タカラレーベンインフラ: 決算・株価・配当金分析

インフラファンドの第一号であるタカラレーベンインフラ投資法人は太陽光発電を中心とした、6%程度の安定した配当が見込める銘柄です。今回はこの投資法人の決算を元に、銘柄の分析を行います。

この記事は安定して高配当を受け取りたいと考えている人にお勧めです。

インフラファンドとは

インフラファンドとは太陽光などの再生可能エネルギーを用いた発電設備に投資を行う投資法人の総称です。

インフラファンドが投資を行う対象となる太陽光発電設備は、固定価格買取制度(FIT)という国の制度に支えられており、20年間の間、固定した価格で電力会社が太陽光発電業者が発電した電気を買い取ってくれます。

そのため価格下落の心配がなく、毎年同じ量の発電ができれば、同じ金額を受け取ることができる仕組みになっています。

また、食料品や電化製品などの消費財と異なり、電気は一般的な国民の誰もがが継続的に使い続けるものですので、需要も安定しています。

インフラファンドはこのような国の制度によって守られていることから、10年以上先まで収益の予想が立っており、安定した配当が予想できる投資先です。例えば、いちごグリーンインフラはかなり先までの配当金の予測を出しています。

いちごグリーンインフラの配当金予定

現在では7銘柄が上場しており、これらのファンドの値動きをまとめた東証インフラファンド指数という指数も2020年4月2日より誕生しました。

東証ファンド指数(日本証券取引所ホームページより)

価格は2020年10月に急騰した後、現在は1,120から1,170までのレンジを推移しています。

市場としてはまだまだ小さく、この指数に連動したETFも2021年3月現在はありません。市場の黎明期と言っても良いかもしれません。

タカラレーベンインフラ投資法人

インフラファンドの中でのタカラレーベンインフラ投資法人(以下、タカラレーベン)の特徴は、安定したキャッシュフローです。

インフラファンドはどのファンドも保証されている最低賃料+実績連動賃料、と実績により収益が変動する仕組みになっています。

その中でもたタカラレーベンインフラは最低賃料の水準が高く、実績連動賃料の部分が小さくなっているため、その分賃料が安定しています

例えば、2020年11月期の決算では、利益分配金のうち、実績分が占める割合は10%以下です。つまり、どんなに発電量が少なくとも、収益の90%が保証されています。

タカラレーベンインフラ10期決算

また、タカラレーベンは7社の中でも、分配金に占める利益の割合が多く、分配金のキャッシュフローに占める割合も60%と低いです。

決算 2019/5 2019/11 2020/5 2020/11
1株あたり利益 ¥3,486 ¥3,067 ¥3,580 ¥3,364
1株あたり減価償却費 ¥4,092 ¥4,099 ¥4,411 ¥4,403
1株あたり利益+減価償却費 ¥7,577 ¥7,166 ¥7,992 ¥7,767
1株あたり支払利息 ¥351 ¥359 ¥485 ¥469
1株あたり簡略化キャッシュフロー ¥7,226 ¥6,807 ¥7,507 ¥7,298
分配金 ¥3,826 ¥3,397 ¥3,870 ¥3,512
分配金/キャッシュフロー 52.9% 49.9% 51.6% 48.1%

太陽光発電は太陽が出ている日照時間により発電量が変わるため、前年同期比で比較する必要がありますが、1株あたりの利益は2020年は2019年と比較しても前年同期比で増加しています。

タカラレーベンの戦略

タカラレーベンは毎年増資を行い、得た資金を元に新しい太陽光発電所を取得し、規模を増加させていくことを戦略にしています。規模としては131MW。市場全体は2019年12月末時点で稼働しているFIT設備は50,620MWですので、タカラレーベンインフラ投資法人のFIT設備におけるシェアはわずか0.26%です。

タカラレーベンインフラ投資法人の規模の推移

タカラレーベンは利益剰余金を配当として出す代わりに、物件購入のための資金にあてており、相対的に増資による株式の希薄化が少なくなっています。

また、既存の太陽光発電所の場所も関東・関西・中部と電力需要が高いエリアに多く展開されています。「出力制限」(発電量が需要と蓄電可能な水準を上回り、電力会社から発電の制限の要請・強制が出されること)が頻繁に行われる九州地方の割合が3%と低いことも好ましいです。

タカラレーベンのポートフォリオ分散

九州は日照条件がよく、太陽光発電所の設置が相次いだことから、日中の発電利用が需要を上回ることが増え、出力制御が年間で30日間行われる水準まで達しています。これは単純計算で収益に約8%のネガティブな要因です。

九州電力の出力制御

九州地方へ物件を集中させる戦略をとり、九州への依存度が高い「かナディアンソーラー」、「いちごグリーン」にとってはこの九州電力の出力制御は収益へのリスクですが、タカラレーベンインフラにとってはそこまで影響がありません。

2021年の分配金見込み

2021年の分配金は7.2%減少の、6,851円というガイダンスが出されています。

これは2021年3月19日の終値の121,200円ベースだと、利回りは5.7%になります

2017 2018 2019 2020 2021
1口あたり分配金 ¥6,607 ¥7,847 ¥7,223 ¥7,382 ¥6,851
うち利益分配金 ¥6,144 ¥7,013 ¥6,561 ¥6,953 ¥6,162
うち利益超過分配金 ¥463 ¥814 ¥662 ¥411 ¥689

ただ、タカラレーベンは伝統的に分配金のガイダンスをかなり控えめに出す傾向があるため、実際は前年比から微減程度になるのではないかと予想されます。

タカラレーベン、配当金のガイダンスと実績の推移

また、1株あたりの減価償却の額は年々増加していっていますので、その減価償却から生じたキャッシュを再投資することでさらに1株あたりの収益を上げられる可能性もあり、分配金は安定的に推移する可能性が高いともいえます。

過去の傾向として5月末と11月末の配当金の基準日の後は配当金の額以上に大きく下落します。

その際に入手すれば利回り6%以上と、より魅力的な水準で入手できるかもしれません。

制度的なリスク

再エネ特措法改正により、2022年4月より、発電設備の廃棄のための費用に対する外部積み立て義務が課されます。これはFITの期間である20年の後半10年間の間の積み立てとなるため、まだ多くのインフラ投資法人で費用として計上されませんが(FIT制度が始まったのが2012年とまだ10年が経過していないため)、将来的には費用の計上となるため、利益の減少要因です。

また、2023年より発電側基本料金制度が始まり、こちらも発電側への負担増となる可能性があります。

まとめ

  • インフラファンドは20年の固定価格買取制度(FIT)にもとづいた太陽光発電を対象とする投資ファンドで、利回り5-7%の安定した配当をもたらしてくれる
  • タカラレーベンインフラ投資法人は現在上場している7銘柄の中でも、最も安定した収益構造を持つインフラファンドであり、分配金の安定度が高い(分配金の中に占める利益剰余金の割合が低い、最低賃料水準が高い、地理的に分散されており出力制限の影響を受けにくい)
  • 安定している分、傾向としてはインフラファンドの中でも利回りが低い傾向がある。しかし、それでも高い利回り水準であり、現在の2021年のガイダンスベースでの利回りは5.7%

インフラファンドにより興味を持たれて、リターンとリスクについて詳しく知りたい方は、過去のこちらの記事をご覧ください。
[st-card myclass=”” id=1408 label=”日本株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

日本株のビジネス・株式の分析の一覧はこちらです。 [st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/japan-stocks/” title=”日本株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

ZOOM(ZM)は買い時なのか: ビジネス・株価の分析

新型コロナによる在宅勤務の普及から、一躍有名企業となったZOOM。3月のNASDAQの調整に伴い、ZOOM(ZM)の株価も直近の2月の高値である$444から$311まで、約30%下落しました。

下落を機会にZOOMを投資候補にする人も多いのではないでしょうか?

今回はZOOMについて、ビジネス・株価の点から分析してみます。

ZOOMのビジネスモデル

ZOOMのビジネスはいわゆるSaaS (Software as a service)モデルです。顧客は月額または年間のサービスの利用料を支払い、ZOOMのビデオ会議サービスを用います。

ZOOMは下記のサービスを提供しています

  • ZOOM Meetings/Video Webinar
  • ZOOM Rooms
  • ZOOM Phone
  • OnZoom (まだベータ版)

このうち、ZOOM Meetings/Webinarはみなさんお馴染みの、ビデオ会議サービスです。

ZOOM Meetings/Webinar

ZOOM Meetings Plans

ZOOMはいわゆるフリーミアムの仕組みを採用しており、無料プランで人を集め、そこから有料のプランに誘導するビジネスモデルです。

無料であるBasicプランは40分までの会話が可能です。3人以上で40分以上の会話をしたければ年間$149のプランを購入すれば、30時間まで100人までの会議ができます。

法人向けには電話機能も提供しており、個人から大企業までをターゲットにした異なるプランを提供することで、幅広いターゲットを狙っています。ZOOM Meetingsが収益の柱です。

また、ZOOMはWebinar用のサービスも提供していまして、こちらも参加人数に応じた料金体系になっています。

ZOOM Webinar Plans

無料のサービスをテコにして、ZOOMは顧客基盤を順調に広げていっています。特に、11人以上を雇用している法人の顧客基盤が順調に拡大しています。

11名以上を雇用する顧客の数は2020年のQ1からQ4の終わりまで、265,400社から467,100社まで1年で76%伸びました。

直近では2020Q1からQ2までの10万社近い伸びはありませんが、それでも1四半期で34,000社の増加はかなりのハイペースです。

ZOOMの2020Q4決算時のQ&Aによると、この11名以上を雇用する顧客からの収益が全体の63%を占め、残りの37%が10名以下の法人または個人からの収益です。

これらの顧客の中で、1,644社が10万ドル(1050万円)以上を年間支払っている顧客であり、こちらも1年で113%増と順調に増加しています。

G2Kと呼ばれるグローバルで最も大きな企業での浸透率はまだ14%で、まだまだ増加の余地があります。

2020Q1 2020Q2 2020Q3 2020Q4
Customers with more than 10 employees 265,400 370,200 433,700 467,100
customers contributed more than $100,000 769 988 1,289 1,644

また、1顧客あたりの単価も年率で30%以上増加を11四半期連続で続け、無料から有料、さらに有料プランの中でもより高いプランへの誘導が順調に進んでいます。

2020年のZOOMについては大躍進という言葉がピッタリな、全ての顧客に関する数値が飛躍的に伸びた年でした。

ZOOM Phone

ZOOM Phoneは企業向けの電話サービスです。こちらは企業の電話の電話番号をクラウド上で管理し、割り当てるPBX(電話交換機)と呼ばれる市場に向けた製品になります。

既存の企業の多くがIP-PBX(インターネットを利用した電話交換機)を用いていますが、ZOOMはクラウドを用いたクラウドPBXを提供しており、こちらはIP-PBXと比較して初期導入のコストが安い、拡張もしやすい、といった利点があります。

ZOOM Phones Plans

ZOOM Phoneを導入した11人以上を雇用する企業の数は10,700まで増加しています。

こちらはZOOMを導入している11人以上を雇用する企業約47万社の約2%で、自社の顧客基盤の中でもまだまだ伸び代があります。

また、10,000ライセンス以上の契約を結んだ企業の数は18であり、こちらも徐々に増加していっています。

ZOOM Rooms

ZOOM Roomsは企業の会議室向けのビデオ会議システムのサービスです。多くの企業ではビデオ会議のための部屋があり、そこには会議システムと呼ばれる、各地のオフィスと映像と音声を繋ぐシステムが設置されています。

ZOOM RoomsはLogitechなどの機器メーカーとパートナーシップを組み、このオフィス会議システムの市場に参入した製品になります。

こちらは部屋ごとの料金プランになっています。

ZOOM Rooms Plans

CiscoのWebexなどが主な競合になります。こちらのサービスについては具体的な数値がまだ公表されていません。

OnZoom

OnZoomはまだテスト段階のベータ版のサービスです。こちらは主に個人事業者・インフルエンサーをターゲットにしたサービスで、ZOOM上で参加費の徴収や商品を販売することができるようなサービスです。

ユースケースとしては、料理教室やヨガの教室などを行い生徒を集めたり、インフルエンサーが商品を紹介し、それを販売する、などが考えられます。

ZOOMの戦略

ZOOMの戦略は以下になります。ZOOMはSaasのビジネスを考える上で有用な、AARRRのフレームワークで考えるとわかりやすいです(Acquisition, Activation, Retention, Referral, Revenue)。

このフレームワークを用いて、ZOOMがユーザーの①獲得(Acquisition)、②顧客化(Activation)、③継続(Retention)、④紹介(Referral)、⑤収益化(Revenue)について何を行っているかを整理してみます

  • 獲得;フリーミアムモデルで無料ユーザーを獲得する
  • 顧客化;無料ユーザーを 有料ユーザーにすることで売上を上げていく
    • グローバル展開を進め、特に北米以外の西欧、アジアでの法人営業を加速させ、有料法人ユーザーを増やす
    • 個人の有料ユーザーを広げる製品としてのOnZoom
  •  継続;継続率を高める
    • 法人ユーザー向けにはZOOM Meetingsのユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の継続的な向上を続け、製品優位性を保つと同時に、他の企業の製品にもZOOMを組み込みやすくすることで、ZOOMから顧客が離れないようにしていく(moat – 堀を作る)
    • 個人のユーザーについてはOnZoomで繋がりを保つ
    • 他のサービスと連携することで使い勝手をよくし、ZOOMから離れることを防ぐ(Google Calendar, Outlookとの連携等)
  • 紹介;紹介率を高める
    • ユーザーの継続率を上げられれば、ZOOMでの会議・イベント参加者が増え、参加者がアプリを利用することでさらにZOOMが知られ、利用者が増えていく
    • また、ネットワーク効果でより多くのユーザーが使えば使うほど製品の利便性も増加していく
  • 収益化;ユーザー単価を上げる;
    • 北米では継続的にユーザーを獲得すると同時に、既存のユーザーにZOOM Webinar、ZOOM Phone、ZOOM Roomsを売ることでユーザー単価をアップしていく(アップセル)
    • 個人ユーザー向けにはOnZoomでアップセルを行う

主要なKPI(Key performance Indicators – 経営を行う際に重要となる指標)は、11人以上の従業員を持つ法人顧客の数、既存顧客からの売上、主要サービスの顧客獲得(Zoom Phone、Zoom Rooms)になります。

法人向け

法人向けにZOOMが目指しているのは、「顧客を囲い込む」ことです。

ZOOM MeetingsやWebinarsのようなウェブ会議を法人むけに提供するサービスは、従業員の生産性を上げる、「プロダクティビティソフトウェア」に分類される市場です。

この市場は競合も多く (例;Microsoft Teams, Verizon Bluejeans, Cisco Webex)、特にMicrosoft Teamsは企業向けアプリケーションの標準であるOffice 365とバンドルされていることもあり、ほぼ全ての法人顧客に用いられる可能性がある非常に強力な競合です。

一例をあげればチャットツールであるSlackがMicrosoftのTeamsによって成長鈍化させられ、Salesforceに買収される道を選びました。

同様に、ZOOMも常にMicrosoftのTeamsの脅威に晒されています

特にSaasは初期投資が低く、変更のコストも低いため(=スイッチングコストが低い)その分、ZOOMも契約を切られる可能性が高くなります。

Microsoftが365 E5という法人向けプランでTeamsを強力に推し進めていることもあり、 ZOOMにとっては「法人顧客がいつMicrosoftに取られるのか」は深刻なビジネス課題です。

この脅威に対して、ZOOMは企業の比較的変更しやすい「ウェブ会議」だけでなく、電話や会議室といった、ハードウェアの投資が必要であり、「より変更しにくい」サービスを提供することで、企業を囲い込もうとしています。

言い方を変えれば、ZOOMをきっかけとして顧客の社内コミュニケーション全体に入り込み(電話、会議室、ウェブ)、ZOOMから離れられないようにしようとしています

少し抽象化すれば、ビデオ会議サービス提供者から、コミュニケーションプラットフォーム提供へのバリュープロポジションの変更です。

これは、解約率を下げるということに加え、一顧客あたりの単価を上げられるという点でも良い施策です。

また、すでに顧客になっている顧客に新しいサービスを売る方が全く新規の顧客にサービスを販売するよりも効率が良いため、営業効率もよくなります。戦略的にも、財務的にも筋の良いアプローチです。

また、Microsoftという巨大な競合がいるウェブのビデオ会議市場に比べて、社内向け会議システムや機内交換機の業界の競合は大企業ですが、比較的スピードの遅いプレイヤーが多く(Verizon、Cisco)、IP-PBXからクラウドPBXへの技術変化の流れにも乗っており、ZOOMとしてはシェアを獲得しやすい市場です。

ZOOM CEOのEric Yuanの言葉を借りれば、「ZOOMはkiller app(人気のアプリ)からプラットフォーム企業になる」ことを目指しており、ZOOMの成功を基盤として、比較的変化の遅い業界へ乗り込み、市場を拡大しようとしています。

好調なZOOM Phoneの展開を見る限り、法人向けの戦略については、初期の成功が見えつつあります

個人向け

個人向けサービスに関しては、ZOOMに変わるサービスとしてMicrosoft Teams、Google Meet、少人数ではFacebook Messenger等も競合になるため、非常に競争が激しい市場です。

また、新型コロナが落ち着き、人々がZOOMよりも対面で会話することを望むようになると、解約率が増加する可能性があります。

この脅威に対して、ZOOMはOnZoomというビデオ会議を基盤とした課金プラットフォームを提供することで、個人事業主やインフルエンサーを集め、有料ユーザーを増加させようとしています。

こちらのサービスはコンセプトは良さそうです。ただし、サービスはまだベータ版であり、この戦略がうまくいくかはまだ未知数です。

また、いわゆるC2C (Consumer to Consumer)のビジネスの世界ではGoogleのYouTube、FacebookのMarket Place、Twitterの参入、と競争が激しい市場であることと、こちらもネットワーク効果が働き先行者のメリットが大きいサービスですので、OnZoomのサービスのフルローンチが遅れると、その分競争に勝つのが難しくなります。

以上をまとめると、法人向けサービスについては戦略の方向性が決まり、実行も順調に進んでいます。ただし、個人向けについては新型コロナ後に有料ユーザーがどの程度離れるのかが未知数であり、OnZoomもまだ成功が見えていないことから、個人向けサービスについては成長が続けられるか不透明な状況です

ZOOMの直近の決算

ZOOMの直近の四半期決算は、全てポジティブな結果でした。

  • 売上の予想$810に対して$882m(10%近いポジティブなサプライズ)
  • EPSの予想$0.79に対して$1.22 (54.4%のポジティブなサプライズ)
  • 2022売上の予想$3.56b、EPSの予想$2.96に対して売上$3.76から$3.78b、EPS$3.59-$3.65のガイダンス(売上・EPSともに予想よりポジティブ)

ガイダンスに従えば、現在の$347の株価水準では、2022 Forward PSR (Price to Sales Ratio)は28.6、non-GAAPの2022 Forward PERは96となります。

Forward PSRが28.6というのは高い水準ですが、ZOOMの過去の水準からすると、2019年と同等程度です。2020年の過度な期待が剥がれた、といっても良いのかもしれません。

売上高ですが、Saasでは法人向けの多くは年間契約となっており、よほど解約が受注を上回らなければ、売上高が基本的には右肩上がりに増えていきます。

2020Q4の売上高が$882mで、単純計算で前期の売上高を1年間維持できれば$3.53bです。売上$3.76-$3.78というのはその数字から6%増であり、個人向けの有料サービスの解約が増えるリスクをかなり見込んでいるのでしょうが、実現可能性の高いガイダンスだと感じます

また、ZOOMは2020年Q4の結果では粗利益で70%、営業利益で29%と非常に高収益の企業であり、かつ利益率は売上の増加に伴い、改善傾向にあります

この粗利益、営業利益の高さは、比較されることが多い他のSaasサービスと比べても頭一つ抜けています。ARKの創業者であるCathie Woodが「ZOOMはバリュー株」と呼ぶのが分かるほど、既に安定した事業ベースを築いています。

現在はK-12向け(米国の小中高)に無料でサービスを提供していることもあり、こちらのサービスを新型コロナのパンデミック後に有料化した場合、さらに粗利益・営業利益率の向上が見込めます。

2021年のガイダンスについても、営業利益率、純利益ともに30%のガイダンスです。売上高が拡大すること、ワクチンが行き渡り、K-12のサービスを今年中に有料化できる可能性を考えれば、利益についても売上高と同じく実現可能性が高いガイダンスであると考えられます

ZOOMを単一のビデオ会議サービスを提供する企業として見れば新型コロナ後に成長余地が限られるように感じられますが、Zoom Phone/Zoom Rooms/OnZoomと新型コロナ後の世界を見据えた打ち手をうちながら、コミュニケーションのプラットフォームを目指しています。

その戦略が実現するのであれば、ZOOMはMicrosoftやSales Force.com等と併用される、企業内でのコミュニケーションのデフォルトのソフトウェアの一つとなり、更なる成長が見込めます。

ZOOMの株価推移・チャート

ZOOM 1 Year Stock Price

ビデオ会議サービスを提供するZOOMは新型コロナで最も追い風を受けた企業であり、昨年3月の過去1年間から見ても、株価は$105から2020年10月には最高で$559と5.5倍まで増加しました。

現在の50日間移動平均線は下落傾向で、$378、200日の移動平均線は$363であり、どちらも3月12日の終値$346を上回っています。

移動平均線から見ると、ZOOMの株価は下落トレンドにあります。11月の急落時の$376、1月の急落時の$349、2月の急落時の$313、とボトムを切り下げているのが、明確な下落トレンドで嫌な感じです。

需給の点では、3月3日、4日は出来高を伴って2日間で20%下落をしており、これは機関投資家が売却したことを示唆します。株価は直近の最安値である$313から現在は約10%上昇しました。出来高は3月3日以前よりも少なくなってきており、売買が落ち着いてきていることがわかります。

加えて見逃せないのは、ZOOMはARKの旗艦ファンドであるARKKの主要銘柄の一つである点です。

ARKK Holdings of ZOOM

ARKはZOOMの大きな買い手であり、保有割合を増やし続けています。

特に3月はZOOMの価格が落ちた時の買い手となってきました。直近では、株価が大きく落ちた3月2日、3、4日に大きな買いを入れています($372, $343、$341)。ARKKの平均買値は$416であり、現在の株価水準より20%高い価格となっています。

$340くらいの水準はARKにとって魅力的な水準であり、さらに下がった場合は購入されることが見込まれ、下支えがあるという点で好ましいです。一方、ARKKのETFの解約が増えるとその分だけ売りの圧力が増えるため、ARKKのコア銘柄の一つであるということは諸刃の剣でもあります。

また、ZOOMはいわゆる「Work From Home」(WFH)銘柄とみなされていること、ハイグロース株、とみなされていることから、ワクチンが行き渡る世界を人々がより実感するにつれて、テーマで株を購入していた投資家が離れ、需給が悪化して、さらに売られる可能性はあります。また、長期金利が現状の1.6%を超えて増加していくようですと、3月前半のように、また一段と売り込まれる可能性もあります。

短期的には株価の変動が激しそうですが、長期的には戦略がうまく行けば大化けする企業、のように感じます。

まとめ

  • ZOOMは新型コロナをきっかけとした在宅勤務の急速な普及を受けて、躍進したサービス。順調して顧客数を増加させ、かつZOOM Webinar、ZOOM Phone、Zoom Roomsといったサービスの追加により1顧客あたりの顧客単価も順調に増加させている
  • 法人向けのZOOM Phoneが好調で、今後も既存顧客へのアップセルを通じて、顧客単価向上に寄与する見込み。また、ZOOM Phone・ZOOM Roomsは顧客を囲い込む意図があり、Microsoft Teams対抗の鍵である
  • 個人向けは競争が激しい市場であることことに加え、ワクチンが行き渡り、人々がオフィスへ戻り、友人・家族と対面で会うことができるようになると、有料会員が減少するリスクがある。OnZOOMが個人を囲い込む鍵となるサービスだが、まだベータ版であり、未知数
  • ZOOMは上場からずっと良い決算を出し続けている企業であり、直近の決算の売上高、EPS、ガイダンスも全てアナリスト予想を上回った。
  • 2021年のガイダンスは2020年の第4四半期の結果を見る限り、有料会員の個人の解約を見込んだとしても、やや控え目な印象
  • ZOOMは粗利益70%、営業利益30%と超がつくほどの優良企業であり、収益化できていないハイグロースと比べても魅力的
  • 株価は調整を経て2021年のForward PSR30以下と、新型コロナによる業績のブーストがかかる前の水準まで落ち着いている。
  • ビジネスの観点からは株価は適正な水準まで落ちてきた印象。一方、チャートが明確な下落トレンドであることが懸念。現在でもARKが積極的に購入を行う水準であり、ARKの買いが下支えになる可能性もあるが、ARKKの解約が売りに繋がるという懸念もあり、諸刃の剣。

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

Royalty Pharma(RPRX)分析。強みと株価

2020年夏の大型IPOであるロイヤルティファーマ(Royalty Pharma)について、業界の中での位置付け、強み、製品、株価について分析したいと思います。

ロイヤリティファーマの業界の中における位置付け

Royalty Pharmaのビジネスはベンチャーキャピタルに近く、「将来巨額の売上を生み出しそうな薬やその薬を開発している会社に投資をして、そこからリターンを得る」、というモデルになります。

Royalty Pharmaの詳しいビジネスに関してはNekoさんのRoyalty PharmaのNoteで詳しく書かれているので、こちらを参照していただくと良いと思います。僕はヘルスケア業界の観点から、Royalty Pharmaの位置付けについて書きます。

製薬はリスクが高い業界です。

医薬品の製品開発プロセスは、基礎研究、動物による治験、人での治験と段階を経て有効性と安全性を確認する必要があり、通常は10年以上かかります。

人での治験まで進んだとしても、3つのフェーズを通過して販売承認を得られる薬は8つに1つなので、投資しても報われるかどうかはわかりません。

近年では新薬の開発が特に難しくなっており、一つの製品を開発・販売するまでには$2.6b、販売後のモニタリングで$0.3mで合計約$3b (3,150億円)かかります(Joseph (2016) “Innovation in the pharmaceutical industry:New estimates of R&D costs”, Journal of Health Economics 2016)。

開発費は高騰を続け、過去10年でほぼ2倍になっています。

このように製薬は長期に渡って高い研究開発費を支払っても薬として承認されるかどうかわからない、リスクが高いビジネスです

薬を生み出すのはそれだけ大変であるため、どの国も「特許」を薬に与えて、製薬会社が独占的にその薬を販売して利益を享受することを認めています。

「新薬開発というリスクの高いプロジェクトに投資をしていたのだから、開発費を回収して、次の薬に投資をできるだけの利益を得て良いよ」、ということですね。

期間は米国の場合、出願日から20年です。この特許で保護されている期間は、きちんとした有効性と安全性がある薬で、競合が出て来なければ、収益は右肩上がりで伸びていることが多いです。

つまり、「新薬が出るまではリスクが高い」ですが、「薬の販売承認が出て、すでに販売がされている薬はリスクが低い」です。

このようにリスクの高いビジネスを行っていることから、製薬会社からすると「リスクを減らしたい」というニーズがあります。

例えば、「研究開発費用の一部を支払ってもらう代わりに、薬が実際に販売されたときに売上の一部を渡す」ことで、リスクを減らせます。

薬がうまく行ったときには得られる収益が少なくなりますが、うまくいかなかったときの損失も少なくなりますので、うまくいったときとうまくいかなかった時の差が小さくなる、ということです。

また、大学の研究室発の薬など、研究開発を進めて治験を行うための資金がないという場合にも「薬が実際に販売されたときに売上の一部を渡す」契約を結ぶことで、資金調達ができ、薬の開発を進めることができます。

この「将来に薬が販売されたときの売上の一部を渡す」というのがロイヤリティ(Royalty)の仕組みであり、ロイヤリティファーマはこのロイヤリティの仕組みを通じて、製薬会社や研究開発段階の会社に対して、「薬の研究開発リスクの減少」と「研究開発コストの資金調達」、という価値を提供しています。

この役割は薬の開発コストの高まりに伴い、特に研究開発段階の会社において、重要性を増していっています。

ロイヤリティファーマはその名の通り、45を超える薬のロイヤリティを保有しており、これらの薬が販売される度に一定割合が売上として入るようなビジネスの構造になっています。

ロイヤリティファーマの強み

ロイヤリティファーマの強みは3点あります。

規模

1996年以降、ロイヤリティ市場のシェアでロイヤリティファーマのシェアは50%を超え、特に$500mを超える大型案件ではシェアは80%を超えます(Royalty Pharma S-1資料より)。

二番手のシェアは7%程度ということですから、ほぼ一強ということになります。

これは、製薬会社が大型調達を行うことを考えた場合、ほぼロイヤリティファーマに案件が回ってくることを意味します。

ベンチャーキャピタルのような投資先によりリターンが左右されるビジネスにおいて、有望な案件が第一に回ってくることは競争優位に繋がります。

また、45以上の薬で分散されたロイヤリティのポートフォリオを持っていることで、金融機関からしても債権の回収可能性が高い取引先として見なされており、低金利で資金の調達が可能となっています。

低金利で資金が調達であればそれだけ低い利回りでも投資が可能となるため、こちらも競争優位性に繋がります。

投資判断のプロセス

医薬品の市場性を判断するのは、異なる医療の専門分野は異なる市場であるため、幅広い知識と経験が必要となります。

ロイヤリティファーマは20年以上にわたり医薬品に投資を続けており、着実に成功する取引を積み重ね、成功体験と失敗体験が投資判断のプロセスに組み込まれています。

この知識と経験の積み重ねは一朝一夕で真似できるわけではなく、またロイヤリティファーマ一強の市場であるため、他の競合が同等程度の経験を積むことは容易ではありません。

過去の実績に裏付けされた投資プロセスはロイヤリティファーマが持つ競争優位性の2つ目です。

ネットワーク

ロイヤリティファーマは資金だけではなく、ネットワークも提供しています。

医薬品は研究開発がうまくいき、販売承認を取れたとしても、そこから販売するには販売のネットワークを築く必要があります。

そして、販売ネットワークを一から築くにはコストがかかりすぎるため、多くの場合、研究開発段階の企業は、販売承認が得られた時点で大手の製薬会社に買収されるか、もしくは提携して大手の販売ネットワークを使わせてもらうことを選びます。

ロイヤリティファーマは過去のロイヤリティ取引を通じて、大手と研究開発段階企業へのネットワークがあります。このネットワークは過去の取引実績から築かれたものであり、こちらも一朝一夕で真似ができるものではありません。

ネットワークが競争優位性の3つ目です。

ロイヤリティファーマはこれらの3つの強みをもつ業界のリーダー的な存在であり、ロイヤリティ業界が伸びれば、その市場の伸びを享受すると考えられます。

ロイヤリティファーマの製品群

2020年上半期の売上

ロイヤリティファーマの2020年のロイヤリティ受け取りを見ると、ロイヤリティ期間がまだ十分に長い製品については順調に成長しており、上半期は$1bを超える受け取りとなりました。

新型コロナの影響で製薬全体の売上に影響が出ている中、2020年の上半期は2019年のペースを上回っています。

ロイヤリティ受け取り製品 適用 企業 ロイヤリティ期限 2020 上半期 2019
Cystic fibrosis franchise cystic fibrosis Vertex 2037 $235,522 $424,741
Tysabri multiple sclerosis Biogen Perpetual $176,324 $332,816
Imbruvica chronic GVHD Abbvie 2027-2029 $159,222 $270,558
HIV franchise HIV Gilead 2021 $148,379 $262,939
Januvia, Jaumet, Other DPP-IVs diabetes Merck 2022 $69,647 $143,298
Xtandi prostate cander Pfizer 2027-2028 $68,908 $120,096
Promacia Hematology Novartis 2025-2027 $62,401 $86,266
Farxiga/Ongyza Diabetes AstraZeneka $8,257 $0
Prevymis Infectious Diseases Merck $6,413 $0
Crysvita Rare disease Ultragenyx $2,620 $0
Erleaada Cancer $1,772 $0
Emgality Neurology Eli lily $2,236 $0
Tazverk 2034-2036 $0 $0
Nutec migrane Biohaven 2034-2036 $0 $0
Trodelvy Immunomedics Perpetual $0 $0
Others $148,344 $242,767
Sum $1,090,045 $1,883,481

これらの売上高が高い製品群については、多くが2020年代を通じてロイヤリティを受け取ることができます。

加えて、2020年には大型のロイヤリティ切れが続いたため、ロイヤリティ切れの影響が大きく、ポートフォリオ全体のロイヤリティ受け取りは2019年と比較して微減となる見込みです。

ロイヤリティ切れ製品 company 2020 1H 2019
Tecfidera Biogen $0 $150,000
Lyrica Pfizer $12,557 $128,264
Letairis Gilead $22,275 $112,656
Remicade JNJ $0 $6,068
Humira Abbvie $0 $0
Others $3,545 $21,047
Mature Sum $38,377 $418,035
Total $1,128,422 $2,301,516

微減はあまり好ましい数字ではありませんが、2020年は

  • 大型ロイヤリティ切れが起きた
  • 新型コロナの影響で製薬全体の売上に悪影響が出て、ロイヤリティも伸び悩んだ

年になります。その中で、前年度から微減程度のロイヤリティ受け取りを確保できているのはポジティブと考えられます。

ただし、2021年にHIVの特許が、2022年にDPP-IVsのロイヤリティが切れるため、2021年に$300m (15%)、2022年に140m(7%)程度の売上減少が見込まれます。

これらの22%のロイヤリティ減少を既存のロイヤリティの成長と新しいロイヤリティの貢献でカバーし、売上を伸ばせるかが焦点になります。

Immunomedics/Trodelvyの影響

先日ギリアドがTrodelvyを持つimmunomedicsを$21bで買収するとの発表がありました。

ロイヤリティファーマはこのImmunomedicsに$250m投資を行っており、株式を保有していることに加え、Trodelvyについてもロイヤリティを受け取る契約をしています。(Market Insider – Immunomedics and Royalty Pharma Announce Royalty Funding and Stock Purchase Agreements Totalling $250 Millionより)

当時、一株$17.15で$75m分の株式を取得しており、ギリアド の買収提案では一株$88での買収提案のため、単純計算で$300mほどの売却益が入ることになります

$300mは2019年にロイヤリティファーマが受け取ったロイヤリティの15%に相当する額で、一過性とはいえ、少なくない額です。

また、ロイヤリティについても売上の$2bまでは4.15%、そこから段階的に%は下がりますが$6bを超える分も1.75%を受け取れる契約になっています。

仮にTrodelvyが$2bの売上を超える薬になれば、毎年$80m以上の売上の上乗せになります。こちらは今のロイヤリティ受取額から考えると、4%程度になります。HIV、DPP-IVsの売上減をカバーする一つの薬です。

その他のパイプライン

現在はまだ売上が立っていない、今年FDAより承認された薬(Tazverk, Nutec, Trodelvy)も今年の後半から売上に貢献してきます。

さらに2020年に$1.5bの投資を行った、Nurtech、Evrysdi, IDHIFA, PrevimisもFDAから承認され次第、今後ロイヤリティ受取額に貢献してきます。

そのほかにも研究開発段階の薬のロイヤリティをロイヤリティファーマは保有しています(Ibrance等)。

ロイヤリティファーマの今後の見通し

第二四半期の決算報告プレゼンテーションにおいて、ロイヤリティファーマの経営陣は以下のように述べました

  • キャッシュフローを用いて、今後5年間で$7bの投資を行っていく。借入金はクレジットレーティングを考慮して、EBITDAの4倍までを目処に行っていく
  • キャッシュフローの25%以下を配当として支払っていく
  • 2025年まで、ロイヤリティ受け取りは6-9%の成長を見込んでいる。成長の半分は既存のパイプラインから、半分は新規投資からを見込んでいる。

この先数年でHIV、DPP-IVsの製品の特許が切れますが、経営陣は2025年まで成長を続けられるという見通しを出しています。

確かにパイプラインは充実しており、2020年を底として、年率7%以上の成長することも不可能ではないと感じます。

ロイヤリティファーマの株価

ロイヤリティファーマの9月18日の終値は$42で、時価総額は$25b (約2兆7000億円)です。2020年の予想利益からPERを計算すると18.3、2021年の予想利益からPERを計算すると、15.8になります。

Stock Price $ 42.0
Market Cap (m$) $ 25,635
2020 Expected PER 18.3
2021 Forward PER 15.8
2020 Adjusted Cash Flow Receipts per Share 14.6
Stock Outstanding (fully diluted, m) 607

S&P500の終値は$3,320です。2020年、2021年の予想EPSからPERを計算すると、2020年は25.3、2021年は20です。つまり、市場全体よりもPERは低めです。

ロイヤリティファーマは2020年以降の製薬業界の成長率は7%、ロイヤリティファーマの成長は年6-9%程度で推移すると予想しています。これは過去5年のS&P500のEPS成長率よりも高い数字です。

まとめ

  • ロイヤリティファーマはベンチャーキャピタルのように医薬品に投資を行い、リターンを得るビジネスモデル
  • 製薬ロイヤリティ市場の中での圧倒的なリーダー。規模・投資プロセス・ネットワークの3つの競合優位性を持ち、市場の伸びとともに成長が見込まれる
  • 大型ロイヤリティ切れ、新型コロナの影響による製薬全体の売上減少から2019と比べて2020年のロイヤリティ受け取りは微減となる見通し。2021年、2022年と売上高の15%、7%を占める大型の薬のロイヤリティ期限が来る為、今後数年で収益への大きな影響がある。
  • しかし、ロイヤリティ期間が残っている薬は順調に成長しており、かつギリアドが大型買収を行ったTrodelvy含めた薬が2020年下期以降に売上へ貢献を始める。ロイヤリティファーマの経営陣は2025年まで、年6-9%で成長を見込んでいると公表している。
  • 株価は2020、2021年の予想PERを元に計算すると18.3、15.8と現状のS&P500全体の水準と比べると割安な水準。

製薬会社のビジネスについてより詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=2545 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

シルクロードメディカル(SILK)企業・株価分析

製薬・医療機器メーカーに投資をする際には、どのような点に気を付けるとより良い銘柄を発掘できるでしょうか?

今回はNASDAQに上場している医療機器メーカー、シルクロードメディカルを例に、分析していきます。

シルクロードメディカルの製品の市場規模

シルクロードメディカル(SILK)は頸動脈の狭窄(血管が細くなること)から生じる、脳卒中(stroke)を防ぐための医療機器を開発・製造・販売している企業です。2019年よりNASDAQに上場しています。

2018年に頸動脈の狭窄と診断された人は42.7万人でした。そのうち、16.8万人が治療(手術)を受け、その市場規模は$1.0b (1100億円)でした。

逆算すると、既存の治療法の単価は約$6,000になります。

carotid artery stenosis market size

現在の標準治療(標準的に行われている治療法)は2種類あり、CEAと呼ばれる65年近くの歴史を持つ手術とCASと呼ばれる侵襲性が低い(より患者さんへの負担が低い)、比較的新しい治療法です。

Carotid Endarterectomy (CEA) and Carotid Artery Stenting (CAS)

効果や手技の時間が同程度であれば、手術後の感染症のリスクが低いため、侵襲性の低い手術の方が好まれます。手術の割合は83%がCEAで、17%がCASということで、CEAの方がまだまだ主流の標準治療のようです。

ここまでをまとめると、$1b(1100億円)の市場で、CEAとCASという2つの治療法がある。シルクロードメディカルが狙えるのはそのうちの2/3の$665m。$1bという市場規模は医療機器の世界ではそこまで大きくはないですが、小さすぎもしない規模です。

シルクロードメディカルの製品・データ

シルクロードメディカルが提供するENROUTEシステムは単純化して言えば、CASと同じく低侵襲性の手術です。

ステントという狭窄を治療するのに使われる機器を用いている点はCASと同様ですが、ステントを設置する際に血液を逆流させて網で捉えることで、脳卒中の元となる塞栓が脳にいくことを避けています。

Enroute system

「低侵襲性の手術の感染症リスクを抑えるというメリットを保ちながら、血流を逆流させて網で捉えることでCASより脳卒中のリスクを低くしている」、という点がウリになります。

シルクロードメディカルは2015年にFDAより認証を得ています。長いですが、適用(デバイスを使うことが認められている患者さん)は以下のようになります。結構条件が厳しく指定されています。

THIS DEVICE IS INDICATED FOR USE IN CONJUNCTION WITH THE ENROUTE TRANSCAROTID NEUROPROTECTION SYSTEM (NPS) FOR THE TREATMENT OF PATIENTS AT HIGH RISKFOR ADVERSE EVENTS FROM CAROTID ENDARTERECTOMY WHO REQUIRE CAROTID REVASCULARIZATION AND MEET THE CRITERIA OUTLINED BELOW.1) PATIENTS WITH NEUROLOGICAL SYMPTOMS AND >= 50% STENOSIS OF THE COMMON OR INTERNAL CAROTID ARTERY BY ULTRASOUND OR ANGIOGRAM OR PATIENTS WITHOUT NEUROLOGICAL SYMPTOMS AND >=80% STENOSIS OF THE COMMON OR INTERNAL CAROTID ARTERY BY ULTRASOUND OR ANGIOGRAM; 2) PATIENTS MUST HAVE A VESSEL DIAMETER OF 4-9MM AT THE TARGET LESION; AND 3) CAROTID BIFURCATION IS LOCATED AT MINIMUM 5 CM ABOVE THE CLAVICLE TO ALLOW FOR PLACEMENT OF THE ENROUTE TRANSCAROTID NPS.
FDA PMA Database

シルクロードメディカルは下記のような比較で自社の製品であれば、脳卒中リスクを低くできると主張しています。こういった主張をする場合、裏付けとなるデータが必要となります。

comparison of procedures

この比較、実はそのまま受け取ってはいけません。医療業界で「御法度」の比較です

本来、手術の合併症のリスクを比較する場合は、他の条件が一定でなければ正しい比較ができません。

言い換えれば、過去に脳卒中を経験した人であればより脳卒中にかかりやすいなど、リスク要因が異なるために、ある程度手術を受ける人の属性が近いグループを比較する必要があります。

上記の比較は、そもそもの治験に参加した人の属性が同じでないため、リンゴとミカンを比較して、ミカンの方が甘いと言っているようなもので、正しい比較ではありません。かなり危ない見せ方です。

実際に、ROADSTER2(治験の名前です)のデータを論文で見てみると、確かにプロトコルに沿った治療を行ったグループの脳卒中は0.6%ですが、治療を行ったグループの脳卒中は1.9%と高く、プレゼンテーションではあえて良い数字を見せていることがわかります。

実際、条件を揃えてCEAとTCARの比較をしたCleveland Clinic(アメリカで臨床と研究の両方で評価の高い病院です)が出した論文では、TCARとCEAで3ヶ月後、1年後の脳卒中リスクに差がないことが示されています

投資家は誤魔化すことができても、医療機器を販売する相手は病院・医師・保険会社であることから販売する際にデータを求められることは多く、悪い数字は拡販の妨げとなります。

医薬品、医療機器を扱う企業への投資をする際にはきちんと論文や学会で発表されるデータを見た方が良い、という良い例です

とは言っても、シルクロードメディカルの製品には、①手術の時間が短い(=より多くの手術ができて病院経営にプラス)、②脳神経へのダメージのリスクが低い、というメリットがあります。

特に手術の時間が短くて済むのは大きなメリットであるため、製品としてのウリはあると考えられます。

また、技術を学ぶのにそこまで時間がかからないということも書かれていること、競合がイノベーションを積極的に行っている市場ではなさそうですので、シェアを広げやすい市場かと思います。

医療機器の製品を見る際には、その企業が訴えている強みだけではなく、その強みがきちんと臨床データによって裏付けられているかを見る必要があります

シルクロードメディカルの営業・マーケティング

医療機器の売り上げを考える際には、どれだけの病院にアクセスがあるか、どれだけの医師に使われているか、どの程度の頻度で使われているか、が重要です。

シルクロードメディカルの商品はFDAから米国での販売承認を得ており、また米国の公的保険からも保険償還をすでに得ています。

silk road medical q2 results

発表されている数字を元に市場を考えてみると、16.8万人の人が手術を受けて、750の病院が80%の手術を行っているということなので、単純に考えると

16.8万人 * 80% / 750病院 = 180症例/病院

1病院あたり年間180症例ということになります。ある程度この手術を行う医師が2,750人ということですので同様に計算をすると、年間50例です。

2019年でシルクメディカルは半数以上の1,440人にトレーニングを行いました。これは市場の半分程度を占める医師にトレーニングを行えたということで、良い進捗だと考えられます。

一方で、2019年の手術のTCARは8,400例ということで、High Surgical/Standard Riskの両方を合わせた市場全体の5%程度です

トレーニングの時期にもよりますが、トレーニングを受けた医師が年間6例程度ですので、これらの医師の中でのシェアも10%程度です。これは、まだまだ拡大の余地が大きいことを示しています。医療機器の消耗品の売上数量は

  • アクセスのある病院・医師
  • トレーニングをした病院・医師
  • トレーニングをした病院・医師がCEA・CASではなく、TCARを用いる頻度

の掛け算ですので、シルクロードメディカルとしては営業・マーケティングに力を入れて、これらの3つの指標をあげていくと考えられます。

silk medical revenue and procedures

2020年1Qでは2,700症例の販売がありました。トレーニングをした医師の数で割ると、1医師あたり約2例です。

トレーニングをした医師だけでみると、頸動脈の狭窄に対する手術におけるシェアは15%程度取れていますので、悪くない数字です。

1手術あたりの単価は$7,000です。他の手術に対して$1,000程度のプレミアムをとっていることが分かります。

一見して順調に成長しているように見えますが、損益計算書を見ると、また違う姿が見えてきます。

silk road medical PL

2020年の前半について、Cost of goods sold (売上原価)は30%程度で粗利率は70%です。これは医療機器業界の水準からするとやや高いですが、まだ新興企業ですので、数量が増えるに従って割合は減少すると考えられます。

やや懸念なのは、シルクロードメディカルのSGA (営業、マーケティング、一般管理費などのコスト)は売上が$34mなのに対して、SGAだけで$35mかかっている点です。

言い方をかえれば、売上よりも早い勢いで、営業費用が伸びています。これは、営業の数を増やして、より多くの病院・医師にアプローチして、手術の件数を稼いでいることを示しています

新型コロナの影響のために売上の伸びが鈍っているのは仕方ないのですが、年間で$80mの営業費用がかかるような体制ですと、粗利益が75%ほどに改善したとしても、年間110億円程度稼いでトントンです。

これは、シルクロードメディカルの製品が適応となっているHigh Riskの$670mの市場に対して、20%のシェアに相当します。SGAがさらに増加すれば、さらにゴールは遠ざかります。

現状、シルクロードメディカルの製品は一つだけですので、営業効率は良いとは言えません。

今後新しい商品が登場すればより売上を伸ばすことができ、営業効率が改善する可能性がありますが、現状のパイプラインを見る限り、治験情報が集約されているClinicaltrial.govを見ても新しい治験は行っておらず、数年以内だとアクセサリー程度のようです。

それまでは利益率が低い状態が続くことが予想されます。

売上の伸びも大事ですが、営業費用をかければ売上は伸ばせます

効率がどう変化するかも重要な指標ですので、次回以降の決算を注意深く見る必要があります。

シルクロードメディカルの株価

SILK Road Medical Stock Price

シルクロードメディカルは2019年4月に上場して以来、株価は上下の移動を続け、9月4日の終値は$58程度です。発行済み株式数が32.7mであり、2019年の売上で見たときのSales per Equityは$1.87です。

株価を一株あたり売上で割ると、32とかなり成長が織り込まれた株価になっています。

まとめ

  • 医薬品・医療機器の市場を見る時には、「標準治療は何か」を考えよう
  • 医薬品・医療機器の企業を見る時には、プレゼンテーションの主張が、どれだけデータで裏付けされているかを論文で確かめよう。臨床データで裏付けられていればそれはポジティブで、逆であればネガティブ。
  • 医薬品・医療機器はインターネットのサービスと比べて、営業・マーケティング頼りの傾向があり、営業・マーケティングコストが高いことが多い。特に若い企業の場合は、売上の伸びだけでなく、営業・マーケティングコストの伸びを見て、効率がどのように変化しているかにも注目
  • 医薬品・医療機器は治験を行う関係上、どの製品で治験を行っているかがオープンなため、製品パイプラインが公表されていることが多い。将来の成長余地を考えるため、clinicaltrialls.govで現状行っている治験や公表されている製品パイプラインを見よう

医療業界におけるマーケティングに興味がある人はこちら

[st-card myclass=”” id=2754 label=”マーケティング” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

ギリアド (GILD) 2020第二四半期の決算と株価

新型コロナの治療法のレムデシビアで一躍注目を浴びた、ギリアド・サイエンシズの第二四半期の決算の簡単なまとめです。

レムデシビア(新型コロナ治療薬)

今期で最も大きなアップデートはレムデシビア(新型コロナ治療薬)でした。

EUを始めとした先進国で製品の販売認可を取得。アメリカではまだFDAの正式な承認は取れていませんが、Emergency Use Authorizationという認可前の製品を認可する仕組みで販売することができています。

ギリアドQ2決算プレゼンテーションより

第二四半期でギリアド はレムデシビアを150万本分を寄付しました。これは、もし販売されていたら政府向けの金額で言うと$585m分、民間向けでは$780mにあたります。

本来であれば、これだけ売上高が増加していたはずでした(前半の売上の5%-7%)。

ギリアドは生産委託を行うことで、レムデシビアの生産能力を拡大させ、年末までに200万人分のレムデシビアを生産する方針です。例えば、ファイザーが一部を生産する予定です。

前提は一人当たり治療が6本で、政府向けではUS$2,300、民間向けはUS3,250です。

仮に年末までに200万人分を販売するとすれば、政府向けと民間向けの割合にもよりますが、$4.6bから$6.5bの売上となります

ギリアド決算スライドより

元々のギリアドの2020年のガイダンスが$22bでしたので、仮に200万人分を販売できるとしたら、レムデシビアだけで売上高は20%から30%増加する計算になります。

現状のレムデシビアは点滴による投与のため入院患者が対象です。現在のアメリカで新型コロナに感染している人は230万人で、毎日6万人程度の新規感染者が出ています。

worldometers.infoより

アメリカの新型コロナ患者で入院まで至る率が10%だとすると(ここ2ヶ月程度の死亡者数/新規感染者は2%以下で推移しているので、入院まで至った患者の生存率を80%と仮定しています)、毎日6,000人の新規患者が発生している計算になります。

下半期の180日間で平均的に毎日6,000人患者が出るとすると、アメリカだけで、6,000人 x 180日 = 108万人。

その他全世界の先進国の需要と備蓄の需要を考えれば、200万人分というのは、新型コロナがどれだけ猛威をふるうかによりますが、そこまで実現不可能な数字ではないでしょう。

また、ギリアドはレムデシビルを吸入型(喉にシュッと)で投与する効果についてもフェーズ1の治験を始めました。こちらはフェーズ3で安全性と有用性が確認されれば、入院患者以外にも処方が可能となるため、市場が拡大することが期待されます

次年度以降の需要はワクチンの成否と新型コロナがどれだけ長く広まり続けるか、によるためレムデシビアの売上への貢献は読みにくいです。ただ、2020年については$4b以上の貢献が見込めそうです。

実際にギリアドは、今年前半の売上が前年度を割ったにもかかわらず、売上のガイダンスを2月時点の$22bから$23b-$25bまで引き上げています

コアビジネス(HIV、C型肝炎)

ギリアド決算資料より

第二四半期の売上は前年比7%減の$5bで、前半は3%減の$10.5bでした。こちらは下記の原因です

  • 新型コロナの影響で外来患者が減少したことにより、HIVやC型肝炎の診断が遅れ、新規の患者数が減少した
  • Ranexa, Letairisのジェネリックが2019年より発売され、ジェネリックにシェアを取られた

ギリアドはC型肝炎向けのソバルディ・ハーボニーで売上高を大きく増加させましたが、以前の記事にも書いたように、「効きすぎて」患者がいなくなったため、今では前年比で売上を減少させる要因になっています。

ビジネスの80%を占めるHIV向けの売上は堅調であるため、ビジネスの基盤はしっかりしていると言えるでしょう。

特に主力製品であるBiktarvyは引き続き高いシェアを維持しており、GSKのViiVからの攻勢を退け、引き続き70%近いシェアを確保していると考えられます。

また、売上の10%超を占めるC型肝炎の患者も病気が消えるわけではないので、新型コロナが落ち着けば、新規患者数が増え、売上は少しずつ戻っていくと考えられます。

ギリアド決算資料より

細胞療法

まだ売上の2%と小さいですが、ギリアド(正確には買収したKite Pharma)が積極的に投資をしているのがCAR-T細胞療法という新しいガンの治療法です。

CAR-T細胞療法では、患者さんのT細胞を接種し、遺伝子操作によりCARという特定のガンの抗原を認識する部位をT細胞に付与し、患者さんの体内に戻すことで、ガン細胞を排除します。

現在は世界の市場は立ち上がったばかりで、限られた血液中のガンに関して適応が認められています。市場調査レポートに2027年には$8bの市場になると見込まれており、現在認可されているのはギリアド のYescartaとノバルティスのキムリア(Kymriah)です。

今期、ギリアド はTecartusという薬がFDAより、再発または難治性マントル細胞リンパ腫(MCL)の適応を取得しました。承認の元となった治験のZUMA-2では82%の患者さんに効果があり、62%の患者さんは全ての病変が消失した(完全奏功)し、高い有効性を示しました。

こちらは標準治療がまだ確立していない希少な病気であり、市場は小さいですが、CAR-Tの市場で2つ目の製品の承認を取れたのは大きな一歩です。

ただし、Tecartusの治験結果であるZUMA-2のプレスリリースを見る限り、サイトカイニン放出症候群が18%の患者で発生したり、37%で神経毒性が出たり、56%で重篤な感染症にかかったり、と副作用の率が相当に高いです。CAR-T細胞療法の他の治験結果も同様に副作用の率が高いので、まずこの薬から始める、というファーストライン(第一選択薬)にはなり得ないでしょう。

2025年時点において、市場が$8bまで成長すれば$2bくらいの売上は見込めるかもしれませんが売上の柱になるか、と言われればギリアドの規模からするとやや貢献が限られる印象です。

将来への投資(その他のパイプライン)

ギリアドは積極的に炎症性疾患(リウマチなど)向けの薬とガン向け抗体医療に投資をしています。どちらも非常に大きな市場です(例えばリウマチ向けの薬は米国だけでも$10b近い市場です)

ギリアド決算資料より

特に抗体医療について買収や提携を行っており、パイプラインはかなり充実してきています。

これらのパイプラインはまだフェーズ3の結果が出ていないために評価はしにくいですが、有効性・安全性が確認されれば、C型肝炎向けに代わる新たな柱になる可能性があります。

2020年の見通し

売上のガイダンスの中央値、non-GAAPのEPSも10%情報修正されました。

現在の株価$70に対し、non-GAAPのEPSベースで考えると、PER10程度です。S&P500のCY2021ベース平均のPERが20を超えていることを考えると、割安です。

2020年のカタリストは下記です。

  • ワクチンの有効性が示されず、レムデシビルの需要が急増する
  • 新型コロナ患者が冬になり急増し、レムデシビルの需要が急増する
  • レムデシビルの吸入型のフェーズ1治験で良好な結果が出る
  • Filgotnibのリウマチ適応でFDAから承認を得る

今はやや軟調な株価ですが、ワクチン・新型コロナの行方次第で、再び注目を浴びるかもしれません。

ギリアドのビジネスについてより詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=2564 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

[st-card myclass=”” id=2545 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

ノヴァヴァックス(NVAX)の株価はどうして30%近く急騰したか?

ノヴァヴァックス(Novavax)がアメリカの「オペレーション・ワープスピード」に採択されたことにより、株価はプレマーケットで30%近く上昇しています。

今回の記事を読むと、オペレーション・ワープスピード、ノヴァヴァックス、他のワクチン銘柄への影響についてわかります。

オペレーション・ワープスピード

オペレーション・ワープスピード(Operation Warp Speed)は「2021年1月までに3億人分の新型コロナ向けワクチンを生産する」ことを目指した米政府のプロジェクトです。

米政府はワクチンの開発、生産、流通企業に対して投資と有形無形のサポートを行うことで、この目標を達成しようとしています。主要な政府機関が一丸となったプロジェクトであり、一言で言えば、新型コロナに対するアメリカの「総力戦」プロジェクトです

OWS is a partnership among components of the Department of Health and Human Services (HHS), including the Centers for Disease Control and Prevention (CDC), the Food and Drug Administration (FDA), the National Institutes of Health (NIH), and the Biomedical Advanced Research and Development Authority (BARDA), and the Department of Defense (DoD). (HHSホームページより。要は総力戦)

予算総額は$10b (1兆1000億円)と巨額の国家プロジェクトです。そのうち、$6.5bはBARDAを通じてのワクチン・治療薬の開発・生産に、$3bはNIHに割り振られています。

これまでオペレーション・ワープスピードでは、ワクチンの「開発」には3社に対しての支援が発表されていました。その3社とはJ&J、モデルナ(Moderna)、アストラゼネカ(AstraZeneca)です。Novavaxは4社目となります。

支援額 (m$) 7/7現在の進捗 メモ
J&J $ 456 フェーズ1/2準備中
2021年に10億本生産予定
Moderna $ 483 フェーズ3準備中
FDAの優先審査付。フェーズ3は7月後半より
AstraZeneca $ 1,200 フェーズ3進行中
3億本のワクチン供給含む。フェーズ3は8000人登録済み
Novavax $ 1,600 フェーズ1/2進行中
1億本のワクチン供給含む。フェーズ3は秋を予定
合計 $ 3,739

製造ではEmergent Biosolutionsが選ばれており、ワクチンの製造能力拡大のため、$628mの支援を受けています。

この他にもワクチン開発企業としては、Pfizer(ファイザー)/BioNtech(バイオンテック)、Sanofi(サノフィ)・グラクソスミスクラインなどがありますが、これらの企業が今後選ばれるかはわかりません。

これまでに発表された支援の合計がまだ$4.4bであり、予算の$10bの半分すら消化されていないため、今後も他の企業が支援を受ける可能性は十分あります

ノヴァヴァックス

ノヴァヴァックスは研究開発段階の製薬会社です。

インフルエンザワクチンをはじめとした5つの製品に対して、6つの治験が走っています。そのうち、2つのワクチンはすでにフェーズ3の試験を行っています。

Novavax pipeline

モデルナ、バイオンテックと同じく、まだ承認された製品がありません。

株価は新型コロナ向けワクチンへの期待によって大きく上昇しています。

今年の初めから考えると$7から$70超えとすでに10倍株でしたが、今回の発表を受けて、さらに株価は上昇し、15倍株になろうとしています。

ノヴァヴァックスのワクチン候補(NVX-CoV2373)は5月より健康な18-59歳の男女130人を対象に、フェーズ1/2を行っています。中間結果が7月末までに発表される予定です。

結果をみるまではこのワクチンが有望かどうかはまだわかりませんが、「オペレーション・ワープスピード」に採択されたことから、現在までの結果は悪くないのでしょう。

ノヴァヴァックスは秋に30,000人を対象としたフェーズ3の試験を行う予定です。こちらは先頭を走るアストラゼネカ、モデルナ、ファイザー・バイオンテックと比べると2-3ヶ月後に結果が出ることになります。

他の銘柄への影響

ワクチン業界は、メルク、サノフィ、グラクソスミスクライン 、ファイザーの4社のほぼ寡占状態であり、これらの企業が豊富な経験と製造技術を保有しています。

一方、ノヴァヴァックスはこれまでにワクチンを商業化させた実績のない企業です。オペレーション・ワープスピードに採択されたことは大きな成功ですが、臨床的な成功とは無関係です。ワクチンに有効性、安全性が求められる以上、結局は「フェーズ3の結果がどれだけ良いか」が鍵を握ります。

現在、10を超えるワクチンの臨床試験が走っており、どの企業も国からの支援を受け、数億本の生産能力を事前に確保しようとしています。

つまり、フェーズ3の結果が良い企業が複数出てきた時には、人類にとっては望ましいことですが、他の銘柄にも影響を及ぼします。特に臨床試験の進捗で先頭を走るアストラゼネカは少なくとも最初の20億本はほぼ無利益でワクチンを提供することを決めているので、市場に悪影響を与える可能性が高いです。

フェーズ3が7月に開始し、進捗が発表されるのは最速でも8月以降からと想定されるため、8月はワクチン関連のニュースがテレビ・新聞を賑わしそうです。

mRNAベースのワクチンを開発している他の企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=2522 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

[st-card myclass=”” id=2580 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

アストラゼネカのワクチンに関する記事はこちらです。

[st-card myclass=”” id=2597 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

Betmob|投資家ブログまとめメディア

アストラゼネカ(AZN) 新型コロナ向けワクチンの市場破壊

新型コロナ向けワクチンの開発と臨床試験が加速しており、米国、欧州、中国の製薬会社が一番手をめぐり競っています。英アストラゼネカ(AstraZeneca)は先頭を走る企業の一つです。

今回は、ワクチン市場、アストラゼネカのワクチンの開発と治験の進捗状況、そして他ワクチン開発企業への影響、の3点をみていきます。

ワクチン市場

Market Research Reportによれば、ワクチン市場は2018年で$41.6b(4兆5000億円)で、年率10%以上の成長を続け、2026年までに$93b(10兆円)まで拡大すると予想されています。

ワクチンは人口拡大、ワクチン普及率の上昇、新たなワクチンの発売に伴う需要喚起、により市場が安定的に拡大していっています。

一方、ワクチンは製薬の中でも大変な分野です。健康な人を対象とするために、リスク便益の観点から、安全性への要求が治療薬よりも厳しくなります。また、長期での安全性が求められるため、治験もその分長くなります。

また、ワクチンの種類にもよりますが、ウイルスの遺伝子組み換えにより作られるワクチンなどは生産にも高い技術力が要求され、大量生産のハードルも通常の低分子薬の生産よりも高くなります、

つまり、ワクチンは開発・生産に多額の資本と高い技術が必要であり、参入障壁が高い(参入しにくい)分野であると言えます。裏を返せば、一度ワクチンを発売してしまえば新規参入が入ってきにくいため、稼ぎ続けることができます。

例えば、世界最大のベストセラーワクチンであるPfizerのPrevar 13は肺炎球菌向けのワクチンであり、市場を長年ほぼ独占しています(2015年でシェア75%以上)。

売上は2010年の$2.4bから順調に拡大し、2019年には$5.8b (約6,000億円)の売上です。今ではファイザーの製品の中で最も売上の高い製品の一つになっています。

WHOのGlobal vaccine market reportによると、ワクチンの価格は$1-$50と大きく幅があり、新しく販売されるワクチンほど価格が高くなる傾向にあります。

同資料では、Prevnar 13の平均販売価格は$48程度と推定しています。つまり、高い価格の部類です。

ファイザーのPrevnarは独占状態をいかして高い値付けにし、高い売上と利益率を享受している一つの例です。

AstraZeneca(アストラゼネカ)のワクチン

英AstraZenacaはOxford(オックスフォード大学)と組んでワクチンを開発しています。現在、治験が行われているのはOxfordのワクチングループが開発した組換えアデノウイルスを用いたワクチンです(AZD1222)

新型コロナ向けワクチンでは最も開発状況が進んでいる一社です。6月よりフェーズ3(最終の大規模な治験)に入っており、8,000人が登録済みです

アストラゼネカはすでに米国、英国、欧州とワクチン提供の契約を行っています。

  • 米政府機関BARDAより$1b (1,100億円)の開発援助を受けた。4億回分をUS/UKに (US 3億、UK 1億 – FIERCE PHARMA)
  • 欧州(ドイツ、フランス、イタリア、オランダ)に4億回分を「利益なしで」提供(AstraZeneca Press Release)
  • ワクチンをCEPI、Gavi, the Serum Institute of India (SII)を通じて新興国に提供. CEPI、Gaviに3億回分を$750mで販売($2.5/回)。
  • SIIは10億回分を新興国向け(主にインド)に提供し、そのうち4億回分を2020年末までに提供する

すでに契約されているワクチンの量だけでも、20億回分を超えます。加えて、4億回分を2020年末までにワクチンを供給することを約束しています。

アストラゼネカはこのワクチンを利益0で提供する方針です。

ワクチンを利益0で提供すること自体は非常に世の中のためになっていますし、公益性の観点から望ましい行動です。

アストラゼネカにはワクチンで売上がなくてもやっていけるだけの企業体力と、評判・ブランド力を高めて他の製品を売るという動機があります。

一方、利益目的で研究開発を行っている他のワクチン開発企業からしたらたまったものではありません。市場を壊す、自爆テロのようなものです。

ワクチン銘柄への影響

具体例で考えてみましょう。モデルナ、バイオンテック・ファイザー、は同じくフェーズ3の試験を7月に始めようとしています。アストラゼネカの方が若干治験で先行しています。

仮にアストラゼネカの治験でワクチンの有効性・安全性が確認され、アストラゼネカが2020年末に「$2.5/1回」のワクチンを政府向けに提供したとしましょう。

すると、類似する製品がないため、世界ではその価格が一つの物差しとなります

後続のモデルナ、バイオンテック・ファイザーからすると、本当は1回$30 x 2回で計$60などの価格をつけたかったとしても、それを行うと「アストラゼネカの20倍なのか」、「こんなに大変なパンデミックの時に暴利を貪るのか」という社会からの批判が予想されますし、競争の観点からも、あまりに高い価格をつけるのが難しくなります。

また、有効性・安全性での差別化を行うためにはある程度長い期間のデータが必要となりますが、今年の末発売のワクチンですとどのワクチンも半年程度のデータしか入手できません。

よって、データで優位性を強調するのもやや難しくなります(通常必要となる1年後の安全性・有効性すら確認できないため)。

加えて、モデルナ・バイオンテックのワクチン手法であるmRNAは壊れやすいために低温保存が必要となり、その分流通コストが高くなります。アストラゼネカのワクチンと同じ価格をつけると赤字になる可能性大のため、同じことはできません。

アストラゼネカは主要な市場(米、西欧)に安価でワクチンを提供する契約をすでに結んでいます。

つまり、「アストラゼネカのワクチンの成功は他のワクチン開発企業にとって最大の脅威」になる可能性が高いです。

ワクチン銘柄に投資をしている場合、その銘柄の臨床試験の結果のみならず、アストラゼネカの臨床試験のニュースにも注意を払っていた方が良いかもしれません。

mRNAベースのワクチンを開発しているもう企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=2522 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

[st-card myclass=”” id=2580 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

Betmob|投資家ブログまとめメディア

バイオンテック(BNTX) 欧州のワクチン期待の星

新型コロナが猛威を奮い続け、世界中がワクチンを待望しています。そんな中、バイオンテック(BioNTech:BNTX)・ファイザーがワクチンの臨床試験の中間発表を行いました。相場全体にも影響を与えたこの発表、いったいどんな内容だったでしょうか?

この記事を読むと、バイオンテック、治験の結果、今後の展開、最短でいつワクチンが出るか、がわかります。

バイオンテック(BioNTech)

バイオンテック(BioNTech)はモデレナ(Moderna)と同じく、研究開発段階のバイオ製薬企業です。本社はドイツにあります。

mRNAという「どのタンパク質を作るか」の情報を持ったRNAに特定のタンパク質を作らせる情報を乗せることによって、様々な病気の治療に適用することを目指しています。

現在は11の製品が臨床試験に入っていますが、ほとんどがフェーズ1という、人を対象にした臨床試験のはじめの段階です。

バイオンテックの主なターゲットはガン・感染症です。新型コロナに対しては、BNT162がワクチン候補にあたります。

バイオンテックはファイザー(Pfizer)と中国以外のワクチンの開発と製造で提携しており、中国については中国企業のFosun Pharmaと提携しています。

バイオンテック・ファイザーのワクチン試験結果

バイオンテックが用いるワクチンは、mRNAを用いる方式です。

これまでmRNAを用いたワクチンはありませんでした。

実績がないため、「mRNAを用いて本当に有効なワクチンができるのか」、「安全なのか」、が疑問点でした。この疑問に対して、フェーズ1・2の試験が行われました。

バイオンテックがファイザーと共同で行ったフェーズ1・2の臨床試験の枠組みは以下です

  • ワクチン候補名:BNT162b1
  • 治験の実施期間:5/4/2020 – 6/19/2020
  • 治験の参加者:19-54歳の健康な男女
  • 45人のランダム化試験(12人が10ugを中3週間空けて2回接種、12人が30ugを2回接種、12人が100ugを1回接種、9人が偽薬(プラシボ)を2回接種)

発表された中間結果の要点は以下です

  • ワクチン接種した人に、新型コロナから回復した人以上の抗体が観察された (10ugで1.8倍、30ugで2.8倍)
  • 副作用は疲労感、頭痛、寒気など。深刻な副作用はなし
  • 今後の用量は10ug-30ugの間の2回接種で検討

参考資料:Mulligan et al (2020) “Phase 1/2 Study to Describe the Safety and Immunogenicity of a COVID-19 RNA Vaccine Candidate (BNT162b1) in Adults 18 to 55 Years of Age: Interim Report“, MedRxiv

一言で言えば、ポジティブな結果です。

今回の中間報告では最初のワクチン接種から35日間までで、急性の深刻な副作用は観察されませんでした。これは安全性という点で良い知らせです。

次に、「新型コロナの症状(COVID-19)から回復した人以上の抗体が観察された」、というのも良い知らせです。mRNAを用いたワクチンからも抗体がきちんと形成されることを、この中間結果は示しました。

しかし、今回の試験の結果はまだまだ序の口にしか過ぎません。

今後、臨床試験で確かめられるべき項目

今回の結果はあくまでも「中間」報告です。

今回の臨床試験(フェーズ1・2)の追跡とフェーズ3の大規模臨床試験で下記の点がデータで示される必要があります

  • 中長期の安全性(特に半年後、2年後までの安全性)
  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、そもそも抗体が機能するか
  • 抗体が機能する場合、ワクチンで増加させられた抗体の増加がどの程度持続するか。
  • ワクチンを接種した人がコロナにかからなくなるか
  • 高齢者にも用いることができるのか

「新型コロナが体内でどう働くのか」、「私たちの免疫がどのように新型コロナに反応するのか」などまだわかっていないことが多く、今回の中間報告の「抗体が増えた」というだけでは効果があるとは断定できません

ウイルスの中には私たちが抗体を持っていても抗体をすり抜けて増殖するものもありますし、抗体のレベルによっては再感染することも十分にあり得るためです。

そのため、フェーズ3の結果が出るまでは、バイオンテックのワクチンが機能するかどうかはわかりませんし、これはどのワクチン候補についても当てはまります。

最短でいつ、どれくらいワクチンができるのか

新型コロナのワクチンを審査する際のガイドラインをFDAが6月30日に公開しました。

一言で言えば、「新型コロナのワクチンがいくら緊急で必要だとしても、安全性・有効性をきちんと審査をするよ」。

真っ当な内容です。

「選挙前までに承認しろ」という政治からの圧力が相当にあったことが容易に予想されるため、圧力に屈しなかった点は評価されても良いでしょう。

過去に「インフルエンザワクチンの承認を急いで、結果的に副作用が出て、FDAが叩かれた」という歴史の教訓です。

最短でいつワクチンが出るかを考える上で重要なのが下記の部分です。

Serious and other medically attended adverse events in all study participants for at least 6 months after completion of all study vaccinations. Longer safety monitoring may be warranted for certain vaccine platforms (e.g., those that include novel adjuvants).(少なくともワクチン接種から6ヶ月後の間に起きた重篤な副作用のデータを、安全性の証明として要求する)

つまり、フェーズ3の大規模試験に参加した人の6ヶ月先のデータを得るまで、米国のワクチンの認証はおりない、ということです。

現在、ワクチン開発の先頭を走るモデルナのフェーズ3が始まるのですら7月ですので、データが集まるのはどんなに早くとも来年1月。

そこからデータの収集・分析、FDAへの提出、FDAの審査、というプロセスがあるため、どんなに早くとも最初のワクチンのFDA認証がおりるのは来年1月後半でしょう。

バイオンテック・ファイザーも7よりフェーズ2b・3を始める予定ですので、モデレナとともに先頭を走っています。(BioNTech Press Release)

プレスリリースによると、バイオンテック・ファイザーは2020年末までに1億人回分、2021年末までには12億回分のワクチンの生産ができる見込みです。

バイオンテックの株価

BioNTech Stock Price

バイオンテックはコロナ前までは$40程度でしたが、現在は$64まで急進しました。

時価総額で言えば、$14b (1兆5000億円)ですでに中堅のサイズです。ただし、モデレナの$24b (2兆6000億円)と比べれば60%程度です

どちらの企業もmRNAをベースにしたワクチンを、同じような程度のスピードで開発しており、新型コロナ向けワクチンへの期待で株価が上昇しています。

新型コロナ向けのワクチンがどれだけの価値があるのか、は価格、数量、有効期間、バイオンテック・ファイザーの取り分の割合、競争環境、など変数が多過ぎて予測が難しいですが、仮に下記のような仮定を置いてみます。

  • 2回の接種が必要で、合計$40
  • ワクチンは1年間有効(インフルエンザのように毎年打つことが必要)
  • バイオンテック・ファイザーの取り分は50:50
  • 毎年7000万人が接種する(米国、西ヨーロッパの10人に1人)

以上のような条件であれば、$40 x 50% x 7000万人 = $1.4b (1,500億円)が毎年の売上になります。このくらいの売上が毎年上がるのであれば、1月からの上昇分は正当化できそうです。

人類が新型コロナを気にせず生活するためにはワクチンが必要であり、バイオンテック・モデレナともにその先頭を走っています。相場全体に影響を与えるという点でも、目が離せない企業の一つです。

mRNAベースのワクチンを開発しているもう一つの企業、モデレナ(Moderna)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=2522 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

Betmob|投資家ブログまとめメディア

ギリアド (GILD) の新型コロナ治療薬、25万円は高いのか?

製薬のギリアド・ライフサイエンシズが世界初の新型コロナ向け治療薬のレムデシビルの価格を発表しました。

先進国向けの「25万円」という価格に対して、2つの驚きがあるように見えます。一つは「高すぎる」。もう一つは「安すぎる」。今回は薬の価格について書きたいと思います。

この記事を読むと、薬の効果と価値、価格の決め方、なぜレムデシビルがその価格をつけたのか、がわかります。

レムデシビルの効果

NIAD (National Institute of Allergy and Infection Disease)が行ったACCT-1試験とギリアド主導で行ったSimple Trialの2つの臨床試験からは、下記のような効果が観察されました。

Remdesivir Clinical Trials

結果の抜粋は以下になります。

  • 中程度の患者に対して、5日間処方すれば、標準治療よりも65%高い確率で患者さんがより症状が改善した状態となる (SIMPLE trial)
  • 5日間の処方も、10日間の処方も、統計的に有意な差は生じていない (SIMPLE Trial)
  • 重症者に対して、レムデシビルは死亡率について統計的に有意な改善は示さなかったが、平均4日間入院期間を短縮できる(NIAID study  ACCT-1 Trial Journal)
  • 標準治療と比較して、統計的に有意な重篤な副作用は観察されなかった (SIMPLE Trial)

つまり、レムデシビルの主な効果は、「より良い状態になる」と「入院を4日間短縮できる」という2つです。

レムデシビルの経済的な価値

「より良い状態になる」という価値は算定しにくいですが、「平均4日間入院期間を短縮できる」ことには明確な経済的な価値があります。

患者さんからしても早く退院して日常に戻りたいです。

病院としてもベッドが早く空けば、より収益性の高い手術の回数を増やして収益を増やせるため、入院期間を短縮させたいです。実際に病院に支払いを行う保険会社の視点からしても、入院期間が短くなればそれだけ病院に支払う入院費用が減らせるため、望ましいです。

この3者にとっての価値が薬の価格に影響を与えるのでしょうか?

実は、この3者の視点は価格決定のときに考慮はされますが、価格決めで最も大事なのは保険会社の視点です。患者さんではありません。理由は、お金を出すのが保険会社であるからです。

他の産業とヘルスケアでは、サービス・薬で便益を受ける人と、実際にお金を支払う人が異なることが大きな相違点です

薬の価格は、「お金を支払う人の視点から見て、どのくらい価値があるか」が重要になります。

米国の場合は公的保険は政府、私的保険は民間保険会社になります。日本をはじめとする多くの西欧の場合は、国民皆保険であるために政府となります。つまり、政府および民間保険会社の視点が最も価格に影響してきます。

米国においてのレムデシビルの価値をCEOのDaniel O’Dayは下記のようにOpen Letterで述べています

Taking the example of the United States, earlier hospital discharge would result in hospital savings of approximately $12,000 per patient (米国の例では、(4日間)退院を早めることは、患者さんあたり$12,000の価値があります)

つまり、レムデシビルを処方することは政府・保険会社にとって$12,000の価値があるよ、と言っています。

実際、米国では州や病院の形態にもよりますが、ベッドを1日使われる費用で$3,000かかることはあり得るので (参考:Becker’s Healthcare)、保険会社・病院の視点から見て入院を4日間減らせることに$12,000の価値がある、というのは大げさではありません。

異なる視点では、NPOで薬の価格が適切かの分析を行っているICERが算出したコスト便益分析では、米国では$4,500-$5,000が適正価格であり、重症患者に対して効果があるというdexamethasoneを対照群とした場合は、$2,520-$2,800まで落ちる、と分析しています (ICER Remdesivir)。

Dexamethasoneはあくまでも重症患者に対する効果しか現在まででは報告されていないため、ICERが中程度の患者さんに処方する前提で対照群とするのはやや厳しい見方です。最大限厳しめに見て、$2,520というところでしょう。

まとめると、$2,520から$12,000まで、幅広い価値の推定が行われていました。薬の価値の決め方には幅があり、難しいとも言えます。

レムデシビルの価格

6月29日に、ギリアドのCEOであるDaniel O’Dayがレムデシビルの価格を発表しました。

  • 先進国の政府向けは5日間の治療前提で、$2,340 (約25万円。1本$390 x 6回分)
  • 米国の民間保険会社向けは5日間の治療前提で、$3,120 (約34万円。1本$520 x 6回分)
  • 新興国向けはジェネリックの製造メーカーと組み、より安価で提供する (インド、バングラディシュでの販売価格は1本$40-80程度と報道されています。先進国の1/10から1/5です)

この価格の水準と出し方について、3つポイントがあります。

価格の水準

1つ目は、政府向けの価格の$2,340は、$2,520-$12,000という価値の幅のさらに下であった、という事です。

未曾有の危機である新型コロナで、初の治療薬であるレムデシビルの価格には世界中から注目が集まっていました。ここで、$4,000程度でしたら、米国内ではコスト便益の観点から、「適正な価格をつけた」と評価されていた可能性が高いです。

ギリアドはさらに一歩踏み込んで、ICERが算出した価格の下限である$2,520よりもさらに低い価格をつけました。ICERが出す数字は政治家も用いる数字であり、この下限より低い数字を出したのは、「ギリアドは世界中の人のためにできる限り多くの人の手にわたる価格をつけます」というメッセージになります。

また、米国は世界一薬の価格が高い国であり、他の先進国では米国ほど価格が高いわけではありません。米国を基準に価格をつけると、他の先進国から見ると「高すぎる」、という印象になります。$2,500を下回る価格は、欧州でも「適正だ」と受け取られる値付けをしたのでしょう。

さらに、$2,340という価格は、米国では他に効果のある薬が出てきた時にも「併用しやすい」、あるいは「コスト便益の観点から競争力がある」価格です。現在、他の製薬会社が新型コロナ向けの新薬を開発していることも意識した価格になっています。

まとめると、レムデシビルでの利益を短期的に最大化するよりも、ギリアドとしての評判と長期的な売上を考えた価格付けです。

一律の価格の提示

2つ目のポイントは、一律の価格にした事です。

薬の価格で、このように全世界で一律の価格を提示するのは、極めて異例です。

通常、認証が取得できた後、薬の価格の交渉になります。米国であれば各保険会社との個別の交渉となり、欧州・日本であれば当局との保険償還価格の交渉になります(保険償還価格=保険からいくら支払われるか。病院が保険から受け取れる価格)。

当局側もその価格が適正なのかの分析の準備がかかりますし、今回のように他に薬がないような場合ですと、前例となる物差しがないためにさらに時間がかかります。

今回の場合、各国と交渉をする時間を省きたかったことと、透明性を確保したかったのでしょう。

「みんなこの価格だよ」と言うことで、価格の自由度は失いますが、「他の国よりも高いじゃないか」、という批判は出なくなります。また、先進国はみな公平に扱うという姿勢を明確にすることで、個別の国からの値引きの要求を断りやすくする効果もあります。

言い換えれば、一律の価格を提示することで、スピードと公平性を重視しました

新興国を別枠に

3つ目のポイントは、新興国を完全に別枠としたことです。保険価格を決める際に、「参照価格」として他の国の価格を参照する国・地域が多いです。そのため、安い価格で出さないと人々の手に入らない新興国に薬を回すのは後回しになりがちです。

今回の場合、新興国を特別扱いとし、生産・販売元を分けることで、先進国の価格に影響を与えないようにしながら、新興国にも薬を提供できるようにしました。

得られるライセンス料は先進国からの収入に比べれば微々たるものだと想像されますが、各国と良い繋がりを作り、ブランド認知度を高めるのに良い方法です。

医療業界は規制業種であることから、規制当局から信頼されることは非常に重要です。今回のレムデシビル供給により、新興国における規制当局との繋がりを強める効果があると考えられます。

他銘柄への影響

ギリアドのレムデシビルの価格は、今後出てくる治療法の価格に影響します。言い換えれば、各国がレムデシビルの価格を基準に考えます。

実際、ギリアドのレムデシビルの価格はかなり抑え気味であり、重症者向けに効果があるというデータが出てきたdexamethasoneも非常に安価です。

今後治療法が出てきた時にはこの2つの薬の組み合わせよりも有効であり、かつコスト便益に優れていることを示す必要が出てきますが、これは現在治療法を開発している企業にとってはあまり良いニュースではありません。

高い価格を提示した時に社会的な批判が出る可能性が高いため、新型コロナ関連の売上予想を押し下げる要因になります。

一方、ワクチンについては、そもそもカテゴリーが違うため、あまり影響はないと考えられます。

まとめ

以上のように、ギリアドは「いかにレムデシビルの利益を最大化するか」というよりは、「中長期的にギリアドとしてビジネスを拡大していくために、いかにレムデシビルを使うか」を考えて、値付けを行ったように見えます。

これは戦略的に正しいと思います。株式市場もこの価格を正しいと捉えたようで、株価は横ばいです。

幸か不幸か、新型コロナの感染は衰える様子がなく、特にアメリカでは1日に40,000人を超える新規感染者が続いています。

worldometersより

このまま感染がおさまらなければ、アメリカ国民にとっては悲劇ですが、ギリアドにとってはレムデシビルの需要が増え、売上増に繋がりそうです。

ギリアド(GILD)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

[st-card myclass=”” id=2545 label=”米国株” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

Betmob|投資家ブログまとめメディア

ギリアド (GILD) – レムデシビルで注目を浴びるバイオ製薬会社

ギリアド・サイエンシズは新型コロナの治療薬候補として「レムデシビル」を持つことで、注目を浴びている企業です。

今回はギリアドについて分析していきたいと思います。この記事を読むと、製薬会社のビジネスモデル、ギリアド・サイエンシズのビジネス、新型コロナ向けの治療薬開発の進捗、についてわかります。

製薬会社のビジネスモデル

まず、製薬会社のビジネスモデルについて簡単に説明します。

製薬会社も製品(医薬品)の開発・生産・販売、をする点は他の業種のメーカーと同じです。一方、大きく違うのはその製品開発の特殊性です。

医薬品の開発には、長い年月と多額の費用がかかります。

医薬品は安全かつ有効な製品が求められるため、ほぼ全ての先進国で規制当局による販売規制がされています。販売するためには、規制当局の承認を得る必要があり、そのためには開発段階ごとに安全性・有効性を示すデータを提示しなければなりません。

具体的には、薬を作用させる対象を決めた後に、コンピューター上でのシミュレーション、実験室での実験、動物での治験、人間での治験(通常、安全性を見る第一段階、安全性・有効性をみて用法・用量を決める第二段階、最終的に大規模な試験を行って安全性・有効性を確かめる第三段階の三段階)、規制当局への認証申請、保険償還申請、のプロセスを経る必要があり、通常10年以上かかります。

薬の候補となる物質を研究者が見つけて、そこに社内で予算がつくのは数%。人での臨床試験までたどり着くのがさらにそこから数%。人での臨床試験(治験)段階まで進んだとしても、薬として製品化されるまで行くのはわずか12%と、8候補薬あってようやく1つが世に出る割合です。

候補となる物質から考えると、万に一つの世界です。加えて、薬として製品化された後も安全性・有効性についてモニタリングを行う必要があり、このモニタリングにも多額の費用がかかります。

複数のプロジェクトを走らせて、ようやく一つがモノになるような製品の性質上、一つの製品を開発・販売するのにかかる金額は平均$2.6b (約2,800億円)、販売後のモニタリングで$0.3mで合計約$3b (約3,300億円)かかると推定されています。10年間でこの数字は倍以上になりました。新薬の開発がそれだけ難しくなってきているからです(Joseph (2016) “Innovation in the pharmaceutical industry:New estimates of R&D costs”, Journal of Health Economics 2016)。

これだけの費用をかけて開発する医薬品ですので、他社が開発をせずに「ただ乗り」することを防ぐよう、特許による法的な保護が行われています。米国の例では、特許出願時から20年です。つまり、「その間は独占的に販売をしていいよ」、という政府からのお墨付きです。

製薬会社は「既存の製品で稼ぐことで、将来に向けての研究開発費を捻出し、自社開発または他社の買収・他社との提携を通じて、新たな製品を獲得して世に出すことでまた稼ぎ、将来への投資にあてていく」というビジネスになります。

そのため、大手製薬企業の財務を単年度で見ると、営業利益率は非常に高い一方、「研究開発費」も高い水準になります。

下のギリアドの例では、2019年の粗利益率が84%と高い一方、研究開発費(R&D)は$3.77bと17%近くであり、非常に高くなっています。

Gilead Financial Highlights 2018 vs 2019

また、その製品の性質から、買収と提携が非常に多く、ニュースを賑わす業界でもあります。

一方、特許が切れたあとは他社も参入できるようになり、一般的に特許が切れた後のその薬の価格は大きく落ちます。

「ジェネリック」医薬品という言葉を聞いたことがあると思います。これは特許が切れた後、開発元でない企業が同じ成分の薬を生産して販売している医薬品のことを言います。

米国ではジェネリック医薬品が市場に入ると値崩れすることに加え、シェアも奪われるため、「いかに特許期間を長くするか」、「いかにジェネリックが入ってこられないようにするか・入るのを遅らせるか」が製薬企業の既存の製品ポートフォリオ管理において重要になります。

バイオ医薬品

「バイオ医薬品」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ギリアドはこの分野で強みを持つ企業です。

ざっくりと言えば、バイオ医薬品以前の薬は、化学物質を合成することで製造する薬です(低分子医薬品)。化学物質と化学物質を「ねるねるねるねして作る」と想像すると、わかりやすいかもしれません。生産プロセスの管理がしやすく、大量生産に適しています。僕らが日常飲んでいる薬は、ほとんどこのカテゴリーです。

一方、「バイオ医薬品」は特定のタンパク質を生物に生産させることで得られる医薬品です。目的のタンパク質の情報が含まれた遺伝子を細胞(大腸菌、酵母、動物など)に導入し、その細胞を培養し、タンパク質を作らせて、その後に特定のタンパク質だけを抽出し、精製し、薬剤とします。

要は、バイオ医薬品は、他の生物に薬を作ってもらうという点で、ヒトが化学物質を合成して作る低分子医薬品と異なっています。

バイオ医薬品は、一般的に化学合成で作られる低分子医薬品よりも製造の難易度が高く、手間もかかります。治験で人に効果が出るタンパク質を特定できた、けれど製造がどうにもならない・・・ということも頻繁に起こります。

そのため、バイオ医薬品の開発・生産は専門性が高く、限られた大手製薬会社しか生産まで含めてできない分野です。また、バイオ医薬品は高価であることも多く、現在の新薬開発の主流になってきています。

IQVIAが2019年に発表したレポートによると、全世界のトップ100のうちバイオ医薬品は41品目で、低分子医薬品は59品目。売上で見るとバイオ医薬品が低分子医薬品を上回りました。低分子医薬品の大型製品が特許切れで売上が減少するのに対し、バイオ医薬品はまだ特許が残っている製品が多く、バイオ医薬品の製薬全体に占める割合は年々上昇していっています。

また、バイオ医薬品は「再生医療」や後述する「細胞療法」など新たな治療法が生まれてきており、発展著しい分野です。

ギリアドのコアビジネス

ギリアドはバイオ製薬会社であり、主にHIV向けの薬とC型肝炎向けの薬(HCV)に強みを持っています。もう一度2018/2019年の売上を見てみましょう。売上の70%以上がHIV向けで、15%程度がC型肝炎向けです。Yescartaという新規事業が2%程度、その他が10%程度です。

Gilead Financial Report 2018 vs 2019

特にHIV向けの薬はシェアが高く、アメリカではシェア上位の薬を独占し、シェアNo.1。欧州でも高いシェアを誇ります。
C型肝炎ビジネスもソバルディ・ハーボニーという優れた製品を保有し、アメリカでは60%近いシェア、欧州でも高いシェアを持ちます。

C型肝炎ビジネスの売上が急激に減少しているのは、競合がいることもありますが、この薬が「効きすぎる」ためでもあります

実際、ギリアドの売上はこの薬の爆発的なヒットのため、2010年代中盤にピークを迎えました。

下の図のように、ギリアドのビジネスは「HIV向け」が順調に毎年伸びる一方、C型肝炎向けのビジネスは急速に伸びた後、急激に失速しています。なぜでしょうか?C型肝炎は、インターフェロンという体の中でも作られるタンパク質を注射することでC型肝炎ウイルスの排除を行う治療が以前までの標準治療でした。こちらはC型肝炎の種類にもよりますが、完治率は低く、治療期間も長いため、多くの患者さんが新しい薬を待ち望んでいました。

それに対し、ハーボニー・ソバルディは完治率が非常に高く、さらに治療期間も短い、という患者さんにとっては福音でした。そして、瞬く間にシェアを得て、これらの薬は普及しました。これがC型肝炎向けビジネスが爆発的に伸びた理由です。

結果、何が起きたのでしょうか? ハーボニー・ソバルディが必要な患者さんが激減したのです。高血圧や糖尿病などの生活習慣病であれば、ずっと薬を飲み続けるため、患者さんが生きている間は需要が見込めます。一方、画期的な新薬で患者さんが完治すると、患者さんはいなくなります。

つまり、発売されて数年が経つと、既存のC型肝炎で苦しんでハーボニー・ソバルディが必要となる患者さんが激減し、薬の需要が新規でC型肝炎にかかる人のみになってしまいます。当然、対象となる患者さんが少なければ売上も落ちます。C型肝炎向けのビジネスは年20%以上の勢いで減少していますが、これは薬の競争力が落ちているわけではなく、そもそも需要が減っているためです。

一方、HIV向けの商品は、HIV患者はHIVの発症を抑えるために薬を飲み続けなければならないため、既存の患者さんは薬を飲み続け、新規の患者さんもギリアドの薬を飲むことになります。つまり、売上は積み上げ式になり、患者さんが生存し続ける限り、増えていきます。事実、HIV向けの製品の売上は順調に増加を続けています。

画期的な新薬は必ずしも長期的なビジネス的成功につながらない、というのは古くからある製薬ビジネスのジレンマです。継続的に飲み続けられる生活習慣病や、患者数が多く再発率も高いガン治療向けの開発プロジェクトが多いのはそういう背景もあります。

HIVやHCVと並んでいるYescartaは「細胞療法」と呼ばれる新しい治療法であり、FDAから認可を受けたのは2017年。まだまだ薬としてのライフサイクルが始まったばかりの薬です。ギリアドはこの技術と製品を持つKite Pharmaという企業を2017年に1兆円以上の金額で買収しました($11.9b)。

現在はほぼ同時期に認証を受けたノバルティスのKymriahとギリアドのYescartaの2つがFDAより商品として認可されています。

細胞療法は生産が非常に難しく、現在は適応も限られている(=使うことができる患者さんが限られている)ため、ほぼノバルティスとギリアドが寡占状態になる可能性が高いです。先行者利益が取りやすく、より多くの病気に適応できるようであれば市場も拡大するため、将来が期待できる事業です。

以上のように、ギリアドは堅いコアの事業(HIV、C型肝炎)と細胞療法(例: Yescarta)というバイオ製薬の中でも新しい分野を既存製品として持っています

C型肝炎のビジネスの下げ止まりが見えていないこと、その他事業(B型肝炎向け治療薬など)が減益傾向にあることから、HIVとYescartaの成長と相殺され、しばらくは売上は横ばいでしょうが、商品の競争力があることと主要製品の特許期間もまだ余裕があるので、当面大崩れはしなさそうです。

ギリアドの開発パイプライン

ギリアドの開発パイプライン

「製薬会社のビジネス」で述べたように、製薬会社のビジネスは今の既存の薬が特許で保護されているうちに稼ぎ、次の新薬を育てる、のが基本的な経営方法です。ギリアドは自社開発に加え、買収や提携で開発のパイプラインを拡充しています。

ギリアドは強みを持つ感染症向け(主にHIV)に加えて、炎症性疾患(リウマチなど)、繊維性疾患、ガン向けに注力する方針です。感染症向けは主に現在のHIV向け製品のポートフォリオ強化でより現在の地位を盤石にするためであり、ガン向けは主にKiteが担います。

「製薬会社のビジネスモデル」の項でも述べたように、臨床試験に入った薬でも販売までたどり着くのが8つに1つの世界です。炎症性疾患、ガンともに市場が大きいので良い治験結果が出る商品が出せれば大きな可能性がありますが、製薬につきものの運頼みです。

また、炎症性疾患、ガン向けともに競争が激しい分野なので、臨床試験での有効性に注目です。

レムデシビル (Remdesivir)

レムデシビルは抗ウイルス剤として新型コロナにかかった患者さんに一定の効果がみられたため、注目されています。現在は、日本では新型コロナの重症患者向けの承認を受けており、米国ではEmergency Use Authorization(一時的な許可)を得ています。

レムデシビルについて、現在の治験結果からわかっていることは以下です。

  • 中程度の患者に対して、5日間処方すれば、標準治療よりも65%高い確率で患者さんがより良い状態となる (SIMPLE trial)
  • 5日間の処方も、10日間の処方も、統計的に有意な差は生じていない(SIMPLE Trial)
  • 重症者に対して、レムデシビルは死亡率を改善はしないが、平均4日間入院期間を短縮できる(NIAID study)
  • 標準治療と比較して、統計的に有意な重篤な副作用は観察されなかった (SIMPLE Trial)

これまでに行われたランダム化された臨床試験結果から見るに、レムデシビルは決定的に効果的な治療薬ではなく、「ないよりはマシ」な薬です。中程度の患者さんを良くする可能性が高まること、入院期間を短縮できること、のどちらも患者さん、病院にとって価値があります。重篤な副作用がみられなかったことから、現時点では安全性についてもクリアしているように見えます。

一方、現時点で得られているデータは数ヶ月後、1年後などにフォローアップが行われたものではなく、あくまでも速報であり、かつ数百人程度の小さいサンプル数から得られたデータであるため、今後大規模に使用されたときに副作用が報告される可能性は残っています。

現在、治療薬ではdexamethasoneが「重篤な患者」の死亡率を改善させる、とイギリスの治験から発表が出ています(WHO News)。これは非常に良いニュースですが、「重篤な」状態に至る前に治療する方が望ましいため、中程度の患者さんに処方することでメリットのあるレムデシビルの必要性は残ります。

第三段階のさらなるフォローアップの結果、他の治療薬の開発進捗次第(ファビビラデル(アラガン)など含む)ではありますが、速報と同程度の有効性と安全性が観察されれば、薬として米国、欧州、日本で中程度の新型コロナの患者さん向けに認証される可能性は高いのではないかと考えられます。

価格は先進国の政府向けで5日間の治療で$2,340、民間向けで$3,120と発表されました。コスト便益分析からは$4,000程度が妥当と言われていたので、批判が出にくいよう、かなり価格を抑えた印象です。新興国向けには異なる価格が適用されます。

まだまだ新型コロナは収束時期が見えておらず、今後新型コロナで中程度と診断される人の数の推定は難しいです。過去6ヶ月で世界の感染者は1,000万人、死亡者は50万人を超えました。

仮に先進国、米国民間向けに年間100万人分を平均$3,000で販売したとすると、

100万人 x $3,000 = $3b (3,300億円)と、現在の売上を15%増やす計算になります。価格を抑えているので粗利益率はそこまで高くないかもしれませんが、純利益ベースでも10%程度は増えてもおかしくないかと。

また、将来の可能性として、現在のレムデシビルの投与は点滴方式ですが、ギリアドはレムデシビルの吸引型の治験をはじめました。仮に吸引型で効果が出るならば、軽症の患者さん向けにも処方しやすくなるため、よりビジネスとしての可能性が広がります。

通常の治療薬、ワクチンの開発には10年以上かかることがざらであること、治験に進んだ治療薬・ワクチンであっても有効性・安全性を兼ね備えて認証される製品は10%台であること、を考えると、夏が過ぎても「レムデシビル」のみが唯一の選択肢になる事態も十分に考えられます

ワクチン、他の治療薬の治験結果があまりよくないと、世界中でレムデシビルの需要が突発的に増加する可能性があります。

ギリアドの株価

ギリアドの株価は現在$75程度で、年初の$65から15%程度上昇しています。

元々のビジネスが安定しており、かつ大きい分、コロナ関連のニュースによる株価の変動幅はワクチンで注目されているModernaやBioNtechなどと比べると小さくなっています(これらの企業の売上はほぼ0で、ワクチンの行方に売上がより大きく左右されるため)。

配当は直近四半期で$0.68となっており、配当利回りでも3.7%と高めです。2019年のEPSは$4.22で、PERは18程度。

ギリアドは、バイオ製薬企業としても、新型コロナに関連した銘柄としても、注目すると面白い企業かと思います。

米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

[st-mybutton url=”https://akihbs.com/category/us-stocks/” title=”米国株の記事一覧へ” rel=”” fontawesome=”” target=”_blank” color=”#fff” bgcolor=”#e53935″ bgcolor_top=”#f44336″ bordercolor=”#e57373″ borderwidth=”1″ borderradius=”5″ fontsize=”bold” fontweight=”bold” width=”” fontawesome_after=”fa-angle-right” shadow=”#c62828″ ref=”on”]

Betmob|投資家ブログまとめメディア