高配当株として人気の高い、豪Westpac(WBK)銀行の株ですが、11月に株価が急落しています。
今回は、オーストラリア第2位の銀行に一体何が起きているのかについて説明したいと思います。
目次
Westpac (WBK)の株価
Westpacの株価は2018年末に向かって下落し、そして10月まで上がり続け、急激に下落しています。まるでジェットコースターのようなチャートです。
オーストラリア経済の成長鈍化と中央銀行の利下げ
オーストラリアの銀行業界は4大銀行 (Commonwealth、Westpac、Australia and New Zealand Banking Group、National Australia Banking)による寡占状態です。この4社で貸し出し金額の約80%を占めています。
Westpac銀行はCommonwealth銀行に次ぐ第2位の規模を持っています。
ビジネスの約50%を消費者向けが占めており、この大半が住宅ローンです。
オーストラリアの経済は住宅市場の冷え込みから、2018年の後半に大きく減少し、10月-12月には景気後退すれすれの0.1%成長まで落ち込みました。
Westpac銀行は住宅への貸出が収益の大きな部分を占めているため、貸出の伸びが鈍化するのではないか、また景気が後退したときにローンを払えない人が出て貸し倒れが増えるのではないか、という懸念から、2018年末にかけて株価は下落していきました。
住宅価格の下落、景気の鈍化に対して、オーストラリアの中央銀行、Reserve Bank of Australia (RBA)は、経済を活性化させるため、2019年に入ってから断続的に利下げを行いました。
RBAは2019年1月に1.5%であった利率を0.75%まで下げています(11月27日現在)。
利下げのおかげによる住宅市場の回復と経済成長率が年率2%程度まで回復しました。それにより、10月までは株価は回復基調にありました。
しかし、11月に入り、RBAトップのPhilip Loweは、来年の前半のさらなる利下げの可能性を示唆し、利率が0.25%まで落ちたら、量的緩和も選択肢に入っている、と発言しました。
利下げが起きると、銀行は貸し出し金利を下げざるを得ず、一般的には利幅の減少=利益率の低下に繋がります。
また、利下げは国債の利回りの利率を落とすので、預金者から借りたお金を国債で運用している銀行の収益にとってもマイナスに働きます。
よって、基本的には、利下げ=銀行の事業利益にとってマイナス、です。
市場は住宅価格の下落による貸し倒れリスクよりも利下げによる収益への影響の方を懸念し始めました。これが、株価の上値を抑えている一つの理由です。
マネーロンダリング疑惑
11月のWestpacの株価の下落の主な理由は、オーストラリア証券投資委員会 (Australian Securities and Investments Commission – ASIC)が、Westpacを児童搾取を含んだ、マネーロンダリングに対して適切に対応していなかった、と調査していることが報道されたことです。
実はこのマネーロンダリング話、Westpacだけでなく、過去にも他の銀行で起きたことがあります。
2017年に、最大手のCommonwealth Bankはマネーロンダリング疑惑のある取引に関わったことを当局へ報告せず、このスキャンダルから2018年にはCEOが交代しています。
今回のWestpacについても、CEOがASICから指摘を受けたときに適切に対応せず批判が殺到し、CEOの辞任まで追い込まれました。
今後の経営にどれだけ影響が出るのか読めなかったことから、投資家がパニックになり売り始めたと考えられます。
当局による制裁金と株主訴訟
Westpacは2つの大きなリスクに直面しています。
1つ目として、ASICによるマネーロンダリング疑惑への捜査は続いており、今後制裁金が課される可能性があります。制裁金については、230万件の疑わしい取引に対して、10億ドルを超えるとみられており、2019年度の純利益が68億ドルであったWestpacにとっては少ない金額ではありません。
2つ目として、法律事務所が集団訴訟を準備しており、こちらもWestpacの利益を減少させる可能性があります。
これらの動きに対し、Westpacは当局の調査に積極的に協力すると同時に、マネーロンダリングの話が出る2週間前の新株購入に応じた株主に対し、払い戻しをすることを検討していると声明を出しています。こちらは当局との議論の後に出てきた、とのことですので当局が指示したのかもしれません。
しかし、この払い戻しは増資に応じた人が対象のため、この対応で集団訴訟が止まるかどうかは不明です。
ブランド価値の毀損
空気を読まないことで定評のあるCEO (Brian Hartzer)は退職金、270万オーストラリアドル(約二億円)を受け取って辞任すると現地の新聞では報道され、批判にあっています。
もともと、オーストラリアの銀行は寡占状態にあることもあり、不透明な経営と談合体質が近年問題にされていたのですが、今回の一件は国民の銀行への信頼をさらに失わせました。
特に、今回のマネーロンダリングは児童搾取(特に東南アジアにおける児童の性的搾取です)につながりのある団体にお金が回っていたということもあり、Westpacへの批判は強まっています。
Westpacはただでさえ米国、欧州、アジア系の銀行からの攻勢を受けて市場が厳しくなっている中でのこの一件なので、短期的には貸出の伸び悩みなど業績への影響が、長期的にもブランド価値の毀損という影響が出ると考えられます。
また、2019年は2018年に比べて純利益、一株あたり利益が16%落ちるなどただでさえ利益の成長に懸念があります。また、スキャンダルが起きる前に減配しているのですが、その状態ですら配当性向が70%を超えているため、制裁金の支払いが生じるとさらに減配される可能性が高く、この点も株価の懸念材料です。
これらの理由から、株価が落ちていると考えられます。
まとめ
- Westpacの銀行の株価が落ちた理由は、1. オーストラリア中央銀行の利下げが予想されること、2. マネーロンダリング疑惑に対してCEOが適切に対応せず、辞任まで追い込まれたこと、3. 当局から制裁金を課され、株主からの集団訴訟されるリスクがあること、です。
- 今回のスキャンダルはブランド価値に傷をつけ、中長期的にもネガティブな影響を与えると考えられます。
- すでに今年、一度減配をしていますが、現状でも70%以上の配当性向のため、制裁金によっては来年さらなる減配のリスクがあります。
- 一方、4大銀行がオーストラリアの市場を寡占している状況は今後も変わらず、オーストラリアの住宅市場も回復基調にあるため、さらに価格が落ちていくようでしたら購入の機会かもしれません。
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