2030年、日本の社会、私たちの生活・価値観はどう変わるか

2030年の日本はどのような社会になっており、私たちの生活はどう変わっているでしょうか? 前回の「2030年までに起きる変化と、私たちは何を準備するべきか」の続きとして、日本の政治・社会、私たちの生活・価値観がどう変わるかを考えてみます。

そして、民主主義は敗北を迎えた

2015年に1億2,700万人であった日本の人口は、2030年には1億1,900万人と約800万人減少する見込みです (約▲6%)。

日本の将来人口推計(平成29年度推計) 国立社会保障・人口問題研究所より

日本の総人口は2010年代から減少を続けていますが、2020年代は減少の速度が加速します。人口が減るということは、一人当たりのGDPが伸びなければ、それだけ市場も縮小するということを意味します。

人口構成を見ると、若年層(15歳未満)は1,600万人から1,300万人に減少(▲19%)、生産年齢人口(15-64歳)は7,700万人から6,900万人(▲10%)に減少する一方、65際以上の高齢者は3,400万人から3,700万人(+10%)と増加します。

2030年には、人口の約1/3は、65歳以上の社会です。平日の昼間に街を歩けば高齢者ばかり、というのは珍しくなくなるでしょう。

さらに、国政の行末を決める投票率をみてみます。

衆議院議員総選挙の投票率-総務省ホームページより

衆議院選挙の結果をみてみると、20歳代は35%、30歳代は45%、40歳代は55%、50歳代は65%、60歳代は70%、と60歳代までは年代が上がるほど投票率が上がっていきます。

70歳以上になると、投票に身体的に行けない人が出てくるためか、投票率は60%まで落ちます。

仮に、世代ごとの投票率がほぼ変わらないままで推移すると仮定し、2030年の生産年齢人口の投票率の平均が45%、65歳以上の投票率平均が60%とします。すると、選挙で投票する人の割合で考えると、

  • 生産年齢人口: 6,900万人 x 45% = 3,100万人 (58%)
  • 高齢者: 3,700万人 x 60% = 2,200万人 (42%)

となります。つまり、人口だけで見れば65歳以上の高齢者は33%ですが、投票率を見ると40%以上の票を持つことになります

ここまで高齢者の割合が高いと、政治家が「高齢者に対して何か負担を増やすような政策を掲げて高齢者を敵に回すと、選挙で負ける」と考えるのは自然でしょう。

「選挙に勝つこと」が最大目的である政治家からすれば、高齢者層の票をいかに勝ち取るか、が鍵になります。

日本は社会保険が賦課方式(現役世代から高齢者へお金が回る方式)のため、個人が支払った分を将来受け取る、という方式ではありません。そのため、世代間で支払う額と受け取る額のバランスに差が生じます。

日本の場合、現在の高齢者が圧倒的に受け取っている額が大きいのが特徴です。

社会保障を通じた世代別の受益と負担(内閣府)より

高齢者は手厚い社会保険(年金・医療・介護)を享受する一方、現役世代は高齢化に伴う社会保障費の増加を支えるため、負担が増えていっており、現在の現役世代は受領する額よりも支払う額の方が増える予定です

また、現役世代が収入から支払う社会保障費のみならず、日本政府は毎年歳出の約30%を国債の発行により賄っています。これは将来世代からの借り入れなので、「どこかの段階で」将来世代が何らかの形で支払うことになります

つまり、現役世代は、現在の高齢者の社会保障を支えるため、将来自分たちが受け取る以上の支出をしなければならず、かつ将来借金を返さなければならない、という二重苦を負っています。

現役世代から見れば、現在の高齢者に回されている社会保障費を削減し、現役世代に資源配分するのが公平だと考えられます。

しかし、先にも述べたように、高齢者の票が持つ力が大きすぎるため、政党は踏み込んだ改革を行うことはできません。

結果として過去20年間続いているのは、「将来世代の軽視」です

民主主義は「有権者」が現在の政策を決めるシステムであるため、将来世代の利益は軽視されがちです。現在票を持っている人の発言権が強く、票を持つ層の既得権益を削ることはさらに困難です。

政党からすると「破綻するまで、できるだけ今のシステムを維持して、高齢者に満足してもらい投票してもらう」ことが基本の戦略となります。

社会保障に関して大きな改革が過去20年でなされていないのは、各政党が選挙に勝つ上で、合理的な判断を下しているからです。

この先10年で「将来世代のことも考えた政策を」と、資源の再配分を求める政党も出てくるかもしれません。しかし、半分以上の世帯が「生活が苦しい」と感じている以上、負担を増やすような政策が広く支持を得ることは難しく、そうした政党が多くの議席を取り、政策に影響を与えることは困難でしょう。

2019年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)より

この状況を是正する方法の一つとして、世代別に議員を割り当てる年代別クオーター制などが考えられます。しかし、既存の大政党にとって利益にならないため、法案として成立するのは難しいでしょう。

このように、民主主義は各世代がある程度平等に分布していれば公平な政策が実行されることが期待されますが、日本のように少子高齢化が進み、かつ世代間に大きな投票率の差があると、「現役世代が将来世代を搾取する」という公平性が損なわれた構造になってしまいます

このような環境で変化が可能になるのは、「既存のシステムが維持不可能になった時」です。それは外的な要因(例:日本が何らかの理由で国債発行すると高インフレに陥ってしまう事態や近隣諸国との戦争など)、内的な要因(クーデターや内乱で政権がひっくり返るなど)が考えられます。

既存のシステムが維持可能である限り、日本の社会保障の状況はこの先10年も変わらず、見えている問題を常に先送りし続けるでしょう。

まとめると、いつか、どこかの世代が負担を負わなければなりません。そして、残念ながら民主主義という多数派の意見が尊重される社会のもとで、大票田を持つ既得権益者層の利益を損なう政策の実現可能性は低いです。

私たちは世代間の公平性が保たれない民主主義に生きており、チリチリと鳴り続け、膨らみ続ける爆弾を次の世代に渡すことを続けています

将来に不安を抱えた社会

「所得が伸び続ければ問題ないじゃないか」、と考える人もいるでしょう。

しかし、日本の家庭の所得は、過去20年で成長どころか減少傾向です。

特に、現役世代の中間層は「伸びない所得、増える支出」で生活が苦しくなってきています。

高齢者世帯以外の世帯の平均所得は650万円前後で過去20年推移しています。

2019年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)

2019年時点での所得の平均は552万円、中央値は437万円です。

「2019 年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)より

所得が減少しているのは、複数の要因がありますが、国民負担率(租税負担+社会保障率)が上がり続けていることは大きな要因の一つです。消費税の増税、社会保障保険料の増税などで、国民負担率は10年前の37.2%から42.5%まで増加しました

額面が多少増えたとしても、税金と社会保障率の増加でほとんど相殺されてしまっている状況です。

幸いにも、地価を除き、日本は過去20年でほぼ物価が上がっていないので、多くの中間層が生活はできています。

2019年消費者物価指数(総務省)

しかし、「2030年までに起きる変化と、私たちは何を準備するべきか」で書いたように、この先10年間はAIによる人の労働の代替とアウトソーシングが進むため、中間層の職は減少し、給与にはさらに圧力がかかることが予想されます。

※「2030年までに起きる変化」はこちら。

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加えて、高齢者の割合は増え続け、現役世代は減少するため、国債発行を抑えるためには、国民負担率がさらに上がることになります。

そのため、今後10年は様々な形で、「取りやすいところから取る」の精神から、公的サービスのカットや高所得者層、中間層以上への増税が議論され、負担が増えていくでしょう。

2020年の給与所得控除の改正で負担が増える層の収入レベルが引き下げられたように、今後はどんどん負担が増える収入のラインが下がっていきます

上がらない給与、増える税金・社会保障費を予想しているためか、「老後の生活が心配だ」という不安を80%近くの国民が現在も感じており、40%は「非常に心配だ」と感じています。

前の章で書いたように、現在の政治家が取るべき最適な戦略は「現状維持」により高齢者を怒らせないことのため、この状況は2030年も変わらないか、悪化するでしょう。

「家計の金融行動に関する世論調査」(2019)より

付け加えるならば、高齢世帯は所得だけ見れば低い世帯が多いため、票田として低所得者層は重要です。よって、所得の低い世帯への支援は続くと考えられます。

2030年は、2020年現在と比べ、下記のような層の構成になっているでしょう。最も影響が大きいのは、おそらく現役で働く中間層の人たちです。

  • 高所得者層:不動産や資産運用で収入を上げながら、資産を増やして自己防衛する(海外への移住や子女を海外へ送り財産を移す人が増える)。
  • 中所得者層:所得が上がらず、負担が増え、耐えることを強いられる。
  • 低所得者層:政府から一定の補助を受けて「健康で文化的な最低限度な生活」を送る。政府からのサポートがあるため、そこまで生活は変わらない。

自分軸に沿った幸せの追求

このような未来に、人々はどのように行動するでしょうか。

所得を増やす

本業での収入が上がらないことから、「働ける人は働き続ける」、「副業をして収入を増やす」、「投資をして収入を増やす」の3本柱で、所得を増やす選択肢を取る人が現在より増えるでしょう。

「働ける人は働き続ける」は2020年現在でも続いている傾向であり、特に女性、60代の就業率は上がり続けています。

少子化で保育園に入りやすくなること、全企業に対して65歳までの雇用の義務化が2025年になされた後、おそらくさらに70歳までの雇用の努力義務が課されることで、女性・高齢者の就業率は上がり続けるでしょう。

そして、それに伴い、フルタイムではなく、週3日で働く、または1日の半分だけ働くなどの短時間勤務がより一般的になると考えられます。企業も短時間勤務を活用するような人事体系に少しずつ変わっていくでしょう。

「副業」については今はブームが始まっているように見えますが、一定以上の収入が得られる副業は、スキルと労力が要求されるため、本業のみの人が過半数でしょう。ただ、現在よりは副業を行っている人、ギグワーカーとして複数の企業から仕事を受けて生計を立てる個人事業主は増えると考えられます。

投資については、政府が「自己責任」で国民に資産の積み立てを促す方針が続くこと(NISAやiDeCoなど)、自己防衛の意識がさらに高まることから、裾野がかなり広がっているでしょう。

つまり、中間層については、「みんなが働けるだけ働き」、「自己防衛のために節税効果のあるNISAやiDeCoの投資を行う」ことが標準になっているでしょう。

「国に頼らず自分で何とかする」という国民の危機意識はより強くなっていると考えられます。

支出を減らす

2030年に多くの人が高い確率で注力するのは「いかに支出を減らすか」でしょう。

理由は、支出をコントロールするのが最も自らの努力で行いやすく、取り組みやすいことと、日本的な「倹約は美徳である」という価値観とも合致するためです。

特に、コントロールのききやすい食費、交際費、衣服費などは減らしていく家庭が増えるでしょう。これは、これらの産業の将来があまり明るくないことを示唆します。

「倹約が美徳である」ことから一歩進み、「いかにミニマルに生きられるか」と倹約を生きがいにする人も出てくるでしょう。特に若い世代で、モノを持たず、住む場所にも拘らず、好きなことをやりながら、必要最低限のモノの中で生きる、というミニマリストが増えるかもしれません。

こういった「倹約」「ミニマリスト」の生き方が広がり、YouTubeなどのメディアでスターが出てきていることが想像されます。

価値観の変化

「お金を持つのが幸せ」という価値観から、「繋がりと情熱・愛を注げるものがあることが幸せ」、という価値観に変わっているでしょう。

2030年の日本社会は、中間層に厳しい社会になる可能性が高く、中間層から上に上がることがより難しくなります。

「いくら頑張っても報われない・割に合わない」、「どうせ自分が動いても変わらない」と感じる人たちは、社会の中での価値基準に従うことを拒否するでしょう。

すると、ステータスやお金といった「社会の基準での成功」を追い求めるのではなく、「自分の価値観に沿った幸せ」を追い求める風潮になるのではないかと思います。

社会に希望が持てなくなった時こそ、身近な家族、気の合う友人、価値観があう仲間、と過ごす時間がより大切にされるようになり、繋がりをより大切にする人が増えるでしょう。

また、人々は仕事以外で「情熱・愛を注げるものがあること」を探すでしょう。それは趣味であったり、ボランティア活動であったり、ペットであったり、人により異なる対象です。

「仕事だけが人生でない」という価値観が浸透することで、「人と人との繋がり」や、「情熱・愛を注げるもの」に人は時間を使おうとするでしょう。日本人の仕事に対する価値観や時間の使い方が変化する、といっても良いかもしれません。

未来は、明るいの?

経済的な側面だけ見れば、日本の未来は明るいとは思いません。

将来世代にツケを回すやり方は政治的には合理的でも持続可能ではなく、どこかの時点の世代が対価を支払わなければならなくなります。

高い経済成長率を実現するためには移民の受け入れや教育・現役世代へ資源をより回すなどの決断が求められますが、現在の政治は「今のシステムを出来るだけ長引かせる」ことが合理的な戦略となってしまっているので、大胆な手は打ちません。このまま、小規模な打ち手を打ちながら「やってる感を出す」状態が続くでしょう。

国民は愚かではないので、そんな国の行末に不安を感じ、すでに自己防衛に動いています。2030年になる頃には「国に頼らず自分で何とかする」という自己防衛意識がより強くなっているでしょう。

一方で、社会が成長を止め、中間層の生活水準が穏やかに低下していく中で、人々は既存の価値観を徐々に変化させていくのではないかと思います。具体的には、社会的な価値(収入や社会的なステータスなど)ではなく、「それぞれの価値観に沿った幸せ」と「家族・友人・趣味を通じた繋がり」を追い求めるようになっていくのではないかと考えます。

このような方向にいけば、繋がりを大事にする、一人一人が個々の楽しみを追求しやすい社会になる、いう点で、幸せ感はむしろ上がるのかもしれません。

経済的に豊かになることを追い求めた20世紀から、精神的な幸せを求める21世紀へ。2020年代は、一つの価値観の転換となる時代になるのではないかと予想しています。

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2030年までに起きる変化と、私たちは何を準備するべきか

2020年代の最初は、新型コロナのために社会の変化が加速した年になりました。

2020年から10年前の世界を見ると「え、こんなに社会が変わったの!?」と感じるように、2030年には、今とはガラッと違った世界になっていると想像されます。変わりゆく社会の中、私たちはどのように準備していけば良いでしょうか?

結論から言えば「時間とお金を未来のために投資しておこう」なのですが、その背景を書いていきます。

2020年代に起きる技術革新

特化型AI

2020年代は人工知能(AI: Artificial Intelligence)が普及していく年代になります。

「人口知能」というと鉄腕アトムのような人型の、人間と同じような汎用型の人工知能を想像するかもしれませんが、普及していくのは特定の用途に特化した特化型AIです。

「画像認識」や「異常検知」、など特定の分野で優れた性能を発揮する機械、と言うとわかりやすいかもしれません。

特化型AIは、大量のデータを入手しやすいインターネットのサービスではすでに当たり前に使われている技術です。

例えば、Amazonのサイトを見た時に表示されるレコメンデーションの裏側で使われているのは特化型AIですし、多くの大手航空会社やホテルの販売価格も特化型AIによって最適化されています。

オフラインであっても、特化型AIが仕事の場で使われることは増えていっています。例えば、RPA (Robotic Process Automation)もその一種で、定型的な仕事を行ってくれます。

10年以上昔、僕は通信会社のアルバイトとして、携帯電話の販売店から、FAXで送られてくる手書きの契約書をコンピューターに打ち込む仕事をしていたことがあります。「画像認識をして、読み取った文字列を入力する」と言う仕事はコンピュータが得意な分野なので、今ではそういった仕事も減っているでしょう。

会議の議事録を作るとか、手書きの書類をデジタル化するとか、意外と手間がかかっている仕事はどこの会社でもあるはずです。

現在、多くの大企業が限られた範囲で特化型AIの採用を始めていますが、2030年にはほとんどの大企業でより幅広く採用されているでしょう。

半導体・高速通信規格 (5G)

AIの採用の流れを加速していくのが、半導体性能の向上の継続次世代の高速通信規格である5Gです。

5Gは高速通信・低遅延・多接続、という特徴を持ちます。5Gは人と人だけでなく、機械と機械が繋がる際に鍵となる技術です。半導体性能の向上と合わせ、街中にセンサー、通信機能、頭脳をもって動き回る機械が溢れることになります。

ドローンや自動運転もその例です。

一つ、2030年の生活の例をあげてみましょう。

空港を出て、あなたが自動運転の車で空港からホテルに行くと、人型ロボットの受付がいます。ロボットはにっこりと笑った後、あなたを顔認証でデータベースと照合して、日本人だという情報を受け取り、「チェックインが完了しました」と日本語で話しかけてきます。あなたが日本語で「部屋に爪切りを持ってきておいて欲しい」と言うと、ロボットはきちんと「わかりました」と日本語で返してきます。顔認証が鍵のため、あなたはそのまま部屋に向かいます。途中で、掃除ロボットが掃除をしているのを見かけます。部屋につき、顔認証のセンサーでドアを開けます。少し待つと、部屋から「爪切りが到着しました」と聞こえてきて、扉を開けると、ロボットが爪切りを持ってきてくれていました。

すでにHISの「変なホテル」を始めとして実装されたり、高輪ゲートウェイ駅の案内ロボなど、より多くの企業がこういった自動化ロボットを採用することで、2030年にはこれらのロボットの価格がより安くなっているでしょう。

ルンバも昔は相当高かったですが、多くの人が購入し、企業の参入が相次いだことで、今はかなり安くなりました。家庭におけるルンバと同じように、より多くの場所で、ロボットが採用されることになります。

2010年代、2020年代、2030年代

2000年代はGoogle, Amazon, Twitter, Facebookなどメディア、オンラインショッピング、人と人とがバーチャルで繋がるサービスが普及した年代でした。インターネットはまだまだパソコンが主な時代で、普及している携帯電話はガラケーで機能が限定されているものが大半でした。

2010年代は半導体性能の向上、高速通信(4G)、スマートフォンにより、いつでも・どこでもインターネットに繋がるようになりました。特に、UberやAirBnBなど、人と人がモノやサービスを交換できるサービスの普及が進みました。

また、特化型AI(レコメンデーションエンジン、顔認証など)、IoT(インターネットにつながった機械)が日常に普及し、AIが人を介さずともデータの蓄積で目的とするゴールに向けて最適化していくようになりました。

※2010年代に起きたことの詳細はこちら。

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2020年代は、機械がより賢くなり、より多くの職種でこれまで人が行っていた仕事を行うようになります。

また、機械同士で通信を行うことで、機械が連携して働く時代になると考えられます。

社会はどうなるのか

現在、AI、半導体、バイオなど最先端分野は米国と中国が覇権を争っている状態です。

欧州・日本もこの開発ゲームに参加はしていますが、実際、過去20年で新しく生まれたほとんどのデジタル産業は米国企業が先進国を席巻しています。

唯一の例外である中国はデジタル鎖国を行っており、中国企業が独占しています。

技術、企業集積の蓄積は一朝一夕では追い抜けないことと、規模とスピードが鍵となるため、2020年も巨大な国内市場を持つ米国・中国の企業が最先端分野を独占していくでしょう。

一方、2020年代が大きく異なるのは、中国が自国のサービスを海外に展開していく方針を強めていることです。

中国のサービスはインフラなどコスト競争力があることに加え(鉄道・通信など)、監視・管理技術と言う点では国家が介入しやすい作りとなっており、権威主義の国にとっては扱いやすいものになっています。

また、使い勝手で言えば、中国の企業のサービスの方が使いやすい・便利である分野も多々あります。

全部入りアプリであるWeChatなどはこれ一つで友人とのコミュニケーション、支払い、エンタメ、デリバリーができ、かなり完結していますし、これがないと中国では生活するのが困難です。

2020年が「アメリカのサービスを中心とする世界」と「中国」の2つだったのに対し、2030年には、「米国・欧州・日本をはじめとした米国の技術を主に用いる先進国群」と、「中国と中国の勢力圏にある新興国群」に世界が二分され、使うサービスも分野により二極化してくるでしょう。

良くも悪くも、中国語が英語に次ぐ世界共通言語になる日が来るのが、2020年代になりそうです。

企業はどう動くか

競争がより世界規模になっていると同時に、企業は社会が求める労働者への保護を重荷に感じるようになってきています。

1990年代より、低賃金の国に生産現場を移管させてコストダウンするというグローバル化が進んできました。

しかし、社会の目は企業の関わるサプライチェーン全体まで及ぶようになっていること、相対的に低賃金だった国の賃金が上昇を続けていることから、低賃金の国に生産を移管することが割に合わなくなってきています。

そのため、企業は機械の方が効率的かつコスト有利にこなせる仕事については、機械に置き換えていくことが想像されます。機械が得意なのは下記のような作業です:

  • マニュアル化されている、定型的な作業
  • ゴール、測定指標が明確な作業
  • 大量のデータを処理する作業

製造の現場でも、機械を用いることで先進国でも新興国と戦えるだけのコスト構造を持てるようになってきており、これは先進国での生産を回帰させる一つの要因になりそうです。

ただし先進国の製造業で雇用が増えるのは人ではなく、ロボットですが。

2020年代にさらに進むのは、サービス業におけるロボットの導入です。例えば、サービス業においても、比較的定型的な業務が多い受付などは、ロボットでも対応可能でしょう。

「4カ国語話せる」人材を見つけるのは大変でも、「一定レベルの応対が4カ国語でできるロボット」は一度に複数台導入できます。

機械に置き換わっていく

現在は機械に任せることが始まったばかりで、まだまだ価格が高く、人を雇った方が安い状態です。

しかし、機械に置き換えることが普及すると、コストはどんどん安くなります。コストが機械と人とで同じくらいになった場合、多くの企業が人を監督者として雇いながら、作業者として機械を買う・レンタルすることを選ぶでしょう

人は賃金のみならず社会保障費や採用・教育・解雇コストもかかりますし、教育してパフォーマンスを上げるのも一人一人に時間と手間がかかります。

一方、機械は文句を言いませんし、ソフトウェアのアップデートで「複数の機体の機能を一度に」上げることができます。機械は法律的な縛りなく何時間でも働かせることができますし、配置転換も容易で、さらに他の企業に売却することも可能です。

現在、海外の大手スーパーマーケットは自動レジを採用して、監督者として数人の従業員を置くようになっています。それと同様に、サービス業のレジや品出しなどはロボットが担い、人は監督者になっていくでしょう。

オフィスの仕事においても、サプライチェーンマネジメント、カスタマーサポート、経理などの仕事も過去のデータから統計的に判断できる割合が大きいため、機械で自動化されていく割合が高まりそうです。

分業が進む(アウトソーシング)

また、2020年の新型コロナで明らかになったのは、「リモートワークで多くのオフィスワークはできる」ということです。

これは異なる言い方をすれば、「世界のどこにいる人でも同様に仕事ができる」ということであり、世界での分業を促進します。

現在の「副業解禁」の延長で、複数企業で働く人が増え、プロジェクトの一部を担う「契約社員」的に副業を営む人が増えるでしょう。これは業務のアウトソーシングであり、「正社員」の雇用の減少を意味します。

また、世界を見渡せば、日本よりも低賃金で雇える優秀な人がいる国は多くあります。今は言語の壁があるために日本企業のアウトソーシングは限定的ですが、すでに自動翻訳は同時通訳がかなりの精度でできるレベルであり、言語の壁はどんどん低くなってきています。

企業の視点からすれば、世界で最適な人材に仕事を行ってもらう方が望ましいため、国境を超えてのアウトソーシングもさらに進みそうです。

人にしかできない仕事

人には人にしかできないことがあります。

  • 問題を定義し、解決すること
  • 人を動かすこと
  • 柔軟に対応すること
  • 責任を取ること
  • 決断を下すこと

問題を定義し、解決すること

特化型のロボットは与えられた課題に対して答えを出すことはできますが、課題自体を自らに問うことはしません。

「どんな社会であるべきか」とロボットに聞いても答えは返ってきませんし、理想を掲げ、そこに至るまでの課題を定義できるのは人間だけです。

また、問題点を見つけても枠を超えた解決策を考えることは、今のところ人にしかできません。

決断を下すこと

機械は定量的な判断は得意ですが、定性的な判断は苦手です。特に価値判断や複数の利害関係者がからむ状況は、機械が決断を下すには難しい状況です。

例えば、潜在的な犯罪者を見つけ出すようなシステムを考えてみましょう(シヴィラシステムのような)。

現代でこのようなシステムが開発されれば、過去の犯罪歴から潜在的な犯罪を犯す率を測定するため、アメリカであれば黒人やヒスパニックの方が潜在的な犯罪係数が高い、とみなされます。

これは、人種差別的な結果であり、「人種を価値判断の軸として用いるべきでない」、という社会の規範に反します。

つまり、「価値判断」がからむ意思決定には人が関わる必要があります。実際、人事など企業の管理職の仕事の多くは決断が求められるため、管理職の仕事は必要になります。

人を動かすこと

また、ロボットは論理的な指示はできるかもしれませんが、人はそれだけでは動きません。

人は他の人の「情熱・論理・思いやり」、に動かされて、動きます。セールスも同様で、誰かに何かを買ってもらうためには、お客さんに「買いたい」と言う気持ちを引き起こす必要があります。

人が仕事をする限り、「他の人に動いてもらって目標達成まで導くことができる人」は絶対に必要になります。

柔軟に対応すること

加えて、特化型ロボットにできないのは、柔軟であることです。

例えば受付、掃除、料理、を一人の人がこなすことはできますが、特化型ロボットでは全てを高いレベルでこなすことは困難です。

医師の診察のように、目、手、耳を使って情報を収集し、情報を統合して病気を診断するようなことも、ロボットではなかなか難しいことです。

責任を取ること

法律的に責任を取ることが求められる仕事、免許が必要となる仕事についても、人の関与が必要となります。

例えば、医療ソフトウェアが医師以上の精度で画像解析の診断を出すことができたとしても、誤診の際の責任の問題があるため、最終的な判断をする役割として医師は必要とされるでしょう。

まとめると、人が「問題を解決する」、「人を動かす」、「決断を下す」、「柔軟性が求められる」、「責任を取る必要がある」仕事は、ロボットと人が協働する時代に必要とされるでしょう。

私たちはどう対応するべきか

「中間層」は苦しくなる

このような時代が来た場合、管理職以外の中間層は苦しくなります。

現場で働く仕事では、「人間ならではの柔軟性」や「人と人との繋がり」が必要な仕事は残るでしょう。

例えば、工事現場で柱を組み立てる、地面を掘り起こして工事する、のような工事は求められる作業が複雑すぎてロボットではできません。

教師のような、「子供に質問を投げかけ、考えさせ、協調性を育ませる」、などの仕事も機械では代替できません。

人にモノを買う気を起こさせるセールスマンは、いつの時代も必要です。

一方、定型的な仕事が多い、バス・タクシー・トラックなど輸送業務に関わる人は自動運転により長期的に職を脅かされますし、製造現場でも決まった作業を行うような仕事はロボットに置き換わる可能性が高いです。

オフィスでの事務作業はどこの職場でもそれなりの割合が定型的、繰り返しの仕事です。

これらの一部または大部分がソフトウェアにより自動化されれば、必要となる人は少なくなります。

また、事務作業が国内の副業従事者または海外にアウトソースされることも今後増えていきます。

これらの影響により、

  • 中間層の仕事が減少していく
  • 中間層の給料が上がりにくくなる

ことが起きます。中間層の給料が上がりにくくなっているのは全世界的に2010年代にも起きている現象です。

この現象はさらに加速していくと考えられます。

攻めと守りの投資

これらの時代が10年後に来ることを見据えて、結論に入ります。

「人にしかできない」能力を突き詰めるのは一つの有力な道です。

「問題解決力を高める」、「リーダーシップを高める」、「決断をする力を鍛える」ことはどの仕事をするにしても、有益です。

これらの能力の重要さや伸ばし方は様々なところで書かれているので繰り返しません。これらの分野に少しずつでも時間を投資していくことが、10年後に選択肢を持てる自分になるかどうかを決めるでしょう。

これらが「攻め」としての「時間の投資」だとすると、「守り」として「資産の投資」も効果的です。

賃金が上がらないとすれば、賃金以外のところで収入を確保する必要があります。

投資は「お金に働いてもらう」という点で、資産を増やす一つの方法です。株式、債権、不動産、コモディティなど様々な投資対象がありますが、株式・債権が最も始めやすいかと思います。

株式へのインデックス投資は過去100年以上にわたり長期的にリターンを出していますし、今後100年も世界経済が成長を続けるならば、それに応じて株式の価格は上昇していくと予想されます。国債は現在は利率が低いですが、それでも銀行預金よりは高い金利です。

現在の覇権国である米国に投資するのであればどちらも特別なスキルはいらず、ただ定期的にインデックスに積み立てていくだけで良いので、多くの人が実践できます。

日本は大学を出ていたとしても、多くの人が金融教育を受けておらず、ほぼ金利がつかない銀行預金に半分以上の家計金融資産が寝ている、という不思議な国です。

金利が0%の口座に100万円を置いておいても30年後に100万円ですが、年利5%で回れば100万円は30年後に4倍以上の440万円になります。

加えて、銀行預金は利率がインフレ率よりも低いことが多く、インフレに弱いですが、株式はインフレに強いので、インフレ対策にもなります。

どちらの行動が30年後に良い結果を生むかは、明白ですし、そもそも日本の将来は若者にとってあまり明るくは見えないため、自己防衛として少額でも早いうちに始めた方が良いです。

仕事にしろ、生活にしろ、私たち一人一人が今、何に投資をするかが将来の選択肢を決めます。

想像以上に早く変わっていく社会。変わらず徐々に国際社会での地位を落としていっている日本。

そんな中で、10年後の未来に向けて、あなたは何に投資を始めますか?

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2010年代に起きた、5つの大きな変化・トレンド

投資・ビジネスを考える上で、世界がどう変わっていくかのトレンドを考慮することは重要です。2020年からの10年に何が起きるかを考えるためにも、2020年までの10年で何が変わったか、このトレンドが続くのか、を見ていきましょう。

スマートフォン:全世界が市場に

2010年代の10年間で最も大きな変化は、スマートフォンの普及、と言っても過言ではないかもしれません。

iPhoneの1号機が発売されたのが2007年です。2010年からスマートフォンの販売は急速に上昇し、2014年には12億台を売り上げました。

2015年以降、全世界で毎年15億台前後のスマートフォンが販売されています。

Number of smartphones sold to end users worldwide from 2007 to 2020 (Statista)より

中国、インドのメーカーが廉価版を販売したこともあり、2010年代にスマートフォンは世界中に行き渡りました。

先進国では、PCからスマートフォンへ移行したのに対し、発展途上国ではPCのステップを飛ばしてスマートフォンを使い始めました。

2010年代は世界中の中間層以上のほぼ全員がインターネットへのアクセスを得た、と言っても良いかもしれません。

スマートフォンは電話、カメラ、メール・インターネット、ゲーム等、2000年代ではそれぞれの用途ごとに別々に存在していた機器を全て統合し、人々の手元にもたらしました。

また、オンラインでのモノ・サービスの購入を当たり前にし、人々の購買のパターンが変わりました。

スマートフォンが普及したことによる、いくつかの業界における変化の例は以下です。

  • デジタルカメラ市場の消失(ハイエンドのアナログ・デジタルカメラ以外の需要がスマートフォンに食われました)
  • 新聞・本・雑誌の紙のメディアの衰退とオンラインメディア・ソーシャルネットワークの影響力増大
  • テレビの影響力の減少とオンライン動画メディア(Youtube, Netflixなど)の影響力増大
  • 小売の衰退(オンラインと実店舗の競争により、実店舗の小売の需要がオンラインに食われました)
  • オンラインとオフラインの融合(オンラインで事前に注文し、店舗で当日に受け取る、など)
  • インターネットサービスのPCファーストからスマホファーストへの移行
  • スマートフォンで操作できるIoTが身近になった(アレクサ、スマートセンサーなど)

2010年代に起きたこれらの変化は不可逆です。新型コロナの影響で人々が家にいる時間が伸びたことから、人々の活動におけるオンラインの比重はより増しています。人々がオンラインでの活動を増やすことは、2020年代にも戻ることはないトレンドだと考えられます。

高速通信(4G):文字から動画へ

高速通信(4G)はソフトウェアの進化を支えたインフラです。

10年前は通信速度に大きな制限があったため、インターネットのメディアはデータ量の比較的小さいテキストがベースでした。

人と人とのコミュニケーションも同様で、メールやSMSなど文字と画素の低い写真が主に用いられていました。

高速通信規格である4Gが商業化されたことにより、スマートフォンが扱える通信データの量が爆発的に増加しました。これにより起きた変化のいくつかは下記です。

  • 画像・動画をふんだんに用いたコンテンツがメディアの主となってきた(Instagram, SnapChat, TikTok, etc.)
  • 通信量のかからない、アプリを用いたコミュニケーションが主となった(Whatsup, FB Messenger, LINEなど)
  • 外出先での動画を用いてのコミュニケーションが当たり前になった(Facebook Messenger, Whatsup, Microsoft Teams, Zoom, etc.)
  • スマートフォン向けゲームがよりリッチになった

歴史的にも、通信技術の進化は新たなサービスを生み出すきっかけになってきました。

2020年代で実用化される5Gはさらに高速の通信速度を持つため、動画への流れは続くでしょう。

また、5Gの低遅延の特性は、人と人のみならず、機械と機械の通信でより真価を発揮して、新たなサービスを生むと予想されます。

シェアエコノミー:所有から利用へ

コンピューターの処理能力の向上により、クラウドコンピューティングが普及したこともソフトウェアのビジネスを変えました。

2000年代がFacebookやTwitterなど人と人とがバーチャルに繋がる、ユーザー無料の広告収益モデルのサービスが普及した時代だとすると、2010年代は下記の点で一歩進みました:

  • バーチャルにつながった人の間でモノやサービスを交換する動きが進んだ
  • 一定額を定期的に支払い利用する「サブスクリプション」が主な購入方法となり、所有から利用への移行が進んだ

個人が主に使うサービスのいくつかの例は下記です。

  • 空いている時間・場所を他者にシェアするサービス:Uber (タクシー)、Airbnb (宿泊・観光)
  • 趣味で作ったモノ・使わないモノの交換を促すサービス:Etzy、eBay、メルカリ
  • 所有から利用へ:Spotify (音楽), PS Now/PS Plus (ゲーム)

企業向けにおいても同様で、2000年代はライセンスを購入して個別のPCへインストールするのが主だったのに対し、2010年代はクラウド上にあるサービスを利用する、SaaS (Software as a service)が主なソフトウェアの購入方法となりました。

提供者側の視点からは、サービスは「販売による売り切り」から「アップデートを続けながら売り続けるもの」に変わりました。

Microsoft 365、SalesForce、Adobe (creative cloud)、DropBox,、Boxなど現在使われているソフトウェアの多くがサブスクリプションモデルです。

サブスクリプションモデルへの移行により、より顧客満足度が大事になったことから、機能の定期的なアップデートが行われるようになったと同時に、「カスタマーサクセス」、「カスタマーエンゲージメント」などの顧客満足度の最大化に焦点を置いた新たな役割が生まれました。

加えて、こうしたソフトウェアのサービスでは大量の顧客データが企業に残るため、「データサイエンティスト」などのデータを活用するプロフェッショナル職が新たに生まれました。

より多くの人々が所有よりも共有に慣れ親しんだ結果、この流れは2020年にも続くと考えられます。

独占:国家よりも影響力を持つ企業の誕生

2010年代はGAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)の時代でした。

GAFAMはそれぞれの分野でプラットフォーマーとして独占的な地位を築き、世界中にユーザーを広げてビジネスを展開し、競合を事前に買収して脅威の芽をつむことで、自らのビジネスを守ってきました。

  • Google: 検索(Google)、ブラウザ(Chrome)、アンドロイドOS/Google Play Store
  • Apple: iPhone/iPad /Apple Watch/Mac, iOS, Apple Store
  • Facebook: Facebook, Instagram, Whatsup
  • Amazon: Amazon/Amazon Prime, Amazon Cloud
  • Microsoft: Windows, Office

7月19日時点でのAppleの時価総額は$1.67t (180兆円)と世界10位であるカナダのGDPとほぼ同じです。売上高も$267b (約30兆円)と中規模の国の財政支出以上です。

GAFAMの企業の規模は並の企業では束になっても敵わず、米・中以外のテック系企業はこれらの企業の動き一つで潰されます。

世界で唯一事情が異なるのが、デジタル鎖国を行っている中国です。中国では海外のネットサービスの利用に制限があり、独自のインターネットの生態系があります。

GAFAMに対抗する軸としては中国のBAT (Baidu, Alibaba, Tencent)があり、こちらも中国のグレートファイヤーウォールの中で独占的な地位を築いています

特に、Alibaba、Tencentはスーパーアプリとも呼ばれる、「全部入り」のアプリを提供しています。

これらの2つの企業は、決済、コミュニケーション、配達サービス、病院の予約、など他の先進国では見られないほど様々なアプリが入ったアプリを提供しており、スマホを持つほぼ全ての中国人は両方、または少なくとも片方のアプリを入れています。

これは便利であると同時に、政府が情報を握っていると言う点でかなり怖いことです。なぜかと言うと、一つの企業が「あなたがいくら銀行に保有し、いくら稼ぎ、どこへ行き、何を買い、誰とコミュニケーションをとり、何を言ったかのデータを全て持つ」ことになるためです。

「一つの企業が、国家よりもあなたについて多くを知る」と言うことになりますし、悪用・またはデータが盗難されればあなたの個人情報が晒されることになります。中国の場合、法律上、BATは国家の要請があれば情報提供を断れませんし、「国家があなたの全てを必要があれば知れる」状態になっています。

先進国では、Facebook、LINEもユーザーあたりの収益性を上げるために、メッセージアプリを軸にして、スーパーアプリの方向性を目指しています。しかし、これは国家との戦いになる可能性があります。

国家は「国家をも上回る資金力と個人の情報を手に入れた企業」の脅威をようやく認識し始めました。

EUにおけるGAFAへの独占禁止法違反での調査や個人情報保護法などはその一貫であり、「巨大すぎる外国企業の活動をどう管理するべきか」は、特に米中を除く(=これらの巨大テック企業を持たない)国家のテーマになりました。

2020年代にもこのテーマは引き継がれ、国家とこれらの巨大企業の摩擦はより大きくなる可能性があるでしょう。

グローバル化:切り分けられた労働

インターネットで世界中が繋がりコミュニケーションのコストが大幅に減少したこと、自由貿易の推進により、過去十年でモノ・サービスは世界の最適地でより開発・設計・生産されるようになりました。

これは企業のサービスにおいても同じです。

例えば、2010年代に、多くの米国企業はサービスのコールセンターをインドやフィリピンなどの賃金が安い国へ「アウトソース」(企業の機能を外に出すこと)しました。また、経理などのバックオフィスの仕事も定型的な仕事(例:伝票処理)はより賃金の安い国へのアウトソーシングが進んでいます。

同時に、「機械に任せた方がコスト・品質的に良い労働は機械にやらせよう」という動きは加速しており、製造現場だけでなく、サービスの現場でも定型的な業務はどんどん自動化ソフトウェアに置き換わっています。

Amazonの先進的な工場では、ピックアップロボットが正確に、素早く荷物を倉庫からピックアップし、段ボールのラインではロボットが荷物を積めています。

国内の例では三井住友銀行はRPA (Robotic Process Automation)で定型的な業務を削減し、人件費の削減につなげました。

2010年代は、「企業内でヒトがやるべき範囲」、「企業内で機械で自動化すべき範囲」、「アウトソースすべき範囲」、という切り分けと機械の自動化・アウトソースの実行がより進みました

企業が定型的な業務をアウトソースしたいと考えたこと、求める人材の水準が上がって就職できない人が増えたこと、企業に左右されず自らの生き方を選択したいと考える人が増えたことにより、「ギグワーカー」とも呼ばれるような、企業に属さず、個人事業主として働く人が増えました。

これらの「アウトソース」、「機械による自動化」のトレンドは中間層の賃金を押し下げることになりました。結果として2010年代は、先進国で中間層が経済成長の恩恵をあまり感じられない10年となりました。

2010年代に世界中の中間層が「強いリーダー」、「変革」、「反グローバル化」を求める動きに繋がったのは偶然ではなく、このような経済的な背景があります。

2020年代は政治的には「成長」よりも「再配分」への揺れ戻しが起きるかもしれません。

しかし、企業のレベルでは「自動化」、「アウトソース」への流れは止められないため(止めると他の企業との競争に負ける)、個人の自己防衛が求められる時代になると考えられます。

まとめ:2010年代の変化・トレンド

  • 伝統的メディアの影響力減少とオンラインメディア(SNS含む)の影響拡大
  • 高速通信規格がもたらしたコンテンツの進化(仮想現実などより大容量のデータ通信が必要となるコンテンツ、機械から機械への通信など)
  • 所有から利用への流れ
  • 国家より巨大化したテック企業と国家との衝突
  • 企業で「グローバルなアウトソーシング」・「自動化」が進み、政治レベルで反グローバル化が起こった

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東京女子医大から見る、日本の病院経営

東京女子医大でボーナスを支給しない・する、看護士が大量に辞める・辞めない、などの見出しがニュースを賑わせています。しかし、東京女子医大の置かれた状況は決して特殊な例ではありません。

今回は日本の病院経営、新型コロナが病院経営に与える影響、今後の影響について書いていきます。

日本の病院経営

そもそも、日本の病院は利益率が低く、固定費の割合が高い病院が多いため、変化に弱い収益構造です。

実際、昨年の段階で日本は約半数の病院が赤字状態にありました。(特に国立・公立病院。医療法人は全体としては黒字)

新型コロナウイルス感染症の病院経営への影響-医師会病院の場合- より (N=58)

例えば、2020年7月8日に発表された、「新型コロナウイルス感染症の病院経営への影響-医師会病院の場合-」 で回答があった58の病院の平均的な収益構造をみてみましょう。

この資料によると、2019年3-5月の平均的な収益は月に3億円で、そのうち70%以上が入院、20%程度が外来からの収益です

病院によって入院・外来の比率は異なりますが、入院では手術や高額な検査をすることが多いことから、他の病院でも入院が収益の大半を占めることが多いです。

一方、支出をみてみますと、給与費で月に1.65億円と55%程度が職員(医師、看護師、スタッフなど)への給与です。委託費の2500万円の一部も外注している人件費と考えれば、人件費だけで60%を超えます。

減価償却費の5%も合わせれば、70%近くが固定費になります。つまり、病院は固定費の比率が大きい業種です。

変動費である材料費(医薬品・医療機器)は6,300万円と約20%ですが、こちらも様々な理由から特定の医薬品・医療機器の利用が求められることもあり、削ることがそこまで容易ではない費用です。

収益構造を見ると、支出カットで利益を上げようとするのが難しいことがわかります。

すると、収益を改善するためには収入をあげるために

  • 患者数を増やす
  • 患者あたりの単価を増やす

ことが必要になります。

患者数を増やすためには経営の能力が必要となります。

しかし、日本は医療法上、医師でないと病院経営ができません。医師としての能力と経営能力が必ずしも一致しないことが、日本の病院経営で赤字状態が続いていることの一つの理由です。

また、患者あたりの単価も、医療費抑制の流れからの診療報酬や医薬品・医療機器の単価引き下げの方針により、今後は下落傾向が見込まれます。

つまり、収益を増やすための環境としては、かなり苦しい内部環境と外部環境です。

収益改善のために打てる施策の具体例

打てる施策の具体例の一部は以下のようになります。基本的には、特化して、オペレーションを改善するという方向になります。病院経営に秀でた人材を採用し、それを現場レベルで落とし込む必要があるため、実行面に課題があります。

  • 特化する:全ての病院が全ての専門分野で秀でるのは困難です。むしろ、専門特化した方が、医療従事者の専門性が高まって評価が高まると同時に、生産性も高まり、経営的にもプラスになることが多いです。難しいのは「多くの科を持って欲しい」、というニーズが地域からある場合で、経営の最適化と利害関係者の意向の方向性が異なる場合も特に公立病院ではよくあります。
  • 管理スタッフに優秀な人材を配置する:多くの病院では臨床重視、経営軽視の文化が根付いており(医師が最も偉く、医師が仕入れるといった機材・医薬品・医療機器を言われるがまま仕入れる)、購入の最適化がされていません。例えば、同じベンダーに違う科から別々に発注していたりしますが、これをまとめるだけで一回あたりの発注量が増え、ディスカウントを得られたりします。ただし、医師からの抵抗があることも多いという話はよく聞きます。

他にも数多くの「定石」があります。

新型コロナの病院経営への影響

新型コロナが流行したことにより、下記のような影響がありました

  • 患者さんが病院にいくのを怖がり、外来・入院患者数が減少した
  • コロナ患者を受け入れた病院は隔離が必要となるため、部屋やベッドの利用率を下げざるを得ず、入院による収入が減少した
  • 手術を行えなくなった(患者さんからの延期の依頼、政府からの自粛要請、ベッドや医療物資確保などの理由により)ために手術の売上が減少した

これらの理由により、4月は全国の病院で平均的に収入が減少しました。

新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(最終報告)より N=1,307

5月27日に発表された、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の合同調査によりますと、昨年4月の利益率が平均して1.5%であったのに対し、2020年4月はマイナス8.6%と赤字に転落しました。

特にコロナ患者の入院を受け入れた病院は外来、入院ともに前年比10%以上の減収となっており、受け入れを行っていない病院よりも下落幅が大きくなりました。

「赤字が出ている状況で、ボーナスを出す原資がない」、というのはほとんどの病院に当てはまる状況でしょう。

東京女子医大の例は全てカットということで注目を浴びましたが、どの病院も同じような判断をしてもおかしくない状況にありました。

「赤字のために人件費を追加で出せない」というのはコロナ前でも日本の半数近くの病院が抱える課題であり、新型コロナによりさらに状況が悪化したと言えるでしょう。

今後の展開

政府は第二次補正予算案を組み、「ウイルスとの長期戦を戦い抜くための医療・福祉体制の確保」として2兆7000億円を医療機関の支援に充てることを決めました。

この資金注入により、医療機関はしばらくの間、少しは持ち堪えることができると思います。

しかし、新型コロナについても現在の抗体が長続きしないという研究結果を見る限り、私たちは新型コロナとしばらくの間は共生しなければならないでしょう。

入院・外来の減少はコロナがおさまるまで続くことが予想され、今回の支援に続いて、何らかの支援が医療機関の「倒産」を食い止めるために必要でしょうし、短期的には、また補正予算が組まれる可能性は高いと考えられます。

より深刻な長期的な課題としては、今回のコロナ危機が日本の医療機関の職場の「ブラックさ」を明らかにしたことです。

長時間勤務、上がらない待遇、感染症にさらされるリスク、の中で懸命に奮闘する日本の医療従事者はその貢献に見合った称賛を得られていないように思いますし、「割に合わない」と感じる人が増えると、医療従事者を志す若者や現役の医療従事者の減少に繋がります。これは、日本の医療業界の未来にとって悪影響です。

日本の医療を支える医療従事者の方々が報われるよう、政府の支援と病院経営の改善に期待したいところです。

なぜ新型コロナが医療機関の収益を悪化させるのか、海外の状況はどうか、についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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米大統領選:トランプvsバイデンを見るポイント

大統領選挙はアメリカ政治の一大イベントですが、世界にとっても、世界一の強国の大統領が決まるという大きなイベントですし、世界の株式市場にも大きな影響を及ぼします。共和党候補は現職のトランプ、民主党候補はバイデンです。

今回は大統領選でどちらが優勢かの現状、今後のポイントについて書いていきます。

大統領選、どちらが優勢か

大統領選はアメリカ政治の一大イベントです。11月の大統領選挙では、州ごとに集票が行われ、ネブラスカとメーンを除く州は勝者総取りです。

合計が538票のため、270票以上取ると過半数を確保できます

7月11日現在の大統領選は、バイデン(民主党)がトランプ(共和党)に対して有利に進めています。

現在、バイデンが有利に進めている州の選挙人の合計は222人、トランプが有利に進めている州の選挙人の合計は125人、まだどちらに転ぶかわからない州(スイングステート)の選挙人の合計は191人です。

RealClearPolitics 2020年大統領選より

このまま優勢の地域が変わらなければ、民主党はスイングステートであと50票を確保できれば、勝利できます。

青い地域は2016年の大統領選でヒラリー・クリントン(民主党)に投票した地域とほぼ同じです。

2016年の時にはヒラリー陣営が獲得した票は232票でしたので、現在バイデンが有利に進めている州の選挙人の合計とほぼ同じです。

4年前にはヒラリーは後述する「ラストベルト」(さびついた工業地帯)を全て落としたことに加え、フロリダ、ノースカロライナと大票田も落としたことが敗北につながりました。

2016 Presidential Election

現在、トランプが有利に進めている中部、南部の赤い州は過去30年共和党が強い地域です。また、西の沿岸部と北東の沿岸部も同じく過去30年は民主党が強い地域です。

傾向としては、都市部・沿岸部は民主党支持層が多く、郊外や農村部は共和党支持者が多いです。ニューヨーク州、カリフォルニア州、イリノイ州(シカゴ )という米国の主要な大都市は民主党です。

今後の焦点となる州

共和党、民主党ともに「岩盤地域」(支持が動きにくい地域)があるため、より自分の陣営になる可能性が高いスイングステートに選挙活動を注力することになります。2020年大統領選挙の現時点におけるスイングステートは下記の13州です。

州名 選挙人数
TX テキサス 38
FL フロリダ 29
PA ペンシルバニア 20
OH オハイオ 18
MI ミシガン 16
GA ジョージア 16
NC ノースカロライナ 15
AZ アリゾナ 11
WI ワイオミング 10
NV ネバダ 6
IA アイオワ 6
NH ニューハンプシャー 4
Others その他(メーン、ネブラスカの一部) 2

このうち、テキサス、フロリダ、ラストベルト(ペンシルバニア、オハイオ、ミシガン、インディアナ)は票数(影響力)が大きく、特に注目です。

テキサス

全米でカリフォルニアに次ぐ大きさを持つテキサスは伝統的に共和党が強い州です。2020年の選挙で38票を持つことに加え、人口増加率も高く、今後も票数が増加することが予測される、共和党にとって最も重要な州の一つです

民主党はカリフォルニアや、ニューヨーク、マサチューセッツをはじめとする北東部をガッチリと抑えていることを考えると、共和党はテキサスを失うと、2020年のみならず、将来にわたり今後大統領選で勝てる可能性が大幅に減少します。

そんなテキサスですが、アメリカに起きている変化の最前線にある地域でもあります。

テキサスでは、ヒスパニック(中南米をはじめとするスペイン語圏をバックグラウンドにする人たち)の人口増加が白人よりも早いペースで増加しており、2020年にはヒスパニックの人口が白人を超えることが予想されています

ヒスパニック・アジア系の人口増加速度は白人を大きく上回っており、アメリカの国勢調査を元にした予測では2045年には白人が過半数を割ると予測されています。

テキサスでは2010年の時点ですでに白人が過半数を割っており、2020年には最大の人口グループですらなくなる、ということでアメリカの将来を先取りしているとも言えます。

厳密に言えば、ヒスパニックは若年層の割合が多いことと、白人よりも投票率が低いため、投票する人の数で言えば2020年時点でも白人の方がまだまだ多いですが、時間が経てば立つほど白人がマイノリティになる傾向はかわりません。

アメリカという国は人種によりどちらの党を支持するかがかなり顕著に割れている国です。例えば2016年の結果を見ても、白人男性は圧倒的多数がトランプに投票し、黒人・ヒスパニックは民主党支持が圧倒的でした。

2016 Election Result by Race (青=民主党、赤=共和党)

この傾向が続けばどうなるかというと、テキサスで「ヒスパニックの人口が増えるにつれ民主党支持が増え、民主党の州となる日が来る」、ということです。

あなたが白人男性を支持者層とする共和党の大統領でしたら、どうするでしょうか?

「ヒスパニックの増加を抑制する」、「ヒスパニックを追い出す」ことで、民主党の支持者基盤を削減する、というのは一つのアイデアです。

その視点から見ると、トランプの「メキシコとの間に壁を作り入れないようにする」(=ヒスパニックの流入を防ぐ)、「移民ビザの制限をする」(=家族ビザで家族を連れてくることが多いヒスパニックの流入を防ぐ)、「ヒスパニックが多いDACA(親がアメリカに不法入国した際に連れてこられた子供たち)をアメリカから追い出す」(=ヒスパニックを減らす)、というのはこの方針に沿っています。

また、ヒスパニックは英語ができない人も相当数いるため、スペイン語だけでは「選挙人登録」しにくくする(アメリカでは住民票がないため、自ら投票用紙が送られてくるように登録する必要があります)、「犯罪歴がある人は投票できない」などと投票権を無くして投票できないようにする、なども共和党が進めたい施策です。

40票近くあるこの州を落とすと、共和党の勝ち目がほぼなくなります

さらに、現在テキサスでは新型コロナ感染が拡大したことで、現在の共和党知事のコロナ対策への不満が高まっており、結果としてトランプへの支持率が低下してきています。

トランプからしたら間違いがあってはいけない州のため、大統領選までの間で何かしらの対策が打たれる可能性が高いです。

可能性としては、エネルギー企業への支援、さらなる中南米系移民への強硬策などでしょうか。要注目の州です。

フロリダ

フロリダもニューヨークを超える人口をもち、全米第3位の29票を持つ州です。この州は過去何度も大統領選の勝敗を決める州になってきました

2000年には「民主党のアル・ゴアと共和党のジョージ・W・ブッシュがこの州の結果次第で大統領がどちらか決まる」という状況で、得票数の差が全体の0.5%以下の大接戦となり、票の数え直しが行われて、裁判まで行き、最後の最後までもつれた、というドラマが起こった州でもあります。

2016年の選挙は1.2%の差で共和党、2012年は0.8%の差で民主党が勝利、と僅差で揺れ動いている州であり、今回の選挙でも接戦が予想されます。

ヒスパニックの割合が30%と高いのですが、キューバ系移民が多く、キューバ系移民はカストロ政権に強硬姿勢をとる共和党支持の割合が高いので、必ずしもヒスパニックの割合が高いことが民主党優位に繋がっていません。

こちらもテキサスと同じく新型コロナの感染者数が増えている州になります。

現大統領のトランプの政策やリーダーシップへの不満が高まれば、それだけバイデンが有利になります。

ラストベルト

ラストベルト(錆びた帯)と呼ばれる製造業が強い地域は揺れ動く州(PA、OH、MI、IN)であり、合計65票になります。

これらの州は製造業比率が比較的高く、「生活水準が上がらず不満が募る白人製造業従事者」が多い地域です。

民主党は、2016年の大統領選では事前の予想ではヒラリーが大きくリードしていたためにこれらの州を十分に重視していませんでした。結果として、「隠れトランプ」とも呼ばれたトランプ支持者が多く投票所に足を運び、ヒラリーはラストベルトを全て落として、敗因に繋がりました。

トランプは再戦を確実にするため、「TPPからの脱退」、「NAFTAの見直し」、「製造業のアメリカ回帰の推進」といった、「生活水準が上がらず不満が募る白人製造業従事者」向けの政策を過去4年で行ってきました。

民主党は4年前の反省を活かし、これらの州を奪還することを目指しています。

バイデンは$400b (44兆円)を製造業に投資するという政策案を出していますが、これは主にこのラストベルトの票を狙ったものと考えられます。

バイデンの政策案に対して、トランプは「これは自分の案でバイデンが盗用した」とコメントしています。どちらもラストベルトの票が2020年の大統領選で重要であるということが背景にあります。

まとめ

大統領選挙はアメリカ政治の一大イベントですが、世界一の強国の大統領が決まるという、世界にとっても大きなイベントにもなります。

テキサスの結果は今回の大統領選のみならず共和党の将来を左右しますし、フロリダがどちらにふれるかは大統領選の結果を左右します。

ラストベルトはどちらの候補も注力しており、今後数ヶ月で製造業向けの政策案が飛び交う接戦になることが予想されます。政策によっては、NAFTAの見直しのように貿易に大きな影響を与えます。

ざっくりとでもアメリカの大統領選の仕組み、どの州がポイントか、の知識があると、それぞれの候補が「どのような層に向けて、何を、どんな目的で発言しているのか」がわかり、よりニュースがわかるようになります。

今回の記事が、2020年の大統領選でどんなポイントがあるのか、を知るきっかけになれば嬉しいです。

参考図書:

  • 大石格 「アメリカ大統領選 勝負の分かれ目」(日本経済新聞社)
  • 西山隆行 「アメリカ政治講義」(ちくま新書)

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ノヴァヴァックス(NVAX)の株価はどうして30%近く急騰したか?

ノヴァヴァックス(Novavax)がアメリカの「オペレーション・ワープスピード」に採択されたことにより、株価はプレマーケットで30%近く上昇しています。

今回の記事を読むと、オペレーション・ワープスピード、ノヴァヴァックス、他のワクチン銘柄への影響についてわかります。

オペレーション・ワープスピード

オペレーション・ワープスピード(Operation Warp Speed)は「2021年1月までに3億人分の新型コロナ向けワクチンを生産する」ことを目指した米政府のプロジェクトです。

米政府はワクチンの開発、生産、流通企業に対して投資と有形無形のサポートを行うことで、この目標を達成しようとしています。主要な政府機関が一丸となったプロジェクトであり、一言で言えば、新型コロナに対するアメリカの「総力戦」プロジェクトです

OWS is a partnership among components of the Department of Health and Human Services (HHS), including the Centers for Disease Control and Prevention (CDC), the Food and Drug Administration (FDA), the National Institutes of Health (NIH), and the Biomedical Advanced Research and Development Authority (BARDA), and the Department of Defense (DoD). (HHSホームページより。要は総力戦)

予算総額は$10b (1兆1000億円)と巨額の国家プロジェクトです。そのうち、$6.5bはBARDAを通じてのワクチン・治療薬の開発・生産に、$3bはNIHに割り振られています。

これまでオペレーション・ワープスピードでは、ワクチンの「開発」には3社に対しての支援が発表されていました。その3社とはJ&J、モデルナ(Moderna)、アストラゼネカ(AstraZeneca)です。Novavaxは4社目となります。

支援額 (m$) 7/7現在の進捗 メモ
J&J $ 456 フェーズ1/2準備中
2021年に10億本生産予定
Moderna $ 483 フェーズ3準備中
FDAの優先審査付。フェーズ3は7月後半より
AstraZeneca $ 1,200 フェーズ3進行中
3億本のワクチン供給含む。フェーズ3は8000人登録済み
Novavax $ 1,600 フェーズ1/2進行中
1億本のワクチン供給含む。フェーズ3は秋を予定
合計 $ 3,739

製造ではEmergent Biosolutionsが選ばれており、ワクチンの製造能力拡大のため、$628mの支援を受けています。

この他にもワクチン開発企業としては、Pfizer(ファイザー)/BioNtech(バイオンテック)、Sanofi(サノフィ)・グラクソスミスクラインなどがありますが、これらの企業が今後選ばれるかはわかりません。

これまでに発表された支援の合計がまだ$4.4bであり、予算の$10bの半分すら消化されていないため、今後も他の企業が支援を受ける可能性は十分あります

ノヴァヴァックス

ノヴァヴァックスは研究開発段階の製薬会社です。

インフルエンザワクチンをはじめとした5つの製品に対して、6つの治験が走っています。そのうち、2つのワクチンはすでにフェーズ3の試験を行っています。

Novavax pipeline

モデルナ、バイオンテックと同じく、まだ承認された製品がありません。

株価は新型コロナ向けワクチンへの期待によって大きく上昇しています。

今年の初めから考えると$7から$70超えとすでに10倍株でしたが、今回の発表を受けて、さらに株価は上昇し、15倍株になろうとしています。

ノヴァヴァックスのワクチン候補(NVX-CoV2373)は5月より健康な18-59歳の男女130人を対象に、フェーズ1/2を行っています。中間結果が7月末までに発表される予定です。

結果をみるまではこのワクチンが有望かどうかはまだわかりませんが、「オペレーション・ワープスピード」に採択されたことから、現在までの結果は悪くないのでしょう。

ノヴァヴァックスは秋に30,000人を対象としたフェーズ3の試験を行う予定です。こちらは先頭を走るアストラゼネカ、モデルナ、ファイザー・バイオンテックと比べると2-3ヶ月後に結果が出ることになります。

他の銘柄への影響

ワクチン業界は、メルク、サノフィ、グラクソスミスクライン 、ファイザーの4社のほぼ寡占状態であり、これらの企業が豊富な経験と製造技術を保有しています。

一方、ノヴァヴァックスはこれまでにワクチンを商業化させた実績のない企業です。オペレーション・ワープスピードに採択されたことは大きな成功ですが、臨床的な成功とは無関係です。ワクチンに有効性、安全性が求められる以上、結局は「フェーズ3の結果がどれだけ良いか」が鍵を握ります。

現在、10を超えるワクチンの臨床試験が走っており、どの企業も国からの支援を受け、数億本の生産能力を事前に確保しようとしています。

つまり、フェーズ3の結果が良い企業が複数出てきた時には、人類にとっては望ましいことですが、他の銘柄にも影響を及ぼします。特に臨床試験の進捗で先頭を走るアストラゼネカは少なくとも最初の20億本はほぼ無利益でワクチンを提供することを決めているので、市場に悪影響を与える可能性が高いです。

フェーズ3が7月に開始し、進捗が発表されるのは最速でも8月以降からと想定されるため、8月はワクチン関連のニュースがテレビ・新聞を賑わしそうです。

mRNAベースのワクチンを開発している他の企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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アストラゼネカのワクチンに関する記事はこちらです。

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アストラゼネカ(AZN) 新型コロナ向けワクチンの市場破壊

新型コロナ向けワクチンの開発と臨床試験が加速しており、米国、欧州、中国の製薬会社が一番手をめぐり競っています。英アストラゼネカ(AstraZeneca)は先頭を走る企業の一つです。

今回は、ワクチン市場、アストラゼネカのワクチンの開発と治験の進捗状況、そして他ワクチン開発企業への影響、の3点をみていきます。

ワクチン市場

Market Research Reportによれば、ワクチン市場は2018年で$41.6b(4兆5000億円)で、年率10%以上の成長を続け、2026年までに$93b(10兆円)まで拡大すると予想されています。

ワクチンは人口拡大、ワクチン普及率の上昇、新たなワクチンの発売に伴う需要喚起、により市場が安定的に拡大していっています。

一方、ワクチンは製薬の中でも大変な分野です。健康な人を対象とするために、リスク便益の観点から、安全性への要求が治療薬よりも厳しくなります。また、長期での安全性が求められるため、治験もその分長くなります。

また、ワクチンの種類にもよりますが、ウイルスの遺伝子組み換えにより作られるワクチンなどは生産にも高い技術力が要求され、大量生産のハードルも通常の低分子薬の生産よりも高くなります、

つまり、ワクチンは開発・生産に多額の資本と高い技術が必要であり、参入障壁が高い(参入しにくい)分野であると言えます。裏を返せば、一度ワクチンを発売してしまえば新規参入が入ってきにくいため、稼ぎ続けることができます。

例えば、世界最大のベストセラーワクチンであるPfizerのPrevar 13は肺炎球菌向けのワクチンであり、市場を長年ほぼ独占しています(2015年でシェア75%以上)。

売上は2010年の$2.4bから順調に拡大し、2019年には$5.8b (約6,000億円)の売上です。今ではファイザーの製品の中で最も売上の高い製品の一つになっています。

WHOのGlobal vaccine market reportによると、ワクチンの価格は$1-$50と大きく幅があり、新しく販売されるワクチンほど価格が高くなる傾向にあります。

同資料では、Prevnar 13の平均販売価格は$48程度と推定しています。つまり、高い価格の部類です。

ファイザーのPrevnarは独占状態をいかして高い値付けにし、高い売上と利益率を享受している一つの例です。

AstraZeneca(アストラゼネカ)のワクチン

英AstraZenacaはOxford(オックスフォード大学)と組んでワクチンを開発しています。現在、治験が行われているのはOxfordのワクチングループが開発した組換えアデノウイルスを用いたワクチンです(AZD1222)

新型コロナ向けワクチンでは最も開発状況が進んでいる一社です。6月よりフェーズ3(最終の大規模な治験)に入っており、8,000人が登録済みです

アストラゼネカはすでに米国、英国、欧州とワクチン提供の契約を行っています。

  • 米政府機関BARDAより$1b (1,100億円)の開発援助を受けた。4億回分をUS/UKに (US 3億、UK 1億 – FIERCE PHARMA)
  • 欧州(ドイツ、フランス、イタリア、オランダ)に4億回分を「利益なしで」提供(AstraZeneca Press Release)
  • ワクチンをCEPI、Gavi, the Serum Institute of India (SII)を通じて新興国に提供. CEPI、Gaviに3億回分を$750mで販売($2.5/回)。
  • SIIは10億回分を新興国向け(主にインド)に提供し、そのうち4億回分を2020年末までに提供する

すでに契約されているワクチンの量だけでも、20億回分を超えます。加えて、4億回分を2020年末までにワクチンを供給することを約束しています。

アストラゼネカはこのワクチンを利益0で提供する方針です。

ワクチンを利益0で提供すること自体は非常に世の中のためになっていますし、公益性の観点から望ましい行動です。

アストラゼネカにはワクチンで売上がなくてもやっていけるだけの企業体力と、評判・ブランド力を高めて他の製品を売るという動機があります。

一方、利益目的で研究開発を行っている他のワクチン開発企業からしたらたまったものではありません。市場を壊す、自爆テロのようなものです。

ワクチン銘柄への影響

具体例で考えてみましょう。モデルナ、バイオンテック・ファイザー、は同じくフェーズ3の試験を7月に始めようとしています。アストラゼネカの方が若干治験で先行しています。

仮にアストラゼネカの治験でワクチンの有効性・安全性が確認され、アストラゼネカが2020年末に「$2.5/1回」のワクチンを政府向けに提供したとしましょう。

すると、類似する製品がないため、世界ではその価格が一つの物差しとなります

後続のモデルナ、バイオンテック・ファイザーからすると、本当は1回$30 x 2回で計$60などの価格をつけたかったとしても、それを行うと「アストラゼネカの20倍なのか」、「こんなに大変なパンデミックの時に暴利を貪るのか」という社会からの批判が予想されますし、競争の観点からも、あまりに高い価格をつけるのが難しくなります。

また、有効性・安全性での差別化を行うためにはある程度長い期間のデータが必要となりますが、今年の末発売のワクチンですとどのワクチンも半年程度のデータしか入手できません。

よって、データで優位性を強調するのもやや難しくなります(通常必要となる1年後の安全性・有効性すら確認できないため)。

加えて、モデルナ・バイオンテックのワクチン手法であるmRNAは壊れやすいために低温保存が必要となり、その分流通コストが高くなります。アストラゼネカのワクチンと同じ価格をつけると赤字になる可能性大のため、同じことはできません。

アストラゼネカは主要な市場(米、西欧)に安価でワクチンを提供する契約をすでに結んでいます。

つまり、「アストラゼネカのワクチンの成功は他のワクチン開発企業にとって最大の脅威」になる可能性が高いです。

ワクチン銘柄に投資をしている場合、その銘柄の臨床試験の結果のみならず、アストラゼネカの臨床試験のニュースにも注意を払っていた方が良いかもしれません。

mRNAベースのワクチンを開発しているもう企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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バイオンテック(BNTX) 欧州のワクチン期待の星

新型コロナが猛威を奮い続け、世界中がワクチンを待望しています。そんな中、バイオンテック(BioNTech:BNTX)・ファイザーがワクチンの臨床試験の中間発表を行いました。相場全体にも影響を与えたこの発表、いったいどんな内容だったでしょうか?

この記事を読むと、バイオンテック、治験の結果、今後の展開、最短でいつワクチンが出るか、がわかります。

バイオンテック(BioNTech)

バイオンテック(BioNTech)はモデレナ(Moderna)と同じく、研究開発段階のバイオ製薬企業です。本社はドイツにあります。

mRNAという「どのタンパク質を作るか」の情報を持ったRNAに特定のタンパク質を作らせる情報を乗せることによって、様々な病気の治療に適用することを目指しています。

現在は11の製品が臨床試験に入っていますが、ほとんどがフェーズ1という、人を対象にした臨床試験のはじめの段階です。

バイオンテックの主なターゲットはガン・感染症です。新型コロナに対しては、BNT162がワクチン候補にあたります。

バイオンテックはファイザー(Pfizer)と中国以外のワクチンの開発と製造で提携しており、中国については中国企業のFosun Pharmaと提携しています。

バイオンテック・ファイザーのワクチン試験結果

バイオンテックが用いるワクチンは、mRNAを用いる方式です。

これまでmRNAを用いたワクチンはありませんでした。

実績がないため、「mRNAを用いて本当に有効なワクチンができるのか」、「安全なのか」、が疑問点でした。この疑問に対して、フェーズ1・2の試験が行われました。

バイオンテックがファイザーと共同で行ったフェーズ1・2の臨床試験の枠組みは以下です

  • ワクチン候補名:BNT162b1
  • 治験の実施期間:5/4/2020 – 6/19/2020
  • 治験の参加者:19-54歳の健康な男女
  • 45人のランダム化試験(12人が10ugを中3週間空けて2回接種、12人が30ugを2回接種、12人が100ugを1回接種、9人が偽薬(プラシボ)を2回接種)

発表された中間結果の要点は以下です

  • ワクチン接種した人に、新型コロナから回復した人以上の抗体が観察された (10ugで1.8倍、30ugで2.8倍)
  • 副作用は疲労感、頭痛、寒気など。深刻な副作用はなし
  • 今後の用量は10ug-30ugの間の2回接種で検討

参考資料:Mulligan et al (2020) “Phase 1/2 Study to Describe the Safety and Immunogenicity of a COVID-19 RNA Vaccine Candidate (BNT162b1) in Adults 18 to 55 Years of Age: Interim Report“, MedRxiv

一言で言えば、ポジティブな結果です。

今回の中間報告では最初のワクチン接種から35日間までで、急性の深刻な副作用は観察されませんでした。これは安全性という点で良い知らせです。

次に、「新型コロナの症状(COVID-19)から回復した人以上の抗体が観察された」、というのも良い知らせです。mRNAを用いたワクチンからも抗体がきちんと形成されることを、この中間結果は示しました。

しかし、今回の試験の結果はまだまだ序の口にしか過ぎません。

今後、臨床試験で確かめられるべき項目

今回の結果はあくまでも「中間」報告です。

今回の臨床試験(フェーズ1・2)の追跡とフェーズ3の大規模臨床試験で下記の点がデータで示される必要があります

  • 中長期の安全性(特に半年後、2年後までの安全性)
  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、そもそも抗体が機能するか
  • 抗体が機能する場合、ワクチンで増加させられた抗体の増加がどの程度持続するか。
  • ワクチンを接種した人がコロナにかからなくなるか
  • 高齢者にも用いることができるのか

「新型コロナが体内でどう働くのか」、「私たちの免疫がどのように新型コロナに反応するのか」などまだわかっていないことが多く、今回の中間報告の「抗体が増えた」というだけでは効果があるとは断定できません

ウイルスの中には私たちが抗体を持っていても抗体をすり抜けて増殖するものもありますし、抗体のレベルによっては再感染することも十分にあり得るためです。

そのため、フェーズ3の結果が出るまでは、バイオンテックのワクチンが機能するかどうかはわかりませんし、これはどのワクチン候補についても当てはまります。

最短でいつ、どれくらいワクチンができるのか

新型コロナのワクチンを審査する際のガイドラインをFDAが6月30日に公開しました。

一言で言えば、「新型コロナのワクチンがいくら緊急で必要だとしても、安全性・有効性をきちんと審査をするよ」。

真っ当な内容です。

「選挙前までに承認しろ」という政治からの圧力が相当にあったことが容易に予想されるため、圧力に屈しなかった点は評価されても良いでしょう。

過去に「インフルエンザワクチンの承認を急いで、結果的に副作用が出て、FDAが叩かれた」という歴史の教訓です。

最短でいつワクチンが出るかを考える上で重要なのが下記の部分です。

Serious and other medically attended adverse events in all study participants for at least 6 months after completion of all study vaccinations. Longer safety monitoring may be warranted for certain vaccine platforms (e.g., those that include novel adjuvants).(少なくともワクチン接種から6ヶ月後の間に起きた重篤な副作用のデータを、安全性の証明として要求する)

つまり、フェーズ3の大規模試験に参加した人の6ヶ月先のデータを得るまで、米国のワクチンの認証はおりない、ということです。

現在、ワクチン開発の先頭を走るモデルナのフェーズ3が始まるのですら7月ですので、データが集まるのはどんなに早くとも来年1月。

そこからデータの収集・分析、FDAへの提出、FDAの審査、というプロセスがあるため、どんなに早くとも最初のワクチンのFDA認証がおりるのは来年1月後半でしょう。

バイオンテック・ファイザーも7よりフェーズ2b・3を始める予定ですので、モデレナとともに先頭を走っています。(BioNTech Press Release)

プレスリリースによると、バイオンテック・ファイザーは2020年末までに1億人回分、2021年末までには12億回分のワクチンの生産ができる見込みです。

バイオンテックの株価

BioNTech Stock Price

バイオンテックはコロナ前までは$40程度でしたが、現在は$64まで急進しました。

時価総額で言えば、$14b (1兆5000億円)ですでに中堅のサイズです。ただし、モデレナの$24b (2兆6000億円)と比べれば60%程度です

どちらの企業もmRNAをベースにしたワクチンを、同じような程度のスピードで開発しており、新型コロナ向けワクチンへの期待で株価が上昇しています。

新型コロナ向けのワクチンがどれだけの価値があるのか、は価格、数量、有効期間、バイオンテック・ファイザーの取り分の割合、競争環境、など変数が多過ぎて予測が難しいですが、仮に下記のような仮定を置いてみます。

  • 2回の接種が必要で、合計$40
  • ワクチンは1年間有効(インフルエンザのように毎年打つことが必要)
  • バイオンテック・ファイザーの取り分は50:50
  • 毎年7000万人が接種する(米国、西ヨーロッパの10人に1人)

以上のような条件であれば、$40 x 50% x 7000万人 = $1.4b (1,500億円)が毎年の売上になります。このくらいの売上が毎年上がるのであれば、1月からの上昇分は正当化できそうです。

人類が新型コロナを気にせず生活するためにはワクチンが必要であり、バイオンテック・モデレナともにその先頭を走っています。相場全体に影響を与えるという点でも、目が離せない企業の一つです。

mRNAベースのワクチンを開発しているもう一つの企業、モデレナ(Moderna)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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