$30目前!急騰する原油価格はこのまま上がり続けるのか?

1バレル$20であった原油の価格が、2日で$29と急騰しています。世界の石油市場に、何が起こっているのでしょうか?供給側、需要側から見てみます。

この記事を読むと、職場で最も世界の石油市場に詳しい人になり、投資にも役立つ可能性があります。

石油の供給(OPEC、非OPEC)

世界の生産量は2017年末で日量約9,300万バレルです(バレルは単位)。

原油価格を維持するためのカルテル(連合)であるOPEC (Organization of Petroleum Exporting Countries) 加盟国の毎日の生産量は日量2,600万バレルで、1月は協調減産を行い、2,470万バレルでした。つまり、OPECは全世界の石油供給の25%を牛耳る連合になります。

特にサウジアラビアは世界最大の産油国で、OPECのほぼ40%、全世界で10%の原油を生産しています。

Reference Output
Pledged Cut Output Target Jan. 2020
OPEC+に占める割合
Saudi Arabia 10,633 -489 10,144 9,733 24%
Iraq 4,653 -191 4,462 4,501 11%
U.A.E. 3,168 -156 3,012 3,034 7%
Kuwait 2,809 -140 2,669 2,665 6%
Other OPEC 5,051 -192 4,859 4,775 12%
Total OPEC 26,314 -1,168 25,146 24,708 60%

OPECと協調して、減産を行なっている非OPEC産油国というグループもあります。非OPECの生産量は日量1,600万バレルで、特に生産量が多いのはロシアです。ロシア単独で、全世界の10%以上を生産しています。

Reference Output
Pledged Cut Output Target Jan. 2020
OPEC+占める割合
Russia 10,623 -300 10,323 10,389 25%
Mexico 1,744 -58 1,686 1,712 4%
Kazakhstan 1,689 -57 1,632 1,690 4%
Other non-OPEC 2693 -99 2594 2564 6%
Total Non-OPEC 16,748 -514 16,234 16,356 40%
Total OPEC+ 43,062 -1,682 41,380 41,064 100%

つまりOPEC+は全世界の40%の日量約4,000万バレルの生産をしていますサウジアラビアとロシアの2カ国が大きく、この2カ国で2,000万バレルを占めます。

OPEC+の枠組みの中では、サウジアラビアとロシアで世界の原油生産量の半分を占めるというのは大事なポイントです。(データはBloomberg “New Decade, New OPEC Oil Curbs. Same Mixed Results”より)。

サウジアラビアはOPECの盟主として、率先して減産を行なってきましたが、そのほかの国が必ずしもサウジアラビアに従ったわけはありませんでした。特にロシアはサウジアラビアほどは減産を行いませんでした。

原油の価格が暴落したのは、「サウジアラビアとロシアが減産で合意できなかったから」と報道されています。世界で3カ国しかない日量1,000万バレルを超える生産量を占める国々のうち2つが合意できなかったことが、市場にショックを与えました。

また、OPEC+以外の産油国が残りの半分以上を産出していることもポイントです。これは、OPEC+が必ずしも世界全体の石油供給をコントロールできていないことを示します。

特に、アメリカはシェールガスを中心として毎年100万バレル以上石油の生産を増やし続けてきました。

OPECからしてみれば、「俺たちは協調減産して価格を上げようとしているのに、アメリカが生産を増やすから俺たちだけが割りを食っている」という感じでしょう。

実際、アメリカの原油産出量は2019年に日量1,222万バレル、2020年には1,300万バレルです。アメリカは実は2018年にサウジアラビア、ロシアをすでに超えて世界最大の原油生産国になっています

世界の石油生産 (Bloombergより)

供給に関して、トランプ大統領が「日量1,000-1,500万バレル削減で合意できる」と言ったことで、石油価格は$20から$29まで急騰しました。

しかしながら、サウジアラビアとロシアの二国がここまでのカットに応じることができるかはやや懐疑的です。仮に2カ国で1,000万バレル削減するとすれば、両国の生産量のほぼ半分を削減することになります

何よりも、原油産出国からすれば、「原油価格が落ちているのはアメリカが生産を増やしているためだ」という思いがあるでしょう。生産量を削減するためにはアメリカがテーブルにつく必要があります。

しかし、近年のアメリカの石油産出増加の立役者はシェールガス業者であり、彼らの採算ラインは$40-50/バレルと言われています(Reuters Oil in the age of coronavirus: a U.S. shale bust like no other)

減産に応じればさらに採算ラインが引き上がるため(価格が上がっても、販売できる量がそれ以上に減れば売上は減る)、アメリカからしても容易には減産に応じられないでしょう。

サウジアラビアの生産コストは$3/バレルと圧倒的に低いため、このまま低い原油価格を続けて、アメリカのシェールガス会社を破綻させ、アメリカの生産量を減らした方が長期的に有利になると戦略的に考える可能性があります。これは現状の低い価格を保つ動機になります。

一方、中東をはじめとする産油国は国営の石油会社に歳入の多くを頼っており、石油価格が下落すると、国債を発行しなければ(=借金をしなければ)現状の歳出を維持できなくなります。中東の王政は、お金を国民にばら撒いて国民に良い暮らしを保証する事で現在の政治体制を維持している国が多く、歳出を減らして国民の生活を悪化させると、怒りが政治体制に向く可能性があり、それを避けたいのが現状です。

現状の1バレル$30以下という水準は、どの産油国からしても国の財政を維持できない状況であり、一刻も早く石油価格を上昇させたい、という思いもあります。これは減産に同意し、高い価格に誘導する動機になります。

どちらにせよ、鍵を握るのは、他国と協調せず、増産を続けてきた、世界最大の産油国であるアメリカがどこまで踏み込むかです。4月6日のOPEC+ロシアの会談で減産で合意ができるかどうか、注目です。

[4月15日追記]

OPEC+は4月12日(日)に日量970万バレルの減産で合意しました。メキシコが40万バレルの割り当てを拒否し、減産量を10万バレルに減らしたため、当初の目標であった1,000万バレルから30万バレル少なくなりました。

この減産は5月1日から6月30日まで継続され、7月以降は770万バレルの減産になる予定です(CNBCより)

US、カナダ、ノルウェーなどの非OPEC+参加国がどこまで減産を行うかは不透明です。原油市場は、現在の原油需要に対して、この減産の量では不十分だと判断し、WTI原油価格は4月14日(火)に再び$20台まで下落しました。

今後の供給側の焦点は、非OPEC加盟国がどこまで減産に協力を行うか、特にアメリカがどのように民間業者へ減産の協力を依頼するか、です。

石油の需要

一方の需要側ですが、2017年には日量9,800万バレルが需要としてありました。石油需要は毎年平均で1.3%、つまり年100万バレルずつ増加しています(資源エネルギー庁 エネルギー白書2019より)。

需要の65%は人やモノが動く時の輸送用(ジェット燃料・ガソリン・軽油など)、12%が石油化学原料、8%が産業用、5%が家庭用、残りの10%がその他です。

つまり、人・モノが動くと石油の需要は増加し、動かなくなると石油の需要は急減します

石油の需要推移

コロナウイルスの影響で人々が移動しなくなったことにより、ジェット燃料・ガソリン・軽油といった移動用途の需要が減り、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2月の石油需要は日量420万バレル減少しました(日経新聞 「サウジ・ロシア協調できるか 原油減産に高い壁」、より)。

買う人がいなければどうなるでしょうか?そんなに簡単に、石油の供給は減らせません。すると、価格を下げてでも売ろうとする供給先が出てきます。

供給側で減産ができなかったことに加え、コロナショックにより需要が急減したことが、石油価格の急落をもたらしました。

現在の原油価格の指標であるWTI原油価格は$29と、リーマンショック時と比べても低い価格になります(トランプによる口先の介入が入る前は$20/バレルでした)。

WTI石油価格の推移

需要側の鍵を握るのは何と言っても、コロナがいつ終息するか、です。人々の空の移動ができず、外出しない状況が続けば、いくら原油の減産が行われても、価格は上がらないままです。

また、景気が悪化すると石油化学製品の需要が減るなど、産業用途の石油の利用も減るため、景気の動向も要注意です。

つまり、「コロナ危機がいつ終息するか」、「政府が介入していかに景気を維持するか」、の2つが需要側の鍵となります。

石油価格の下落が株式市場に与える影響

石油価格が$30付近で推移すると、下記のような事態が起こり得ます

  • 米国のシェールガス業者が資金繰りに困り、倒産する(すでに一社、ウィッティング・ペトロリアムが倒産しました)。
  • シェールガス業者の倒産、もしくは信用不安からジャンク債(投資不適格と格付けされている企業の社債)の価格が下落し、それらを含んでいる仕組債(CLOなど)の価格が下落。市場が混乱する。
  • 産油国が歳出を維持するために大量の国債を発行しなければならなくなり、国の国債の格付けの下落に繋がる。格付けの下落は金利の高まりに繋がり、財政を中長期的に圧迫する(最悪は利払いができずに、デフォルトする国が出てくる)。
  • 大手石油会社(BP、エクソンモービル、シェルなど)は赤字が避けられない。キャッシュを維持するため、減配、もしくは無配にする可能性が高まる。
  • 石油の仕入れ価格が減るため、火力発電を行なっている発電業者や石油を元にして製品を作っている会社にとっては増益要因。

特にエネルギー会社の株式を保有している人、投資を考えている人にとっては、石油価格の動向は来週、目が離せない展開になると思います。

米国の現在の経済状況についてはこちらの記事をご覧ください。

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投稿者: aki

アキ。東京での勤務の後、ハーバードビジネススクール(HBS)へ留学しました。卒業後は、医療の世界で働いています。現在シドニー在住。ご連絡はTwitterまで。

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