MBA卒業後の進路の選び方

MBA在学中には様々な選択肢が目の前にあり、機会も多い分、卒業後の進路については誰もが悩む点です。今回は進路を選ぶのに役立つフレームワークを、僕の事例を元に紹介します。

僕の卒業後の進路ですが、米系医療機器の会社に就職して、米国に残ることにしました。卒業後にどうするかは、下記のような手順を踏んで考え、意思決定をしました。

Step 1: 価値判断の軸を決める

まず卒業後の進路を考えるにあたり、僕は「目的」(Purpose)、「人間関係」(Relationships)、「金銭」(Finance)の三つの軸で考えました。

「目的」は僕がどのように世界に貢献したいかです。20代の終わりに改めて自分の人生を振り返って気付いたのは、やはり僕は病気を抱えた人やその家族・友人が治療法が見つからずに苦しんでいるのが許せないし、そのことに対して考えたり動いている時に充実感を感じるということです。

だから、世界中の人が自分の病気の治療法を見つけられるような世界にしたいと思いますし、「その目標に繋がる仕事」というのを第一の項目として入れました。

第二に、僕はテクノロジーの力を信じており、テクノロジーを通じてその目標を達成したいと考えているため、「テクノロジーに関わる仕事」という項目も加えました。

第三に、僕は自分でコントロールしたいタイプなので、「事業責任者として動ける」という項目を加えました。

最後に、僕は多様なバックグラウンドを持つ人と働いている時に特に楽しさを感じるため、米国、ロンドン、シンガポールなど「英語圏でかつ世界中から人が集まっている場所で働けること」を第四項目に加えました。

「目的」としては以上の「病気の人を治療する・もしくは治療法を見つけやすくできるか」、「テクノロジー × ヘルスケアか」、「事業責任者か」、「場所」の4つを評価項目としました。

次に「人間関係」ですが、これも大事な要素だと考えました。まず、働く場所は自分の価値観と合うようなカルチャーにしたい、もしくはそんなカルチャーで働きたいので、「企業カルチャー」を第一の項目として入れました。

次に、「一緒に働く人が尊敬できるか、一緒に働いていて楽しいか」を二つ目の項目にし、三つ目としては、「僕の家族が幸せか」、を入れました。

最後に、生活をする上で必要となる「金銭」も評価軸に入れました。僕の場合、「目的」で4つ、「人間関係」で3つ、「金銭」で1つ、の計8つが評価の軸となった。

Step 2: 価値判断に重み付けをする

次にしたことは、それぞれの項目に「重み」をつけることです。僕の場合、計8つの項目に、合計で100%となるように重みをつけました。具体的には「目的」の4つで40%、「人間関係」の3つで40%、「金銭」で20%の重みをつけました。

重み付けの仕方は人により大きく異なると思います。

Step 3: 選択肢を評価する

卒業後の選択肢のそれぞれについて、それぞれの項目に「1(満たしていない)」から「3(満たしている)」まで数字を入れて、点数を洗い出しました。

すると、合計点数が出てきます。進路の選択肢A、B、Cについて具体的に評価してみると下記のようになります。下記の例だと、Aが最も良い選択肢となります。

Step 4: 再検証

評価軸に抜け漏れダブりがないか、自分の重み付けが適切か、卒業後の選択肢がまだ他にないか、を考えました。

大枠は以上のように考えましたが、特にStep 4では妻も含め、色々な人に相談をしました。

僕の場合、特に迷ったのは起業という選択肢をどう考えるかです。

アメリカで起業するという選択肢

起業する場合、場所の選択肢としてはアメリカか東京の大きく二つを考えました。現状、インターナショナル生でアメリカで卒業後も起業して残る道はあるが、かなり狭いです。

卒業後にはOPT (Optional Practical Training)という期間が1年間あり、その間に多くの場合は起業家(E2)ビザ取得を目指すことになります。E2ビザ取得には起業家として成功してアメリカに貢献することを示す必要があり、この評価基準は、資金調達、アメリカ人の雇用、ビジネスプランの妥当性が必要です。

アメリカは当然のことながら起業家志望も多く、競争も激しいため、言語がネイティブでない、文化が違う、永住権がない、の三つの壁を乗り越えて相当額の資金調達をして雇用を生むのは、かなり細い道だと感じました。

資金調達できなければ、米国登記した会社や開発したものを置いて国外へ出ないといけないです。夏に作成した医療用アプリですが、病院・クリニックにサービスを販売することの困難さを理解できていなかったこと、規制と訴訟リスクの高さを過小評価していたことから、残念ながら公開停止しました。僕の場合、医療分野の経歴があるわけでもなく、医療業界という特殊な業界で卒業後すぐに起業できるだけの自分ならではの強みを見い出すことができませんでした。

また、自分一人ならば「えいや」で残る手もあったかもしれないですが、留学で貯蓄も減っていたことと家族のこともあり、そこまでのリスクを取りたくもなかったのも本音です。他のアジア人の米国での起業家を見ると、米国企業に就職して在住数年→グリーンカードを申請→起業、のパターンが多く、そちらの方が現実的だと感じました。よって、米国ですぐに医療分野での起業という選択肢は切りました。

東京で起業するという選択肢

東京に帰って起業するという選択肢も考えました。こちらは市場の土地勘もあるし、ネットワークもあるし、起業する上では良い環境です。起業は失敗を繰り返して、それでも諦めずに続けて何度かやってようやく成功するものだと思っているので、卒業後できるだけ早いうちに始めることには大きなメリットがあります。

海外で、勝負していたい

一方で、せっかくMBAを出て海外にいますし、もう少し海外で揉まれてチャレンジを続けたいという気持ちも強かった。米国の良いところは競争がより激しく、優秀な人が集まっている上、自分自身が語学、文化、土地勘でハンディキャップを負っており、より成長できる環境だと感じました。

また、特に医療テクノロジーの最先端はやはり米国で、より多くのことが学べるだろうという好奇心もあります。妻もまだ昨年に米国に来たばかりでこれから大学院に行く考えもあり、米国でまだ過ごしたいという思いもありました。これらの理由から、卒業後すぐに東京へ戻ることには躊躇がありました。

これらを考慮して考えた結果、選択肢Aの米国医療機器企業に就職、が最も点数が高かったです。妻の希望もありますが、何よりも僕の好奇心も米国に残りたいと告げていました。

就職先が、新商品のProduct Managerという僕がこれまでやってきたことであり、かつ最も情熱を注げる職をオファーしてくれたことが、大きな理由の一つでした。

アメリカで、優秀な人たちと働くというのはどんなものなのだろう。最先端のヘルスケアテクノロジーはどうなっているのだろう。新しいものを生み出せて、世界中の患者さんに良いインパクトを与えられたら、それはどんなに素晴らしいことだろう。フレームワークを用いて整理して考えましたが、最後は自分のワクワク感に沿って決めました。

これらが僕が意思決定をした手順です。MBAにこれから行く人・在籍中の人にとって少しでも参考になると嬉しいです。

HBS Show

HBSでは毎年4月にHBS Showという学生主体のミュージカルがキャンパス内で行われる。これがまた非常に楽しい。脚本、作詞、演出、振り付け、小道具、演技、演奏、スポンサー集め等々、全て学生により行われており、いかに才能豊かな人材がHBSにいるかを実感させてくれる。2016年の例はこちらで、リンクを辿れば大体の様子が伝わると思う。

歌は原曲の歌詞を変えてHBSに関するネタが豊富に盛り込まれており、HBS生がすごく楽しめる内容となっている。具体的には、1年目の必修科目のケースに含まれるProtagonist(登場人物)に関するものであったり、HBSにおける恋愛や、普段の生活ではpolitically incorrectで言えないような事柄など。1年目、2年目の学生がどちらも舞台に立っているため、自分のセクションメイトや友人の思わぬ一面も楽しめ、約2時間半の公演を全く飽きずに鑑賞できるだろう。

HBSにおける最大のエンターテインメントの一つであり、毎年の評価も非常に高い。僕も2016年、2017年のどちらの公演も観たが、どちらも素晴らしかった。ぜひ会場で観て欲しい。

MBA取得後にアメリカ就職する時の3つの壁とその越え方

アメリカのビジネススクールへ留学するアメリカ人以外の学生にとって、卒業後の進路として魅力的な選択肢として米国での就職があります。分かりやすいメリットとしては、以下の5つがあります。

  1. MBA採用という仕組みをすでに多くの企業が持っており、昇進速度の早いLeadership Development Programなど魅力的なプログラムが多い
  2. 給与水準が他国よりも高い($135,000/yearがHBSでの卒業後の平均給与、これにボーナスや転勤費用補助などその他の福利厚生が加わる)
  3. 労働環境が相対的に良い(米国では日本よりも労働時間が相対的に短い職場が多い)
  4. 世界中から優秀な人が集まっており、働いていて楽しい
  5. 子育てをする環境としても良い(高額だが、保育所やNannyなど子供を預ける仕組みが整っている上に良質な教育機会が多い)

一方で、これらのメリットを求めてインターナショナル生が米国労働市場に殺到するため、競争は結構厳しく、米国就労には3つのハードルを超える必要があります。ハードルとその越え方について説明します。

ビザ(Visa)のハードル

最も大きなハードルはビザの壁です。アメリカ国籍や永住権(グリーンカード)を保有していない場合には、米国で就労し続けるためには労働ビザが必要です。

米国の大学を卒業したインターナショナル生の場合、OPT (Optional Practical Training)というプログラムで1年間は労働ビザなしで就労できますが、その期間を超えて就労しようとすると一般的にはH1-Bという労働ビザが必要となります。

このH1-Bですが、米国人の雇用を守るために年間の発行上限が定められており(20,000が大学院以上の学位保有者の優先枠で、65,000がそれ以外の全て)、それを超えた人数が応募した場合は抽選、とかなり留学生泣かせの作りになっています。

近年では200,000人以上が応募しているために、大卒の資格で応募した場合にはH1-Bが取得できる可能性は1/3以下。加えて、トランプ大統領の政策により、より移民抑制の方向に舵を切ろうとしているために、このH1-Bの制度自体がどうなるのかも不透明です。

ビザは個人にとってもリスクですが、企業にとってもせっかく採用してトレーニングした人材が国外に離れるために離職してしまうということでリスクとなります。おまけにH1-Bは企業にスポンサーしてもらう必要があるために、多くの企業はその手間やコストを嫌がります。

結果として、MBA生をターゲットとした採用枠でも、90%以上の企業はそもそもインターナショナル生は採用しません。残りの10%以下の枠でも一般的にはすでに労働ができることが決まっている米国国籍保有者・永住権保持者、もしくは過去にH1-Bを取得していた留学生(H1-Bの延長、とすれば抽選のプロセスから逃れられる)を採用する方が企業側にとってはリスクが低いため、ビザなしの応募者はそもそもかなりのハンデを負っての戦いとなります。

ビザの問題は個人の力でどうにもできないこともあり、悩ましいです。米国で就労したいという人はH1-Bのシステムが新しい大統領の下でどう変わるかを注視しておいた方が良いでしょう。

アメリカのMBAであれば移民法を専門にした弁護士によるビザに関するセッションが年数回開かれることが多く、個々人の状況に応じたアドバイスも受けられるため、積極的に利用するといいかもしれません。

言葉・文化のハードル

これは言わずもがなですが、米国で就労する場合には英語でコミュニケーションをとれる力があることが大前提となります。インターナショナル生の中でも同じ土俵で戦うのは、多くが高校や大学から米国に来て米国で就業した経験のある人や英語が母語の人なので、彼らの方が英語のレベルが高いです。

加えて、米国文化への理解もコミュニケーションの際に重要となるため、はじめてアメリカに留学に来る留学生には辛い点の1つです。例えば、ネットワーキングの機会でどれだけ会話を盛り上げられるか、は文化への理解度に結構左右されるので、英語が話せてもこの点で難しさを感じるインターナショナル生も多いです。

競争のハードル

ビザと言葉・文化の壁に問題がなかったとしても、米国は世界各地から就労したい人が来ることもあり、そもそもの競争環境が日本よりも厳しいです。

日本での就職活動以上に自分の強みと会社のニーズを理解し、どうして自分なのか、をうまく伝えることが求められます。特に競争相手となる米国人のMBA生は米国の就職活動というゲームのルールを理解した上で、かなりの時間を使って就職活動に挑むので、レジュメ、カバーレター、ネットワーキング、インタビューの各プロセスが高いレベルに仕上がっていないと、オファーまでたどり着くことは厳しいと思います。

いかにハードルを超えるか

そうは言っても、これらはあくまでもハードルであり、飛び越えれば良いだけの話です。ビザについてはそもそもインターナショナル生をスポンサーしている企業に絞る、もしくはネットワーキングを通じて窓口をこじ開けることができます。

言葉・文化についてはせっかく米国MBAにいるのですし、日々の生活で改善していけば良いです。競争の壁についても、自分が強みを有する分野を狙えば、十分戦えます。

MBAでは付属のキャリアセンターがレジュメやカバーレターを見て直してくれますし、キャリアコーチがどのような企業にどうやってアプローチをすれば良いかを一対一でアドバイスをくれます。ネットワーキングやインタビューについても練習の機会を提供してくれることが多いため、一般的には就職活動に必要な資源をMBAは提供してくれるでしょう。

僕の周りのClass of 2017のインターナショナル生では、大学内の就職活動支援やインターンを通じてMcKinsey、BCGなどのコンサルティング、Goldman Sachs、UBSなどの投資銀行、Amazonなどのテック系企業、Danaher、Samsung、Fordなどの大手製造業からオファーをもらった人が多いです。

これらの企業の特徴はグローバルに展開しており、もしH1-Bが受からなくても米国外への転勤が可能な企業ということです。海外オフィスのない中小企業やスタートアップは正攻法では門が開いていないために厳しいですが、個人的なネットワークを使ってオファーをもらい、米国に残る人もいます。

そもそもアメリカに残る必要はあるのか

また、昨今では母国へ帰る方が良いオプションとなることも多いため、なぜアメリカに残りたいのか、をはっきりさせた方が良いかもしれません。

米国MBA取得者が少ない日本のような国であれば、帰国した方がより差別化ができ、就きたい仕事に就きやすいです。例えば、アメリカのプライベートエクイティやヘッジファンドについては、米国本社についてはインターナショナル生が入るのはほぼ不可能と言われるくらい狭き門ですが、母国に帰れば支社の門が開いていることがあります。また、スタートアップの日本支社立ち上げの機会もあるようです。

実際、中国やインドのように急速に発展している国の出身者の場合、帰国した方がより将来性があると考える人も多く、最近はアメリカに無理に残ろうとせず、帰国する人の割合が増えてきています。母国の方が家族や友人がおり落ち着くし、ご飯も美味しい、というのもよく聞く理由の一つです。

アメリカ、自国以外に行くという選択肢

アメリカ、自国、以外の国に行くという選択肢もあります。アメリカのトップスクールのMBAのメリットとしては世界中に就労するためのパスポートを与えてくれ、特に英語圏であれば移動が比較的しやすい印象です。

米国内でオプションを探しても良いし、自国へ帰っても良い。あるいはシンガポールやロンドンなどの英語圏に行っても良い。特に、HBSは世界中に卒業生がいてネットワークがあること、HBSブランドが評価されていることなどから、行きたい場所にアプローチしやすいです。

こういった世界のどこでも働けるようになるための下地は日本で教育を受けただけではなかなか持つことが難しいため、世界のどこでも働けるようになりたい、と考える人にとってはアメリカのトップスクールのMBAは良いパスポート取得の機会になるかもしれません。