新型コロナ向けワクチンの開発と臨床試験が加速しており、米国、欧州、中国の製薬会社が一番手をめぐり競っています。英アストラゼネカ(AstraZeneca)は先頭を走る企業の一つです。
今回は、ワクチン市場、アストラゼネカのワクチンの開発と治験の進捗状況、そして他ワクチン開発企業への影響、の3点をみていきます。
ワクチン市場
Market Research Reportによれば、ワクチン市場は2018年で$41.6b(4兆5000億円)で、年率10%以上の成長を続け、2026年までに$93b(10兆円)まで拡大すると予想されています。
ワクチンは人口拡大、ワクチン普及率の上昇、新たなワクチンの発売に伴う需要喚起、により市場が安定的に拡大していっています。
一方、ワクチンは製薬の中でも大変な分野です。健康な人を対象とするために、リスク便益の観点から、安全性への要求が治療薬よりも厳しくなります。また、長期での安全性が求められるため、治験もその分長くなります。
また、ワクチンの種類にもよりますが、ウイルスの遺伝子組み換えにより作られるワクチンなどは生産にも高い技術力が要求され、大量生産のハードルも通常の低分子薬の生産よりも高くなります、
つまり、ワクチンは開発・生産に多額の資本と高い技術が必要であり、参入障壁が高い(参入しにくい)分野であると言えます。裏を返せば、一度ワクチンを発売してしまえば新規参入が入ってきにくいため、稼ぎ続けることができます。
例えば、世界最大のベストセラーワクチンであるPfizerのPrevar 13は肺炎球菌向けのワクチンであり、市場を長年ほぼ独占しています(2015年でシェア75%以上)。
売上は2010年の$2.4bから順調に拡大し、2019年には$5.8b (約6,000億円)の売上です。今ではファイザーの製品の中で最も売上の高い製品の一つになっています。
WHOのGlobal vaccine market reportによると、ワクチンの価格は$1-$50と大きく幅があり、新しく販売されるワクチンほど価格が高くなる傾向にあります。
同資料では、Prevnar 13の平均販売価格は$48程度と推定しています。つまり、高い価格の部類です。
ファイザーのPrevnarは独占状態をいかして高い値付けにし、高い売上と利益率を享受している一つの例です。
AstraZeneca(アストラゼネカ)のワクチン
英AstraZenacaはOxford(オックスフォード大学)と組んでワクチンを開発しています。現在、治験が行われているのはOxfordのワクチングループが開発した組換えアデノウイルスを用いたワクチンです(AZD1222)
新型コロナ向けワクチンでは最も開発状況が進んでいる一社です。6月よりフェーズ3(最終の大規模な治験)に入っており、8,000人が登録済みです。
アストラゼネカはすでに米国、英国、欧州とワクチン提供の契約を行っています。
- 米政府機関BARDAより$1b (1,100億円)の開発援助を受けた。4億回分をUS/UKに (US 3億、UK 1億 – FIERCE PHARMA)
- 欧州(ドイツ、フランス、イタリア、オランダ)に4億回分を「利益なしで」提供(AstraZeneca Press Release)
- ワクチンをCEPI、Gavi, the Serum Institute of India (SII)を通じて新興国に提供. CEPI、Gaviに3億回分を$750mで販売($2.5/回)。
- SIIは10億回分を新興国向け(主にインド)に提供し、そのうち4億回分を2020年末までに提供する
すでに契約されているワクチンの量だけでも、20億回分を超えます。加えて、4億回分を2020年末までにワクチンを供給することを約束しています。
アストラゼネカはこのワクチンを利益0で提供する方針です。
ワクチンを利益0で提供すること自体は非常に世の中のためになっていますし、公益性の観点から望ましい行動です。
アストラゼネカにはワクチンで売上がなくてもやっていけるだけの企業体力と、評判・ブランド力を高めて他の製品を売るという動機があります。
一方、利益目的で研究開発を行っている他のワクチン開発企業からしたらたまったものではありません。市場を壊す、自爆テロのようなものです。
ワクチン銘柄への影響
具体例で考えてみましょう。モデルナ、バイオンテック・ファイザー、は同じくフェーズ3の試験を7月に始めようとしています。アストラゼネカの方が若干治験で先行しています。
仮にアストラゼネカの治験でワクチンの有効性・安全性が確認され、アストラゼネカが2020年末に「$2.5/1回」のワクチンを政府向けに提供したとしましょう。
すると、類似する製品がないため、世界ではその価格が一つの物差しとなります。
後続のモデルナ、バイオンテック・ファイザーからすると、本当は1回$30 x 2回で計$60などの価格をつけたかったとしても、それを行うと「アストラゼネカの20倍なのか」、「こんなに大変なパンデミックの時に暴利を貪るのか」という社会からの批判が予想されますし、競争の観点からも、あまりに高い価格をつけるのが難しくなります。
また、有効性・安全性での差別化を行うためにはある程度長い期間のデータが必要となりますが、今年の末発売のワクチンですとどのワクチンも半年程度のデータしか入手できません。
よって、データで優位性を強調するのもやや難しくなります(通常必要となる1年後の安全性・有効性すら確認できないため)。
加えて、モデルナ・バイオンテックのワクチン手法であるmRNAは壊れやすいために低温保存が必要となり、その分流通コストが高くなります。アストラゼネカのワクチンと同じ価格をつけると赤字になる可能性大のため、同じことはできません。
アストラゼネカは主要な市場(米、西欧)に安価でワクチンを提供する契約をすでに結んでいます。
つまり、「アストラゼネカのワクチンの成功は他のワクチン開発企業にとって最大の脅威」になる可能性が高いです。
ワクチン銘柄に投資をしている場合、その銘柄の臨床試験の結果のみならず、アストラゼネカの臨床試験のニュースにも注意を払っていた方が良いかもしれません。
mRNAベースのワクチンを開発しているもう企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。
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