赤字のボーイングは投資対象として魅力的か: 決算・株価の分析

主力小型機の737 MAXが2度の墜落事故を起こし、737 MAXの生産中止に追い込まれてから株価が$400越えから$320程度まで下落し、低迷しているボーイング。この株価の下落は投資をする良い機会でしょうか? 

今回はボーイングの決算と製品の観点から、分析してみたいと思います。

前の記事の航空機業界分析はこちら:

ボーイングは投資対象として魅力的か(1): 航空機業界の分析

2019年度決算

今週発表されたボーイングの決算。一言でいうと、ボロボロです。22年ぶりの通期赤字。特に直近の四半期の売上は37%減と、主力の737MAXの生産が止まった影響がもろに出ています。

通期の売上は768億ドル (約8兆4000億円)で、利益は20億ドル(2200億円)の赤字です。

赤字ですと気になるのはキャッシュが回っているかですが、案の定キャッシュも出て行っています。通期で43億ドル (4700億円)のキャッシュが流出しました。

キャッシュを捻出するため、借り入れ額が26億ドル増加し、現金・現金相当の証券も9億ドル減少しています。つまり、財務的には悪化しているということです。

民間航空機部門

民間航空機部門は2019年通期で67億ドルの赤字。直近の四半期だけでも28億ドルの赤字です。

全ての元凶は、売上高の半分以上を占める民間航空機部門の、その中でも半分以上の売上を占める小型機のボーイング737MAXが2度の墜落事故の後にFAA(米国の認証機関)からの許可が出るまで生産中止となり、FAAからの認証を得るのに時間がかかっているためです。

2018年には580機販売した737が2019年には127機まで減少しています。そのため、通年で納入した機体の数も806から380まで減少しています。863機を納入したエアバスからは大きく離されている状況です。

In addition, the suspension of 737 MAX production and a gradual resumption of production at low production rates will result in approximately $4 billion of abnormal production costs that will be expensed as incurred, primarily in 2020.

Boeing Reports Fourth-Quarter Results

加えてさらっと注意書きに書いていますが、「生産を始められたとしても生産開始のコストとして40億ドルかかるよ」、と書いています。つまり、仮に今年中に737MAXの生産が開始できたとしても、その分だけ2020年の利益は押し下げられます。

受注残は5,400機、3770億ドル相当(41兆円)ありますが、生産遅れが長引けば長引くほど航空会社に支払わなければならない金額が増え、かつ生産開始コストが上がるため、737MAXの認証が取れるまでは安心ができません。

防衛・宇宙・安全保障

防衛・宇宙・安全保障部門の売上、利益共に第4四半期は大きく減少しました。通年では前年度同程度の売上を確保し、利益は26億ドル稼いでいます。民間航空機部門が不調な中、現在の稼ぎ頭です。

ただし、軍事・宇宙・安全保障事業は政府からの受注の割合が大きいため、政府の入札案件が取れるかどうかによって業績のブレが大きいです。

アメリカの財政赤字はかなり拡大しており、民主党が政権をとった場合には軍事支出を削って医療などに財源を回す可能性が高いため、政治リスクに注意が必要です。

サービス部門

サービス部門の売上も民間機の納入数が落ちた影響で下がっています。2019年通期では売上、利益が8%、6%成長しています。ボーイングはサービスを伸ばすことに注力しており、今後利益の稼ぎ頭に今後なっていく可能性はあります。

2020年以降のボーイング製品の見通し

2019年はボーイング多難の年でした。

2020年以降には、絶好調であった2018年の水準に戻ると仮定します。2018年の納入数と受注数は下記のようになります。

ボーイング (18年、機)      
機種 座席数 納入 受注
747 410 6 18
777 317-425 48 51
787 242-330 145 109
767 192-297 27 40
737 126-230 580 675
合計   806 893

ご覧のように、小型機である737の受注数・納入数が最も多く、半分以上を占めます。次の主力が中型機の787。大型機の747、777と中型機の767の受注・納入数はさほど多くありません。

一方、ライバルであるエアバスを見てみますと、こちらも小型機のA320、A220シリーズが最も売れ筋です。次に大型のA350が続きます。

エアバスは超大型機のA380を導入しましたが、ここまで大型の機体を導入して採算を取ろうとする航空会社が限られ、A380は受注に苦戦しています。

エアバス(18年、機)      
機種 座席数 納入 受注
A380 575-853 12 4
A350 325-440 93 40
A330 257-440 49 27
A320 140-244 626 541
A220 116-160 20 135
合計   800 747

つまり、ボーイングにとっては自社の売上台数の半分以上を占め、かつA320対抗である737MAXの生産開始が最も重要で、次に787の受注数を増やすことが重要になります。

また、777の市場である大型機市場がA350に食われているため、A350対抗の後継機が必要となります。

ボーイングの受注残は5,400機 で3770億ドル(41兆円)分。一方エアバスは受注残が7,482機とどんどん離されています。

航空機は一度パイロットがその機体に慣れると、同じメーカーの後継機を購入した方が保守運用やトレーニング費用が抑えられるというメリットがあるため、納入数が多いと買い替えタイミングの際にそのメーカーが有利になります。

つまり今はエアバスからすると格好の攻め時であり、特にA320の生産台数を一気に増やしています。

737 MAX(小型機)

ボーイングの未来は737MAXにかかっている、と言っても過言ではありません。

経営陣は737MAXの認証取得を2020年中頃までと言っていますが、問題が次々と出てきている737MAXですし、加えてパイロットのトレーニングの必要が新たに生じたため、実際に737MAXが納入されて飛ぶのは2020年の中頃以降になる見込みです。

また、納入が遅れれば遅れるほど、航空会社への遅れの損失の対価として値引きを強いられ、利益率が悪化します。

2019年の第四半期には26億ドルの引当金を航空会社への補償として当てましたが、予定よりも認証取得が遅れれば遅れるほど、この額は膨らんでいきます。

787(中型機)

737の生産が止まった現在の主力は中型機の787です。エアバスA330が競合。2019年も380機中の40%以上にあたる158機は787です。価格は$110m-$115m (約120億円-130億円)

しかし、受注が思うように伸びていません。ボーイングは2020年後半から現在の14機/月から12機/月に生産を減らし、2021年には10機/月まで減らす予定です。

年間に直すと、月あたり4機、年48機の納入が減れば、年5,000億円の売上減のインパクトになります。

ボーイングは会計上、かかった研究開発費用を生産予定数で割っているので、生産予定数が減ることは1機体あたりのコストが上がることを意味し、利益率の低下に繋がります。

787はまだ開発コストを回収できていないため、減産しなければならない状況はボーイングにとってかなり予想外だったのではないかと思います。

777X (大型機)

ボーイングの新型の大型機 (384-426)で、777の後継機、エアバスの A350への対抗機になります。

ボーイングの737MAX関連でFAAがボーイングに向ける視線が厳しくなったこと、GEのエンジンのトラブルがあり開発が遅れ、2021年に納入予定です。

特徴はカーボンを用いた翼で、軽量化により競合に比べて10%燃料効率が良いこと。

2020年1月時点での受注残は8航空会社から340機 (ANA, BA, Cathay, Emirates, Etihad, Lufthansa, Qatar, Singapore Airlines)です。受注で言えば年120機体生産前提で、すでに3年分くらいはあります。こちらは、エアバスのA350からシェアをどれだけ奪えるかが勝負になります。

NMA (New Midsize Airplane)

新型の中型機 (220-270人乗り)のプロジェクトが計画されていましたが、737 MAXの問題で社内はそれどころではない、ということで新社長はプロジェクトの先送りを計画しているようです (Reuterより)

しかし、この中型機はエアバスの最大ヒット機体であるA320 neoシリーズ対抗であるため、この機体の開発を遅らせることは、エアバスにさらに小型機市場で地盤固めを許す期間が長くなります。

ボーイングの製品まとめ

  • 主力の737 MAXがいつ生産開始できるかでボーイングの運命が決まる。しかし、仮に生産が開始されても、納入が遅れたことによる航空会社への補償金、生産見込み台数が減少したことによる1台あたりの利益率の減少、があるために利益率が回復するのに時間がかかる見込み
  • 787の減産は5,000億円近くの売上減リスク
  • 777Xには期待が持てるが、737MAXの穴を埋められる存在ではない
  • NMAの開発を遅らせることは、エアバスが有利な期間を長くするために、長期的に見るとマイナス

ボーイング株価

Boeing Stock Price (3月17日)

ボーイングの株価は急落しています。いくつかの要因があります。

最も大きいのはボーイングが潰れるのではないかという不安です。ボーイングが金融機関から$13.8b (1500億円)の融資の枠を全て引き出した上、政府に$60b (約6600億円)の支援を求めたことです(ローン保証など)。

ボーイングはもともと自社株買いでの株主還元に力を注いでおり、余剰の資本を持たない状態で企業運営をしていました(資本がマイナスです)。また、737MAXが販売できていない状態では、常にキャッシュに悩まされる状態にありました。

Boeing Balance Sheet 2019Q4

加えて、ボーイングの資産の大部分は737MAXのいわゆる「在庫」です。認証が得られないと販売できないため、この在庫はキャッシュになりません。

また、保有しているキャッシュも2019年末で$9.5bと短期でサプライヤーなどに返却しなければならない資金よりも少ない状態でした。

Boeing asset 2019Q4

737MAXについては、問題が次々と見つかり、認証が夏頃に出るかどうかが不透明になっています。さらなる認証の遅れはさらなるキャッシュの流出に繋がり、追加の支援が必要な状態にありました。

このキャッシュが継続的に流出していること、余剰のキャッシュがほとんどないこと、737MAXを発売して在庫をキャッシュにかえることできる時期が不透明なこと、を問題視したS&PがボーイングのクレジットレーティングをBBB(投機的水準の一歩手前です)まで落としました。

このダウングレードとボーイングが政府支援を求めていることが、投資家がボーイングは倒産するのではないかという恐怖を呼び、株価の大幅な下落に繋がりました。

また、仮につなぎ融資でしのげて、認証が出ても、現在はCovid-19(コロナウイルス)対策のために顧客である航空会社は多くの路線の運行を減便または停止して、政府支援がなければ破綻寸前の状態にあります。

今後の旅行業界の行方によってはキャンセルが相次ぐ可能性があることもネガティブな要素です。

航空機業界はエアバスとボーイングの2強のため、ボーイングが737MAXの生産を始めることができれば、在庫となっている機体を一気に納入することができ、キャッシュの問題が解決し、大きな売上と利益を計上できる可能性があります。

しかしながら、たとえ737MAXの生産を開始することができたとしても、一度生産を止めてしまったラインを稼働するコスト、補償金のための値引き、のために利益率が悪化していることと、生産台数を増やすまでに時間がかかり、中期的な利益率の押し下げに繋がります。

また、現在積み重ねている借金は将来の利払いを増加させ、将来の利益を押し下げます。

ボーイングが2018年の利益水準を回復するまでの道のりはやや長そうです。

ボーイングは倒産するの?

米国政府がボーイングを倒産・解散させる可能性は非常に低いです。

ボーイングは米国で最大の輸出企業の一つですし、10万人以上を雇用している大企業です。また、軍事技術を持つ企業であり、安全保障にも関わります。加えて、ボーイングを最大顧客とする航空機の部品メーカーは多く、波及効果も甚大なものとなります。

産業、雇用、安全保障の点で、ボーイングを解散させることは明確に国益に反するため、ボーイングが解散される可能性はかなり低いでしょう。

ただし、政府による救済がされる際、株主や債権者が完全に保証されるかは不透明です。政府による支援で繋げて再建できれば良いですが、737MAXの問題が長引いてその道が不可能となり、チャプター11による再建の道が選ばれた場合には、株式価値が大幅に減少することは避けられないでしょう。

ボーイングまとめ

  • 2019年の決算は主力製品の737MAXが規制当局の認証を得られず、納入できなかったことにより、ボロボロ。
  • ボーイングは民間、軍事、サービスの3部門であるが、民間の737MAX納入ができないと赤字解消はできない
  • 737MAXの認証が取れたとしても、パイロットのトレーニング期間が発生する上に、生産開始のコストがかかるため、認証が取れた年の利益率への悪影響は避けられない
  • 小型機737MAXに次ぐ中型機主力の787の受注が鈍く、生産台数を月14台から10台まで減らしていく予定。年48機の納入減は2021年に5,000億円近い売上へのインパクトになる
  • 大型機777Xは777の後継かつエアバスA350への対抗で、こちらの立ち上がりによっては大型機の市場をエアバスから奪える可能性がある
  • エアバスはボーイングより40%多い受注残を抱えており、生産拡大中。航空機は生産台数を急に増やすのが難しいので、エアバスに対して今後数年間不利になる未来はすでに決まっている
  • ボーイングのビジネスは737MAX次第であると同時に、生産開始コストと鈍い787の受注のため、利益率が2018水準になるまでも数年かかる
  • 変動の激しい軍事部門の売上は米国選挙にも影響を受け、リスクがある(民主党になれば軍事費削減される可能性高い)
  • 737MAXの認証、軍事部門、と政府・規制当局にビジネスが依存しているため、リスクが高い状態にある
  • ボーイングは資本が薄く、737MAXなしではキャッシュが不足しやすい状況にあった。そこにCOVID-19をきっかけとする業界への不安が重なり、倒産するのではないかという疑心暗鬼を生んだ。それが株価の急落に繋がった。

エアバスを含めた航空機業界をより詳しく知りたい方は下記をご覧ください。

ボーイングは投資対象として魅力的か(1): 航空機業界の分析

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就職・転職-キャリアを選ぶ時に使えるフレームワーク

人生100年時代、一つの会社にずっと勤めるのではなく、複数の会社や個人で働く人も増えてきました。しかし、就職・転職・独立した後に、「こんなはずではなかった。。」という話もよく聞くのではないでしょうか。

今回は、納得でき、かつ期待通りのキャリアを選択できる確率を上げるために役立つフレームワークを紹介します。

ステップ1: 価値判断の軸を決める

価値判断の軸としては、「目的」(Purpose)、「人間関係」(Relationships)、「金銭」(Finance)の3つの軸を用います。

「目的」はどのような仕事をしたいか、将来に繋がるか、などです。人によってはモノを作るのが好きな人もいるでしょうし、誰かを助けるような仕事が好きな人もいるでしょう。あるいは将来やりたい仕事に繋がるためのスキルが学べる、などもここに含まれます。

「人間関係」、は働く先のカルチャー、一緒に働く人、家族、などをさします。仕事が忙しくなって家に帰る時間が遅くなる、などの場合は家族にも影響がでるため、職場だけではなく家庭の人間関係も含めます。

「金銭」は給料に加え、手当なども含みます。

具体例

僕の場合ですと、「目的」については4つありました。

第一に、自分の過去の経験から、病気を抱えた人やその家族・友人が治療法が見つからずに苦しんでいるのが許せず、そのことに対して考えたり動いている時に充実感を感じます。だから、世界中の人が自分の病気の治療法を見つけられるような世界にしたいと思いますし、「その目標に繋がる仕事」というのを第一の項目にしました。

第二に、僕はテクノロジーの力を信じており、テクノロジーを通じてその目標を達成したいと考えているため、「テクノロジーに関わる仕事」という項目も加えました。

第三に、僕は自分でコントロールしたいタイプなので、「事業責任者として動ける」という項目を加えました。

最後の四つ目としては、僕は多様なバックグラウンドを持つ人と働いている時に特に楽しさを感じるため、米国、ロンドン、シンガポールなど「英語圏でかつ世界中から人が集まっている場所で働けること」を項目に加えました。

「目的」としては以上の「病気の人を治療する・もしくは治療法を見つけやすくできるか」、「テクノロジー × ヘルスケア」、「事業責任者か」、「世界で働ける」の4つを評価項目としました。

次に「人間関係」ですが、これも大事な要素だと考えました。まず、働く場所は自分の価値観と合うようなカルチャーにしたい、もしくはそんなカルチャーで働きたいので、「企業カルチャー」を第一の項目として入れました。

次に、「一緒に働く人が尊敬できるか、一緒に働いていて楽しいか」を二つ目の項目にし、三つ目としては、「僕の家族が幸せか」、を入れました。

最後に、生活をする上で必要となる「金銭」も評価軸に入れました。僕の場合、「目的」で4つ、「人間関係」で3つ、「金銭」で1つ、の計8つが評価の軸になりました。

計8つの基準

ステップ2: 価値判断に重み付けをする

次に、それぞれの項目に、合計で100%となるように「重み」をつけます。

僕の場合、「目的」の4つにそれぞれ10%で40%、「人間関係」の3つに40%、「金銭」でに20%の重みをつけました。

価値判断の項目、重み付けの仕方は人により大きく異なりますし、この重み付けは真剣に考えた方が良いと思います。人によっては「一緒に働く環境が一番大事」、とそこに80%を割り振る人もいるでしょうし、「目的が一番大事」とそこに重みの大半を振る人もいるでしょう。

ステップ3: 選択肢を評価する

選択肢のそれぞれについて、それぞれの項目に「1(満たしていない)」から「3(満たしている)」まで数字を入れます。そして、入れた点数に重みをかけます。

例えば、「組織のカルチャーが合うこと」の点数が2で、その重みが10%ならば、その項目の点数は2 x 10% = 0.2になります。

項目の全てで重みをかけて、点数を合計すると、合計点数が出せます(この方法を加重平均と言います)。

進路の選択肢A、B、Cについて具体的に評価してみると下記のようになります。下記の例だと、Aが最も良い選択肢となります。

ステップ4: 再検証

評価軸に抜け漏れダブりがないか、自分の重み付けが適切か、卒業後の選択肢がまだ他にないか、を考えます。

特にStep 4では家族や友人など、色々な人に相談をして、考えが変わらないかのプレッシャーテストをするのが良いと思います。

まとめ

このフレームワークを用いる利点は、キャリアの選択という様々な要素が絡む決断について、ある程度網羅的に、かつ定量的に評価できることです。

人はどうしても目に見えて測れるもので仕事を選びがちですが(給料やポジションなど)、実際に働く時には、自分の働く目的と合っている仕事かどうか、働く環境が自分に合っているかどうか(組織の文化、一緒に働くことになる人と合うか、家族の賛成が得られているか、など)、の方が大事に感じる人も多いです。

このフレームワークを用いることで、ある程度漏れなく必要な項目を考えながら意思決定ができるので、就職・転職後に「こんなはずではなかった・・・」という確率を下げられるのではないかと思います。

この記事がお役に立てたならば嬉しいです。

オーストラリア株式・株価分析: Webjet(旅行テック)

今回はオーストラリア・ニュージーランドのNo.1旅行テック企業であるWebjetを題材に、オンライン旅行市場を分析してみます。大手に対して中小企業がどう戦うか、についても学べる例です。

この記事を読むとわかること

  • Webjetはオーストラリア・ニュージーランドでNo.1の旅行テック企業で、B2CとB2Bの旅行ビジネスを持つ
  • OTA (Online Travel Agency – オンライン旅行代理店)市場は伸びているが、競争激化により、大手 (Expedia、Priceline)ですら苦しい戦いになっている
  • WebjetのB2Cはオーストラリア・ニュージーランドに集中してブランド価値向上に力を注ぐことで、マーケティング費用を抑えて、売上・利益共に成長させている。ニッチ戦略。
  • WebjetのB2Bは買収を通じて参入し、急速に成長させた。B2Bは市場規模が小さく、競合は多いが規模が大きい企業が少ないため、Webjetも戦ってシェアを伸ばせる余地が十分にある。ニッチ戦略。
  • Webjetのように、巨人が殴りあう競争環境にいる企業でも、ニッチな市場(地域など)を見つけて戦うことで、勝機を見いだせる
  • Webjetは規模が手頃であり、株価も割安な水準にあることに加え、ニッチで優位性を持つため、大手の買収対象となる可能性がある。買収対象となった場合、既存の株主に短期的な利益がもたらされる可能性がある

ビジネス概況

Webjetは旅行テック会社で、主要な事業はB2CのOTA (Online Travel Agency – オンライン旅行代理店)とB2Bのプラットフォームビジネスの2つです。

特にB2Bの方は買収を積極的に行い事業を伸ばしており、EBITDA(税、利子、減価償却前利益)ベースではB2Bが現在では主力となっています。

綺麗な右肩上がりですね。ビジネスについて、順に説明していきます。

OTA (online Travel Agency)ビジネス

OTA (Online Travel Agency)はオンラインで航空券、ホテル、レンタカーなどの予約ができるオンライン旅行代理店サービスです。

日本だと楽天トラベル、じゃらん、一休.com、るるぶトラベル、などがこの業態にあたります。

WebjetはWebjetとOnline Republicという2つのブランドを持っています。

OTA (Online Travel Agency)市場

世界の旅行市場はGDP以上の速度で伸びていることに加え、店舗からオンラインでの予約への流れも進んでいるので、OTAビジネスは成長市場です。

一方、OTAは寡占化が進んでおり、Expediaグループ (Expedia, Trivagoなど)とBookingホールディングス (Priceline、Booking.com, Agoda, Kayakなど)が英語圏・欧州圏では世界の二強になっています。

日本では楽天トラベル、じゃらんといった地場のOTAが、中国ではC-tripなどの地場のOTAが高いシェアを持っているためにExpediaグループとBookingホールディングスの存在感は薄いですが、英語圏であるオーストラリアはやはりExpedia, Pricelineグループがオンライン上では強く、競争が激しいです。

それに加えて、Googleもホテル・航空券予約仲介のビジネスに参入したり、口コミで圧倒的な集客力を持つTripAdvisorも予約サービスを展開していたり、有力ホテルチェーンや航空会社は自社の予約サービスを強化したり、Airbnbというホテル以外で宿泊を提供する業者が影響力を増すなど、競争環境はどんどん厳しくなっています。

OTAの集客の大部分は検索エンジン経由(つまりGoogle)のため、オンラインでの競争が激しくなることは、集客コストの高まりに繋がり、利益成長を難しくします。

市場全体が伸びているのに、ExpediaやTripAdvisorといった旅行のテック企業の株価が過去数年低迷しているのも、そのためです。

Expediaの5年間の株価推移
TripAdvisorの5年間の株価推移

おなじみのファイブフォーシーズ分析で整理をすると

  • 競争環境:厳しい (BookingとExpediaという巨大グループの2強で、2社ともポイントなどで囲い込みを行っている。他にも多数のオンライン・店舗型の旅行代理店が存在)
  • 新規参入の脅威:低い(参入障壁は低いけれど、そもそもの競争が激しくて参入したい企業が少ない)
  • 代替品の脅威:高い(ホテル・航空会社による自社サイトでの予約、Googleの航空・ホテル比較への参入)
  • 売り手の交渉力:高い(売り手は複数の選択肢を持っており、特に有力ホテルチェーンは自社サイト、大手2社、トリップアドバイザー、などでほぼ自社の部屋在庫をさばけている。)
  • 買い手の交渉力:中程度(顧客は複数の旅行代理店を比較して予約・購入する)

かなり厳しい市場環境です。業界全体の利益率が高くない理由もわかります。

Webjet

Webjetの祖業でもあり、オーストラリア・ニュージーランドでNo.1のシェアを持つオンライン旅行代理店のビジネスです。航空券、ホテル、レンタカー、クルーズなどを予約・購入できます。

競争環境の厳しさを反映して、Webjetの売上・利益の伸びは数パーセントと、穏やかになっています。

しかし、この厳しい環境下で売上だけでなく利益率もあげているあたり、利益率のマネジメントをかなりしっかりやっている印象です。特にEBITDAのマージンが40%を超えているのはかなり高い。

Webjet – OTAビジネス

比較対象としてExpediaの2019年の第三四半期までを見てみると、Expediaの販売額➗売上高は13%なのに対して、Webjetは10.9%とやや低いです。

これは、Expediaの方が予約あたりに取っているマージンが高い(つまりホテルや航空会社から得ている手数料率が高い)ことを示唆します。

利益率が高いホテルの部屋を抑えられている、あるいは規模が大きい分、同じ部屋でもホテル側からより高いコミッションを引き出せている可能性、があります。

一方、ExpediaのEBITDA比率が約10%なのに対して、WebjetのEBITDAは40%とかなり高いです。

Expediaの損益計算表をみると、Selling and Marketingにほぼ売上の半分以上をつぎ込んでいることがわかります。これは、Expediaは見込み客を得るためにマーケティングに相当な費用をかけていることを意味します。

具体例をあげて説明します。

ホテル側がExpediaに一部屋20,000円の部屋の予約を取る手数料として、15%の3,000円を渡したとします(15%は高いように聞こえますが、中小ホテル相手であれば控え目な数字です)。

Expediaはその3,000円のうち1,500円を検索エンジンやトリップアドバイザーなどへのマーケティング費用として使い、自社サイトに予約しようなユーザーを誘導し、予約を獲得します。

残りの1,500円がExpediaの利益として残る分になります。Expediaのポイント、人件費などのそのほかの費用が支払われます。

一方、Webjetは規模を追わず、自社のブランド力を高めることに集中し、マーケティング費用を抑える戦略を取っています。Webjetのアナウンスメントによれば、予約につながるユーザーの流入の経路は

  • 33%はダイレクト流入(アプリやURLの直接打ち込み)
  • 27%はブランドサーチのGoogle広告経由 (Webjetの名前を検索エンジンに打ち込んでくる流入)
  • 18%はノンブランドサーチのGoogle広告経由 (Flight to Bali、など)
  • 14%はブランドサーチのGoogle検索結果経由
  • 残りの8%がノンブランドサーチのGoogle検索結果経由

Googleに広告費用を払って流入している割合は45% (SEM)ですが、27%のブランドサーチは競合が少なく価格が低めなので、おそらくマーケティング費用はそれなりに抑えられています。

また、ダイレクト流入の割合が高いのもマーケティング費用を下げることに寄与しています。

ノンブランドサーチ経由の流入が少ないのは、ノンブランドサーチのキーワードをあえて捨てている、あるいはブランドサーチだけに特化する方針だと考えられます。グローバルで見れば小さなOTAですので、コンテンツマーケティングに多額の費用をかけてExpediaなどの巨人と殴り合う道を選ばないのは賢い選択です。

また、ノンブランドサーチのキーワードの結果がどうなるかはGoogleの意向に左右されやすいので、SEOの割合が低いというのは、それだけGoogleの検索エンジンのアルゴリズムの変更の影響を受けにくくて良いとも言えます。

最後に、オーストラリアではFlight Centre Travelという店舗型の競合もいますが、オンラインの存在感は強くないため、あまり競合にはなっていない点も、Webjetが広告宣伝費を多くかけなくとも済んでいる要因の一つと考えられます。

 

Flight Centre 2019 Annual Report

Flight CentreのマージンはWebjetの半分以下であり、成長もあまりしていません。PERも14.7と成熟企業の数字です。

Webjetのこの戦う市場を絞って(オーストラリア、ニュージーランド)、ブランド力を高めることで勝負する、というのは規模の小さい企業が取れる一つの賢い戦い方です。

Online Republic

WebjetはOnline Republicという車のレンタルとクルーズに特化したニュージーランドの会社をNZ$85mで2016年に買収しています。こちらは買収以降、売上も利益も減少傾向で、おそらくWebjet内でお荷物扱いかと思います。

WebjetのOTAビジネスまとめ

  • WebjetのOTAビジネスは2019年時点でEBITDA(税、利息、減価償却前利益)ベースで半分を占める
  • OTAは成長市場ではあるが、Expedia、Priceline、Ctripなどの大手による寡占状態になっている上に、Google、Airbnb、ホテル・航空会社の自社サイト、などの代替品の影響力が高まってきており競争が厳しい
  • そんな環境下でWebjetはオーストラリア・ニュージーランドという母国に集中して自社ブランドの価値を高めながら、検索エンジンに頼らない流入経路を拡大しており、売上・利益ともに市場成長以上に伸ばしている
  • WebjetのOTAビジネスは大きくは伸びないが、SEOの割合が低く、ブランド目当てのユーザー割合が75%のため、大崩れはしない印象
  • Webjetがとっている戦略はニッチ戦略で、地域を絞って戦っている

B2Bビジネス (WebBed)

Webjetはホテルと旅行代理店を繋ぐプラットフォームとして、WebBedというビジネスを展開しています。今後の成長の柱です。

WebBedは簡単に言えば、ホテルのアグリゲーター(集めて、まとめて、売る、サービス)です。WebBedは様々なホテルと提携、またはデータを繋ぎ、在庫情報を見て在庫を販売できるようにし、そのプラットフォームを旅行代理店に販売しています。

このビジネスモデルは、トリップアドバイザーなどが過去行ってきたモデルと似ています。複数のオンライントラベルエージェントから価格と在庫情報を集めて、まとめて、ユーザーに提示する。

違いはトリップアドバイザーがB2Cでユーザーを対象にしているのに対し、WebBedsは旅行代理店を対象にしている点です。

どちらも共通しているのは、①自社で在庫を持たないために利益率が高いこと、②そのプラットフォームに繋がっている人が多ければ多いほど、利用者全員にとってのプラットフォームの価値が高くなるという点です(これをネットワーク効果と言います)

具体的な数字を見てみましょう。

良い数字ばかりが並んでいますが、これは買収の影響が大きいです。Webjetは2017年にJacTravelという同業種を、2018年にDOTWをたて続けに買収し、B2Bのプラットフォーム事業に参入しています。

規模では現在では世界第二位です。

この分野ではスペインの非公開会社であるHotelsBedが世界シェア1位で、2019年の売上はEBITDA €234m (280億円)と、WebjetのA$67m(50億円)の6倍近くあります。HotelsBedは契約ホテル数が18万件、旅行代理店が6万、と圧倒的ですが、業界二番手以降は小さいプレイヤーが多く、業界は混沌としています。

このB2B分野が魅力的なのは、ニッチであり、かつ業界内で圧倒的なプレイヤーがいない点です。業界1位のEBITDAが280億円程度というのは、グローバルのOTAからすると参入するには市場が小さすぎて、新規で入ってくる可能性が低いです。また、業界は小さい競合が多く、Webjetくらいの規模でも十分に戦っていけます。

WebjetのようなEBITDAが全社でも120億円程度の会社にとっては、比較的戦いやすい業界ですし、かつシェアを伸ばしていくだけで利益を数十パーセントで伸ばしていけるので、Webjetにとってはぴったりの市場だと言えます。

こちらもまた、規模で劣る場合はニッチな市場で戦う、という戦略の鉄則にしたがっています。

また、「ネットワーク効果」が働く市場ですので、規模を拡大することが持続的な優位性に繋がります。そのため、今後もWebjetは積極的に買収を行い、ホテルや旅行代理店との契約を増やしていくと想像できます。

オーストラリアではCorporate Travel Managementが直接ではないですが、企業向けのビジネスという点で間接的に競合でもあり、パートナーでもあります。こちらはWebBedの3倍以上の規模で、株価は$17程度。PERは21.45です。

Corporate Travel management annual report

財務分析

資産$1.5b(約1,100億円)のうち、60%以上の940mが固定資産と突出して大きいです。2018年のJac Travel、2018年に行なったDOTWの買収により、無形資産資産の割合が増えています。

負債と純資産の側では、2018年に行なったDOTWの買収のため、$100mを借り入れたことから、借入金額が$83m増加しています。純資産が増えているのは利益と$160mの増資のためです。

売上債権の伸びよりも、仕入れ債権の伸びの方が大きいのは良い傾向です。B2Bビジネスはプラットフォームのビジネスで在庫は持たないはずなので、こちらが伸びればより売上比の運転資金の割合が減るはずです。

Webjet キャッシュフロー

2018年、2019年と増資と買収を繰り返して貸借対照表が膨れ上がってきていることもあり、ROEが落ちているのは嫌な点ではありますが、プラットフォームの争いは供給側、需要側両方を増やす速度が鍵となるため、買収という時間をお金で買う手段をとったのは納得できます。

配当

配当は2019年に22セントで前年比10%上昇。株価$12の前提で配当性向は47%で配当率は1.8%です。

米国や日本と異なり、オーストラリアは二重課税を防ぐために、法人税支払い後の配当にはその分、所得税を減らす効果があるクレジットがつきます。そのため、実質的な配当率は1.8% x (100% + 30%) = 2.3%になります。

Webjetアニュアルレポートより

成長企業であればキャッシュを事業の成長にまわして欲しいところではありますが、オーストラリアは税制のおかげもあり、配当への関心が高いので配当を出す企業が多いです。

株価の推移

Webjetの過去1年の株価

Webjetの株価はジェットコースターのように乱高下しています。

2019年2月の好決算で一気に$12から$16まで上がり、そこからジリジリと下げ、昨年の9月のイギリスの旅行代理店大手、Thomas Cookの破綻でWebjetの業績に影響が出るのではないかという不安から、10月に一気に下落しました。

そこから相場全体の上昇を受けて上昇を続けます。12月にはGoldman SachsがWebjet買収の案のプレゼンテーションを作っているという報道が出て、株価は急騰しています。

そのまま上がっていましたが、2月には今回の新型コロナウイルスが旅行業界の需要全体を縮小させるのでは、という不安と、モルガン・スタンレーが「Googleが航空券予約仲介に本格参入することの悪影響からWebjetは大きな影響を受ける」というレポートを出し、一気に$14から$12近くまで下げました。

現在の$12の水準はEPSの$0.47ベースでPER25.3倍と、過去3年は30倍程度ですので、現在は過去から比べると低いPER倍率になっています。

買収の可能性

Webjetは、①オーストラリア・ニュージーランドでシェア1位という地域特化のサービスであること、②B2Bのプラットフォームという成長領域で世界2位のポジションであること、からExpediaやBookingホールディングスにとって、買収すると相乗効果が出やすい会社かと思います。

そもそも、OTA業界は買収とスピンオフが盛んな業界ですし(オーストラリアのOTAであるWotifも2014年にExpediaに買収されています)、Webjetの時価総額$1.63b (1,200億円)なんて、ExpediaやPricelineからしたら楽々支払える額です。30%のプレミアムを乗せても、1,600億円程度です。

そのため、Webjetが買収のターゲットになる可能性も十分あります。その場合は買収プレミアムが乗るため、買収時の価格によっては短期的な利益が見込めます。

まとめ:この記事を読むとわかること

  • Webjetはオーストラリア・ニュージーランドでNo.1の旅行テック企業で、B2CとB2Bの旅行ビジネスを持つ
  • OTA (Online Travel Agency – オンライン旅行代理店)市場は伸びているが、競争激化により、大手 (Expedia、Priceline)ですら苦しい戦いになっている
  • WebjetのB2Cはオーストラリア・ニュージーランドに集中してブランド価値向上に力を注ぐことで、マーケティング費用を抑えて、売上・利益共に成長させている。ニッチ戦略。
  • WebjetのB2Bは買収を通じて参入し、急速に成長させた。B2Bは市場規模が小さく、競合は多いが規模が大きい企業が少ないため、Webjetも戦ってシェアを伸ばせる余地が十分にある。ニッチ戦略。
  • Webjetのように、巨人が殴りあう競争環境にいる企業でも、ニッチな市場(地域など)を見つけて戦うことで、勝機を見いだせる
  • Webjetは規模が手頃であり、株価も割安な水準にあることに加え、ニッチで優位性を持つため、大手の買収対象となる可能性がある。買収対象となった場合、既存の株主に短期的な利益がもたらされる可能性がある

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ボーイング・エアバスは投資対象として魅力的か(1): 航空機業界の分析

主力小型機の737 MAXが2度の墜落事故を起こし、737 MAXの生産中止に追い込まれてから株価が$400越えから$320程度まで下落し、低迷しているボーイング。実はボーイングは市場シェア40%を握る、航空機メーカー2強の1社です。

この株価の下落は投資をする良い機会でしょうか? 航空機業界とボーイングの二本立てで、分析してみたいと思います。

今回の記事でわかること

  • 航空機業界は安定的に成長し、今後20年で毎年1,750機のジェット機の新規販売が見込まれる
  • ジェット機はボーイング・エアバスの2社でシェアほぼ90%。
  • ボーイング・エアバスともに受注残が7年分以上あり、新規受注が数年なくともビジネスを継続できる状況
  • 航空機業界は買い手、新規参入、代替品からの圧力が低く魅力的であるが、2社の競争が激しいために利益率が低くなっている
  • 国策となりやすい産業であり、ボーイング・エアバスともに見える形・見えない形でのサポートを得られていることに加え、緊急時にも政府支援が出る可能性が高い

航空機市場概観

2018年末時点で、世界全体では23,904機のジェット旅客機、3,674機のターボプロップ旅客機、1,966機のジェット貨物機が運航されていました(「JADC市場予測2019-2038」より)。

同予測によれば、2038年末までに、ジェット機で今後新規で35,312機の需要が発生すると考えられています。つまり、毎年1,750機の新規需要になります。ターボプロップは短距離が主な用途であり、かつ需要も減少していっているため、基本的にはジェット機が飛べない地域の買い替え需要が主です。

そのため、今後20年ではジェット機が主戦場であり、ジェット機の納入機数ではボーイングとエアバスの2社で市場シェア90%とほぼ独占しています。

2018年の納入台数1,764機のうち、エアバスが800機でボーイングが800機と拮抗。ブラジルのエンブラエルは小型機を毎年100機程度納入しています。

一方、受注数は2011年代からは2,000台を越えて推移。こちらもボーイングとエアバスの2社でほぼ90%のシェアです(エンブラエルの受注に波があり、エンブラエルの受注数が少ない時に90%を超える)。

ボーイングの受注シェアは過去5年で40%前後で推移しています。

20142015201620172018
ボーイング (機)1,4498627779991,008
エアバス(機)1,7571,1859511,205827
その他(機)201343254145350
合計(機)3,4072,3901,9822,3492,185
ボーイング+エアバス受注シェア94%86%87%94%84%
ボーイング受注シェア43%36%39%43%46%

生産し、納入した機体よりも受注の方が大きいということは、業界全体として大きな受注残を抱えていることを意味します。

JADC資料より

実際に、ジェット機の受注残は積み上がり、2018年末時点では15,000機の受注残があります。

2019年の第三四半期終了時点で、ボーイングは5,500機、$4700億ドル(約50兆円)分の受注残を、エアバスも7,000機を超える受注残を抱えています。

仮に今後7年間で受注が0であり、毎年800機しか納入しなかったと仮定しても、両者ともに受注残は7年分以上になります(ボーイングは現在も737MAX停止中のため)。

つまり、航空機市場(その大半を占めるジェット機市場)は

  • 実質2社による寡占市場
  • 世界の旅行・貨物需要の伸びに合わせて飛行機が必要となり、需要が供給を上回っている状況
  • 主要2メーカー(ボーイング、エアバス)は7年分近くの受注残を抱えており、生産ができてる限りビジネスを失う危険性がない

という、2社にとっては望ましい環境にあります。

航空機業界の構造

意外にも、ボーイング、エアバスともに利益率は高くありません。

2017年、2018年こそ営業利益率が10%を超えていますが、それ以前は9%未満の時期が長く続いていきました。エアバスも同様に、営業利益率は10%を切っています。

Macrotrendsより

なぜ、実質二社の寡占であり、7年先まで受注残を抱えるような企業の利益率が低いのでしょうか。定石のファイブフォーシーズの観点で見ていきます。

ファイブフォーシーズ分析についてはこちら→ファイブフォース(5 forces)分析 | 解説と具体例

競争関係

航空機業界は2社(ボーイング、エアバス)の寡占状態ですが、その2社が受注を巡り激しく争っています。

大型機、中型機、小型機の全てで、ボーイングとエアバスはお互いに競合です。

ボーイング座席数エアバス座席数
747410A380575-853
777317-425A350325-440
787242-330A330257-440
767192-297
737126-230A320140-244
A220116-160

利益率が低い最も大きな原因の一つはこの二社の競争です。

本来的には寡占状態であれば、お互いに価格を引き上げても良いのですが、お互いのライバル意識が強く、特に新興国の大型受注を獲るために価格を引き下げているために、結果的に利益率を引き下げています。

大型受注を獲ることが重要なのは、後述するように、航空会社が一方の機体を採用すると、その後からもう一方が違う機体を販売するハードルが上がるためです。程度は違いますが、iPhoneを持っている人にAndroidを売るのは大変、という現状と似ています。

買い手の交渉力

航空機を購入する買い手は、航空会社(デルタ、アメリカン、ユナイテッド、JAL、ANA等)と航空機リース会社です。

航空会社は多数あり、一つ一つの航空会社が突出して大きいわけではありません。また、ボーイング機を利用している航空会社はボーイング機を購入した方がトレーニングコストが削減できることに加え、より整備や運行を効率化でき、有利になります。

そのため、既存のボーイング機を利用している買い手からすると、多少の価格差であれば、ボーイングを購入する動機が生まれます。この点では、ボーイング・エアバスは運行している機体が多い分、有利です。

足元の世界の航空機の運航機数をみると、単通路機ではボーイングの9158機に対し、エアバスは8274機、双通路機ではボーイングが3755機でエアバスは2442機にとどまる。運航機数ベースでは民間航空機分野で歴史の長いボーイングが優勢だ

日経新聞

つまり、売り手のボーイングやエアバスは、既存のお客さんには多少強く出ることができ、交渉上優位です。

売り手の交渉力

ボーイング・エアバスが買い手となるのは、主に部品業社です。航空機は100万点を超える部品で構成されており、関わる企業の裾野が広い産業です。直接ボーイングに納入するサプライヤーだけでも500を超えます。

買い手がボーイング・エアバスしかない売り先のために売り手の交渉力が弱いように思えますが、実は飛行機の部品は求められる安全性から汎用品よりも専用品が多く、数社しか作れない部品が数多く存在します。

また、量産後の部品変更は再度の認可プロセスを踏む必要があるため、基本的には同じ仕様で同じ部品業社からボーイング・エアバスは購入する必要があります(「航空機産業にみられる部品供給構造の特異性」海上泰生より)

つまり、専用品に関しては航空機メーカーと部品メーカーは長期的な関係を結ぶ必要があり、買い手が必ずしも有利な状況ではなく、比較的対等な関係だと考えられます。

新規参入の脅威

航空機、特に中型機以上の大きさは新規参入がしにくい分野です。

航空機は各国で規制されており、商用として販売するためには認可を得る必要があります。特に米国の型式証明・耐式証明が事実上の基準となっており、米国の基準をいつ取得できるかが航空機を販売する大きなポイントになります。

航空機は開発のプロセスが複雑かつ長いこと、認可のプロセスも安全性の重要性からより厳格であるため、新規参入のコストが非常に大きくなります(三菱重工が小型ジェットのMRJで新規参入を試みていますが、その開発の難しさから5度以上も延期し、元々は2013年納入予定でしたが、今は2020年代半ばです)

また、型式証明が取れたとしても、量産をする段階で工場への多額の設備投資が必要になります。さらに、量産が成功して販売できたとしても、販売後のサービス網への投資が必要となり、こちらも大きな投資となります(飛行機は販売後も定期的な整備が必要であり、メーカーはサービスを提供する必要があります)。

ここまで揃えても、現状のボーイングとエアバスの航空機に慣れたお客さんに新規メーカーが実績のない航空機を販売するのは簡単ではありません。特に航空機は信頼性が重要となるため、経済性以外の理由(例えば国策で産業育成するなど)がなければ、ボーイング・エアバスの方がブランド力で優位性を持っています。

以上のように、先進国では航空機市場への新規参入の脅威は経済的合理性から考えると、低いでしょう。唯一の例外は、中国が国策で自国の航空機産業を育成しようとし、自国の航空会社と影響力の及ぶ東南アジア・中央アジアに自国の航空機を購入するように働きかける可能性です。

中国は独自の型式証明を用いており、米国の型式証明がなくとも、国産の航空機を国内線用に販売することができます。また、中国は米国の型式証明の基準と合わせるように自国の基準を変えようとしています。

こちらは10年以上先を見れば、中国の国策航空会社がコスト競争力を武器として、新規参入する可能性は十分あり得るように思います。これはボーイング・エアバスの利益率を下げる要因になります。

代替品の脅威

航空機は移動手段であり、車、鉄道など人やモノを移動させる製品は代替品、すなわち競争相手となります。北陸新幹線が開通した時に、東京と金沢間の移動手段のシェアは航空機と鉄道が逆転したのが、良い例です。

未来の技術であるHyperloopやリニア鉄道などが実現すれば、航空機よりも手軽に乗れ、かつ短時間で着く移動手段として航空機の需要が減るかもしれません。

しかし、鉄道の整備には多額の費用がかかり経済的に合理的な路線は限られる上、航空機には既存の空港設備を利用できるというメリットがあるため、少なくともこの先20年程度に航空機の需要が急減することはないでしょう。

よって、代替品の脅威は低いと言えます。

政府・規制当局

航空機業界を考慮する上では、政府・規制当局の動きも重要となります。理由は、①航空機産業は裾野が広く、雇用を有む産業であり、国策産業になりやすいこと、②軍事技術と密接に関連のある産業であり、安全保障と関連すること、のためです。

ボーイング、エアバス共に国から補助金や軍用機の注文など様々な形での支援が行われています。今後、どちらかの企業が危機に陥ったとしても、政府による何らかの救済が行われると予想されます。

航空機業界まとめ

  • ボーイング・エアバスともに、営業利益率は高くない (2018年時点でも約10%)
  • 営業利益率が高くない主な理由は二社が激しく競争を行なっているため
  • ボーイング・エアバスは買い手の航空会社に対しては強い交渉力を持てるが、売り手の部品業社に対しての交渉力はさほど強くない
  • 中国の国策企業が中長期的に本格参入し、二社のシェア・利益率を下げる可能性がある。しかし、米国の型式証明取得がまだ行われていないことから、中国をのぞく地域では新規参入の影響は大きくない
  • 航空機を代替する技術はまだ発展途上かつ大規模な投資が必要な技術ばかりで、見渡せる将来で代替品が市場に及ぼす影響は少ない
  • 航空機メーカー二社は米国、欧州共に国策として重要な企業のため、政府から継続的な支援を受けられ、何かあった場合でも高い確率で救済される可能性が高い

今回の記事でわかること

  • 航空機業界は安定的に成長し、今後20年で毎年1,750機のジェット機の新規販売が見込まれる
  • ジェット機はボーイング・エアバスの2社でシェアほぼ90%。
  • ボーイング・エアバスともに受注残が7年分以上あり、新規受注が数年なくともビジネスを継続できる状況
  • 航空機業界は買い手、新規参入、代替品からの圧力が低く魅力的であるが、2社の競争が激しいために利益率が低くなっている
  • 国策となりやすい産業であり、ボーイング・エアバスともに見える形・見えない形でのサポートを得られていることに加え、緊急時にも政府支援が出る可能性が高い

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MMT (現代貨幣理論) の広まりが政治、投資家にもたらす影響とは?

民主党下院議員のオカシオ・コルテスが支持したことで話題になったMMT (現代貨幣理論 / Modern Monetary Theory)。コロナウイルスをきっかけに、アメリカはすでにMMTを実践しつつあります。

MMTは「財政赤字は問題なく、失業者がいなくなるまで財政支出を拡大するべき」と、これまで財政赤字を避けようとしてきた政府の経済政策からすると、常識を覆されるような主張をしています。

今回の記事では、(1)これまで国はどんな経済政策をとってきたのか、(2) MMTは何が新しいのか、(3)この考え方が政治家、投資家にもたらす影響、について考えていきます。

今回の記事から学べること

  • 政治家が経済成長を目的として使う手法は、(1)財政政策、(2)金融政策、⑶消費・生産性を上げる政策、の3つ
  • 「特に不況時には、政府が支出を増やすことで経済成長を実現するべき」という考えはこれまでもあったが、恒常的に財政赤字を続けることは副作用が多く、避けるべきと考えられてきた
  • MMTは「自国建通貨で国債発行を行なっている国は、財政赤字はインフレーション(物価の値上がり)を引き起こさない限りいくら続けても問題ない」と、恒常的な財政赤字も認めている点が特徴的
  • MMTは、財政支出を増加させて、有権者の票を買いたい政治家にとっては「使いやすい」理論であり、インフレーション率が長期で低位安定している現在、影響力が高まっていく可能性がある
  • 米国の大統領選で勝利した党がMMTの考え方を取り入れた場合、投資先となる産業は良い投資機会となる

政府が使う経済政策の手法

大きく分けると、経済成長のために政府が使う政策の手法は下記の3つです。

  • 財政政策
  • 金融政策
  • 消費・生産性の向上のための政策

先進国の多くでは、GDP(Gross Domestic Product – 国内総生産)を指標として、経済成長を目指しています。

GDPは、下記の4つの分けられます

  • 家計(消費者)の消費
  • 企業・家計の投資
  • 政府の消費・投資
  • 純輸出(輸出−輸入)

経済政策の目標 = GDPを成長させること

ざっくり言えば、消費者・企業・政府のみんなが前年度よりお金を使ってモノやサービスを購入し、住宅や設備や公共インフラなどに投資を行い、かつ輸出が輸入よりも多くなれば、経済はどんどん成長していきます

「経済が成長すると、雇用が増え、人々の収入も増え、税収の拡大から社会保障に回せる財源も増えるため、基本的にはみんなが幸せになる」、というのが多くの先進国の前提です。

そのため、政治家は財政政策、金融政策、消費・生産性の向上のための政策の3つのレバーを動かしながら、経済を成長させていこうとします。

経済政策の世界では、「何を信じるか」によって推奨される政策が異なるため、「何を信じるか」の部分に注目しながら、順に説明をしていきます。

財政政策

財政政策は、政府の徴税と支出に関わる政策です。

例えば、2019年で言えば、日本は歳出101兆円の予算のうち、税金から62兆円を、その他収入から6兆円を、国債の発行による借金で33兆円を調達する計画です。

日本の歳入 (2019年度予算)

対して、支出の計画は101兆円のうち、78兆円は政策のため、24兆円は国債の利払いや既存の国債の借換に使う予定です (四捨五入)。

日本の歳出 (2019年度予算)

日本の例で言えば、国債を発行することによって、税金で集めたお金よりも多くの支出を行なっています。

毎年毎年、予算がニュースになりますよね。予算編成は、政治家がいくら税金として集めて、いくら使うか、何に使うか、の案です。

政府が税金を上げれば私たちの手元に残るお金は減り、消費を減らす可能性が高くなります。逆に税金を下げれば私たちの手元に残るお金は増え、消費を増やす可能性が高くなります。

また、政府がよりお金を使えば、需要が生まれます。例えば、政府が「新しく道路やダムを作るぞ」、と公共事業の予算を増やせば、建設業の新たな工事に繋がり売上の上昇に繋がりますし、雇用にも良い影響が出てきます。

逆に政府が支出を減らしていけば、他の民間(家計、企業)の需要が十分でなければ、経済活動に悪影響が出やすくなります。

ポイント:政府は経済に余剰があるとき(失業など)に財政支出を増やすことで、需要を増やし、経済活動を活性化させることができる

一時期安倍総理がキャッチフレーズとして使っていた「アベノミクスの3本の矢」、の一つはこの財政政策です。

国債を発行(国が借金をすること)しながら税金をあげずに政府の支出を増やすことで需要を作り出して、経済を成長させていく、ということです。

金融政策

金融政策はお金の流通に関する政策です。最も私たちに馴染みが深く、かつ伝統的な金融政策の手法は「金利」です。

政策金利

金利はお金を借りるときに支払われなければならない利子で、通貨を発行している国であれば、その国の中央銀行(日本では日銀、アメリカではFRBです)がどのくらいの金利にするか、を定期的に決定しています。これは政策金利と呼ばれます。

一般的には、金利の上げ下げは下記のように働くと考えられています。

  • 金利を上げる→お金を借りるときのコストが上がる→お金を借りる人が減り、投資を控える→経済活動が穏やかになる
  • 金利を下げる→お金を借りるときのコストが下がる→お金を借りる人が増え、投資を積極的に行う→経済活動が活発化される

アメリカの例がわかりやすいです。アメリカは2008年のリーマンショック時に、「これはやばい、需要を喚起しなければ」、ということで一気に利下げを行い、低い利率を5年以上保ちました。

2015年12月には、アメリカの景気が回復してきたことを踏まえて金利を上げ、2019年まで徐々に金利を上げていきました。

2019年には米中の貿易戦争により世界経済の行き先が不透明になった、という理由で方針を転換し、利下げを行いました。

Jiji.comより

金利の引き下げは支払う利子が減るために、企業の収益にはプラスで、株価を引き上げる要因になります。また、投資が活発化するという思惑から、設備投資に関係する企業の株価の引き上げ要因になります。

2019年の米国株はS&P500が 30%近く上がりましたが、その一因はFRBが金利を段階的に引き下げたことがあります。

ポイント:政府は経済活動が加熱しているようであれば金利を上げることで少しブレーキを踏み、経済活動が低迷しているようであれば金利を下げて経済成長のアクセルを踏む

日本は投資を促進するため、リーマンショック以降、金利をゼロ金利で推移させています(現在はマイナス0.1%)。

量的緩和

「量的緩和」という言葉もニュースで良く見るかもしれません。量的緩和は低金利に加えた「非伝統的な」金融政策の手法です。

リーマンショック以降、各国の中央銀行(日本、アメリカ、欧州)は伝統的な金融政策、すなわち金利を下げることで経済を回復させようとしました。

しかし、ゼロ近くまで金利を下げてもなかなか経済は上向かず(たとえお金を借りるコストが低くても、将来の見通しが暗ければあまり消費や投資しようとは思わないですよね)、デフレーション(物価が下がっていくこと)基調は変わりませんでした。

物価が下がるデフレーションの世界ですと、物価の下落から企業の収益は下がっていきますし、そうすると従業員の給料も下がっていき、さらに消費が落ち込み、企業の収益がさらに下がる、という悪循環になりやすくなります。

デフレーションを防ぐため、中央銀行は次の一手を探していました。

量的緩和、はその一手です。中央銀行がお金を大量に市場に供給することで、銀行の貸出を促して、投資を活発化させようとしました。

ざっくりと言えば、「市場をお金で満たすことで景気を良くしよう」です。

下記のような考え方が前提になっています

  • 中央銀行がよりお金を市場に供給すれば、市場におけるお金の総量が増え、インフレーション(物の価格が上がること)が起こるという「期待」が上昇する
  • 中央銀行がお金を大量に供給することで、ゼロ金利が続くという「期待」が生じて、長期的な金利が低くなる。金利が低くなることで企業と人々がより投資・消費をするようになる

別の言い方をすれば、金利をゼロまで下げてしまうとこれ以上下げることはできない(マイナスまで金利を下げることはできますが、別の副作用があります)ところまできてしまったので、別の手法が必要。

そこで出てきたのが量的緩和で、人々の「期待」に訴えることで投資を促進させようという手法です。

ポイント:「量的緩和」、は中央銀行主導で市場にお金を大量に供給することで、市場におけるお金の量を増やし、人々の期待に訴えることで投資・消費を増やし、経済成長を促進させようとする金融政策

「アベノミクスの3本の矢」の2本目は、金利と量的緩和を用いた金融政策です。お金を市場で回りやすくすることで、経済成長を促進させようとしました。

消費・生産性向上のための政策

3つ目は必ずしも財政支出を伴わない、消費・生産性を向上させるための政策です。

これは多岐にわたるために、いくつかの例をあげます

  • スキルのある移民を増やす:国内でお金を稼ぐ・使う人が増えるので、経済成長に繋がる 
  • 就業率を上げる:上と同じ理由で、お金を稼ぐ・使う人が増えると経済成長に繋がります

これらは「アベノミクスの3本の矢」の3本目に当たります。

スキルのある移民を増やすための実際の政策としては、高度専門職ビザの発行や技能実習生で移民を増やすことを行おうとしています。

就業率を上げることについては、働き方改革や高齢者の雇用義務化で就業率を上げようとしています。働いて稼ぐ人が増えれば、その分使う人も増え、経済全体のパイが大きくなる、という考えです。

安倍さんが「女性を活用しよう」、「70歳まで働こう」という政策をすすめているのは、働く人を増やすことで経済を成長させたいためです(高齢者については、社会保障費の削減という目的もありますが。。)。

ここまで述べてきたのが、いわゆる伝統的な(1)財政政策、(2)金融政策、(3)消費・生産性向上のための政策、になります。

実をいうと、為替も政策のレバーの一つとなのですが(特に「固定相場制」、という特定の通貨と為替を固定する場合など)、為替は財政政策、金融政策、消費・生産性向上のための政策に影響を大きく受けることと、先進国はほとんど変動相場制のため、今回は省略します。

MMT (Modern Monetary Theory)とは

米民主党の大統領選有力候補のバーニー・サンダースの政策アドバイザーのStephanie Keltonを元に、MMTをざっくりと説明すると、下記のようになります

  • 自国建て通貨での国債発行に制限はない
  • 過小な財政支出は失業を、過大な財政支出はインフレを引き起こす。
  • 長期的投資(インフラ、教育、ヘルスケアなど)に財政支出を用いて投資すべき
  • 財政赤字は問題ではない

自国建て通貨での国債発行に制限はない

MMTは、通貨が通貨として受け入れられるのは、「国家が納税にその国の通貨が必要である」からだ、と主張します。通貨の価値は信頼によって創造され、その信頼は国家がその通貨で徴税を行なっているから、です。

また、政府と中央銀行は一体となっているとみなします。中央銀行は自国のお金であればいくらでも刷ることができるので(日銀であれば円、FRBであればドル)、下記の考え方が導かれます。

政府が借金しても、中央銀行がその分お金を刷れば返せるので、政府はいくら借金をしても返せなくなることはない

中央銀行が国債を引き受ければ、いくらでもお金を生み出せる、ということです。

過小な財政支出は失業を、過大な財政支出はインフレを引きおこなす

自国建通貨での国債発行に制限がないことから、MMTでは雇用を最大化するまでは国債を発行してでも財政支出を拡大することを勧めています。

これは、雇用の最大化が経済成長に繋がることに加え、失業の影響に対処する社会的コストを防ぐための施策としても良いことだと考えるためです。

一方で、MMTでは際限なく財政支出を拡大することを勧めているわけではありません。特に、雇用が最大化されている(=働きたい人がすでに雇われている)状態でさらに財政支出を拡大させることは、賃金の高騰によるインフレーションや民間から雇用を奪うことに繋がってしまうことから、否定的です。

また、MMTは財政支出がインフレーションを引き起こす可能性があることを認識しており、インフレーションをどの程度引き起こす可能性があるかを検討した上で財政政策を決めることを勧めています。

長期的投資(インフラ、教育、ヘルスケアなど)に財政支出を用いて投資すべき

インフラ、教育、ヘルスケアへの投資は将来の生産性を上げ、潜在的な成長率を引き上げます。これらは公的な投資が必要な領域でもあり、MMTは雇用が最大化されていない状態において、政府が積極的にこれらの領域へ投資することを勧めています。

財政赤字は問題ではない

財政政策を用いて需要を拡大することの有効性は従来の経済学(特にケインジアン)でも主張されており、目新しいものはありません。

しかし、MMTは「自国建通貨で国債を発行している場合、財政赤字自体は問題ではない」、と主張します。つまり、日本であれば円建ての国債、アメリカであれば米ドル建の国債ですね。

この点がいわゆる主流の経済学と比較して特徴的です。

主流の経済学では、財政赤字が蓄積すると

  • 通貨への信頼が揺らぎ、為替が通貨安へ触れやすくなる。通貨安になることで輸入価格が上がり、インフレーションが起きやすくなる
  • 国債への信頼が揺らぎ、市場で国債が売却されることで国債価格が下がる(金利が上がる)ことで、高い金利を通じて景気に悪影響を与える
  • 人々が将来、借金を返さなければいけないことを不安になり、貯蓄をするようになる、つまり消費を抑えることで、経済に悪影響を与える

などの悪影響が生じるとしていますが、MMTはこれらの点に対して、「インフレーションは財政政策を通じてコントロールでき、国債は中央銀行がお金を生み出せば解決できる話であり、雇用の最大化によりむしろ経済成長を加速できる」と反論します。

MMTは政治家にとっては福音のように聞こえるかもしれません。

今までは「これ以上借金が増やせないので、予算はありません」と言うしかなかったのに対して、「雇用がまだ最大化されていないから、財政赤字を拡大してでも支出すべき」と支援者・有権者のために新しい財政政策を導入できるからです。

MMTの疑問点

MMTは財政政策に重きをおいた理論であり、為替と金利についてあまり触れていません。

ドルは基軸通貨であるために、ドルへの信頼が揺らぎ、為替安となる可能性はこの先数十年は訪れないのかもしれませんが、継続した財政赤字が国債価格の下落(=金利の上昇)を招いた場合には、金利の上昇を通じて家計・企業の投資を妨げる可能性があります。

また、財政は下方硬直性(既得権益者である有権者が今まで得ていたものがなくなることに抵抗するため)があるため、そこまで迅速に財政支出を減少させる、あるいは増税して対応できるかは疑問です。

MMTが政治、投資家にもたらす影響

政治にもたらす影響

米民主党、特に有力候補者であるバーニー・サンダース (Bernie Sanders) やエリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren)は国民皆保険を主張しており、財源は富裕層への増税や資産課税で賄う、と主張しています。

一方で、MMTのように「財政赤字は拡大するけれど、米国における問題を解決することに加えて、潜在成長率を上げるからやるべき」という論理は、伝統的に政府による市場への関与を重んじる民主党としては、「使いやすい」議論ですし、共和党のトランプからしても、「使いたい」議論です。

また、MMTが心配するインフレーション率についても、先進国では長期でインフレーション率が低く安定しており、むしろデフレーションが心配されるため、MMTの考え方を適用しやすい環境です。

経済学の主流派から強く批判されていること、財政赤字の容認は「将来世代へツケを回している」という批判を受けやすいことから、大統領選でどこまで明確にMMTへのサポートを明確に述べるかはわかりませんが、米民主党が政権をとった場合にはこの考え方を取り入れる土壌は整っているように見えます。

投資家にもたらす影響

MMTが政治家に取り入れられた場合、政府の支出が拡大し、財政赤字がしばらくの間続くことになります。この支出の拡大で恩恵を受ける産業については、投資家にとって魅力的な産業となります。

例えば、民主党が政権をとり、財政支出を急速に拡大する場合、どのような産業が候補となるでしょうか

  • インフラ(高速道路など)
  • ヘルスケア(国民皆保険による薬・医療機器へのアクセス増加。民間保険にとってはおそらくマイナス)
  • 教育

一方、財政赤字の拡大が為替や金利にどのような影響を及ぼすか、についてはやや不明瞭です。もし継続的な財政赤字の拡大が通貨安を引き起こした場合、日本から米国株へ投資をしている人などは、ドル安(円高)の影響から、円ベースでの資産が目減りする可能性があります。

米国株投資には為替リスクがあり、米国の財政政策次第では為替が動くこともある、と認識しておきましょう。

以上のように、MMTという考え方がどのように政治家、投資家に影響を与えるか、も2020年代の注目ポイントの一つです。

まとめ

  • 政治家が経済成長を目的として使えるツールは、(1)財政政策、(2)金融政策、⑶消費・生産性を上げる政策、の3つ
  • 「特に不況時には、政府が支出を増やすことで経済成長を実現するべき」という考えはこれまでもあったが、恒常的な財政赤字は副作用が多く、避けるべきと考えられてきた
  • MMTは「自国建通貨で国債発行を行なっている限り、財政赤字はインフレーション(物価の値上がり)を生まない限りいくら続けても問題ない」と、恒常的な財政赤字も認めている点が特徴的
  • MMTは、財政支出を増加させて、有権者の票を買いたい政治家にとっては「使いやすい」理論であり、インフレーション率が長期で低位安定している現在、影響力が高まっていく可能性がある
  • 大統領選に勝利した米国の政党がMMTの考え方を取り入れた場合、投資先となる産業は良い投資機会となる

今回の記事の参考図書です、「MMT現代貨幣理論入門」 L・ランダ・レイ他

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メガバンク株(三菱UFJ、三井住友、みずほ)比較 – より魅力的な株はどれか

3つのメガバンクグループ(三菱UFJ、三井住友、みずほ)は高い配当とその知名度から、個人投資家に人気の株です。しかし、この3つのグループの違いを理解されて、株式を購入されていますでしょうか?

3つの株の中で、実は1つは購入をオススメできず、他2つの株の方がより魅力的です。今回の記事ではメガバンクの事業、財務を比較することで、その違いについて説明していきます。

この記事を読むとわかること

  • メガバンク3グループはどれも高配当かつ株価の指標上は割安という点で共通しているが、事業内容、海外比率で異なる
  • ●●●は利益率の低さ、成長領域である海外比率の低さ、国内での成長領域であるクレジットカード・消費者金融ビジネスが傘下にないことから、他2グループと比べて、投資対象としての魅力度は低い
  • ●●●は自社株買い、累進配当政策、と株主への利益還元に最も積極的であり、高配当株として魅力的
  • ●●●はインドネシアのバンクダナモンの減損で2,000億円の赤字を計上する予定で、通期目標達成は難しい。ただし、減損はビジネスに影響はないため、株価が調整されたら買い時になる可能性がある

2019年上期の業績比較

「3大メガバンク」と言われますが、実は規模でかなりの差があります。

項目 三菱UFJ 三井住友 みずほ
連結粗利益(億円) 19,733 13,832 10,307
経費(億円) 13,420 8,587 6,705
連結業務純益(億円) 6,313 5,546 3,488
経費率 68.0% 62.1% 65.1%
親会社株主純利益(億円) 6,099 4,372 2,876

粗利益、純利益の額で並べると、三菱UFJ、三井住友、みずほの順となり、実は三菱東京UFJの粗利益、純利益はみずほの2倍近いです。

経費率は三井住友銀行が最も低く62.1%で、みずほは65.1%、三菱UFJは68%で、三菱UFJが最も高くなっています(=利益率が低い)

利益率だけを見ると、「三井住友フィナンシャルグループは他2行に比べて、事業のポートフォリオが良い、または利益率改善のための改革が進んでいる」と言えます。

項目 三菱UFJ 三井住友 みずほ
上期親会社株主純利益(億円) 6,099 4,372 2,876
通期純利益目標(億円) 9,000 7,000 4,700
通期進捗率 68% 62% 61%

上期の進捗率では三菱UFJが最も高くなっており、みずほが最も低くなっています。三菱UFJ、三井住友、みずほ、3グループ全てで市場部門が想定よりも高い利益を出したため、進捗率は50%を大きく上回っています。

ただし、後述するように三菱UFJは2,000億円の減損を次の四半期決算で発表予定ですので、それを考慮すると実質の達成率は約45%と半分未満です。

メガバンクの事業比較

メガバンクは銀行業以外にも信託銀行、証券、アセットマネジメントなどのビジネスも保有しています。

  三菱UFJ 三井住友 みずほ
銀行
信託銀行
証券
クレジットカード  
消費者金融  
アセットマネジメント
研究所

大きな違いは三菱UFJ、三井住友はクレジットカード(UFJニコス、三井住友カード)と消費者金融(アコム、プロミス)のビジネスを持つのに対して、みずほは保有していない点です。

これが、リテール事業の売上と収益率に差を生んでいます。

リテール事業本部

リテールはいわゆる貸出や証券販売などの部署です。店舗やATMに加え、多数の人を雇用しているために、固定費が重いビジネスになっています。

項目 三菱UFJ 三井住友 みずほ
業務粗利益 (億円) 7,319 6,142 3,223
経費 (億円) 5,940 5,039 3,280
業務純益 (億円) 1,379 1,112 8
経費率 81% 82% 102%

※ 数字は以下の事業部より:三菱UFJ = 法人・リテール事業本部、三井住友 = リテール事業部門、みずほ=リテール・事業法人

三菱UFJ、三井住友はどちらとも売上がみずほの2倍近くあり、20%近い利益が出ています。

国内のリテール事業は、利ざやの縮小により、銀行のビジネスだけでは儲けられない状態となっています。

三菱UFJと三井住友の2グループとみずほで差がある大きな理由の一つは、三菱UFJ、三井住友は利益率の高いクレジットカード、消費者金融のビジネスを保有しているのに対して、みずほは保有していないからです。

  三菱UFJ 三井住友 みずほ
決済ビジネス(クレジットカード) 1,575 2,099 0
消費者金融 1,475 1,540 0
合計 3,050 3,639 0

もう一つの理由は店舗やATMの合理化の進み方が、みずほは他2社に比べて遅れているためです。

一例を挙げれば、三菱UFJと三井住友は相互でATMを利用できるような取り組みを行なってATM数の削減を行う予定ですが、みずほはまだパートナーを見つけられていません。

みずほは他企業との提携により上位2グループに追いつこうとしていますが、リテール事業では幅広い金融事業をグループ内に子会社として取り込み、「ユニバーサルバンク」化ができている三菱UFJと三井住友の方が一歩先を行っています。

ホールセール(国内法人向け)

コーポレート 三菱UFJ 三井住友 みずほ
業務粗利益(億円) 2,780 3,114 2,219
経費(億円) 1,627 1,396 1,043
業務純益(億円) 1,153 1,960 1,185
利益率 41% 63% 53%

※ 数字は以下の事業部より:三菱UFJ = コーポレートバンキング事業本部、三井住友 = ホールセール事業部門、みずほ=大企業・金融・公益法人

事業部により含まれている顧客とビジネスが異なるために単純比較はできませんが、似た事業部を比較してみると、ここでも三井住友の利益率の高さが光ります。

市場部門

市場部門はセールス・トレーディングなどを扱う部門です。こちらも単純比較はできませんが参考までに。

項目 三菱UFJ 三井住友 みずほ
業務粗利益(億円) 3,519 2,409 2,315
経費(億円) 1,383 287 1,034
業務純益(億円) 2,136 2,279 1,269
利益率 61% 95% 55%
市場部門利益の全体に占める割合 35% 52% 44%

※ 数字は以下の事業部より:三菱UFJ = 市場事業本部、三井住友 = 市場事業部門、みずほ=グローバルマーケッツ

あまりに利益率が異なることから、高い確率で三菱UFJ、三井住友、みずほの事業部に含まれている事業は、同じ「市場事業」であっても異なると想定されます。

ただし、絶対値をみると、3グループとも利益率は50%を超えています。また、市場部門利益の全体に占める割合は3グループとも1/3を超えており、三井住友にいたっては50%を超えています。

市場部門の利益、特にセールス・トレーディングはその性質上、変動しやすいです。2019年前半は市場が良い方向にいき、メガバンク3グループにとって好ましい結果になった、と言えます。

国際事業

項目 三菱UFJ 三井住友 みずほ
業務粗利益(億円) 5,812 3,298 2,080
経費(億円) 4,071 1,770 1,207
業務純益(億円) 1,740 1,789 931
利益率 30% 54% 45%

※ 数字は以下の事業部より:三菱UFJ = グローバルコマーシャルバンク・グローバルCIB、三井住友 = 国際事業部門、みずほ=グローバルコーポレート

海外事業では三菱UFJが最も売上粗利益が多く、みずほの約3倍です。

面白いのは純利益で見ると、三井住友の粗利益は三菱UFJの55%程度なのに関わらず、利益率の違いから純利益では三菱UFJよりも高い点です。

全ての事業を通じて、三井住友グループは利益率の高さが際立ちます。

項目 三菱UFJ 三井住友 みずほ
上期粗利益 (億円) 19,733 13,832 10,307
内海外部門(億円) 5,812 3,298 2,080
海外部門粗利割合 29% 24% 20%

粗利益ベースで見ると、三菱UFJは粗利益の29%が海外で、最も国際化が進んでいます。三井住友は次で、24%。みずほは三番手で20%です。

三菱UFJ-バンクダナモンの減損

三菱UFJは2019年12月30日にインドネシアのバンクダナモンの減損で2,034億円の赤字を計上する予定です。これにより、次の四半期での利益は大幅に減少すると見込まれています。

この2,000億円の減損により、三菱UFJの通期目標の9,000億円の純利益達成は厳しくなると予想されます(含み益のある株式を大量に売って、無理やり利益を計上する可能性もありますが)

ただし、バンクダナモン自体のビジネスは公開されている範囲では順調に推移しているように見えますし、そもそも株価が5月に下落した時点でいつ減損発表があるか、の時期の問題だけでしたので、株価にはすでにこの情報は織り込まれていると予想されます。

減損はキャッシュフローには影響が出ないことは忘れないようにしましょう。

事業比較まとめ

  • 三井住友フィナンシャルグループはどの事業でおいても3グループの中で最も経費率が低く、魅力的な利益構造をもつ
  • 最も国際化が進んでいるのは三菱UFJフィナンシャルグループで、粗利の約30%が海外から。時点が三井住友で粗利の約25%が海外から。みずほは最も国内ビジネスの割合が大きく、海外割合は20%。
  • 国内においては三菱UFJ、三井住友は利益率の高い決済ビジネス(クレジットカード)、消費者金融ビジネスを傘下に持つためにリテールの経費率がある程度抑えられているが、みずほはこれらのビジネスを持たないためリテールは赤字。
  • 三菱UFJはバンクダナモンの減損2,000億円により、通期での純利益達成目標は難しくなる見込み

株主還元の施策

自社株買い

自社株買いは発行済の株式数を減らすため、一株あたりの利益 (Return on Equity)が増え、株主への利益となります。

ROE (Return on Equity – 一株あたり利益)は投資家が、対象となる企業が、資本をどの程度有効に利用しているかを見るときに注目する指標であり、3つのメガバンク共に中期目標を立てています。

三菱東京UFJは6年連続となる自社株買いを行う予定で、三井住友は2年連続となる自社株買いを行う予定の一方、みずほは自社株買いを行なっていません。

また、規模においては三井住友が1,000億円で発行済株式の2.3%を買い取る一方で、三菱UFJは2019年は規模を縮小し、発行済株式の0.8%程度にとどめています。

  三菱UFJ 三井住友 みずほ
通期業績目標 (億円) 9,000 7,000 4,700
自己株式 (億円) 500 1,000 0
自社株買いの発行済株式に占める割合 0.77% 2.30% 0

配当金

配当は、経営者が「事業に投資を行うよりも株主に利益を分配した方が良い」、と判断した時に行われます(つまり社内に魅力的な投資機会が存在しなくなった時)。一般的に、銀行のような成熟産業では配当性向が高くなります。

3メガバンクともに、配当の利回りは4%を超えており、かなりの高配当です。また、配当性向も30%を超えており、最も高いみずほは40%になります。

  三菱UFJ 三井住友 みずほ
株価 (円) 593 4038 168
配当 (円) 25 180 7.5
配当利回り 4.2% 4.5% 4.5%
通期純利益目標(億円) 9,000 7,000 4,700
配当金額 (億円) 3,240 2,520 1,900
配当性向 36% 36% 40%

配当性向が高いことは、今後の増配の余地がそれだけ小さくなるということで、必ずしも良いことではありません。

特にみずほは過去の金融危機の際に減配して以来、配当水準を据え置いていますので、現在の配当利回りが高くとも、増配の可能性が低いということは意識しておく必要があります。また、目指す配当の水準についても明言していません。

みずほフィナンシャルグループ ホームページより

一方、三菱UFJと三井住友は順調に配当を増加させていっています。両者ともまだ配当性向が36%程度であり、どちらも中期的に(2023年度程度まで)に配当性向40%を目指すと宣言しているため、利益が伸びずとも、今後10%程度の増配の余地があります。

MUFG 「2019年度中間期決算投資家説明会」より
SMBC 「2019年度上期決算 投資家説明会」より

よって、高配当を目的に投資をするならば、三菱UFJまたは三井住友の方が望ましいと言えます。

株式評価指標での比較

メガバンク3行で共通していますが、PER、PBRで割安です。

  三井住友FG 三菱UFJFG みずほFG
株価(円) 4,038 593 168
時価総額(億円) 55,449 81,077 42,736
予想PER 8.0 倍 8.9 倍 9.1 倍
PBR 0.51 倍 0.46 倍 0.48 倍
ROE 6.9 % 5.4% 1.1%
ROA 0.36 % 0.28 % 0.05 %
自己資本比率 5.3 % 5.2 % 4.3 %

時価総額では三菱UFJがトップですが、ROEで言えば三井住友FGが最も良く、三井住友FGの配当利回りも最も高いです。

株主への利益還元まとめ

  三菱UFJ 三井住友 みずほ
通期純利益目標(億円) 9,000 7,000 4,700
自社株買い+配当(億円) 3,740 3,520 1,900
総還元率 42% 50% 40%
  • 自社株買いと配当を合わせ、三井住友の総還元率は三井住友が50%となり、最も株主への利益還元に積極的
  • 三井住友は配当利回りが4.5%と最も高く、かつ配当性向の上昇予定から、今後も10%程度の増配の余地があり、高配当として魅力的
  • みずほは現状の配当性向がすでに他2社の目標である40%に達していることに加え、他2社と比べると、自社株買いを行なっていない点、配当性向の目標値を公言していない点、で相対的に株主への還元にあまり積極的ではない

まとめ

  • メガバンク3グループはどの株も高配当かつ株価の指標上は割安という点で共通しているが、事業内容、海外比率で大きく異なる
  • 「みずほ」は経費率の高さ、成長領域である海外比率の低さ、国内での成長領域であるクレジットカード・消費者金融ビジネスが傘下にないことから、他2グループと比べて、投資対象としての魅力度は低い
  • 「三井住友フィナンシャルグループ」は自社株買い、累進配当政策、と株主への利益還元に最も積極的であり、高配当株として魅力的
  • 「三菱UFJ」はインドネシアのバンクダナモンの減損で2,000億円の赤字を計上する予定。ただし、減損はビジネスに影響はないため、株価が調整されたら買い時になる可能性

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三井住友フィナンシャル(8316):累進配当・高配当銘柄の株価分析

累進配当銘柄であり、かつ配当利回りが4%を超えていることから、高配当の株を探している方に人気の三井住友フィナンシャルグループ (8316)。一株あたりの利益 (PER)や純資産(PBR)で見ると、株価は割安です。

どうしてこのメガバンクの株は割安で放置されているのでしょうか。また、購入する価値があるのでしょうか。事業、財務の観点から、分析していきます。

この記事を読んでわかること

  • 粗利益ベースで、三井住友フィナンシャルグループは50%を占める「成長領域」と、残りの50%の成熟した市場の中で停滞しているビジネス」の組み合わせ
  • 安定したキャッシュ創出能力と高配当が魅力。増配、自社株買いの余地もあり、経営陣が株主還元に積極的な点も評価できる。
  • 国内の銀行・証券ビジネスの成長の余地が限られていること、IT企業に事業基盤を侵食される可能性があること、「中小企業金融円滑化法」の後遺症で不良債権が景気後退化で増えることが予想されること、がリスク

三井住友フィナンシャルグループの中期経営方針

三井住友FG「2019年上期実績の概要」より

三井住友FGの中期経営方針 (2017-2019)は、Discipline、Focus、Integration、の3本柱です。

ざっくり言えば、中期計画のキーワードは下記の3つです。

  • ユニバーサルバンク
  • 海外展開
  • リテール事業の合理化

ユニバーサルバンク

ユニバーサルバンク、とは銀行業務のみならず証券、信託、カードローンなど、金融にまつわる業務をまとめて提供できるような銀行をさします。

銀行業だけでは差別化が難しいので、「ワンストップ」でお客さんに必要な機能を提供できるようになることで、他の銀行と差別化しようという戦略です。

三井住友FGは傘下にこれらの銀行業務以外のビジネスを保有しており、粗利益ベースではすでに40%以上がこれらの銀行以外からのビジネスです。特に資金需要が限られており、競争も激しい国内の銀行業務での売上は低迷しているため、銀行以外のビジネスにも注力していく、という方向です。

海外展開

資金の貸出需要は経済成長率が高い国・地域の方が高くなるため、銀行業は新興国での成長余地が大きいです。

三井住友FGはアジア地域に注力しており、特にインドネシアには銀行へ出資を行うなど、積極的にビジネスを拡大しようとしています。

三井住友FGの海外ビジネス比率は粗利ベースでは25%です。

リテール事業の合理化

より多くの人々がオンラインでお金を扱い、証券の売買も行うようになりました。

それにより、銀行や証券の「全国津々浦々に支店を持ち、人を配置し、サービスを行うこと」は強みというよりも、むしろコスト高となり、弱みになってきました(メガバンク、地銀のみならず、野村證券をはじめ、店舗型金融機関が抱える悩みです)

三井住友FGは店舗の統廃合に加え、付加価値の低い定型的な業務をRPA (Robotic Process Automation)を用いることで効率化し、そこから生まれた余剰な時間をより営業など付加価値のある業務に割り振ることで新規採用の抑制するなど、全体的にコストを下げようとしています。

三井住友FGの事業概観

三井住友FGは事業をリテール、ホールセール、国際、市場、の4つに分けています。

リテール事業

リテールは以下の5つの消費者向けビジネスの集合体です

  • 預金・貸出を行う三井住友銀行
  • 証券を販売するSMBC日興証券
  • 信託業務を行う(相続相談など)SMBC信託銀行
  • 消費者金融のSMBCコンシューマーファイナンス(プロミス・モビット)
  • クレジットカード・カードローンを販売する三井住友カード

預貸金収益(住宅ローンなど)と資産運用ビジネス(証券の販売やアセットマネジメントビジネスなど)が前年比でマイナス成長な一方、クレジットカードとコンシューマーファイナンス(消費者金融)のビジネスは順調に伸びています。

三井住友銀行・SMBC日興証券・SMBC信託

三井住友FGの消費者向けの銀行、証券、信託は市場全体の伸びが悪い上に競争が激しく、売上は伸び悩んでいます。

銀行の貸出のビジネスの売上は単純化すれば

(貸出の金利 − 仕入れの金利)x 貸出の金額 – 回収不可能な額(不良債権)

です。仕入れの金利は預金者の金利を考えるとわかりやすいです。

つまり、100万円預けてくれる人に年利0.1%の金利を支払い、そのお金を1万円ずつ、100人の人に、年利2.1%の金利で貸し出しをしたとします。もし皆が返却してくれれば、

(2.1% − 0.1%) x 100万円 = 2万円

になります。100万円を元手にした利益率は2%ですね。

ただ、ここで1人が元本を返せないようになる(不良債権になる)と、売上は2万円- 1万円 = 1万円、と一気に半分になります。2人返せないと、売上は0になります。

ごの例では、100人中1人が返せないだけで売上が半分になり、2人返せないと0になります。

近年では銀行は競争が激しく、貸出金利と預金者の金利の差(スプレッドと呼ばれます)はどんどん縮小して、大企業向けの国内のスプレッドは1%を切ります。つまり、この例ですと、100人のうち1人でも返せなくなったら、赤字になります。

だから、不良債権を出来るだけ発生させないことが銀行にとっては大事であり、リスクが高い相手には貸せないのです。

三井住友銀行は実際、預金の55%程度しか貸出をしておりません。これは、資金を貸し出せる相手はすでに借りており、追加で貸し出せるお客さんに乏しいということを示唆します(=貸出で売上を伸ばす余地が少ない)

売上が伸び悩む状況で利益を伸ばしていくためには、コストを削る必要があります。

売上 − コスト = 利益

三井住友FGは銀行・証券・信託をまとめて一つの店舗にするグループ共同店舗や、ITを利用して人員をより削減した店舗の導入、三菱東京UFJ銀行とATMの共同利用を行い、ATMの削減を目指しています。

過去3年間で、経費は中期目標を上回る500億円以上が削減される予定です。500億円は2016年度の経費の約2.7%にあたります。

2019年上期の数字を見る限り、経費コントロールは確かに中期経営計画を上回る進捗ですが、ビジネスを増収にするまでは足りていません。

三井住友FGの利益、そして株価を下に引っ張っているのはこの「売上を伸ばす余地が少なく、固定費の重い消費者向けの銀行・証券・信託ビジネス」であり、より迅速な事業の合理化が必要となります。

SMBCコンシューマーファイナンス(プロミス・モビット)

SMBCコンシューマーファイナンスは消費者金融の部門です。三井住友FGの粗利益で10%、純利益で15%を占めます。これがどのようなことを意味するかと言うと、「利益率が高い」、と言うことです。

消費者金融の事業は2010年代前半に業界の貸出金利や過払金が問題となり、貸出金利に上限をつけられた上、業界全体の評判が落ち、5年前まで市場は下落傾向にありました。

5年前に市場は底をうち、現在は市場全体が微増しています。

アコムのホームページより(消費者向貸付残高の推移(貸金業者))

SMBCコンシューマーファイナンスも市場の成長の追い風を受け、順調に成長しています。

消費者金融においては三井住友FGは

  • 市場が伸びていること
  • すでに市場が寡占状態にあり(少数のプレイヤーが横を見ながらビジネスを行なっている)、高い貸出金利を維持できていること
  • プロミス・モビットという顧客認知度の高い2つの強いブランドを持っていること
  • 日本は金融業への規制が厳しく、LINEなどの新しいプレーヤーが個人間の貸出サービスを始めるハードルが高いこと

から、今後も市場の伸びに合わせてビジネスが伸びていくことが期待できます。

三井住友カード(クレジットカード)

三井住友カードは三井住友FGの業務粗利益、業務純利益において共に15%を占めるビジネスです。

特に、クレジットカードのビジネスにおいて、三井住友カードはアクワイアリングで23%のシェアを持つ業界大手であることから、キャッシュレスの市場拡大の恩恵を受けやすいです。

キャッシュレスにはペイペイなどの他業種からの参入もあり競争が激しくなることも予想されますが、クレジットカードほどどこでも使えるようになるまでには、まだかなりの時間がかかると予想されます。

上期も前年同期比+100億円と順調に成長しており、今後の期待が持てるビジネスです。

三井住友FGのビジネスの中で最も成長の早い成長市場の一つであり、シェアの拡大が焦点になります。

ホールセール事業

ホールセール(法人向け)は過去4年、売上も経費も比較的安定しています。

注目すべきは、貸出金利の下げ止まりです。銀行の貸出ビジネスは、日銀のゼロ金利・マイナス金利政策のために貸出金利が下がり続け、貸出ビジネスの縮小と銀行全体の収益率悪化に繋がっていました。

しかし、三井住友FGの貸金収益は2019年上期に10年ぶりに増益に転じています。これが底打ちのサインであるとすれば、今後、金利収益の低下で抑えられていた成長率が多少上向くことを意味するため、良いサインです。

国際事業

国際事業部門はその名の通り、三井住友FGの国外でのビジネスとなります。

国際事業部門の粗利益の割合は約25%で、純利益の割合は約32%となります。

国際業務の方が利益率が高いのは、主に、利益率の低いリテールのビジネスの割合が小さいことと、海外の方がスプレッド(貸出金利と調達金利の差)が大きいことによります。

三井住友FGはインドネシアのBTPN銀行と三井住友銀行を2019年2月に合併させた新会社の株式を保有しており、成長を続けるインドネシアに注力する方針です。

市場事業

市場事業部門は、株式や債権を売り買いすることで利益をあげるトレーディングの部署です。トレーディングは市況に左右されますが、三井住友FGのセールス・トレーディングは2,500億円程度で2016年から安定しています。

特に2019年は好調で、リテール部門での落ち込みをカバーしています。

三井住友フィナンシャルグループ事業分析まとめ

  • リテール部門のうち、銀行・証券・信託は市場の伸びが鈍く、競争も厳しく、三井住友FGの差別化も難しいため、売上が伸び悩み、経費が高止まりしている。経費をどれだけ踏み込んで削減できるかが鍵
  • リテール部門の、消費者金融、クレジットカードは市場が伸びていることに加え、比較的寡占化されており、三井住友FGも業界内で最大手の一角を担っているため、今後も成長が期待できる。この成長分野は粗利益で25%純利益で30%を占める
  • ホールセール部門、市場部門は高い成長はあまり見込めないが、安定している。中小企業向け貸出金利が下げ止まりつつあることがプラス。
  • 国際事業は全体の粗利益で25%、純利益で32%を占める。今後も成長が期待できる領域。
  • つまり、三井住友FGは粗利益ベースで50%を占める成長領域(国際、クレジットカード、消費者金融)と、成熟した市場の中で停滞している残りの50%のビジネスの組み合わせ、と考えられる。
  • 新規のIT企業が技術を元に業界へ参入して、三井住友FGの事業基盤を揺るがす可能性はあるが、日本は規制当局が厳しいため、新しいサービスの普及速度は他先進国に比べて緩やかであると予想される

財務分析

売上・経常利益・当期純利益

三井住友FGの過去5年間の純利益は安定しています。経常利益は1兆1000億円前後、純利益は7,000億円前後で推移しています。

三井住友ファイナンシャルグループ過去5年間の売上・利益推移

2020年3月は減益で、当期純利益が7,000億円の見込みです。これは事業分析から導かれた、半分が成長領域で、半分が停滞・低迷しているビジネスである、という結論と整合的です。

キャッシュフロー

銀行業はキャッシュが預金者の預け入れという形で入ってくるため、キャッシュフロー表がかなり独特です。

三井住友ファイナンシャルグループ過去5年間のキャッシュフロー

営業キャッシュフローは預け入れと貸出金のズレが大きいため、かなり乱高下しています。投資キャッシュフローも乱高下しており、これは有価証券の売却・償還と購入を行なっていることによります。

財務キャッシュフローは赤字で、これは主に配当、自己株式取得と非支配株主への払い戻しのためです。配当と自己株式取得による株主への還元を強化し始めた過去数年は、赤字額が大きくなってきています。

フリーキャッシュフローは過去2年は6兆円前後で推移していますが、預金が増えて貸出をしないだけでフリーキャッシュフローは増えるので、事業会社の場合と違い、フリーキャッシュフローが増えていても良いこととは限らないので注意が必要です。

配当推移

三井住友FGは累進配当方針(配当を減配せず、増加させていくこと)をとっており、配当はきれいな右肩上がりになっています。

三井住友ファイナンシャルグループ配当推移

2020年3月期の配当は180円が予定されており、12月29日時点での株価4,065円からすると、配当は4.4%となります。これは日本の上場企業の中ではかなり高い水準になります。

予想配当利回りと市場の中での位置付け

三井住友FGの発行済株式数が14億株のため、180円の配当のためには

180円 x 14億株 = 2,520億円

が必要となります。2020年3月期の当期純利益が会社予定の7,000億円である場合の配当性向は

2,520億円 ÷ 7,000億円 = 36%

となります。三井住友FGが中期戦略通りに配当性向40%にするとすると、2,800億円分の配当となるため (7000億円 x 40%)、一株あたりになおすと200円となります。

つまり、三井住友FGが予定通りの配当政策をとるとすると、一株あたり200円になる(20円の増額)可能性があります。

ただし、ROE(Return on Equity)向上のためには自社株買いの方が効果的なため、三井住友FGは後述するような自社株買いの方を優先させる可能性があります。

自社株買い

三井住友FGは自社株買いを行なっており、2019年度3月期は700億円行いました。2020年3月期は1,000億円の自社株買いを行う予定です。

1,000億円の自社株買いは発行済株式数の2.3%にあたり、全株償却予定のため、その分だけ一株あたりの利益が増えることになります。

配当での2,500億円と自社株買いの1,000億円の合わせて3,500億円を株主に還元する方針(純利益の50%)は、自社内で成長の余地が限られる成熟企業としては株主の方を向いた経営であり、評価できます。

政策保有株の売却

三井住友FGは政策保有株(いわゆる株式の持ち合いで保有している株)の売却を行なっており、これが毎年1,000億円以上となっています。

三井住友FGは2019年時点でも1.4兆円の政策保有株式を保有しており、2020年を目処に株式のCET1に対する比率を14%にする、と言っています。

これを具体的な数字に直します。三井住友FGのCET1比率の目標が10%でリスクアセットが80兆円であることから、目標としている株式保有額は1.12兆円になります。

8兆円 x 14% = 1.12 兆円

現状の保有額が1.4兆円であることから、リスクアセットを増やさない前提では、ざっくりと差分の2,800億円を2019年、2020年で売却することが目標だよ、と言っていることになります。

もしこの売却して得た資金を自社株買いに回すのであれば、税金を考慮しても、4%以上の発行済株式の自社株買いになります。

財務分析のまとめ

  • 三井住友FGの利益は過去5年で比較的安定している。良く言えば安定して利益を生み出している企業であり、悪く言えば、成長のない成熟企業
  • 配当利回りは4.4%と現状でも高い上に、配当性向を中期戦略目標どおりの40%まで引き上げるのであれば、さらに10%の増加の可能性がある
  • 自社株買いを2年連続で行い、ROEを上げようとしており、株主重視の姿勢が評価できる
  • 政策保有株式の売却を進めており、2020年末までに追加で2,000億円以上が売却される可能性がある。この資金が自社株買いに使われれば株主還元となる

三井住友フィナンシャルグループを買う理由

安定した高配当と自社株買い

3大メガバンクの一つであり、銀行以外のユニバーサルバンク化と海外展開も進んでいる企業であるため、一定程度の成長の可能性があります。

また、累進配当政策を採用しており、減配の可能性は低いです。財務分析の項で述べたように増配の余地もあります。また、政策保有株式の売却によりキャッシュも生めることもあり、2020年度に自社株買いが継続される可能性も高いです。

高配当狙いであれば選択肢の一つです。

各指標(PER、PBR)で割安

メガバンク3行で共通していますが、PER、PBRで割安です。

  三井住友FG 三菱UFJFG みずほFG
株価(円) 4,038 593 168
時価総額(億円) 55,449 81,077 42,736
予想PER 8.0 倍 - 倍 9.1 倍
PBR 0.51 倍 0.46 倍 0.48 倍
予想配当利回り 4.5 % 4.2 % 4.5 %
ROE 6.9 % 5.4% 1.1%
ROA 0.36 % 0.28 % 0.05 %
自己資本比率 5.3 % 5.2 % 4.3 %

時価総額では三菱UFJがトップですが、ROEで言えば三井住友FGが最も良く、三井住友FGの配当利回りも最も高いです。

「売上を海外とクレジット・消費者金融ビジネスに注力することで伸ばし、採算の悪い消費者向け銀行・証券・信託は合理化を進めていくことで利益を伸ばしていく」、という方向性もクリアであるため、バリュー株として購入する選択肢はあるかと思います。

三井住友フィナンシャルグループを買わない理由

成長の余地が限られている

三井住友FGはいわゆる急成長している市場でビジネスをしている銘柄ではありませんし、海外比率も粗利ベースで25%と、海外展開もグローバル企業までの道半ばです。

そのため、三井住友FGの収益は日本全体の経済成長に大きく影響されますし、日本経済は人口減少の影響による潜在成長率の低下により、低成長が予想されています。

3年で収益が2倍になるような株ではないため、キャピタルゲイン狙いであれば他の株の方が良い選択肢だと思います。

将来的にビジネスの基盤をIT企業に奪われるリスク

いわゆるフィンテックと呼ばれるIT企業による金融業界への参入により、三井住友FGの抱える事業との競争が激しくなることが予想されます。

例えば、信用スコアを用いた個人への貸出はアリババなどが行なっていますが、これが日本へ来ると、日本の消費者金融のビジネスにとって脅威になる可能性があります。

ただし、金融は規制業種であり、フィンテックのプレーヤーは金融庁の認可を得た上でビジネスを行う必要があり、普及の速度が海外に比べて緩やかになる可能性はあります。

景気後退期に不良債権が増加するリスク

2019年3月に、10年続いた悪名高い「中小企業金融円滑化法」(モラトリアム法)が終了しました。この法案はざっくり言えば、通常であれば貸し続けることがためらわれる中小企業にさえ銀行に貸出の継続を求める、いわゆる「ゾンビ企業を生かし続けるための法律」です。

10年続いたこの法案のため、日本の中小企業には正常貸出先ではないゾンビ企業が倒産を免れて多数存在していると考えられ、これらの企業の倒産・清算件数が増えれば、不良債権の増加となって銀行の収益に跳ね返ってきます。

このリスクは景気後退期に特に顕在化しやすいため、消費税増税の影響が出てくる2020年に不良債権の増加により、各地銀・都銀の収益が減益となる可能性があります。

まとめ

  • 粗利益ベースで、三井住友フィナンシャルグループは50%を占める「成長領域」と、残りの50%の成熟した市場の中で停滞しているビジネス」の組み合わせ
  • 安定したキャッシュ創出能力と高配当が魅力。増配、自社株買いの余地もあり、経営陣が株主還元に積極的な点も評価できる。
  • 国内の銀行・証券ビジネスの成長の余地が限られていること、IT企業に事業基盤を侵食される可能性があること、「中小企業金融円滑化法」の後遺症で不良債権が景気後退化で増えることが予想されること、がリスク

銀行の比較については、こちらの記事もどうぞ。

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