意思決定単位 (DMU) – 企業向けにモノやサービスをどう売るか

marketing eye catch

前回の「基礎からのマーケティング-購買行動モデル」では、お客さんが商品・サービスを購入するまでのプロセスを説明しました。小売店で販売されている飲料など、その場ですぐに意思決定がされる場合にはこの購買行動モデルがよく当てはまります。

一方、企業向けの商品・サービスの場合は、複数の人が購買のプロセスに関わってきて、購買のプロセスも長くなります。今回は、複数の人が意思決定に関わってくる場合に重要な意思決定単位という考え方について説明します。

意思決定単位(Decision Making Unit – DMU)

意思決定単位 (Decision Making Unit – DMU)とは意思決定をする人、または意思決定に関わる人たちをひとまとめにした考え方です。DMUは顧客の意思決定がどのように行われるのかを理解し、顧客の意思決定プロセスに効果的にはたらきかけるために使われます。

どうしてこの意思決定単位の考え方が重要かというと、複数の人が購入に影響を及ぼすためです。意思決定単位の中には、下記のような種類の人が存在します。

  • 窓口 (Gatekeeper):外との窓口になる人
  • 購買人 (Buyer): 価格などの条件の交渉相手となる人
  • ユーザー (User): 実際に商品・サービスを利用する人
  • 起案者 (Initiator): 内部で提案を起案する人
  • 影響者 (Influencer):意思決定者の選択に影響を与える人
  • 意思決定者 (Decision Maker):最終的に購入を決定する人

モノやサービスを販売する際に、意思決定単位はの考え方は誰がどのような役割を持っているのかを判断するのに役立ちます。

DMUの具体例:仮想的なケーススタディ

Aさんは外資系パソコンメーカーB社の法人営業部に務める営業です。Aさんの会社は会社用のパソコンを中堅自動車部品会社C社へ売りたいと思っており、C社のお問い合わせ窓口に打ち合わせ依頼の問い合わせを入れました。

Aさんは、C社のカスタマーサポートから、「関係する部署に連絡し、その部署より連絡させていただきます」という返答がきました。カスタマーサポートはAさんからの問い合わせを購買部署に繋ぎました(カスタマーサポート=窓口の役割)。

購買の担当者であるDさんは、ちょうど今年の予算を使ってエンジニア向けのパソコンを買う提案をしようと考えていたため、Aさんからの打ち合わせ依頼をみて、Aさんに打ち合わせを承諾するメールを送りました(購買担当=起案者の役割)

打ち合わせの前に、購買担当は要求される仕様を確かめるため、エンジニアにどの程度のパソコンの性能が要求されるか、何が重要か、などをインタビューしました。複数のエンジニアが、開発に必要なソフトウェアがサクサクと動くことや、外出先でも働きやすいような軽量のノートパソコンが欲しいことを伝えました(エンジニア=ユーザーの役割)

購買担当がIT部門に話を聞いてみると、セキュリティがとても重要で、B社よりもE社のパソコンの方がセキュリティ的にいいのではないかと言っています。それを聞き、購買担当のDさんはE社からも相見積もりを取ることにしました(IT部門=影響者の役割)。

Aさんと購買担当Dさんは打ち合わせを行い、Dさんは予算内におさまるよう、希望する価格についてもAさんに伝えました。Aさんはどうしてもこの案件を取りたかったため、Dさんから聞いた要求仕様、価格を元に提案書を作り、Aさんの上司を説得して、かなり値引きをした提案をDさんへ送りました。

C社では毎月一度、部長クラスの偉い人が集まり、意思決定をする場があります。DさんはAさんからの見積もりとE社からの見積もりの両方を含めたパソコンの購入についてプレゼンテーションし、決裁を求めました。討議の末、事業部長が選んだのはAさんからの提案ではなく、なんとE社の提案でした。理由は、多少の価格差よりもセキュリティがより安心できる方が重要だと事業部長が判断したためです(事業部長=意思決定者の役割)。

提案が通らなかったことをDさんから聞いたAさんはがっかりし、どう上司に説明しようかと途方にくれるのでした。

DMUの使い方

上のケーススタディでは、Aさんは残念ながらC社の意思決定のプロセスや意思決定に影響を与える人を十分に理解できていなかったため、契約を得ることができませんでした。

もしAさんがDMUの考え方を知っていたならば、どうアプローチが変わっていたでしょうか? 

意思決定者は誰なのか、どのようなプロセスで決まるのか、事業部長が何を重視しているのか、意思決定に影響を与える人が何を重視しているのか、などの質問を購買担当者のDさんにすることはできたでしょう。また、より良い提案を行うために、とユーザーやIT部門の人とのミーティングを依頼することもできたかもしれません。

これらを行うことにより、意思決定者が価格よりもセキュリティを重視していることを知ったのであれば、提案書にはセキュリティを強化するパッケージを追加するなど、対応策が取れた可能性があります。

このように、意思決定に関係する人がどんな利害を持っていて、どの人を動かせばどのように意思決定に影響を与えられるのか、を理解することによって、特に企業向けビジネスの世界では勝率を大きくあげることができます。また、家族向けでも車や家は家族ぐるみでの意思決定となることが多いため、DMUの考え方はお客さんの意思決定のプロセスを理解するのに役立ちます。

顧客理解の次のステップ

今回までの3回で、お客さんへの理解を深める考え方を紹介してきました(「お客さんが欲しいと思う5つのこと」、「購買行動モデル(AIDMA/AICEAS)」、「意思決定単位(Decision Making Unit)」)。お客さんを理解したら、次はどのお客さんを狙うか、です。

次回はマーケティングの基本となるセグメンテーションについて説明します。

>>次の記事 セグメンテーション | なぜ必要か、どうやって行うかを具体例付きで解説

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投稿者: aki

アキ。東京での勤務の後、ハーバードビジネススクール(HBS)へ留学しました。卒業後は、医療の世界で働いています。現在シドニー在住。ご連絡はTwitterまで。

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