新型コロナが猛威を奮い続け、世界中がワクチンを待望しています。そんな中、バイオンテック(BioNTech:BNTX)・ファイザーがワクチンの臨床試験の中間発表を行いました。相場全体にも影響を与えたこの発表、いったいどんな内容だったでしょうか?
この記事を読むと、バイオンテック、治験の結果、今後の展開、最短でいつワクチンが出るか、がわかります。
目次
バイオンテック(BioNTech)
バイオンテック(BioNTech)はモデレナ(Moderna)と同じく、研究開発段階のバイオ製薬企業です。本社はドイツにあります。
mRNAという「どのタンパク質を作るか」の情報を持ったRNAに特定のタンパク質を作らせる情報を乗せることによって、様々な病気の治療に適用することを目指しています。
現在は11の製品が臨床試験に入っていますが、ほとんどがフェーズ1という、人を対象にした臨床試験のはじめの段階です。
バイオンテックの主なターゲットはガン・感染症です。新型コロナに対しては、BNT162がワクチン候補にあたります。
バイオンテックはファイザー(Pfizer)と中国以外のワクチンの開発と製造で提携しており、中国については中国企業のFosun Pharmaと提携しています。
バイオンテック・ファイザーのワクチン試験結果
バイオンテックが用いるワクチンは、mRNAを用いる方式です。
これまでmRNAを用いたワクチンはありませんでした。
実績がないため、「mRNAを用いて本当に有効なワクチンができるのか」、「安全なのか」、が疑問点でした。この疑問に対して、フェーズ1・2の試験が行われました。
バイオンテックがファイザーと共同で行ったフェーズ1・2の臨床試験の枠組みは以下です
- ワクチン候補名:BNT162b1
- 治験の実施期間:5/4/2020 – 6/19/2020
- 治験の参加者:19-54歳の健康な男女
- 45人のランダム化試験(12人が10ugを中3週間空けて2回接種、12人が30ugを2回接種、12人が100ugを1回接種、9人が偽薬(プラシボ)を2回接種)
発表された中間結果の要点は以下です
- ワクチン接種した人に、新型コロナから回復した人以上の抗体が観察された (10ugで1.8倍、30ugで2.8倍)
- 副作用は疲労感、頭痛、寒気など。深刻な副作用はなし
- 今後の用量は10ug-30ugの間の2回接種で検討
参考資料:Mulligan et al (2020) “Phase 1/2 Study to Describe the Safety and Immunogenicity of a COVID-19 RNA Vaccine Candidate (BNT162b1) in Adults 18 to 55 Years of Age: Interim Report“, MedRxiv
一言で言えば、ポジティブな結果です。
今回の中間報告では最初のワクチン接種から35日間までで、急性の深刻な副作用は観察されませんでした。これは安全性という点で良い知らせです。
次に、「新型コロナの症状(COVID-19)から回復した人以上の抗体が観察された」、というのも良い知らせです。mRNAを用いたワクチンからも抗体がきちんと形成されることを、この中間結果は示しました。
しかし、今回の試験の結果はまだまだ序の口にしか過ぎません。
今後、臨床試験で確かめられるべき項目
今回の結果はあくまでも「中間」報告です。
今回の臨床試験(フェーズ1・2)の追跡とフェーズ3の大規模臨床試験で下記の点がデータで示される必要があります
- 中長期の安全性(特に半年後、2年後までの安全性)
- 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、そもそも抗体が機能するか
- 抗体が機能する場合、ワクチンで増加させられた抗体の増加がどの程度持続するか。
- ワクチンを接種した人がコロナにかからなくなるか
- 高齢者にも用いることができるのか
「新型コロナが体内でどう働くのか」、「私たちの免疫がどのように新型コロナに反応するのか」などまだわかっていないことが多く、今回の中間報告の「抗体が増えた」というだけでは効果があるとは断定できません。
ウイルスの中には私たちが抗体を持っていても抗体をすり抜けて増殖するものもありますし、抗体のレベルによっては再感染することも十分にあり得るためです。
そのため、フェーズ3の結果が出るまでは、バイオンテックのワクチンが機能するかどうかはわかりませんし、これはどのワクチン候補についても当てはまります。
最短でいつ、どれくらいワクチンができるのか
新型コロナのワクチンを審査する際のガイドラインをFDAが6月30日に公開しました。
一言で言えば、「新型コロナのワクチンがいくら緊急で必要だとしても、安全性・有効性をきちんと審査をするよ」。
真っ当な内容です。
「選挙前までに承認しろ」という政治からの圧力が相当にあったことが容易に予想されるため、圧力に屈しなかった点は評価されても良いでしょう。
過去に「インフルエンザワクチンの承認を急いで、結果的に副作用が出て、FDAが叩かれた」という歴史の教訓です。
最短でいつワクチンが出るかを考える上で重要なのが下記の部分です。
Serious and other medically attended adverse events in all study participants for at least 6 months after completion of all study vaccinations. Longer safety monitoring may be warranted for certain vaccine platforms (e.g., those that include novel adjuvants).(少なくともワクチン接種から6ヶ月後の間に起きた重篤な副作用のデータを、安全性の証明として要求する)
つまり、フェーズ3の大規模試験に参加した人の6ヶ月先のデータを得るまで、米国のワクチンの認証はおりない、ということです。
現在、ワクチン開発の先頭を走るモデルナのフェーズ3が始まるのですら7月ですので、データが集まるのはどんなに早くとも来年1月。
そこからデータの収集・分析、FDAへの提出、FDAの審査、というプロセスがあるため、どんなに早くとも最初のワクチンのFDA認証がおりるのは来年1月後半でしょう。
バイオンテック・ファイザーも7よりフェーズ2b・3を始める予定ですので、モデレナとともに先頭を走っています。(BioNTech Press Release)
プレスリリースによると、バイオンテック・ファイザーは2020年末までに1億人回分、2021年末までには12億回分のワクチンの生産ができる見込みです。
バイオンテックの株価
バイオンテックはコロナ前までは$40程度でしたが、現在は$64まで急進しました。
時価総額で言えば、$14b (1兆5000億円)ですでに中堅のサイズです。ただし、モデレナの$24b (2兆6000億円)と比べれば60%程度です。
どちらの企業もmRNAをベースにしたワクチンを、同じような程度のスピードで開発しており、新型コロナ向けワクチンへの期待で株価が上昇しています。
新型コロナ向けのワクチンがどれだけの価値があるのか、は価格、数量、有効期間、バイオンテック・ファイザーの取り分の割合、競争環境、など変数が多過ぎて予測が難しいですが、仮に下記のような仮定を置いてみます。
- 2回の接種が必要で、合計$40
- ワクチンは1年間有効(インフルエンザのように毎年打つことが必要)
- バイオンテック・ファイザーの取り分は50:50
- 毎年7000万人が接種する(米国、西ヨーロッパの10人に1人)
以上のような条件であれば、$40 x 50% x 7000万人 = $1.4b (1,500億円)が毎年の売上になります。このくらいの売上が毎年上がるのであれば、1月からの上昇分は正当化できそうです。
人類が新型コロナを気にせず生活するためにはワクチンが必要であり、バイオンテック・モデレナともにその先頭を走っています。相場全体に影響を与えるという点でも、目が離せない企業の一つです。
mRNAベースのワクチンを開発しているもう一つの企業、モデレナ(Moderna)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。
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