将来もらえないのではないか、払うだけ損でないか、と若者世代に不信感の強い国民年金。
国民年金の支払いは義務ではありますが、結局得なのか、損なのか、は気になるところです。今回はあなたが40歳だとして、これから国民年金を25年間支払い続けた時に、いったいどれくらい得になるのかを一緒に見ていきましょう。
目次
国民年金に25年間でいくら払うのか
もしあなたが40歳で、会社員でも公務員でもないとします。すると、あなたは国民年金に加入する義務があり、自ら支払いを行う必要があります。支払わないでいると、最悪国が強制徴収しにきます。
では、国民年金の保険料はいくら支払わなければならないのでしょうか。
国民年金保険料の支払い
開始年次 (年) | 2020 |
開始年次の保険料 (月) | ¥16,410 |
保険料(年) | ¥196,920 |
名目賃金変動率 | 0% |
支払い年数 (年) | 25 |
支払い保険料 (円) | ¥4,923,000 |
参考:日本年金機構 「国民年金保険料の額は、どのようにして決まるのか」
2019年の国民年金の保険料は月間16,410円、年間では196,920円です。
保険料は簡単にいえば、賃金が上がれば上がる仕組みになっています。ただ、過去15年間で名目賃金はむしろ微減していますので、ここでは名目賃金変動率を将来25年にわたって0%と仮定します。すると、
196,920円/年 x 25年 = 4,923,000円
つまり、約500万円を支払うことになります。
社会保険料控除の効果
国民年金保険料の支払いは、「社会保険料控除」、として所得から控除できます。ざっくり言うと、国民年金保険料を支払うことにより、所得税・住民税が安くなります。
所得税(国税庁「所得税の税率」より)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
住民税は均等割と所得割があるのですが、ざっくり10%です。
どれくらい所得税・住民税が安くなるかは所得の高さと控除の額によります。国税庁の事業所得者の統計より、自営業の平均年収が約380万円ということから、
- 所得税で10%、住民税で10% (課税される所得が195万円から330万円)
- 国民年金保険料を満額 196,920円/年支払う
という条件で節税の効果を計算すると
196,920 円/年 x (10% + 10%) = 39,384 円/年
つまり、この前提条件ですと、国民年金を支払うことには年約4万円の節税効果があります。20万円国民年金を支払っていますが、節税効果を考えると、実質16万円しか支払っていないことになります。
別の言い方をすると、国民年金を支払わないと、将来の年金が減額される上に、年4万円近く税金を多く取られる、ということです(所得がより高ければより多くなります)。
この節税効果を考えると、実質的な支払い額は25年間で、
(196,920円- 39,384円) x 25年 = 3,938,400円
つまり、1年間の実質的な支払額は毎年16万円、25年間で400万円です。
国民年金からいくらもらえるのか
国民年金は、2019年12月現在、40年間(480ヵ月)支払うと満額の780,100円をもらえる仕組みになっています。
将来受け取れる国民年金は
- 物価変動率
- 名目手取り賃金変動率
- マクロ経済スライドによるスライド調整分
という要因で増減します。ただし、日本の物価は過去20年ほぼ変わっていないことと、前述のように日本の名目手取り賃金はあまり変化していないので、単純化のために、これらの変動率と調整分が今後25年間で0%をキープすると仮定します。
国民年金は納めた月の分だけ増える仕組みになっているため、25年間 (300ヵ月)納めた場合は、
780,1000円 x 25年間 ÷ 40年間= 487,563 円/年 (40,630円/月)
つまり、25年間、毎月16,410円を納めると、25年後(40歳から考えると、65歳になった時)には毎月約41,000円もらえる計算になります。
ここで、2019年時点での日本人の平均寿命が男性で81歳、女性で87歳ですから、87歳ちょうどまで生きると仮定します。つまり、年金を受け取れる期間は22年間です。
国民年金満額(40年) | ¥780,100 |
物価変動率 | 0% |
名目賃金変動率 | 0% |
マクロ経済スライド調整分 | 0% |
支払い年数による年金増額 | ¥487,563 |
年金受取期間 | 22 |
年金受取額 | ¥10,726,375 |
すると、22年間で受け取れる金額は10,726,375円、つまり約1070万円になります(税金は公的控除内で支払わないと仮定)。
実質400万円を支払って、1,070万円もらえるならば、良い投資だと思いますか?
国民年金と同じだけもらうための利回り
国民年金保険料と同じ額を運用するといくらになるのか
25年間、毎年16万円で計400万円を投資するとき、利回りによって25年後にいくらになっているかは大きく異なります。
利回り | 2045年の資産額 |
1% | 4,449,321 |
3% | 5,743,647 |
4.4% | 6,925,690 |
5% | 7,518,736 |
7% | 9,964,000 |
利回り1%で運用すれば、投資した400万円は2045年に450万円になっています。一方、利回り7%で運用すれば、2045年には1,000万円近くまで増えています。
わずか数パーセントの差ですが、期間が長ければ長いほど、その差は大きくなります。
利回り4.4%ですと、2045年に700万円になっています
国民年金と同じだけもらうためにはいくら必要か
ここで、国民年金の話に戻ります。先ほど、国民年金を25年間支払うと、上に書いた前提のもとで、毎月4万1000円もらえ、22年間生きると仮定すると、もらえる年金額は1070万円になると説明しました。
これは、2045年時点で1070万円の価値がある、というわけではありません。なぜなら、2045年から2067年まで資産の運用ができ、その利回りを得ることができるからです。ざっくりいうと、運用する能力があればあるほど、国民年金と同額を受け取ることができるだけの資産の必要額は少なくなります。
利回り | 2045年に必要な資産額 |
1% | 9,720,000 |
3% | 7,950,000 |
4.4% | 6,990,000 |
5% | 6,630,000 |
7% | 5,620,000 |
例えば、利回り1%で回せる場合は、2045年時点で必要な金額は972万円になりますが、利回り7%で回せる人は、必要な金額は562万円でよくなります。
利回り4.4%の場合、2045年に必要な金額は700万円になります。
つまり、マクロ経済スライドがずっと発動せず、87歳まで生きるという今回の前提のもとでは、国民年金と同じだけ受け取るために必要な利回りは4.4% になります。
その他の論点
障害年金、遺族年金
国民年金加入中に障害をおった場合には本人が障害年金を、死亡した場合は死亡した人に生計を維持されていた人が遺族年金を受け取ることができます。
特に遺族年金は子供が18歳になるまで年78万円に子供の数を加算した年金額が加わるためにかなり大きく、生命保険としての機能も果たします。
障害年金・遺族年金だけでも保険としてかなりの価値があるので(例、40歳で1,000万円の掛け捨ての生命保険に入ると月に約2,000円かかります)、障害年金・遺族年金の価値を割り引くと、利回りはさらに高くなります。
公的年金控除
公的年金は受け取る時に公的控除が使え、所得税・住民税を減らすことができ、これは利回りを高くしています。ほかの収入源、例えば配当所得でしたら約20%の税金がかかります(収入源次第では税金を0にできますし、今回のシミュレーションでは複雑になるので考慮していません)
マクロ経済スライド
マクロ経済スライドだけで1記事以上かけてしまうので今回の前提では省略しましたが、実際にはマクロ経済スライドが今後47年間のうち、ある程度の期間発動すると考えられます。発動した場合、受け取る実質的な年金が減少するため、利回りは低下します。
年金支給年齢の引き上げ
現在は年金支給は65歳からですが、今後25年のうち、年金支給年齢が引き上げになる可能性が高いです。平均的な寿命がどのくらい伸びるかにもよりますが、年金支給年齢の方が後ろ倒しになると、一般的に利回りは低下します。
国民基礎年金への国庫負担削減の可能性
現在の歳入と歳出のバランスは大きく崩れており、国は毎年社会保障を維持するために国債を発行している状態です。国民基礎年金の半分は国庫から負担されており、もし仮に「国がこれ以上借金できない」、となった場合は、国家負担の分が削減され、年金が減る可能性が有ります。そうなると、利回りは低下します。
長生きと早死に
国民年金は終身のため、長生きすればするほどもらえる額が増えて利回りはよくなりますし、早死にすればするほど損になります。つまり、健康に投資をすることが、国民年金の利回りを向上させます。
また、男性と女性は平均寿命に6歳の差がありますので、平均を見れば、女性の方が得になりやすいです。
まとめ
- 今回のマクロ経済スライドが発動しない前提のもとでは、国民年金と同じだけ受け取るために必要な利回りは4.4%。
- 現状、4.4%の利回りを得られる金融商品はそう多くありません。日本国債の利率は0.5%以下ですし、日本株もバブルの時の株価をいまだに超えられていません。
- これらの条件を考えると、47年 (25年 + 22年)にわたり利回り4.4%を出し続けることは、普通の日本国民には難しく、購入した方が良い商品だと思います(そもそも国民の義務なので、選択の自由はありませんが。。)
- 国民年金は障害年金・遺族年金の保険機能は優秀で、月2,000円以上の価値があります
- ただし、マクロ経済スライドの発動、年金支給年齢の引き上げ、国民基礎年金への国家負担削減の可能性が高いため、実際の利回りはさらに低下する可能性が高いと考えられます。
- 長生きすると利回りがよくなります。利回りをよくしたいのであれば、健康で長生きするよう、健康に投資をしましょう。
この記事で何か学びや気づきがあったならば、下のボタンを押して投票していただけると嬉しいです!