人に動いてもらいたいときに、最も大切な3つの要素

誰かに動いてもらいたいのに、動いてもらえない。そんな思いをしたことは、ありませんか?

早いもので、プロダクトマネジャーに管理職と、人に動いてもらうのが主な仕事の職業につき、10年間以上が経過していました。これまでの仕事人生で常に意識してきて、3つの会社、3か国でも試してみて、有効だと感じている一つの原理原則があります。

人に動いてもらいたいと思う人に参考になればと思い、書いてみます。

情熱、論理、思いやり

人を動かすのは情熱、論理、思いやりの3つです

人は情熱を持った人に惹かれます。それは、熱量をもった人が話す言葉には、人を動かすエネルギーがあるためです。

どんなに論理的に正しいことであっても、語る人に情熱がなければ、人は頭で納得してくれても、心では納得してくれません。

人を動かしたいと思う人は、まず自分が担当する事柄について誰よりも調べ、考え抜き、そのうえで進もうとする道を正しいと信じる必要があります。人に動いてもらいたいと思うときに、あなたがぶれていると、ほかの人もどうして良いかわかりません。

また、どんなにあなたが情熱的に語ったとしても、それが論理的に正しくなければ、人は心でいいと感じても、頭で納得してくれません。納得感がないと、人はしぶしぶやってくれたとしても、期待以上のことはしてくれないものです。

情熱と論理性を持つリーダーが決定をしたときに、人は頭と心で納得をしますが、さらにもう一歩踏み込んで頑張れるかどうかを左右するのは、思いやりです。

人は、自分にとってその人がどのくらい大事か、どのくらい親近感を持っているか、で頑張れる度合いが違うのです。例えば、自分が苦しいときに一声かけて励ましてくれたり、うまくいったときに褒めてくれたことがある人に対してのほうが、顔も名前も知らない人に対してよりも、頑張れるものです。

個人的な関係を築き、「この人のいうことだからしょうがないな、頑張ろう」、「この人のためなら頑張ろう」と思ってもらえるように思ってもらえるようになれば、強いです。その関係は、一つのプロジェクトだけでなく、ずっと続く財産になります。

情熱、論理、思いやり、はこの順に重要です

情熱があれば、その事柄について調べ、考え、自分なりの考えを持つことができます。逆に、その分野についてたいして時間を使いたいと思えないのであれば、それは扱う事柄について、情熱を持てていない、ということです。

好きでないことで、ほかの人に動いてもらうのは、しんどいです。まずはあなたがそのことを好きになることが、スタートです。

情熱なんてなくても、正しい論理であれば人は納得して動くのではないか、という人もいるかもしれません。

しかし、現実には、論理だけで人に納得してもらうのは困難です。それは、常に一つの論理だけが正しいことが明らかなことなど、ほとんどないからです。

ある見方が正しく見えても、ほぼ必ず違う見方があります。そして、どちらの見方が正しいのかについてデータがあって定量的に示せる場合は、あまりありません。

本や雑誌に載っている成功例や、ビジネススクールのケースよりも現実は混とんとしており、複雑なのです。

そして、混とんとしている世界の中で、「この方向が私は正しいと思う。なぜなら私はこの事柄を愛し、これだけ調べ、考え抜いたからだ」と言える人は、強いです。なぜなら、人は、ついていくならば、そういう人についていきたいと思うからです。

そして、情熱を持つ人が、論理的に語った時にも、その語る人に対して、語られた人が肯定的な感情を持っていれば、その人はより動こうと思ってくれます。

その肯定的な感情の源は、つながり、であり、つながりを築く一つの方法は、その人のことを人としてどれだけ真剣に考え、何をしてきたか、という思いやりです。お世話になった人のために頑張りたい、というのは気持ちがあると、人はさらに一歩踏み込んで動いてくれます。

あなたが仕事や家庭でほかの人を巻き込んでのプロジェクトを進める必要が出てきたとき、ぜひこの3つを意識してみてください。

日本の働き方と米豪での働き方の違い

アメリカ、オーストラリアで働いた後に日本に帰国して働き、約4ヶ月が経過しました。同じ会社で3つの国で働いた経験から、海外で働くことに関心がある人、もしくは海外から日本へ戻って働くことを考えている人向けに、私が感じた違いについて書いてみます。

コミュニケーションに必要な労力

よく日本の強みは緻密なコミュニケーションによる「すり合わせ」と言われます。さまざまな部署の調整が必要となる複雑な製品やサービスを生み出すとき(自動車など)に、この緻密なコミュニケーションが強みの源泉となっている、と言う主張です。

一方、裏を返せばそれだけコミュニケーションが期待されている文化、ということでもあります。

日本の組織に戻ってきて感じるのは、仕事を進める際のコミュニケーションの必要量の多さです。

例えば会議を例にあげると、米国やオーストラリアと会議をしていると意見(賛成、反対問わず)がどんどん出てくるのに対し、日本の会議では意見が出てきにくい。

「この場で意見をいって良いのか」という空気を読もうとする傾向があり、タイミングを見計らっているのか、結果的に意見が出にくい会議になってしまう。

意見がないわけではなく、一人一人にどう思いますか、とふるときちんと意見が出てくる。つまり、会議という場で意見がきちんと集められないため、会議で合意形成することが難しい。

かといって、会議で決まったからと進めようとすると、会議で言われなかった意見に対して対応が取られていることを納得してもらえないと、関係者が合意を合意としてくれず、きちんと次のアクションをこなしてくれなくなり、結果的に仕事が進まない。

そのため、きちんと意見を吸い上げて関係者の合意を得ようとすると、結局は毎回毎回、ステップごとに会議の中でそれぞれの一人一人がきちんと意見を言う時間を作るしかないが、それをやると会議が非常に長くなる。

そのため、効率的に進めるためには、それぞれの人と1対1または少人数の場で話す場を設ける必要が出てくる。言い方をかえれば、一人一人に根回し(きめ細かいケア)をしないといけない

昔ならば「一緒に飲みに行こうか」と飲みの場で話すことや、同じオフィスの中でちょっと立ち話で解決できたことが、このコロナ禍で在宅勤務が基本になると、この一人一人と話さなければならない、というのが非常に労力がかかるプロセスになります。

また、根回しの対象が少なければまだ良いのですが、日本の会議の特徴なのか、関係者が多い。

「俺は聞いていない」と決まったことを後から覆される現象を防ぐために、会議に呼ぶ気持ちは分かりますが、アメリカやオーストラリアであればマネジャー一人出ればいい場面に、日本ではマネジャーが部下を何人も連れて参加している場合が合ったり、必ずしも意見が必要ないけれどその場にいたという実績を作るためにとりあえず関係者全員を集めている会議もそれなりにある気がしています。

この点も、「関係者全員での合意」を重んじる日本の意思決定の特徴が反映されています。

日本での在宅勤務の生産性について、若手が「生産性が変わらない」と答えて、管理職が「生産性が減った」と答えているのは、こういう個別にコミュニケーションを取らなけばきちんと合意が取れない、意思決定ができない、という文化が影響しているのかもしれません。

日本オラクルによる生産性調査結果(2020年11月)

いずれにしても「期待されているコミュニケーション」の違いのため、労力がかかる、というのが、米豪と比較しての日本でのコミュニケーションの感想です。

新しいことをする際の仕事の進め方

日本の組織は良い意味でも、悪い意味でも完璧主義だなと感じます。前例踏襲ならば良いのでしょうが、新しいことをやろうとすると、できない理由や「こう言うケースが出てきたらどうするのですか」、と言う例外対応がいくつもいくつも出てきます。

そして、その想定される例外やリスクを排除するために、関係部署を含めて何度も打ち合わせをする必要性があり、考えられる対応策を議論し尽くしてから、ようやく次へ進めます。

最初から例外対応を想定して計画を策定するのは大事なことですが、この「リスクや例外対応をほぼ全て潰さないと既存のプロセスからなかなか動けない」、というやり方はビジネスのスピードをかなり遅くします。

アメリカやオーストラリアでは、「それはどのくらいの頻度で発生するのか」、「起きた時にどれくらいの影響が出るのか」、「結局どのくらい重要なことなのか」というインパクト付けをして、それがあまり重要でなければ、リスクについては起きた時に考えるベースでも走れました。

一方、日本では完璧主義の文化が根強く、走りながら考えることに拒否反応があるような気がしています。

どのような新しい活動においても、最初のうちは慣れ親しんだプロセスから離れるため、最初の学びの期間には効率が多少落ちたり、問題が発生するものです。そういったリスクに対して、これはあまり重要でないから今は棚上げ、とするとそこに引っかかる人がおり、「どうしてこの点を考えていないのに進むのか」と関係者の合意が得にくく、進めにくいのが悩ましい点です。

仕事と家庭の両立

仕事と家庭の両立はどの国でもテーマの一つですが、このテーマにおいても違いが大きいです。

アメリカでもオーストラリアでも、オフィスでは17:30になると残っているのは周囲で数人、と言うのが通常でした。

皆、子供の送り迎えであったり、近所のスポーツのコーチであったり、で夕方は家庭で忙しいのです。朝は早くくる人が多いですが、終わりの時間はきっちり帰ります。

そういう事情もあるために、就業時間後にMTGが設定されることはほとんどありませんでした。たまに設定されるとしても時差の違う地域(オーストラリアからヨーロッパと話す時は就業時間後の方が捕まえやすい、など)と話す時に限っていました。

一方、日本では終業後に日本人同士で話すMTGがそれなりの頻度である気がしています。18:00開始、19:00開始、と言うこともあり、これだと子供のいる家庭だと支障が出るな、と呼ばれている身ながら心配になります。

勤務時間中だとみんなが集まれる時間がないから、、、と言うことで就業時間後に設定されるのだと思います。

ただ、そんな場合でもどうしようもなく必要な人だけでなく、参加しても発言しない人(=不可欠でない人、やむをえない出席でない人)が就業時間後のMTGに呼ばれているのは、本当に多様な人材が働ける環境になっているのか、と違和感を感じます。

家庭の時間をどこまで尊重するか、というのは僕が感じる最も大きい違いの一つです。

違いについてのまとめ

これらの違いは相対的なものであり、必ずしも良いことであったり、悪いことであったりするわけではありません。

「綿密なコミュニケーションをとって物事を進めていく」、「完璧主義である」、と言うのはミスの許されないような業種や職種であれば効果的なやり方です。また、作業標準を作り、それに沿った作業を行い、作業標準を改善することで業務効率を改善していく、ような決まったことを何度も繰り返すような仕事でも効果的なやり方です。

また、作業をミスをしないように真面目に進めてくれるという安心感もあり、ここはアメリカやオーストラリアで働いていた時よりも安心して任せることができます。

また、「家庭に対する意識が低い」のは経営する側からすると望ましいことです。業務量を多くした時に、従業員が就業時間後に働き続けてくれる(しかも辞めないでくれる)、という国はそんなに多くありません。経営する立場からすると、こちらも効果的な環境です。

一方、これらの特徴が強みになるような仕事の割合が少なくなっている、とも感じています。

定型的な仕事であればソフトウェアの自動化で大部分が対応できますし、リモートワークはこれまで見えにくかった一人一人の生産性をより見えやすくしました。また、現代の20代、30代は仕事と家庭を両立させることへの意識が高く、「家庭に対する意識が低い」会社は優秀な人材から選ばれにくくなってきています。

僕自身は、日本の文化の良いところは活かしつつ、現在の環境に合っていないところは変えていき、チームがより心地よく、効率よく働ける環境づくりを進めていきたいと考えています。

日本から海外に出る人、海外から日本に帰ってくる人、は上記の

  • コミュニケーションの労力
  • 仕事の進め方
  • 家庭と仕事のバランス

の3点の違いについて意識をして、それぞれの文化に応じた立ち振る舞いを行うと良いかもしれません。

「考える力」を上げる、考え方のプロセス

ビジネスの世界に入ると、目の前にある仕事をこなしていくスキルはつくのですが、意外と「どう考えれば良いか」というのは教えてくれる人がいません。

問題解決に関する本は何冊も出ており、様々なセミナーも行われていますが、実際にどのような流れで考えていくと良いのか、よくわからない方も多いのではないでしょうか。

下記は、自分が10代、20代の頃に知りたかったな、という思考の方法と流れについての記事です。この記事を読むと、あなたの「考える力」が上がるかもしれません。

  1. 分解して、考える
  2. 俯瞰して、考える
  3. 感情を、考える
  4. 視点を変えて、考える
  5. 誰かに話をして、考える

分けて、考える

大きな問題をそのまま考えようとすると、とっかかりがなかなか見つからなかったり、本質的な要因を見逃したりするものです。

問題を分解して、順番に考えると、全体像をみながら考えを進めることができます。例をあげてみましょう。

あなたは東京の住宅街で小さなカフェを経営しています。オープンから3ヶ月が過ぎ、売上が伸びずに、目標としている数値に達していないとします。どうすれば、売上をあげられるでしょうか?

ここでの問題は、「売上を上がらない」ということです。

売上が上がらない。「うーん、それではもっとお客さんを増やすために広告を」、とすぐに解決策を議論することも実世界ではしばしば見かけます。

しかし、それでは問題の一部しか見ておらず、本質的な問題を見逃してしまうことが多々あります。

より効果的なのは「売上はどう分解できるか」を考えて、売上が上がっていないことの本質的な問題を見つけ出すことです。

まず、分けて考えよう

売上は以下のように分解できます。

売上 = 客数 x 客単価

売上を上げるためには、「客数」を増やすか、「客単価」をあげれば良いのだ、と分けられます。単純ですね。

それでは、売上が伸び悩んだのはどうしてなのでしょうか?

客数をさらに分解してみましょう。

  • 客数 = 朝の客数 + 昼の客数 + 夜の客数 (時間の切り口)
  • 客数 = 新規の客数 + 既存の客数 (来店頻度の切り口)
  • 客数 = 20代以下 + 20-60代 + 60代以上 (顧客の属性での切り口)
  • 客数 = 看板を見て入ってきた人 + 広告を見て入ってきた人 + 元々知っていた人 + 口コミで知った人 (どのような経緯で入ってきたか)

こうやって切り口を変えて、時系列で見てみると、どこに問題がありそうか見えてきます。

例えば、売上が伸び悩んでいるのは、何度も来てくれるようなお客さんが少ないからかもしれません。あるいは、想定していたお客さん層がお店の存在を知らず、新規のお客さんが少ないからかもしれません。

前者が売上の伸び悩みの主な理由であれば

「いかに既存のお客さんに満足してもらい、リピート客になってもらうか」

が考えるべき主な問題になります。

大きな問題は分解して考えて、問題を明確にすることで、より取り組みやすくなります

同様に、客単価についても様々な切り口で分類できます

  • 客単価 = 一品あたりの単価 x オーダー数 (単価 x 購入数)
  • 客単価 = 食べ物 + 飲み物 (種類で分類)

切り口を変えて分解することで、より問題を多面的に分析することができます。

「もれなくダブりなく」(MECE – Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)分解することは、問題の原因について考えるのに役立ちます。

また、定性的な問題についても、「それってどうして?」(why so?)、「要は何なの?」(so what?) と問いかけていくことで、論理的に分析することができます。

問題を洗い出したのちに、問題の優先順位付けを行い、さらに思考を進めていきます。

いかに既存のお客さんに満足してもらい、リピート客になってもらえば良いでしょうか

これはマーケティングの領域です。

マーケティング視点での切り口では、4P (商品・サービス、価格、立地・流通、プロモーション)を考えるのが定石であり、サービス業の場合はさらに加えて人(People)、プロセス(Process)を加えた6Pを考えます。

ここでは、リピート客が少ない大きな問題の一つが「人」にあり、「店員の定着率が低く、サービスが安定しないから」だとしましょう。

次に考えるのは、「どうして店員の定着率が低いのか」です。こちらも分けて考えましょう。

  • 辞めた
    • やりがいを感じられなかったから(自己満足)
    • 同僚との間で問題が生じたから・仲が良くないから(チームワーク)
    • 他に良い仕事が見つかったから(機会)
    • 自分が認められていないと感じたから(帰属感)
    • 給料が良くないから(金銭的)

他にも理由があるかもしれません。ここからさらに、「どうしてやりがいを感じられなかったのだろう」と考えていくと、さらに一段階深い理由を考えることになります。

  • どうしてやりがいを感じられなかったか
    • 希望する仕事ができていなかった
    • 自分が成長できている実感を得ることができていなかった
    • そもそも自分のやりがいを理解できていない

ここまで考えることができれば、次のステップとしてはどの仮説が正しいかを検証するためにどのような作業をすれば良いか、を考えることになります。従業員にインタビューをしたと仮定して、以下のような回答を得られたとしましょう。

「Aさん? ああ、ボーナスの評価を見てショックを受けていたよ」、「Aさんが自分の仕事は何の役に立っているのだろうとぼやいていたのを良く聞いたよ」

「ボーナス評価にショック」、「仕事が誰のためなのかわからないとぼやいていた」というのは「要は何なんだろう?」と考えると、「業務評価に不満があった」というようにまとめられます。

「業務評価に問題があったこと」が本質的な問題であるとわかれば、次はこの問題に対してどのように改善策が打てるか、を考えることができます。

以上のように、「どうして?」と掘り下げていくことと、「要は何なの?」とまとめていくことの両方を通じて、問題を「構造化」して、課題を絞り込み、さらに考えを進めていくことができます。

また、ここで「リピート率を上げるためには他にどのような手を打てるか」と元の問題に戻って、商品、価格、プロモーションなど他の要因について考えることもできます。

以上のような問題を構造化して考える手法は、「ロジカル・シンキング」と呼ばれています。

この考え方については、少し古い本ですが、照屋華子さんの「ロジカル・シンキング」がわかりやすいです。

バーバラミントの「考える技術・書く技術」も良い本で、「仮説思考・事実に基づく・構造化」のポイントを解説していますが、やや分厚い本ですので、kindle版も出ている照屋さんの本の方が読みやすいです。

コンサルタントが著者の、「問題解決の考え方」の本の多くがこのロジカル・シンキングを扱っています。

参考:この項はマッキンゼーの問題解決の7つのステップの前半です。

  1. Define the Problem (問題を定義する)
  2. Disaggregate the Issues (課題を分解する)
  3. Prioritize the issues. Prune the Tree (課題の優先順位付けをする)
  4. Build a workplan and timetable (作業計画を立てる)
  5. Conduct critical analysis (重要な分析を行う)
  6. Synthesize findings from the analysis (分析結果から得られる洞察をまとめあげる)
  7. Prepare a powerful communication (効果的に伝える準備をする)

「問題を定義する」、「課題を分解する」、「課題の優先順位付をする」がこの項にあたります。

俯瞰して、考える

分解して考えることでうまく課題が絞り込める場合もありますが、違う切り口を用いた方がうまく課題が見えてくる場合もあります。

次のステップとして、自分の視点を上に持っていって俯瞰してみましょう。別の言い方をすれば、「抽象化して考える」です。

具体例で考えてみましょう。

あなたはある「投資信託」を売る仕事をしているとします。あなたにはノルマがあり、ノルマを達成すればボーナスがもらえます。どうやったら、より多く販売することができるでしょうか?

より長く働く? それも一つの解かもしれませんが、あなたの普段の行動を抽象化して考えてみましょう

モノやサービスの販売は、プロセスで考えると、以下のようになります。

  • 見込み客を見つける
  • 連絡を取る
  • ニーズを見つける
  • 解決策を提案する
  • 顧客の不安や反論に対応する
  • 販売する

販売に近づくにしたがって、残るお客さんは減っていきます。例えば、過去の例から、100人の見込み客がいれば、10人に販売できるとします。すると、あなたの取れる戦略としては、

  • 見込み客を増やす
  • 見込み客から販売までの成功率を上げる

の2つが考えられます。プロセスに分けていれば、どの段階でお客さんが次の段階に進まないかがわかるため、その段階が問題であると見つけることができます。

また、どのような顧客のタイプがより販売に繋がりやすいか、もわかるようになってきます。

プロセスに分けて考えるのは、具体的な行動を「抽象化する」一つの方法です。

違う抽象化の例を考えてみましょう。

あなたは違う部署に異動したいとします。あなたが働いている会社は直属の上司の意向が反映されやすいため、異動先の上司からOKが出れば異動できる可能性が高いです。あなたはどうすれば良いでしょうか?

あなたには今の上司がおり、その上司にもさらに上司がいます。また、異動の際には、異動先で上司になる人だけでなく人事部も関わってきます。

抽象化して考えましょう。それぞれの関係者の「利害」と「誰が誰に影響力を持っているか」はどうなっているでしょうか。

  • 直属の現上司:利害「チームに穴を開けたくない」、影響力「異動を止められる」
  • 直属の現上司の上司:利害「部署の目標を達成したい」、影響力「直属の現上司の意思決定に影響力」
  • 異動先の上司:利害「良い人材をチームに加えたい。けれど会社内で争いは起こしたくない」
  • 人事:利害「異動をスムーズにしたい。人材を最適な場所に配置したい」 影響力「異動自体」

このように「利害関係者の繋がり」(=ネットワーク)を考えれば、どの利害関係者に対して、どのようなアクションを取れば、異動が実現しそうか、が見えてきます。

プロセス」や「ネットワーク」はどんな場面でも使える汎用的な切り口です。

良く言われる「フレームワーク」も抽象化です。フレームワークは数多くありますが、下記はビジネスで特に良く使われているものです。

  • PDCA (Plan, Do, Check, Action): 計画、実行、分析、改善のサイクル
  • ファイブフォーシーズ:業界の魅力度を分析する際に利用
  • 3C分析(顧客、競合、自社):戦略を考えるときに利用
  • SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威):戦略を考える時に利用
  • マーケティングのSTP(セグメンテーション ・ターゲティング・ポジショニング):マーケティングの基本
  • マーケティングの4P(製品、価格、流通、プロモーション):マーケティングの基本
  • ベネフィットとリスク、短期と長期:計画を練る時に利用

これらの箱に沿って考えることで、「漏れなく、ダブりなく」効率的に考えることができます。

また、典型的なフレームワークは便利なビジネスの共通言語のため、この共通言語を用いることでコミュニケーションがスムーズになります

それぞれのフレームワークは特定の用途で効果を発揮しますので、良く使われるモノは覚えておくと便利です。ただし、より汎用的に使えるのは「抽象化」の考え方です。

現実に起きていることを一歩引いて、上から俯瞰した視点からみてみましょう。「ランチェスター戦略」、「ブルーオーシャン戦略」など様々な理論が提唱されていますが、それらの理論を現実に当てはめるのは、この「抽象化して考える」プロセスです。

感情を、考える

分解すること、俯瞰すること、は論理的に課題を分析して、打ち手を考えるステップでした。

論理的な思考は重要ですが、現実にはどんな現場も人が関わる限り、感情で動いています。問題自体が人間関係にあることもありますし、そもそも論理的に考えて導かれた解決策も、人の感情を無視すると、実行されないか、もしくは実行されてもうまくいきません。

第三のステップでは、頭のスイッチを論理から切り替えて、個人の感情に焦点をあてます。

関係者が「どのように感じているか」、「なぜそう感じているのか」、「どのような価値観を持っているのか」、「何を目指しているのか」を考えましょう。

具体的な例で考えてみましょう。

あなたはカフェのオーナーです。「ラテアート」を売りにしたメニューがありますが、店員が提供するのに時間がかかる上、販売額も利益率もさほど高くありません。オーナーとして、このメニューを止めて他の新しいメニューに切り替えるべきでしょうか

数字だけ見れば、「売上、または利益率に貢献する」メニューに絞り込んだ方が、ビジネスとしての効率は良くなります。また、売れないメニューの定期的な入れ替えは必要です。

一方、「ラテアート」のような創造性が発揮されるメニューは、従業員が作る過程を楽しんでいたり、難しいアートをできるようになることに充実感を感じていたりします。

お客さんもラテアートに書かれた文字などのちょっとした心遣いに喜びを感じたり、それをきっかけにSNSでシェアすることも多いものです。

ある商品やサービスが従業員やお客さんの感情に強く結びついている場合、「止めるべきかどうか」を考えるよりは、「いかにその商品やサービスをお店の強みとして打ち出すか」と考えを逆転させた方が、お店にとっても、従業員にとっても、お客さんにとってもプラスになる可能性があります。

数字に出てこない、人の「こだわり」や「喜び・楽しさ・安心・誇り」などの感情を、意識するだけで異なった視点が出てきます。

現場に出て、従業員やお客さんと話をすると、見えてくるものはたくさんあります。

論理と感情は車の両輪であり、片方だけでは回りませんどんな課題を考える時にも、感情の要素を考慮することを忘れないようにしましょう。

感情について理解するのは、ダニエル・カーネマンの「ファスト & スロー」がおすすめです。

視点を変えて、考える

分解すること、俯瞰すること、感情を考えること、のステップを経ると、あなたの視点で論理と感情の両方を考慮した現状の認識と解決策の仮説ができるはずです。

次のステップは、視点を変えて、あなたの分析と解決策をチェックします

上司の視点で考える。

立場によって気にする点も異なるものです。例えば、上司が「他社、他の部署、他の国の支社はどうやっているのか」を気にする人であればその点が抜けていないかをみる必要があります。

同様に、上司が「プランB」(うまくいかなかった時の次善の策)を常に持ちたい人であれば、プランB、プランCまで考えておくのが良いでしょう。

反対の立場から考える

「もしあなたの案に反対する人であれば、どう反論してくるか」を考えてみましょう。

議論は、「前提、根拠、推論、主張」の4つの要素で成り立っており、反対の立場の人は、そのいずれかを問うてくる可能性が高いです。

例えば、あなたが「うちはITの会社だが、給与水準はIT業界の水準と比べて低い。だから人が定着しない」と主張したとしましょう。この議論は、以下のように分解できます。

  • 主張:給与が低いのが人が定着しない理由だ
  • 推論:給与が低いと人が定着しない
  • 根拠:給与水準が業界水準と比べて低い
  • 前提:自社がIT業界水準と比べられる

もしあなたの主張に反対の人でしたら、以下のように反論できるでしょう。

  • 給与が低くても、人が定着している会社はある。給与が主な理由ではない(推論が違うという反論)
  • 自社は中小企業であり、すでにビジネスが確立されている大企業の給与水準と比較するのは適切でない(前提が違うという反論)
  • 自社は中小企業の中では標準的な給与水準である(根拠が違うという反論)

このような反論が来ることを予測できていれば、それに応える準備ができます。

反論にどう対応するか(Objection Handling)を考えることで、考えをより一段深めることができます。

また、「前提を変えて考える」ことで新しい解決策が生まれることもあります。例えば、「〇〇の理由で無理だ」という言い分に対して、じゃあ「〇〇がなかったらどうする」と制約を外すことで、新しいアイデアが生まれることもあります。

誰かに話をして、考える

以上のステップを経れば、自分の中で考えがまとまるはずです。最後のステップは、人の頭を使わせてもらうことです。

自分一人で考えていても、どうしても見えていない観点が出てきます。

他の人に質問をしてもらったり、他の人の意見を聞くことで、より考えは洗練されていきます。

また、人に話をしたり、誰かに向けてアウトプットを書いたりしている中で、自分の中で新しい考えが見つかることも多いものです。同じチームなど、他の人と話をして、考えをより深めていきましょう。

まとめ

ビジネス上の課題を考えるときのプロセスとしては以下の5つの流れがあります。

  • 分解して、考える
  • 俯瞰して、考える
  • 感情を、考える
  • 視点を変えて、考える
  • 誰かに話をして、考える

以上が思考のプロセスです。僕自身、このプロセスを日本、米国、オーストラリアで用いてきましたが、どの国でも通用していました。

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医療マーケティング: 医療ビジネスの考え方

製薬・医療機器を扱う企業に投資する人、医療マーケティングの実務に関わる人向けの記事です。

実務の視点から、製薬・医療機器企業は売上をどう成長させていくのか、投資家としてはどのような指標を見れば良いのかについて、書いていきます。

市場の考え方

医薬品は消耗品のみですが、医療機器の場合はconsumables (消耗品)とcapital equipment(機器)に大別されます。

医薬品、医療機器の消耗品の売上は、以下のように分解できます。

  • その医薬品・医療機器(以下、商品)を扱っている病院
  • 商品を処方・利用する医者
  • 商品の処方・利用頻度

具体例で考えてみましょう。例えばある病気(病気A)を専門とする病院・クリニックが日本に1,000あったとします。

そして、各病院・クリニックにその病気を治療する専門医が平均2名おり、平均して年間1,000名の患者さんを診て、薬を処方するとします。

すると、その薬の市場規模は

1,000 (病院・クリニック数) x 2人 (医者の数) x 1,000人(患者数) = 200万人分

となります。ここで、その病気に対する医薬品があり、その販売承認が得られており、かつ保険償還(保険からお金が支払われるということ)も得られているとします。

その薬の平均卸価格が5,000円とすると、200万人 x 5,000円 = 100億円、となります。

つまり、この100億円の市場を参入している企業で争うことになります。

消耗品ビジネスを伸ばすためには、

  • いかにその商品の適応となる患者さんを増やすか(市場を広げる)
  • いかに扱ってもらう病院を増やすか(アクセスを増やす)
  • いかに扱ってくれる医者を増やすか(他の治療法・競合との競争に勝つ)
  • いかに扱ってくれる医者の処方・利用頻度を増やすか(他の治療法・競合との競争に勝つ)

の4点が既存の市場での売上を考える基本的な切り口になります。

機器の場合も考え方は同じですが、機器の場合は病院やラボごとの購入となることが多いため、より二番目の「いかに扱ってもらう病院を増やすか」がより重要になります。

いかに患者さんを増やすか(市場を広げる)

新しい医薬品・医療機器を世に出す場合、市場そのものを広げる必要があることがあります。

いわゆるQOL(Quality of Life – 生活の質)を改善する新しい薬などは、メーカーが市場を広げる必要がある一つのカテゴリです。

具体例としてファイザー(Pfizer)の勃起不全治療薬のバイアグラを考えてみましょう。

「日本のED(勃起不全)有病者数調査2019」によれば、全国の20-79歳におけるEDの有病者数は軽度型で1,411万人、中程度で720万人、完全型で680万人と、中程度以上の患者数で約1,400万人います。

一方で、EDの治療・相談をしたことがある人は、そのうちの7.6%で、薬を服用したことがあるのは14.5%です。

2019年現在ではEDの治療法として薬があることは一定程度知られていますが、バイアグラが発売された頃には、ED治療薬というのは今ほど知られていませんでした。ファイザーはそこで、以下のように考えました。

全国の中程度以上のEDの有病者の5%が毎月4錠バイアグラを購入するようにすることを目標とする。バイアグラの正規品は50mg一錠で2,000円程度とする。

このような目標値を設定した時、市場規模は

1,400万人 x 5% x 4錠 x 12ヶ月  x 2,000円 = 670億円

になります。年間このくらいの売上が見込めるならば、100億円近い額を営業・マーケティングに使っても、十分以上に利益が出る計算になります。

そこで、ファイザーは「ED(勃起不全)は治る病気です。バイアグラという選択肢があります」と患者さんに大々的に、直接訴えることで市場を広げ、患者さんが直接お医者さんに薬をお願いするような流れを作ることで、売上を伸ばしました。

ファイザーは特許で保護されている期間に積極的にバイアグラを一般消費者向けに広告することで、各国で市場を広げ、バイアグラをブロックバスター(10億ドル以上の売上を持つ医薬品)まで押し上げました。

このような戦略を取るのは、その治療法について自社が独占している、あるいは圧倒的なシェアを持つ時に有効です。独占状態が続く限り、市場を拡大することがそのまま自社の売上拡大に繋がります。

一般的には、特許が切れてジェネリックが出る段階で、市場を広げても他のジェネリックメーカーが漁夫の利を得てしまうため、特許を持つメーカーは市場全体を拡大させる施策を止めます。

いかに扱ってもらう病院を増やすか(アクセスを増やす)

商品をある病院に取り扱ってもらえるようにするのは、アクセスの問題です。

国にもよりますが、大別して病院は政府が運営する公的病院と私立病院の二つに分かれます。

  • 公的病院:営利目的でない病院。予算の制約が政府によって決まる
  • 私立病院:営利目的の病院。予算の制約は病院のマネジメントにより決まる

公的病院のアクセスは国によりますが、国の販売承認とを得たらその病院に販売することができる場合もあれば、その州や地方の入札に参加しなければならない場合もあります。その場合、「入札で選ばれる」、というステップが必要になります。

現実には保険償還が得られていないと扱わない病院が多いため、①国からの販売承認、②保険償還(国または民間保険)、③入札(行われている国や地域であれば)、の2または3段階のステップが必要になります。

私立病院も同様で、国からの販売承認、保険償還がほぼ必須になります。

加えて、多くの私立病院は購買力を上げるために購買ネットワークであるGPO (Group Purchasing Organization)の一メンバーとなっており、多くの場合はGPOと交渉し、商品をGPOの購買リストに載せてもらう必要があります。

例えば、ある病気について、50%の患者さんが公的病院へ行き、50%の患者さんは5つある私立病院の病院グループのどこかに行くとします。

すると、その病気に対する商品の販売承認と保険償還を取得したとしても、それだけでは公的病院へのアクセスしかなく、半分の市場にしかアクセスすることができません。

私立病院までアクセスを広げるためには、個別に一つ一つの私立病院のネットワークと交渉し、市場を広げていくことが必要になります。

また、アクセスの問題は最終購買者である病院だけではありません。

流通業者が力を持っており、その病院に販売するためには特定の流通業者を利用しなければならない場合もあります。

例えば国によっては、「病院の経営者の親族が医療機器の流通業者を営んでおり、その病院にアクセスするためにはその流通業者を通さなければならない」、というのもよくある話です。

また、あるメーカーが一部の商品の分野でその流通業者をリベートなどで押さえてしまい、他のメーカーを入れなくして特定の病院を囲い込む、というようなこともあります。

病院へのアクセスをどう広げるか、は特に卸の構造が複雑な発展途上国でより重要な質問ですが、先進国についてもどの病院・保険へのアクセスがあるか、は重要です。

いかに扱ってくれる医師を増やすか

多くの国で、どの医薬品、医療機器を使うべきかという選択において、臨床面では医師が最も大きな影響力を持っています。

特に新しい商品を病院に導入する際には、所属する医師からの推薦や提案が必要なことが多く、その商品の効果・安全性を理解して勧めてくれる医師の存在が重要になります。

マーケティングの定石である購買の流れにのっとれば、商品について、知ってもらい、関心を持ってもらい、調べてもらい、試す・購入してもらい、その体験をシェアしてもらうことが必要になります。いわゆるAISAS(Attention, Interest, Search, Action, Share)の流れです。

  • 知ってもらう、関心を持ってもらうための施策:学会でのブース設置、講演会、営業訪問、デジタルマーケティング(ウェビナー、メール、論文雑誌や医療メディアへの広告など)、論文執筆を支援等
  • 調べてもらう:デジタルコンテンツ、教育コンテンツの充実化、SNSなどのプラットフォームの利用
  • 試す・購入してもらう:営業活動、販促支援、商品トレーニング等
  • シェアしてもらう:プロクターシップ(医師が医師へ技術指導すること)、講演会、SNS等

*マーケティングの購買行動のフレームワークについてより知りたい方は、「購買行動モデル (AIDMA/AISCEAS) | 人がモノやサービスを買う流れ」、をご覧ください。

どの領域でも一部の医師が大半の患者さんを診ていることが多く、必然的に「多くの患者さんを診る」または「影響力のある」医師にどれだけ商品が使われているかが重要になります。

多くの医薬品・医療機器の新製品の売上は導入からだんだんと増えていきます。

これは、導入の際にトレーニングや説明が必要なため、だんだんと扱ってくれるお医者さんが増えていくことが主な理由です。アクセスが広がり、扱ってくれる医師の数が増えていくことで、だんだん売上が増えていきます。

ここは医薬品・医療機器と一般消費財の売上との大きな違いです。

多くの一般消費財は新商品として出てから1年以内に売上がピークを迎え、それからだんだんと下がっていくケースが多いのに対し、医薬品・医療機器の場合、商品が市場に浸透するまでの速度が遅いため、競合が出てくるまでは右肩上がりなことが多いです。

いかに頻度を増やしてもらうか

ある商品を扱ってくれる医師の数を増やす活動に加え、その商品の使用頻度を上げてもらうための活動も必要になります。

「ある病気に対して、一つしか薬や医療機器がない」、という状況は希少疾患を除いては少なく、ほとんどの病気の場合、現状で複数の治療法が存在します。

医師はそれぞれの患者さんに応じて最適な医薬品・医療機器の使用を決定します。

この「最適な」の基準は主観的です。国や学会が特定の病気に対して「それぞれの治療法に対してどの程度エビデンスにより効果が認められているか」のガイドラインを出していますが、ガイドラインを踏まえてどのような判断をするか、は個々の医師に任されている国が多いです。

例えば、あるお医者さんは患者さんには治療法Aが最善だと考える一方で、違うお医者さんは治療法Bが最善だと考える、ということは一般的です。この「最適な」の判断には様々な要素が関係してきます

  • 医師自身の臨床経験・トレーニング経験
  • 学会のガイドライン
  • その医師が所属する病院やグループで権威のある・尊敬されている人の選択
  • 論文データ
  • 医療メーカーとの信頼関係

医療メーカーは、医師への商品の使い方のトレーニング、臨床データの積み重ねのサポート、などを通じて商品の良さを広めようとします。

医療マーケティングで重要なのはこの治験データ・論文であり、これらのデータをどう生み出すか、活用するか、は特に重要です。この点については別の記事でまた解説します。

投資家としての視点

これまでに書いてきたように、ある商品の売上については

  • ある疾患の中で、商品が属する治療法の占める割合はどの程度か
  • アクセスがあるか(承認を得ているか、公的・民間の保険償還を得ているか、GPOと契約できているか)
  • 扱っている病院・医師の数がどのくらいいるか
  • 商品の扱われている頻度はどの程度か

を見ることで評価できます。

また、その商品が臨床データで有効性・安全性が示されているか、他の治療法と比べても良い結果が出ているかどうか、どの病院・医師が論文を書いているか、を見ることでもその商品の競争力の強さを測ることができます。

次の記事では実際の企業を元に、これらの視点から見ていきます。

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

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ファイブフォース(5 forces)分析 | 解説と具体例

ファイブフォーシーズ(5 forces)分析はマイケルポーターが提唱した、業界を分析するフレームワークの一つです。業界の利益率に影響を与える5つの要素を分析し、その業界が魅力的なのかどうかを判断するのに使われます。

ファイブフォーシーズは下記の5つの要素から構成されています。

  • 企業同士の競争の激しさ (Rivalry among existing competitors)
    買い手の交渉力 (Bargaining power of buyers)
    売り手の交渉力(Bargaining power of suppliers)
    新規参入の脅威 (Threat of new entrants)
    代替品の脅威 (Threat of substituting products)

競争が激しくなく、買い手と売り手の交渉力が弱く、代替されにくく、新規参入されにくい、のであれば最高の業界です。コンビニの例をもとに、説明していきます。

競争の激しさ

競争が激しければ激しいほど、利益率は低下します。そして、競争の激しさは、下記のような場合により激しくなります。

  1. 競争する企業の数が多い
  2. シェアがばらけている
  3. 価格競争が価値パターンだという業界の認識がある
  4. 商品がコモディティである(商品間に差がないこと)
  5. 買い手が価格の変化に敏感である
  6. 顧客が移動しやすい(スイッチングコストが低い)

コンビニの例を見てみましょう。

コンビニは大手三社でシェア90%以上を占める寡占業界です(セブン、ファミリーマート、ローソンが大手3社。ミニストップが第4位)。大手3社は激しく競争しており、首都圏では200mおきにコンビニが1つあるような状態です。価格競争はお互いに避けており、賞味期限が近づいてきた商品であっても値引きは出来るだけ避けています。

セブンが商品開発力で頭一つ抜けていると言われますが、他2社も追いついてきており、扱っている商品も似通ってきています。また、お客さんが違うコンビニに行って買い物するときになんの障害もないため、お客さんも移りやすいと言えます。

特に商品の差別化が少なくなりつつあることと、大手3社の出店競争が激しいことから、競争環境としては厳しいと言えます。

買い手の交渉力

買い手の交渉力が高ければ高いほど、売る側としては値下げを飲まなければならない場面が増え、利益率が低くなります。買い手の交渉力は、下記のような場合により大きくなります。

  1. 買い手の数が少ない
  2. 一度の注文の量・額が大きい
  3. 代替品へ移りやすい
  4. 買い手が売り手の商品について正確な情報を持っている

コンビニの例では、買い手は私たちのような一般消費者となります。

お客さんは数が多く、一度の注文の量も多くなく、そもそも価格交渉をコンビニではしないので、買い手の交渉力としては弱いです。

代替品(スーパーマーケットなど)を選ぶことはできますが、コンビニの商品の豊富さと立地、24時間営業からくる利便性は多くのお客さんにとって、なかなか完全な代替が難しいです。

よって、買い手の交渉力は弱く、これはコンビニにとっては良い環境であると言えます。

売り手の交渉力

売り手の交渉力が高ければ高いほど、買い手としては高い価格で買わなければならず、利益率が低くなります。売り手の交渉力は下記のような場合に高くなります。

  1. 売り手の数が少ない
  2. 売り手の規模が大きい
  3. 売り手が買い手についての正確な情報を持っている
  4. 売り手の商品の代替が難しい

コンビニの例では、売り手はメーカーになります(飲料メーカー、お菓子メーカー、食品メーカーなど)。日本はメーカー大国でコンビニの棚を確保したいというメーカーが多い上、コンビニの規模と比べると小さいメーカーも多いため、売り手の数・規模からすると交渉力が低いです。

また、コンビニは今やプライベートブランドを幅広い商品で展開しているために、各製品を製造するといくらくらいかかるのかの情報を持っている上、メーカーに対してうちは代替品を用意できると主張できます。プライベートブランドの存在により、売り手の交渉力は低いです。

よって、大手三社に限れば、売り手の交渉力も弱く、良い環境であると言えます。

新規参入の脅威

業界に入りやすければ入りやすいほど、新規参入が増えて、競争が激しくなり、利益率が低くなります。新規参入の脅威は以下のような場合に高くなります。

  • 規制などがない、必要な設備投資の額が少ないなど、参入障壁が低い
  • 規模の経済がきかず、サイズが小さい事が不利益になりにくい
  • 買い手のブランドへの愛着が低く、新規参入の企業でもシェアを得やすい
  • ビジネスをするのに必要な流通にアクセスしやすい

コンビニの例を考えてみましょう。新しく企業がコンビニ事業に参入する場合、

  • 24時間体制の流通を始めとしたサプライチェーンの構築や店舗に大きな設備投資が必要
  • 規模が小さいため、供給業社への交渉力が弱く、仕入れ値が大手と比べて高くなる
  • 大手はプライベートブランドを多く扱っており、新規参入は商品面で劣りやすい
  • 良い場所についてはすでに大手3社が確保していることが多く、新規では良い場所を確保するのが難しい

以上の点から、新規参入のハードルが高いことがわかります。よって、新規参入してくる企業の脅威は低く、これは大手3社にとっては良い環境であると言えます。

代替品の脅威

商品が代替されやすければされるほど、代替品との競争にさらされて、利益率が低くなります。代替品の脅威は下記のような場合に高くなります。

  • 代替品の数が多い場合
  • 商品と代替品の差が少ない場合
  • 代替品の方が商品よりも相対的に安い場合
  • 買い手が代替品を選ぶのに障害が少ない場合

コンビニの例ですと、代替品としてはスーパーマーケットがあり、カフェとしてのコンビニの代替品としてはカフェが、食事を買う場所としてのコンビニの代替品としてはレストランやファーストフード店が、お金を下ろす場所としてはATMが代替品となります。

コンビニの一部の機能を代替するものは数多く存在しますが、「多様な商品とサービスを近くで、ワンストップで、買える」、というコンビニの機能は完全には代替されにくいです。よって、代替品の脅威はそこまで高くないと言えます。

ファイブフォース分析のまとめ

ファイブフォース分析は下記の5点から、業界の魅力度を評価します。

  • 企業同士の競争の激しさ (Rivalry among existing competitors)
  • 買い手の交渉力 (Bargaining power of buyers)
  • 売り手の交渉力(Bargaining power of suppliers)
  • 新規参入の脅威 (Threat of new entrants)
  • 代替品の脅威 (Threat of substituting products)

コンビニの例ですと、業界内では競争が激しいですが、買い手・売り手の交渉力は低く、コンビニが買い手、売り手の両方に対して強い交渉力を持っています。また、新規参入、代替品の脅威も低く、コンビニにとっては良い環境です。

よって、コンビニは大手3社に限って言えば、業界としては良い環境にあると言えます。

実際、コンビニの利益率はスーパーマーケットやデパートなど他の小売と比較しても高く、これは、業界自体が魅力的であるというファイブフォース分析と整合的です。

しかし、大手3社をみてみると、セブンイレブンが利益率で突出しています。つまり、業界だけが利益率を決めるのではなく、企業のとっている戦略が利益率に影響を与えるということです。次回は、より詳しく競争環境を分析する、3C分析のフレームワークについて、解説いたします。

次の記事 >> 3C/5C分析 | 競争環境を理解する | 解説と具体例

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ユーザーの感情に訴えるユーザビリティデザインの6つのポイント

ユーザビリティ設計はWebサービスやアプリを作る時に、最も大事な項目の一つです。他のサービスと比較してユーザビリティが悪いと、ユーザーはすぐに離脱・アンインストールしてしまいます。ユーザビリティは商品だけの話ではなく、プロモーションの一貫でキャンペーンサイトを作るときにも重要となります。

どうすればユーザーの満足度を高めて、継続的に使ってもらえるユーザビリティを実現できるでしょうか。感情に訴えて、ユーザーの利用頻度を高める6つのポイントを紹介いたします。

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1. 達成可能な小さな目標を与え続ける

人に行動を促したいなら、太刀打ちできない大きな目標ではなく、具体的でチャレンジしやすい小さな目標を与える方が有効なのだ。進歩している実感に励まさせれるし、ゴールラインが見えている方が前に進みやすい。

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 1677

人は目標を達成するのが好きで、目標を達成することに喜びを感じます。目標を達成したときに次の目標が見えていて、かつ少しの努力で達成可能だと感じれば、次の目標に向かう傾向があります。

この傾向を利用しているのが、多くのアプリの更新通知です。LINE、FacebookやTwitterのアイコンに表示される更新数、メールボックスの未読数は、「数字を0にする」という目標をユーザーに与えます。

数字を放置することもできますが、「未達成」のままにしておくことにユーザーは気持ち悪さを感じます。目標を達成するためには一定間隔でアプリを確認し続けないといけないため、結果的に利用頻度を増やすことに繋がっています。

異なる方法としては、定期的に進捗を伝えることを通じて、ユーザー自身に目標を設定させる例があります。

例えば、フィットビットなどのウェアラブルデバイスはユーザーがどのくらい運動したかを伝えます。人は見えるものを改善したがる傾向があるので、今日は15分走った、明日は15分以上走ろう、とユーザー自身が目標を設定するようになります。結果として、フィットビットは運動の実績を示すことで、継続してウェアラブルをつけて運動することを促しています。

2. ささいなことでもフィードバックを与える

子どもはボタンを押すのが大好きだ。しかもそれが光るボタンとなれば、是非とも全部押して確かめなくてはならない。人間には幼い頃から探究心があるが、実際に何かを調べて見るときは、目の前の環境からできるだけ即座に反応が返ってくることを望んでいる

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 2124

人は自分がした行動に対する反応(フィードバック)が返ってきたとき、喜びを感じます。さらに、脳科学的に、人は「予測可能な」報酬よりも「予測不可能なランダム性」のある報酬により喜びを感じるということがわかっています。そのため、ある程度のランダム性があるフィードバックが効果的です。

Twitterの例を見てみましょう。他のユーザーからのコメントや「いいね!」はフィードバックであり、かつどれくらいの反応があるかは予測できないため、予測不可能なランダム性のある報酬です。、投稿がTwitterやまとめサイトの中で話題になる、いわゆる「バズる」ことはさらにランダムな出来事で、大きな喜びを与えます。バズることは、ユーザーの承認欲求を満たし、ユーザーのサービスの利用を活発化させる効果があります。

ヒットしているソーシャルゲームやパチンコなどのギャンブルはこの設計が非常に巧みです。ガチャのランダム性と当たりの光と音の演出など、毎回毎回の操作に小さなフィードバックを入れることで、ユーザーを楽しませる仕組みがつまっています。

3. 進歩を実感させる

試験と、その試験をちょうどぎりぎりで克服する能力、その2つが組み合わさった貴重な状況で、人は強烈で持続的な幸福感を感じるのである

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 3110

人は進歩を実感しているとき、特に少しがんばって課題を解決できたときに、自己肯定感を感じ、心地よくなります。

例としては、航空会社のステータスプログラムがあります。航空会社のマイレージプログラムはブロンズ、プラチナ、ダイヤモンド、などどれくらい1年間の間にポイントを集めたかによってステータスが得られるようになっており、飛べば飛ぶほど高いステータスになるようになっています。

ANAマイレージプログラム

あるランクを達成したときにお祝いを送るなどすることで、次の目標を達成しようというモチベーションを与えることができます。

4. やめては勿体無いと思わせる

数分、もしくは数時間もどっぷり没頭してしまったなら、ラスボスが強いからと行って投げ出すなんて考えられない。せっかくがんばってきたのだから、ここで負けるわけには行かないのだ。喪失や敗北に対する拒否感に押されて、あと1回、あと1回と課金せずにはいられなくなる。

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 2749

人は時間や労力を費やした分だけ、これまで費やしてしまったものを途中でやめてしまうのは勿体無い、と感じます。そして、今まで費やしてしまった時間や労力を価値あるものとみなして、続けるようになります。

ほとんどのソーシャルゲームがこの仕組みを入れています。

初めて数分で「レベル」が上がり、その後も初めて数時間はレベルがすぐに上がりつつけてサクサク進み、ストレスを感じさせない作りになっています。一定以上進むと、スタミナが尽きたり、敵が強くなったりして、進めないようにする壁が出てくるのですが、その頃には時間も労力も費やしているので、やめるという選択肢を取りにくくなっています。

5. クリフハンガー(「引き」)を入れる

人間は完了した体験よりも、完了していない体験のほうに、強く心を奪われる。これが「ツァイガルニク効果」と呼ばれる現象だ

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 3396

人は「未解決」の状態を気持ち悪いと感じ、その状態を解決しようとする傾向があります。それを利用したのが、クリフハンガーと呼ばれる、結末を見せずに終了させる手法です。

この手法をうまく用いているのがNetflixのビデオ再生です。Netflixは自動で次の動画を再生するようにしているため、アメリカのドラマを見ていると一話一話の終わりに「引き」があるので、ユーザーを常に続きが気になる状態にさせ、サービスの利用時間を伸ばしています。

また、テレビCMで昔使われていた、CMを気になるところで切り、「続きはWEBで」と表示して終わるのも、クリフハンガーを利用した宣伝の例です。これもあえて結末を見せないことで視聴者を続きが気になる状態にさせ、より豊富な情報を見せやすいWEBへと導いています。

6. 社会的相互作用(帰属・承認欲求)を利用する

自分の格付けがみんなの格付けと一致していることが確認できるというのは、自分の集団帰属を確認する行為だ。仲間も物事を同じように見ているとわかって安心する。しかしこうした安心感は短期間しか続かないので、常に確認していなければならない。

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 3948

人はどこかに帰属を求め、帰属することで安心を感じ、承認を得ることで喜びを感じます。

Facebook、Instagramの「いいね!」は人のこの性質を利用した例です。投稿したとき、「いいね!」というフィードバックを他の人からもらえることでユーザーは承認欲求が満たされます。承認欲求が満たされたユーザーは、さらに多くの「いいね」をもらうことを求めてサービスの利用を増やすことに繋がっています。

また、ランキングを導入して、ユーザー間の競争を煽るのも社会相互作用を利用した例です。ユーザーは他のユーザーに負けたくないという気持ちから、利用を増やして、それがコミュニティの活性化に繋がることもあります(一方、「負ける」ことでやる気を失うユーザーもいるため、ランキングはもろ刃の剣になり得ます)。

ユーザビリティデザインの6つのポイント

まとめると、ユーザビリティデザインでユーザーの利用頻度を高める6つのポイントは、下記のようになります。

  • 達成可能な小さな目標を与え続ける
  • ささいなことにもフィードバックを与える
  • 進歩を実感させる
  • 今やめては勿体無いと思わせる
  • 「引き」を入れる
  • 社会的相互作用(帰属・承認欲求)を入れる

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セグメンテーション | なぜ必要か、どうやって行うかを具体例付きで解説

マーケティングにおけるセグメンテーション(市場細分化)とはお客さんをある軸で分類して、「誰に」商品を提供するのかを決めるためのプロセスです。

この記事では、そもそもどうしてセグメンテーションが必要なのか、セグメンテーションはどう作ればいいのか、を具体例とともに説明をしていきます。

なぜセグメンテーションが必要なのか

セグメンテーションが必要な理由は2つです。

  • 人により異なる好み・価値観を持っていること
  • 世の中に商品やサービスが溢れすぎて、特定のニーズに訴求しない商品では選ばれにくくなっていること

お客さんは一人一人によって求めるものが違うため、ある特定の欲求をもつ人に対して魅力あるものが、他の人に対しても魅力があるとは限りません。

例えば、スターバックスですごく甘いフラペチーノが好きな人もいれば、甘くないブラックコーヒーが好きな人もいるでしょう。この2人は異なる好みを持っています。フラペチーノとコーヒーを足して2で割ったような商品ではどちらのお客さんも満足させることができず、満足してもらうためには違う商品が必要になります。

また、現在はモノ・サービスの選択肢が過剰なほどある世の中のため、お客さんに選んでもらうためには、焦点を絞った訴求をする必要性が高まっています。

ある商品が1種類しかなければお客さんはそれを選ぶしかありませんが、ほとんどの商品の場合、お客さんは違うブランドの製品や代替品を見つけることができます。そのような場合、よりお客さんのニーズに直接訴えることができなければ、手にとってもらうことすらできません。

具体例として、ドラッグストアでのシャンプーのコーナーをみてみましょう。シャンプーだけでも10種類以上あり、「ダメージヘアに悩む方に」、「地肌をケアしたい方に」、「ふんわり弾力を出したい方に」、「敏感肌の方に」、と棚では「こんなお客さんにうちの製品を」とうたっています。

こんな棚に、「うちの商品はみんなにとって魅力的です」という商品を置いても、ダメージヘアで悩む方はダーメージヘア用のシャンプーを手に取るでしょうし、敏感肌で悩む方は「敏感肌の方に」というシャンプーを手に取る可能性が高くなります。

つまり、「みんなを狙う」というのは、誰も狙っていないのと同じなのです。結果として、特定のお客さんを狙った商品に競争で負けたり、お客さんの隠れたニーズに気づけていないことになります。

よりお客さんに寄り添った訴求をするために、セグメンテーションが必要となります。

セグメンテーションの作り方

セグメンテーションを考えるのにわかりすく、かつ実務上もよく使われるのは2つの軸を選ぶことです。

例えば、年齢と性別という軸を取ってみると

  • 18歳未満の男性
  • 18歳未満の女性
  • 18歳-64歳の男性
  • 18歳-64歳の女性
  • 65歳以降の男性
  • 65歳以降の女性

というように、分けられます。これだけでもセグメンテーションの一つの例です。18歳未満の大半は学生、18-65歳は大学または勤労、65歳以降は老後、と多く点で異なるニーズを持っていることが想像できるのではないでしょうか。

セグメンテーションは大きく分けると下記の4種類の軸を使って作ることができます。

  • 人口統計的属性(年齢、性別、世帯規模、職業、所得など)
  • 地理的変数(都市・地方、オフィス街・住宅街)
  • 心理的変数(好み、価値観、ライフスタイル)
  • 行動変数(購買頻度、有無、購買プロセスなど)

人口統計的属性

いわゆる年齢、性別、世帯規模、職業、所得などです。わかりやすく、今でもよく使われる軸です。先ほどの年齢、性別でのセグメンテーションも一つの例でして、街でも多くの事例を見つけることができます。

例えば、映画館のTOHOシネマズでは、一般の1900円の入場料の他に、大学生・高校生・中・小学生、と一般より低い料金を持っています。また、60歳以上はシニア割引ということで1,200円で、レディースデイは女性のみ1,200円です。

マーケティングの観点からは、TOHOシネマズが年齢、性別を用いたセグメンテーションを行なっていることがみて取れます。

地理的変数

どの国、都市、市町村に住んでいるのか、などです。特に国が異なれば好み・価値観が異なることが多く、ある国でうまくいくセグメンテーションが他の国ではうまくいかない、ということは特に消費財の世界では往々にしてあります。

インターネットが発達して情報が入手しやすくなったこと、通販を利用して居住地に関わらず商品を購入できるようになったことから、都市や市町村といった区切りでセグメンテーションする機会は減少してきているかもしれません。

心理的変数

好み、価値観、ライフスタイルなどの感情的な変数です。機能的な価値で差別化がしにくくなり、より感情的な価値に訴えることが重要になってきたため、心理的変数を用いてのセグメンテーションは消費者を相手にするB2Cマーケティング(Business to Consumers)ではよく使われます。

カメラの具体例でいえば、「最高の高画質で写真を撮って残したい、というプロ志向の強い人と、「気軽に撮ってシェアしやすいことが重要」、という人では求める商品が異なります。前者は一眼レフやミラーレスカメラのお客さんとなり得ますが、後者の多くはスマートフォンで満足でしょう。

行動変数

購買の頻度や有無、購買プロセスなどの購買行動に関わる変数です。売り上げを計画するのによく使われる軸でもあります。

例えば、観光庁が2018年に出した2017年の「訪日外国人の旅行者の訪日回数と消費動向の分析について」では初めて日本を訪れる人とリピーターの割合は約4:6でリピーターの方が多いと述べています。これは「新規のお客さんか、それとも既存のお客さんか」という一つの軸です。

また、同報告書では日本滞在中にそれぞれの国の観光客がどのように行動したか、も分析しています。ショッピング、観光・体験、食事、などどの行動を重点的に行なったか、を軸にしても行動変数でセグメンテーションすることができます。

セグメンテーションの具体例:携帯電話の通話プラン

商品を見ることによって、どのようにセグメンテーションが行われているかを推測することができます。身近な携帯電話の通話プランで見てみましょう。

携帯電話の大手3社のプラン(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)を見てみると、2019年9月14日現在、料金体系は以下の4種類になっています

  • スマホ向けデータ大容量プラン(ギガホ、auデータMaxプラン、データプラン50GB+):定額でデータ通信を30GB以上利用できるプラン
  • スマホ向けデータ従量課金プラン(ギガライト、auピタットプラン、データプランミニ):データ通信の量によって料金が変わるプラン
  • スマホ向け特定のサービスとの組み合わせ(auフラットプラン25 Netflixパック、auフラットワン7プラス):Netflix、Twitter、Instagramなど特定のサービスをデータ使用量から免除したプラン
  • フィーチャーフォン向け料金プラン

このプランをみる限り、大手三社はセグメンテーションの軸として1. データを使う量2. スマホかフィーチャーフォンか、の2軸の行動変数を用いて、それぞれのお客さんに向けた料金プランを出していることがわかります。

また、各社ともに割引では違うセグメントの切り方をしています。割引では、家族割、学割、他のサービスとのセット割(ドコモ光セット割、auスマートバリューなど)、継続割引、スマホへの移行割引、などがあります。

これは、お客さんを1. 世帯数(家族がいるかどうか)2. 学生かどうかという人口統計的属性に加えたセグメント、3. 他のグループ会社のサービスを利用しているか4. 自社のサービスをどれだけ長く使ってくれているかという行動変数を用いたセグメントを用いていると推測されます。

この携帯電話のデータプラン例のように、セグメンテーションの方法は一つではありません。複数の切り口からマーケティングの打ち手を考えていくことが重要です。

次のステップ

セグメンテーションでお客さんを分類することができました。次のステップは、「どのお客さんを狙うか」を決める「ターゲティング」です。ターゲティングはなぜ行う必要があり、どうやって行えば良いのか、そして具体例はどのようなものがあるのでしょうか。

次の記事ではターゲティングについて説明します。

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意思決定単位 (DMU) – 企業向けにモノやサービスをどう売るか

前回の「基礎からのマーケティング-購買行動モデル」では、お客さんが商品・サービスを購入するまでのプロセスを説明しました。小売店で販売されている飲料など、その場ですぐに意思決定がされる場合にはこの購買行動モデルがよく当てはまります。

一方、企業向けの商品・サービスの場合は、複数の人が購買のプロセスに関わってきて、購買のプロセスも長くなります。今回は、複数の人が意思決定に関わってくる場合に重要な意思決定単位という考え方について説明します。

意思決定単位(Decision Making Unit – DMU)

意思決定単位 (Decision Making Unit – DMU)とは意思決定をする人、または意思決定に関わる人たちをひとまとめにした考え方です。DMUは顧客の意思決定がどのように行われるのかを理解し、顧客の意思決定プロセスに効果的にはたらきかけるために使われます。

どうしてこの意思決定単位の考え方が重要かというと、複数の人が購入に影響を及ぼすためです。意思決定単位の中には、下記のような種類の人が存在します。

  • 窓口 (Gatekeeper):外との窓口になる人
  • 購買人 (Buyer): 価格などの条件の交渉相手となる人
  • ユーザー (User): 実際に商品・サービスを利用する人
  • 起案者 (Initiator): 内部で提案を起案する人
  • 影響者 (Influencer):意思決定者の選択に影響を与える人
  • 意思決定者 (Decision Maker):最終的に購入を決定する人

モノやサービスを販売する際に、意思決定単位はの考え方は誰がどのような役割を持っているのかを判断するのに役立ちます。

DMUの具体例:仮想的なケーススタディ

Aさんは外資系パソコンメーカーB社の法人営業部に務める営業です。Aさんの会社は会社用のパソコンを中堅自動車部品会社C社へ売りたいと思っており、C社のお問い合わせ窓口に打ち合わせ依頼の問い合わせを入れました。

Aさんは、C社のカスタマーサポートから、「関係する部署に連絡し、その部署より連絡させていただきます」という返答がきました。カスタマーサポートはAさんからの問い合わせを購買部署に繋ぎました(カスタマーサポート=窓口の役割)。

購買の担当者であるDさんは、ちょうど今年の予算を使ってエンジニア向けのパソコンを買う提案をしようと考えていたため、Aさんからの打ち合わせ依頼をみて、Aさんに打ち合わせを承諾するメールを送りました(購買担当=起案者の役割)

打ち合わせの前に、購買担当は要求される仕様を確かめるため、エンジニアにどの程度のパソコンの性能が要求されるか、何が重要か、などをインタビューしました。複数のエンジニアが、開発に必要なソフトウェアがサクサクと動くことや、外出先でも働きやすいような軽量のノートパソコンが欲しいことを伝えました(エンジニア=ユーザーの役割)

購買担当がIT部門に話を聞いてみると、セキュリティがとても重要で、B社よりもE社のパソコンの方がセキュリティ的にいいのではないかと言っています。それを聞き、購買担当のDさんはE社からも相見積もりを取ることにしました(IT部門=影響者の役割)。

Aさんと購買担当Dさんは打ち合わせを行い、Dさんは予算内におさまるよう、希望する価格についてもAさんに伝えました。Aさんはどうしてもこの案件を取りたかったため、Dさんから聞いた要求仕様、価格を元に提案書を作り、Aさんの上司を説得して、かなり値引きをした提案をDさんへ送りました。

C社では毎月一度、部長クラスの偉い人が集まり、意思決定をする場があります。DさんはAさんからの見積もりとE社からの見積もりの両方を含めたパソコンの購入についてプレゼンテーションし、決裁を求めました。討議の末、事業部長が選んだのはAさんからの提案ではなく、なんとE社の提案でした。理由は、多少の価格差よりもセキュリティがより安心できる方が重要だと事業部長が判断したためです(事業部長=意思決定者の役割)。

提案が通らなかったことをDさんから聞いたAさんはがっかりし、どう上司に説明しようかと途方にくれるのでした。

DMUの使い方

上のケーススタディでは、Aさんは残念ながらC社の意思決定のプロセスや意思決定に影響を与える人を十分に理解できていなかったため、契約を得ることができませんでした。

もしAさんがDMUの考え方を知っていたならば、どうアプローチが変わっていたでしょうか? 

意思決定者は誰なのか、どのようなプロセスで決まるのか、事業部長が何を重視しているのか、意思決定に影響を与える人が何を重視しているのか、などの質問を購買担当者のDさんにすることはできたでしょう。また、より良い提案を行うために、とユーザーやIT部門の人とのミーティングを依頼することもできたかもしれません。

これらを行うことにより、意思決定者が価格よりもセキュリティを重視していることを知ったのであれば、提案書にはセキュリティを強化するパッケージを追加するなど、対応策が取れた可能性があります。

このように、意思決定に関係する人がどんな利害を持っていて、どの人を動かせばどのように意思決定に影響を与えられるのか、を理解することによって、特に企業向けビジネスの世界では勝率を大きくあげることができます。また、家族向けでも車や家は家族ぐるみでの意思決定となることが多いため、DMUの考え方はお客さんの意思決定のプロセスを理解するのに役立ちます。

顧客理解の次のステップ

今回までの3回で、お客さんへの理解を深める考え方を紹介してきました(「お客さんが欲しいと思う5つのこと」、「購買行動モデル(AIDMA/AICEAS)」、「意思決定単位(Decision Making Unit)」)。お客さんを理解したら、次はどのお客さんを狙うか、です。

次回はマーケティングの基本となるセグメンテーションについて説明します。

>>次の記事 セグメンテーション | なぜ必要か、どうやって行うかを具体例付きで解説

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購買行動モデル (AIDMA/AISCEAS) | 人がモノやサービスを買う流れ

前回の「お客さんの5つのニーズをおさえる」では人の5つの欲求について説明しました。人は欲求を感じても、すぐに行動するわけではありません。モノやサービスを買ってもらうためには、お客さんの購入までの流れを理解し、適切な働きかけをする必要があります。

今回は、人がモノやサービスを購入するまでのプロセスを理解する上で役立つ考え方について説明したいと思います。

古典的な購買行動モデル – AIDMA

人がある商品を購入するまでのプロセスについて有名なものとして、AIDMAという購買行動モデルがあります。AIDMAはAttention, Interest, Desire, Memory, Actionの頭文字をとってつくった造語です。

  • Attention(注意):そのモノ・サービスの存在を知る
  • Interest (興味):興味をもつ
  • Desire (欲求):欲しいと思う
  • Memory (記憶):記憶する
  • Action (行動):購入する

AIDMAの具体例

日清の「日清カレーメシ」(お湯を入れて作るカレー味のインスタント食品)を例に、人が商品を買うまでの流れがどのようにAIDMAで整理されるかをみてみましょう。

今は日曜の夜。会社員のAさんがテレビをみていると、CMでカレーメシの広告が流れてきました。CMは一味違って面白く、Aさんはカレーメシという商品があることを知りました(Attention)

Aさんが寝る前にベッドで転がりながら携帯でネットサーフィンをしていると、カレーメシの違う広告が表示されました。Aさんはテレビでも違う広告を見ていたため、カレーメシって何だろう、と興味を持ちました(Interest)。

翌日のお昼、Aさんがお茶を入れに給湯室へ行くと、同僚が給湯室の前でカレーメシを食べていました。お腹が空いていましたし、同僚が食べている姿を見たことで、Aさんも試してみたいと感じました(Desire)。

Aさんが同僚にそれ美味しい?と聞いてみると、美味しいよ、という答えがかえってきました。Aさんは今度試してみようと思い、パッケージを見て覚えました(Memory)。

Aさんが仕事終わりにコンビニに飲み物を買いに行ったとき、カレーメシが目線の高さに陳列されていました。そういえばお昼に試してみようと思ったな、とAさんは商品を手に取り、レジに持っていきました(Action)。

上記のように、人がある商品を購入するまでには、商品の存在を知り、興味を持ち、欲しいと思い、そして行動するというプロセスがあり、AIDMAはそのプロセスを整理するのに役立ちます。

新しい購買行動モデル(AISCEAS)

AIDMAは依然として有用な考え方ですが、テクノロジーの進化と共に人の購買パターンもかわってきました。特に、スマートフォンの普及により、検索(Search)、比較 (Comparison)がしやすくなりました。また、レビューサイトやSNSの普及により、個人が意見を発信しやすくなった上に、他の個人からの影響も大きくなってきています。言い換えれば、共有(Share)の影響が大きくなってきています。

これらの購買動向の変化を反映して、AIDMAを拡張したのがAISCEAS (Attention, Interest, Search, Comparison, Examination, Action, Share)という購買モデルです。

  • Attention (注意):あるモノ・サービスを知る
  • Interest (興味):興味をもつ
  • Search (検索):検索する
  • Comparison (比較):比較する
  • Examination (検討):検討する
  • Action (行動):行動する
  • Share (共有):共有する

特に、電化製品や旅行など大きな買い物の場合、よく調べて、比較して買う人が多いため、AISCEASのフレームワークの方がAIDMAより有用かと思います。

購買行動モデルの限界

購買行動モデルはコミュニケーションの計画をするときに役立ちます。

ただ、このモデルは一人が意思決定をすることを暗黙に想定しているため、複数人の意見が意思決定に影響する場合を考えるためには、違うモデルが必要となります。

企業の意思決定は、ほとんどの場合、複数の関係者の意見が反映されて決定されます。また、家庭においても、例えば夫婦でテレビを買う場合など、一人の意見だけでなく、複数人の意見を擦り合わせて何を買うか決める家庭も多いかと思います。このような場合は、購買行動だけでなく、お客さんの意思決定の仕組みを理解する必要があります。

次回は購買の意思決定に影響を与える、意思決定の仕組み(Decision Making Unit)について説明したいと思います。

>>次の記事 意思決定単位 (DMU) – 企業向けにモノやサービスをどう売るか

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ニーズ | お客さんがあなたの商品を買う5つの理由

ゼロからはじめるマーケティング」第一回目です。僕が仕事を始めた時に知りたかった、マーケティングの考え方と流れについて、書いていきたいと思います。以下のような方に役立つ記事にしたいと思います

  • マーケティングという言葉には興味はあるが、過去にマーケティングについて学んだことのない社会人
  • 商品企画・マーケティング・戦略部門への就職を目指す大学生

この記事は、お客さんが商品を買う5つの理由(ニーズ)について説明します。

マーケティングの第一歩

マーケティング活動で最も大事なことは、お客さんを理解することです。誰かにモノやサービスを購入してもらうためには、それがその人の欲しいと思うものでなければなりません。

では、人はどのような時に「欲しい」と思うのでしょうか。人がモノ・サービスに求めるものは大きく分けて5つです。まずは身近なファッション業界(服)を例にとって、見ていきましょう。

機能的な欲求

人は何かを実現するのに必要な機能を提供してくれるモノ・サービスを欲しいと思います。

ファッションでいえば、主な機能の一つは、「熱を逃さず体を暖かくすること」です。冬になれば寒くなって一枚多く服を着たりしますよね。服の一枚一枚が体を覆い、体温を逃さないようにしてくれるため、服を着れば着るほど暖かくなります。

ただ、重ね着をして何枚も服を着るのは洗濯も大変になりますし、面倒くさいですよね。重ね着の着膨れしている姿が嫌だという人もいるかもしれません。一枚で暖かいというのは、それだけで価値があります。

この「熱を逃さず体を暖かくする」という機能を高めてヒットした例として、UNIQLOのヒートテックがあります。ヒートテックは化学繊維の仕組みを利用して汗を熱に変え、暖かさを保つようになっています。ヒートテックは、「暖かい服が欲しい」という機能的な欲求にうまく応えています。

経済的な欲求

人は、得をすることが好きですし、損することが嫌いです。

「この服を着てみたいけれど、一回しか着ないのに高すぎる」という場合、高いお金を支払って買うのは少し気が引けますよね。羽織袴、七五三の時の衣装などは特定の記念日でしか使われないために、購入すると一度あたりの価格は結構高いものになります。安くすませられるならば、すませたいですよね。

この「得したい、損したくない」という欲求に応えてヒットしているサービスとして、衣装のレンタルのサービスがあります。オンラインのレンタルではアメリカの「Rent the Runway」などが有名です。Rent the Runwayはパーティに着ていくハイブランドの服を中心としたオンラインでのレンタルのサービスで、数回しか着ないような服をレンタルで購入するより安く利用できる、という価値により、得したいという欲求に応えています。

また、単純に「価格に対して品質が高い」という商品もこの欲求に応えています。UNIQLO、しまむらのように企画から販売まで一気通貫で行なっている(SPAと呼ばれる形態の)ブランドがこの欲求に当てはまるかと思います。

経験的な欲求

人は、楽しみたい、心地よくなりたい、楽をしたい、という欲求を持っています。

例えば、服でいえば、ウェディングドレスが「こんな服を着て結婚式をあげたい」という経験を求める欲求に応えていますし、コスプレやハロウィンで仮装して楽しむ用の服というのも経験的な欲求に応えています。

社会的な欲求

人は社会的な生き物ですので、社会に帰属していたい、社会の中で認められたい、という欲求があります。服の例でいえば、「格好良く見せたい」、「可愛い、綺麗だと思ってもらいたい」という欲求です。

いわゆる「ハイブランド」と呼ばれるファッションはこのニーズに応えているものが多いです。ノンブランド品よりもデザインや素材にこだわり、個性を主張し、着ている人がこだわりを持っていることを伝えるような服になっています。

服がどのように人の印象を変えるかについては、「プラダのバッグを着た悪魔」というアン・ハサウェイ主演の映画がいい教材です。この作品のアン・ハサウェイは場面場面によりファッションブランドを切り替えており、ガラリと印象を変えています。

自己実現・自己満足的な欲求

人は「これを成し遂げたい」、「このような自分でありたい」という欲求を持っています。

この欲求に応えるのは、業態やブランドのメッセージであることが多いです。例えば、「大量消費・大量廃棄はもうやめて、モノを大切に扱い地球に優しくあるべきだ」というような考え方をする人は、新品をお店で買うよりもメルカリや古着屋で中古品を購入したり、あるいは地球環境への影響を真剣に考えているブランドから買おうと思うでしょう。

一つの商品が複数の欲求に訴求することはできる

一つの商品が機能的、経済的、経験的、社会的、自己実現・自己満足的の5つの欲求の複数に当てはまることはありますし、優れた商品は複数の欲求に訴求していることが多いです。

例えば、スターバックスでは

  • トレーニングを受けたバリスタが手間をかけて入れてくれる、美味しいコーヒー(機能的価値)
  • 自宅、職場以外にゆったりと安らげる第三の場所(経験的価値)
  • おしゃれな人、できるビジネスパーソンが集まる場所というイメージ(社会的価値)
  • 利益のみならず社会的責任を重視するというブランドの姿勢(フェアトレード、従業員への分配など)(自己満足的)

のように複数の欲求に訴求しています。

あなたの商品は、お客さんのどの欲求に訴えているでしょうか?

次の質問は、人は欲求を感じたらすぐに行動するのでしょうか? です。その質問の回答は、次の記事の購買行動モデルで解説します。

>>次の記事「基礎からのマーケティング-購買行動モデル

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