程度のトレック(ニュージーランド、オーストラリア、中東、キリマンジャロ、など)またはIFCという1年目のFIELDのような実践型の授業プログラムに参加する。IFCはロンドン、ハリウッド、アフリカ、中国、日本、などの行き先がある。トレックやIFCの前後に旅行の予定を入れて、長い旅程にする人が多い。アメリカ人の大半がこのパターンで、感覚的には全体でも半分以上の学生がこのパターンに属する。また、このパターンを行う学生は既に卒業後の就職先が決まっていることが多い。
  2. 実家帰り+就職活動+旅行
    一つ目のパターンに就職活動が加わる場合、フルに旅行や授業に参加するというよりも、コネクション作りや面接に時間を使う。西海岸の企業はテック系をはじめとして採用時期が春となるため、西海岸へ卒業後に行きたい人、またはインターナショナル生で自国に帰って職を得ようとしている人に多いのがこのパターン。
  3. 友人とひたすら旅行
    実家にも帰らず、就職活動もなく、ひたすら旅行するというパターン。気の合う仲間同士の小規模グループでの旅行が多い。
  4. ビジネスを継続する
    数としては多くないが(僕の知る限りでは十数人)、夏または先学期に起業してビジネスを回している学生もいる。インターナショナルの学生の多くはビザの問題でアメリカでの起業をやめた人が先学期に多く、アメリカでビジネスを続けているこのパターンに属するのはアメリカ人が大半。彼らは一時的に実家に帰った後、ボストンへ帰ってきてビジネスを続けていることが多い。
  5. 家族とボストンで過ごす
    数としては多くないが、子供が生まれる、または子供がとても小さいという理由でボストンに残って家族でゆったりとした時間を過ごす人もいる。

冬休みや夏休みなどの長い休みは「自由な時間」というMBAの価値の一つだ。多くが旅行をするのは、楽しむためということもあるが、世の中をより知るために旅行している人も多い。旅行で見られる世界は断片的なものではあるが、それでも知らない世界を見て、異なった世界を感じることで、少しだけ広い視点を持てるようになる。広い視点は他者の視点をより理解できることに繋がり、それはビジネスを行う上でも価値がある。また、子供がいる家庭にとっては、子供と一緒に過ごす時間が仕事をしている時よりもたっぷり取れるというのは、大きいメリットのように感じる。

僕の過ごし方はというと、パターン3と5を組み合わせた感じだ。12/25まではボストンで本を読んだり前学期のまとめをしたりとゆっくりと過ごし、12/26から1/15までの約3週間はペルーとアルゼンチンを妻と旅した。1/16からは妻と友人とキューバへ行く予定だ。本当はアフリカでのIFCや中東のトレックに参加したかったのだが、運悪く、IFCは抽選で漏れ、中東のトレックも20名という少人数枠に入ることができなかった。トレックに参加できなかったのは残念な一方、ペルーではリマ、クスコ、マチュピチュを1週間で、アルゼンチンではブエノスアイレス、イグアス、エルカラファテ、エルチャンテン、ウシュアイア、と2週間で回ることができ、行きたい場所で好きなように時間を使えたのがとても良かった。

マチュピチュでは人類が築いた偉大な遺跡を堪能し、イグアスでの滝へ突っ込むツアーでは滝の雄大さに、パタゴニアのペリトモレノ氷河を歩くツアーでは氷河の大きさに圧倒された。同じくパタゴニアのエルチャンテンでのハイキングでは大自然を感じ、環境団体がどうして自然を守ることに情熱を注ぐのか、どうしてパタゴニアの創業者がパタゴニアのマークをフィッツロイ山からとったのかが分かったような気がした。南米大陸最南端の町と言われるウシュアイアでは南極にほど近いビーグル水道をめぐるツアーに参加し、野生のペンギンを間近で見るという滅多にない体験もできた。政治という点でも、アルゼンチンの物価の値上がり具合(1年間でどの価格もアルゼンチンペソベースで50%以上値上がりしていた)から、政策がどれだけ人々の生活に影響を与えるのか、を体感した。そんな中でも物価の値上がりを乗り切り、音楽と踊り(アルゼンチンはタンゴ発祥の地)を楽しみ、肉とワインを楽しむアルゼンチンの人々の生活からは、人生をしなやかに楽しむ方法を学んだ。また、旅の中で、旅に必要な初級のスペイン語も学ぶことができた。こうした学びはボストンに留まっていたのでは得られないもので、時間とお金を使う価値があったのではないかと思う。