はじめての経済:ストーリーでわかる、政府

中央銀行(日銀やFRB)の金融緩和、政府の大幅な財政支出、と連日ニュースが続きます。しかし、「そもそも経済はどのように回っているのか」は、あまり説明されたことがないのではないでしょうか。

前回の記事では、企業、家計、銀行について説明しました。

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今回は、前回の続きです。政府の役割を、わかりやすい例で説明します。この記事を読むと、経済ニュースを聞いた時の理解度が上がるかもしれません。

前回までのあらすじ

小さな100人の村に銀行ができたことにより、村のお店(企業)が投資を行い、ビジネスを拡大。

それに伴い、企業が人をより雇い、より多くを生産したことで、村の経済は豊かになりました。村の人口は100人から200人に増え、村の経済規模は月1,000万円から2,000万円へと倍増。

喜ぶ村長を尻目に突然の疫病が村を襲い、村に高熱で呼吸困難な人が増える。

村長は苦渋の決断として、村民に「不要不急の外出禁止令」を出す。これにより、村に10あるお店のうち、5つは必要なお店(クリニック、スーパー、薬局など)なので、社会的距離を保ちながらならば開けても良いけれど、残りの5つ(飲食、建設など)は不要不急ということでお店を1ヶ月間閉じることに。

5つのビジネスで働く100人の村民は、1ヶ月間、仕事がなくなり、収入もなくなります。蓄えがないので、収入が1ヶ月間なくなっては、生活できません。

お店のオーナー、従業員、銀行は大慌てで村長の所にやってきました。「村長、助けてください!」

政府の始まり:借金、税金

村長は悩みます。疫病が蔓延して村の人々の命が脅かされるのは村長として許容できませんし、同時に村民の半分の生活が成り立たず、食べるにも困ってしまうのも困ります。かと言って、村長には個人としてこれだけ多くの人を助けることもできません。

「仕方ない。お金を借りにいこう」

村長は、より豊かな隣町の町長の所へ行きました。

「町長さん、うちの村で疫病が蔓延してしまい、村の半分の人が収入が途切れて、困っているんだ。1人あたり月あたり平均10万円必要で、100人なので、1,000万円必要なのだけど、なんとか借りられないかな。疫病が落ち着いたら、村としてお金を集めて返すから」

町長は少し悩みますが、隣の村は大事な交易相手で、疫病で潰れられてしまっても困ります。「仕方ない。1年後に利子5%をつけて返してくれるならばいいよ」と言って、1,000万円を貸してくれることになりました。

村長はその1,000万円を村に持ち帰り、村民に伝えます。

「今回の疫病を皆で乗り越えるために、隣町から1,000万円を借りました。この1,000万円を、疫病のために仕事ができず、生活に苦しんでいる100人に割り振るつもりです。

ただし、これは借りたお金であり、1年後には隣町に返さなければなりません。今回、これはみんなの生活に影響することのため、今後1年間は1人当たり、毎月5,000円を集めさせてもらえないですか?」

お店が疫病の影響を受けていない村民は、毎月5,000円というお金を出すということにやや戸惑います。しかし、事態の深刻さを身を持って感じていますし、村の半分の人の生活が困窮してしまえば、最終的に自分たちのお店の売上も落ちてみんなの生活が苦しくなる、という村長の発言に納得しました。多数決の結果、賛成多数で、村長の提案を受け入れることにしました。

疫病の蔓延で仕事ができなくなった人たちは、1ヶ月の間、給与と同じ額の支援金を受け取ることができるという、村の決定に感謝しました。そして、全ての村民は、外出を控えることを可能な限り守りました。

1ヶ月の後、疫病は無事におさまりました。全ての村民は平均10万円の給与・支援金を受け取りました。200人が受け取った額は、2,000万円でした。

そして、村民が給与・支援金を受け取った時に、5,000円は自動的に「村口座」へ振り込まれました。そのため、実際に受け取った額は平均10万円ではなく、9万5,000円になりました。村民が消費できる額は、200人で1,900万円になりました。

村口座には、200人からそれぞれ5,000円が天引きされたため、100万円が振り込まれました。このままのペースでいけば、年間1,200万円が貯まるため、村が隣町へ借りている金額に利子を加えた1,050万円を返済することができます。

村長はほっと一息つきました。

今回のストーリーから学べること

ここで、今回のストーリーを振り返ってみましょう。

今回の危機で、村長は、個人を超えた、「村」という行政組織を設立しました

お店、村民、銀行だけでは、今回のような危機を乗り越えることができませんでしたが、村として外部からお金を借り入れ、村民にお金を支給することで、生活の危機に陥りそうだった村民を救い、村として危機を乗り切りました。

また、その条件として、村長は村民からお金を定期的に徴収することの仕組みを導入することに成功しました。

これらを言い換えると、村長は政府(村という行政単位)を設立し、債券(いくらを、どれくらいの利率で借りて、いつ返済するかの約束)を発行してお金を手に入れ、徴税(お金を定期的に徴収すること)の仕組みを作りました。

現実の社会とどう関係するの?

政府は個人や企業だけではできないような大胆な施策を打つことができる一方で、政府が施策を計画・実行するためには、お金が必要になります。

そのお金を政府に属する国民から得る仕組みが、徴税です。徴税を導入するのは権力者が力で行う場合もありますが、今回の村の例ですと、危機をきっかけにして「村」という単位で物事が動き始めました。

経済が大不況になった時に、政府が債券を発行して消費を増やすのは、今の社会でも行われる有力な処方箋です。コロナウイルス対策として各国が大規模な経済対策を打ち出しているのも、同じ考えに基づいています。

また、日本の例では、東日本大震災の後に、復興のために巨額の財政支出がくまれ、その後に「復興特別所得税」として所得税に増税が行われました。今回の村の例と同じですね。

もう一つ大事なポイントは、「危機の後に徴税が増えると、村民の所得が減り、消費も減る」ということです。

今回の場合のように、借金を返済するための税金は、消費を減らします。政府が税金を借金返済に回す場合、輸出が増えない限り、村の中の消費は縮小し、経済規模は小さくなります。

実は今回のストーリーの前提は、輸出(=村の外への売上)が増えないと成り立たない話です。村の中で消費される金額が1,900万円ですと、輸出がなければ、企業の売上の最大は1,900万円で、従業員の所得の最大も1,900万円になります。

1,900万円の所得から100万円の税がとられると、企業の売上の最大は1,800万円になり、従業員が受け取れる金額も減り、と繰り返していくともうお分かりですね。経済規模がする中で政府が税金を高止まりさせ、財政支出をしないと、経済規模は縮小していきます。

危機の際に借金を増やす国は多いですが、その借金がどのように処理されるか、には要注目です。

その後

早いもので、さらに11ヶ月が過ぎ、町長へ借金返済の時がやってきました。この1年間で「村口座」には毎月100万円が振り込まれたため、村口座には1,200万円が貯まっています。

村長は隣町の町長へ1,000万円と約束した利子の50万円の計1,050万円を支払いました。村口座には、まだ150万円が残っています。

村民の一部の人は、村が借金を返し終えたら1人あたり毎月5,000円を支払わなくてよくなり、より消費ができようになる、と楽しみにしています。

町から帰った後、村長は村民を集めて、借金を返し終わったことを伝えました。良いニュースを期待する村民に対して、村長は言いました。

「村として借金は返し終わりましたが、これからも月5,000円は自動的に村口座へ振り込まれます」

「なんで!!」

何人かの村人が叫びました。

続く、かもしれないです。

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はじめての経済:ストーリーでわかる、企業、家計、銀行

中央銀行(日銀やFRB)の金融緩和、政府の大幅な財政支出、と連日ニュースが続きます。しかし、「そもそも経済はどのように回っているのか」は、あまり説明されたことがないのではないでしょうか。

今回は、お金が世界をどう回るのかを、わかりやすい例で説明します。この記事を読むと、経済ニュースを聞いた時の理解度が上がるかもしれません。

企業と家計

小さな100人の村を考えてみましょう。10人はオーナー社長で、お店を運営しており(クリニック、スーパー、飲食など)、それぞれ1つのお店を持っています。残りの90人は従業員です。

それぞれのお店は毎月100万円稼いでおり(材料などは近くの山や川からとってきて無料で、かかる費用は人件費だけとします)、オーナー・従業員はそれぞれ毎月10万円もらって、10万円使うとします。

  • すると、企業が稼ぐお金は 100万円 x 10社 = 1,000万円
  • 社長・従業員がもらうお金(「家計」としましょう)と使うお金は 10万円 x 100人 = 1,000万円

企業が稼いでいるお金と、家計が受け取るお金、家計が使うお金、は等しくなります。お金は企業→家計→企業→家計、とぐるぐる回っていきます。世の中に回っているお金は1,000万円です。みんなその月暮らしですが、平等な村ですね。

この村のGDP (Gross Domestic Product)という経済の指標は、実はこの1,000万円になります。村が生み出した付加価値の合計です。多くの村が、このGDPを上げることが人々の幸せに繋がると考え、この指標を上げることを目指しています。

銀行と企業投資

ここで、村の1人が「僕が兼業で『銀行』をやるよ」、と言い始めました。この「銀行」ではお金を預けることも、お金を借りることもできるようです。また、「銀行」を通じてお金のやり取りをすると、現金を直接やり取りしなくても良いようです。

現金を持ち歩かずにすむのなら、と企業もお金を預け、家計もお金を預けます。企業も家計も全てのお金を銀行に預けました。銀行には企業・家計からの預金合わせて、1,000万円のお金が入っています。

あらゆる決済が銀行口座に紐づいて、銀行役に連絡をするだけですむので、誰も現金を企業や家計に置きません。みんなラクラクで嬉しそうです。

ここで、野心あふれるあるオーナーが牛丼のお店を増やしたいので、「お金を借りたい」と言い始めました。

「牛野屋」としましょう。牛野屋は新しいお店を開くのに、「300万円かかる」と言い、「300万円を1年間借りたい」と言ってきました。

銀行は、「毎月1%の利子を支払ってくれるならいいよ」、と言ったので、牛野屋は300万円を借り、銀行は牛野屋さんの口座のお金を増やしました。牛野屋は建築業者に300万円で仕事を依頼しました。

建築業者は、仕事をし、牛野屋から受け取った300万円を銀行に預けました。

するとどうでしょう。銀行の手元には1,300万円分の預金があります。あれ、不思議ですね。300万円増えています。牛野屋へ貸し出された300万円がまわりまわって、預金になりました

つまり、貸出を行なったことで、銀行は村の中に回るお金の量を増やしたことになります

牛野屋は新しいお店を開店し、隣町から新しく10人を雇用し、月100万円を売り上げるお店になりました。

牛野屋はビジネスがうまくいっていれば元本はまた来年借りればいいやと利子返済以外は従業員に支払うこととし、従業員には毎月9万7000円ずつ渡すことにしました。つまり、97万円は従業員に、毎月3万円分は利子返済に回すことにしました。

銀行役は月10万円の給与に加えて、月3万円の利子をもらい、消費に回しました。これらの従業員もお金を銀行に全てを預けたため、銀行に新しく100万円が預金され、銀行を回るお金は1,300万円 + 100 万円で、1,400万円になりました。

  • 村では、新しく牛丼屋が100万円を売り上げるようになったので、お店の数は11に増え、「企業」の売上は1,100万円です。
  • 110人が働き、平均給与が月10万円ですので、「家計」がもらうお金も、消費するお金も1,100万円です。
  • 村の中の預金額は1,400万円で、借金額は300万円です。

牛野屋の投資により、企業の売上・家計の収入・消費が100万円増えてますね。さらに、借り入れを行なったことで、その分村の中を回るお金も300万円増えてますね。

これが銀行の役割の一つです。銀行は、世の中に回るお金を増やして投資を促し、経済のパイを大きくします

投資ブーム

牛丼屋の成功を見た他の9人のオーナーも我も我もと同じ「300万円を1年間、利子月1%」の条件で借り入れを行い、新しいお店をオープンしました。新しいお店はそれぞれ従業員を10人雇用し、オーナーは売上100万円のうち、銀行に月3万円支払う以外は従業員に回しました。

銀行役の人は大喜びです。なにせ、1人で月10万円の給与に加えて、3,000万円を貸出した利子の1%である30万円が入ってきて、毎月40万円もらえているからです。しかし、銀行役は湯水のようにお金を使って、毎月全部消費します。

  • 村のお店の数は20に増え、隣町からさらに90人が移動してきて、人口も200人に増えました。企業の売上は2,000万円です。
  • 200人が働き、平均給与は月10万円で変わらず、家計がもらうお金も、消費するお金も2,000万円です(ただし、100人の給与は9万7000円、99人の給与は10万円、1人の給与は40万円です)
  • 村の中の預金額は5,000万円で、借金額は3,000万円です。

銀行がせっせと貸出を行なった結果、貸出金額が企業の売上高よりも大きくなりました。

このことからもわかるように、銀行は預金額以上の貸出を行うことができます。なぜなら、銀行は何か現物を右から左へ貸し出しているわけではなく、貸出を通じて、お金を創造しているからです

みんなの景気が良い時には、企業の投資意欲が高く、銀行が貸出を増やし、企業は投資をして、雇用が生まれ、消費が増えて、さらに企業の投資意欲が高まって、と良い循環が回っていきます。

村Aは人口が2倍のが200人、売上も2倍になり、GDPは2倍の2,000万円になりました。村長さんは大喜びです。

ブームの綻び

しかし、良い時はずっとは続きません。突然、村に疫病が蔓延、村長は村の住人に1ヶ月間の外出禁止令を出しました。

ここで大変なのは、ビジネスをしているオーナー達です。村にある10の事業のうち、5つは必要不可欠な事業(クリニック、スーパー、薬局など)なのに対して、残りの5つの事業は必要不可欠でない事業(飲食など)と見なされ、営業できなくなってしまいました。

  • 事業が継続できないオーナーはパニックです。売上が上がらなければ、従業員への給料も支払えませんし、銀行への利子も払えません。
  • 従業員もパニックです。給料が入ってこなければ、生活ができません。
  • 銀行もパニックです。融資をした企業が潰れてしまえば、お金を回収できません。

このような事態になった時に、村としてはどうしたら良いでしょうか? 企業、家計、銀行だけでは解決できません。ここで、「政府」の役割が重要になります。

政府のストーリーは、こちらです。

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投資だけでなく、本業にも役立つ、分析まとめ

企業、業界、社会についての分析記事も30を超えました。「投資だけでなく、本業にも役立つ」という嬉しいフィードバックを様々な方からいただけましたので、これまでに書いた記事をまとめてみます。

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企業分析・業界分析の方法

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コロナが米国ヘルスケア株に与える影響(病院・製薬・医療機器)

新型コロナウイルス(以下コロナ)の広まりは、米国の病院、製薬・医療機器メーカーの経営にも大きな影響を及ぼしています。今回はどうしてコロナがビジネスに影響を与えるのか、どの業種に被害が大きいのか、今後の見通し、について書いていきます。

どうしてコロナがビジネスに影響を与えるのか

一言でいうと、新型コロナウイルスが病院の資源を奪うからです。


コロナは感染力が強く、医療従事者が感染から身を守るための個人用保護具(PPE – Personal Protective Equipment)が必要となります。わかりやすい例でいうと、医療用マスクです。これらの保護具は手術においても使われるため、コロナに保護具が回されると、他の手術に影響が出ます。

また、コロナの患者は他の患者から隔離する必要があるため、個室対応が必要になります。また、重症化しやすく、かつ症状が出ている期間が長いこともあり、集中治療室を占有する期間も長くなります。

加えて、コロナの患者さんのケアのために、感染症専門医、呼吸器専門医だけでは足りず、その他の専門の医者まで動員、または待機状態にされている病院も数多くあります。

上記のように、コロナへの対応は病院の人・モノの資源を多く必要とするため、必然的にその他の手術や外来が制限されます。これにより、手術や外来により処方または使われる医薬品・医療機器の販売に影響が出ます。

また、病院にとって、コロナの患者は「儲かりません」。なぜかというと、ベッドを利用する時間が長く、病院の人・モノを多く要求するわりに、保険請求できる額が少ないためです。米国の場合、特に重症化しやすい高齢者はメディケアでカバーされており、一般的にメディケアの保険償還額は民間保険より低いことも要因の一つです。

加えて、米国の私立病院では手術に特化し、手術の回転率を上げることで稼いでいる病院が多いため、コロナで手術を延期せざるを得なくなるのは、売上にはかなりの痛手です。

実際、手術と外来の下落により、病院はナースなど医療従事者を一時解雇し始めています。すでに数千を超える医療従事者が一時解雇されました。

どの業種への影響が大きいのか

医療の世界では、治療の「ガイドライン」があり、多くの病院、医療関係者はそのガイドラインを参照しながら、治療方法を決めていきます。

アメリカのコロナへの対応については、Centers for Medicare and Medicaid Services(CMS – 高齢者用のメディケアと低所得者用のメディケイドを管轄している政府機関)が医療機関宛に向けて、ガイドラインを出しています。

具体的には、「不急の」手術を延期して、コロナにかかった患者の受け入れを優先することを促す内容です。延期の目的は、医療関係者を守るPPEをコロナ対策に回せるようにし、院内感染のリスクを減らすためです。

このガイドライン自体に強制力はありませんが、CMSは国の保険機関であり、病院からすれば支払いを行ってくれる相手でもあるため、医療機関はある程度従うと考えられます。

手術が必要な緊急度と感染のリスクに応じて、3つのTier(階層)に分かれています。

Tier 1は不急の手術で、延期が強く推奨されています。手根管症候群(Carpal tunnel)や白内障手術(Cataracts)、内視鏡検査(Colonoscopy, Endoscopies)がこのカテゴリに含まれています。

アメリカは世界一大きな医療産業をもつため、グローバル企業でこのカテゴリの製品を扱っている企業は少なからず影響を受けるでしょう。具体例をあげると、内視鏡(Endoscopy)はオリンパスが高いシェアをもつので、オリンパスの医療機器部門は第二四半期(4月-6月)で影響を受ける可能性が高いです

Tier 2は緊急ではない手術で、低リスクのガンや整形外科(股関節や膝の人工関節手術など)、泌尿器の手術などが当てはまります。

整形外科はJ&JやStrykerなどが強い分野です。Strykerはコロナによる手術の延期により、相当の影響を第二四半期で見込んでおり、通期の売上見通しを取り下げています。

Tier 3は緊急性の高い手術です。ガン手術、心臓に関わる手術、移植手術、足を切り落とさなければならなくなる病気の手術などがあたります。これらの手術は緊急性が高いため、延期される可能性が比較的低いと想定されます。

Tiers Action Definition Locations Examples
Tier 1a Postpone surgery/procedure Low acuity surgery/healthy patient
Outpatient surgery
Not life-threatening illness
HOPD*
ASC**
Hospital with low/no COVID-19 census
Carpal tunnel release
EGD
Colonoscopy
Cataracts
Tier 1b Postpone surgery/procedure Low acuity surgery/unhealthy patient HOPD
ASC
Hospital with low/no COVID-19 census
Endoscopies
Tier 2a Consider postponing surgery/procedure Intermediate acuity surgery/healthy patient
Not life-threatening but potential for future morbidity and mortality.
Requires in-hospital stay
HOPD
ASC
Hospital with low/no COVID-19 census
Low risk cancer
Non-urgent spine & ortho: including hip, knee replacement and elective spine surgery
Stable ureteral colic
Elective angioplasty
Tier 2b Postpone surgery/procedure if possible Intermediate acuity surgery/unhealthy patient HOPD
ASC
Hospital with low/no COVID-19 census
Tier 3a Do not postpone High acuity surgery/healthy patient Hospital Most cancers
Neurosurgery
Highly symptomatic patients
Tier 3b Do not postpone High acuity surgery/unhealthy patient Hospital Transplants
Trauma
Cardiac with symptoms
Limb threatening vascular surgery

ガイドラインの中でTier 1/2の手術については、コロナの影響で延期される可能性が高く、第二四半期へのダメージが大きくなります

加えて、コロナ対策のためにベッドやICU(Intensive Care Unit – 集中治療室)を開けておく必要があるため、手術の件数自体が少なくなります。

手術の件数が少なくなるということは、病院の収益も減りますし、製薬・医療機器メーカーも業界として影響が出ます。なぜかと言うと、病院・医療機器メーカーにとっては、手術が売上の多くを占めるためです。製薬メーカーにとっても手術時、手術前後で用いられる薬があるため、こちらも売上に影響が出ます。

また、どの病院も今期は売上が厳しくなる可能性が高く、そうなると設備投資が減らされる可能性が高いです。例えばGEやシーメンスなどはMRIなど大型の医療機器を作っているため、今期の売上が厳しくなる可能性があります。

また、CMSのガイドラインはあくまでも全体をくくったざっくりとしたガイドラインであり、実際には各専門領域の中で、学会がガイドラインを策定しており、今回のコロナの件でも「どの手術は緊急性が高く、どの手術は延期すべきか」、というガイドラインをすでに出している専門領域が多いかと思います。

具体例(Johnson and Johnson)

具体例を見ていきましょう。例えば、J&Jの医療機器部門ですが、最も大きいのはOrthopedics(整形外科)でCMSのガイドラインでTier 2です。一般的に整形外科は緊急性が高い手術の割合がそこまで大きくないと考えられ、延期によりダメージを受ける可能性が高いです。

次に大きいのは、Surgeryですが、こちらも手術の件数が全体的に少なくなると、影響が出ます。

Visionは大半がコンタクトレンズのビジネスであり、こちらは日常的に利用されるものであり、影響は他の部署と比べると小さそうですが、人々が眼科に来ることを避けるようになれば、影響が出ます。

Interventional SolutionsはほとんどがElectrophysiology(電気生理学 – カテーテルによる焼灼です)であり、こちらは心臓を扱う部署でTier 3ですが、不整脈を対象とする手術が多く、緊急性がそこまで高くないことから、影響が大きいでしょう。

このように見ていくと、J&Jの医療機器のビジネスは第二四半期(4月-6月)はかなり影響を受けそうだ、ということがわかります。

今後の見通し

医療機器大手で、現時点でプレスリリースを出しているのはStrykerとBoston Scientificです。どちらも売上に影響が出ることをコメントしており、通期での売上予想を取り下げています。

また、上場している私立病院のQuorum Healthも売上減が背中を押して、破綻しています。

ただし、延期されたからといって、「病気がなくなるわけでも、手術の必要性がなくなるわけでもない」ため、次の四半期かその次の四半期に延期された手術が行われる可能性が高いと考えられます。

コロナの広まりがおさまり、正常な日々が戻った時には、私立病院も医療従事者も「今年の売上を上げるために、より長く働いて手術の予約をこなしていく」可能性が高いでしょう(米国私立病院での手術の場合、より多くの手術を行うと、より多くの報酬が支払われる場合が多いです)。

つまり、「一時的に売上は落ち込むでしょうが、需要は急回復する可能性が高い」と予想されます。

もし四半期決算で大幅に株価が落ち込むようなことがあれば、コロナによる混乱がおさまっていれば、狙い時かもしれません。

2020年通期では、外出規制が長引くと、人々が運動不足になり、ストレスも増え、生活習慣病になる人が増える可能性があります。特にアメリカはただでさえ糖尿病、高血圧の患者の人口が多い国であり、既往症がある人の悪化も心配です。

生活習慣病患者が増え、既往症のある人が悪化すると、より病院の必要性が増してしまうかもしれません。そうすると、保険会社にとっては支払額が増えるためにマイナスで、病院・製薬・医療機器メーカーにとっては、売上が上がるためにプラスになります。

また、長期的に見れば、今回のコロナの一件で州立病院への投資が進む可能性があり、患者さんの医療へのアクセスがよりよくなる可能性があります。こちらは長期的に見れば、患者さんにとっても、産業にとっても良い方向です。

米国の医療事情についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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$30目前!急騰する原油価格はこのまま上がり続けるのか?

1バレル$20であった原油の価格が、2日で$29と急騰しています。世界の石油市場に、何が起こっているのでしょうか?供給側、需要側から見てみます。

この記事を読むと、職場で最も世界の石油市場に詳しい人になり、投資にも役立つ可能性があります。

石油の供給(OPEC、非OPEC)

世界の生産量は2017年末で日量約9,300万バレルです(バレルは単位)。

原油価格を維持するためのカルテル(連合)であるOPEC (Organization of Petroleum Exporting Countries) 加盟国の毎日の生産量は日量2,600万バレルで、1月は協調減産を行い、2,470万バレルでした。つまり、OPECは全世界の石油供給の25%を牛耳る連合になります。

特にサウジアラビアは世界最大の産油国で、OPECのほぼ40%、全世界で10%の原油を生産しています。

Reference Output
Pledged Cut Output Target Jan. 2020
OPEC+に占める割合
Saudi Arabia 10,633 -489 10,144 9,733 24%
Iraq 4,653 -191 4,462 4,501 11%
U.A.E. 3,168 -156 3,012 3,034 7%
Kuwait 2,809 -140 2,669 2,665 6%
Other OPEC 5,051 -192 4,859 4,775 12%
Total OPEC 26,314 -1,168 25,146 24,708 60%

OPECと協調して、減産を行なっている非OPEC産油国というグループもあります。非OPECの生産量は日量1,600万バレルで、特に生産量が多いのはロシアです。ロシア単独で、全世界の10%以上を生産しています。

Reference Output
Pledged Cut Output Target Jan. 2020
OPEC+占める割合
Russia 10,623 -300 10,323 10,389 25%
Mexico 1,744 -58 1,686 1,712 4%
Kazakhstan 1,689 -57 1,632 1,690 4%
Other non-OPEC 2693 -99 2594 2564 6%
Total Non-OPEC 16,748 -514 16,234 16,356 40%
Total OPEC+ 43,062 -1,682 41,380 41,064 100%

つまりOPEC+は全世界の40%の日量約4,000万バレルの生産をしていますサウジアラビアとロシアの2カ国が大きく、この2カ国で2,000万バレルを占めます。

OPEC+の枠組みの中では、サウジアラビアとロシアで世界の原油生産量の半分を占めるというのは大事なポイントです。(データはBloomberg “New Decade, New OPEC Oil Curbs. Same Mixed Results”より)。

サウジアラビアはOPECの盟主として、率先して減産を行なってきましたが、そのほかの国が必ずしもサウジアラビアに従ったわけはありませんでした。特にロシアはサウジアラビアほどは減産を行いませんでした。

原油の価格が暴落したのは、「サウジアラビアとロシアが減産で合意できなかったから」と報道されています。世界で3カ国しかない日量1,000万バレルを超える生産量を占める国々のうち2つが合意できなかったことが、市場にショックを与えました。

また、OPEC+以外の産油国が残りの半分以上を産出していることもポイントです。これは、OPEC+が必ずしも世界全体の石油供給をコントロールできていないことを示します。

特に、アメリカはシェールガスを中心として毎年100万バレル以上石油の生産を増やし続けてきました。

OPECからしてみれば、「俺たちは協調減産して価格を上げようとしているのに、アメリカが生産を増やすから俺たちだけが割りを食っている」という感じでしょう。

実際、アメリカの原油産出量は2019年に日量1,222万バレル、2020年には1,300万バレルです。アメリカは実は2018年にサウジアラビア、ロシアをすでに超えて世界最大の原油生産国になっています

世界の石油生産 (Bloombergより)

供給に関して、トランプ大統領が「日量1,000-1,500万バレル削減で合意できる」と言ったことで、石油価格は$20から$29まで急騰しました。

しかしながら、サウジアラビアとロシアの二国がここまでのカットに応じることができるかはやや懐疑的です。仮に2カ国で1,000万バレル削減するとすれば、両国の生産量のほぼ半分を削減することになります

何よりも、原油産出国からすれば、「原油価格が落ちているのはアメリカが生産を増やしているためだ」という思いがあるでしょう。生産量を削減するためにはアメリカがテーブルにつく必要があります。

しかし、近年のアメリカの石油産出増加の立役者はシェールガス業者であり、彼らの採算ラインは$40-50/バレルと言われています(Reuters Oil in the age of coronavirus: a U.S. shale bust like no other)

減産に応じればさらに採算ラインが引き上がるため(価格が上がっても、販売できる量がそれ以上に減れば売上は減る)、アメリカからしても容易には減産に応じられないでしょう。

サウジアラビアの生産コストは$3/バレルと圧倒的に低いため、このまま低い原油価格を続けて、アメリカのシェールガス会社を破綻させ、アメリカの生産量を減らした方が長期的に有利になると戦略的に考える可能性があります。これは現状の低い価格を保つ動機になります。

一方、中東をはじめとする産油国は国営の石油会社に歳入の多くを頼っており、石油価格が下落すると、国債を発行しなければ(=借金をしなければ)現状の歳出を維持できなくなります。中東の王政は、お金を国民にばら撒いて国民に良い暮らしを保証する事で現在の政治体制を維持している国が多く、歳出を減らして国民の生活を悪化させると、怒りが政治体制に向く可能性があり、それを避けたいのが現状です。

現状の1バレル$30以下という水準は、どの産油国からしても国の財政を維持できない状況であり、一刻も早く石油価格を上昇させたい、という思いもあります。これは減産に同意し、高い価格に誘導する動機になります。

どちらにせよ、鍵を握るのは、他国と協調せず、増産を続けてきた、世界最大の産油国であるアメリカがどこまで踏み込むかです。4月6日のOPEC+ロシアの会談で減産で合意ができるかどうか、注目です。

[4月15日追記]

OPEC+は4月12日(日)に日量970万バレルの減産で合意しました。メキシコが40万バレルの割り当てを拒否し、減産量を10万バレルに減らしたため、当初の目標であった1,000万バレルから30万バレル少なくなりました。

この減産は5月1日から6月30日まで継続され、7月以降は770万バレルの減産になる予定です(CNBCより)

US、カナダ、ノルウェーなどの非OPEC+参加国がどこまで減産を行うかは不透明です。原油市場は、現在の原油需要に対して、この減産の量では不十分だと判断し、WTI原油価格は4月14日(火)に再び$20台まで下落しました。

今後の供給側の焦点は、非OPEC加盟国がどこまで減産に協力を行うか、特にアメリカがどのように民間業者へ減産の協力を依頼するか、です。

石油の需要

一方の需要側ですが、2017年には日量9,800万バレルが需要としてありました。石油需要は毎年平均で1.3%、つまり年100万バレルずつ増加しています(資源エネルギー庁 エネルギー白書2019より)。

需要の65%は人やモノが動く時の輸送用(ジェット燃料・ガソリン・軽油など)、12%が石油化学原料、8%が産業用、5%が家庭用、残りの10%がその他です。

つまり、人・モノが動くと石油の需要は増加し、動かなくなると石油の需要は急減します

石油の需要推移

コロナウイルスの影響で人々が移動しなくなったことにより、ジェット燃料・ガソリン・軽油といった移動用途の需要が減り、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2月の石油需要は日量420万バレル減少しました(日経新聞 「サウジ・ロシア協調できるか 原油減産に高い壁」、より)。

買う人がいなければどうなるでしょうか?そんなに簡単に、石油の供給は減らせません。すると、価格を下げてでも売ろうとする供給先が出てきます。

供給側で減産ができなかったことに加え、コロナショックにより需要が急減したことが、石油価格の急落をもたらしました。

現在の原油価格の指標であるWTI原油価格は$29と、リーマンショック時と比べても低い価格になります(トランプによる口先の介入が入る前は$20/バレルでした)。

WTI石油価格の推移

需要側の鍵を握るのは何と言っても、コロナがいつ終息するか、です。人々の空の移動ができず、外出しない状況が続けば、いくら原油の減産が行われても、価格は上がらないままです。

また、景気が悪化すると石油化学製品の需要が減るなど、産業用途の石油の利用も減るため、景気の動向も要注意です。

つまり、「コロナ危機がいつ終息するか」、「政府が介入していかに景気を維持するか」、の2つが需要側の鍵となります。

石油価格の下落が株式市場に与える影響

石油価格が$30付近で推移すると、下記のような事態が起こり得ます

  • 米国のシェールガス業者が資金繰りに困り、倒産する(すでに一社、ウィッティング・ペトロリアムが倒産しました)。
  • シェールガス業者の倒産、もしくは信用不安からジャンク債(投資不適格と格付けされている企業の社債)の価格が下落し、それらを含んでいる仕組債(CLOなど)の価格が下落。市場が混乱する。
  • 産油国が歳出を維持するために大量の国債を発行しなければならなくなり、国の国債の格付けの下落に繋がる。格付けの下落は金利の高まりに繋がり、財政を中長期的に圧迫する(最悪は利払いができずに、デフォルトする国が出てくる)。
  • 大手石油会社(BP、エクソンモービル、シェルなど)は赤字が避けられない。キャッシュを維持するため、減配、もしくは無配にする可能性が高まる。
  • 石油の仕入れ価格が減るため、火力発電を行なっている発電業者や石油を元にして製品を作っている会社にとっては増益要因。

特にエネルギー会社の株式を保有している人、投資を考えている人にとっては、石油価格の動向は来週、目が離せない展開になると思います。

米国の現在の経済状況についてはこちらの記事をご覧ください。

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2週間で1000万人失業、アメリカで今何が起きているのか

新型コロナウイルスが株式市場だけでなく、雇用と生活に与える影響が見えてきました。この2週間で、新規失業保険申請は1,000万件となり、アメリカの労働者の16人に1人が失業したことになります。

どうしてこんなことになっているのか、株式市場へはどんな影響があるのか、をまとめてみます。

リストラ・レイオフ(一時解雇)

大前提としては、日本とアメリカでは解雇規制が異なり、アメリカの方が規制がかなり緩く、解雇までの動きも早いです。

アメリカでは自由意志での雇用 (Employment at Will)ですので、即日クビになることもあります。解雇の他に、一時解雇(レイオフ layoff)という形で将来また必要があれば雇い直すよというような解雇もありますし、無給休暇 (furlough)を一定期間取得させることもあります。

つまり、企業が危機になり、コストカットが必要であれば、容赦無く雇用を切りますし、社会がそれを前提として成り立っています。

具体例をあげると、米国百貨店のメーシーズ、ノードストローム、アパレルのGapなどが一時解雇を行なっています。百貨店、アパレル、宝飾品などは消費者が外出を控えていることもあり、売上が厳しくなっています。

また、ヒルトン、マリオット、ハイアットといったホテルチェーンもレイオフを行なっています。日経新聞によれば、米国のホテル稼働率は3月の4週目で23%まで落ち、前年同期比で68ポイントも下回っています。リーマンショック時の時ですら稼働率は50%はあったとのことですので、今がいかに異常な状態かがわかります。

ホテル業界団体のアメリカン・ホテル&ロッジング協会は、米ホテルのほぼ半数が閉鎖したとみています。

現状を反映して、マリオットの株価も1月から比べて、ほぼ半値まで落ち込んでいます。

また、航空業界も国境封鎖を行う国が増えていること、感染を避けるために出張や旅行を控える人が増えていることから減便・レイオフが相次いでいます。

小売、旅行、航空、エンターテインメントなどの業界が大きな影響を受けた結果として、先週、米国では328万3000件の失業保険申請がありました。今週は660万件の失業保険申請がありました。2週間で米国の労働者(1億6000万人)の6%近い人が失業しました。

2月時点での失業者は580万人で、失業率は3.5%でした。この2週間で労働者の10人に1人が失業する国になりました

倒産

従業員のリストラだけでは済まず、倒産まで至る企業も出てきています。小売のディーン・アンド・デルーカ (Dean and DeLuka)が破産申請をしました。日本でもおしゃれなカフェや海外雑貨で好きな方がいらっしゃると思います。

ディーン・アンド・デルーカは$50m(55億円)の資産に対して、$275m(300億円)の負債を抱えていたとのことです。親会社は実はタイの会社で、Paceです。

Paceは2014年に$140mでディーン・アンド・デルーカを買収し、これまでに$200m近く資金を投入していましたが、結局米国の事業を立て直すことはできませんでした。破産するのは米国の事業のみで、他の国の事業は継続される予定です。

また、米国のシェールビジネスを営む企業であるウィッティング・ペトロリアム(Whiting Petroreum)も破産を申請しました。

主な理由はサウジとロシアの原油価格戦争と世界中でコロナの影響で原油の需要が減少していることによる、原油安で、採算が取れなくなったためです。

ウィッティングは$585mの現金がまだ手元にあり、営業を継続する予定です。今後、債権保有者は$2.2bの債権を放棄する代わりに新会社の97%の株式を受け取り、株式保有者は新しい会社の3%の株式を受け取る予定とのことです。株価は1月から滑り台のように、$8から$0.4まで一気に落ちました。

どちらの企業も債務の割合が大きく、元々の財務基盤が弱かったことに加え、ビジネスもうまくいっていませんでした。

そこに、「消費者の外出控えからの需要減少」、「原油安」が背中を押して、破産法の申請に踏み切ったと考えられます。

この2つの要因は他の小売、シェール企業も蝕むため、4月に続いて倒産する企業が出てくると考えられます

家賃・テナント料の支払い猶予とREITの大幅な価格下落

「消費者の外出控えからの需要減少」のため、ショッピングセンターなどの商業施設は軒並み全滅です。テナントとなっているお店の売上が落ちているため、テナントの一部が家賃の減免や支払い延長を求めています。

同様の動きが賃貸でも起きており、一部の賃借人がオーナーに対して家賃の支払い延期や減免を求めています。失業者が1,000万人で、そのうちの何割が家賃を滞納するのか、と考えるとかなりのリスクがあります(アメリカは4割近くの人が急な$400の出費すら用意するのに苦労します)。

Small, unexpected expenses (FRBの調査2019より)

これらの動きは、家賃収入の減少に繋がり、ショッピングセンターなどの商業施設へ投資する商業施設REIT、住宅に投資する住宅REIT、住宅ローンをまとめて証券化した商品である住宅ローン担保証券(RMBS: Residential Mortgage Backed Securities)や商業用不動産ローン担保証券(CMBS: Commercial Mortgage Backed Securities) などの価格に影響を与えます。

実際に、RMBSやCMBSで運用する米インベスコ・モーゲージ・キャピタルはRMBSとCMBSの価格下落から追証を求められ、支払いがまだできていない状態となっています。「投資適格ならばなんでも買う」状態のFRBも、連邦保証がついていない住宅ローン担保証券までは購入してくれません。インベスコの株価も大幅に下落しています。

格付け会社も容赦なくローンの格付けを落としているので、投げ売りをせまられるファンドも出てくるでしょう。

これらの動きが長期化すると、オーナーも借金の金利支払いを債権者(銀行など)にできなくなり、債権者(主に金融機関)もダメージが大きくなります。

「コロナによる外出規制がどの程度長引くか」、「失業者が家賃を支払えるような支援を政府が行なっているか」、が米国のREITと金融機関の株価に大きく影響を与えます。

配当・自社株買いの中止

HSBC、Standard Charteredなどの英銀行が英国の中央銀行からの要請を受けて、配当・自社株買いの中止を発表。

米国議会がまとめた$2t (220兆円)の景気対策についても、一部には受け取った資金を「配当・自社株買い・経営陣への高額な給与支払いに使わない」という条件が含まれていることもあり、コロナショックの影響を受け、政府や中央銀行からの支援を必要とする企業の「配当・自社株買い」が減りそうです。

特にエネルギー、小売、旅行・ホスピタリティ、金融、は高配当で株価を維持している企業も多いため、減配・無配になった時には、株価に悪影響が出ます。実際、HSBCは配当停止を発表した翌日に10%近く株価が落ちました。

要は何が起きているの?

世界規模で「企業が生き残りをかけて、現金を確保しようとしている」、のが現在起きていることです。

過去10年近く、企業も家庭のどちらも借金を積み重ねることで経済を成長させてきました。しかし、今回のコロナショックにより多くのビジネスで収入が激減したため、借金の支払いが困難になっています。また、財務とビジネスに不安のある、「低格付け」企業の資金調達の環境も大幅に悪化しました。

そのため、企業はビジネスが戻るまではコストを削ろうとレイオフ・解雇を行い、政府・中央銀行からつなぎの支援を受けるために彼らの要請である配当・自社株買いの停止、を行なっています。また、倒産も借金を整理する方法の一つですので、倒産を利用して負債を軽くしている企業も出てきています。

その結果が、失業を生んでいます。

そして、失業は悪いサイクルを回します。失業者は消費を減らしますし、他の家計も失業の不安から支出を減らそうとします。すると、これらの人々の行動が消費減に繋がり、企業の収益を減らしています。すると、さらにコストカットのために人を切る企業が出てきます。

各国で「景気対策」と称して失業者へお金を直接渡したり、雇用主に雇用を持続させるための助成金を出しているのは、失業による実際の消費減を防ぐことに加え、精神的に消費できない消費者にもお金を使ってもらい、この悪いサイクルを引き起こさないようにするためです。

3月後半から売上が落ちた企業・家計が苦しくなるのが4月であり、これからしばらくは米国の失業者数は増えることが予想されます。次の焦点は、どこまで政府が踏み込んでくるか、そしていつ失業のピークがくるか、です。

米国のコロナウイルスへの対応についてはこちらの記事をご覧ください。

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