2週間後の日本に起こること – 新型コロナ、景気対策

現在の日本でのコロナ対策、景気対策(金融、財政)をまとめ、今後2週間で起こりそうなことについて書いてみます。

日本のコロナウイルス対策

3月30日現在、厚生労働省の発表資料によると、日本のコロナウイルス感染者数は1,866人です。死亡者は54人。死亡率は約3%です。東京都の感染者が最も多く、436名となっています。一方、死亡者が最も多いのは愛知県で、19名です。

都道府県名 PCR検査陽性者 現在は入院等 退院者 死亡者
東京都 436 395 36 5
大阪府 209 159 48 2
北海道 176 48 121 7
愛知県 167 106 42 19
千葉県 160 140 19 1

厚生労働省の基本方針はこちらです(新型コロナウイルス感染症の基本的対処方針より)。

人と人との距離を取る

日本では、下記のような要請が行われています。

  • 東京都知事が3密(密閉、密集、密接)を避けることを要請 (3月25日)
  • 東京都知事、大阪府知事が週末の外出を自粛するように要請 (3月25日)
  • 小中高の一斉休校
  • 政府による大規模イベントの自粛要請 (2月20日)

学校の休校以外は基本的には要請であり、守らなくとも罰則はありません。

3月30日の東京都知事の会見では、都民に対して夜間営業の飲食店へ訪れること、不要不急の外出の自粛への要請が行われました。

海外からのウイルスの流入を防ぐ

現在は下記のような措置が取られています。

  • 米国、中国、韓国などへの渡航中止勧告(レベル3)、計40ヶ国 (3月30日時点)
  • 2週間以内にレベル3の国に滞在歴のある外国人の日本への入国を原則拒否
  • 日本人がレベル3の国から帰国する場合、PCR検査を実施し、結果が出るまで待機。陰性だとしても2週間は自宅や宿泊施設での待機、公共交通機関の不使用を要請。強制力はない。

日本人の渡航と帰国については勧告・要請であり、強制力はありません。

ハイリスクの人を守る

コロナの患者を感染症指定医療機関に隔離することで、感染が拡大することを防いでいます。一方、患者数の増大に伴い、都内ではすでに患者数が病床数を超えている状態です。

感染症指定病院(新型コロナウイルス対策ダッシュボードより)

この状態を踏まえ、現在感染症指定医療機関で入院をしている軽症患者に、自宅療養を依頼する可能性が示唆されました。

コロナウイルスを検査し、感染者を特定する

3月30日までのPCR検査の実施人数は約29,000人であり、陽性率は6.4%です。

日本PCR検査数(厚生労働省3月30日発表資料より)

日本ではCTを活用することで、PCR検査をコロナウイルスが疑わしい事例に絞っていることから、韓国などの他国と比べてPCR検査の数は少ないですが、陽性率が高くなっています。

正しい情報を発信する

厚生労働省はほぼ連日ホームページを更新しており、各都道府県のレベルでも情報発信が行われています。

他国と比較した日本の対策

西欧諸国(米国、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア)と比較して、日本の現在の対策は非常にゆるいものとなっています

下記の点が大きな違いです。

  • イベントの開催も外出も、自粛「要請」であり、強制力がない。罰則もない。
  • 入国・出国の制限に強制力がない。海外から帰国した人に自宅隔離することも「要請」であり、罰則もない。
  • 政府が統一的な方針を示さず、各自治体が個別で対応を行なっている。国のリーダーが前に出ていない。

罰則がないことから、一部の人は「要請」に従わず、行動を続けると考えられます。実際、K1グランプリは22日に「さいたまアリーナ」で行われ、6,500人が入場したと報道されています。これが事実であれば、感染を広める大きなリスクです。

また、政府が統一的な方針を示していないことも問題です。政府が自粛「要請」を行なっているレベルで、危機感が国民に伝わっておらず、「自分ごと」として捉えていない可能性が高いです(志村けんさんの死亡が恐らく、最も国民に事態の深刻さを伝えたでしょう)。

もちろん西欧の方が感染者数も死亡者数も多いためにより真剣になっているというのもありますが、外出禁止の国に住んでおり、日々増えていく死亡者数を毎日見ている身としては、日本の現状がかなり危うく見えます。

景気・金融政策

日本はまだコロナウイルスによる経済的損失への財政対策については、議論を重ねている段階です。

日本ではまだコロナウイルスによる経済的損失が一部の産業に限定されていることから(主に旅行、インバウンド関連:運輸、宿泊、観光、百貨店、など)、景気対策の議論の進捗は他国に比べて遅れています。

一方、金融政策については、日銀は下記のような決定を行いました。

  • 社債とコマーシャルペーパー(手形)の買い入れ枠を新たに2兆円設定
  • 融資用として、ゼロ金利で金融機関へ貸出
  • ETF購入を年間6兆円から12兆円に倍増

社債や手形の買い入れ枠を増やすこと、ゼロ金利での貸出を金融機関に行うことは資金不足で倒産してしまう企業が出ることを防ぐことを目的としています。

ETF購入は「期末に株式価格が大幅に下落し、銀行などの自己資本が減り、自己資本比率の規制に引っかかり、融資を減らしてしまう」という事態を避けようとしたのと、「株価が落ちて、資産が減ったと感じる人が消費を減らす」影響を考慮したためだと考えられます。

中央銀行で満期のない株式やREITを購入しているのは日銀くらいで、かなり特殊です。

今後、2週間で起こり得ること

このまま感染者が増え続ければ、どこかの段階で、政府が「非常事態宣言」を行い、外出「規制」を行う可能性が高いです。

外出「規制」が行われると、不要不急な用途の外出先のビジネスに大きな影響が及びます。

また、海外から帰国する人についても隔離「要請」ではなく、守らなければ罰則が生じる規制になる可能性が高いと考えられます。

金融政策はすでに中央銀行は量的緩和状態で買えるモノは買い、金利はゼロと、ほぼ限界に近いことをしているので、焦点は財政政策です。財政政策は数度にわたる景気対策として、GDPの10%を超える規模(50兆円を超える規模)が議論され、議会で可決される可能性があります。

日本は世界で有数の長寿国であり、人口の25%以上が65歳以上の超高齢社会でもあります。つまり、新型コロナウイルスで重症化しやすい、ハイリスクな人が多い国です。感染が広まり始めると、死亡率が高くなることが予想されます。

そのためには、日本政府が正しく危険性を伝え、国民に「自分がかからないから良いではなく、他の人にうつさないようにする」意識を徹底させる必要があります。連日のように政府がコロナウイルス対策の進捗を語り、連日のように新たな規制が課されることが予想されます。

他国の例として、オーストラリアのコロナウイルスへの対応はこちら

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米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

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東京の数週間後の姿? コロナで変わるシドニーでの生活

全世界で猛威をふるうコロナウイルスですが、シドニーでの生活もこの2週間でガラリと変わりました。東京の数週間後の姿かもしれません。

日本で生活する皆さんの参考になるかと思いますので、どのように生活が変わったかを書いていきたいと思います。

オーストラリアのコロナウイルス

3月25日時点でのオーストラリアのコロナウイルス感染者数は2,423人です。西欧諸国やアメリカと同じく、ここ1週間で1,000人未満から2,000人越えと急速に増加しています。

Australia Coronavirus Chart

先週までは海外からの入国規制などはありましたが、人々の集まりや施設に対する規制は緩いものでした。

そのため、皆そこまで危機感を抱いておらず、週末にはビーチで大勢の人がサーフィンや日光浴を楽しんでいました。

しかし、感染者数の急速な増加を背景に、感染の速度を遅くするため、ほぼ毎日のように、新たな規制が導入されていっています。この1週間で、世界が変わりました。

旅行規制

オーストラリアは1週間で、鎖国状態になりました。海外へ出ることも、海外から帰ることにも今では厳しい制限があります。

  • オーストラリア人の海外渡航中止の勧告(3月18日)から海外旅行禁止へ(24日)
  • オーストラリアは現在、国民と永住者以外は原則入国禁止
  • 海外から帰国した国民と永住者も、14日間の自主隔離を行う必要がある(守らないと多額の罰金)

25日には国内ですら、移動制限がかかりました。州を移動すると14日間の自主隔離を行う必要が出てくるので、州の移動もできなくなっています。

航空会社も大幅に減便しており、自分が現在住んでいる州からほぼ出られない状況になっています。

オーストラリア人は旅行が好きで、4月の大型連休(日本でいうゴールデンウィークのような連休があります)には多くの人が長い休みをとって海外旅行や国内旅行をするのですが、今年は皆キャンセルしています。

せっかくの連休なのにどこにも行けず、しかも後述するように友人と集まることも制限されて、「どうしても必要な用事がなければ、家から出るな」とも言われているので、何して過ごそうか・・・という感じです。

施設や集まりへの規制

3月23日、26日と規制が入り、オーストラリアでは下記のような制限が施設や集まりにかかっています。

  • 遊園地は閉鎖
  • 映画館、カジノ、バーなど娯楽施設は閉鎖
  • 屋内、屋外の子供の遊び場は閉鎖
  • 公共のプールは閉鎖
  • 美術館、図書館、歴史観光施設、コミュニティセンターは閉鎖
  • ジム、ヨガクラブ、サウナなどの健康施設は閉鎖
  • 美容院は30分以内ならOK
  • オークションハウスは閉鎖
  • 不動産のオークション、物件見学は禁止
  • 飲食店(レストラン、カフェなど)は持ち帰りのみ
  • 教会などで集まる場合の入場制限(1人あたり4平方メートル(2m×2m)のスペースを設けることが必須に)

いわゆる遊ぶ場所は公園以外、ほとんど閉鎖です。23日は飲食店、ジム、映画館などだけでしたが、26日にその範囲が大幅に拡大されました。

制限された後でもその制限に従わない人たちが多かったため、首相・閣僚がキレて制限を強化しました。

美容院は30分以内ならOK、はどういう基準なのか分からないですが、男性のカット時間を想定しているのでしょうか。髪の長い女性やカラーリングしている人は厳しそうです。。。

結婚式やお葬式にすら制限がかかっています。

  • 結婚式は5人までなら出席して良い
  • お葬式は10人までなら出席して良い
  • ホームパーティも禁止
  • 例え必須の集まりでも屋外で500人以上、屋内で100人以上は禁止
  • 必須の集まりで集まる場合でも、1.5メートル以上人と人との間隔を空け、衛生面での対応を取ること

冗談かと思うかもしれませんが、本当です(Australian Government Department of Health)。結婚式で爆発的に感染者が増えたことから、結婚式も規制の対象になりました。

首相は「必要がない限り、家から出ないでほしい。友人の家に行くことも」と言っています。

普通に空いている施設と言えば、スーパーマーケット、ドラッグストア、ガソリンスタンド、クリニック、学校、保育園といった生活にどうしても必要な施設くらいです。

街を走る車の数も日に日に減っていっています。運転がしやすくなるのは良いのですが、保育園への送り迎え以外、行く場所がないので寂しい気分になります。

今週末に予定されていた友人家族の子供の誕生日会もキャンセルになったので、ビデオメッセージを送りました。誕生日プレゼントも買ってあるのですが、いつ渡せるのか分かりません。

オフィス・学校について

多くの会社が自宅勤務 (work from home)を推奨して、オフィスには最小限の人しか行っていません。実際、政府はオフィスに行かないように推奨していますし、僕も過去2週間はオフィスへ行っていません。

多くの公立の学校は「まだ」開いています。これは、学校を閉鎖してしまうと

  • 教育や子供の精神に悪影響が出ることへの懸念
  • 親が働けなくなり、経済に影響が出ることへの懸念

があるためです。

しかし、子供がコロナウイルスにかかってしまうことへの懸念から多くの家庭が自主的に子供を学校に行かせないようにしています。

首相は子供が学校に行くのは問題ないと言っていますが、ニューサウスウェールズ州(シドニーがある州です)の州知事は「できるだけ子供を家にいさせてほしい」と発表するなど、連邦レベルと州レベルでの意見の違いも出てきており、人々の間で少なからず混乱を呼んでいます。

学校が完全閉鎖されるのも時間の問題かもしれません。そうすると、子供がいる家庭は家で働きにくくなるので、かなり困ります。

人と人との距離について

ここ数週間で最も大きく変わったのが、人と人との距離です。

オーストラリアはアメリカやヨーロッパと同じく、人と人との距離がとても近い文化です。挨拶で普通にハグをしますし、握手もします。

それが、コロナウイルスが流行り始めたこの2週間で、ガラリと変わりました。今は人と人との距離で1.5メートル間隔を保つように政府から言われているため、距離が遠いです。ハグも握手もできないため、挨拶の時には、皆どこか何をして良いのか分からないような表情を浮かべます。

また、近所の行きつけのカフェでは、店員の人がいつもうちの子を抱っこしてくれたりしていたのですが、今はそれができないようになっています。

極め付けはスーパーやカフェで、レジの前で並んでいる時ですら1.5メートル人と人との間隔を空けることを要請されているため、カフェで並んでいると店外まで出てしまい、すごく変な感じがします(※本記事のアイキャッチは近所のスーパーマーケットでの写真です)。

2週間前でしたらコントみたい、と笑い話でしたが、今ではそれが現実です。

同僚とは2週間前に冗談で、「次に会うのは冬になるかもね」(See you in winter! ※オーストラリアの冬は6月くらいからです)と言い合っていたのですが、オフィスはほぼ閉まっており、僕もしばらくは行く用事がないため、現実になりそうです。

病院について

戦時中です。

本日、3月25日にコロナウイルス対策に医療資源(人材、物資など)を割くために、国立のみならず私立病院まで含めて、緊急でない手術を全てキャンセルするよう連邦政府から要請がありました。

これをやられると、医薬品・医療機器業界は死にます。なぜかと言うと、医薬品・医療機器の中で検査・手術に用いられる商品はとても多く、その手術がなくなると売上がたたなくなるからです。

コロナウイルス対策で使われる人工呼吸器などは特需でしょうが、それ以外の商品は死にます。

数ヶ月ならばまだもつかもしれませんが、半年などとなると、飲食店などと同じく、キャッシュがもたない企業も出てくると思います。

私立病院も稼ぎ頭である手術ができなくなるために、売上が落ちます。

ヘルスケア企業もダメージが大きいとツイッターで書いたのも、この現象が世界の至る所で起きているからです。

経済への影響

これだけの規制が行われているため、当然経済への影響が出ています。以下は3月25日までに判明している数字です。

  • オーストラリアの人口は約2,500万人で、雇用されている人は1,300万人(フルタイム900万人、パートタイム400万人)。失業率は5.1%と2月までは割りと安定している社会(Australian Bureau of Statisticsより)
  • 旅行制限、店舗の営業制限などが始まってから飲食店をはじめとして一時解雇が多発
  • 失業者が失業給付金を申請するために訪れるmyGovという政府機関のサイトにて、1日で28万人もの社会保障の申請
  • 雇用されている人の2%以上が1日に社会保障を申請(失業率が1日で2%上昇)
  • 3月末までに100万人の失業が発生する可能性がある、と連邦政府が予測

並べて書くだけでも嫌になる数字ですが、これは始まりにすぎません。

首相は現在行なっている規制が、6ヶ月間は継続されることを見込んでおり、失業者数は増加していくと考えられます。大失業時代の幕開けです。

経済対策

失業で生活に困る人達を支援するため、連邦政府は下記のような支援策を決定しました。

  • 仕事を探している人向けの社会保障として、6ヶ月間、隔週で$550(約35,000円)を追加で支給。月で7万円の増額
  • 約650万人の社会保障受給者(障害年金、老齢年金受給者など)に$750(約5万円)を3月と7月に支給。計10万円のバラマキ

規制により失業した人が、生活を送れるようにすることを目指しています。

オーストラリアは家賃が高く、特にシドニー市内は1ベッドルームでも月で$2,000はするのですが、通常の失業給付に月7万円が増額されることで、何とか暮らせるレベルにはなると思います。

また、州ごとにビジネスを救済するために減税などの支援を行なっており、ビジネスが存続できるようにしています(ニューサウスウェールズ州はAUD$2.3bの支援法案を可決し、州の病院への投資と中小規模ビジネスへの支援を行っています)。

コロナウイルスが問うあるべき社会

コロナウイルスは、民主主義に一つの問いを投げかけました。

「命を救うために、いくらまでなら経済的な代償を支払えるか」

コロナウイルスに対しては、2つの解決策があります。

1つ目は、多くの欧米諸国が行なっているように、全員が大きな経済的な犠牲を支払いながら(旅行・外出規制などで産業を破壊して失業を生みながら)、ウイルスによる人命被害を最小化しようとする方法。これは、「国民の命は何よりも重く、国家は何をもっても優先して守るべき」、という原理原則論に基づいた考え方です。

2つ目は、ウイルスによる人命被害を少なくするコストと、旅行・外出規制を行うことで生じる経済的な損失のコストを比べて、バランスをとっていく方法。これは、功利主義的な考え方で、経済的な損失から命を断つ人もいるし生活苦でひどい思いをする人が出るコストと、一定割合の人が死亡するコストを比べて、最適なバランスをとろうよ、という考え方です。

オーストラリアは明確に1つ目の考え方で、「弱い人たちのために、みんなが協力して耐える必要がある。そのために生じる経済的犠牲(倒産・失業など)については国家がサポートする」という姿勢です。

一方、米国のトランプ大統領は、下記のように「治療法が問題そのものよりも悪かったらダメだろうが」と言っていますが、彼の主張は2つ目の考え方です。暗に意図しているのは、多少の死人が出たとしても、経済的に自殺して大勢が経済的に困窮するよりはマシだろう、ということです。

“WE CANNOT LET THE CURE BE WORSE THAN THE PROBLEM ITSELF,” Trump wrote in a tweet posted near midnight on Sunday. “AT THE END OF THE 15 DAY PERIOD, WE WILL MAKE A DECISION AS TO WHICH WAY WE WANT TO GO!”

功利主義的な考え方は人道的に批判されがちですが、一つの考え方です。特に、西欧・オーストラリアで行なっている外出規制などは経済的な自殺で長引けば長引くほど国家の財政、産業、失業者の負担が増えるので、デメリットが後遺症が出るレベルまで達してしまいます。

特に若い、健康な人からすると、自らが重症化するリスクが低いため、「なぜ高齢者や不健康な人のために自分が犠牲になって、失業しなければならないのか」と感じる人も多いのではないかと思います。そういう人には、功利主義的な考えの方が響きます。

一方、自らが命の危険に晒される高齢者を始めとするハイリスクの人たちからすると、国家は自分たちの命を救うために厳しくも必要な措置を取ってほしい、と思うでしょう。

どちらが正しいというわけではありません。政治的にはどちらの視点も持ちながら、現実解を探っていくことになります。

日本でコロナウイルスの感染が今後急速に拡大していくのかどうかは分かりませんが、すでに感染者は1,000人を超えており、オーストラリアのように1週間後に急に感染者が増えている可能性は十分にあります。

そうなった時に、直面するのは、上記の質問です。

「命を救うために、いくらまでなら経済的な代償を支払えるか」

現在の政権の議論や対策を、上記の視点で見てみると、また違った見方になるかもしれません。

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コロナウイルスが米国の経済・産業・社会に与える影響

コロナウイルスの広がりは世界中でさらに加速しています。世界中の株式市場に大きな影響を与えているコロナウイルスについて、現時点での米国での対策をまとめ、今回の危機が米国社会に何をもたらすか、について書いていきたい思います。

以下の記事の続きになります。こちらもご覧ください。

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コロナウイルスの現状

3月21日17:00(AEST)現在で、コロナウイルスの感染者数は276,462人。死亡者数は11,417人、死亡率は全体の平均で4.2%、トップ10ヶ国の中央値は4.0%ですworldometersより)。最も被害が多いのはイタリアで、死亡者数は4,032人と中国を超えました。

特にイタリアの死亡率は高く、8.6%と非常に高くなっています。

Country,
Other
Total
Cases
Total
Deaths
Mortality Rate
China 81,008 3,255 4.0%
Italy 47,021 4,032 8.6%
Spain 21,571 1,093 5.1%
Germany 19,848 68 0.3%
USA 19,773 275 1.4%
Iran 19,644 1,433 7.3%
France 12,612 450 3.6%
S. Korea 8,799 102 1.2%
Switzerland 5,615 56 1.0%
UK 3,983 177 4.4%
Total 239,874 10,941 4.6%

アメリカの感染者数は3月16日時点では3,802人でしたが、この5日間で4倍近い、19,773人まで拡大しました。感染者が多い州はニューヨーク州、ワシントン州、カリフォルニア州で、この3つの州は感染が急速に広まっている州になっています。死亡率は1.4%とまだ低いですが、今後、重症者の数が増えるに従い、増加していくと考えられます。

USA
State
Total
Cases
Total
Deaths
Mortality Rate
New York 8,515 56 0.7%
Washington 1,524 83 5.4%
California 1,254 24 1.9%
New Jersey 890 11 1.2%
Illinois 585 5 0.9%

アメリカでの感染者数は急激に増加しています。これは、感染が広まっていることに加えて、より多くの検査がされ、実態が把握されるようになってきたことによると考えられます。

アメリカのコロナウイルス(COVID-19)感染者の推移

感染者は幾何級数的に増えています。検査が行き渡れば、この先数週間は感染者数は増え続けると予想されます。

アメリカでのコロナウイルス対策

連邦のレベルでは、前回の記事から下記のようなアップデートがありました。

  • 国民に全世界への渡航中止を勧告(特定の国から全世界へ)
  • カナダとの国境閉鎖(18日)。メキシコとの国境の不要不急の往来を禁止(21日)
  • トランプ政権が国防生産法(the Defense Production Act)を発動し、医療物資や人工呼吸器の生産を要請

「社会距離戦略」(social distancing)の一環として、州のレベルでさらに厳しい規制がかかっています。特に3つの州で期限を定めない外出禁止令が出ています。

  • ニューヨーク州にて、全事業者に在宅勤務をするように要請(3月20日)
  • カリフォルニア州にて、外出禁止令。買い物や通院など必要不可欠な場合を除き、屋内への退避を義務付け。期限はなし(3月20日)
  • イリノイ州にて、不要不急の外出を禁止する命令(3月20日)

国境閉鎖と外出禁止により、人の移動が制限されてきています。

外出禁止令が出ているのはまだ3州ですが、今後他の州でも感染が増加し続ける場合、「外出禁止令が他の州でも発動されること」、「州と州の国内移動にも制限が加えられること」が想定されます。

アメリカの金融・財政対策

金融政策

FRBは利下げ、量的緩和を行なった後、金融市場の動揺を抑えるため、積極的に資金供給を行なっています。米ドルへの需要が急増しており、短期市場でのドル調達金利が高まっていることへの対策になります。

  • 14ヶ国の中央銀行へ米ドルの資金供給を始めました。
  • MMF(マネー・マーケット・ファンド)へ資金供給を始めました。
  • 企業が短期資金を調達するCP(commercial paper)市場への資金供給を始めました。FRBがCPを直接買い上げています。

FRBの行なっていることを一言で言えば、「流動性を確保するために何でもやる」です。資金が目詰まりをして資金繰りができない企業が出ると、倒産と金融システム全体へのパニックに繋がります。

そのパニックを防ぐよう、様々な方法でFRBが資金を市場に投入しています。

FRBは全力で資金供給を行なっていますが、CP市場ではコロナの影響を受けやすい航空、飲食、レジャーなどの企業のCPの金利上昇がおさまっておらず、市場はいまだに緊張しています。

残るのは社債です。アメリカの現行法ではFRBが社債や株式を直接購入することは禁じられていますが(日銀がETFやREITを大量購入しているのと違いますね)、このまま金融市場が動揺し続けるのであれば、法改正が行われ、アメリカでFRBによる社債の購入まで踏み切られるかもしれません。

実際、前FRB議長であるジャネット・イエレンらはFRBが社債の購入をできるようすることを提案しています。

財政政策

財政政策では、コロナウイルスの無償検査と有給の病気休暇の法案が可決されました。

現在は、第三弾として、$1 trillion (110兆円)を超える支援策が上院で議論されています。共和党案は所得に応じて個人に現金を最大$1,200、家庭に最大$2,400に渡すこと、中小企業への連邦保証付ローン$300b、航空会社など産業向け$200b連邦保証付ローンの提供、の3点セットです。

こちらは支援を受ける対象や条件で共和党の中からも、民主党からも反対が出ており、まだ法案とはなっておりません。

アメリカの失業

特に失業者数が多く出ると見込まれるのが、不要不急の旅行の停止に伴い需要が激減する、航空・宿泊・観光・レジャー関連(Leisure and hospitality)です。こちらは2020年2月時点で1,700万人近くを雇用している大きな産業であり、農業を除く被雇用者1.5億人のうち、11%を占めます。

また、人々が外出を避けることにより、カフェ、レストラン、バーなどの飲食やショッピングセンター・百貨店も大きな打撃を受けることが予想されます。小売(Retail trade)も1,600万人と被雇用者の約11%を雇用する大きな産業です

Employment by industry (US Bureau of Labor Statisticsより)

また、製造業も1,300万人を雇用する大きな産業です

人々が不況の到来を予測すると、耐久消費財(車、冷蔵庫など)や不要不急の商品の販売も減少します。つまり、レジャーや小売業界で解雇が始まり失業者が増えると、連鎖的にレイオフ(一時解雇)や解雇が始まります。

ビジネスサービス業(”Professional and Business Services” – コンサルティング、会計士、弁護士など)に雇用されている2150万人も、景気後退が起これば、顧客からの支出を減らされる可能性が高く、失業と無縁ではいられません。

これらの業種にいる「7000万人近い人の雇用が脅かされる」と聞けば、その深刻さが伝わるのではないでしょうか。

情報通信産業に関してはリモートワークや家でのエンターテインメント需要から恩恵を受けられる企業があります。しかし、情報通信業はわずか300万人の雇用でしかなく、恩恵を受けられる産業、人々は雇用を脅かされる人の数と比較すればわずかです。

加えて、アメリカは”Employment at Will” (自由意志での雇用)の国であり、雇用者も、被雇用者も西欧や日本と比べて比較的簡単に雇用を終了させることができる点も、失業者の急増を招く要因となります。

サービス業中心の世の中になってくるなか、人と人とが接する産業に雇用が集中しています。コロナウイルス対策はこの人と人とが接する産業を突然破壊したため、それだけに影響は過去の経済・金融ショックと比べてもより深刻だと言えます。

実際の数字を見てみると、米労働省が19日に発表した失業保険申請は3月14日までの1週間で281,000件でした(前週より7万件増)。

日経新聞の調査によると、失業保険の申請は急増しており、15-18日のオハイオ州で111,055件(前週の3,895件の28倍)、ミネソタでも95,352件と前週の20倍以上のペースとなっています

次の26日に発表される失業保険件数は急増し、現在の歴史的に低い失業率3.6%から急激に上昇すると考えられます。

産業への影響

航空機、航空・旅行・レジャー・小売が政府へ支援を要請しています。

航空機

航空機では、ボーイングが政府と金融機関に$60b(6兆6000億円)の支援を要請しています。

ボーイングは

  1. 米国だけでも10万人を雇用しており、雇用維持という点で重要
  2. 航空機産業が米国の主要輸出産業である
  3. 軍事部門も大きく安全保障上も重要である

3つの理由から米政府は支援を行うと考えられます。

ただし、民主党が「株主重視で経営をしており事業の安定性を省みてこなかったボーイングに、何の状況もなしの支援を行うこと」に反対しています。

潰れることはほぼないと考えられる会社ですが、株主や債権者は何かしらの損害を被るかもしれません。

航空会社

米国の航空会社は$50b (5兆5000億円)の支援を要請しています。

米国では国際線がほぼストップとなっていることから、アメリカン、ユナイテッド、デルタをはじめとした大手航空会社は大赤字の状態です。欧州の感染が拡大していること、中南米などでも感染拡大の傾向があることから、いつ国際線を復旧できるかの目処もたっていません。

ともに手元資金があまりないため、支援が得られないと大規模なレイオフを行わなければならなくなります。

旅行業界

旅行業界(宿泊、観光など)も同様に$150bの支援を要請しています。こちらも感染拡大に伴い、人々が不要不急の移動をしなくなると、大打撃を受ける産業です。

航空機、航空、旅行の3つの産業だけで、$260bと30兆円近い金額を要請していることになります。

小売

大手百貨店(メーシーズやノードストロームなど)・ショッピングセンター大手も一部で営業休止しており、政府へ支援を要請しています。

また、人がショッピングモールに来なくなると、ファッションなどの消費も減るため、メーカーにとっても大きな売上への打撃となります。

エネルギー

人の移動需要の減少と供給側での懸念(サウジ、ロシアなどの増産)からNY原油が$20割れていることもあり、シェール会社が苦境に追い込まれています。

生産コストが原油価格よりも上回っていることから、現状では生産を続けることができません。

破綻の事例として、テキサス州のエネルギー会社であるトリポイント・オイル・アンド・ガス・プロダクションは16日にチャプター11(破産)を申請しました。今後、続く企業が出てくると考えられます。

エネルギー会社が破綻すると、資金の貸し手である地銀に影響を与えることに加え、社債市場にも動揺を与えます。

低格付け社債をまとめたETFやCLO (collateralized loan obligation-ローン担保証券)はリーマンショックの時に問題となった証券化商品と同じく、複数の債券をまとめて一つの商品にしたもののため、元となっている債券(例えばシェール会社)への信頼性が低下すると、ETFやCLOの売りの圧力が強まり、価格が低下します。

売りが売りを呼び、ジャンク債(格付けが低い企業が発行する社債)市場の下落が止まらない場合、投資家がジャンク債市場から資金を引き上げ、低格付け企業へお金が回らなくなる可能性があります。すると、低格付け企業は資金を手当できずに事業が継続できず、破綻することになります。

するとこの破綻がまた市場の下落を招いて、と悪いサイクルが回り続け、債券の暴落と企業の連鎖破綻に繋がります。エネルギー会社の破綻が続くと、投資家が最も恐れるクレジットリスクの引き金を引きかねかねない怖さがあります。

今後の注目点

今回のコロナウイルスが引き起こした危機の特徴は、影響される産業が広いことです。

ほぼ全ての対人サービス業が大きな影響を受けることもあり、「広すぎて救えない」(too wide to save)可能性があります。

雇用に影響が出るのはほぼ確かであり、失業が景気後退を招く要因であるのは間違いありません。しかし、実は最も恐ろしいのはクレジットリスクです。

リーマンショック後、10年の景気拡大の間、米国企業は借金を重ねることで事業を拡大し、自社株買いで株主へ報いてきました。

借金を用いて事業を拡大させることは

  • ROE (Return on Equity – 自己資本利益率)を向上させること
  • 投資家はROEの高い企業を評価して株価が上がること
  • 経営陣は報酬が株価と連動されており、株価で経営者としての成果が評価されること

から借金を用いてROEを上げていくことは正しい経営行動の一つと見なされてきました。

不測の事態に備えて現金を多めに持とうとしても、株主より「現金があるなら還元せよ」と言われ、アクティビストを呼び寄せる原因の一つになってしまうことから、米国企業はできるだけ現金を最低限しか持たないようにしていました。

つまり、借金を重ねて株主の方を向く経営をしてきた結果、いわゆる「不測の事態」に脆い体制になっている企業が多くなりました。

加えて、どんな企業であれ資金調達がしやすい環境が長年続いたことから、利払いすら支払えないような、長年赤字で存続しているゾンビ企業がかなりの数あります。

ETFやCLOを通じてそれらの企業にもお金が入り続けていました。

コロナショックは、これらの米国企業が抱える、「不測の事態に備えがない」、「借金に頼ったゾンビ企業が多い」という脆弱さに急激なショックを与えます。

米国の金融システムが今回のショックを耐えられるかどうかは、わかりません。しかし、今後の社債市場の動きには注意を払った方が良いと考えています。

コロナウイルスが米国社会に与える影響

今回のコロナウイルスを発端とするショックは、米国が本質的に変わるきっかけになると考えています。

まず、医療制度で言えば、今回のコロナウイルスは米国の医療制度の脆弱性を浮き彫りにしました。国民皆保険制度でないこと、貧富の差が激しく医療へのアクセスがない層がいること、政府への不信感が強く政府の指示を聞かないこと、は感染症の広がりを止める上ではマイナスでしかありません。

また、病院(特に私立病院)は利益率改善のために手術の回転率をあげることに注力してきたため、ベッドの数も少なく、今回のような大規模な感染症が発生した時には脆さが出ます。

*米国の医療制度の概要についてはこちらをご覧ください
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今回の一件は、米国社会にあるべき医療の姿を考えさせるきっかけになるでしょう。

また、多くの人の生活基盤が脆弱であることを改めて認識する機会になるでしょう。

米国では若者は高等教育のために教育ローンを背負っていることが多く、失業するとローンが支払えない状態になります。また、物価の高騰から家賃が高く、都市部では職を失うと住む場所すら失いかねません。かと言って、高等教育を受けないと中間層並みの給与を得ることが難しい社会でもあります。

その結果、約半分の人が、$400(5万円)の急な支払いをするのにも苦労しています。

米国社会は、労働市場の柔軟性から、強い個人と強い企業を生みやすいです。

「強い個人」になれば、良い給与と早い昇進が見込めます。

一方、「強い個人」になれなかった場合、社会保障が弱いことから、不安定な地盤の上で生活を送ることになります。経済が好調であり、仕事につけているうちは良いですが、景気後退時には基盤の脆さが露呈します。

好景気の裏で、米国が見て見ぬ振りをしてきた不都合な真実です。

残念ながら、今回のコロナショックで大量の失業者が出て、苦しむ人が多く出るでしょう。そして、いかに米国が「強くない個人」にとって厳しい国かを知ることになるでしょう。

コロナショックは、米国の医療・社会の脆弱性を浮き彫りにしました。リーマンショックが大衆の怒りに繋がり、”Change”を求めて初の黒人大統領、オバマ大統領を誕生させたように、次の大統領選でも”Change”を求める流れが出ると予想しています。

残念ながら、バイデン(ほぼ民主党候補として当確でしょう)は典型的な白人、男性、職業政治家であり、”Change”の象徴としては弱いですが、景気後退時には現職大統領の責を問えるので有利な立場です。

トランプ大統領はより過激な手法に出て、景気後退の原因について責任転嫁をすることで、再選を狙うと考えられます。

彼がツイッターでウイルスを中国ウイルス(China Virus)と呼んでいること、国防生産法を持ち出したことから、以下のようなストーリーを作り出そうとしていると考えられます。

「ウイルスは中国が情報を隠蔽したから全世界に広まり、大災害を引き起こした。中国という国際ルールを守らない国に対しては、強いリーダーが彼らを変えていかなければならない。俺は中国と取引を成功させて、米国に対してより良い取引を勝ち取った。今はウイルスとの戦争状態でもあり、強いリーダーが必要な時期だ。だから、弱々しいバイデンよりも俺が大統領になる方がアメリカのためになる」

このストーリーを米国民がそのまま信じてトランプを再選させるか、それとも社会の脆弱性を改善させるストーリーを語るバイデンを信じて民主党の大統領が誕生するかどうかは分かりません。

しかし、今回のコロナウイルスが米国が自国の医療制度、社会制度の脆さに気づくきっかけとなり、後々の米国政治・社会に影響を与えていくのではないかと思います。

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オーストラリアで何が起こっているか:コロナウイルス対策

コロナウイルスが私たちの生活を揺るがす中、各国が対策を打っています。オーストラリアのコロナウイルスへの対策を紹介します。

オーストラリアのコロナウイルス対策

3月18日午前6:30時点でのオーストラリアのコロナウイルス感染者数は454人、死者は5人です(Australian Government Department of Health)。

12時間で40名の新たな感染者が確認され、感染者の数は増え続けています。

3月18日の会見で、首相であるスコット・モリソン(Scott Morrison)は下記の方針を打ち出しました。

  • 100名以上での室内での集まり禁止
  • 海外旅行停止勧告
  • 老人ホームへの訪問制限

人と人との距離を取る(Social Distancing)

大規模な感染を防ぐため、3月16日(月)に「500名以上の集まり」を禁止しました。

18日(水)には100名以上の室内での集まりを禁止し、”Social Distancing”(人と人との接触を避けること)をさらに徹底しようとしています。

また、29日の発表では、公共の場所での集まりを家族を除き、2人までに限定すると発表しました。

海外からのウイルスの流入を防ぐ

オーストラリアは海外からの旅行者・帰国者に14日間、自身を隔離すること(Self-isolation)を3月16日(月)より求めています。帰国者は14日間、空港から直接、国が用意したホテルに移動させられ、隔離されることになっています。

Self-isolation中に外出するなどの違反をすると、最大で1万ドル以上の罰金が課されます(州により罰金額は異なります)。

この措置は、海外からウイルスが持ち込まれないようにすることを狙っています。

18日(水)の海外渡航停止勧告は、オーストラリア人が海外へ行き、菌を持ち帰ることを防ぐ措置になります。首相は6ヵ月間程度、この勧告が続く可能性があると発表しています。

これらの措置により、オーストラリアは人の移動に関して、半鎖国状態になりました。

ハイリスクの人を守る

コロナウイルスの死亡率は約3%ですが、高齢者や持病を抱えた人(高血圧、糖尿病、心臓や肺の疾患)の重病率・死亡率は3%よりもはるかに高くなっています。

18日(水)にはハイリスクの人を守るため、老人ホームへの訪問に制限が加えられました。

一方、20歳未満では重症率が低いことから学校・保育園の閉鎖には至っていません。学校・保育園を閉鎖すると、親が会社に行けなくなってしまい、経済に支障が出てしまう、という事情もあります。

ただし、こちらは閉鎖した方が良いのではないかという意見も多く、近いうちに学校が閉鎖される可能性があります。

コロナウイルスを検査し・感染者を特定する

オーストラリアは検査器具の不足から、大規模な検査ではなく、確率の高い人に絞った検査を行なっています。

具体的には、かかりつけ医(General Practitioner – GPと呼ばれます)にかかる前に、1. 過去14日間海外へ渡航したか、2. 過去14日間海外へ渡航した人と接触したか、3. コロナウイルスの感染者に接触したか、の質問をされ、これらの質問に当てはまり、かつ症状が出ている人のみが検査の対象となります。

韓国や米国と比べると検査までのハードルが高く、検査によって国内での人から人への感染を早期に発見することはできていません。

正しい情報を発信する

オーストラリアでは毎日のように首相が最前線に立ち、コロナウイルス対策となぜそれが必要かを首相が説明しています。また、感染者の人数や死者数なども毎日、記者にアップデートされています。

誤った情報がソーシャルメディア上で広まり混乱が広がらないよう、政府が正しい情報を発信し続けています。

オーストラリアの経済・金融対策

コロナウイルスに端を発する経済危機に対して、連邦政府は$17.6b(日本円で1兆円以上)の経済支援を12日に発表しました。

まず、政府から何らかの支援を受けている低所得者は$750を受け取る権利があります(国民の約1/4の650万人が対象)。現金のバラマキで、$4.8bの予算です。

また、中小企業を対象にした減税、投資支援策、現金のバラマキ、トレーニーの雇用に対する給与補助も行われます。

さらに追加で、$130b (8兆円以上)の景気刺激策として、連邦政府は、従業員一人つき最大$1,500を2週間に一度、企業に補助することに決めました (Job Keeper Payment)。失業した人がもらえる失業保障も倍額の隔週$1,100にされています(JobSeeker Payment)。

隔週$1,500(月$3,000)はニューサウスウェールズ州の最低賃金で、実質、最低賃金保障です。

加えて、州レベルでも中小企業を対象にした景気支援策が発表されています。例えば、シドニーのあるニュー・サウス・ウェールズ州では、$2.3bの景気刺激策を行うと発表しています($700mは病院や検査へ、$1.6bは雇用維持の施策に用いられます)。

これらの景気支援策は、コロナウイルスの影響で仕事がなくなった、あるいは仕事が激減した人たちが生活を継続できるようにすること、失業を防ぐようにすること、資本が盤石ではない中小企業が破綻しないようにすること、を目的としています。

また、金融面でも中央銀行が利率を0.5%まで引き下げ、投資や消費を促進しようとしています。

オーストラリアの経済状況

Australia GDP Growth(Trading Economicsより)

オーストラリアのGDP成長率は2018年、2019年とやや減速してきており、年率2%台で推移していました。

いつか詳しく書きますが、オーストラリアの経済は中国経済に大きく依存しており、中国経済の減速がオーストラリア経済の減速の要因になっています。

1-3月期は中国経済の急ストップと国内でのコロナウイルス対策による影響のため、マイナス成長となる可能性が高いです。

日本が学べる点は何か

日本政府は感染対策のために中国、韓国からの入国制限と14日間の自己隔離要請を3月9日より行なっており、加えて欧州からの帰国者への入国制限も検討しています。ウイルスが海外から持ち込まれることを防ぐという点では、オーストラリアと近いです(オーストラリアの方がより過激に鎖国をしていますが)。

一方で、経済への影響を懸念してか、大規模なイベントの自粛に対しては玉虫色のメッセージで、政府の支援もまだまとまっておらず、対策がやや中途半端になっている感があります。

オリンピック開催のためにあまり感染が広まっている印象を与えたくないためかもしれませんが、「コロナウイルスを発端とする危機により影響を受けている企業・個人をサポートする」、という点では未だに対策が見えていないのは問題です。政策の方向性の明確さとスピード感はオーストラリアから学べるでしょう。

さらに、最も日本が学べる点は、リーダーシップかと思います。オーストラリアでは、他のヨーロッパ諸国と同じく、国のリーダーが前に立って語り、国として何をするか、そのためにどんな行動を国民に求めるか、を語っています。

具体的には鎖国や市民の行動制限がなぜ今必要で、それにより生じる「痛み」に対して政府としてどう対応していくか、を明確に語っています。

一方で、日本では安倍さんの口からは、国としてどんなことを行い、国民にどんな行動を取って欲しいのか、痛みに対して政府としてどう対応していくか、が伝わってきません(オリンピックを開催したいという思いは伝わってきますが。。。)

日本は国民が政府の方針をきちんと守る優秀さを持っていること、現場の医療スタッフが優秀であること、もともとの衛生観念が高いこと、などのためにウイルスの拡散と感染者の重症化は食い止められていますが、感染がさらに広がって混乱が大きくなれば、国民はパニックに陥ります。

危機の時に試されるのは、どの国でもリーダーシップです。安倍さんは対ウイルスとの戦争という困難な事態の矢面には立ちたくないのかもしれませんが、一国のリーダーである以上、困難に対して国としてどう立ち向かっていくのか、痛みとその痛みへの対策も含めて、国民へ明確に語って欲しいものです。

その他の国のコロナウイルスへの対応についてより知りたい方は、こちらをご覧ください。

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コロナウイルスの現状と米国株の今後の展開

コロナウイルスが世界中で広まってきています。株式市場にも大きな影響を与えているコロナウイルスへの各国対策のまとめと、米国がこれからどのような対策を取っていくのか、について分析していきたいと思います。

コロナウイルスの現状

3月16日22:30現在で、コロナウイルスの感染者数は173,027人。死亡者数は6,663人、死亡率は全体の平均で3.85%、トップ10ヶ国の中央値は2.4%ですworldometersより)。最も被害が多いのは中国で感染者数は80,880人、死亡者数は3,213人で約半数を占めます。

トップ10ヶ国は以下です。感染者数では中国がトップですが、既に新規の感染者数は2桁と数字の上では抑え込みに成功しつつあるように見えます。イラン、ヨーロッパで感染が拡大しています。

一方、2位のイタリアは感染が広がり続けていることに加え、死亡率も7.3%とトップ10で最悪の数字となっています。

Country,
Other
Total
Cases
New
Cases
Rate of infection Total
Deaths
Mortality Rate
China 80,880 36 0% 3,213 4.0%
Italy 24,747 1,809 7.3%
Iran 14,991 1,053 8% 853 5.7%
Spain 8,794 806 10% 297 3.4%
S. Korea 8,236 74 1% 75 0.9%
Germany 6,215 402 7% 13 0.2%
France 5,423 127 2.3%
USA 3,802 122 3% 69 1.8%
Switzerland 2,217 14 0.6%
UK 1,391 35 2.5%

日本の感染者は1,000人未満で、上から数えて17番目です。新規の患者の増加数は前日から1%未満の6人と、数字の上ではかなり押さえ込めています。死亡率は3.2%と、全体の死亡率よりは低めです。

トップ10の国で死亡率ではかなり低い数字もありますが、これは感染からさほど時間が経っていない国が含まれるためです。

感染者が重体となり、その一定割合が死亡すると考えると、感染者と死亡者の数の間にはタイムラグがあります。現段階では、先進国でも死亡率は3%近くなると考えた方が良いかもしれません(特にハイリスクの高齢者、持病のある人の死亡率は高くなっています)。

WHOによる戦略ガイド

WHOによる各国へのアドバイスは下記です。

  • 人と人との接触を避けるように国民に促すこと(医療従事者への二次感染の防止、大規模なイベントの中止・延期勧告、国際移動の制限)
  • 早期に検査を行い、感染者を特定し、隔離し、治療すること
  • リスクと感染に関する正しい情報を国民に伝え、誤った情報については訂正すること

ほとんどの国でWHOに沿った対策が取られています。

例えば、韓国は、全国に500以上指定クリニックを設置し、ドライブスルーで検査を行うことができるようにして、早期の検査を徹底しました。また、感染者の情報を開示し、感染者が立ち寄った場所へ行くことへの注意を呼びかけました。また、不必要な外出や会合を避けるなど、他者との接触を最小限に抑えるようにも人々へ求めました。

これらの対策により、韓国では感染の速度を抑えることができています。

また、中国はより人と人との接触を避けること、感染者の隔離に重点を置き、民主主義国家ではできないようなかなり大胆な対応を行ったことで、感染の速度を低下させました。

アメリカでのコロナウイルス拡大

アメリカでのコロナウイルスの感染者数も増加の一途です。3月15日の段階で、感染者は3,000人、死者も60人を超えました。

アメリカでのコロナウイルス感染者数の推移

ただし、アメリカは検査器具不足のため、3月9日までで、8,554人にしかテストを行なっていません(worldometersより)。アメリカでは100万人あたり検査を受けた人はわずか26人で、韓国の4,099人と比べると1%以下です。つまり、感染者の数は過小評価されている可能性が高いです。

アメリカの感染の速度はイタリアとほぼ同じ毎日33%の速度で増え続けており、このままのペースが続き、検査をする人が増えれば、感染者が10,000人を超えるのも時間の問題です。

アメリカでのコロナウイルス対策

連邦のレベルでは下記のような方針・対策が出されています

  • トランプ大統領が非常事態を宣言
  • 検査を拡大する方針
  • CDC (Center for Disease Control and Prevention)が50人以上の人が集まるイベントの延期または中止をこの先8週間にわたって行うことを勧告
  • ヨーロッパ28ヶ国からの入国制限
  • 空港でのスクリーニングを開始(熱がないか、など)

下記のような対策が「社会距離戦略」(social distancing)の一環として、州のレベルで取られています:

  • 学校の閉鎖
  • バー、レストラン、娯楽施設、ジムなどの営業制限(持ち帰りのみ、席を一定以上離さなければならないなど)
  • 一定人数を超えるイベントの禁止(スポーツ観戦やブロードウェイなどを含む)

これらの対策は基本的には「人と人との接触を避けるように国民に促すこと」、「早期に検査を行い、感染者を特定すること」を目的としています。

財政では、「新型コロナの検査無料化、食糧支援、2週間の有給の病気休暇、学生ローンの利子支払いの猶予」などのコロナウイルス対策が法案として下院を通過しました。

また、経済的な影響を緩和するため、金融の側面では、3月15日FRBが利率を1%下げて、ゼロ金利(0-0.25%に金利を誘導)、国債を購入しての量的緩和も開始しました。リーマンショック時の、非常時対応に戻った、と言っても良いかもしれません。

これらの対策がまとまったのは、先週末です。つまり、ようやくアメリカはコロナウイルスに対する対応のスタートラインに立ったところである、と言えます。

今後予想される展開

中国、韓国の例を見る限り、国家が対策を総動員すれば、1-2週間で感染の速度を鈍化させることができると考えられます。

一方で、対策が後手に回り、医療がパンクするような事態(イタリア型)になると、外出禁止令などかなり大胆な対策を打たない限り感染の増加と死亡者の増加に歯止めがかからない可能性があります。

アメリカは、①ハイリスクである持病を抱えた高齢者が多く重症化しやすい、②無保険者が多い、ことからただでさえ被害が拡大しやすい土壌にあります。また、コロナの検査費用が無料化されても、治療や入院費までが無料化されておらず、検査へ行くのをためらわせる事情があることも懸念材料です。

さらに、州が強い権限を持っていて独自に対策を打っており、連邦レベルでの方針が出ていないことも課題です。ある州では感染を抑えることができ、違う州では感染が拡大している場合においても、国内での人の移動で感染が止まらない可能性があります。

今後の展開として

  • 国内移動の制限(列車、飛行機による移動の制限)
  • 入国制限の拡大(中南米などでコロナが拡大した場合)
  • レストラン、バー、ジム、美術館などの施設の強制的な営業制限が連邦レベルに拡大
  • 大規模イベントの禁止
  • 大学・学校の閉鎖(オンライン授業へ移行)
  • 外出制限

が実行される可能性があります。これらはドイツ・イタリア・フランスを始めとしたヨーロッパ各国で既に取り入れられている対策であり、アメリカも追随する可能性が高いです。

いずれにせよ、今後数週間はコロナの感染者数の増加とそれに対する対策で、荒れる相場になることが予想されます。

3月20日アップデート

  • 米感染者が10,000人突破。2日間で2.5倍に(3月19日)。ニューヨーク州で5,000人を超え、従業員の75%に在宅勤務を義務付け
  • 米国務省が全ての外国への渡航を中止するように米国人に勧告(3月19日)
  • カリフォルニア州全土に外出禁止命令(3月20日)

コロナウイルスにより影響を受ける産業・セクター

以下の産業・セクターは大きな影響を受けると考えられます

  • 航空、宿泊、観光、レジャー(不要不急かつ移動を伴うため、大きく影響を受けます)
  • 飲食(人との接触を控えるために、人々が外出を控え、需要が大きく減少します)
  • 百貨店、ショッピングモール(外出禁止のため、スーパーマーケットやドラッグストアなどの生活必需品を扱う以外の実店舗は大きな打撃を受けます)
  • エネルギー(人の移動が減ることで石油・ガソリンの消費量が減り、石油価格の下落に繋がります。特にシェール業者が痛手を受けます)
  • 金融(ゼロ金利に加え、上の産業で倒産する企業が出た場合、損失を被ります)
  • 広告(このような状況ですと、大企業は広告への支出を減らす可能性が高いです)

一方、宅配のアマゾンやネットフリックスなどオンラインの娯楽については、人々が家で時間を過ごす時間が増えると追い風かもしれません。

アメリカの医療制度についてより知りたい方は、こちらをご覧ください。

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ヘルスケア(医療)は権利か特権か:米国大統領選のポイント

米国のヘルスケア(医療)について、おそらく99%の日本人が知らないことを書きます。2020年の米国の大統領選でも国を二分するテーマの一つのため、知っておくとより大統領選についての理解が深まるかもしれません。

ヘルスケア(医療)の特殊性

医療は様々な点で特殊な業界ですが、その特殊性の一つに、人々が「特権」(privilege)ではなく、「権利」(right)だと考えていることがあります。つまり、「対価を払える人だけが手に入れられるものではなく、全ての人に与えられるべきものだ」という考え方です。

例をあげてみます。自動車は高級品で、新車の場合は100万円を超え、保有している人と保有していない人がいます。「国が全ての人に自動車を与えるべきだ」と考える人は少ないのではないでしょうか。

一方、日本人の主な死因の一つである、ガンの手術や治療でも100万円を超えることは珍しくありません。ガンも発症する人と、発症しない人がいます。しかし、日本人の多くが「国はガンの治療を全ての人が受けられるようにするべきだ」と考えるのではないでしょうか。

「医療のような人の命に関わるものに関しては、全ての人が受けられるようにするべきだ」、という考え方は医療を「人権」として捉えています。

一方、「医療もサービスの一種であり、高い金額を支払える人は高い医療サービスを受ければいい。お金がない人は質の低い医療サービスでも仕方ない、あるいは医療を受けられなくとも仕方ない」という考え方は、医療を「特権」として捉えています。

前者のように医療は「人権」であると捉える考え方が日本、西欧、オーストラリアでは主流です。これらの国は国民皆保険制度を持ち、国が標準治療(standard of care)を決め、国が保険の仕組みを用いて費用の全額・または大部分を支払う仕組みとなっています。

標準治療が決まっており、医療へのアクセスが保証されているため、たとえお金がない人であっても一定水準以上の医療を受けることができます。一方で、自由診療の幅は保険適用を行わないことによって、狭められている場合が多いです。

後者の「特権」として捉える考え方はアメリカ(特に共和党支持者)で根強いです。

「自堕落な人(ハードワークでない人)がお金を稼げない。自制心がない人が不健康な生活を送り、病気になる。そんな人たちを助けるために、どうして健康な自分が高い保険料を支払わなければならないのか。それならば、国に強制されるのではなく、自分で内容を選べる自由が欲しい」

つまり、「経済的に貧しい人や不健康な人は自己責任の要因が大きく、そんな人たちのために高い保険料は支払いたくない」という考え方です。また、「国民皆保険となり、標準治療が決められると、自由診療の幅が狭められて、自由度がなくなる」ことも懸念しています。

前者と後者でかなり考え方が違いますね。アメリカは国民皆保険制度を成立させようと1910年代、1930年代、1940年代、1960年代と過去何度も国民皆保険制度の法案が作られ、採決が行われましたが、全て失敗しました。背景にはヘルスケアは「特権」であるという考え方が根強いことがあります。

アメリカの医療制度

アメリカの保険は大きく分けると、連邦・州が運営する公的保険と民間保険の2種類です。詳しく説明すると論文にできるくらい長くなりますので、概要のみ説明しています。

連邦・州が運営する公的保険

Medicare (メディケア)は連邦が運営する、65歳以上の高齢者と障害者向けの公的保険で、Medicaid (メディケイド)は連邦と州が運営している、低所得者向けの公的保険です。また、少し特殊ですがVA (Veteran’s Administration)という軍人・退役軍人向けの保険もあります。

Medicareは6,000万人、Medicaidは5,700万人、VAは1,200万人と、米国の人口、3億3,000万人の1/3以上が公的保険に加入しています。

ただ、逆に言えば、残りの2億人は公的保険に入っておらず、民間保険に入ることになります。

民間保険

アメリカの民間保険は多種多様ですが、約半分の1億6,000万人は雇用主が提供している従業員向けの民間保険に入ります。

保険により、 (1)カバーされる病気、(2)通うことができる病院、(3)自己負担額の割合、(4) 加入者が支払われければならない金額(deductableと呼ばれます)、などが異なります。

日本人からすると馴染みにくいと思いますが、いつでもどの病院にでも行けるわけではなく、「保険により」、保険適用でかかれる病院、医者、待ち時間、受けることができる治療法が変わります。

一般的には、保険料が高い方がより病院と医者を選べる自由度が高く、より早く、幅広い治療方法へのアクセスがあり、支払い金額も少なくなります。

雇用者が提供する保険がない人は、保険市場(healthcare marketplace)から保険を買ったりしますが、こちらは州により異なったりと複雑です。

無保険

アメリカの保険料は高額であるため、保険に入っていない人も約9%の3,000万人近くいます

この3,000万人のうち、それなりの割合は保険料が高すぎるという理由で無保険状態になっている人たちだと考えられます。

オバマ政権時には無保険者は15%以上いたのですが、「オバマケア」と呼ばれる一連の公的医療保険改革の一つの施策として、Medicaid (メディケイド)に入れる人の収入を幅広くしたため、無保険者ですが保険に入りたい人の多くがMedicaid保有者になりました。

また、オバマケアでは既往症を持つ人を保険会社が断れないようにしたため(オバマケア以前は既往症を持つ人の多くが、医療費がかかることが理由で、民間保険会社に保険に入ることを断られていました)、既往症を持つために無保険であった人も民間保険に入れるようになりました。

一方で、既往症を抱えた人が保険に入れるようになったことにより、健康な人の保険料は上がりました。これがオバマケアに不満を持つ人の理由になっていますし、トランプがオバマケアを撤廃しようとした一つの理由でもあります。

なぜヘルスケアが大統領選の大きな論点になるか

一言で言うと、アメリカの医療制度は高額かつ不平等であり、誰もが不満をもっているからです。

アメリカ人は国民一人当たり、保険・医療費で毎年$10,500 (110万円)を支払っています。これは先進国の約2倍にあたる数字です。

国民一人当たりの医療費

それにも関わらず、平均寿命は他の先進国に比べて2歳近く短くなっています。一人当たり2倍の医療費を支払って、国全体の平均寿命が他国より低いというのは、医療システムが非効率であることを示しています。

先進国の平均寿命

また、米国の平均寿命は所得水準と人種で統計的に優位な差があります。

白人の中間層以上に生まれれば平均寿命は先進国の平均と同じかそれ以上の結果となります。一方、有色人種の貧困層に生まれれば平均寿命は短くなります。生まれや収入で医療へのアクセスが変わる現状に、中間層であっても不満を持つ人は増えていっています。

また、高齢化と医療の高度化に伴い、保険料は年々高騰していっています。保険料は、若者世代にとって特に大きな負担です。アメリカは大学の学費の高騰化に伴い、ほとんどの学生が数万ドルの学生ローンを背負って社会に出て行きます。そんな状況で毎月の高額の保険料を支払うことに、不満を募らせています。

そんな状況に対し、民主党候補(特にバーニー・サンダース)は「国民皆保険」を導入することが医療費、保険料を下げ、医療へのアクセスを万人に行き渡らせる方法だと提案しています。

医療は「特権」ではなく「権利」だ、というのがサンダースの主張です

一方、トランプをはじめとする共和党は、アメリカ人の「自由を尊ぶ」、「自己責任を重んじる」国民感情に訴えることで、国民皆保険を阻止しようとしています。

国が国民皆保険制度を作ると、「病院や治療法を選べる自由がなくなりますよ」、「自堕落で自制心のない人たちと一緒にされると保険料が上がりますよ」という反対意見です。
(ちなみにトランプ政権は、国民皆保険に代わる医療費を下げる方法として「医療費の透明性をあげれば競争が促進されて価格は下がる」ということを主張しています。これは逆効果になる可能性が高いのですが、今後機会があれば書きます。)

あなたの「自由」・「特権」が奪われますよ、というのが共和党の主張です

どちらを選ぶのかはアメリカ国民次第ですが、一部の国民が医療へのアクセスが制限されている環境は、コロナウイルスで症状が悪化する人が増える要因となります。そして、悪化する人が増えれば増えるほど、社会問題の顕在化に繋がります。

もしかしたら、コロナウイルスが天秤を動かす鍵になるかもしれません。

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株価の暴落はこのまま続くのか。経済指標のまとめ

本日の日経225は5%下落し、20,000円の大台を割りました。米国株も先物で5%下落しています。

リーマンショック以来の10年に1度の相場の荒れ方ですので、一度、現在の市場、関連する指標をまとめ、今後のポイントについても書いてみます。

こちらの記事で説明した先行指標をみていきます。

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EPS・PER・BPS(日本株)

日経平均PERの推移 投資の森より

2020年3月9日時点での日経平均225のEPS(Earnings per Share: 一株あたり利益)は1,630円。株価は19,700円です。EPSは12.1と過去3年の平均を割り込んでいます。

過去3年の最低PERは2018年末の10.7です。仮に、EPSの悪化を市場が織り込んで、PERがここまで落ち込むとすると

1,630円 x 10.7 = 17,600円

が株価となります。参考までに、日経225のEPSは下落傾向です。

日経平均一株あたり利益 2019年

次に、BPS(Book value per Share: 一株あたり純資産)を見てみます。

日経平均PBR 日経平均比較チャートより

2010年からの20年間をみてみると、BPS は2012年に0.89と最低をつけましたが、ほとんどの期間で1.0を上回っています。

BPS (Book value per share: 1株あたり純資産)は21,000円ですので、19,500円の株価はすでにBPSは93%で、7%下回っています

BPSからみると、日本株は売られ過ぎ、の水準に入ってきていると言えます。

17,600円まで落ちるとすると、BPSから見て、84%と16%下回ることになります。

BPSが過去20年最低の0.89まで落ちると仮定すると、

21,000円 x 0.89 = 18,690円

が株価となります。日経新聞によれば、日銀の平均取得単価は3月6日時点で19,443円とのことですので、中央銀行が含み損を抱える、という事態になります。

EPS・PER(米国株)

S&P500は$3,300から急激に10%下落し、$3,000を切りました。しかし、それでも昨年の10月時点の価格まで下落した程度です。5年前の$2,000からすると+50%であり、いぜんとして年率10%程度の成長と、歴史的な平均の8%よりは高い水準です。

S&P500の価格推移(Googleより)

過去2年の上昇はEPSの上昇ではなく、PERの上昇、つまり将来にわたって成長が続くだろうという楽観によりもたらされました。

元々、コロナを発端とする株価下落が始まる前から、S&P500のPERは18.7と過去20年でみても高すぎの水準でした。

S&P500の予想PERの推移

今回のコロナの1件で、下記のように、EPSの修正が入った後でも、PERはまだ高い水準にあります。EPSが2019年並となり、PERの修正が行われた時の株価は下記となります。

PERがさらにもう一段切り下がり、13.0程度まで下がれば、S&P500は$2,100となり、現状の$3,000から30%下落することになります。仮にリーマンショック並の事態となり、EPSが変わらないままPERが10.0まで落ちることがあれば、$1,760です。

米国金利

株価の急落を受けて、FRBは2020年3月3日に0.5%の利下げを行いました。短期金融市場への資金供給も行なっているため、金融緩和は継続中です。

Federal Reserve Bank Interest Rate (Trading Economics.comより)

10年満期の米国債の金利は急降下し、3月9日現在では0.5%で推移しています。

FRBの現在の金利よりも低いということは、市場はすでに今年利下げが行われて、さらにその低い利率が長期化することを織り込んでいるということです

10 Year Treasury Rate (Macrotrendsより)

さらに異例なのは、30年ものの国債の利率ですら1.56%と低い利率になっています。過去20年間で最低です。

通常、国債は期間が長ければ長いほどリスクが大きくなるため利率が高くなりますし、国債の利率はインフレ率にも影響されます。1.5%というのは、市場は今後30年でほとんどインフレが起こらないと仮定している数字であり、30年満期で1.5%は歴史上初です。

30 Year Treasury Rate(Macrotrendsより)

この債券の利率の低さをみる限り、債券市場はすでにパニックになっており、景気後退を織り込んでいると言っても過言ではないでしょう。

モノの動き

世界のモノの動き(輸出・輸入)を表す指標として、バルチック海運指数を見てみます。

Baltic Dry Index (Bloombergより)

こちらは2/7に$415をつけた後に、$617と上昇してきています。毎年2月から3月にかけては上昇しているのは主に季節性のためです。

現状の数字をみる限り、$617は3月としては過去5年の中で低い水準ですが、劇的に低いわけではありません。つまり、世界の貿易は動いていると考えられます。

原油相場

原油価格は1日で30%近く下落し、$30まで急落しました。

Crude Oil Price (WTI) Marketisnsiderより

$30というのは、2016年につけた$33をも下回り、過去10年で最も安い水準です。

OPECとロシアの間で減産の合意ができず、原油の供給過剰になるリスク、コロナウイルスの欧州、米国への広がりで原油の需要が減少するリスクの両方が意識されたことがきっかけです。

2016年の時にも減産の協調がうまくいかなかったことがきっかけで原油価格が$33まで急落し、その後にロシア・OPECが国債減産に合意して$50まで戻した経緯があります。

$30割れというのは、原油価格を前提に予算を組んでいる産油国(産油国の多くは国営の石油会社を持っており、原油収入をあてにして国家予算を組んでいます)の予算割れの水準となります。

この水準はロシア、OPEC諸国にとっても望ましい水準ではなく、何かしらの対策が早急にうたれると考えられます。

同じコモディティの銅の価格も下落していますが、石油ほどの下落ではありません。銅は電線、住宅、自動車など様々な用途に用いられるため、銅の価格が世界経済のバロメーターになっていると言われます。

Copper Price (Macrotrendsより)

銅の価格をみる限り、市場は生産やインフラ投資が大幅に減速するとは見ていないようです。

米国・住宅関係データ

米国の新規住宅着工件数は12月データ分までは右肩上がりです。今年に入ってからのデータはまだですが、少なくとも2019年12月までの米国経済の状況は好調です

米国住宅着工件数(macrotrendsより)

今後の論点

コロナウイルスを発端とする生産、物流への影響が株価に織り込まれ、過度な将来への楽観が現実的な水準に落ちてきている、というのが僕の相場の見方です。

今後の論点としては、

  • FRBをはじめとする各国の金融政策
  • 米国、日本、欧州の財政政策
  • OPECとロシアが再びの会合を開き、減産で合意できるか
  • コロナウイルスを原因とする消費への影響がどの程度広く、長く続くか
  • レバノンのデフォルトからの次のレバノン探しの影響(低格付け国債価格の下落。低格付け国債を保有している金融機関の損失)
  • 特にコロナ関連の影響の大きい旅行・空運・小売・飲食業界でのクレジットリスクと貸出を行なっている金融機関への影響
  • シェールガス業者などエネルギー関連業者のクレジットリスク(原油安が続くと、倒産します)。そして、倒産が波及するCLO (Collaterized Loan Origination – ローン担保証券)の暴落リスク。
  • 中国のクレジットリスク(すでにHNAグループが実質国有化されましたが、第二のHNAグループが出る可能性があります)

クレジットリスクに重点を置いているのは、世界経済が過去10年、国は国債、企業は社債、家計も住宅購入のための借り入れを増やしており、経済全体が債務に頼って成長を続けてきているためです。

特に財務基盤の弱い企業の社債、家計の住宅ローンは膨らみ続けている爆弾です。

爆弾が爆発した時にはリーマンショック級になる可能性があるため、特に注意をしてみる必要があると考えています。

一方、クレジットリスクが顕在化しない場合、中央銀行のさらなる金融緩和と各国の財政対策により、資産バブルが生じる可能性があります。こちらのシナリオの場合は株価の急反発になると予想されますので、その予兆にも注目です。

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