はじめての経済:ストーリーでわかる、政府

中央銀行(日銀やFRB)の金融緩和、政府の大幅な財政支出、と連日ニュースが続きます。しかし、「そもそも経済はどのように回っているのか」は、あまり説明されたことがないのではないでしょうか。

前回の記事では、企業、家計、銀行について説明しました。

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今回は、前回の続きです。政府の役割を、わかりやすい例で説明します。この記事を読むと、経済ニュースを聞いた時の理解度が上がるかもしれません。

前回までのあらすじ

小さな100人の村に銀行ができたことにより、村のお店(企業)が投資を行い、ビジネスを拡大。

それに伴い、企業が人をより雇い、より多くを生産したことで、村の経済は豊かになりました。村の人口は100人から200人に増え、村の経済規模は月1,000万円から2,000万円へと倍増。

喜ぶ村長を尻目に突然の疫病が村を襲い、村に高熱で呼吸困難な人が増える。

村長は苦渋の決断として、村民に「不要不急の外出禁止令」を出す。これにより、村に10あるお店のうち、5つは必要なお店(クリニック、スーパー、薬局など)なので、社会的距離を保ちながらならば開けても良いけれど、残りの5つ(飲食、建設など)は不要不急ということでお店を1ヶ月間閉じることに。

5つのビジネスで働く100人の村民は、1ヶ月間、仕事がなくなり、収入もなくなります。蓄えがないので、収入が1ヶ月間なくなっては、生活できません。

お店のオーナー、従業員、銀行は大慌てで村長の所にやってきました。「村長、助けてください!」

政府の始まり:借金、税金

村長は悩みます。疫病が蔓延して村の人々の命が脅かされるのは村長として許容できませんし、同時に村民の半分の生活が成り立たず、食べるにも困ってしまうのも困ります。かと言って、村長には個人としてこれだけ多くの人を助けることもできません。

「仕方ない。お金を借りにいこう」

村長は、より豊かな隣町の町長の所へ行きました。

「町長さん、うちの村で疫病が蔓延してしまい、村の半分の人が収入が途切れて、困っているんだ。1人あたり月あたり平均10万円必要で、100人なので、1,000万円必要なのだけど、なんとか借りられないかな。疫病が落ち着いたら、村としてお金を集めて返すから」

町長は少し悩みますが、隣の村は大事な交易相手で、疫病で潰れられてしまっても困ります。「仕方ない。1年後に利子5%をつけて返してくれるならばいいよ」と言って、1,000万円を貸してくれることになりました。

村長はその1,000万円を村に持ち帰り、村民に伝えます。

「今回の疫病を皆で乗り越えるために、隣町から1,000万円を借りました。この1,000万円を、疫病のために仕事ができず、生活に苦しんでいる100人に割り振るつもりです。

ただし、これは借りたお金であり、1年後には隣町に返さなければなりません。今回、これはみんなの生活に影響することのため、今後1年間は1人当たり、毎月5,000円を集めさせてもらえないですか?」

お店が疫病の影響を受けていない村民は、毎月5,000円というお金を出すということにやや戸惑います。しかし、事態の深刻さを身を持って感じていますし、村の半分の人の生活が困窮してしまえば、最終的に自分たちのお店の売上も落ちてみんなの生活が苦しくなる、という村長の発言に納得しました。多数決の結果、賛成多数で、村長の提案を受け入れることにしました。

疫病の蔓延で仕事ができなくなった人たちは、1ヶ月の間、給与と同じ額の支援金を受け取ることができるという、村の決定に感謝しました。そして、全ての村民は、外出を控えることを可能な限り守りました。

1ヶ月の後、疫病は無事におさまりました。全ての村民は平均10万円の給与・支援金を受け取りました。200人が受け取った額は、2,000万円でした。

そして、村民が給与・支援金を受け取った時に、5,000円は自動的に「村口座」へ振り込まれました。そのため、実際に受け取った額は平均10万円ではなく、9万5,000円になりました。村民が消費できる額は、200人で1,900万円になりました。

村口座には、200人からそれぞれ5,000円が天引きされたため、100万円が振り込まれました。このままのペースでいけば、年間1,200万円が貯まるため、村が隣町へ借りている金額に利子を加えた1,050万円を返済することができます。

村長はほっと一息つきました。

今回のストーリーから学べること

ここで、今回のストーリーを振り返ってみましょう。

今回の危機で、村長は、個人を超えた、「村」という行政組織を設立しました

お店、村民、銀行だけでは、今回のような危機を乗り越えることができませんでしたが、村として外部からお金を借り入れ、村民にお金を支給することで、生活の危機に陥りそうだった村民を救い、村として危機を乗り切りました。

また、その条件として、村長は村民からお金を定期的に徴収することの仕組みを導入することに成功しました。

これらを言い換えると、村長は政府(村という行政単位)を設立し、債券(いくらを、どれくらいの利率で借りて、いつ返済するかの約束)を発行してお金を手に入れ、徴税(お金を定期的に徴収すること)の仕組みを作りました。

現実の社会とどう関係するの?

政府は個人や企業だけではできないような大胆な施策を打つことができる一方で、政府が施策を計画・実行するためには、お金が必要になります。

そのお金を政府に属する国民から得る仕組みが、徴税です。徴税を導入するのは権力者が力で行う場合もありますが、今回の村の例ですと、危機をきっかけにして「村」という単位で物事が動き始めました。

経済が大不況になった時に、政府が債券を発行して消費を増やすのは、今の社会でも行われる有力な処方箋です。コロナウイルス対策として各国が大規模な経済対策を打ち出しているのも、同じ考えに基づいています。

また、日本の例では、東日本大震災の後に、復興のために巨額の財政支出がくまれ、その後に「復興特別所得税」として所得税に増税が行われました。今回の村の例と同じですね。

もう一つ大事なポイントは、「危機の後に徴税が増えると、村民の所得が減り、消費も減る」ということです。

今回の場合のように、借金を返済するための税金は、消費を減らします。政府が税金を借金返済に回す場合、輸出が増えない限り、村の中の消費は縮小し、経済規模は小さくなります。

実は今回のストーリーの前提は、輸出(=村の外への売上)が増えないと成り立たない話です。村の中で消費される金額が1,900万円ですと、輸出がなければ、企業の売上の最大は1,900万円で、従業員の所得の最大も1,900万円になります。

1,900万円の所得から100万円の税がとられると、企業の売上の最大は1,800万円になり、従業員が受け取れる金額も減り、と繰り返していくともうお分かりですね。経済規模がする中で政府が税金を高止まりさせ、財政支出をしないと、経済規模は縮小していきます。

危機の際に借金を増やす国は多いですが、その借金がどのように処理されるか、には要注目です。

その後

早いもので、さらに11ヶ月が過ぎ、町長へ借金返済の時がやってきました。この1年間で「村口座」には毎月100万円が振り込まれたため、村口座には1,200万円が貯まっています。

村長は隣町の町長へ1,000万円と約束した利子の50万円の計1,050万円を支払いました。村口座には、まだ150万円が残っています。

村民の一部の人は、村が借金を返し終えたら1人あたり毎月5,000円を支払わなくてよくなり、より消費ができようになる、と楽しみにしています。

町から帰った後、村長は村民を集めて、借金を返し終わったことを伝えました。良いニュースを期待する村民に対して、村長は言いました。

「村として借金は返し終わりましたが、これからも月5,000円は自動的に村口座へ振り込まれます」

「なんで!!」

何人かの村人が叫びました。

続く、かもしれないです。

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投稿者: aki

アキ。東京での勤務の後、ハーバードビジネススクール(HBS)へ留学しました。卒業後は、医療の世界で働いています。現在シドニー在住。ご連絡はTwitterまで。

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