起業に関する授業外の機会 at HBS

起業に関するHBSの機会は授業だけではなく、課外活動でも様々な機会がある。

まず、iLab (innovation Lab)と呼ばれる施設がHBSのキャンパス上にある。こちらはスタートアップに興味のある人が集まる場所で、様々な起業に関するイベントが毎週のように開かれている。イベントはアイデアピッチコンテスト、プロダクトマネジメント、マーケティング、デザイン、資金調達、知的財産、など様々で、スタートアップをする上で有用なアドバイスをかなり得られる。iLabはチームとして申請して、申請が通るとコワーキングスペースとして使え、他のチームとのやりとりで新しいアイデアがもらえる。また、アメリカのコワーキングスペースらしく、コーヒーなどの飲み物やスナックが飲み放題、食べ放題だ。

同様の施設としてRock Centerがあり、こちらでも時々スタートアップ関連のイベントが開かれる。特に法律関連のイベントは外で相談すると数百ドルかかるような内容が無料で聞けるのでおすすめだ。

1年目と2年目の間の夏休みにある「Rock Summer Fellows」も有用なプログラムだ。これは夏休みに自分のアイデアを試したい学生を対象にした金銭サポートのプログラム。スタートアップのアイデアに挑戦したいが、夏休み中にインターンをして少しでも学費の足しにしたい、という学生の悩みに対するHBSのアプローチで、Summer Fellowsに選択された学生には週$600が支給される。2016年は他国でリサーチする学生へ航空券代まで支給されたので、この種のプログラムとしてはかなり寛大だと思う。また、このFellowsはスタートアップに関心のある学生が集まるため、ここでの集まりも良いネットワークとなる。

HBSで最大のビジネスコンテストとなるのが毎年春学期に行われる「New Venture Competition」だ。こちらはいわゆるビジネスコンテストで、営利ビジネスと非営利ビジネスの2つのコースで審査がされる。HBSの学生が少なくとも一人はチームに含まれていることが参加条件で、多くのチームがHarvardの他スクールやMITなどのHBS以外の学生とチームを組んで出場している。MITの100Kと同様にボストン界隈では大きな学生ビジネスコンテストの1つで、優勝賞金も$75,000と起業の頭金として悪くない額だ。

クラブとしてはEntrepreneurship Clubの活動などがある。こちらは年一回のSPARK Entrepreneurship Conferenceが主な活動で、カンファレンス運営に興味があれば良いが、クラブとしては正直集まりが少なく、あまり有用ではない。テクノロジー系であればCODEというコーディング系のクラブの方が活動が活発でほぼ毎週集まりがあってサービス開発の進捗管理ができるので、こちらの方が良いだろう。

他にもEntrepreneurship in Residenceとして起業経験者がHBS近くに住んでおり、この中からアドバイザーを見つけて相談をすることもできる。アドバイザーはテクノロジー系、サービス系、メディカル系などかなり幅広くいるため、たいていの分野で関連するアドバイザーを見つけることができるだろう。

最後に、Harvardやボストンという場所も大きな魅力だ。HarvardはHBSのみならずMedical、Public Policy、Law、Engineering、Educationなど幅広い大学院を持つために、異なった専門分野の人と話をする機会にあふれている。ボストンはHarvard、MIT、Boston University、Boston Collegeなど多くの大学や研究機関が集積しており、大学や研究所にはスタートアップの種がゴロゴロと転がっている。具体的にはケンブリッジには研究所発のライフサイエンス系のスタートアップの集積がある。研究寄りのテクノロジー、特にライフサイエンスに興味のある人にとっては、ボストンは最適な場所だろうと思う。

起業に関する授業 at HBS

今週で3月も終わり、残すところ授業はあと1ヶ月を切った。HBSの2年生の間では「卒業後どうする?」が定番の話題だ。すでに仕事が決まって卒業旅行の計画を練っている人もいれば、スタートアップなど卒業のタイミングギリギリから採用活動を始める会社への就職活動がピークになっている人もいる。起業してすでにバリバリと自分のビジネスを進めている人もいる。起業に興味のある人向けに、今回はHBSでの起業に関する授業について紹介したい。

HBSでの授業は1年目は必修で、2年目は完全に選択授業だ。1年目の必修のうち、起業に関する直接的な授業は「The Entrepreneurial Manager」という2学期目の科目だ。この授業ではビジネスモデルの分析、資金調達、ビジネスモデルの改善などを扱い、扱う企業のサイズもまさしくアイデアの段階から上場するレベルの大きさまで扱う。ゲストも多く、実際の起業家の話を聞いたり、質疑応答をすることで、ケースの登場者から直接学ぶことができる。

また、1年目の冬休みには希望者向けにStartup Bootcampがあり、こちらは10日間でアイデアを実際の形にするところまでを実践できる、かなり密度の濃いプログラムだ。スケジュールを見てみればわかるが、スタートアップのCEOやベンチャーキャピタルのパートナーなどゲストもそうそうたる顔ぶれで、ゲストからの学びも非常に多い。

2年目の選択授業でも起業に関する科目が多く提供されている。個人的なオススメはRobert Whiteの「Entrepreneurial Finance」とShikhar Ghoshの「Founders Dilemma」だ。Robert WhiteはBain Capitalの創設メンバーであり豊富な実務経験を持つとともに、Mitt Romneyの2012年の選挙参謀を担うという政治にも明るい教授で、まさしくHBSでないと出会えないような人だ。Shikhar GhoshもCEOとしてAppex、Open Marketを成長させ、どちらもExitを成功させるなど実務経験が豊富な教授で学びが多い。

他にも、HubspotのChief Revenue OfficerであるMark Robergeが教える「Entrepreneurial Sales and Marketing」も評判が良い。テクノロジー系に興味がある人には「Launching Tech Ventures」や「Scaling Tech Ventures」、ヘルスケア系に興味がある人には「Innovating in Health Care」など分野別に特化した科目もあり、その気になれば起業系の科目だけで選択授業の大半を埋めることができる。「Launching Tech Ventures」や「Scaling Tech Ventures」はほぼ毎回ゲストがいるので、起業家とネットワーキングをしたい人にとっても非常に価値がある授業だ。

また、起業に集中する人は、FIELDという実践系の授業や「Independent Study」という教授と組んで自分のスタートアップを題材にしたレポートを出す授業を取る人が多い。これは、①教授からアドバイスを定期的に受けられる、②授業を受けなくて良いのでその分の時間をスタートアップに使える、という2つのメリットがある。

他の大学との比較はできないが、起業に関する授業に関しては、①サイズの大きなMBAプログラムのため選べる科目数が多い、②実務経験とアカデミックの両方を併せもった経験豊富な教授が多い、③ゲストが来る率が非常に高くゲストから直接学べ、しかもネットワーキングの機会もある、という3点がHBSでは強みとしてあるのではないかと思う。

加えて、授業はあくまでもほんの1部分でしかない。他にもHBSが用意している起業家向けのプログラム(Rock Summer Fellows、New Venture Competition)や施設(iLab、Rock Center)や課外活動の機会(Club etc)も豊富にあるため、こちらは次回以降に紹介したい。

アイスランド

米国MBA生は2年制が多く比較的時間に余裕があるためか、旅行に行く頻度が高い。HBSでもそれは例外ではなく、3連休となると多くの学生が海外または国内へ旅行へ行く。HBS生の人気の行き先としてはボストンから直行便が出ており、かつ比較的近いアイスランドがあり、同学年の5人に1人以上はアイスランドへ行っている印象だ。僕も春休みの1週間を利用して、4泊5日でアイスランドへ妻と行ってきた。アイスランドでは観光がBalance of Paymentを見ても一大輸出産業なのだが、それを裏付けるように観光面で非常に整備された国だと感じた。

まず、アイスランドの目玉は何といっても大自然だ。メインの空港であるケフラヴィーク国際空港からバスで20-30分ほどで行けるBlue Lagoonは、何もない場所にある天然温泉の施設で、ぬるめの温泉の中に浸かっているのはとても気持ちよかった。総称してGolden Circleと呼ばれるシンクヴェトリル国立公園、滝、間欠泉、火口湖も見応えがあった。氷河を掘って人工的に作られたIce Caveも不思議な空間で、氷河についての関心と理解がさらに増した。冬なので寒かったが、どの光景も雪や氷で覆われており、まさしくIceland、氷の国だった。自然という観光資源を活かすためのインフラも整っており、Reykjavik Excursionsをはじめとした観光会社が日帰りツアーを運営しており、ツアーに参加すればレンタカーをしなくても効率的に回ることができる。

レイキャビック(Reykjavik)の街もコンパクトで観光客フレンドリーだ。街のカフェやレストランのいたるところにFree WiFiがあり、観光バスですらWiFiがついている。また、訪れたすべてのお店でクレジットカードが利用でき、結局、僕は現金を一度も使っていない。レイキャビックのみならば、クレジットカードがあれば両替しなくても生活できるだろう。英語がどこでも通じるため、言葉の面でも苦労がない。道路もそれぞれにわかりやすい位置に通り名が書いてあり、加えて各家に番地を表す数字がついているため、住所とマップさえあれば比較的容易に目的地に到着できる。メイン通りが歩行者天国になっているなど車通りもそこまでは多くないため、街を歩いていて、寒いことを除けばストレスを感じることが少なかった。この街の造りは、インバウンドを伸ばしたい日本の自治体にとって参考になることが多いだろう。

一方、旅をしていて物価の高さには驚かされた。僕はアメリカの中でも物価が高い地域であるボストンに住んでおり、日本の1.5倍くらいの物価には慣れているのだが、アイスランドはボストンと比べてもかなり高い。普通のスーパーで買うアボガド・チキンサンドイッチが990クローネ (約1,000円)くらいするし、レストランへ行けば前菜が1,500クローネ (1,560円)、メインメニューが4,000クローネ (4,160円)くらいする。食事は美味しいのだが、量は日本と同じくらいの量で、米国の量に慣れるとやや少なく感じる。感覚的には日本の2から3倍くらいの価格だ。あまりの物価の高さに、僕らはBonusという安売りスーパーやベジタリアン向けのスーパーで食材を買って、なるべく滞在先(Airbnbとアパートメントタイプのホテル)で食べるようにしていた。

観光という点を除いても、アイスランドは興味深い点が多い。まずは教育。Human Development Indexが示すように、国民のほとんどが英語を話し、教育水準も高そうな印象だ。ガイドの人曰く、アイスランド語はアルファベットの数が多く、英語、ロシア語の音が理解しやすいとのこと。また、アイルランド語を守ることへの意識が高く、外来語も英語をそのまま使うのではなく、アイルランド語に訳したものを使うとのことだ。自国だけではビジネスとして規模が小さすぎるアイスランドにとっては、英語を使えることが必須でありながら、同時に自国の言葉も守ろうとする姿勢は、小国のみならず日本のような比較的大きな国も学べることが多いと思う。

経済という点でも興味深い点がいくつかあった。アイスランドは国が小さく、人口はそもそも30万人超と宮崎市よりも少ない。そのように小さく、かつ他の国から離れている市場のため、おそらく進出の優先度が低く、グローバルブランドが少ない。街中を歩いていてもZARAやH&Mといったヨーロッパでメジャーなブランドは見当たらないし、チェーンもDunkin Dounutを見かける程度でStarbucksやMcDonaldも見当たらない。首都でこれほどグローバルブランドが見当たらないというのも珍しい。

色々なことに気づかせてくれるという点で、旅行はやはり楽しいし、学びになる。MBA生活も残り2ヶ月を切ったが、修了までにあと数ヶ国訪れたいと思う。

日本の高校生へのレクチャー

縁あって日本から来ている高校生十数名にビジネスについてレクチャーをする機会があった。構成は高校生側からの英語でのプレゼンテーション、僕からのビジネスプランとリーンスタートアップについてのレクチャー、最後にキャリアについての質疑応答。プレゼンテーションは高校生とは思えないほどしっかりしていたし、臆せず手をあげて質問をする学生が多いなど、自分が高校生の時よりもずっとしっかりしているな、と感じた。彼ら・彼女らのような学生が増えれば、日本の将来も明るいのだろう。

キャリアについてはいくつか質問を受けたが、面白いなと思ったのは、「今、高校生だったら海外の大学に進学しますか?」という質問。

僕は「僕が君らと同じ立場ならすると思う」、と答えた。日米の大学での学生生活を経験して感じるのは、やはり米国・英国トップレベルの大学には世界中から優秀な人が集まっており、より刺激的だということだ。僕が通った大学も良い大学だと思うし優秀な人に囲まれていたと感じるが、同じかそれ以上に優秀な人がおり、かつ多様性があるという点ではやはり米国・英国の大学が勝る。加えて、今は孫さんや柳井さんの奨学金があるため、受給できれば金銭面でもかなりの部分がカバーされる。日本国外でも勝負したいならば、挑戦しない手はないと思う。

また、「それだけ色々な経験をしてきているという話を聞いて、安心しました。大人はみんな夢を持て、やりたいことを見つけてそれを続けるんだ、と言うのだけど、途中で変えても良いのですよね」、というコメントはそうだよな、と思った。そして、「そうだと思うよ」、と答えた。

僕が高校生の時は、社会のことなんて全然分かっていなかったし、「多くの人の命を救えるような仕事をしたい」(当時はHIVやガンを完治させる薬を作り出したい)、というようなある意味漠然とした思いしかなかった。就職の際も軸は持っていたが、これが自分の生きる道だ、とまで言い切れるほどのものはなかった。働き始めて、色々試して、自分を振り返って、より自身を理解して、ようやく自分がやりたいことが見えてきた、というのが正直なところだ。

ずっと好きなもの・やりたいことがあればそれをやれば良い。それが見つかっていなくとも焦る必要はなく、今、興味があったりやりたいものを選べば良い。そうやって選んで、試してみて、考えて、また選んでいけば、真にやりたいことが見つかるのではないかな、と思う。

HBS授業紹介: U.S. Healthcare Strategy

HBSはInitiativesとしていくつかの領域の強化をしており、Healthcare Initiativeもそのうちの一つだ。日本人の視点からすると、なぜヘルスケア?、非営利の分野なのではないか?、と思う人もいるかもしれないが、米国ではヘルスケアはGDPの17.8%を占め、インフレ率以上の成長を続ける民間主導の産業であり非常に重要度が高い(2015年)。おまけに、国民一人当たり$8,508 (約92万円)も使っていながらOECD Health Statisticsによれば、医療の質はOECDの国の中でも低い位置にあり、HBSとしても「どげんかせんといかん」というわけだ。

U.S. Healthcare Strategyは元McKinsey、元Kelloggの教授であるLeemore S. Dafnyが開講しているコースだ。Leemoreは特にヘルスケアに関する公共政策の分野ではかなり知られた教授。

2017年のコースは半セメスター(約8週間)で、扱うケースは米国のヘルスケア業界の幅広さを示すように、病院、クリニック、製薬、保険とかなり幅広い。具体的には病院では保険と診療の垂直統合モデルであるKaiser、水平統合のケースであるPartners Healthcare、クリニックは透析クリニックのDaVita、保険は米国のAffordable Care Act成立後に急伸したOscar、Preventive Careに焦点をあてたOak Street Healthなど、それぞれの分野で注目すべき企業・組織が選択されている。教授が経済学に強いためか、視点は公共政策に近く、マクロ経済やミクロ経済の視点を多く用いる。具体的に扱うコンセプトの例は、垂直統合モデル、水平統合モデル、代替財・補完財、規模の経済・範囲の経済、など。買収に関連して、独占禁止法や米国の訴訟プロセスについても触れる。HBSの1年目の必修では特にミクロ経済はさわり程度でほとんど扱わないため、必修科目との重なりはかなり少ない。

教授のファシリテーションはうまく、結構バシバシと突っ込んでいくし、生徒同士で議論もさせる。学生はMD/MBA (医者とMBAのダブルディグリープログラム)、元ヘルスケア業界、Public Health専攻の学生が多く、業界の知識がかなり出てきたりして生徒同士の議論からの学びも多い。米国のヘルスケア業界に知見がない人はついていくためにやや努力が必要だが、毎回ハンドアウトが配られるので、要点を掴むのは難しくはない。

授業の負荷は普通からやや重い程度。元々業界の知見がある人であれば、ケースや資料をすんなり読めるのだろうが、僕のように米国ヘルスケア業界に知見がない人にとっては、その度に調べることが出てきて、やや時間がかかる。例えばMedicare Advantageとは何か、Primary/Secondary/Tertiary Careの定義は何か、などは知っていることが前提として議論がなされるため、授業についていくためにはそれらを知っている必要がある。僕は最初はさっぱり分からなかったので、新しい単語が出てくるたびに毎回Googleで検索をしていた。

全体として、ヘルスケアに興味のある僕としては非常に満足度が高いコースで、5段階中4.5くらいの評価だ。米国の広大なヘルスケア産業をこれだけ全体感をもって説明してくれる授業は初めて。公共政策的な観点も企業視点の科目が多いHBSでは新鮮。また公共政策的な観点のみならず、企業視点としてもヘルスケア業界の特殊性を活かしてどんな戦略がありえるか、ということを扱い、これも非常に学びが多かった。

製薬業界をもとに学びの具体例を挙げると、ジェネリックが入ってきて独占的な利益を失うことを防ぐために、①Product Hopping (同じ効能の薬を容量や摂取方法などマイナーチェンジをすることで新たに特許を取得して、独占的な利益を享受できる期間を伸ばす)、②Pay-for-Delay (ジェネリック薬製造企業に金銭または金銭的価値があるものを払うことによってジェネリックが入ってくる時期を遅らせること)、③Shadow Pricing (独禁法に触れない範囲で競争相手に価格上昇でシグナルを送り、お互いに価格を上げる行為)など。業界ごとにこういった学びがあり、卒業後に米国ヘルスケア業界で働く人に対しては履修を強くお勧めできる授業だ。来年は1セメスターを通してのコースになるようなので、より深く、広くアメリカのヘルスケア業界が学べると思う。

一方、得られる学びは他の規制が強い業界にも適用できる(電力などインフラ系など)と思うが、かなり業界特化した授業なので、ヘルスケア業界に関心がない人にとっては他の授業を履修した方が良いかもしれない。