教育効果を経済学的手法を用いて分析した本。主張は「教育はエビデンスベースで議論されるべき」とシンプルであり、教育経済学の研究成果からどのように教育を行うのが費用対効果が高いかを紹介している。
家庭での教育について
- 教育生産関数(インプット・アウトプットアプローチ)で費用対効果を測定する
- テストの成績と勉強時間のどちらに対してご褒美をあげるべきか?
- 成績(アウトプット)よりも勉強の仕方(インプット)の方にインセンティブを与えるべき
- なぜならば、アウトプットにインセンティブがあっても、それを改善するための方法がわからなければ(勉強方法がわからなければ)効果が出にくいから。
- また、人は近い将来のインセンティブのほうが割引率が低い(魅力的に感じる)ので、よりモチベーションを上げやすい
- 遠い将来は近い将来よりも割引率が高くなることを双曲割引と呼ぶ
- 金銭以外のインセンティブもある。トロフィーなど
- 成果を上げてほめる時には能力ではなく、努力を褒めるべき。
- 特に悪い成績を褒めると、自尊心を満たしてしまい、反省の機会を奪う
- 勉強時間を増やさせたいならば人が関与するべき
- 勉強しなさいと言うよりも、隣で見ていたり同じ空間にいる方が学ぶ時間が増える
- 男の子ならば父親が、女の子ならば母親が関わった方が成果が高くなる
- 人的資本への投資はとにかく小さいうちに行うべき
- 子供が母の体内にいる時、就学前の幼児教育が最も費用対効果が良い
- 特に幼児期に非認知能力を育成することが重要
- 非認知能力とは自己認識、意欲、忍耐力、自制心、メタ認知ストラテジー、社会的適性、回復力と対処能力、創造性、性格的な特性
- 非認知能力が高い生徒はその後の人生において、テストの点数、卒業率、就職率、収入などの項目で非認知能力が低い生徒よりも勝っている
学校での教育について
- “Peer effect”(周囲からの影響)を利用する。良い学習環境に子供を入れる
- クラスの平均的な学力が高いと、クラス全体に正の影響を与える
- 優秀な生徒の存在は他の優秀な生徒に良い影響を受けるが、平均より劣った生徒に対してはむしろマイナスの影響を与える
- 問題児の存在はクラス全体に負の影響を与える。学校は早急に対応すべき。
- 周囲から悪影響を受けている場合は、子供のために環境を変えることが一つの解決策となる
- 質の高い教員のいる場所を選ぶ
- 質の高い教員(付加価値の高い教員)との出会いは遺伝や家庭環境の要因での不利を覆すほどの影響力を持つ
教育の政策について
- 実験と効果測定を行い、費用対効果が高い施策を選んで展開する必要がある
- 最も費用対効果が高いのは、教育を受けることが将来の収入にもたらす経済的価値を伝えること
- 費用は低いが、教育への投資意欲を高める上で効果的で費用対効果が高い
- 少人数学級や子ども手当の支給はコストが高い割に効果が低く、費用対効果の悪い施策
- 習熟度別学習は効果が高いが、学力の階層を作ってしまうリスクがある
- 最初に高い習熟度の生徒はどんどん先に進み、低い生徒との差が開いていく
- 教員へインセンティブを与えること、研修を行うことの効果は大きくない
- 教員免許は付加価値の向上に繋がっていない。教員免許を廃止して、優れた能力を持つ人が教師になれるようにした方がより良い教育になるのではないか
- Teach for Americaの教員の付加価値は教員免許を持つ教員と同じかそれ以上であった。しかもばらつきが少なかった
- 教員免許を持つ教師のうち付加価値が低い人達を教員免許を持たないが付加価値が高い人に入れ替えることで平均が上がる
- 教育に科学的アプローチを用いることが重要。施策の実験、効果の測定、分析。
教育の効果を科学的に分析するというのは非常に興味深い。子供の教育に関しては、①家庭内での学習を幼児から行う(一緒について勉強してあげるまたは幼稚園、塾や家庭教師などを利用する、インセンティブ設計をうまく行う、非認知能力を伸ばすようにする)、②良い学校教育環境を選んで与える、ことで子供の未来の可能性を伸ばしたいと感じた。