新型コロナ感染者数拡大とFRBの暗い経済の見通しから、今週ダウが史上4番目の下落をしました。新型コロナが市場を左右する状態はまだ終わっておらず、ワクチン・治療薬への期待が高まっています。
今回は世界でのワクチンの進捗と、ワクチン開発の先頭を走るModerna(モデルナ)について書きたいと思います。
目次
新型コロナのワクチンの進捗
新型コロナに向けたワクチンは現在、100以上の候補の研究が行われています。
しかし、人に対して臨床試験が行われているのは数えるほどしかありません。代表的なのは下記の10のワクチン候補です。
通常、製薬は10年かかることも珍しくないプロセスです。
製薬の臨床試験について、ざっくりと説明すると、動物において安全性(副作用が出ないか)と有効性(病気の治療に効果的か)を確認した後に、人での治験に入ります。フェーズ1 -> フェーズ2 -> フェーズ3、と通常は3段階の試験を行い、安全性と有効性を調べられます。
フェーズが進めば進むほど、治験は大規模になっていきます。
新型コロナ向けの薬・ワクチンの場合、有効性が確認されている既存の薬・ワクチンがまだないため、「フェーズ3(Phase 3)で安全性と有効性が確認されれば、薬として認可される」と捉えてもらえればOKです(既に標準治療として薬がある場合には異なる審査基準になります)。
製薬・医療機器の製品開発についてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
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Moderna(モデルナ)のワクチン進捗
新型コロナ向けワクチン開発の先頭を走るのはモデルナ(Moderna)です。政府からの受注も行っており、米国の官民合同ワクチン開発促進プロジェクトであるOperations Warp Speedにも選定されている企業の一つです。
モデルナは既にPhase 3までの計画を発表しており、ワクチン進捗では他の企業に先んじています。
Phase 1
モデルナは2月よりPhase 1の臨床試験を始め、5月に中間報告を行いました。
Phase 1では健康な18-55歳のグループに25ug、100ug、250ugを投与して、有効性と安全性を確かめました(各15人)。
Phase 1では100ugを二度投与した時にできた抗体のレベルが新型コロナ回復患者よりも上回っており、副作用は他のワクチンと同程度で許容できる範囲でした。
そのため、Phase 2へ進み、以降の試験では容量として100ugが選択されました。
Phase 2
現在、Phase 2の試験が進捗しています。試験の枠組みは以下です。
- 600人(300人の18-55歳のグループ、300人の55歳以上のグループ)
- ランダム化試験。対照群にはプラシーボ(偽薬)
- 50ug、100ugを2度投与 (28日間の間隔をあける)
- 2度目の投与後から1年後に抗体のレベルを検査
- エンドポイント(薬として「使える」かの指標)は1年後の有効性と安全性
こちらは結果が出るのは一年後です。
Phase 3
モデルナは6月11日に7月より、最終段階であるPhase 3の臨床試験を行うと発表しました (Moderna Press Release)。
発表の主な要点は下記です。
- Phase 3の臨床試験の枠組みをFDA(Food and Drug Administration – 米の薬・医療機器の審査機関です)と合意。NIAID(National Institute of Allergy and Infectious Diseases – 米の政府機関です)のサポートを得ながら進める
- Phase 3はランダム化試験、USの患者30,000人が対象
- 対照群はプラシーボ。主要なエンドポイント(効果があるかどうかを判断する測定基準)は症候性のCOVID-19を防げるかどうか。第ニのエンドポイントは、深刻な症候性のCOVID-19を防げるかどうか
- イベント・ドリブン分析(イベント=新型コロナにかかるかどうか)
- 容量は100ugを2度投与
- 年間5億人分のワクチンを生産する準備を進めている。Lonzaと提携して、2021年には10億人分まで生産を拡大できる可能性がある
- BARDA(Biomedical Advanced Research and Development Authority)より試験や製造設備拡大のための資金援助を受ける
Phase 3では、Phase 2のように「ワクチン摂取後◯年後、◯ヶ月後にどれくらいの被験者が抗体を維持しているのか」を見るのではなく、「ワクチン摂取後に何%の被験者がどの段階で新型コロナにかかったか」を分析するイベント・ドリブン手法が取り入れられています。
そのため、Phase 3の結果は中間報告として1年経たずに発表されると考えられます。
モデルナのワクチン開発の進捗
このフェーズの進め方は、異例の早さです。
臨床試験には多額の投資が必要となることに加え、FDAの枠組みへの同意が必要となります。また、治験への登録者を集めるにも時間が必要となります。
通常はPhase 1の臨床試験結果の最終データをみ見てから、結果がよければFDAがPhase 2の計画承認。Phase 2の結果をみてから、結果がよければFDAがPhase 3の計画承認、と順に進捗させていきます。
それに対して、今回の例ではほぼPhase 1、2、3を同時並行で進めています。
これは、それだけ事態が深刻なため、
- FDAが中間データでも次のステップに進めることを認めている
- NIHが治験に協力をして、治験者登録をスムーズにしている
- BARDAが治験の投資費用への援助を行うことで、投資リスクを減らしている
ことが大きな理由です。結果がわかる前から既に5億人分のワクチン製造能力に投資することは、普通の企業は取れない大きなリスクですが、BARDAの援助がそのリスクを大きく減らしています。
モデルナのワクチン候補は、「Operations Warp Speedに採択され、BARDAが資金を援助し、NIHが治験に協力を行い、FDAよりFast Track Designation(優先され、より短期間で審査される)の認可を得ている」、とアメリカが国として全力でサポートしています。
モデルナは国策として応援されている企業、とも言えるでしょう。
モデルナの株価
新型コロナ向けワクチンの先駆者となる期待から、モデルナの株価は年初の$20の3倍以上の$60前後で推移しています。
モデルナの株価はPhase 1の臨床試験の中間報告内容がよかった、というニュースを受けて$80をつけました。この時が今年に入ってからの最高値で、その後は$60前後で推移しています。
6月12日にはワクチンのマウスでの実験で効果が見られたという発表があり、株価は再び3%上昇しました。時価総額は既に2兆5000億円($24b)を超えています。
しかしながら、モデルナ自体は、まだ製品をローンチする前の会社です。直近の四半期の売上はわずか約8億円($8m)で赤字が130億円です。
現在のキャッシュフローと新型コロナ向けワクチン以外のパイプラインだけでは正当化できない水準まで株価が上昇しています。
この企業の株価がどうなるかは、まさしく新型コロナのワクチンが成功するか否か次第でしょう。
今後は、
- Phase 1、2の中間結果
- Phase 3の進捗と結果(数ヶ月後に結果報告がされる可能性が高いです)
- 新型コロナがどれだけ長引くか
が株価の材料になりそうです。
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