大統領選挙はアメリカ政治の一大イベントですが、世界にとっても、世界一の強国の大統領が決まるという大きなイベントですし、世界の株式市場にも大きな影響を及ぼします。共和党候補は現職のトランプ、民主党候補はバイデンです。
今回は大統領選でどちらが優勢かの現状、今後のポイントについて書いていきます。
目次
大統領選、どちらが優勢か
大統領選はアメリカ政治の一大イベントです。11月の大統領選挙では、州ごとに集票が行われ、ネブラスカとメーンを除く州は勝者総取りです。
合計が538票のため、270票以上取ると過半数を確保できます。
7月11日現在の大統領選は、バイデン(民主党)がトランプ(共和党)に対して有利に進めています。
現在、バイデンが有利に進めている州の選挙人の合計は222人、トランプが有利に進めている州の選挙人の合計は125人、まだどちらに転ぶかわからない州(スイングステート)の選挙人の合計は191人です。
このまま優勢の地域が変わらなければ、民主党はスイングステートであと50票を確保できれば、勝利できます。
青い地域は2016年の大統領選でヒラリー・クリントン(民主党)に投票した地域とほぼ同じです。
2016年の時にはヒラリー陣営が獲得した票は232票でしたので、現在バイデンが有利に進めている州の選挙人の合計とほぼ同じです。
4年前にはヒラリーは後述する「ラストベルト」(さびついた工業地帯)を全て落としたことに加え、フロリダ、ノースカロライナと大票田も落としたことが敗北につながりました。
現在、トランプが有利に進めている中部、南部の赤い州は過去30年共和党が強い地域です。また、西の沿岸部と北東の沿岸部も同じく過去30年は民主党が強い地域です。
傾向としては、都市部・沿岸部は民主党支持層が多く、郊外や農村部は共和党支持者が多いです。ニューヨーク州、カリフォルニア州、イリノイ州(シカゴ )という米国の主要な大都市は民主党です。
今後の焦点となる州
共和党、民主党ともに「岩盤地域」(支持が動きにくい地域)があるため、より自分の陣営になる可能性が高いスイングステートに選挙活動を注力することになります。2020年大統領選挙の現時点におけるスイングステートは下記の13州です。
州 | 州名 | 選挙人数 |
TX | テキサス | 38 |
FL | フロリダ | 29 |
PA | ペンシルバニア | 20 |
OH | オハイオ | 18 |
MI | ミシガン | 16 |
GA | ジョージア | 16 |
NC | ノースカロライナ | 15 |
AZ | アリゾナ | 11 |
WI | ワイオミング | 10 |
NV | ネバダ | 6 |
IA | アイオワ | 6 |
NH | ニューハンプシャー | 4 |
Others | その他(メーン、ネブラスカの一部) | 2 |
このうち、テキサス、フロリダ、ラストベルト(ペンシルバニア、オハイオ、ミシガン、インディアナ)は票数(影響力)が大きく、特に注目です。
テキサス
全米でカリフォルニアに次ぐ大きさを持つテキサスは伝統的に共和党が強い州です。2020年の選挙で38票を持つことに加え、人口増加率も高く、今後も票数が増加することが予測される、共和党にとって最も重要な州の一つです。
民主党はカリフォルニアや、ニューヨーク、マサチューセッツをはじめとする北東部をガッチリと抑えていることを考えると、共和党はテキサスを失うと、2020年のみならず、将来にわたり今後大統領選で勝てる可能性が大幅に減少します。
そんなテキサスですが、アメリカに起きている変化の最前線にある地域でもあります。
テキサスでは、ヒスパニック(中南米をはじめとするスペイン語圏をバックグラウンドにする人たち)の人口増加が白人よりも早いペースで増加しており、2020年にはヒスパニックの人口が白人を超えることが予想されています。
ヒスパニック・アジア系の人口増加速度は白人を大きく上回っており、アメリカの国勢調査を元にした予測では2045年には白人が過半数を割ると予測されています。
テキサスでは2010年の時点ですでに白人が過半数を割っており、2020年には最大の人口グループですらなくなる、ということでアメリカの将来を先取りしているとも言えます。
厳密に言えば、ヒスパニックは若年層の割合が多いことと、白人よりも投票率が低いため、投票する人の数で言えば2020年時点でも白人の方がまだまだ多いですが、時間が経てば立つほど白人がマイノリティになる傾向はかわりません。
アメリカという国は人種によりどちらの党を支持するかがかなり顕著に割れている国です。例えば2016年の結果を見ても、白人男性は圧倒的多数がトランプに投票し、黒人・ヒスパニックは民主党支持が圧倒的でした。
この傾向が続けばどうなるかというと、テキサスで「ヒスパニックの人口が増えるにつれ民主党支持が増え、民主党の州となる日が来る」、ということです。
あなたが白人男性を支持者層とする共和党の大統領でしたら、どうするでしょうか?
「ヒスパニックの増加を抑制する」、「ヒスパニックを追い出す」ことで、民主党の支持者基盤を削減する、というのは一つのアイデアです。
その視点から見ると、トランプの「メキシコとの間に壁を作り入れないようにする」(=ヒスパニックの流入を防ぐ)、「移民ビザの制限をする」(=家族ビザで家族を連れてくることが多いヒスパニックの流入を防ぐ)、「ヒスパニックが多いDACA(親がアメリカに不法入国した際に連れてこられた子供たち)をアメリカから追い出す」(=ヒスパニックを減らす)、というのはこの方針に沿っています。
また、ヒスパニックは英語ができない人も相当数いるため、スペイン語だけでは「選挙人登録」しにくくする(アメリカでは住民票がないため、自ら投票用紙が送られてくるように登録する必要があります)、「犯罪歴がある人は投票できない」などと投票権を無くして投票できないようにする、なども共和党が進めたい施策です。
40票近くあるこの州を落とすと、共和党の勝ち目がほぼなくなります。
さらに、現在テキサスでは新型コロナ感染が拡大したことで、現在の共和党知事のコロナ対策への不満が高まっており、結果としてトランプへの支持率が低下してきています。
トランプからしたら間違いがあってはいけない州のため、大統領選までの間で何かしらの対策が打たれる可能性が高いです。
可能性としては、エネルギー企業への支援、さらなる中南米系移民への強硬策などでしょうか。要注目の州です。
フロリダ
フロリダもニューヨークを超える人口をもち、全米第3位の29票を持つ州です。この州は過去何度も大統領選の勝敗を決める州になってきました。
2000年には「民主党のアル・ゴアと共和党のジョージ・W・ブッシュがこの州の結果次第で大統領がどちらか決まる」という状況で、得票数の差が全体の0.5%以下の大接戦となり、票の数え直しが行われて、裁判まで行き、最後の最後までもつれた、というドラマが起こった州でもあります。
2016年の選挙は1.2%の差で共和党、2012年は0.8%の差で民主党が勝利、と僅差で揺れ動いている州であり、今回の選挙でも接戦が予想されます。
ヒスパニックの割合が30%と高いのですが、キューバ系移民が多く、キューバ系移民はカストロ政権に強硬姿勢をとる共和党支持の割合が高いので、必ずしもヒスパニックの割合が高いことが民主党優位に繋がっていません。
こちらもテキサスと同じく新型コロナの感染者数が増えている州になります。
現大統領のトランプの政策やリーダーシップへの不満が高まれば、それだけバイデンが有利になります。
ラストベルト
ラストベルト(錆びた帯)と呼ばれる製造業が強い地域は揺れ動く州(PA、OH、MI、IN)であり、合計65票になります。
これらの州は製造業比率が比較的高く、「生活水準が上がらず不満が募る白人製造業従事者」が多い地域です。
民主党は、2016年の大統領選では事前の予想ではヒラリーが大きくリードしていたためにこれらの州を十分に重視していませんでした。結果として、「隠れトランプ」とも呼ばれたトランプ支持者が多く投票所に足を運び、ヒラリーはラストベルトを全て落として、敗因に繋がりました。
トランプは再戦を確実にするため、「TPPからの脱退」、「NAFTAの見直し」、「製造業のアメリカ回帰の推進」といった、「生活水準が上がらず不満が募る白人製造業従事者」向けの政策を過去4年で行ってきました。
民主党は4年前の反省を活かし、これらの州を奪還することを目指しています。
バイデンは$400b (44兆円)を製造業に投資するという政策案を出していますが、これは主にこのラストベルトの票を狙ったものと考えられます。
バイデンの政策案に対して、トランプは「これは自分の案でバイデンが盗用した」とコメントしています。どちらもラストベルトの票が2020年の大統領選で重要であるということが背景にあります。
まとめ
大統領選挙はアメリカ政治の一大イベントですが、世界一の強国の大統領が決まるという、世界にとっても大きなイベントにもなります。
テキサスの結果は今回の大統領選のみならず共和党の将来を左右しますし、フロリダがどちらにふれるかは大統領選の結果を左右します。
ラストベルトはどちらの候補も注力しており、今後数ヶ月で製造業向けの政策案が飛び交う接戦になることが予想されます。政策によっては、NAFTAの見直しのように貿易に大きな影響を与えます。
ざっくりとでもアメリカの大統領選の仕組み、どの州がポイントか、の知識があると、それぞれの候補が「どのような層に向けて、何を、どんな目的で発言しているのか」がわかり、よりニュースがわかるようになります。
今回の記事が、2020年の大統領選でどんなポイントがあるのか、を知るきっかけになれば嬉しいです。
参考図書:
- 大石格 「アメリカ大統領選 勝負の分かれ目」(日本経済新聞社)
- 西山隆行 「アメリカ政治講義」(ちくま新書)
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