コロナ後の世界を感染症の歴史から考える

米国株価は3月の底値から折り返し、年初から-13%まで急速に回復しました。背景にはロックダウンの解除と治療薬・ワクチンの開発の進展、再度の感染拡大リスクが低いと見積もられていることがあり、依然として新型コロナウイルスに左右される相場が続いています。

人類は過去にも世界規模の感染症を何度も経験してきています。歴史的な視点から、今後どのような展開になるかを考えてみましょう。

人類の歴史は感染症との戦いであった

人類の歴史は感染症との戦いの歴史でした。ハンセン病、コレラ、天然痘など現在でも知られている感染症は過去に世界で大流行し、多くの人の命を奪っています。

具体的には、13世紀にハンセン病、14世紀にペスト、15世紀に梅毒、17-18世紀に天然痘、19世紀にコレラと結核、20世記にインフルエンザとエイズ、そして21世紀には今回の新型コロナウイルス、が世界的に流行しました。

背景にあるのは、以下の3つです。

  • 人口が都市へ集中するようになり人口の密集度が上がったこと
  • 家畜化により動物との接触機会が増えて動物由来のウイルスが人に感染するようになったこと
  • 交通機関の発達により人が大陸を越えて移動するようになったこと

具体例を一つあげれば、クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見して以来、アステカ帝国はヨーロッパより持ち込まれた天然痘・麻疹・チフスにより壊滅状態に追い込まれ、滅亡しました。

アステカ王国は数十万人を超える人がいたのに対し、船で人を運んでこなければならず、圧倒的な数の不利があったスペインが新大陸を制覇できたのは、感染症を有効利用したためです。

また、感染症は戦争や飢饉など、衛生状態が悪化したときにも急速に広まり、非戦闘員を含めて命を奪ってきました。感染症は、戦争や天災を上回り、人類の歴史上、最も人の命を奪ってきた要因です

人類は対抗策をとってきた

人類もただ手をこまねいてきたわけではありません。

上下水道の整備はその最たる例です。上水道の整備は、水を媒介して感染する病気を防いできました(寄生虫、コレラ、赤痢、チフスなど消化器系の感染症)。

上下水道が整備される前は、排泄物を川に流し、その水が飲み水として使われていたため、排泄物を通じて感染が広まっていました。

飲み水と下水を分けることにより、感染症の広がりを抑えることができたことに加え、1800年代には水を浄化するということができるようになり、先進国では安全で清潔な水を手に入れました。

また、人類は医学・疫学を発達させ、薬やワクチンを発明してきました。現代に生きる私たちは当たり前に感じてしまいますが、200年前には病気にかかっても、抗生物質もなければ、抗ウイルス剤もない世の中です。ワクチンもありません。

どうして疫病が流行るのかすらわからないため多くの場合、感染症はかかるもので、生き残れるかは運次第で、個人の免疫と自然治癒力に頼るしかありませんでした。感染症にかかることは、文字通り命がけでした。

疫学の発展により、いかに感染が広がるかがわかったことは大きな進歩です。特に石鹸を用いての手洗いや身体を清潔に保つことは、多くの感染症の広まりを抑えました。

また、医療インフラの整備により医療へのアクセスが向上したこと、緑の革命により食糧生産が増加して食べ物が行き渡るようになって栄養状態が向上したこと、も感染症への抵抗力をあげることに貢献しています。

科学の発展により、新たな感染症が見つかったとしても、「発見し、隔離し、治療し、予防する」スピードが早くなりました。

  • 上水道の整理
  • 医学の発展(抗生物質、抗ウイルス剤)
  • ワクチンの接種
  • 疫学の発展
  • 医療インフラの整備
  • 衛生状態・栄養の向上

により人類は感染症の影響をかなりの程度抑えることに成功してきました。

例えば、天然痘は17-18世紀に中南米の人口を80%以上減らした人類への脅威ですが、WHOが1958年に根絶計画の決議をとって以来、治療法とワクチンの普及により、わずか22年でこの世界から根絶することに成功しました。

ポリオなどの小児がかかる重い感染症も、ワクチンが普及した結果、根絶に近づきつつあります。

終わりなき戦い

しかし、人類と感染症は終わりなき戦いを続けることになります。なぜなら、細菌・ウイルスは変異し、形を変えて襲いかかってくるためです。

例えば、馴染みの深いインフルエンザですが、定期的にワクチンを打つことが一般的です。これはその年により、流行るウイルスのタイプが異なるためです。ウイルスは細菌よりも変異の速度が早く、数ヶ月で既存の薬が効かなくなることもあります。

よって全ての感染症を、天然痘のように、根絶できるわけではありません。

また、野生動物は様々なウイルスを体内に保っており、それらが変異し、ヒトに感染することもあります。

例えば、SARSやエボラ出血熱はコウモリ由来と言われています。ヒトがコウモリを食べて、感染。そこからさらに他のヒトに感染、と感染の輪が広がっていきました。

家畜や生きた動物を扱うマーケットから、変異したウイルスを受けとることで、新たな感染症が広まることは過去20年でも何度か起きていますし(SARS、MERS、エボラ出血熱)、新型コロナも動物由来と言われています。

この終わりなき戦いは、私たちが生きている間にも、広まりの程度の差はあれ(ある地域で止まるか、全世界的に広まるか)、続くことでしょう。

新型コロナ後の世界

新型コロナは感染症の恐ろしさを人類に再び知らしめました。現在、モデルナ(Moderna)、バイオンテック(BioNTech)、ジョンソンアンドジョンソン(J&J)をはじめとしてワクチンの開発が急速に進んでいます。また、治療薬もギリアドのレムデシビルが入院期間を短縮する効果を示したたことに加え、多くの治験が行われています。

仮に、全てがうまくいったとしましょう。全てがうまくいく、というのは下記のようにワクチンと治療薬が発見、生産、分配されることを意味します。

  • ワクチンが安全性、有効性を示す
  • ワクチンが十分な量生産される
  • ワクチンが人々に行き渡る
  • 安全で、有効性が高い治療薬が発見される
  • 治療薬が十分な量生産される
  • 治療薬が人々に行き渡る

この条件が満たされて、初めて国際的な人の移動が元に戻ります。逆に言えば、この条件が満たされなければ、国ごとにどの国からなら人を受け入れることができるか、などという制限が設けられ、空の移動にも感染を防ぐための対策が持ち込まれる可能性が高いです。

ワクチンの普及速度を考えても、この制限は一定規模で数年間続き、来年東京で開かれる予定のオリンピックにも影響が出る可能性は高いです。つまり、航空会社、インバウンドを主なお客にしているビジネス、オリンピック需要をあてにしているビジネス、はこの先2年間はコロナ前の水準まで戻れない可能性が高いでしょう。

加えて、変異によりワクチン・治療薬が効かなくなること、新たな感染症が生まれてくることもリスクです。

今後、大勢のヒトが集まることで成り立つビジネスに投資をする際には(テーマパーク、空港、公共交通機関など)、このリスクが意識されるようになり、株価の重荷や特に借入金や社債の利率に影響が出てくると考えられます。

もしかしたら、多くの人と接触しない余暇がブームになるかもしれません(キャンプなど)。

安全保障の観点からは、今回の新型コロナは生物兵器の有効さとウイルスの脅威を示しました。ウイルスの研究は、核兵器について研究するよりも意図が見抜かれにくいです。感染力があり、重症化率の高いウイルスが大国の経済を破壊できるだけの力を持つことは、小国であっても、感染兵器を製造することで大国と交渉できるカードになり得ることを意味します。

歴史においても、感染症は相手の戦力を弱めるために使われてきました(天然痘など)。今後は、相手の国力を削ぐ、または抑止力として選択肢に入れる国が増えると考えられます。

同時に、各国ともに自国にウイルスが持ち込まれた時に対応できるような能力を持とうとする動きが出るでしょう。ワクチンの開発・製造、製薬の開発・製造について、国内企業を優遇、または育成しようとする国が増えると予想されます。

加えて、今回のマスクやPPE (Personal Protective Equipment)の不足は、医療物資を他国に依存することのリスクを顕在化させました。こちらもワクチン・製薬と同様に、医療用途の消耗品・医療機器についての産業育成に国が投資をする動機になるのではないかと思います。

実際にアメリカは自国に優先して薬が回るように他国の製薬会社に働きかけを行ったり、自国の製薬会社にアメリカ向けを優先するようにしむけています。ワクチン・治療薬を用いた外交はすでに始まっています。

まとめますと

  • ヒトが大勢集まることで成立するビジネスのリスクが高い状態が数年は続く(ショッピングセンター、テーマパーク、交通機関など)。借入金や債券の高い利率といった形でリスクが織り込まれる。
  • 製薬・医療機器は国策として重要となってくるため、国が何らかの産業保護または産業振興の政策を打つことが予想される。
  • 製薬・ワクチンが外交の道具としてみなされるようになる。

大きな流れで見ると、今回の感染症はヘルスケアメーカーにとって、一つの転機になるかもしれません。

参考図書:石弘之 『感染症の世界史』 洋泉社 2014

米国の医療事情についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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米国の史上最大の景気対策は、経済を救えるのか?

6週間で3,000万人が失業給付の申請をした米国ですが、経済を救うために、政府・議会が「史上最大」の景気対策を取っています。この景気対策は、米国経済を救えるのでしょうか?

この記事を読むと、米国経済の現状の理解が深まると同時に、影響の大きい産業と小さい産業もわかり、投資にも役立つ可能性があります。

失業率の急上昇

米国では6週間で3,000万人が失業給付の申請を行いました。4月23日(木)に発表された新規失業申請の件数は440万人、4月30日(木)発表の数字は384万人。伸びは鈍化してきていますが、依然として高い水準です。

Jobless Claim Chart from BBC

米国で16歳以上の就労可能な人口の数は2億6000万人。労働者の数は、2月末の時点で約1億6,500万人で、労働参加率は63%、失業率は3.5%でした。

米国の失業のデータはUS Bureau of Labor Statisticsが毎月、月の始めに出しています。4月のレポートによると、3月末の就業者数は1億5570万人で300万人減少。失業者数は710万人で、150万人増加。失業率は前月から0.9%上昇して、4.4%でした。

TOTAL Feb.
2020
Mar.
2020
Mar – Feb
Civilian noninstitutional population 259,628 259,758 130
Civilian labor force 164,546 162,913 -1,633
Participation rate 63.4 62.7
Employed 158,759 155,772 -2,987
Employment-population ratio 61.1 60
Unemployed 5,787 7,140 1,353
Unemployment rate 3.5% 4.4%
Not in labor force 95,082 96,845 1,763
Persons who currently want a job 4,962 5,5

3月末からの6週間での新規失業申請は3,000万人。2月末の失業者数と合わせると、3,500万人。つまり、現在は、就労可能な人の約5人に1人が失業給付を受け取っている計算になります。

想像してみてください。単純計算で友人同士で5人集まると、1人が失業しているのです。

どこの産業がもっとも影響を受けているでしょうか?

特に旅行、レジャー、レストラン業界(Leisure and Hospitality)はほぼ壊滅状態です。3月の時点で20%の人が失業しました。下の表のように、3月の時点で、46万人がこの業界で職を失っています(U.S. Bureau of Labour Statisticsより)

業界 2020 MAR(1000人) 割合 3月の変化 (1000人)
Mining and logging 708 0% -7
Construction 7,605 5% -29
Manufacturing 12,839 9% -18
Trade, transportation, and utilities 27,781 19% -49
Information 2,899 2% 2
Financial activities 8,853 6% -1
Professional and business services 21,507 14% -52
Education and health services 24,523 16% -76
Leisure and hospitality 16,393 11% -459
Other services 5,919 4% -24
Government 22,759 15% 12

失業は労働者の観点からすると、収入、精神の健康面で問題ですが、国家の観点から見ても大きな問題です。

GDPは「労働可能な人口 x 労働参加率 x 生産性」で計算されます。

失業が増えると、労働参加率が減ります。つまり、GDPは減少します。

また、失業が長引くと、その人は価値を社会に生み出す機会を失います。何割かの人は諦めて労働市場から出て行ってしまい、社会福祉に頼ることになります。よって、GDPを短期的のみならず、長期的に押し下げるとともに、財政的にも負担になります。

そのため、国家運営の観点からすると、出来るだけ労働者が雇用されている状態を維持したく、失業者には一刻も早く職場に戻って欲しい、という動機があります。実際、米国の財政政策はこの2点を目標にして、巨額の支出を行なっています。

米国の第一四半期のGDP

外出禁止令が発令されたのは3月中盤からであり、第一四半期への影響は限られます。それでも米国の実質GDPは年率換算で4.8%の減少となりました。

前期が年率2.1%の成長だったことを考えると、大きな落ち込みです(出典:BEA “Gross Domestic Product, 1st Quarter 2020”

US 2020Q1 GDP

GDPは個人消費、設備投資、政府支出、純輸出、の4つに大きく分けられます。

米国の第一四半期は、個人消費、設備投資が落ち込んでいます。一方、政府支出は1%の増加で、設備投資の減少分と相殺しています。

US GDP 2020Q1 vs 2019Q4

米国は個人消費の国です。個人消費がGDPの約70%を占め、投資と政府支出が20%弱で、輸入が輸出よりも多い国です。

もっと言えば、クレジットカードやローンで借金をして消費を増やしているという国です。消費が減少しているというのは、赤信号です。

また、米国はサービス業の国でもあります、個人消費の約2/3をサービスへの消費が占めます(残りは車や食料品などのモノへの消費)。

個人消費のサービスのうち、特に支出の割合が大きいのは家庭・公共サービスで消費に占める割合は19%、ヘルスケアへの支出は次いで17%です。

US GDP Service 2020Q1

セクターごとに見てみると、家庭・公共サービス、金融サービスが好調な一方、その他のサービス業は大きな影響を受けていることがわかります。

食事・宿泊などの産業で失業が増えているのも納得できる数字ですね。

外出禁止の影響がよりはっきりとしてくるのは次の第二四半期のデータです。経済への影響はどの程度と予測されているのでしょうか?

米国の2020年、2021年の経済の見通し

米国のCBO (Congressional Budget Office)が4月24日に第二四半期以降の経済の見通しを発表しています。

CBO Economic Outlook (CBO Press Releaseより)

CBOによると、第二四半期のGDPは11.8%の減少、第三四半期、第四四半期は5.4%、2.5%と回復していく、と予想されています。

現在の21.6兆ドルのGDPは第二四半期には19兆ドルと、20兆ドルを切ることが予想されています。CBOの予想によると、2021年末の時点でも、GDPは2020年の第一四半期の水準まで戻りません

つまり、それだけ今回のコロナウイルスの危機の爪痕は大きいということです。

失業率は第三四半期に16%になると予測されています

こちらは経済が再開し、現在失業給付を受給している3,500万人の人たちの一部が職場に復帰することを想定していると考えられます。具体的には、失業給付を受給している人の数が現在の3,500万人から、2,640万人まで約850万人減ることを予想しています

今回の失業をきっかけに、現在の労働者の5%にあたる800万人の人が、労働市場に戻るのを諦める、つまり「就職するのを諦める」、と予想されています。それに伴い、労働参加率も2月末の63%から60%まで落ちると予想されています。

先に述べたように、労働参加率が落ちることは、GDPの下押し要因になります。それでは、どのようにこの経済・雇用危機に対応するべきでしょうか?

米国の財政対策

未曾有の経済危機に対応するため、米国は次々と財政対策を打ち出しています。

CARES Act

最も大規模で包括的な財政政策は、3月末に成立したCARES Actです、

この法案は、$2.2tn (240兆円)の史上最大の景気対策法案であり、国民・企業・州政府・自治体が危機を乗り切るために、以下の対策が含まれています(出典: US Department of The Treasury

国民の生活を守るための施策

  • 大人1人あたり$1,200、子供1人あたり$500の小切手での給付(所得制限あり)
  • 失業した場合、13週間の間、週$600を連邦政府が追加で支払い(州の失業給付に加えて)
  • コロナウイルスの検査は無料。また治療も民間保険でカバーされる。

大切なことは、国民が生活を送れるようにすることです。生活費を補助するため、夫婦・子供2人の4人家族であれば、$3,400 (37万円)がもらえます。かなり多額のバラマキです。

また失業しても月に$2,400連邦政府からもらえ、加えて州からも失業給付が出ます。

州により失業給付の額は異なりますが、平均すると週$900程度(10万円)もらえるため、パートタイムで働いている人によっては失業中の方が収入が高くなるケースも多いです。

具体的には、労働者の平均の収入は3月末で週$980でした。上乗せされた失業給付はこの平均額を元に計算されているとのことですが、「平均」ということは多くの人が平均以下の週給であるため、働かずに週$900というのはかなり寛大な額です。

特に失業が多く発生している、ホスピタリティ、飲食は一般的に低賃金の職業です。新規失業申請を出している人の中には、働き続ける選択肢がありながらも、失業給付を受給した方が、自分の時間をもて、かつ収入もよくなるために申請をしている、という人も多数含まれていると考えられます。

中小企業向けの施策

  • Pay Check Protection Program: 従業員500人以下の中小企業向け。一定条件を満たせば、8週間分の従業員の給与を国が提供(ローンだが返済義務がなくなる)
  • Emergency Economic Injury Disaster Loan Program: コロナ危機で大きな影響を受けた500人以下の中小企業向け。返済不要の$10,000の支給
  • Employee Retention Credit: 従業員あたり$10,000まで、税金を減らすことができるクレジットが与えられる(ただし対象となる企業には条件がある)

中小企業向けの施策は「潰れないようにすること」、「雇用を維持すること」に重点が置かれています。

コロナ危機が落ち着いた後に経済活動が素早く再開できるよう、緊急でつなぎの融資が受けられるような仕組みも用意されています。

大企業、州・自体体への支援

  • 特定業界への支援(例: 航空業界への$25bの給与支払い支援)
  • 州・自治体への支援
  • 借り入れのプログラム
Morgan Stanleyの記事より

何がなんでも経済・産業を崩壊させない、という意思を感じる、大企業、州政府向けの支援の法案です。

加えてFRBが無制限の国債・社債の買取も行なっており、金融政策の面からも援護射撃を行い、企業が資金切れにならないようにしています。

追加の支援

4月24日に$484bn (52兆円)の景気対策が議会を通過しました(the Paycheck Protection Program and Health Care Enhancement Act)。

大部分の$320bnはPaycheck Protection Programの枠の増加です。

中小企業が殺到して、第三弾で用意した分がわずか13日で枯渇したため、今回の景気対策で枠が増加されました。

$60bnは農家向けのローンと補助金です。

$75bn (8,200億円)は病院へ、$25bnはコロナウイルスの検査の拡充に回されます。$25bnのうち、$11bnは州に回される予定です。

参考:The White House Press Release

さらに追加の支援

さらに$1tn (110兆円)規模の第五弾の景気対策が民主党と共和党で議論されています。財政難に喘ぐ州を連邦が救済すべきか、が焦点になっています。

財政赤字

Bloombergより

これらの大盤振る舞いの結果、すでに合意されている政策だけでも2020年だけで$3.8tn (410兆円-米国GDPの約18%)の赤字が見込まれています。

2020年末の米国の債務残高はGDPを超える101%となる見込みです

FRBが国債の無制限の買取を行なっているため、実質的に米国では政府が借金をして、中央銀行がドルを刷る状態になっています。ドルが刷られるということは、それだけ世の中にドルが溢れるということです。

「現在は非常時であり、財政赤字はこの危機を乗り切ってから考えれば良い」と米国議会は大幅な財政政策を党派を超えてスピード合意しています。

しかし、家計・企業・政府に積み上がる債務は消えるわけではありません。コロナ後に膨れ上がった債務をどうするかは将来に持ち越される課題です。

景気対策は十分か?

3.8bnの景気対策に加えて、さらに$1tn(110兆円)の追加の支援が追加されると、1年のうち、3ヶ月分のGDPに相当するほどの景気対策が打たれようとしています

異なる言い方をすれば、日本のGDPは$4.9trillionのため、追加の景気対策が実現すれば、米国の景気対策はほぼ日本一国分になる、とも言えます。

その大部分は雇用の維持、生活給付、雇用の維持を前提とした企業救済、に割かれています。これだけの財政支出を行なって国民の所得を保障しているため、国民の所得へのダメージはかなり緩和されており、消費が急激に減少することにはならないでしょう。

そのため、仮に第二四半期の企業活動がかなりストップしてしまっても、6月末までに経済活動をある程度正常化できれば、国民の生活や企業の経済活動へのダメージをかなり緩和できると考えられます。

副作用はないのか

財政政策は無からお金を取り出す打ち出の小づちではなく、「国債」の発行により賄われています。この国債は保有者に利子を支払う必要があるため、将来にわたり、歳出を増やすことに繋がります。

利子の支払いが増えるとどうなるでしょうか? 将来、さらにお金を借りて利子を返済するか、税金をあげて歳入を増やすか、あるいは社会福祉などに回していた歳出を減らす、などしなければならなくなります。

もちろん、現時点での危機を放置することで将来に影響が出るため、大切なのは現時点と将来のバランスです。

現在の危機を乗り越えるために国債発行を増やせば増やすほど、将来の課題も大きくなること、は忘れてはならない点でしょう。

また、FRBが投資適格でない企業の社債まで含めて購入するなど、相当の緩和を行なっているので、市場はお金であふれています。FRBがバキュームカーのように国債、社債、ローン担保の債権を購入しているため、FRBのバランスシートが急速に膨れ上がっています。

これだけの規模の緩和ですから、当然FRBが資産を減らそうとした時の舵取りが難しくなります。FRBが緩和を続ければ住宅などの資産価格のバブルを生む可能性が高まりますし、緩和が早ければ市場は動揺して荒れる可能性が高まります。

また、何かあってもFRBが最後には買ってくれるだろう、という安心感から、投資不適格な債券にまでお金が大量に流れており、市場が適切にリスクを価格に織り込んでいません。これはある種のモラルハザードであり、どこかで揺り戻しがある可能性もあります。

財政政策、金融政策ともに、今は非常時の対応として市場最大の打ち手を打っており、薬漬けの状態です。

お薬の副作用がどの程度か、お薬が切れたときにどんな反応が来るのか、には注意を払っておいたほうが良いでしょう。

まとめ

  • 現在、起きているのは未曾有の経済・雇用危機であり、国民の5人のうち1人が失業状態にある。
  • 第一四半期のGDPは前期比1%減だが、第二四半期は11.8%の減少が見込まれている。
  • 米国の経済は2021年末になっても、コロナ危機前の水準には戻らない見通し。
  • 経済への影響を緩和するため、史上最大の財政政策が取られている。追加緩和を含めると、ほぼ3ヶ月分の経済活動に当たる額を政府が支出し、経済を支えようとしている。
  • 一方、債務は積み上がっているため、今回の危機時に増えた政府・企業の債務は、危機の後に副作用を及ぼす可能性が高い。
  • 財政政策・金融政策ともに今は非常時の対応だが、バブルを生みかねない規模の緩和。緩和の出口に市場が荒れる可能性があることに注意。

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