アジアのリーダーからの教え

尊敬するシンガポールのリーダーからの教え。忘れないように、メモ。

Take more risks and projects – through projects, be connected to people and learn

  • All we need is 1 doctor and 1 hospital to test ideas
  • Take a risk, challenge, and learn from failures

Go to fields and learn: (think actions at all levels – from field to the headquarters)  

  • Observe cases and sales activities
  • Understand their day-to-day activities and incorporate them into planning “What sales should say?” 
  • Go to conferences and learn conference management
  • How U.S. team train and motivate people? Learn from sales managers’ perspectives

Read more, and learn more. Keep learning.

Develop capabilities

  • Brush up analytical thinking, strategic thinking, and warm heart
  • Sales and marketing: being able to sell products and personality to KOL and colleagues
  • People principles – how to recruit, develop, train people

Care about people. Believe in people’s growth: If you want to grow for 10 years, develop people

7 Leadership rules

  1. Risk taking
  2. Innovation – positive dissatisfaction
  3. Garbage can mentality – desire to keep learning
  4. People connect – success depends on people
  5. Servant leadership
  6. Collaboration and influence – e.g. empowerment 
  7. Decentralization – decision should be made at the bottom of pyramid 

僕がこの人を好きなのは、①リスクをとって新しいことを行うこと、②常に学び続けることと、③現場と本社の両方の視点から考え抜くこと、④徹底的に人を信じて、育てるという姿勢を貫くこと、が非常に独自性があり、彼の経験と信念に基づいているからです。

自分なりのリーダーシップの型を持っている人は強く、自分もそういった型を作っていきたい。

人に動いてもらいたいときに、最も大切な3つの要素

誰かに動いてもらいたいのに、動いてもらえない。そんな思いをしたことは、ありませんか?

早いもので、プロダクトマネジャーに管理職と、人に動いてもらうのが主な仕事の職業につき、10年間以上が経過していました。これまでの仕事人生で常に意識してきて、3つの会社、3か国でも試してみて、有効だと感じている一つの原理原則があります。

人に動いてもらいたいと思う人に参考になればと思い、書いてみます。

情熱、論理、思いやり

人を動かすのは情熱、論理、思いやりの3つです

人は情熱を持った人に惹かれます。それは、熱量をもった人が話す言葉には、人を動かすエネルギーがあるためです。

どんなに論理的に正しいことであっても、語る人に情熱がなければ、人は頭で納得してくれても、心では納得してくれません。

人を動かしたいと思う人は、まず自分が担当する事柄について誰よりも調べ、考え抜き、そのうえで進もうとする道を正しいと信じる必要があります。人に動いてもらいたいと思うときに、あなたがぶれていると、ほかの人もどうして良いかわかりません。

また、どんなにあなたが情熱的に語ったとしても、それが論理的に正しくなければ、人は心でいいと感じても、頭で納得してくれません。納得感がないと、人はしぶしぶやってくれたとしても、期待以上のことはしてくれないものです。

情熱と論理性を持つリーダーが決定をしたときに、人は頭と心で納得をしますが、さらにもう一歩踏み込んで頑張れるかどうかを左右するのは、思いやりです。

人は、自分にとってその人がどのくらい大事か、どのくらい親近感を持っているか、で頑張れる度合いが違うのです。例えば、自分が苦しいときに一声かけて励ましてくれたり、うまくいったときに褒めてくれたことがある人に対してのほうが、顔も名前も知らない人に対してよりも、頑張れるものです。

個人的な関係を築き、「この人のいうことだからしょうがないな、頑張ろう」、「この人のためなら頑張ろう」と思ってもらえるように思ってもらえるようになれば、強いです。その関係は、一つのプロジェクトだけでなく、ずっと続く財産になります。

情熱、論理、思いやり、はこの順に重要です

情熱があれば、その事柄について調べ、考え、自分なりの考えを持つことができます。逆に、その分野についてたいして時間を使いたいと思えないのであれば、それは扱う事柄について、情熱を持てていない、ということです。

好きでないことで、ほかの人に動いてもらうのは、しんどいです。まずはあなたがそのことを好きになることが、スタートです。

情熱なんてなくても、正しい論理であれば人は納得して動くのではないか、という人もいるかもしれません。

しかし、現実には、論理だけで人に納得してもらうのは困難です。それは、常に一つの論理だけが正しいことが明らかなことなど、ほとんどないからです。

ある見方が正しく見えても、ほぼ必ず違う見方があります。そして、どちらの見方が正しいのかについてデータがあって定量的に示せる場合は、あまりありません。

本や雑誌に載っている成功例や、ビジネススクールのケースよりも現実は混とんとしており、複雑なのです。

そして、混とんとしている世界の中で、「この方向が私は正しいと思う。なぜなら私はこの事柄を愛し、これだけ調べ、考え抜いたからだ」と言える人は、強いです。なぜなら、人は、ついていくならば、そういう人についていきたいと思うからです。

そして、情熱を持つ人が、論理的に語った時にも、その語る人に対して、語られた人が肯定的な感情を持っていれば、その人はより動こうと思ってくれます。

その肯定的な感情の源は、つながり、であり、つながりを築く一つの方法は、その人のことを人としてどれだけ真剣に考え、何をしてきたか、という思いやりです。お世話になった人のために頑張りたい、というのは気持ちがあると、人はさらに一歩踏み込んで動いてくれます。

あなたが仕事や家庭でほかの人を巻き込んでのプロジェクトを進める必要が出てきたとき、ぜひこの3つを意識してみてください。

日本の働き方と米豪での働き方の違い

アメリカ、オーストラリアで働いた後に日本に帰国して働き、約4ヶ月が経過しました。同じ会社で3つの国で働いた経験から、海外で働くことに関心がある人、もしくは海外から日本へ戻って働くことを考えている人向けに、私が感じた違いについて書いてみます。

コミュニケーションに必要な労力

よく日本の強みは緻密なコミュニケーションによる「すり合わせ」と言われます。さまざまな部署の調整が必要となる複雑な製品やサービスを生み出すとき(自動車など)に、この緻密なコミュニケーションが強みの源泉となっている、と言う主張です。

一方、裏を返せばそれだけコミュニケーションが期待されている文化、ということでもあります。

日本の組織に戻ってきて感じるのは、仕事を進める際のコミュニケーションの必要量の多さです。

例えば会議を例にあげると、米国やオーストラリアと会議をしていると意見(賛成、反対問わず)がどんどん出てくるのに対し、日本の会議では意見が出てきにくい。

「この場で意見をいって良いのか」という空気を読もうとする傾向があり、タイミングを見計らっているのか、結果的に意見が出にくい会議になってしまう。

意見がないわけではなく、一人一人にどう思いますか、とふるときちんと意見が出てくる。つまり、会議という場で意見がきちんと集められないため、会議で合意形成することが難しい。

かといって、会議で決まったからと進めようとすると、会議で言われなかった意見に対して対応が取られていることを納得してもらえないと、関係者が合意を合意としてくれず、きちんと次のアクションをこなしてくれなくなり、結果的に仕事が進まない。

そのため、きちんと意見を吸い上げて関係者の合意を得ようとすると、結局は毎回毎回、ステップごとに会議の中でそれぞれの一人一人がきちんと意見を言う時間を作るしかないが、それをやると会議が非常に長くなる。

そのため、効率的に進めるためには、それぞれの人と1対1または少人数の場で話す場を設ける必要が出てくる。言い方をかえれば、一人一人に根回し(きめ細かいケア)をしないといけない

昔ならば「一緒に飲みに行こうか」と飲みの場で話すことや、同じオフィスの中でちょっと立ち話で解決できたことが、このコロナ禍で在宅勤務が基本になると、この一人一人と話さなければならない、というのが非常に労力がかかるプロセスになります。

また、根回しの対象が少なければまだ良いのですが、日本の会議の特徴なのか、関係者が多い。

「俺は聞いていない」と決まったことを後から覆される現象を防ぐために、会議に呼ぶ気持ちは分かりますが、アメリカやオーストラリアであればマネジャー一人出ればいい場面に、日本ではマネジャーが部下を何人も連れて参加している場合が合ったり、必ずしも意見が必要ないけれどその場にいたという実績を作るためにとりあえず関係者全員を集めている会議もそれなりにある気がしています。

この点も、「関係者全員での合意」を重んじる日本の意思決定の特徴が反映されています。

日本での在宅勤務の生産性について、若手が「生産性が変わらない」と答えて、管理職が「生産性が減った」と答えているのは、こういう個別にコミュニケーションを取らなけばきちんと合意が取れない、意思決定ができない、という文化が影響しているのかもしれません。

日本オラクルによる生産性調査結果(2020年11月)

いずれにしても「期待されているコミュニケーション」の違いのため、労力がかかる、というのが、米豪と比較しての日本でのコミュニケーションの感想です。

新しいことをする際の仕事の進め方

日本の組織は良い意味でも、悪い意味でも完璧主義だなと感じます。前例踏襲ならば良いのでしょうが、新しいことをやろうとすると、できない理由や「こう言うケースが出てきたらどうするのですか」、と言う例外対応がいくつもいくつも出てきます。

そして、その想定される例外やリスクを排除するために、関係部署を含めて何度も打ち合わせをする必要性があり、考えられる対応策を議論し尽くしてから、ようやく次へ進めます。

最初から例外対応を想定して計画を策定するのは大事なことですが、この「リスクや例外対応をほぼ全て潰さないと既存のプロセスからなかなか動けない」、というやり方はビジネスのスピードをかなり遅くします。

アメリカやオーストラリアでは、「それはどのくらいの頻度で発生するのか」、「起きた時にどれくらいの影響が出るのか」、「結局どのくらい重要なことなのか」というインパクト付けをして、それがあまり重要でなければ、リスクについては起きた時に考えるベースでも走れました。

一方、日本では完璧主義の文化が根強く、走りながら考えることに拒否反応があるような気がしています。

どのような新しい活動においても、最初のうちは慣れ親しんだプロセスから離れるため、最初の学びの期間には効率が多少落ちたり、問題が発生するものです。そういったリスクに対して、これはあまり重要でないから今は棚上げ、とするとそこに引っかかる人がおり、「どうしてこの点を考えていないのに進むのか」と関係者の合意が得にくく、進めにくいのが悩ましい点です。

仕事と家庭の両立

仕事と家庭の両立はどの国でもテーマの一つですが、このテーマにおいても違いが大きいです。

アメリカでもオーストラリアでも、オフィスでは17:30になると残っているのは周囲で数人、と言うのが通常でした。

皆、子供の送り迎えであったり、近所のスポーツのコーチであったり、で夕方は家庭で忙しいのです。朝は早くくる人が多いですが、終わりの時間はきっちり帰ります。

そういう事情もあるために、就業時間後にMTGが設定されることはほとんどありませんでした。たまに設定されるとしても時差の違う地域(オーストラリアからヨーロッパと話す時は就業時間後の方が捕まえやすい、など)と話す時に限っていました。

一方、日本では終業後に日本人同士で話すMTGがそれなりの頻度である気がしています。18:00開始、19:00開始、と言うこともあり、これだと子供のいる家庭だと支障が出るな、と呼ばれている身ながら心配になります。

勤務時間中だとみんなが集まれる時間がないから、、、と言うことで就業時間後に設定されるのだと思います。

ただ、そんな場合でもどうしようもなく必要な人だけでなく、参加しても発言しない人(=不可欠でない人、やむをえない出席でない人)が就業時間後のMTGに呼ばれているのは、本当に多様な人材が働ける環境になっているのか、と違和感を感じます。

家庭の時間をどこまで尊重するか、というのは僕が感じる最も大きい違いの一つです。

違いについてのまとめ

これらの違いは相対的なものであり、必ずしも良いことであったり、悪いことであったりするわけではありません。

「綿密なコミュニケーションをとって物事を進めていく」、「完璧主義である」、と言うのはミスの許されないような業種や職種であれば効果的なやり方です。また、作業標準を作り、それに沿った作業を行い、作業標準を改善することで業務効率を改善していく、ような決まったことを何度も繰り返すような仕事でも効果的なやり方です。

また、作業をミスをしないように真面目に進めてくれるという安心感もあり、ここはアメリカやオーストラリアで働いていた時よりも安心して任せることができます。

また、「家庭に対する意識が低い」のは経営する側からすると望ましいことです。業務量を多くした時に、従業員が就業時間後に働き続けてくれる(しかも辞めないでくれる)、という国はそんなに多くありません。経営する立場からすると、こちらも効果的な環境です。

一方、これらの特徴が強みになるような仕事の割合が少なくなっている、とも感じています。

定型的な仕事であればソフトウェアの自動化で大部分が対応できますし、リモートワークはこれまで見えにくかった一人一人の生産性をより見えやすくしました。また、現代の20代、30代は仕事と家庭を両立させることへの意識が高く、「家庭に対する意識が低い」会社は優秀な人材から選ばれにくくなってきています。

僕自身は、日本の文化の良いところは活かしつつ、現在の環境に合っていないところは変えていき、チームがより心地よく、効率よく働ける環境づくりを進めていきたいと考えています。

日本から海外に出る人、海外から日本に帰ってくる人、は上記の

  • コミュニケーションの労力
  • 仕事の進め方
  • 家庭と仕事のバランス

の3点の違いについて意識をして、それぞれの文化に応じた立ち振る舞いを行うと良いかもしれません。

タカラレーベンインフラ: 決算・株価・配当金分析

インフラファンドの第一号であるタカラレーベンインフラ投資法人は太陽光発電を中心とした、6%程度の安定した配当が見込める銘柄です。今回はこの投資法人の決算を元に、銘柄の分析を行います。

この記事は安定して高配当を受け取りたいと考えている人にお勧めです。

インフラファンドとは

インフラファンドとは太陽光などの再生可能エネルギーを用いた発電設備に投資を行う投資法人の総称です。

インフラファンドが投資を行う対象となる太陽光発電設備は、固定価格買取制度(FIT)という国の制度に支えられており、20年間の間、固定した価格で電力会社が太陽光発電業者が発電した電気を買い取ってくれます。

そのため価格下落の心配がなく、毎年同じ量の発電ができれば、同じ金額を受け取ることができる仕組みになっています。

また、食料品や電化製品などの消費財と異なり、電気は一般的な国民の誰もがが継続的に使い続けるものですので、需要も安定しています。

インフラファンドはこのような国の制度によって守られていることから、10年以上先まで収益の予想が立っており、安定した配当が予想できる投資先です。例えば、いちごグリーンインフラはかなり先までの配当金の予測を出しています。

いちごグリーンインフラの配当金予定

現在では7銘柄が上場しており、これらのファンドの値動きをまとめた東証インフラファンド指数という指数も2020年4月2日より誕生しました。

東証ファンド指数(日本証券取引所ホームページより)

価格は2020年10月に急騰した後、現在は1,120から1,170までのレンジを推移しています。

市場としてはまだまだ小さく、この指数に連動したETFも2021年3月現在はありません。市場の黎明期と言っても良いかもしれません。

タカラレーベンインフラ投資法人

インフラファンドの中でのタカラレーベンインフラ投資法人(以下、タカラレーベン)の特徴は、安定したキャッシュフローです。

インフラファンドはどのファンドも保証されている最低賃料+実績連動賃料、と実績により収益が変動する仕組みになっています。

その中でもたタカラレーベンインフラは最低賃料の水準が高く、実績連動賃料の部分が小さくなっているため、その分賃料が安定しています

例えば、2020年11月期の決算では、利益分配金のうち、実績分が占める割合は10%以下です。つまり、どんなに発電量が少なくとも、収益の90%が保証されています。

タカラレーベンインフラ10期決算

また、タカラレーベンは7社の中でも、分配金に占める利益の割合が多く、分配金のキャッシュフローに占める割合も60%と低いです。

決算 2019/5 2019/11 2020/5 2020/11
1株あたり利益 ¥3,486 ¥3,067 ¥3,580 ¥3,364
1株あたり減価償却費 ¥4,092 ¥4,099 ¥4,411 ¥4,403
1株あたり利益+減価償却費 ¥7,577 ¥7,166 ¥7,992 ¥7,767
1株あたり支払利息 ¥351 ¥359 ¥485 ¥469
1株あたり簡略化キャッシュフロー ¥7,226 ¥6,807 ¥7,507 ¥7,298
分配金 ¥3,826 ¥3,397 ¥3,870 ¥3,512
分配金/キャッシュフロー 52.9% 49.9% 51.6% 48.1%

太陽光発電は太陽が出ている日照時間により発電量が変わるため、前年同期比で比較する必要がありますが、1株あたりの利益は2020年は2019年と比較しても前年同期比で増加しています。

タカラレーベンの戦略

タカラレーベンは毎年増資を行い、得た資金を元に新しい太陽光発電所を取得し、規模を増加させていくことを戦略にしています。規模としては131MW。市場全体は2019年12月末時点で稼働しているFIT設備は50,620MWですので、タカラレーベンインフラ投資法人のFIT設備におけるシェアはわずか0.26%です。

タカラレーベンインフラ投資法人の規模の推移

タカラレーベンは利益剰余金を配当として出す代わりに、物件購入のための資金にあてており、相対的に増資による株式の希薄化が少なくなっています。

また、既存の太陽光発電所の場所も関東・関西・中部と電力需要が高いエリアに多く展開されています。「出力制限」(発電量が需要と蓄電可能な水準を上回り、電力会社から発電の制限の要請・強制が出されること)が頻繁に行われる九州地方の割合が3%と低いことも好ましいです。

タカラレーベンのポートフォリオ分散

九州は日照条件がよく、太陽光発電所の設置が相次いだことから、日中の発電利用が需要を上回ることが増え、出力制御が年間で30日間行われる水準まで達しています。これは単純計算で収益に約8%のネガティブな要因です。

九州電力の出力制御

九州地方へ物件を集中させる戦略をとり、九州への依存度が高い「かナディアンソーラー」、「いちごグリーン」にとってはこの九州電力の出力制御は収益へのリスクですが、タカラレーベンインフラにとってはそこまで影響がありません。

2021年の分配金見込み

2021年の分配金は7.2%減少の、6,851円というガイダンスが出されています。

これは2021年3月19日の終値の121,200円ベースだと、利回りは5.7%になります

2017 2018 2019 2020 2021
1口あたり分配金 ¥6,607 ¥7,847 ¥7,223 ¥7,382 ¥6,851
うち利益分配金 ¥6,144 ¥7,013 ¥6,561 ¥6,953 ¥6,162
うち利益超過分配金 ¥463 ¥814 ¥662 ¥411 ¥689

ただ、タカラレーベンは伝統的に分配金のガイダンスをかなり控えめに出す傾向があるため、実際は前年比から微減程度になるのではないかと予想されます。

タカラレーベン、配当金のガイダンスと実績の推移

また、1株あたりの減価償却の額は年々増加していっていますので、その減価償却から生じたキャッシュを再投資することでさらに1株あたりの収益を上げられる可能性もあり、分配金は安定的に推移する可能性が高いともいえます。

過去の傾向として5月末と11月末の配当金の基準日の後は配当金の額以上に大きく下落します。

その際に入手すれば利回り6%以上と、より魅力的な水準で入手できるかもしれません。

制度的なリスク

再エネ特措法改正により、2022年4月より、発電設備の廃棄のための費用に対する外部積み立て義務が課されます。これはFITの期間である20年の後半10年間の間の積み立てとなるため、まだ多くのインフラ投資法人で費用として計上されませんが(FIT制度が始まったのが2012年とまだ10年が経過していないため)、将来的には費用の計上となるため、利益の減少要因です。

また、2023年より発電側基本料金制度が始まり、こちらも発電側への負担増となる可能性があります。

まとめ

  • インフラファンドは20年の固定価格買取制度(FIT)にもとづいた太陽光発電を対象とする投資ファンドで、利回り5-7%の安定した配当をもたらしてくれる
  • タカラレーベンインフラ投資法人は現在上場している7銘柄の中でも、最も安定した収益構造を持つインフラファンドであり、分配金の安定度が高い(分配金の中に占める利益剰余金の割合が低い、最低賃料水準が高い、地理的に分散されており出力制限の影響を受けにくい)
  • 安定している分、傾向としてはインフラファンドの中でも利回りが低い傾向がある。しかし、それでも高い利回り水準であり、現在の2021年のガイダンスベースでの利回りは5.7%

インフラファンドにより興味を持たれて、リターンとリスクについて詳しく知りたい方は、過去のこちらの記事をご覧ください。
[st-card myclass=”” id=1408 label=”日本株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

日本株のビジネス・株式の分析の一覧はこちらです。 [st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/japan-stocks/” title=”日本株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

ZOOM(ZM)は買い時なのか: ビジネス・株価の分析

新型コロナによる在宅勤務の普及から、一躍有名企業となったZOOM。3月のNASDAQの調整に伴い、ZOOM(ZM)の株価も直近の2月の高値である$444から$311まで、約30%下落しました。

下落を機会にZOOMを投資候補にする人も多いのではないでしょうか?

今回はZOOMについて、ビジネス・株価の点から分析してみます。

ZOOMのビジネスモデル

ZOOMのビジネスはいわゆるSaaS (Software as a service)モデルです。顧客は月額または年間のサービスの利用料を支払い、ZOOMのビデオ会議サービスを用います。

ZOOMは下記のサービスを提供しています

  • ZOOM Meetings/Video Webinar
  • ZOOM Rooms
  • ZOOM Phone
  • OnZoom (まだベータ版)

このうち、ZOOM Meetings/Webinarはみなさんお馴染みの、ビデオ会議サービスです。

ZOOM Meetings/Webinar

ZOOM Meetings Plans

ZOOMはいわゆるフリーミアムの仕組みを採用しており、無料プランで人を集め、そこから有料のプランに誘導するビジネスモデルです。

無料であるBasicプランは40分までの会話が可能です。3人以上で40分以上の会話をしたければ年間$149のプランを購入すれば、30時間まで100人までの会議ができます。

法人向けには電話機能も提供しており、個人から大企業までをターゲットにした異なるプランを提供することで、幅広いターゲットを狙っています。ZOOM Meetingsが収益の柱です。

また、ZOOMはWebinar用のサービスも提供していまして、こちらも参加人数に応じた料金体系になっています。

ZOOM Webinar Plans

無料のサービスをテコにして、ZOOMは顧客基盤を順調に広げていっています。特に、11人以上を雇用している法人の顧客基盤が順調に拡大しています。

11名以上を雇用する顧客の数は2020年のQ1からQ4の終わりまで、265,400社から467,100社まで1年で76%伸びました。

直近では2020Q1からQ2までの10万社近い伸びはありませんが、それでも1四半期で34,000社の増加はかなりのハイペースです。

ZOOMの2020Q4決算時のQ&Aによると、この11名以上を雇用する顧客からの収益が全体の63%を占め、残りの37%が10名以下の法人または個人からの収益です。

これらの顧客の中で、1,644社が10万ドル(1050万円)以上を年間支払っている顧客であり、こちらも1年で113%増と順調に増加しています。

G2Kと呼ばれるグローバルで最も大きな企業での浸透率はまだ14%で、まだまだ増加の余地があります。

2020Q1 2020Q2 2020Q3 2020Q4
Customers with more than 10 employees 265,400 370,200 433,700 467,100
customers contributed more than $100,000 769 988 1,289 1,644

また、1顧客あたりの単価も年率で30%以上増加を11四半期連続で続け、無料から有料、さらに有料プランの中でもより高いプランへの誘導が順調に進んでいます。

2020年のZOOMについては大躍進という言葉がピッタリな、全ての顧客に関する数値が飛躍的に伸びた年でした。

ZOOM Phone

ZOOM Phoneは企業向けの電話サービスです。こちらは企業の電話の電話番号をクラウド上で管理し、割り当てるPBX(電話交換機)と呼ばれる市場に向けた製品になります。

既存の企業の多くがIP-PBX(インターネットを利用した電話交換機)を用いていますが、ZOOMはクラウドを用いたクラウドPBXを提供しており、こちらはIP-PBXと比較して初期導入のコストが安い、拡張もしやすい、といった利点があります。

ZOOM Phones Plans

ZOOM Phoneを導入した11人以上を雇用する企業の数は10,700まで増加しています。

こちらはZOOMを導入している11人以上を雇用する企業約47万社の約2%で、自社の顧客基盤の中でもまだまだ伸び代があります。

また、10,000ライセンス以上の契約を結んだ企業の数は18であり、こちらも徐々に増加していっています。

ZOOM Rooms

ZOOM Roomsは企業の会議室向けのビデオ会議システムのサービスです。多くの企業ではビデオ会議のための部屋があり、そこには会議システムと呼ばれる、各地のオフィスと映像と音声を繋ぐシステムが設置されています。

ZOOM RoomsはLogitechなどの機器メーカーとパートナーシップを組み、このオフィス会議システムの市場に参入した製品になります。

こちらは部屋ごとの料金プランになっています。

ZOOM Rooms Plans

CiscoのWebexなどが主な競合になります。こちらのサービスについては具体的な数値がまだ公表されていません。

OnZoom

OnZoomはまだテスト段階のベータ版のサービスです。こちらは主に個人事業者・インフルエンサーをターゲットにしたサービスで、ZOOM上で参加費の徴収や商品を販売することができるようなサービスです。

ユースケースとしては、料理教室やヨガの教室などを行い生徒を集めたり、インフルエンサーが商品を紹介し、それを販売する、などが考えられます。

ZOOMの戦略

ZOOMの戦略は以下になります。ZOOMはSaasのビジネスを考える上で有用な、AARRRのフレームワークで考えるとわかりやすいです(Acquisition, Activation, Retention, Referral, Revenue)。

このフレームワークを用いて、ZOOMがユーザーの①獲得(Acquisition)、②顧客化(Activation)、③継続(Retention)、④紹介(Referral)、⑤収益化(Revenue)について何を行っているかを整理してみます

  • 獲得;フリーミアムモデルで無料ユーザーを獲得する
  • 顧客化;無料ユーザーを 有料ユーザーにすることで売上を上げていく
    • グローバル展開を進め、特に北米以外の西欧、アジアでの法人営業を加速させ、有料法人ユーザーを増やす
    • 個人の有料ユーザーを広げる製品としてのOnZoom
  •  継続;継続率を高める
    • 法人ユーザー向けにはZOOM Meetingsのユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の継続的な向上を続け、製品優位性を保つと同時に、他の企業の製品にもZOOMを組み込みやすくすることで、ZOOMから顧客が離れないようにしていく(moat – 堀を作る)
    • 個人のユーザーについてはOnZoomで繋がりを保つ
    • 他のサービスと連携することで使い勝手をよくし、ZOOMから離れることを防ぐ(Google Calendar, Outlookとの連携等)
  • 紹介;紹介率を高める
    • ユーザーの継続率を上げられれば、ZOOMでの会議・イベント参加者が増え、参加者がアプリを利用することでさらにZOOMが知られ、利用者が増えていく
    • また、ネットワーク効果でより多くのユーザーが使えば使うほど製品の利便性も増加していく
  • 収益化;ユーザー単価を上げる;
    • 北米では継続的にユーザーを獲得すると同時に、既存のユーザーにZOOM Webinar、ZOOM Phone、ZOOM Roomsを売ることでユーザー単価をアップしていく(アップセル)
    • 個人ユーザー向けにはOnZoomでアップセルを行う

主要なKPI(Key performance Indicators – 経営を行う際に重要となる指標)は、11人以上の従業員を持つ法人顧客の数、既存顧客からの売上、主要サービスの顧客獲得(Zoom Phone、Zoom Rooms)になります。

法人向け

法人向けにZOOMが目指しているのは、「顧客を囲い込む」ことです。

ZOOM MeetingsやWebinarsのようなウェブ会議を法人むけに提供するサービスは、従業員の生産性を上げる、「プロダクティビティソフトウェア」に分類される市場です。

この市場は競合も多く (例;Microsoft Teams, Verizon Bluejeans, Cisco Webex)、特にMicrosoft Teamsは企業向けアプリケーションの標準であるOffice 365とバンドルされていることもあり、ほぼ全ての法人顧客に用いられる可能性がある非常に強力な競合です。

一例をあげればチャットツールであるSlackがMicrosoftのTeamsによって成長鈍化させられ、Salesforceに買収される道を選びました。

同様に、ZOOMも常にMicrosoftのTeamsの脅威に晒されています

特にSaasは初期投資が低く、変更のコストも低いため(=スイッチングコストが低い)その分、ZOOMも契約を切られる可能性が高くなります。

Microsoftが365 E5という法人向けプランでTeamsを強力に推し進めていることもあり、 ZOOMにとっては「法人顧客がいつMicrosoftに取られるのか」は深刻なビジネス課題です。

この脅威に対して、ZOOMは企業の比較的変更しやすい「ウェブ会議」だけでなく、電話や会議室といった、ハードウェアの投資が必要であり、「より変更しにくい」サービスを提供することで、企業を囲い込もうとしています。

言い方を変えれば、ZOOMをきっかけとして顧客の社内コミュニケーション全体に入り込み(電話、会議室、ウェブ)、ZOOMから離れられないようにしようとしています

少し抽象化すれば、ビデオ会議サービス提供者から、コミュニケーションプラットフォーム提供へのバリュープロポジションの変更です。

これは、解約率を下げるということに加え、一顧客あたりの単価を上げられるという点でも良い施策です。

また、すでに顧客になっている顧客に新しいサービスを売る方が全く新規の顧客にサービスを販売するよりも効率が良いため、営業効率もよくなります。戦略的にも、財務的にも筋の良いアプローチです。

また、Microsoftという巨大な競合がいるウェブのビデオ会議市場に比べて、社内向け会議システムや機内交換機の業界の競合は大企業ですが、比較的スピードの遅いプレイヤーが多く(Verizon、Cisco)、IP-PBXからクラウドPBXへの技術変化の流れにも乗っており、ZOOMとしてはシェアを獲得しやすい市場です。

ZOOM CEOのEric Yuanの言葉を借りれば、「ZOOMはkiller app(人気のアプリ)からプラットフォーム企業になる」ことを目指しており、ZOOMの成功を基盤として、比較的変化の遅い業界へ乗り込み、市場を拡大しようとしています。

好調なZOOM Phoneの展開を見る限り、法人向けの戦略については、初期の成功が見えつつあります

個人向け

個人向けサービスに関しては、ZOOMに変わるサービスとしてMicrosoft Teams、Google Meet、少人数ではFacebook Messenger等も競合になるため、非常に競争が激しい市場です。

また、新型コロナが落ち着き、人々がZOOMよりも対面で会話することを望むようになると、解約率が増加する可能性があります。

この脅威に対して、ZOOMはOnZoomというビデオ会議を基盤とした課金プラットフォームを提供することで、個人事業主やインフルエンサーを集め、有料ユーザーを増加させようとしています。

こちらのサービスはコンセプトは良さそうです。ただし、サービスはまだベータ版であり、この戦略がうまくいくかはまだ未知数です。

また、いわゆるC2C (Consumer to Consumer)のビジネスの世界ではGoogleのYouTube、FacebookのMarket Place、Twitterの参入、と競争が激しい市場であることと、こちらもネットワーク効果が働き先行者のメリットが大きいサービスですので、OnZoomのサービスのフルローンチが遅れると、その分競争に勝つのが難しくなります。

以上をまとめると、法人向けサービスについては戦略の方向性が決まり、実行も順調に進んでいます。ただし、個人向けについては新型コロナ後に有料ユーザーがどの程度離れるのかが未知数であり、OnZoomもまだ成功が見えていないことから、個人向けサービスについては成長が続けられるか不透明な状況です

ZOOMの直近の決算

ZOOMの直近の四半期決算は、全てポジティブな結果でした。

  • 売上の予想$810に対して$882m(10%近いポジティブなサプライズ)
  • EPSの予想$0.79に対して$1.22 (54.4%のポジティブなサプライズ)
  • 2022売上の予想$3.56b、EPSの予想$2.96に対して売上$3.76から$3.78b、EPS$3.59-$3.65のガイダンス(売上・EPSともに予想よりポジティブ)

ガイダンスに従えば、現在の$347の株価水準では、2022 Forward PSR (Price to Sales Ratio)は28.6、non-GAAPの2022 Forward PERは96となります。

Forward PSRが28.6というのは高い水準ですが、ZOOMの過去の水準からすると、2019年と同等程度です。2020年の過度な期待が剥がれた、といっても良いのかもしれません。

売上高ですが、Saasでは法人向けの多くは年間契約となっており、よほど解約が受注を上回らなければ、売上高が基本的には右肩上がりに増えていきます。

2020Q4の売上高が$882mで、単純計算で前期の売上高を1年間維持できれば$3.53bです。売上$3.76-$3.78というのはその数字から6%増であり、個人向けの有料サービスの解約が増えるリスクをかなり見込んでいるのでしょうが、実現可能性の高いガイダンスだと感じます

また、ZOOMは2020年Q4の結果では粗利益で70%、営業利益で29%と非常に高収益の企業であり、かつ利益率は売上の増加に伴い、改善傾向にあります

この粗利益、営業利益の高さは、比較されることが多い他のSaasサービスと比べても頭一つ抜けています。ARKの創業者であるCathie Woodが「ZOOMはバリュー株」と呼ぶのが分かるほど、既に安定した事業ベースを築いています。

現在はK-12向け(米国の小中高)に無料でサービスを提供していることもあり、こちらのサービスを新型コロナのパンデミック後に有料化した場合、さらに粗利益・営業利益率の向上が見込めます。

2021年のガイダンスについても、営業利益率、純利益ともに30%のガイダンスです。売上高が拡大すること、ワクチンが行き渡り、K-12のサービスを今年中に有料化できる可能性を考えれば、利益についても売上高と同じく実現可能性が高いガイダンスであると考えられます

ZOOMを単一のビデオ会議サービスを提供する企業として見れば新型コロナ後に成長余地が限られるように感じられますが、Zoom Phone/Zoom Rooms/OnZoomと新型コロナ後の世界を見据えた打ち手をうちながら、コミュニケーションのプラットフォームを目指しています。

その戦略が実現するのであれば、ZOOMはMicrosoftやSales Force.com等と併用される、企業内でのコミュニケーションのデフォルトのソフトウェアの一つとなり、更なる成長が見込めます。

ZOOMの株価推移・チャート

ZOOM 1 Year Stock Price

ビデオ会議サービスを提供するZOOMは新型コロナで最も追い風を受けた企業であり、昨年3月の過去1年間から見ても、株価は$105から2020年10月には最高で$559と5.5倍まで増加しました。

現在の50日間移動平均線は下落傾向で、$378、200日の移動平均線は$363であり、どちらも3月12日の終値$346を上回っています。

移動平均線から見ると、ZOOMの株価は下落トレンドにあります。11月の急落時の$376、1月の急落時の$349、2月の急落時の$313、とボトムを切り下げているのが、明確な下落トレンドで嫌な感じです。

需給の点では、3月3日、4日は出来高を伴って2日間で20%下落をしており、これは機関投資家が売却したことを示唆します。株価は直近の最安値である$313から現在は約10%上昇しました。出来高は3月3日以前よりも少なくなってきており、売買が落ち着いてきていることがわかります。

加えて見逃せないのは、ZOOMはARKの旗艦ファンドであるARKKの主要銘柄の一つである点です。

ARKK Holdings of ZOOM

ARKはZOOMの大きな買い手であり、保有割合を増やし続けています。

特に3月はZOOMの価格が落ちた時の買い手となってきました。直近では、株価が大きく落ちた3月2日、3、4日に大きな買いを入れています($372, $343、$341)。ARKKの平均買値は$416であり、現在の株価水準より20%高い価格となっています。

$340くらいの水準はARKにとって魅力的な水準であり、さらに下がった場合は購入されることが見込まれ、下支えがあるという点で好ましいです。一方、ARKKのETFの解約が増えるとその分だけ売りの圧力が増えるため、ARKKのコア銘柄の一つであるということは諸刃の剣でもあります。

また、ZOOMはいわゆる「Work From Home」(WFH)銘柄とみなされていること、ハイグロース株、とみなされていることから、ワクチンが行き渡る世界を人々がより実感するにつれて、テーマで株を購入していた投資家が離れ、需給が悪化して、さらに売られる可能性はあります。また、長期金利が現状の1.6%を超えて増加していくようですと、3月前半のように、また一段と売り込まれる可能性もあります。

短期的には株価の変動が激しそうですが、長期的には戦略がうまく行けば大化けする企業、のように感じます。

まとめ

  • ZOOMは新型コロナをきっかけとした在宅勤務の急速な普及を受けて、躍進したサービス。順調して顧客数を増加させ、かつZOOM Webinar、ZOOM Phone、Zoom Roomsといったサービスの追加により1顧客あたりの顧客単価も順調に増加させている
  • 法人向けのZOOM Phoneが好調で、今後も既存顧客へのアップセルを通じて、顧客単価向上に寄与する見込み。また、ZOOM Phone・ZOOM Roomsは顧客を囲い込む意図があり、Microsoft Teams対抗の鍵である
  • 個人向けは競争が激しい市場であることことに加え、ワクチンが行き渡り、人々がオフィスへ戻り、友人・家族と対面で会うことができるようになると、有料会員が減少するリスクがある。OnZOOMが個人を囲い込む鍵となるサービスだが、まだベータ版であり、未知数
  • ZOOMは上場からずっと良い決算を出し続けている企業であり、直近の決算の売上高、EPS、ガイダンスも全てアナリスト予想を上回った。
  • 2021年のガイダンスは2020年の第4四半期の結果を見る限り、有料会員の個人の解約を見込んだとしても、やや控え目な印象
  • ZOOMは粗利益70%、営業利益30%と超がつくほどの優良企業であり、収益化できていないハイグロースと比べても魅力的
  • 株価は調整を経て2021年のForward PSR30以下と、新型コロナによる業績のブーストがかかる前の水準まで落ち着いている。
  • ビジネスの観点からは株価は適正な水準まで落ちてきた印象。一方、チャートが明確な下落トレンドであることが懸念。現在でもARKが積極的に購入を行う水準であり、ARKの買いが下支えになる可能性もあるが、ARKKの解約が売りに繋がるという懸念もあり、諸刃の剣。

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

投資効率を高めるための仕組み作り-国の制度を使い倒す

投資をする「仕組み」ができているかどうかで、資産形成のスピードは大きく変わってきます。年の初めに、今年こそは投資を初めよう、という方も多いのではないでしょうか。日本の制度を活かすため、日本に帰国してから、私が行った仕組みづくりをまとめてみます。

つみたてNISA (少額投資非課税制度)

つみたてNISA (少額投資非課税制度)は年40万円まで拠出でき、20年間の間、非課税で運用することができる制度です。

なぜ、つみたてNISAはお得なのか?

現在では上場株式へ投資をして運用益または配当が出た場合、所得税・住民税として20.315%の税金が課されるため、非課税になることで、25%手元に残るお金が増え、お得になる制度です(例;100円の運用益で、税引き後には80円になるところが、100円のままのため、100/80 = 125%)。

つみたてNISAの優れたところは、20年間非課税で投資できることです。例えば、40万円を毎年拠出し続けた場合、20年後の時点では、800万円を非課税で運用できることになります。

また、株式のように波はありながらも成長を続ける投資先に投資をした場合、仮に20年間の幾何平均が年率5%であった場合、40万円の今の投資は、20年後には106万円になります。もし税金を支払わなければならなければ、85万円程度の受け取りになるところが、そのまま106万円受け取れるというのは、大きな違いです。

特に、日本の場合は将来に渡って現在の税率が維持されるかどうかはわかりません。

仮に、「株式譲渡益・配当で儲けている富裕層へ課税を強化すべきだ」などの議論がこの先十年で起こった場合(現在の富の二極化を鑑みると、十分にありえる話です)、税率が上がるリスクもあります。基本的には一度作られた仕組みが遡及して変更されることは考えにくいため、現時点でつみたてNISAを行っておくことはこの税制が変わるリスクを下げることに繋がります。

リスクを長期で排除するという点からも、つみたてNISAは優れた長期の資産形成の制度です。

つみたてNISAか通常のNISAか

NISAにはつみたてNISAの他に、毎年120万円まで拠出でき、5年間非課税で運用することができる積み立てでないNISAもあります。こちらは短期または中期で運用する人向きです。私の場合、「長期で非課税で運用できること」、「20年後には最大で800万円を非課税で運用し続けられること」のメリットが大きいと考え、積み立てNISAの方を選びました。

どの証券口座で開くか

私は楽天証券で新たに証券口座と楽天カードを作り、つみたてNISAを1月から初めることにしました。

楽天証券を選んだ大きな理由は、楽天カードからつみたてNISAへ支払うと、1%のポイントがつくことです。こちらは年間6,000円分までのポイントが手に入ります。

投資の世界で1%リターンを高くするというのは大変なことです。このキャンペーンがいつまで続くのかはわかりませんが、当面の間は1%のポイントがつく = 1%リターンをあげられる、ことから楽天証券でつみたてNISAを初めるのが現状では最もお得だと判断しました。

eMAXIS Slimの全世界株式または米国株式(S&P500)で積み立てNISAを40万円分行いたいと思います。

加えて、妻の分のつみたてNISAもはじめました。これにより、非課税で運用できる口座に対して、年最大80万円拠出できるようになります。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

つみたてNISAが「将来の運用益への課税」を節税できる制度だとすると、iDeCo(個人型確定拠出年金)は現在の税金の節税、ができる制度です。

なぜiDeCoがお得なのか

例えば、給与所得で年間600万円稼ぐような人(会社からお給料を貰って稼いでいる人)で課税所得が330万円程度だったとすると、課税所得が1万円増えるごとに、所得税+住民税で30%近く支払う必要があります。

iDeCoで拠出する金額は、この課税所得から引くことができます。つまり、上の例の場合で言えば、30%分の税金を支払わなくてすむので節税になります。

iDeCoは勤めているかどうか、勤めている企業が確定拠出年金があるかどうか、確定給付年金があるか、などそれぞれの状況により拠出できる金額が変わります(現在は自営業者の方は最大で月額6万8千円、企業方DCがない会社の会社員は月額2.3万円)。

背景としては、すでに似た制度に加入している人とそういった制度へのアクセスのない人の間で不公平にならないようにする、という思想があります。

いずれにしても、私たちからすると老後資金を貯めるための、有効な節税の制度です。

どの証券会社で開くか

3大ネット証券(SBI、楽天、マネックス)のどの証券会社を用いてもよかったのですが、私はこちらも楽天証券で行い、長期的な投資は楽天にまとめることにしました。

手数料はほぼ同じですし、商品のラインナップもさほど差はありません。つみたてNISAとiDeCoのどちらも長期投資であるため、長期投資をする口座をまとめた方が管理が楽だと考えたことが理由です。

ふるさと納税

NISA、iDeCoと並んで定番の節税がふるさと納税です。ふるさと納税を利用して控除できるのは主に次年度の住民税ですので、赴任から帰国した人もその年から利用することができます。

ふるさと納税でどの程度節税できるのかについてより詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=1331 label=”資産形成” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

ふるさと納税では返礼品の調達率が30%であるべきとされており、選べば寄付した額の30%以上の価値ある商品を入手することができます。

加えて、楽天ふるさと納税で納税を行うと、返礼品に加えて、ポイントがつきます。私の場合、楽天カード+楽天証券+楽天市場アプリ+楽天ブックス、で5%のポイント(SPU)がつくようにして、加えて0と5がつく日に楽天カードを使って納税することで+2%、加えて買い周りで3件以上の買い物をすることでさらに+3%、でふるさと納税で10%以上のポイントがつくようにしています。

支払った税金で返礼品がもらえることに加えて、10%のポイントでキャッシュバックされることを活かし、寄付額の40%程度を戻すことができるため。限度額まで行うことのメリットが大きいと思います。

クレジットカード

ちりも積もればでないですが、支払いをクレジットカードにまとめることで、お得に買い物ができます。どのクレジットカードもポイントのような仕組みがあり、利用した額に応じて還元してくれます。

例えば、楽天カードの還元率は100円で1ポイントであるため、1%です。楽天でポイントを貯めている人ならば、楽天でメインの買い物をするようにすれば、3%以上程度まで上がられます。

三井住友カードはVポイントが200円で1ポイント貯まるため、0.5%です。月々10万円買い物をするならば、ボーナスポイントが入り、ゴールドカードであれば追加で0.2%。

私のクレジットカードは航空会社と紐づいているものなので、還元率はマイルを1円と換算すれば、だいたい1.2%程度です。できるだけクレジットカードを用いるようにし、年間200万円の利用をすれば、2.4万円が返ってくる計算になります。

また、マイナンバーカードを持っていない人は、マイナポイントを予約・申込することで5,000円分までのポイントが手に入ります。私もマイナンバーカードを手に入れ、マイナポイントも受け取りました。

格安SIM

政府の携帯電話の料金を下げようという後押しもあり、日本では携帯電話で安いオプションが数多くあります。

楽天モバイルなど格安のプランは何社か提供していますが、私は料金の分かりやすさと縛りのなさから、LINEモバイルにしました。

税込で 3GBで月額1,600円と通信費を入れても2,000円以内におさまりそうです。ドコモの通常のプランであればおそらく月5,000円以上かかると思いますので、月3,000円近く節約できている計算になります。こちらもクレジットカードを用いるのと同じくらいのインパクトが出ます。

医療費控除

医療費+交通費が年間10万円分を超えた分は確定申告で医療費控除の申請ができます。こちらは生計をともにする家族の分も申請できるため、一人で10万円以上である必要はありません。

歯科の定期検診、健康診断や人間ドックなど保険適応にならず高額になる場合や、家族で大きい病気をした人がいる場合などには使える制度です。具体的には、医療費で10万円を超えた分のうち、課税所得が330万円を超える人は20%、695万円を超える人ですと30%、900万円を超える人ですと33%が戻ってきます。

私の場合、医療費まとめファイルを作って、そこに家族の分の領収書を貯める仕組みを作りました。

まとめ

NISA、iDeCo、ふるさと納税、クレジットカード、格安SIM、医療費控除、とどれも始める際にはやや手間がかかりますが、始めてしまえば後は仕組み化されるので、毎月あなたに「お得」をもたらしてくれます。加えて、これらの施策はどれも国が後押しをしているものです

NISA・iDeco・ふるさと納税はどれも国が作っている資産形成を促すための制度ですし、クレジットカードはキャッシュレスの社会推進のために国は補助金を一時期出していました。また、携帯電話の料金に関しても、菅総理や総務省が安いプランを浸透させようとしています。かつ、これらの仕組みは住宅ローン控除、生命保険控除、医療費控除など特定の支出がある人のみならず、収入のあるほぼ全ての人が利用できます。

稼ぐ力を上げるのは時間がかかりますが、上にあげた仕組みづくりは1ヶ月もあればできます。2021年、今後数十年にわたる資産形成の仕組みづくりから始めてみませんか?

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

2021年に向けた政治の流れとビジネス・投資機会

2021年、どのように社会が変化していくかを考え、投資機会を考えていきます。定番のPEST(Politics, Economy, Society, Technology)のフレームワークで整理していきますが、今回は、政治について書きます。

2020年の政治(Politics)

2020年は新型コロナの年と言っても過言でないでしょう。インフルエンザの世界的流行以来、約100年ぶりの感染症の大規模感染に対し、各国の政治家のリーダーシップが試される年になりました*

*政治家が直面した「命を救うために、いくらまでなら支払えるか」という課題については、下記の昨年3月に書いた記事に詳しく書いています。
[st-card myclass=”” id=2316 label=”分析” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

課題に対し、それぞれの国・地域は異なったアプローチを取りました。中国、オーストラリア、米国、日本の例をみていきます。

中国

新型コロナ発祥の国と考えられる中国では感染症に対して非常に厳しい対応を取りました。具体的には、

  • マスクの着用義務化、街中に検温施設を設けて、早期発見を強化
  • 大規模な検査による早期発見
  • 厳しい営業制限により人の動きを制限
  • 都市封鎖や区画封鎖により感染症が起きた地を隔離する
  • 新型コロナ患者専用の病院の開設により、感染者を隔離
  • 海外からの渡航禁止・帰国制限により海外からの感染者の流入を制限
  • 携帯のアプリケーション(健康コード)を通じて、全国民の行動を監視するとともに、経済再開開始を支援
  • 国による大規模な支援によるワクチン・治療薬開発の加速

特に、アプリケーションを通じての行動監視は効果的で、感染者、濃厚接触者の特定が効率的にでき、感染を抑えることに成功しました。

四早(早期発見、早期隔離、早期診断、早期治療)を目指した施策により、人口13億人の国であるにもかかわらず、2020年12月も新規感染者は連日数十人程度です。しかもその数十人のほとんどは海外からの帰国者であり、空港から市内まで至る事なく、隔離されています。

人々の自由を大きく制限して、プライバシーに大きく踏み込むアプローチは、議会による合意を得る必要のない、一党独裁国家であることから素早い実行が可能でした。中国の意思決定と施策の実施までの早さは時間とともに広がっていく感染症を抑え込むという点で、優れた結果を出しました。

オーストラリア・ニュージーランド

オーストラリア・ニュージーランドも中国に近い、厳格な行動制限を用いるアプローチで感染を抑え込みました。

しかし、アプローチとしてはトップダウンで力で抑え込むというよりは、政治家のリーダーシップにより国民からの合意を得るという方法でした。

両国が継続的に出していたメッセージは、「人命は最も重要であり、感染症を止めるには国民一人一人、ビジネス一つ一つの協力が必要」です。

外出禁止などの行動制限や罰則を用いたことは中国と同じですが、段階的に行動制限を緩和し、どの程度の行動は許されるかを明確に伝えました。検査を受けるか受けないか、どの程度制限を厳密に守るか、は個々人の判断に任されました。

また、政府は新型コロナにより生活に影響が出た人々への支援や危機に陥ったビジネスへも手厚い支援を行いました。失業保険の増額、ビジネスへの財政・金融支援、により人々の生活を支えました。

オーストラリア・ニュージーランドは、島国の利点を活かし、他国からの移動を制限し、自国内の感染をほぼ0にすることを目指しました。国のリーダーである政治家は明確なメッセージ、プロトコルを作って国民に共有し、継続的なコミュニケーションを通じて国民の行動変容に繋げました。結果として、感染症を抑え込み、素早い経済回復に繋げました

米国

アメリカは感染症を抑えることよりも、「いかにビジネスを継続させるか」、「いかに治療薬・ワクチンまでの時間を稼ぐか」に重点を置きました。

  • 失業保険の増額、現金の家庭への至急
  • ビジネスへの財政・金融支援 (Payment Protection Program等)
  • ワクチン・治療薬開発・生産・流通への巨額の財政支援と政府による治験などの支援(Operation Warp Speed)

ニューヨーク州やカリフォルニア州など民主党が州知事を勤める州では外出禁止などの行動制限がされましたが、国としては人々の行動を制限することには消極的であり、トランプ大統領は感染症が広まったのちも、「ウイルスは危険ではなく、行動を変える必要がない」という立場でした。

特に、Operation Warp Speedはアストラゼネカ(英)、バイオンテック(独)・ファイザー(米)、モデルナ(米)の三種類のワクチンの開発やGilead SciencesやRegeneronの治療薬開発・生産に貢献し、人類と新型コロナとの戦いに大きな希望をもたらしました。

一方、「感染症を放置しながら時間を稼ぐ」というアプローチをとった弊害として、米国は現在新型コロナで最も苦しんでいる国です。2021年1月1日現在、3億3000万人中、2,000万人以上が感染し、約35万人が死亡しました(worldmeters.infoより)。1,000人に1人がこの感染症で命を落とした計算になり、今でも毎日新規で20万人が感染しています。

感染症の広まりとそれによる経済の落ち込み、失業率の増加、は現職大統領に不利に働き、トランプ大統領は再選することができませんでした。大統領としては「国民の結束」を訴える民主党のバイデンが選ばれています。

日本

日本はアメリカに近いアプローチで、人々やビジネスの行動を制限するのではなく、「いかにビジネスを継続させるか」を重視しました。

法改正が必要だったこともあり、他国で行われたようなnon-essential (必要不可欠でない)ビジネスの営業停止や人々の外出制限などの行動制限には踏み込まず、罰則のない「要請」にとどめました。「要請」であるため、政治家など国のリーダーも要請通りの行動をとるわけではなく、要請から外れた行動をとった政治家に対しての罰則もなく、あくまでも「個々の判断」に任せました。

日本では大多数の国民が「要請」に従い外出を自粛し、マスクの着用をした結果、政府が罰則を伴う外出禁止などの施策をとっていないにも関わらず、感染者の数は抑えられました。一方、強い施策を取っていないためにウイルスが残り続ける状況は変わらず、国民の長期にわたる自粛によりビジネスに影響が出てきました。

政府が対策として打ち出した「Go to Eat」や「Go to Travel」といった施策は人の移動を促しながら、新型コロナで特に売り上げにダメージを受けた飲食業、旅行業を支援する施策です。西欧や豪のようにそれぞれのビジネスに休業を依頼しながらビジネスを支援するというやり方ではなく、「お客さんを増やすことで支援する」、というアプローチを取りました。

これらのアプローチは第三波と呼ばれる2020年12月の感染拡大まではある程度機能しており、日本の感染者数は欧州、米国と比較してはかなり低い水準で推移していました。しかし、2021年1月1日現在、東京を始めとして感染者の数が急速に増加しており、予断を許さない状況です。また、感染の拡大を受けて、政府への支持率は下落傾向にあります。

2021年に何が起こるか

感染症は世界中の人が同じ問題に直面したという点で、非常にユニークな現象です。

施策と結果が国を越えて比較できるため、結果が比較しやすくなっています。そのため、同じ問題に直面した時、その問題をうまく解決できた国はその他の国からの尊敬を集め、逆に感染症を抑えることができなかった国は他国からの評価を落としました。

結果として、2020年は「民主主義が最適な政治形態である」という西側諸国が信じていた価値観を揺さぶられる年となりました。その影響が2021年以降に出てきます。

新型コロナに対して、最もうまく対応できた国一つは、強権的に対応した一党独裁の中国です。

一方、民主主義の守り手を標榜していた米国は新型コロナへの杜撰な対応を繰り返し、最も多くの国民が感染している国になっています。選挙結果を覆そうというトランプ大統領の「あがき」や社会の分断を煽って再選を果たそうというその姿勢も、民主主義が社会を安定させるシステムではないということを全世界に示し、民主主義への信頼度を低下させました。

コロナ対策で成果を出しており、かつ安定的に経済成長を続けているという点で、中国の一党独裁の政治システムと国民をコントロールする仕組みは、まだ政治システムが固まっていない途上国にとってはより魅力的に見えるようになりました。

社会の分断が目立つ米国、ブリクジット後にスコットランド独立など分裂のリスクを抱える英国、極右政党の台頭が目立つフランス、「メルケル後」が描けないドイツ、と民主主義各国が政治的な脆さを抱えています。2021年のこれらの国の政治的な状況次第では、さらに民主主義への信頼が失われる可能性があります。

そのため、2020年を一つの転換点として、途上国への中国型の政治と経済のシステムの輸出が進むと考えられます。これは、国レベルのサポートを得ながら輸出先を増えせるという点で、中国の国策企業にとってはポジティブな話です

また、新型コロナで経済的にダメージを受けた人が多く出たことに対し、全世界的に政府が財政支出を拡大させて失業者対策、貧困対策を行い、企業を資金注入で支え、中央銀行が金利を下げて景気を保とうとしたため、全世界が同時に社会保障を充実させる「大きな政府化」しました

米の例で言えば、財政支出に積極的でない共和党がGDPの約15%に当たる$3.1兆ドルの財政赤字を容認したこと自体、異例です。緊縮的な財政政策の傾向のあるドイツですらEUの仕組みを利用した財政支出の拡大に賛成しており、全世界の政府が市場にお金を流し込んでいます。その状態でも、米国、欧州を見る限り、好調な株式市場とは正反対に、雇用情勢は依然として厳しい状況です。また、いくつかの国では税金を下げながら財政支出を上げたため、財政は急激に悪化しました。

雇用状態が依然として厳しい状況であるため、2021年も「大きな政府」の流れが続くでしょう。つまり、政府は財政支出により社会保障の拡大や経済活性化のための投資を行っていくことになります。

政治的に特に注目を浴びているのが、クリーンテクノロジーの分野です。米国ではバイデン次期大統領が「再生可能エネルギー」への大幅な投資を公約している他、欧州も「グリーンディール」に基づいて、再生可能エネルギーへの投資を拡大させています。日本も2050年に「カーボンニュートラル」の目標を掲げています。政府からの後押しを受け、この分野は今後数年間、政府からの投資を受けて成長を続けていくでしょう。

支援を受けるのがクリーンエネルギー業界ですが、全ての業界にとって追い風が吹くわけではありません。2021年は米中の大手テクノロジー企業に対しては規制が厳しくなることが予想されます。

特に対象となるのは、GAFAと軍事と結びつきの強い中国テクノロジー企業(半導体、監視ソフトウェア、ドローン企業等)でしょう。GAFAに対しては欧州で税率の引き上げと規制が検討されており、米国内でも独禁法での訴えがされるなど、段々と行動範囲に制約がかけられるようになっています。

過去にマイクロソフトは独禁法により訴えられ、和解により事業分割は避けられましたが、その後は法務リスクを意識してあらゆる変化への対応が遅くなり、結果として検索エンジンではGoogleに抜かれ、SNSではFacebookの台頭を防げませんでした。GAFAについても事業分割は避けられた和解ができたとしても、これまで以上に当局を刺激しないようなアプローチが求められ、今後の事業運営に足枷が課されることになるでしょう。

また、中国のテクノロジー企業については米国市場へのアクセスがなくなること、また米国企業からの調達ができなくなるリスクがあります。「中国への圧力が必要」というのは米国議会でも党派を問わずコンセンサスとなっていることと、米国国民の中でも中国への悪感情が広まっており、中国へ譲歩するような姿勢は大統領も見せづらいでしょう。バイデン大統領となったとしても、急速に米中関係が改善する可能性は低そうです。

以上のように、2021年は

  • 民主主義国家の政治的な混乱リスクが増加し、全世界的な民主主義への信頼感の低下する(相対的に、中国的な統治システムの魅力増加する)
  • 大きな政府化、政府が財政支出と低金利にて経済を支えつづける体制が続く。先進国、中国がクリーンエネルギーへ投資を始めており、クリーンエネルギーでどこの国が覇権を握るかの国家間競争が加速する
  • 大手テクノロジー企業への規制が厳しくなり、中長期的な成長性に影響を与える

と予想されます。中国はカントリーリスクはありますが、今後途上国への影響力を拡大していくと考えると、米国や香港に上場している軍事関連以外の中国株を調べてみても面白いかもしれません。また、クリーンエネルギーは今後数年の投資テーマになりそうなので、要注目です。

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

東京、ボストン、シドニーの比較: 東京の良さと課題

日米豪の三ヶ国(東京、ボストン・ミネアポリス、シドニー)で暮らし、働いた経験を一区切りするためにも、それぞれの国の良いところ、悪いところ、をまとめてみます。

最後に、ビジネスにも役立つ、複数の選択肢を比較する手法についても紹介しています。

東京

東京の優れている点

東京は、あらゆる点で便利で、快適な生活が送れる街です。


食事が美味しく、特に和食は健康的で、安価な定食は海外で暮らすとありがみが分かります。サービスの質は高く、サービスを受ける度に「この価格でこの質を得られるのか」、と驚くほど。

鉄道網が発達しているので車を持つ必要がないですし、重犯罪率も低く、銃犯罪もほぼないため、街も安全です。

アクセス・コスト・質のどの点から見ても高品質の医療が受けられるのも良い点です。「ちょっと調子が悪い」、という程度で全ての国民がすぐに専門医にかかれるのは他の国にはない特徴です。

保育・教育費も国の補助が手厚いです。認可・認証の保育園に入り、国立・公立の小中高に行く場合は、かなり教育費が抑えられますし、お金がないから高校に行けない、という家庭は他の国と比べても少ないでしょう。

後述しますが、保育園も最高で月77,000円というのは、米や豪と比べるとかなり安い水準です。

社会福祉サービスが手厚いことから税金の水準は高いです。一方、所得控除が手厚いこと、iDeCo、NISA、ふるさと納税と節税策もあるため、オーストラリアや西欧と比較すると、よほどの高収入でない限り(年収3000万円以上など)、実効税率はまだ安い印象です。

家賃、食費、交通費、光熱費、教育費など、ボストン、シドニーと比較しても生活のコストは高くないです。

また、国際都市であり、グローバル企業の支社が多くあり、日系のグローバル企業の本社もあるため、就業機会も豊富です。世界中から人が仕事や観光で訪れるため、人との出会いも多いです。

地理的にも米中という二大超大国の間であり、どちらの国に行くにも便利です。

「便利で安全、コストパフォーマンスに優れる国際都市」というのが東京の強みです。

東京の課題

東京の課題はワーク・ライフ・バランス、子育て環境、日本の将来性です。

東京の労働環境は改善されてきていると思いますが、それでも定時に帰宅する人の割合が高い米や豪と比べると長時間労働です。「サービス残業」という概念自体が米、豪ではない気がします。

両親ともにフルタイムで働き、子育ても行う、のも大変です。「日本、中国、韓国の人は長時間働きすぎだ」というのは米でも豪でもよく聞く話ですし、実際に3カ国で働いてみてそう感じます。

フルタイムで共働きで働くインフラが十分でないのも課題です。東京では保育園は依然として数が足りておらず、認証保育園や無認可保育所でも庭がないなど、保育の環境として質が保たれているのか疑問の施設も多くあります。

教育に関しては、文科省がガチガチに内容と教育方法を決めているため、子供に平均的な能力を身に付けさせるには良いです。一方、自由度が少ないため、米、豪と比べると子供の個性を伸ばすような教育ができる場が少ない点が課題です。

次に、日本の将来性ですが、少子高齢化が急速に進んでいる(特に少子)ことは国の将来にとって大きなリスクです。特に、経済成長が過去30年間ほぼ横ばいの中、日本は社会保障を主な原因として国債を積み上げてきており、社会保障の持続可能性は疑問です。シルバー民主主義なので、構造的にかえる有効な手立てがないのですが。

最後に、地震などの天災リスクがあります。こちらも有効な対策は現状ありませんが、備えるしかないです。。

東京は優れている点が多く、すでに世界の都市ランキングの上位に位置しています。国・都が施策で取り組める課題に一つ一つ取り組んでいけば、さらに住みやすく、働きやすい国際都市になれると感じます。

ボストン

ボストンの優れている点

ボストンはアメリカの古都であり、街並みが美しいアカデミックな街です。


ボストンにはHarvardやMITをはじめ、Boston UniversityやBoston Collegeなど全米でも有数の大学が集まっています。

そのため、世界中から集まった学生・研究者が街におり、アカデミックなネットワークを築くことができます。

また、教育機関が集まっているためか、バイオや大学発ベンチャーが多い街でもあります。 新型コロナ向けのワクチンで一躍世界中に名前が知られたモデルナの本拠地もボストンです。就業機会もニューヨークやサンフランシスコほどではないですが、多くあります。

「世界中から集まった、才能あふれる人たちと出会い、働ける」というのはキャリアを重視する人にとって良い環境です。

医療の世界でも、Massachusetts General HospitalやBrigham and Women’s Hospitalなど全米でも有数の病院があり、世界最高峰の医療を受けられます。

アメリカは新しいモノ・サービスが生まれる場所であり、さまざまなニーズを解決する民間サービスで溢れています。お金を払うことで、かなり便利かつ快適に過ごすことができます(例えば、Amazonを利用するだけで、家から出なくともかなり暮らせます)

ボストンの課題

ボストンの課題は生活コストです。ボストンでの生活コストは上がり続けており、相当の収入がないと暮らすのが難しい街になってしまいました。

例をあげると、市内では1ベッドルームの部屋で家賃で月$3,000、保育園・教育費で月$2,000以上、というのが珍しくありません。保険・医療もどの保険を選ぶかによりますが、家族であれば毎月$1,000かかるのも普通です。

家賃・保育園・保険だけで、年$72,000かかり、税金を考慮すれば、年$100,000 (約1,050万円)稼いでいても、家賃と教育費と健康保険だけで消える、ような状況です。 これらの費用に加えて食費・交通費・通信費・光熱費・交遊費なども当然かかるため、年$140,000 (1,500万円)稼いでいても、子供がいる家庭では米大都市では裕福な暮らしではありません。

加えて、米の上がり続ける学費は今でも年4万ドルがざらであるため(州立大学であれば州民にはディスカウントがありますが)、子供が大きくなっている時には4年で20万ドルはかかるとすると、そのための貯蓄も必要になります。

また、ボストンは全米の中では安全な都市ですが、銃社会であり、かつ社会格差が広がっていることから、治安は日本や豪と比べると悪いです。

運が悪ければトラブルに巻き込まれる、というリスクも他の国より高いでしょう。ボストンマラソンの爆破テロはその一例です。また、今回のコロナの対応を見ていても分かるように、社会がさまざまな軸で分断されている国であり、疫病が再び蔓延した際に、国がリーダーシップを取れるかは疑問です。

これら全ての課題を解決してくれるのは、お金です。

アメリカは「お金があるかないか」で生活の質が大きく変わる場所です。最高の医療も教育も快適な生活環境も安全も、お金があれば買えます。一方、お金がなければ、他の国では最低限は国から受けられる医療、教育、安全が得られません。

アメリカの沿岸部の大都市の生活は「キャリアと資産を築けて最高のサービスを受けられる」場所であると同時に、「キャリアも資産も築けなければ苦しい生活をしなければならない」、ハイリスク、ハイリターンの場所でもあります。

アメリカ社会の「勝ち組」に入れる人であれば、アメリカの大都市は世界の中でも最高の場所の一つでしょう。

一方、コストの点で見ると、僕が住んだ第二の都市であるミネアポリス(中西部、ミネソタ州の主要都市)はアメリカの中でもコストパフォーマンスに優れた都市です。住宅費が安く、公立の教育の質も高く、子育てにかかる費用はボストンに比べてずっと安くすみます。

アメリカとしての課題は抱えていますが、ミネアポリスはミドルリスク・ミドルリターンの都市で、当たり前ですが、アメリカも都市により暮らしがだいぶ変わります。

シドニー

シドニーの優れている点

シドニーは「暮らす」という点では最高の都市の一つです。

なぜシドニーが暮らしやすい場所なのか、は上記の通りで、東京の利便性に加えて、天気の良さと自然が近いこと、労働環境が老こと、人々がよりフレンドリーであること、優れた教育機関があること、がシドニーの良さを際立たせています。

また、日米になくシドニーにあるものは、信頼できる政府です。今回の新型コロナ対策を見ていても、政府の対策は迅速であり、適切でした。

現在、アメリカでは毎日30万人、UKでは毎日3万人、日本では3千人の新型コロナ感染者が出ていますが、オーストラリアでは全土でも毎日30人以下です。国の人口が2,500万人と日本の約1/5であることを考慮しても、かなり少ない数で抑えられています。

社会保障制度は良く設計されており、公的保険と私的保険を組み合わせた医療制度はアクセス・質・コストのバランスが良く取れています。

また、Superという年金の強制積み立て制度など、年金制度も持続可能かつ十分な水準を将来に支給できるような仕組みになっています。

シドニーは平均的な暮らし、または平均以下の暮らしをしている家庭にとても良い環境です

シドニーの課題

シドニーの課題は税金です。日本円で350万円くらいを超えてから、$1につき32.5%の所得税がとられます。加えて、2%のMedicare税やMedicare Levy Surchargeなどが取られるため、税率は多くの人で30%を超えるでしょう。

Australia tax rates

公的な医療や教育が充実しているのでサービスとしては釣り合いが取れていると思いますが、税率が低い国ではありません。特に、高所得者であれば税率の高さに頭を抱えることもあるでしょう。

また、世界のどこからも遠いため、オーストラリア生まれ・育ちでなければ、家族や友人と会うのはやや大変です。年1, 2回帰省できれば良いくらいになるでしょうし、このコロナ下では移動が制限されているため、国を出ると戻って来れません。

最後に、オーストラリアは地理的に遠い上に市場が小さく、「グローバルにキャリアを築いていきたい」と思った時には壁にぶつかります。オーストラリア発のグローバル企業もありますが(CSL, BHP等)、東京やボストンと比べると数が少ないです。

オーストラリア自体がゆっくりとした国であるため、長く働いた後に他の国に移ろうとした時に適応がやや難しくなります。

3都市を比較してみて

どの国・都市も良いところもあれば、悪いところもあります。傾向としては、東京は利便性・コストパフォーマンスに優れ、ボストンはキャリア・教育の機会に優れ、シドニーは暮らしに優れています。

このようなそれぞれに優れた何かを比較する際、軸を決めて、それぞれに項目を洗い出し、ポイントをつけて、加重平均するという方法があります。

具体例として、三ヶ国を僕の基準で比較してみた表が以下になります。3=期待を上回っている、2=期待を満たしている、3=期待を満たしていない、という3段階で、それぞれの国を比較しています。

項目 東京 ボストン シドニー 加重
仕事の機会 新しいサービス・モノを世に生み出す 3 3 1 10%
事業責任者として働く 3 2 1 10%
多様な背景を持つ人と、国際的な環境で働く 2 3 3 10%
暮らしやすさ ワークライフバランス 1 2 3 10%
子供の教育 1 2 3 10%
妻の仕事の見つかりやすさ 3 1 2 10%
カルチャーとのフィット 2 2 2 10%
ヘルスケア・社会保障 3 1 2 5%
ネットワーク 友人のネットワーク 3 2 1 5%
家族との近さ 3 1 1 10%
資産形成 賃金 2 3 2 5%
生活コスト 3 1 2 5%
加重平均 2.35 1.95 1.95

今の時点での僕のライフステージでは東京が最もポイントが高くなっています。5年後にはより子供の教育が重要になり、違う都市の方が高いポイントになるかもしれません。

このような比較の手法は家を買うとき、キャリア選択をする時、など決断をする際に有効な手法なので、ぜひ使ってみてください。

この方法をキャリアについて使う際の例はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=1901 label=”分析” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

なぜ富裕層はあなたより税金を払わないのか?

米国大統領選挙の争点の一つは米国内での「格差」です。米国では「富裕層がさらに豊かになり、労働者層は上がる生活費と上がらない給与で貧しくなる」、という現象が1980年代のレーガン政権以来続いてきました。

また、最近では米トランプ大統領の支払った連邦所得税がわずか年750ドル(8万円)だったということでも話題になりました。

今回の記事は税金に焦点をあてて、「どうして富裕層の支払う税金が少ないのか」、「どうして社会の格差が縮まらないのか」、について書いていきます。わかりやすさのため、米国と日本の例も合わせて紹介します。

アメリカの富裕層が支払う税金

2019年における、アメリカ労働者全体の課税率(所得に対する税率の割合)は28%です(“The Trimph of Injustice” Emmanue Sanz より)。

言い方をかえれば、10万ドルに対して、2.8万ドルが税金として徴収され、7.2万ドルが手元に残る、ということです。

労働者のうち、下位50% (1億2000万人)の税率は25%と平均より低く、上位10%を除く上位中流階級40%の平均は28%です。

一方、最上位400人の平均税率は23%と、下位50%の人々よりも低い税率になっています

これは米国だけの現象ではなく、日本でも起きていることです。背景としては、税金の種類により、税率と租税回避の容易さが異なることによります。

税金の種類

米国の税金も日本と同じく、所得税、社会保障税、消費税、資産税、法人税が中心です。

所得税

米国では所得税は、連邦所得税、州の所得税、地方所得税(ニューヨーク等)の3階建てです。所得に応じて税率が異なる、累進課税になっています。

連邦所得税の最低税率は10%、最高税率は37%で、約52万ドル(5,500万円)以上の所得に対してかかります。

Tax rate Taxable income bracket Tax owed
10% $0 to $9,875 10% of taxable income
12% $9,876 to $40,125 $987.50 plus 12% of the amount over $9,875
22% $40,126 to $85,525 $4,617.50 plus 22% of the amount over $40,125
24% $85,526 to $163,300 $14,605.50 plus 24% of the amount over $85,525
32% $163,301 to $207,350 $33,271.50 plus 32% of the amount over $163,300
35% $207,351 to $518,400 $47,367.50 plus 35% of the amount over $207,350
37% $518,401 or more $156,235 plus 37% of the amount over $518,400

僕が暮らしていたミネソタ州の所得税も収入により異なり、最低税率は5.35%で、最高税率は9.85%です。

一人世帯でしたら、$164,401 (約1,800万円)以上で最高税率、と連邦所得税より低めです。

ミネソタ州では市の税金がないため、最高税率は45.85%となります。最低税率は連邦の10%に5.35%を足した、15.35%になります。

日本の2020年度の所得税は4,000万円以上の所得に対して、税率45%。日本は住民税10%がさらに加わるので、55%。

日本の方が最高税率は高めですが、最低は所得税5%に住民税10%を足した15%とミネソタ州の労働者への税率とほぼ同じです。

日本の所得税率

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000

参考:国税庁ホームページより

最高税率に10%の違いはありますが、どちらも近い水準です。

所得税は累進性が高く、日米ともに多く稼ぐ人が高い税率を支払う仕組みになっています。このような仕組みの背景としては、税金は応分な負担をするのが公平である、という歴史的な価値観が背景としてあります。

しかし、これだけ累進性が高いにも関わらず、「富裕層」の税率がどうして高くならないのでしょうか?

理由の一つは、所得の中でも配当や譲渡所得(株や債券などの金融資産、不動産の売却益)については、日米ともに異なる税率が設定されていることです。

アメリカでは、配当・譲渡所得に対して、課税所得に応じて税率が異なります。課税所得420万円から4,500万円の人までは15%のため、多くの中間層は15%の税率を支払うことになります(下記は一人世帯の例)。

If your taxable income is…
The tax rate on qualified dividends is…
$0 to $39,375 0%
$39,376 to $434,550 15%
$434,551 or more 20%

一方、日本では配当、キャピタルゲインともに、分離課税とすることができ、所得税・住民税合わせて、20.315%が課税されます。

20%は課税所得ベースで200万円から330万円までの範囲と、日本人の平均給与以下です。米国においても$4万ドルから15%とほぼ所得税の最低税率です。

中間層以上にとっては、配当・キャピタルゲインから得られる所得の方が給与所得よりも限界税率が低くなります

富裕層ほど金融資産を多く保有しているため、給与所得よりも、配当・キャピタルゲインから得られる所得の割合が増えます。

所得の種類ごとに税率が異なることが、富裕層の低い実質税率につながっています

また、事業経費として多額の経費や赤字を計上することで所得税を減らす方法もあります。

米大統領のトランプはこの方法で不動産事業からの損失と個人の収入を合算させることで、所得税を極限まで減らしました。損益通算を通じた節税も、事業を持つ層に有利な税制の仕組みです。

まとめると、所得税は累進性があるといっても、日米ともに累進性を回避する仕組みがあり、この仕組みが富裕層の税率を低くしています

社会保障税

米国では給与に対して、年金などの原資となる社会保障税(social security tax)が12.4%かかり、これは労使折半です。

また、65歳以上が加入する公的医療保険である「メディケア」の税である、メディケア税も2.9%かかり、こちらも労使折半で1.45%ずつ支払います。

米国の健康保険は、公的保険は低所得者向けのメディケイドと高齢者向けのメディケアを除けば民間保険が主であるため、民間保険に加入することになります。こちらは税金としては取られていませんが、実際には加入必須であるため、日本における健康保険料のようなもので、ほぼ税です。

民間保険の保険料はプランにより異なりますが、医療費の高騰に伴い、毎年インフレ率以上に上がり続けています。

まとめると、米国では社会保障費用の合計として、国は労働者・企業から合計で給与の15.3%徴収し、労使折半なので労働者が支払うのは7.65%です。加えて、民間保険の保険料がかかり、プランにもよりますが、労働者の自己負担は給与の15%程度になります。こちらもほぼ毎年上がり続ける税のようなものです。

日本で相当するのは、厚生年金保険保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料です。日本では厚生年金保険は18.3%で、労使折半であるため、9.15%が労働者負担です。また、健康保険料は40歳になると介護保険の支払いも加わるため、協会けんぽの例では約11.7%です。こちらも労使折半のため、5.8%が労働者負担になります。雇用保険料は0.9%で労働者の支払う分は0.3%です。

つまり、日本では40歳以上は給与の約31%が税金として徴収され、労使折半なので労働者が支払うのは15.3%です。

社会保障税については、医療保険まで含めて考えれば、日米ともに給与の15%程度が労働者からの支払いになります

どちらの国においても問題となっているのは、高齢化の影響から社会保障費が増大し、社会保険の税が上がり続けている点です。例えば日本では、厚生年金保険料率を始めとする社会保障費の上昇により、過去10年で社会保険料率が3%近く上昇しています

中間層以下の生活を苦しくさせている要因の一つが、年金・介護・医療を支える社会保障税の上昇です。

社会保障税は所得税のように累進課税ではないため、所得が低く、家計に余裕がない層ほど増税で苦しくなります

また、先ほど述べた配当・キャピタルゲインにこれらの社会保障税は課されません。これらの金融資産が多い層は、その分だけ、所得に対して支払う税負担の割合を低くすることができます。

消費税

米国では生産者、卸、小売がそれぞれつける付加価値に課税する消費税(付加価値税)ではなく、最終消費者からの売上に課税する売上税 (sales tax)が用いられています。

売上税は州により仕組みも税率も異なるために一概には言えません。例えばミネソタ州の売上税は約7.8%ですが、ニューハンプシャー州では売上税そのものがありません。

日本の消費税率は2019年より引き上げられ、10%になりました。

消費税は「逆進性」の税と言われます

言い換えれば、低所得者ほど所得に占める消費税の割合が大きくなり、高所得者ほど所得に占める割合が低くなる税、ということです。

生活のために、人は衣食住が必要ですし、低所得者ほど家計に占める生活費(光熱費、家賃、食費、通信費など)の割合が高くなる傾向があります。消費税は消費に対してかかるため、所得に占める生活費の割合が高いほど、影響が大きくなります。

消費税は①財産を持ちながら「所得」がない人や所得をきちんと申告しない人からも徴収できる税である、②消費が多い人ほど所得が多いはずだからより多く支払う、ことにより、より公平な税だという意見もあります。

しかし、低所得者ほど影響が大きい税であることは変わらないため、高所得者よりも低所得者の税負担の割合を高くする傾向があります

資産税(固定資産税・相続税)

資本税は保有する資産・資本に対する課税です。固定資産税、相続税が代表的な例です。

日米ともに固定資産税の仕組みがあり、主に土地・建物が対象になります。日本では課税標準額に1.4%をかけた額になります。米国では州・市により税率が異なるため、一概には言えません。

固定資産税は財産を保有している人が支払う税のため、固定資産税が高いことは格差を縮める方向に働きます。

相続税も同様に、親の世代から子供の世代に引き継がれる財産を少なくするように働くため、資本家層がずっと資本家であり続けるような、社会階層の固定化を防ぐ働きがあります。

一方で、固定資産税・相続税ともに様々な抜け道があります。資本家であればあるほど、節税コンサルタントの力を借り、海外の法人を用いた税金対策を行うなど多様な税金対策を利用できるため、トップ0.1%のような層には抜け道が多い税でもあります。

実際に、日本でも米国でも租税全体に占める固定資産税、相続税の割合はそれぞれ10%以下と中核的な税の種類ではありません。

法人税

法人税は法人の利益にかかる税です。日本では23.2%、米国では21%です。「法人税が高いとグローバル企業が逃げてしまう」、「自国の産業の競争力が弱まる」と世界的な法人税減少競争の中で、各国は法人税を引き下げてきました。

日本に関しては、実は法人税を納めているのは法人全体のうち4割弱で、残り6割は納めていません。

これは、法人の大多数を占める中小企業の多くの利益率が低いこともあるでしょうが、個人が節税策として法人を運営する、個人事業主のような法人が多いこともあります。

その点で、法人税の引き下げは、実は企業だけでなく、節税策として事業を保有する層を優遇しているとも言えます

例をあげてみましょう。例えば、給与の課税所得で900万円ある人が、副業で経費を除いた利益が年100万円稼いだとします。所得税は900万円以上ですと33%ですので、個人の所得としては住民税と合わせて43%支払うことになります。

つまり、副業で100万円稼げたとしても、手元に残るのは57万円になります。

ところが、この副業を法人の収益とした場合、法人税として支払うのは年800万円までは15%です。地方法人税、法人事業税、法人都民税などを考慮しても、手元には70万円程度残ることになります。

つまり、法人税が下がれば下がるほど、個人の所得を法人化することで税負担を減らすことができるようになります

税の公平性を考えるという点では、法人を用いた節税を防ぐために、法人税と所得税はセットで考える必要があります。

過去四年で、所得税と法人税の両方を下げたのがアメリカのトランプ政権です。法人税を下げ、所得税を上げたのが日本です。

アメリカは中間層以上がより富を蓄積しやすい環境を整えました。これは所得が高い層、すでに資産を保有している層にとって喜ばしいことです。

一方、減税は長期的には政府が社会保障に回せるお金の減少に繋がります。社会保障が必要な層にとっては、短期的には手取りが増えても、長期的には受け取る社会保障の減少により収支はマイナスになる可能性が高いです。一方、減税は富裕層により多くの資本を残すため、資本が資本の増加に繋がる正のスパイラルで、富の増加に繋がります。つまり、減税は社会格差を拡大させる方向に向かいます

トランプの支持率は非大卒の白人層で高いですが、この層は将来的に社会保障を必要とする可能性が高い層であり、彼らが支持する大統領が長期的に彼らの首を締めているのは、皮肉な現実です。

日本は所得税、相続税などの改正を進め、格差を縮めようとする一方、法人を用いた節税策が使える層にとっては良い環境を作りました。社会格差という点では、日本は広がってきてはいますが、アメリカほどではなく、むしろ格差是正の名の下に社会保障をより充実させようとしています(高校、幼児教育無償化など)。

まとめ

これまで日米の税制をみてきました(所得、社会保障、消費、資産、法人)。ポイントは以下です。

  • 所得税は累進課税で、税金は支払い能力に応じて支払われるべきという考え方に基づいた税金。現在の社会では公平な税負担方法であり、許容できないほどの格差を生じさせないような仕組みになっている
  • 一方、金融資産の配当・譲渡所得(株式や債券など)は一定の税率であり、金融資産を持つ層ほど有利な税制になっている
  • 事業所得を用いた損益通算など、税負担を減らせるツールがあり、富裕層はこれらを用いている。
  • 所得税は累進性であるが、累進性から逃れるための仕組みがあるため、現実には累進的な負担になっていない。
  • 社会保障税、消費税は一定税率のため、所得が低い層ほど所得に占める税負担の割合が大きくなる。日本では過去十年でどちらも上がっており、社会保障税・所得税の増税が現在の中間層以下の生活を苦しくしている原因の一つ
  • 法人税は国家間のグローバル競争の名の下に各国で引き下げられてきた。しかし、法人は個人が法人を設立して所得を法人税として、節税策としても用いられることができるため、富裕層の税負担の軽減にも貢献している
  • 減税は「持つ者」にとって喜ばしい一方、財源不足から長期的な社会保障費の削減に繋がる可能性が高く、社会保障を必要とする層にとって喜ばしいことではない

現在、アメリカで起きている分断は様々な軸で語ることができますが(所得・教育、人種、地域、世代)、大きな分断の一つは「持つ者」と「持たない者」の間の格差であり、過去十年でこの格差は拡大してきました。

その背景の一つとしては、今回の記事で書いたような、富裕層ほど税負担を軽減できるために使えるツールが多く、富を蓄積しやすいような税制度になっていることがあります。

トランプは減税をさらに進めることでその社会構造を強化しようとしています。一律の減税は一見全ての層に恩恵があるように聞こえますが、実際には高所得者層の方が恩恵が大きく、格差の拡大に繋がります。

バイデンは逆に「配当・譲渡所得への増税」、「資産税の増加」、「法人税の増税」とトランプの税改革を逆回転させ、富裕層がこれまで用いてこれたツールへの課税を進め、社会保障が必要な層により社会保障を回そうとしています。

減税は必ずしも善ではなく、増税は必ずしも悪ではありません

税の収入がなければ、国として社会保障を提供することができず、社会保障を必要とする層の生活はより苦しくなります。公平な社会の実現のためには、応分の負担を行うことが望ましく、格差を縮小させるためには増税も含んだ施策も時には必要です。

「減税」は甘い響きですが、格差縮小の薬にはなりません。「増税」は苦い薬ですが、病を治す場合には必要です。どこまでの社会の格差を許容するか、どこから取り、どこに再配分するか、は国の根幹に関わる価値観でもあります。

アメリカ国民は、格差の拡大と縮小のどちらの道を選ぶでしょうか。

米国の方向は日本政治にも影響を与えるため、私たちにとっても、人ごとではない話です。11月3日は全世界の人にとって、注目の一日になります。

米国の格差についてより詳しく知りたい方は、下記の本がお勧めです。


米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

「考える力」を上げる、考え方のプロセス

ビジネスの世界に入ると、目の前にある仕事をこなしていくスキルはつくのですが、意外と「どう考えれば良いか」というのは教えてくれる人がいません。

問題解決に関する本は何冊も出ており、様々なセミナーも行われていますが、実際にどのような流れで考えていくと良いのか、よくわからない方も多いのではないでしょうか。

下記は、自分が10代、20代の頃に知りたかったな、という思考の方法と流れについての記事です。この記事を読むと、あなたの「考える力」が上がるかもしれません。

  1. 分解して、考える
  2. 俯瞰して、考える
  3. 感情を、考える
  4. 視点を変えて、考える
  5. 誰かに話をして、考える

分けて、考える

大きな問題をそのまま考えようとすると、とっかかりがなかなか見つからなかったり、本質的な要因を見逃したりするものです。

問題を分解して、順番に考えると、全体像をみながら考えを進めることができます。例をあげてみましょう。

あなたは東京の住宅街で小さなカフェを経営しています。オープンから3ヶ月が過ぎ、売上が伸びずに、目標としている数値に達していないとします。どうすれば、売上をあげられるでしょうか?

ここでの問題は、「売上を上がらない」ということです。

売上が上がらない。「うーん、それではもっとお客さんを増やすために広告を」、とすぐに解決策を議論することも実世界ではしばしば見かけます。

しかし、それでは問題の一部しか見ておらず、本質的な問題を見逃してしまうことが多々あります。

より効果的なのは「売上はどう分解できるか」を考えて、売上が上がっていないことの本質的な問題を見つけ出すことです。

まず、分けて考えよう

売上は以下のように分解できます。

売上 = 客数 x 客単価

売上を上げるためには、「客数」を増やすか、「客単価」をあげれば良いのだ、と分けられます。単純ですね。

それでは、売上が伸び悩んだのはどうしてなのでしょうか?

客数をさらに分解してみましょう。

  • 客数 = 朝の客数 + 昼の客数 + 夜の客数 (時間の切り口)
  • 客数 = 新規の客数 + 既存の客数 (来店頻度の切り口)
  • 客数 = 20代以下 + 20-60代 + 60代以上 (顧客の属性での切り口)
  • 客数 = 看板を見て入ってきた人 + 広告を見て入ってきた人 + 元々知っていた人 + 口コミで知った人 (どのような経緯で入ってきたか)

こうやって切り口を変えて、時系列で見てみると、どこに問題がありそうか見えてきます。

例えば、売上が伸び悩んでいるのは、何度も来てくれるようなお客さんが少ないからかもしれません。あるいは、想定していたお客さん層がお店の存在を知らず、新規のお客さんが少ないからかもしれません。

前者が売上の伸び悩みの主な理由であれば

「いかに既存のお客さんに満足してもらい、リピート客になってもらうか」

が考えるべき主な問題になります。

大きな問題は分解して考えて、問題を明確にすることで、より取り組みやすくなります

同様に、客単価についても様々な切り口で分類できます

  • 客単価 = 一品あたりの単価 x オーダー数 (単価 x 購入数)
  • 客単価 = 食べ物 + 飲み物 (種類で分類)

切り口を変えて分解することで、より問題を多面的に分析することができます。

「もれなくダブりなく」(MECE – Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)分解することは、問題の原因について考えるのに役立ちます。

また、定性的な問題についても、「それってどうして?」(why so?)、「要は何なの?」(so what?) と問いかけていくことで、論理的に分析することができます。

問題を洗い出したのちに、問題の優先順位付けを行い、さらに思考を進めていきます。

いかに既存のお客さんに満足してもらい、リピート客になってもらえば良いでしょうか

これはマーケティングの領域です。

マーケティング視点での切り口では、4P (商品・サービス、価格、立地・流通、プロモーション)を考えるのが定石であり、サービス業の場合はさらに加えて人(People)、プロセス(Process)を加えた6Pを考えます。

ここでは、リピート客が少ない大きな問題の一つが「人」にあり、「店員の定着率が低く、サービスが安定しないから」だとしましょう。

次に考えるのは、「どうして店員の定着率が低いのか」です。こちらも分けて考えましょう。

  • 辞めた
    • やりがいを感じられなかったから(自己満足)
    • 同僚との間で問題が生じたから・仲が良くないから(チームワーク)
    • 他に良い仕事が見つかったから(機会)
    • 自分が認められていないと感じたから(帰属感)
    • 給料が良くないから(金銭的)

他にも理由があるかもしれません。ここからさらに、「どうしてやりがいを感じられなかったのだろう」と考えていくと、さらに一段階深い理由を考えることになります。

  • どうしてやりがいを感じられなかったか
    • 希望する仕事ができていなかった
    • 自分が成長できている実感を得ることができていなかった
    • そもそも自分のやりがいを理解できていない

ここまで考えることができれば、次のステップとしてはどの仮説が正しいかを検証するためにどのような作業をすれば良いか、を考えることになります。従業員にインタビューをしたと仮定して、以下のような回答を得られたとしましょう。

「Aさん? ああ、ボーナスの評価を見てショックを受けていたよ」、「Aさんが自分の仕事は何の役に立っているのだろうとぼやいていたのを良く聞いたよ」

「ボーナス評価にショック」、「仕事が誰のためなのかわからないとぼやいていた」というのは「要は何なんだろう?」と考えると、「業務評価に不満があった」というようにまとめられます。

「業務評価に問題があったこと」が本質的な問題であるとわかれば、次はこの問題に対してどのように改善策が打てるか、を考えることができます。

以上のように、「どうして?」と掘り下げていくことと、「要は何なの?」とまとめていくことの両方を通じて、問題を「構造化」して、課題を絞り込み、さらに考えを進めていくことができます。

また、ここで「リピート率を上げるためには他にどのような手を打てるか」と元の問題に戻って、商品、価格、プロモーションなど他の要因について考えることもできます。

以上のような問題を構造化して考える手法は、「ロジカル・シンキング」と呼ばれています。

この考え方については、少し古い本ですが、照屋華子さんの「ロジカル・シンキング」がわかりやすいです。

バーバラミントの「考える技術・書く技術」も良い本で、「仮説思考・事実に基づく・構造化」のポイントを解説していますが、やや分厚い本ですので、kindle版も出ている照屋さんの本の方が読みやすいです。

コンサルタントが著者の、「問題解決の考え方」の本の多くがこのロジカル・シンキングを扱っています。

参考:この項はマッキンゼーの問題解決の7つのステップの前半です。

  1. Define the Problem (問題を定義する)
  2. Disaggregate the Issues (課題を分解する)
  3. Prioritize the issues. Prune the Tree (課題の優先順位付けをする)
  4. Build a workplan and timetable (作業計画を立てる)
  5. Conduct critical analysis (重要な分析を行う)
  6. Synthesize findings from the analysis (分析結果から得られる洞察をまとめあげる)
  7. Prepare a powerful communication (効果的に伝える準備をする)

「問題を定義する」、「課題を分解する」、「課題の優先順位付をする」がこの項にあたります。

俯瞰して、考える

分解して考えることでうまく課題が絞り込める場合もありますが、違う切り口を用いた方がうまく課題が見えてくる場合もあります。

次のステップとして、自分の視点を上に持っていって俯瞰してみましょう。別の言い方をすれば、「抽象化して考える」です。

具体例で考えてみましょう。

あなたはある「投資信託」を売る仕事をしているとします。あなたにはノルマがあり、ノルマを達成すればボーナスがもらえます。どうやったら、より多く販売することができるでしょうか?

より長く働く? それも一つの解かもしれませんが、あなたの普段の行動を抽象化して考えてみましょう

モノやサービスの販売は、プロセスで考えると、以下のようになります。

  • 見込み客を見つける
  • 連絡を取る
  • ニーズを見つける
  • 解決策を提案する
  • 顧客の不安や反論に対応する
  • 販売する

販売に近づくにしたがって、残るお客さんは減っていきます。例えば、過去の例から、100人の見込み客がいれば、10人に販売できるとします。すると、あなたの取れる戦略としては、

  • 見込み客を増やす
  • 見込み客から販売までの成功率を上げる

の2つが考えられます。プロセスに分けていれば、どの段階でお客さんが次の段階に進まないかがわかるため、その段階が問題であると見つけることができます。

また、どのような顧客のタイプがより販売に繋がりやすいか、もわかるようになってきます。

プロセスに分けて考えるのは、具体的な行動を「抽象化する」一つの方法です。

違う抽象化の例を考えてみましょう。

あなたは違う部署に異動したいとします。あなたが働いている会社は直属の上司の意向が反映されやすいため、異動先の上司からOKが出れば異動できる可能性が高いです。あなたはどうすれば良いでしょうか?

あなたには今の上司がおり、その上司にもさらに上司がいます。また、異動の際には、異動先で上司になる人だけでなく人事部も関わってきます。

抽象化して考えましょう。それぞれの関係者の「利害」と「誰が誰に影響力を持っているか」はどうなっているでしょうか。

  • 直属の現上司:利害「チームに穴を開けたくない」、影響力「異動を止められる」
  • 直属の現上司の上司:利害「部署の目標を達成したい」、影響力「直属の現上司の意思決定に影響力」
  • 異動先の上司:利害「良い人材をチームに加えたい。けれど会社内で争いは起こしたくない」
  • 人事:利害「異動をスムーズにしたい。人材を最適な場所に配置したい」 影響力「異動自体」

このように「利害関係者の繋がり」(=ネットワーク)を考えれば、どの利害関係者に対して、どのようなアクションを取れば、異動が実現しそうか、が見えてきます。

プロセス」や「ネットワーク」はどんな場面でも使える汎用的な切り口です。

良く言われる「フレームワーク」も抽象化です。フレームワークは数多くありますが、下記はビジネスで特に良く使われているものです。

  • PDCA (Plan, Do, Check, Action): 計画、実行、分析、改善のサイクル
  • ファイブフォーシーズ:業界の魅力度を分析する際に利用
  • 3C分析(顧客、競合、自社):戦略を考えるときに利用
  • SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威):戦略を考える時に利用
  • マーケティングのSTP(セグメンテーション ・ターゲティング・ポジショニング):マーケティングの基本
  • マーケティングの4P(製品、価格、流通、プロモーション):マーケティングの基本
  • ベネフィットとリスク、短期と長期:計画を練る時に利用

これらの箱に沿って考えることで、「漏れなく、ダブりなく」効率的に考えることができます。

また、典型的なフレームワークは便利なビジネスの共通言語のため、この共通言語を用いることでコミュニケーションがスムーズになります

それぞれのフレームワークは特定の用途で効果を発揮しますので、良く使われるモノは覚えておくと便利です。ただし、より汎用的に使えるのは「抽象化」の考え方です。

現実に起きていることを一歩引いて、上から俯瞰した視点からみてみましょう。「ランチェスター戦略」、「ブルーオーシャン戦略」など様々な理論が提唱されていますが、それらの理論を現実に当てはめるのは、この「抽象化して考える」プロセスです。

感情を、考える

分解すること、俯瞰すること、は論理的に課題を分析して、打ち手を考えるステップでした。

論理的な思考は重要ですが、現実にはどんな現場も人が関わる限り、感情で動いています。問題自体が人間関係にあることもありますし、そもそも論理的に考えて導かれた解決策も、人の感情を無視すると、実行されないか、もしくは実行されてもうまくいきません。

第三のステップでは、頭のスイッチを論理から切り替えて、個人の感情に焦点をあてます。

関係者が「どのように感じているか」、「なぜそう感じているのか」、「どのような価値観を持っているのか」、「何を目指しているのか」を考えましょう。

具体的な例で考えてみましょう。

あなたはカフェのオーナーです。「ラテアート」を売りにしたメニューがありますが、店員が提供するのに時間がかかる上、販売額も利益率もさほど高くありません。オーナーとして、このメニューを止めて他の新しいメニューに切り替えるべきでしょうか

数字だけ見れば、「売上、または利益率に貢献する」メニューに絞り込んだ方が、ビジネスとしての効率は良くなります。また、売れないメニューの定期的な入れ替えは必要です。

一方、「ラテアート」のような創造性が発揮されるメニューは、従業員が作る過程を楽しんでいたり、難しいアートをできるようになることに充実感を感じていたりします。

お客さんもラテアートに書かれた文字などのちょっとした心遣いに喜びを感じたり、それをきっかけにSNSでシェアすることも多いものです。

ある商品やサービスが従業員やお客さんの感情に強く結びついている場合、「止めるべきかどうか」を考えるよりは、「いかにその商品やサービスをお店の強みとして打ち出すか」と考えを逆転させた方が、お店にとっても、従業員にとっても、お客さんにとってもプラスになる可能性があります。

数字に出てこない、人の「こだわり」や「喜び・楽しさ・安心・誇り」などの感情を、意識するだけで異なった視点が出てきます。

現場に出て、従業員やお客さんと話をすると、見えてくるものはたくさんあります。

論理と感情は車の両輪であり、片方だけでは回りませんどんな課題を考える時にも、感情の要素を考慮することを忘れないようにしましょう。

感情について理解するのは、ダニエル・カーネマンの「ファスト & スロー」がおすすめです。

視点を変えて、考える

分解すること、俯瞰すること、感情を考えること、のステップを経ると、あなたの視点で論理と感情の両方を考慮した現状の認識と解決策の仮説ができるはずです。

次のステップは、視点を変えて、あなたの分析と解決策をチェックします

上司の視点で考える。

立場によって気にする点も異なるものです。例えば、上司が「他社、他の部署、他の国の支社はどうやっているのか」を気にする人であればその点が抜けていないかをみる必要があります。

同様に、上司が「プランB」(うまくいかなかった時の次善の策)を常に持ちたい人であれば、プランB、プランCまで考えておくのが良いでしょう。

反対の立場から考える

「もしあなたの案に反対する人であれば、どう反論してくるか」を考えてみましょう。

議論は、「前提、根拠、推論、主張」の4つの要素で成り立っており、反対の立場の人は、そのいずれかを問うてくる可能性が高いです。

例えば、あなたが「うちはITの会社だが、給与水準はIT業界の水準と比べて低い。だから人が定着しない」と主張したとしましょう。この議論は、以下のように分解できます。

  • 主張:給与が低いのが人が定着しない理由だ
  • 推論:給与が低いと人が定着しない
  • 根拠:給与水準が業界水準と比べて低い
  • 前提:自社がIT業界水準と比べられる

もしあなたの主張に反対の人でしたら、以下のように反論できるでしょう。

  • 給与が低くても、人が定着している会社はある。給与が主な理由ではない(推論が違うという反論)
  • 自社は中小企業であり、すでにビジネスが確立されている大企業の給与水準と比較するのは適切でない(前提が違うという反論)
  • 自社は中小企業の中では標準的な給与水準である(根拠が違うという反論)

このような反論が来ることを予測できていれば、それに応える準備ができます。

反論にどう対応するか(Objection Handling)を考えることで、考えをより一段深めることができます。

また、「前提を変えて考える」ことで新しい解決策が生まれることもあります。例えば、「〇〇の理由で無理だ」という言い分に対して、じゃあ「〇〇がなかったらどうする」と制約を外すことで、新しいアイデアが生まれることもあります。

誰かに話をして、考える

以上のステップを経れば、自分の中で考えがまとまるはずです。最後のステップは、人の頭を使わせてもらうことです。

自分一人で考えていても、どうしても見えていない観点が出てきます。

他の人に質問をしてもらったり、他の人の意見を聞くことで、より考えは洗練されていきます。

また、人に話をしたり、誰かに向けてアウトプットを書いたりしている中で、自分の中で新しい考えが見つかることも多いものです。同じチームなど、他の人と話をして、考えをより深めていきましょう。

まとめ

ビジネス上の課題を考えるときのプロセスとしては以下の5つの流れがあります。

  • 分解して、考える
  • 俯瞰して、考える
  • 感情を、考える
  • 視点を変えて、考える
  • 誰かに話をして、考える

以上が思考のプロセスです。僕自身、このプロセスを日本、米国、オーストラリアで用いてきましたが、どの国でも通用していました。

感想、フィードバックございましたら、ぜひぜひTwitterで教えてください。また、この記事から何か新しいことを学べたな、と思ったらシェアお願いします!

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]