HBS授業紹介: U.S. Healthcare Strategy

HBSはInitiativesとしていくつかの領域の強化をしており、Healthcare Initiativeもそのうちの一つだ。日本人の視点からすると、なぜヘルスケア?、非営利の分野なのではないか?、と思う人もいるかもしれないが、米国ではヘルスケアはGDPの17.8%を占め、インフレ率以上の成長を続ける民間主導の産業であり非常に重要度が高い(2015年)。おまけに、国民一人当たり$8,508 (約92万円)も使っていながらOECD Health Statisticsによれば、医療の質はOECDの国の中でも低い位置にあり、HBSとしても「どげんかせんといかん」というわけだ。

U.S. Healthcare Strategyは元McKinsey、元Kelloggの教授であるLeemore S. Dafnyが開講しているコースだ。Leemoreは特にヘルスケアに関する公共政策の分野ではかなり知られた教授。

2017年のコースは半セメスター(約8週間)で、扱うケースは米国のヘルスケア業界の幅広さを示すように、病院、クリニック、製薬、保険とかなり幅広い。具体的には病院では保険と診療の垂直統合モデルであるKaiser、水平統合のケースであるPartners Healthcare、クリニックは透析クリニックのDaVita、保険は米国のAffordable Care Act成立後に急伸したOscar、Preventive Careに焦点をあてたOak Street Healthなど、それぞれの分野で注目すべき企業・組織が選択されている。教授が経済学に強いためか、視点は公共政策に近く、マクロ経済やミクロ経済の視点を多く用いる。具体的に扱うコンセプトの例は、垂直統合モデル、水平統合モデル、代替財・補完財、規模の経済・範囲の経済、など。買収に関連して、独占禁止法や米国の訴訟プロセスについても触れる。HBSの1年目の必修では特にミクロ経済はさわり程度でほとんど扱わないため、必修科目との重なりはかなり少ない。

教授のファシリテーションはうまく、結構バシバシと突っ込んでいくし、生徒同士で議論もさせる。学生はMD/MBA (医者とMBAのダブルディグリープログラム)、元ヘルスケア業界、Public Health専攻の学生が多く、業界の知識がかなり出てきたりして生徒同士の議論からの学びも多い。米国のヘルスケア業界に知見がない人はついていくためにやや努力が必要だが、毎回ハンドアウトが配られるので、要点を掴むのは難しくはない。

授業の負荷は普通からやや重い程度。元々業界の知見がある人であれば、ケースや資料をすんなり読めるのだろうが、僕のように米国ヘルスケア業界に知見がない人にとっては、その度に調べることが出てきて、やや時間がかかる。例えばMedicare Advantageとは何か、Primary/Secondary/Tertiary Careの定義は何か、などは知っていることが前提として議論がなされるため、授業についていくためにはそれらを知っている必要がある。僕は最初はさっぱり分からなかったので、新しい単語が出てくるたびに毎回Googleで検索をしていた。

全体として、ヘルスケアに興味のある僕としては非常に満足度が高いコースで、5段階中4.5くらいの評価だ。米国の広大なヘルスケア産業をこれだけ全体感をもって説明してくれる授業は初めて。公共政策的な観点も企業視点の科目が多いHBSでは新鮮。また公共政策的な観点のみならず、企業視点としてもヘルスケア業界の特殊性を活かしてどんな戦略がありえるか、ということを扱い、これも非常に学びが多かった。

製薬業界をもとに学びの具体例を挙げると、ジェネリックが入ってきて独占的な利益を失うことを防ぐために、①Product Hopping (同じ効能の薬を容量や摂取方法などマイナーチェンジをすることで新たに特許を取得して、独占的な利益を享受できる期間を伸ばす)、②Pay-for-Delay (ジェネリック薬製造企業に金銭または金銭的価値があるものを払うことによってジェネリックが入ってくる時期を遅らせること)、③Shadow Pricing (独禁法に触れない範囲で競争相手に価格上昇でシグナルを送り、お互いに価格を上げる行為)など。業界ごとにこういった学びがあり、卒業後に米国ヘルスケア業界で働く人に対しては履修を強くお勧めできる授業だ。来年は1セメスターを通してのコースになるようなので、より深く、広くアメリカのヘルスケア業界が学べると思う。

一方、得られる学びは他の規制が強い業界にも適用できる(電力などインフラ系など)と思うが、かなり業界特化した授業なので、ヘルスケア業界に関心がない人にとっては他の授業を履修した方が良いかもしれない。

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