2010年代に起きた、5つの大きな変化・トレンド

投資・ビジネスを考える上で、世界がどう変わっていくかのトレンドを考慮することは重要です。2020年からの10年に何が起きるかを考えるためにも、2020年までの10年で何が変わったか、このトレンドが続くのか、を見ていきましょう。

スマートフォン:全世界が市場に

2010年代の10年間で最も大きな変化は、スマートフォンの普及、と言っても過言ではないかもしれません。

iPhoneの1号機が発売されたのが2007年です。2010年からスマートフォンの販売は急速に上昇し、2014年には12億台を売り上げました。

2015年以降、全世界で毎年15億台前後のスマートフォンが販売されています。

Number of smartphones sold to end users worldwide from 2007 to 2020 (Statista)より

中国、インドのメーカーが廉価版を販売したこともあり、2010年代にスマートフォンは世界中に行き渡りました。

先進国では、PCからスマートフォンへ移行したのに対し、発展途上国ではPCのステップを飛ばしてスマートフォンを使い始めました。

2010年代は世界中の中間層以上のほぼ全員がインターネットへのアクセスを得た、と言っても良いかもしれません。

スマートフォンは電話、カメラ、メール・インターネット、ゲーム等、2000年代ではそれぞれの用途ごとに別々に存在していた機器を全て統合し、人々の手元にもたらしました。

また、オンラインでのモノ・サービスの購入を当たり前にし、人々の購買のパターンが変わりました。

スマートフォンが普及したことによる、いくつかの業界における変化の例は以下です。

  • デジタルカメラ市場の消失(ハイエンドのアナログ・デジタルカメラ以外の需要がスマートフォンに食われました)
  • 新聞・本・雑誌の紙のメディアの衰退とオンラインメディア・ソーシャルネットワークの影響力増大
  • テレビの影響力の減少とオンライン動画メディア(Youtube, Netflixなど)の影響力増大
  • 小売の衰退(オンラインと実店舗の競争により、実店舗の小売の需要がオンラインに食われました)
  • オンラインとオフラインの融合(オンラインで事前に注文し、店舗で当日に受け取る、など)
  • インターネットサービスのPCファーストからスマホファーストへの移行
  • スマートフォンで操作できるIoTが身近になった(アレクサ、スマートセンサーなど)

2010年代に起きたこれらの変化は不可逆です。新型コロナの影響で人々が家にいる時間が伸びたことから、人々の活動におけるオンラインの比重はより増しています。人々がオンラインでの活動を増やすことは、2020年代にも戻ることはないトレンドだと考えられます。

高速通信(4G):文字から動画へ

高速通信(4G)はソフトウェアの進化を支えたインフラです。

10年前は通信速度に大きな制限があったため、インターネットのメディアはデータ量の比較的小さいテキストがベースでした。

人と人とのコミュニケーションも同様で、メールやSMSなど文字と画素の低い写真が主に用いられていました。

高速通信規格である4Gが商業化されたことにより、スマートフォンが扱える通信データの量が爆発的に増加しました。これにより起きた変化のいくつかは下記です。

  • 画像・動画をふんだんに用いたコンテンツがメディアの主となってきた(Instagram, SnapChat, TikTok, etc.)
  • 通信量のかからない、アプリを用いたコミュニケーションが主となった(Whatsup, FB Messenger, LINEなど)
  • 外出先での動画を用いてのコミュニケーションが当たり前になった(Facebook Messenger, Whatsup, Microsoft Teams, Zoom, etc.)
  • スマートフォン向けゲームがよりリッチになった

歴史的にも、通信技術の進化は新たなサービスを生み出すきっかけになってきました。

2020年代で実用化される5Gはさらに高速の通信速度を持つため、動画への流れは続くでしょう。

また、5Gの低遅延の特性は、人と人のみならず、機械と機械の通信でより真価を発揮して、新たなサービスを生むと予想されます。

シェアエコノミー:所有から利用へ

コンピューターの処理能力の向上により、クラウドコンピューティングが普及したこともソフトウェアのビジネスを変えました。

2000年代がFacebookやTwitterなど人と人とがバーチャルに繋がる、ユーザー無料の広告収益モデルのサービスが普及した時代だとすると、2010年代は下記の点で一歩進みました:

  • バーチャルにつながった人の間でモノやサービスを交換する動きが進んだ
  • 一定額を定期的に支払い利用する「サブスクリプション」が主な購入方法となり、所有から利用への移行が進んだ

個人が主に使うサービスのいくつかの例は下記です。

  • 空いている時間・場所を他者にシェアするサービス:Uber (タクシー)、Airbnb (宿泊・観光)
  • 趣味で作ったモノ・使わないモノの交換を促すサービス:Etzy、eBay、メルカリ
  • 所有から利用へ:Spotify (音楽), PS Now/PS Plus (ゲーム)

企業向けにおいても同様で、2000年代はライセンスを購入して個別のPCへインストールするのが主だったのに対し、2010年代はクラウド上にあるサービスを利用する、SaaS (Software as a service)が主なソフトウェアの購入方法となりました。

提供者側の視点からは、サービスは「販売による売り切り」から「アップデートを続けながら売り続けるもの」に変わりました。

Microsoft 365、SalesForce、Adobe (creative cloud)、DropBox,、Boxなど現在使われているソフトウェアの多くがサブスクリプションモデルです。

サブスクリプションモデルへの移行により、より顧客満足度が大事になったことから、機能の定期的なアップデートが行われるようになったと同時に、「カスタマーサクセス」、「カスタマーエンゲージメント」などの顧客満足度の最大化に焦点を置いた新たな役割が生まれました。

加えて、こうしたソフトウェアのサービスでは大量の顧客データが企業に残るため、「データサイエンティスト」などのデータを活用するプロフェッショナル職が新たに生まれました。

より多くの人々が所有よりも共有に慣れ親しんだ結果、この流れは2020年にも続くと考えられます。

独占:国家よりも影響力を持つ企業の誕生

2010年代はGAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)の時代でした。

GAFAMはそれぞれの分野でプラットフォーマーとして独占的な地位を築き、世界中にユーザーを広げてビジネスを展開し、競合を事前に買収して脅威の芽をつむことで、自らのビジネスを守ってきました。

  • Google: 検索(Google)、ブラウザ(Chrome)、アンドロイドOS/Google Play Store
  • Apple: iPhone/iPad /Apple Watch/Mac, iOS, Apple Store
  • Facebook: Facebook, Instagram, Whatsup
  • Amazon: Amazon/Amazon Prime, Amazon Cloud
  • Microsoft: Windows, Office

7月19日時点でのAppleの時価総額は$1.67t (180兆円)と世界10位であるカナダのGDPとほぼ同じです。売上高も$267b (約30兆円)と中規模の国の財政支出以上です。

GAFAMの企業の規模は並の企業では束になっても敵わず、米・中以外のテック系企業はこれらの企業の動き一つで潰されます。

世界で唯一事情が異なるのが、デジタル鎖国を行っている中国です。中国では海外のネットサービスの利用に制限があり、独自のインターネットの生態系があります。

GAFAMに対抗する軸としては中国のBAT (Baidu, Alibaba, Tencent)があり、こちらも中国のグレートファイヤーウォールの中で独占的な地位を築いています

特に、Alibaba、Tencentはスーパーアプリとも呼ばれる、「全部入り」のアプリを提供しています。

これらの2つの企業は、決済、コミュニケーション、配達サービス、病院の予約、など他の先進国では見られないほど様々なアプリが入ったアプリを提供しており、スマホを持つほぼ全ての中国人は両方、または少なくとも片方のアプリを入れています。

これは便利であると同時に、政府が情報を握っていると言う点でかなり怖いことです。なぜかと言うと、一つの企業が「あなたがいくら銀行に保有し、いくら稼ぎ、どこへ行き、何を買い、誰とコミュニケーションをとり、何を言ったかのデータを全て持つ」ことになるためです。

「一つの企業が、国家よりもあなたについて多くを知る」と言うことになりますし、悪用・またはデータが盗難されればあなたの個人情報が晒されることになります。中国の場合、法律上、BATは国家の要請があれば情報提供を断れませんし、「国家があなたの全てを必要があれば知れる」状態になっています。

先進国では、Facebook、LINEもユーザーあたりの収益性を上げるために、メッセージアプリを軸にして、スーパーアプリの方向性を目指しています。しかし、これは国家との戦いになる可能性があります。

国家は「国家をも上回る資金力と個人の情報を手に入れた企業」の脅威をようやく認識し始めました。

EUにおけるGAFAへの独占禁止法違反での調査や個人情報保護法などはその一貫であり、「巨大すぎる外国企業の活動をどう管理するべきか」は、特に米中を除く(=これらの巨大テック企業を持たない)国家のテーマになりました。

2020年代にもこのテーマは引き継がれ、国家とこれらの巨大企業の摩擦はより大きくなる可能性があるでしょう。

グローバル化:切り分けられた労働

インターネットで世界中が繋がりコミュニケーションのコストが大幅に減少したこと、自由貿易の推進により、過去十年でモノ・サービスは世界の最適地でより開発・設計・生産されるようになりました。

これは企業のサービスにおいても同じです。

例えば、2010年代に、多くの米国企業はサービスのコールセンターをインドやフィリピンなどの賃金が安い国へ「アウトソース」(企業の機能を外に出すこと)しました。また、経理などのバックオフィスの仕事も定型的な仕事(例:伝票処理)はより賃金の安い国へのアウトソーシングが進んでいます。

同時に、「機械に任せた方がコスト・品質的に良い労働は機械にやらせよう」という動きは加速しており、製造現場だけでなく、サービスの現場でも定型的な業務はどんどん自動化ソフトウェアに置き換わっています。

Amazonの先進的な工場では、ピックアップロボットが正確に、素早く荷物を倉庫からピックアップし、段ボールのラインではロボットが荷物を積めています。

国内の例では三井住友銀行はRPA (Robotic Process Automation)で定型的な業務を削減し、人件費の削減につなげました。

2010年代は、「企業内でヒトがやるべき範囲」、「企業内で機械で自動化すべき範囲」、「アウトソースすべき範囲」、という切り分けと機械の自動化・アウトソースの実行がより進みました

企業が定型的な業務をアウトソースしたいと考えたこと、求める人材の水準が上がって就職できない人が増えたこと、企業に左右されず自らの生き方を選択したいと考える人が増えたことにより、「ギグワーカー」とも呼ばれるような、企業に属さず、個人事業主として働く人が増えました。

これらの「アウトソース」、「機械による自動化」のトレンドは中間層の賃金を押し下げることになりました。結果として2010年代は、先進国で中間層が経済成長の恩恵をあまり感じられない10年となりました。

2010年代に世界中の中間層が「強いリーダー」、「変革」、「反グローバル化」を求める動きに繋がったのは偶然ではなく、このような経済的な背景があります。

2020年代は政治的には「成長」よりも「再配分」への揺れ戻しが起きるかもしれません。

しかし、企業のレベルでは「自動化」、「アウトソース」への流れは止められないため(止めると他の企業との競争に負ける)、個人の自己防衛が求められる時代になると考えられます。

まとめ:2010年代の変化・トレンド

  • 伝統的メディアの影響力減少とオンラインメディア(SNS含む)の影響拡大
  • 高速通信規格がもたらしたコンテンツの進化(仮想現実などより大容量のデータ通信が必要となるコンテンツ、機械から機械への通信など)
  • 所有から利用への流れ
  • 国家より巨大化したテック企業と国家との衝突
  • 企業で「グローバルなアウトソーシング」・「自動化」が進み、政治レベルで反グローバル化が起こった

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東京女子医大から見る、日本の病院経営

東京女子医大でボーナスを支給しない・する、看護士が大量に辞める・辞めない、などの見出しがニュースを賑わせています。しかし、東京女子医大の置かれた状況は決して特殊な例ではありません。

今回は日本の病院経営、新型コロナが病院経営に与える影響、今後の影響について書いていきます。

日本の病院経営

そもそも、日本の病院は利益率が低く、固定費の割合が高い病院が多いため、変化に弱い収益構造です。

実際、昨年の段階で日本は約半数の病院が赤字状態にありました。(特に国立・公立病院。医療法人は全体としては黒字)

新型コロナウイルス感染症の病院経営への影響-医師会病院の場合- より (N=58)

例えば、2020年7月8日に発表された、「新型コロナウイルス感染症の病院経営への影響-医師会病院の場合-」 で回答があった58の病院の平均的な収益構造をみてみましょう。

この資料によると、2019年3-5月の平均的な収益は月に3億円で、そのうち70%以上が入院、20%程度が外来からの収益です

病院によって入院・外来の比率は異なりますが、入院では手術や高額な検査をすることが多いことから、他の病院でも入院が収益の大半を占めることが多いです。

一方、支出をみてみますと、給与費で月に1.65億円と55%程度が職員(医師、看護師、スタッフなど)への給与です。委託費の2500万円の一部も外注している人件費と考えれば、人件費だけで60%を超えます。

減価償却費の5%も合わせれば、70%近くが固定費になります。つまり、病院は固定費の比率が大きい業種です。

変動費である材料費(医薬品・医療機器)は6,300万円と約20%ですが、こちらも様々な理由から特定の医薬品・医療機器の利用が求められることもあり、削ることがそこまで容易ではない費用です。

収益構造を見ると、支出カットで利益を上げようとするのが難しいことがわかります。

すると、収益を改善するためには収入をあげるために

  • 患者数を増やす
  • 患者あたりの単価を増やす

ことが必要になります。

患者数を増やすためには経営の能力が必要となります。

しかし、日本は医療法上、医師でないと病院経営ができません。医師としての能力と経営能力が必ずしも一致しないことが、日本の病院経営で赤字状態が続いていることの一つの理由です。

また、患者あたりの単価も、医療費抑制の流れからの診療報酬や医薬品・医療機器の単価引き下げの方針により、今後は下落傾向が見込まれます。

つまり、収益を増やすための環境としては、かなり苦しい内部環境と外部環境です。

収益改善のために打てる施策の具体例

打てる施策の具体例の一部は以下のようになります。基本的には、特化して、オペレーションを改善するという方向になります。病院経営に秀でた人材を採用し、それを現場レベルで落とし込む必要があるため、実行面に課題があります。

  • 特化する:全ての病院が全ての専門分野で秀でるのは困難です。むしろ、専門特化した方が、医療従事者の専門性が高まって評価が高まると同時に、生産性も高まり、経営的にもプラスになることが多いです。難しいのは「多くの科を持って欲しい」、というニーズが地域からある場合で、経営の最適化と利害関係者の意向の方向性が異なる場合も特に公立病院ではよくあります。
  • 管理スタッフに優秀な人材を配置する:多くの病院では臨床重視、経営軽視の文化が根付いており(医師が最も偉く、医師が仕入れるといった機材・医薬品・医療機器を言われるがまま仕入れる)、購入の最適化がされていません。例えば、同じベンダーに違う科から別々に発注していたりしますが、これをまとめるだけで一回あたりの発注量が増え、ディスカウントを得られたりします。ただし、医師からの抵抗があることも多いという話はよく聞きます。

他にも数多くの「定石」があります。

新型コロナの病院経営への影響

新型コロナが流行したことにより、下記のような影響がありました

  • 患者さんが病院にいくのを怖がり、外来・入院患者数が減少した
  • コロナ患者を受け入れた病院は隔離が必要となるため、部屋やベッドの利用率を下げざるを得ず、入院による収入が減少した
  • 手術を行えなくなった(患者さんからの延期の依頼、政府からの自粛要請、ベッドや医療物資確保などの理由により)ために手術の売上が減少した

これらの理由により、4月は全国の病院で平均的に収入が減少しました。

新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(最終報告)より N=1,307

5月27日に発表された、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の合同調査によりますと、昨年4月の利益率が平均して1.5%であったのに対し、2020年4月はマイナス8.6%と赤字に転落しました。

特にコロナ患者の入院を受け入れた病院は外来、入院ともに前年比10%以上の減収となっており、受け入れを行っていない病院よりも下落幅が大きくなりました。

「赤字が出ている状況で、ボーナスを出す原資がない」、というのはほとんどの病院に当てはまる状況でしょう。

東京女子医大の例は全てカットということで注目を浴びましたが、どの病院も同じような判断をしてもおかしくない状況にありました。

「赤字のために人件費を追加で出せない」というのはコロナ前でも日本の半数近くの病院が抱える課題であり、新型コロナによりさらに状況が悪化したと言えるでしょう。

今後の展開

政府は第二次補正予算案を組み、「ウイルスとの長期戦を戦い抜くための医療・福祉体制の確保」として2兆7000億円を医療機関の支援に充てることを決めました。

この資金注入により、医療機関はしばらくの間、少しは持ち堪えることができると思います。

しかし、新型コロナについても現在の抗体が長続きしないという研究結果を見る限り、私たちは新型コロナとしばらくの間は共生しなければならないでしょう。

入院・外来の減少はコロナがおさまるまで続くことが予想され、今回の支援に続いて、何らかの支援が医療機関の「倒産」を食い止めるために必要でしょうし、短期的には、また補正予算が組まれる可能性は高いと考えられます。

より深刻な長期的な課題としては、今回のコロナ危機が日本の医療機関の職場の「ブラックさ」を明らかにしたことです。

長時間勤務、上がらない待遇、感染症にさらされるリスク、の中で懸命に奮闘する日本の医療従事者はその貢献に見合った称賛を得られていないように思いますし、「割に合わない」と感じる人が増えると、医療従事者を志す若者や現役の医療従事者の減少に繋がります。これは、日本の医療業界の未来にとって悪影響です。

日本の医療を支える医療従事者の方々が報われるよう、政府の支援と病院経営の改善に期待したいところです。

なぜ新型コロナが医療機関の収益を悪化させるのか、海外の状況はどうか、についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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米大統領選:トランプvsバイデンを見るポイント

大統領選挙はアメリカ政治の一大イベントですが、世界にとっても、世界一の強国の大統領が決まるという大きなイベントですし、世界の株式市場にも大きな影響を及ぼします。共和党候補は現職のトランプ、民主党候補はバイデンです。

今回は大統領選でどちらが優勢かの現状、今後のポイントについて書いていきます。

大統領選、どちらが優勢か

大統領選はアメリカ政治の一大イベントです。11月の大統領選挙では、州ごとに集票が行われ、ネブラスカとメーンを除く州は勝者総取りです。

合計が538票のため、270票以上取ると過半数を確保できます

7月11日現在の大統領選は、バイデン(民主党)がトランプ(共和党)に対して有利に進めています。

現在、バイデンが有利に進めている州の選挙人の合計は222人、トランプが有利に進めている州の選挙人の合計は125人、まだどちらに転ぶかわからない州(スイングステート)の選挙人の合計は191人です。

RealClearPolitics 2020年大統領選より

このまま優勢の地域が変わらなければ、民主党はスイングステートであと50票を確保できれば、勝利できます。

青い地域は2016年の大統領選でヒラリー・クリントン(民主党)に投票した地域とほぼ同じです。

2016年の時にはヒラリー陣営が獲得した票は232票でしたので、現在バイデンが有利に進めている州の選挙人の合計とほぼ同じです。

4年前にはヒラリーは後述する「ラストベルト」(さびついた工業地帯)を全て落としたことに加え、フロリダ、ノースカロライナと大票田も落としたことが敗北につながりました。

2016 Presidential Election

現在、トランプが有利に進めている中部、南部の赤い州は過去30年共和党が強い地域です。また、西の沿岸部と北東の沿岸部も同じく過去30年は民主党が強い地域です。

傾向としては、都市部・沿岸部は民主党支持層が多く、郊外や農村部は共和党支持者が多いです。ニューヨーク州、カリフォルニア州、イリノイ州(シカゴ )という米国の主要な大都市は民主党です。

今後の焦点となる州

共和党、民主党ともに「岩盤地域」(支持が動きにくい地域)があるため、より自分の陣営になる可能性が高いスイングステートに選挙活動を注力することになります。2020年大統領選挙の現時点におけるスイングステートは下記の13州です。

州名 選挙人数
TX テキサス 38
FL フロリダ 29
PA ペンシルバニア 20
OH オハイオ 18
MI ミシガン 16
GA ジョージア 16
NC ノースカロライナ 15
AZ アリゾナ 11
WI ワイオミング 10
NV ネバダ 6
IA アイオワ 6
NH ニューハンプシャー 4
Others その他(メーン、ネブラスカの一部) 2

このうち、テキサス、フロリダ、ラストベルト(ペンシルバニア、オハイオ、ミシガン、インディアナ)は票数(影響力)が大きく、特に注目です。

テキサス

全米でカリフォルニアに次ぐ大きさを持つテキサスは伝統的に共和党が強い州です。2020年の選挙で38票を持つことに加え、人口増加率も高く、今後も票数が増加することが予測される、共和党にとって最も重要な州の一つです

民主党はカリフォルニアや、ニューヨーク、マサチューセッツをはじめとする北東部をガッチリと抑えていることを考えると、共和党はテキサスを失うと、2020年のみならず、将来にわたり今後大統領選で勝てる可能性が大幅に減少します。

そんなテキサスですが、アメリカに起きている変化の最前線にある地域でもあります。

テキサスでは、ヒスパニック(中南米をはじめとするスペイン語圏をバックグラウンドにする人たち)の人口増加が白人よりも早いペースで増加しており、2020年にはヒスパニックの人口が白人を超えることが予想されています

ヒスパニック・アジア系の人口増加速度は白人を大きく上回っており、アメリカの国勢調査を元にした予測では2045年には白人が過半数を割ると予測されています。

テキサスでは2010年の時点ですでに白人が過半数を割っており、2020年には最大の人口グループですらなくなる、ということでアメリカの将来を先取りしているとも言えます。

厳密に言えば、ヒスパニックは若年層の割合が多いことと、白人よりも投票率が低いため、投票する人の数で言えば2020年時点でも白人の方がまだまだ多いですが、時間が経てば立つほど白人がマイノリティになる傾向はかわりません。

アメリカという国は人種によりどちらの党を支持するかがかなり顕著に割れている国です。例えば2016年の結果を見ても、白人男性は圧倒的多数がトランプに投票し、黒人・ヒスパニックは民主党支持が圧倒的でした。

2016 Election Result by Race (青=民主党、赤=共和党)

この傾向が続けばどうなるかというと、テキサスで「ヒスパニックの人口が増えるにつれ民主党支持が増え、民主党の州となる日が来る」、ということです。

あなたが白人男性を支持者層とする共和党の大統領でしたら、どうするでしょうか?

「ヒスパニックの増加を抑制する」、「ヒスパニックを追い出す」ことで、民主党の支持者基盤を削減する、というのは一つのアイデアです。

その視点から見ると、トランプの「メキシコとの間に壁を作り入れないようにする」(=ヒスパニックの流入を防ぐ)、「移民ビザの制限をする」(=家族ビザで家族を連れてくることが多いヒスパニックの流入を防ぐ)、「ヒスパニックが多いDACA(親がアメリカに不法入国した際に連れてこられた子供たち)をアメリカから追い出す」(=ヒスパニックを減らす)、というのはこの方針に沿っています。

また、ヒスパニックは英語ができない人も相当数いるため、スペイン語だけでは「選挙人登録」しにくくする(アメリカでは住民票がないため、自ら投票用紙が送られてくるように登録する必要があります)、「犯罪歴がある人は投票できない」などと投票権を無くして投票できないようにする、なども共和党が進めたい施策です。

40票近くあるこの州を落とすと、共和党の勝ち目がほぼなくなります

さらに、現在テキサスでは新型コロナ感染が拡大したことで、現在の共和党知事のコロナ対策への不満が高まっており、結果としてトランプへの支持率が低下してきています。

トランプからしたら間違いがあってはいけない州のため、大統領選までの間で何かしらの対策が打たれる可能性が高いです。

可能性としては、エネルギー企業への支援、さらなる中南米系移民への強硬策などでしょうか。要注目の州です。

フロリダ

フロリダもニューヨークを超える人口をもち、全米第3位の29票を持つ州です。この州は過去何度も大統領選の勝敗を決める州になってきました

2000年には「民主党のアル・ゴアと共和党のジョージ・W・ブッシュがこの州の結果次第で大統領がどちらか決まる」という状況で、得票数の差が全体の0.5%以下の大接戦となり、票の数え直しが行われて、裁判まで行き、最後の最後までもつれた、というドラマが起こった州でもあります。

2016年の選挙は1.2%の差で共和党、2012年は0.8%の差で民主党が勝利、と僅差で揺れ動いている州であり、今回の選挙でも接戦が予想されます。

ヒスパニックの割合が30%と高いのですが、キューバ系移民が多く、キューバ系移民はカストロ政権に強硬姿勢をとる共和党支持の割合が高いので、必ずしもヒスパニックの割合が高いことが民主党優位に繋がっていません。

こちらもテキサスと同じく新型コロナの感染者数が増えている州になります。

現大統領のトランプの政策やリーダーシップへの不満が高まれば、それだけバイデンが有利になります。

ラストベルト

ラストベルト(錆びた帯)と呼ばれる製造業が強い地域は揺れ動く州(PA、OH、MI、IN)であり、合計65票になります。

これらの州は製造業比率が比較的高く、「生活水準が上がらず不満が募る白人製造業従事者」が多い地域です。

民主党は、2016年の大統領選では事前の予想ではヒラリーが大きくリードしていたためにこれらの州を十分に重視していませんでした。結果として、「隠れトランプ」とも呼ばれたトランプ支持者が多く投票所に足を運び、ヒラリーはラストベルトを全て落として、敗因に繋がりました。

トランプは再戦を確実にするため、「TPPからの脱退」、「NAFTAの見直し」、「製造業のアメリカ回帰の推進」といった、「生活水準が上がらず不満が募る白人製造業従事者」向けの政策を過去4年で行ってきました。

民主党は4年前の反省を活かし、これらの州を奪還することを目指しています。

バイデンは$400b (44兆円)を製造業に投資するという政策案を出していますが、これは主にこのラストベルトの票を狙ったものと考えられます。

バイデンの政策案に対して、トランプは「これは自分の案でバイデンが盗用した」とコメントしています。どちらもラストベルトの票が2020年の大統領選で重要であるということが背景にあります。

まとめ

大統領選挙はアメリカ政治の一大イベントですが、世界一の強国の大統領が決まるという、世界にとっても大きなイベントにもなります。

テキサスの結果は今回の大統領選のみならず共和党の将来を左右しますし、フロリダがどちらにふれるかは大統領選の結果を左右します。

ラストベルトはどちらの候補も注力しており、今後数ヶ月で製造業向けの政策案が飛び交う接戦になることが予想されます。政策によっては、NAFTAの見直しのように貿易に大きな影響を与えます。

ざっくりとでもアメリカの大統領選の仕組み、どの州がポイントか、の知識があると、それぞれの候補が「どのような層に向けて、何を、どんな目的で発言しているのか」がわかり、よりニュースがわかるようになります。

今回の記事が、2020年の大統領選でどんなポイントがあるのか、を知るきっかけになれば嬉しいです。

参考図書:

  • 大石格 「アメリカ大統領選 勝負の分かれ目」(日本経済新聞社)
  • 西山隆行 「アメリカ政治講義」(ちくま新書)

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ノヴァヴァックス(NVAX)の株価はどうして30%近く急騰したか?

ノヴァヴァックス(Novavax)がアメリカの「オペレーション・ワープスピード」に採択されたことにより、株価はプレマーケットで30%近く上昇しています。

今回の記事を読むと、オペレーション・ワープスピード、ノヴァヴァックス、他のワクチン銘柄への影響についてわかります。

オペレーション・ワープスピード

オペレーション・ワープスピード(Operation Warp Speed)は「2021年1月までに3億人分の新型コロナ向けワクチンを生産する」ことを目指した米政府のプロジェクトです。

米政府はワクチンの開発、生産、流通企業に対して投資と有形無形のサポートを行うことで、この目標を達成しようとしています。主要な政府機関が一丸となったプロジェクトであり、一言で言えば、新型コロナに対するアメリカの「総力戦」プロジェクトです

OWS is a partnership among components of the Department of Health and Human Services (HHS), including the Centers for Disease Control and Prevention (CDC), the Food and Drug Administration (FDA), the National Institutes of Health (NIH), and the Biomedical Advanced Research and Development Authority (BARDA), and the Department of Defense (DoD). (HHSホームページより。要は総力戦)

予算総額は$10b (1兆1000億円)と巨額の国家プロジェクトです。そのうち、$6.5bはBARDAを通じてのワクチン・治療薬の開発・生産に、$3bはNIHに割り振られています。

これまでオペレーション・ワープスピードでは、ワクチンの「開発」には3社に対しての支援が発表されていました。その3社とはJ&J、モデルナ(Moderna)、アストラゼネカ(AstraZeneca)です。Novavaxは4社目となります。

支援額 (m$) 7/7現在の進捗 メモ
J&J $ 456 フェーズ1/2準備中
2021年に10億本生産予定
Moderna $ 483 フェーズ3準備中
FDAの優先審査付。フェーズ3は7月後半より
AstraZeneca $ 1,200 フェーズ3進行中
3億本のワクチン供給含む。フェーズ3は8000人登録済み
Novavax $ 1,600 フェーズ1/2進行中
1億本のワクチン供給含む。フェーズ3は秋を予定
合計 $ 3,739

製造ではEmergent Biosolutionsが選ばれており、ワクチンの製造能力拡大のため、$628mの支援を受けています。

この他にもワクチン開発企業としては、Pfizer(ファイザー)/BioNtech(バイオンテック)、Sanofi(サノフィ)・グラクソスミスクラインなどがありますが、これらの企業が今後選ばれるかはわかりません。

これまでに発表された支援の合計がまだ$4.4bであり、予算の$10bの半分すら消化されていないため、今後も他の企業が支援を受ける可能性は十分あります

ノヴァヴァックス

ノヴァヴァックスは研究開発段階の製薬会社です。

インフルエンザワクチンをはじめとした5つの製品に対して、6つの治験が走っています。そのうち、2つのワクチンはすでにフェーズ3の試験を行っています。

Novavax pipeline

モデルナ、バイオンテックと同じく、まだ承認された製品がありません。

株価は新型コロナ向けワクチンへの期待によって大きく上昇しています。

今年の初めから考えると$7から$70超えとすでに10倍株でしたが、今回の発表を受けて、さらに株価は上昇し、15倍株になろうとしています。

ノヴァヴァックスのワクチン候補(NVX-CoV2373)は5月より健康な18-59歳の男女130人を対象に、フェーズ1/2を行っています。中間結果が7月末までに発表される予定です。

結果をみるまではこのワクチンが有望かどうかはまだわかりませんが、「オペレーション・ワープスピード」に採択されたことから、現在までの結果は悪くないのでしょう。

ノヴァヴァックスは秋に30,000人を対象としたフェーズ3の試験を行う予定です。こちらは先頭を走るアストラゼネカ、モデルナ、ファイザー・バイオンテックと比べると2-3ヶ月後に結果が出ることになります。

他の銘柄への影響

ワクチン業界は、メルク、サノフィ、グラクソスミスクライン 、ファイザーの4社のほぼ寡占状態であり、これらの企業が豊富な経験と製造技術を保有しています。

一方、ノヴァヴァックスはこれまでにワクチンを商業化させた実績のない企業です。オペレーション・ワープスピードに採択されたことは大きな成功ですが、臨床的な成功とは無関係です。ワクチンに有効性、安全性が求められる以上、結局は「フェーズ3の結果がどれだけ良いか」が鍵を握ります。

現在、10を超えるワクチンの臨床試験が走っており、どの企業も国からの支援を受け、数億本の生産能力を事前に確保しようとしています。

つまり、フェーズ3の結果が良い企業が複数出てきた時には、人類にとっては望ましいことですが、他の銘柄にも影響を及ぼします。特に臨床試験の進捗で先頭を走るアストラゼネカは少なくとも最初の20億本はほぼ無利益でワクチンを提供することを決めているので、市場に悪影響を与える可能性が高いです。

フェーズ3が7月に開始し、進捗が発表されるのは最速でも8月以降からと想定されるため、8月はワクチン関連のニュースがテレビ・新聞を賑わしそうです。

mRNAベースのワクチンを開発している他の企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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アストラゼネカのワクチンに関する記事はこちらです。

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アストラゼネカ(AZN) 新型コロナ向けワクチンの市場破壊

新型コロナ向けワクチンの開発と臨床試験が加速しており、米国、欧州、中国の製薬会社が一番手をめぐり競っています。英アストラゼネカ(AstraZeneca)は先頭を走る企業の一つです。

今回は、ワクチン市場、アストラゼネカのワクチンの開発と治験の進捗状況、そして他ワクチン開発企業への影響、の3点をみていきます。

ワクチン市場

Market Research Reportによれば、ワクチン市場は2018年で$41.6b(4兆5000億円)で、年率10%以上の成長を続け、2026年までに$93b(10兆円)まで拡大すると予想されています。

ワクチンは人口拡大、ワクチン普及率の上昇、新たなワクチンの発売に伴う需要喚起、により市場が安定的に拡大していっています。

一方、ワクチンは製薬の中でも大変な分野です。健康な人を対象とするために、リスク便益の観点から、安全性への要求が治療薬よりも厳しくなります。また、長期での安全性が求められるため、治験もその分長くなります。

また、ワクチンの種類にもよりますが、ウイルスの遺伝子組み換えにより作られるワクチンなどは生産にも高い技術力が要求され、大量生産のハードルも通常の低分子薬の生産よりも高くなります、

つまり、ワクチンは開発・生産に多額の資本と高い技術が必要であり、参入障壁が高い(参入しにくい)分野であると言えます。裏を返せば、一度ワクチンを発売してしまえば新規参入が入ってきにくいため、稼ぎ続けることができます。

例えば、世界最大のベストセラーワクチンであるPfizerのPrevar 13は肺炎球菌向けのワクチンであり、市場を長年ほぼ独占しています(2015年でシェア75%以上)。

売上は2010年の$2.4bから順調に拡大し、2019年には$5.8b (約6,000億円)の売上です。今ではファイザーの製品の中で最も売上の高い製品の一つになっています。

WHOのGlobal vaccine market reportによると、ワクチンの価格は$1-$50と大きく幅があり、新しく販売されるワクチンほど価格が高くなる傾向にあります。

同資料では、Prevnar 13の平均販売価格は$48程度と推定しています。つまり、高い価格の部類です。

ファイザーのPrevnarは独占状態をいかして高い値付けにし、高い売上と利益率を享受している一つの例です。

AstraZeneca(アストラゼネカ)のワクチン

英AstraZenacaはOxford(オックスフォード大学)と組んでワクチンを開発しています。現在、治験が行われているのはOxfordのワクチングループが開発した組換えアデノウイルスを用いたワクチンです(AZD1222)

新型コロナ向けワクチンでは最も開発状況が進んでいる一社です。6月よりフェーズ3(最終の大規模な治験)に入っており、8,000人が登録済みです

アストラゼネカはすでに米国、英国、欧州とワクチン提供の契約を行っています。

  • 米政府機関BARDAより$1b (1,100億円)の開発援助を受けた。4億回分をUS/UKに (US 3億、UK 1億 – FIERCE PHARMA)
  • 欧州(ドイツ、フランス、イタリア、オランダ)に4億回分を「利益なしで」提供(AstraZeneca Press Release)
  • ワクチンをCEPI、Gavi, the Serum Institute of India (SII)を通じて新興国に提供. CEPI、Gaviに3億回分を$750mで販売($2.5/回)。
  • SIIは10億回分を新興国向け(主にインド)に提供し、そのうち4億回分を2020年末までに提供する

すでに契約されているワクチンの量だけでも、20億回分を超えます。加えて、4億回分を2020年末までにワクチンを供給することを約束しています。

アストラゼネカはこのワクチンを利益0で提供する方針です。

ワクチンを利益0で提供すること自体は非常に世の中のためになっていますし、公益性の観点から望ましい行動です。

アストラゼネカにはワクチンで売上がなくてもやっていけるだけの企業体力と、評判・ブランド力を高めて他の製品を売るという動機があります。

一方、利益目的で研究開発を行っている他のワクチン開発企業からしたらたまったものではありません。市場を壊す、自爆テロのようなものです。

ワクチン銘柄への影響

具体例で考えてみましょう。モデルナ、バイオンテック・ファイザー、は同じくフェーズ3の試験を7月に始めようとしています。アストラゼネカの方が若干治験で先行しています。

仮にアストラゼネカの治験でワクチンの有効性・安全性が確認され、アストラゼネカが2020年末に「$2.5/1回」のワクチンを政府向けに提供したとしましょう。

すると、類似する製品がないため、世界ではその価格が一つの物差しとなります

後続のモデルナ、バイオンテック・ファイザーからすると、本当は1回$30 x 2回で計$60などの価格をつけたかったとしても、それを行うと「アストラゼネカの20倍なのか」、「こんなに大変なパンデミックの時に暴利を貪るのか」という社会からの批判が予想されますし、競争の観点からも、あまりに高い価格をつけるのが難しくなります。

また、有効性・安全性での差別化を行うためにはある程度長い期間のデータが必要となりますが、今年の末発売のワクチンですとどのワクチンも半年程度のデータしか入手できません。

よって、データで優位性を強調するのもやや難しくなります(通常必要となる1年後の安全性・有効性すら確認できないため)。

加えて、モデルナ・バイオンテックのワクチン手法であるmRNAは壊れやすいために低温保存が必要となり、その分流通コストが高くなります。アストラゼネカのワクチンと同じ価格をつけると赤字になる可能性大のため、同じことはできません。

アストラゼネカは主要な市場(米、西欧)に安価でワクチンを提供する契約をすでに結んでいます。

つまり、「アストラゼネカのワクチンの成功は他のワクチン開発企業にとって最大の脅威」になる可能性が高いです。

ワクチン銘柄に投資をしている場合、その銘柄の臨床試験の結果のみならず、アストラゼネカの臨床試験のニュースにも注意を払っていた方が良いかもしれません。

mRNAベースのワクチンを開発しているもう企業、モデルナ(Moderna)とバイオンテック(BioNTech)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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バイオンテック(BNTX) 欧州のワクチン期待の星

新型コロナが猛威を奮い続け、世界中がワクチンを待望しています。そんな中、バイオンテック(BioNTech:BNTX)・ファイザーがワクチンの臨床試験の中間発表を行いました。相場全体にも影響を与えたこの発表、いったいどんな内容だったでしょうか?

この記事を読むと、バイオンテック、治験の結果、今後の展開、最短でいつワクチンが出るか、がわかります。

バイオンテック(BioNTech)

バイオンテック(BioNTech)はモデレナ(Moderna)と同じく、研究開発段階のバイオ製薬企業です。本社はドイツにあります。

mRNAという「どのタンパク質を作るか」の情報を持ったRNAに特定のタンパク質を作らせる情報を乗せることによって、様々な病気の治療に適用することを目指しています。

現在は11の製品が臨床試験に入っていますが、ほとんどがフェーズ1という、人を対象にした臨床試験のはじめの段階です。

バイオンテックの主なターゲットはガン・感染症です。新型コロナに対しては、BNT162がワクチン候補にあたります。

バイオンテックはファイザー(Pfizer)と中国以外のワクチンの開発と製造で提携しており、中国については中国企業のFosun Pharmaと提携しています。

バイオンテック・ファイザーのワクチン試験結果

バイオンテックが用いるワクチンは、mRNAを用いる方式です。

これまでmRNAを用いたワクチンはありませんでした。

実績がないため、「mRNAを用いて本当に有効なワクチンができるのか」、「安全なのか」、が疑問点でした。この疑問に対して、フェーズ1・2の試験が行われました。

バイオンテックがファイザーと共同で行ったフェーズ1・2の臨床試験の枠組みは以下です

  • ワクチン候補名:BNT162b1
  • 治験の実施期間:5/4/2020 – 6/19/2020
  • 治験の参加者:19-54歳の健康な男女
  • 45人のランダム化試験(12人が10ugを中3週間空けて2回接種、12人が30ugを2回接種、12人が100ugを1回接種、9人が偽薬(プラシボ)を2回接種)

発表された中間結果の要点は以下です

  • ワクチン接種した人に、新型コロナから回復した人以上の抗体が観察された (10ugで1.8倍、30ugで2.8倍)
  • 副作用は疲労感、頭痛、寒気など。深刻な副作用はなし
  • 今後の用量は10ug-30ugの間の2回接種で検討

参考資料:Mulligan et al (2020) “Phase 1/2 Study to Describe the Safety and Immunogenicity of a COVID-19 RNA Vaccine Candidate (BNT162b1) in Adults 18 to 55 Years of Age: Interim Report“, MedRxiv

一言で言えば、ポジティブな結果です。

今回の中間報告では最初のワクチン接種から35日間までで、急性の深刻な副作用は観察されませんでした。これは安全性という点で良い知らせです。

次に、「新型コロナの症状(COVID-19)から回復した人以上の抗体が観察された」、というのも良い知らせです。mRNAを用いたワクチンからも抗体がきちんと形成されることを、この中間結果は示しました。

しかし、今回の試験の結果はまだまだ序の口にしか過ぎません。

今後、臨床試験で確かめられるべき項目

今回の結果はあくまでも「中間」報告です。

今回の臨床試験(フェーズ1・2)の追跡とフェーズ3の大規模臨床試験で下記の点がデータで示される必要があります

  • 中長期の安全性(特に半年後、2年後までの安全性)
  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、そもそも抗体が機能するか
  • 抗体が機能する場合、ワクチンで増加させられた抗体の増加がどの程度持続するか。
  • ワクチンを接種した人がコロナにかからなくなるか
  • 高齢者にも用いることができるのか

「新型コロナが体内でどう働くのか」、「私たちの免疫がどのように新型コロナに反応するのか」などまだわかっていないことが多く、今回の中間報告の「抗体が増えた」というだけでは効果があるとは断定できません

ウイルスの中には私たちが抗体を持っていても抗体をすり抜けて増殖するものもありますし、抗体のレベルによっては再感染することも十分にあり得るためです。

そのため、フェーズ3の結果が出るまでは、バイオンテックのワクチンが機能するかどうかはわかりませんし、これはどのワクチン候補についても当てはまります。

最短でいつ、どれくらいワクチンができるのか

新型コロナのワクチンを審査する際のガイドラインをFDAが6月30日に公開しました。

一言で言えば、「新型コロナのワクチンがいくら緊急で必要だとしても、安全性・有効性をきちんと審査をするよ」。

真っ当な内容です。

「選挙前までに承認しろ」という政治からの圧力が相当にあったことが容易に予想されるため、圧力に屈しなかった点は評価されても良いでしょう。

過去に「インフルエンザワクチンの承認を急いで、結果的に副作用が出て、FDAが叩かれた」という歴史の教訓です。

最短でいつワクチンが出るかを考える上で重要なのが下記の部分です。

Serious and other medically attended adverse events in all study participants for at least 6 months after completion of all study vaccinations. Longer safety monitoring may be warranted for certain vaccine platforms (e.g., those that include novel adjuvants).(少なくともワクチン接種から6ヶ月後の間に起きた重篤な副作用のデータを、安全性の証明として要求する)

つまり、フェーズ3の大規模試験に参加した人の6ヶ月先のデータを得るまで、米国のワクチンの認証はおりない、ということです。

現在、ワクチン開発の先頭を走るモデルナのフェーズ3が始まるのですら7月ですので、データが集まるのはどんなに早くとも来年1月。

そこからデータの収集・分析、FDAへの提出、FDAの審査、というプロセスがあるため、どんなに早くとも最初のワクチンのFDA認証がおりるのは来年1月後半でしょう。

バイオンテック・ファイザーも7よりフェーズ2b・3を始める予定ですので、モデレナとともに先頭を走っています。(BioNTech Press Release)

プレスリリースによると、バイオンテック・ファイザーは2020年末までに1億人回分、2021年末までには12億回分のワクチンの生産ができる見込みです。

バイオンテックの株価

BioNTech Stock Price

バイオンテックはコロナ前までは$40程度でしたが、現在は$64まで急進しました。

時価総額で言えば、$14b (1兆5000億円)ですでに中堅のサイズです。ただし、モデレナの$24b (2兆6000億円)と比べれば60%程度です

どちらの企業もmRNAをベースにしたワクチンを、同じような程度のスピードで開発しており、新型コロナ向けワクチンへの期待で株価が上昇しています。

新型コロナ向けのワクチンがどれだけの価値があるのか、は価格、数量、有効期間、バイオンテック・ファイザーの取り分の割合、競争環境、など変数が多過ぎて予測が難しいですが、仮に下記のような仮定を置いてみます。

  • 2回の接種が必要で、合計$40
  • ワクチンは1年間有効(インフルエンザのように毎年打つことが必要)
  • バイオンテック・ファイザーの取り分は50:50
  • 毎年7000万人が接種する(米国、西ヨーロッパの10人に1人)

以上のような条件であれば、$40 x 50% x 7000万人 = $1.4b (1,500億円)が毎年の売上になります。このくらいの売上が毎年上がるのであれば、1月からの上昇分は正当化できそうです。

人類が新型コロナを気にせず生活するためにはワクチンが必要であり、バイオンテック・モデレナともにその先頭を走っています。相場全体に影響を与えるという点でも、目が離せない企業の一つです。

mRNAベースのワクチンを開発しているもう一つの企業、モデレナ(Moderna)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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ギリアド (GILD) の新型コロナ治療薬、25万円は高いのか?

製薬のギリアド・ライフサイエンシズが世界初の新型コロナ向け治療薬のレムデシビルの価格を発表しました。

先進国向けの「25万円」という価格に対して、2つの驚きがあるように見えます。一つは「高すぎる」。もう一つは「安すぎる」。今回は薬の価格について書きたいと思います。

この記事を読むと、薬の効果と価値、価格の決め方、なぜレムデシビルがその価格をつけたのか、がわかります。

レムデシビルの効果

NIAD (National Institute of Allergy and Infection Disease)が行ったACCT-1試験とギリアド主導で行ったSimple Trialの2つの臨床試験からは、下記のような効果が観察されました。

Remdesivir Clinical Trials

結果の抜粋は以下になります。

  • 中程度の患者に対して、5日間処方すれば、標準治療よりも65%高い確率で患者さんがより症状が改善した状態となる (SIMPLE trial)
  • 5日間の処方も、10日間の処方も、統計的に有意な差は生じていない (SIMPLE Trial)
  • 重症者に対して、レムデシビルは死亡率について統計的に有意な改善は示さなかったが、平均4日間入院期間を短縮できる(NIAID study  ACCT-1 Trial Journal)
  • 標準治療と比較して、統計的に有意な重篤な副作用は観察されなかった (SIMPLE Trial)

つまり、レムデシビルの主な効果は、「より良い状態になる」と「入院を4日間短縮できる」という2つです。

レムデシビルの経済的な価値

「より良い状態になる」という価値は算定しにくいですが、「平均4日間入院期間を短縮できる」ことには明確な経済的な価値があります。

患者さんからしても早く退院して日常に戻りたいです。

病院としてもベッドが早く空けば、より収益性の高い手術の回数を増やして収益を増やせるため、入院期間を短縮させたいです。実際に病院に支払いを行う保険会社の視点からしても、入院期間が短くなればそれだけ病院に支払う入院費用が減らせるため、望ましいです。

この3者にとっての価値が薬の価格に影響を与えるのでしょうか?

実は、この3者の視点は価格決定のときに考慮はされますが、価格決めで最も大事なのは保険会社の視点です。患者さんではありません。理由は、お金を出すのが保険会社であるからです。

他の産業とヘルスケアでは、サービス・薬で便益を受ける人と、実際にお金を支払う人が異なることが大きな相違点です

薬の価格は、「お金を支払う人の視点から見て、どのくらい価値があるか」が重要になります。

米国の場合は公的保険は政府、私的保険は民間保険会社になります。日本をはじめとする多くの西欧の場合は、国民皆保険であるために政府となります。つまり、政府および民間保険会社の視点が最も価格に影響してきます。

米国においてのレムデシビルの価値をCEOのDaniel O’Dayは下記のようにOpen Letterで述べています

Taking the example of the United States, earlier hospital discharge would result in hospital savings of approximately $12,000 per patient (米国の例では、(4日間)退院を早めることは、患者さんあたり$12,000の価値があります)

つまり、レムデシビルを処方することは政府・保険会社にとって$12,000の価値があるよ、と言っています。

実際、米国では州や病院の形態にもよりますが、ベッドを1日使われる費用で$3,000かかることはあり得るので (参考:Becker’s Healthcare)、保険会社・病院の視点から見て入院を4日間減らせることに$12,000の価値がある、というのは大げさではありません。

異なる視点では、NPOで薬の価格が適切かの分析を行っているICERが算出したコスト便益分析では、米国では$4,500-$5,000が適正価格であり、重症患者に対して効果があるというdexamethasoneを対照群とした場合は、$2,520-$2,800まで落ちる、と分析しています (ICER Remdesivir)。

Dexamethasoneはあくまでも重症患者に対する効果しか現在まででは報告されていないため、ICERが中程度の患者さんに処方する前提で対照群とするのはやや厳しい見方です。最大限厳しめに見て、$2,520というところでしょう。

まとめると、$2,520から$12,000まで、幅広い価値の推定が行われていました。薬の価値の決め方には幅があり、難しいとも言えます。

レムデシビルの価格

6月29日に、ギリアドのCEOであるDaniel O’Dayがレムデシビルの価格を発表しました。

  • 先進国の政府向けは5日間の治療前提で、$2,340 (約25万円。1本$390 x 6回分)
  • 米国の民間保険会社向けは5日間の治療前提で、$3,120 (約34万円。1本$520 x 6回分)
  • 新興国向けはジェネリックの製造メーカーと組み、より安価で提供する (インド、バングラディシュでの販売価格は1本$40-80程度と報道されています。先進国の1/10から1/5です)

この価格の水準と出し方について、3つポイントがあります。

価格の水準

1つ目は、政府向けの価格の$2,340は、$2,520-$12,000という価値の幅のさらに下であった、という事です。

未曾有の危機である新型コロナで、初の治療薬であるレムデシビルの価格には世界中から注目が集まっていました。ここで、$4,000程度でしたら、米国内ではコスト便益の観点から、「適正な価格をつけた」と評価されていた可能性が高いです。

ギリアドはさらに一歩踏み込んで、ICERが算出した価格の下限である$2,520よりもさらに低い価格をつけました。ICERが出す数字は政治家も用いる数字であり、この下限より低い数字を出したのは、「ギリアドは世界中の人のためにできる限り多くの人の手にわたる価格をつけます」というメッセージになります。

また、米国は世界一薬の価格が高い国であり、他の先進国では米国ほど価格が高いわけではありません。米国を基準に価格をつけると、他の先進国から見ると「高すぎる」、という印象になります。$2,500を下回る価格は、欧州でも「適正だ」と受け取られる値付けをしたのでしょう。

さらに、$2,340という価格は、米国では他に効果のある薬が出てきた時にも「併用しやすい」、あるいは「コスト便益の観点から競争力がある」価格です。現在、他の製薬会社が新型コロナ向けの新薬を開発していることも意識した価格になっています。

まとめると、レムデシビルでの利益を短期的に最大化するよりも、ギリアドとしての評判と長期的な売上を考えた価格付けです。

一律の価格の提示

2つ目のポイントは、一律の価格にした事です。

薬の価格で、このように全世界で一律の価格を提示するのは、極めて異例です。

通常、認証が取得できた後、薬の価格の交渉になります。米国であれば各保険会社との個別の交渉となり、欧州・日本であれば当局との保険償還価格の交渉になります(保険償還価格=保険からいくら支払われるか。病院が保険から受け取れる価格)。

当局側もその価格が適正なのかの分析の準備がかかりますし、今回のように他に薬がないような場合ですと、前例となる物差しがないためにさらに時間がかかります。

今回の場合、各国と交渉をする時間を省きたかったことと、透明性を確保したかったのでしょう。

「みんなこの価格だよ」と言うことで、価格の自由度は失いますが、「他の国よりも高いじゃないか」、という批判は出なくなります。また、先進国はみな公平に扱うという姿勢を明確にすることで、個別の国からの値引きの要求を断りやすくする効果もあります。

言い換えれば、一律の価格を提示することで、スピードと公平性を重視しました

新興国を別枠に

3つ目のポイントは、新興国を完全に別枠としたことです。保険価格を決める際に、「参照価格」として他の国の価格を参照する国・地域が多いです。そのため、安い価格で出さないと人々の手に入らない新興国に薬を回すのは後回しになりがちです。

今回の場合、新興国を特別扱いとし、生産・販売元を分けることで、先進国の価格に影響を与えないようにしながら、新興国にも薬を提供できるようにしました。

得られるライセンス料は先進国からの収入に比べれば微々たるものだと想像されますが、各国と良い繋がりを作り、ブランド認知度を高めるのに良い方法です。

医療業界は規制業種であることから、規制当局から信頼されることは非常に重要です。今回のレムデシビル供給により、新興国における規制当局との繋がりを強める効果があると考えられます。

他銘柄への影響

ギリアドのレムデシビルの価格は、今後出てくる治療法の価格に影響します。言い換えれば、各国がレムデシビルの価格を基準に考えます。

実際、ギリアドのレムデシビルの価格はかなり抑え気味であり、重症者向けに効果があるというデータが出てきたdexamethasoneも非常に安価です。

今後治療法が出てきた時にはこの2つの薬の組み合わせよりも有効であり、かつコスト便益に優れていることを示す必要が出てきますが、これは現在治療法を開発している企業にとってはあまり良いニュースではありません。

高い価格を提示した時に社会的な批判が出る可能性が高いため、新型コロナ関連の売上予想を押し下げる要因になります。

一方、ワクチンについては、そもそもカテゴリーが違うため、あまり影響はないと考えられます。

まとめ

以上のように、ギリアドは「いかにレムデシビルの利益を最大化するか」というよりは、「中長期的にギリアドとしてビジネスを拡大していくために、いかにレムデシビルを使うか」を考えて、値付けを行ったように見えます。

これは戦略的に正しいと思います。株式市場もこの価格を正しいと捉えたようで、株価は横ばいです。

幸か不幸か、新型コロナの感染は衰える様子がなく、特にアメリカでは1日に40,000人を超える新規感染者が続いています。

worldometersより

このまま感染がおさまらなければ、アメリカ国民にとっては悲劇ですが、ギリアドにとってはレムデシビルの需要が増え、売上増に繋がりそうです。

ギリアド(GILD)についてより知りたい方はこちらをどうぞ。

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ギリアド (GILD) – レムデシビルで注目を浴びるバイオ製薬会社

ギリアド・サイエンシズは新型コロナの治療薬候補として「レムデシビル」を持つことで、注目を浴びている企業です。

今回はギリアドについて分析していきたいと思います。この記事を読むと、製薬会社のビジネスモデル、ギリアド・サイエンシズのビジネス、新型コロナ向けの治療薬開発の進捗、についてわかります。

製薬会社のビジネスモデル

まず、製薬会社のビジネスモデルについて簡単に説明します。

製薬会社も製品(医薬品)の開発・生産・販売、をする点は他の業種のメーカーと同じです。一方、大きく違うのはその製品開発の特殊性です。

医薬品の開発には、長い年月と多額の費用がかかります。

医薬品は安全かつ有効な製品が求められるため、ほぼ全ての先進国で規制当局による販売規制がされています。販売するためには、規制当局の承認を得る必要があり、そのためには開発段階ごとに安全性・有効性を示すデータを提示しなければなりません。

具体的には、薬を作用させる対象を決めた後に、コンピューター上でのシミュレーション、実験室での実験、動物での治験、人間での治験(通常、安全性を見る第一段階、安全性・有効性をみて用法・用量を決める第二段階、最終的に大規模な試験を行って安全性・有効性を確かめる第三段階の三段階)、規制当局への認証申請、保険償還申請、のプロセスを経る必要があり、通常10年以上かかります。

薬の候補となる物質を研究者が見つけて、そこに社内で予算がつくのは数%。人での臨床試験までたどり着くのがさらにそこから数%。人での臨床試験(治験)段階まで進んだとしても、薬として製品化されるまで行くのはわずか12%と、8候補薬あってようやく1つが世に出る割合です。

候補となる物質から考えると、万に一つの世界です。加えて、薬として製品化された後も安全性・有効性についてモニタリングを行う必要があり、このモニタリングにも多額の費用がかかります。

複数のプロジェクトを走らせて、ようやく一つがモノになるような製品の性質上、一つの製品を開発・販売するのにかかる金額は平均$2.6b (約2,800億円)、販売後のモニタリングで$0.3mで合計約$3b (約3,300億円)かかると推定されています。10年間でこの数字は倍以上になりました。新薬の開発がそれだけ難しくなってきているからです(Joseph (2016) “Innovation in the pharmaceutical industry:New estimates of R&D costs”, Journal of Health Economics 2016)。

これだけの費用をかけて開発する医薬品ですので、他社が開発をせずに「ただ乗り」することを防ぐよう、特許による法的な保護が行われています。米国の例では、特許出願時から20年です。つまり、「その間は独占的に販売をしていいよ」、という政府からのお墨付きです。

製薬会社は「既存の製品で稼ぐことで、将来に向けての研究開発費を捻出し、自社開発または他社の買収・他社との提携を通じて、新たな製品を獲得して世に出すことでまた稼ぎ、将来への投資にあてていく」というビジネスになります。

そのため、大手製薬企業の財務を単年度で見ると、営業利益率は非常に高い一方、「研究開発費」も高い水準になります。

下のギリアドの例では、2019年の粗利益率が84%と高い一方、研究開発費(R&D)は$3.77bと17%近くであり、非常に高くなっています。

Gilead Financial Highlights 2018 vs 2019

また、その製品の性質から、買収と提携が非常に多く、ニュースを賑わす業界でもあります。

一方、特許が切れたあとは他社も参入できるようになり、一般的に特許が切れた後のその薬の価格は大きく落ちます。

「ジェネリック」医薬品という言葉を聞いたことがあると思います。これは特許が切れた後、開発元でない企業が同じ成分の薬を生産して販売している医薬品のことを言います。

米国ではジェネリック医薬品が市場に入ると値崩れすることに加え、シェアも奪われるため、「いかに特許期間を長くするか」、「いかにジェネリックが入ってこられないようにするか・入るのを遅らせるか」が製薬企業の既存の製品ポートフォリオ管理において重要になります。

バイオ医薬品

「バイオ医薬品」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ギリアドはこの分野で強みを持つ企業です。

ざっくりと言えば、バイオ医薬品以前の薬は、化学物質を合成することで製造する薬です(低分子医薬品)。化学物質と化学物質を「ねるねるねるねして作る」と想像すると、わかりやすいかもしれません。生産プロセスの管理がしやすく、大量生産に適しています。僕らが日常飲んでいる薬は、ほとんどこのカテゴリーです。

一方、「バイオ医薬品」は特定のタンパク質を生物に生産させることで得られる医薬品です。目的のタンパク質の情報が含まれた遺伝子を細胞(大腸菌、酵母、動物など)に導入し、その細胞を培養し、タンパク質を作らせて、その後に特定のタンパク質だけを抽出し、精製し、薬剤とします。

要は、バイオ医薬品は、他の生物に薬を作ってもらうという点で、ヒトが化学物質を合成して作る低分子医薬品と異なっています。

バイオ医薬品は、一般的に化学合成で作られる低分子医薬品よりも製造の難易度が高く、手間もかかります。治験で人に効果が出るタンパク質を特定できた、けれど製造がどうにもならない・・・ということも頻繁に起こります。

そのため、バイオ医薬品の開発・生産は専門性が高く、限られた大手製薬会社しか生産まで含めてできない分野です。また、バイオ医薬品は高価であることも多く、現在の新薬開発の主流になってきています。

IQVIAが2019年に発表したレポートによると、全世界のトップ100のうちバイオ医薬品は41品目で、低分子医薬品は59品目。売上で見るとバイオ医薬品が低分子医薬品を上回りました。低分子医薬品の大型製品が特許切れで売上が減少するのに対し、バイオ医薬品はまだ特許が残っている製品が多く、バイオ医薬品の製薬全体に占める割合は年々上昇していっています。

また、バイオ医薬品は「再生医療」や後述する「細胞療法」など新たな治療法が生まれてきており、発展著しい分野です。

ギリアドのコアビジネス

ギリアドはバイオ製薬会社であり、主にHIV向けの薬とC型肝炎向けの薬(HCV)に強みを持っています。もう一度2018/2019年の売上を見てみましょう。売上の70%以上がHIV向けで、15%程度がC型肝炎向けです。Yescartaという新規事業が2%程度、その他が10%程度です。

Gilead Financial Report 2018 vs 2019

特にHIV向けの薬はシェアが高く、アメリカではシェア上位の薬を独占し、シェアNo.1。欧州でも高いシェアを誇ります。
C型肝炎ビジネスもソバルディ・ハーボニーという優れた製品を保有し、アメリカでは60%近いシェア、欧州でも高いシェアを持ちます。

C型肝炎ビジネスの売上が急激に減少しているのは、競合がいることもありますが、この薬が「効きすぎる」ためでもあります

実際、ギリアドの売上はこの薬の爆発的なヒットのため、2010年代中盤にピークを迎えました。

下の図のように、ギリアドのビジネスは「HIV向け」が順調に毎年伸びる一方、C型肝炎向けのビジネスは急速に伸びた後、急激に失速しています。なぜでしょうか?C型肝炎は、インターフェロンという体の中でも作られるタンパク質を注射することでC型肝炎ウイルスの排除を行う治療が以前までの標準治療でした。こちらはC型肝炎の種類にもよりますが、完治率は低く、治療期間も長いため、多くの患者さんが新しい薬を待ち望んでいました。

それに対し、ハーボニー・ソバルディは完治率が非常に高く、さらに治療期間も短い、という患者さんにとっては福音でした。そして、瞬く間にシェアを得て、これらの薬は普及しました。これがC型肝炎向けビジネスが爆発的に伸びた理由です。

結果、何が起きたのでしょうか? ハーボニー・ソバルディが必要な患者さんが激減したのです。高血圧や糖尿病などの生活習慣病であれば、ずっと薬を飲み続けるため、患者さんが生きている間は需要が見込めます。一方、画期的な新薬で患者さんが完治すると、患者さんはいなくなります。

つまり、発売されて数年が経つと、既存のC型肝炎で苦しんでハーボニー・ソバルディが必要となる患者さんが激減し、薬の需要が新規でC型肝炎にかかる人のみになってしまいます。当然、対象となる患者さんが少なければ売上も落ちます。C型肝炎向けのビジネスは年20%以上の勢いで減少していますが、これは薬の競争力が落ちているわけではなく、そもそも需要が減っているためです。

一方、HIV向けの商品は、HIV患者はHIVの発症を抑えるために薬を飲み続けなければならないため、既存の患者さんは薬を飲み続け、新規の患者さんもギリアドの薬を飲むことになります。つまり、売上は積み上げ式になり、患者さんが生存し続ける限り、増えていきます。事実、HIV向けの製品の売上は順調に増加を続けています。

画期的な新薬は必ずしも長期的なビジネス的成功につながらない、というのは古くからある製薬ビジネスのジレンマです。継続的に飲み続けられる生活習慣病や、患者数が多く再発率も高いガン治療向けの開発プロジェクトが多いのはそういう背景もあります。

HIVやHCVと並んでいるYescartaは「細胞療法」と呼ばれる新しい治療法であり、FDAから認可を受けたのは2017年。まだまだ薬としてのライフサイクルが始まったばかりの薬です。ギリアドはこの技術と製品を持つKite Pharmaという企業を2017年に1兆円以上の金額で買収しました($11.9b)。

現在はほぼ同時期に認証を受けたノバルティスのKymriahとギリアドのYescartaの2つがFDAより商品として認可されています。

細胞療法は生産が非常に難しく、現在は適応も限られている(=使うことができる患者さんが限られている)ため、ほぼノバルティスとギリアドが寡占状態になる可能性が高いです。先行者利益が取りやすく、より多くの病気に適応できるようであれば市場も拡大するため、将来が期待できる事業です。

以上のように、ギリアドは堅いコアの事業(HIV、C型肝炎)と細胞療法(例: Yescarta)というバイオ製薬の中でも新しい分野を既存製品として持っています

C型肝炎のビジネスの下げ止まりが見えていないこと、その他事業(B型肝炎向け治療薬など)が減益傾向にあることから、HIVとYescartaの成長と相殺され、しばらくは売上は横ばいでしょうが、商品の競争力があることと主要製品の特許期間もまだ余裕があるので、当面大崩れはしなさそうです。

ギリアドの開発パイプライン

ギリアドの開発パイプライン

「製薬会社のビジネス」で述べたように、製薬会社のビジネスは今の既存の薬が特許で保護されているうちに稼ぎ、次の新薬を育てる、のが基本的な経営方法です。ギリアドは自社開発に加え、買収や提携で開発のパイプラインを拡充しています。

ギリアドは強みを持つ感染症向け(主にHIV)に加えて、炎症性疾患(リウマチなど)、繊維性疾患、ガン向けに注力する方針です。感染症向けは主に現在のHIV向け製品のポートフォリオ強化でより現在の地位を盤石にするためであり、ガン向けは主にKiteが担います。

「製薬会社のビジネスモデル」の項でも述べたように、臨床試験に入った薬でも販売までたどり着くのが8つに1つの世界です。炎症性疾患、ガンともに市場が大きいので良い治験結果が出る商品が出せれば大きな可能性がありますが、製薬につきものの運頼みです。

また、炎症性疾患、ガン向けともに競争が激しい分野なので、臨床試験での有効性に注目です。

レムデシビル (Remdesivir)

レムデシビルは抗ウイルス剤として新型コロナにかかった患者さんに一定の効果がみられたため、注目されています。現在は、日本では新型コロナの重症患者向けの承認を受けており、米国ではEmergency Use Authorization(一時的な許可)を得ています。

レムデシビルについて、現在の治験結果からわかっていることは以下です。

  • 中程度の患者に対して、5日間処方すれば、標準治療よりも65%高い確率で患者さんがより良い状態となる (SIMPLE trial)
  • 5日間の処方も、10日間の処方も、統計的に有意な差は生じていない(SIMPLE Trial)
  • 重症者に対して、レムデシビルは死亡率を改善はしないが、平均4日間入院期間を短縮できる(NIAID study)
  • 標準治療と比較して、統計的に有意な重篤な副作用は観察されなかった (SIMPLE Trial)

これまでに行われたランダム化された臨床試験結果から見るに、レムデシビルは決定的に効果的な治療薬ではなく、「ないよりはマシ」な薬です。中程度の患者さんを良くする可能性が高まること、入院期間を短縮できること、のどちらも患者さん、病院にとって価値があります。重篤な副作用がみられなかったことから、現時点では安全性についてもクリアしているように見えます。

一方、現時点で得られているデータは数ヶ月後、1年後などにフォローアップが行われたものではなく、あくまでも速報であり、かつ数百人程度の小さいサンプル数から得られたデータであるため、今後大規模に使用されたときに副作用が報告される可能性は残っています。

現在、治療薬ではdexamethasoneが「重篤な患者」の死亡率を改善させる、とイギリスの治験から発表が出ています(WHO News)。これは非常に良いニュースですが、「重篤な」状態に至る前に治療する方が望ましいため、中程度の患者さんに処方することでメリットのあるレムデシビルの必要性は残ります。

第三段階のさらなるフォローアップの結果、他の治療薬の開発進捗次第(ファビビラデル(アラガン)など含む)ではありますが、速報と同程度の有効性と安全性が観察されれば、薬として米国、欧州、日本で中程度の新型コロナの患者さん向けに認証される可能性は高いのではないかと考えられます。

価格は先進国の政府向けで5日間の治療で$2,340、民間向けで$3,120と発表されました。コスト便益分析からは$4,000程度が妥当と言われていたので、批判が出にくいよう、かなり価格を抑えた印象です。新興国向けには異なる価格が適用されます。

まだまだ新型コロナは収束時期が見えておらず、今後新型コロナで中程度と診断される人の数の推定は難しいです。過去6ヶ月で世界の感染者は1,000万人、死亡者は50万人を超えました。

仮に先進国、米国民間向けに年間100万人分を平均$3,000で販売したとすると、

100万人 x $3,000 = $3b (3,300億円)と、現在の売上を15%増やす計算になります。価格を抑えているので粗利益率はそこまで高くないかもしれませんが、純利益ベースでも10%程度は増えてもおかしくないかと。

また、将来の可能性として、現在のレムデシビルの投与は点滴方式ですが、ギリアドはレムデシビルの吸引型の治験をはじめました。仮に吸引型で効果が出るならば、軽症の患者さん向けにも処方しやすくなるため、よりビジネスとしての可能性が広がります。

通常の治療薬、ワクチンの開発には10年以上かかることがざらであること、治験に進んだ治療薬・ワクチンであっても有効性・安全性を兼ね備えて認証される製品は10%台であること、を考えると、夏が過ぎても「レムデシビル」のみが唯一の選択肢になる事態も十分に考えられます

ワクチン、他の治療薬の治験結果があまりよくないと、世界中でレムデシビルの需要が突発的に増加する可能性があります。

ギリアドの株価

ギリアドの株価は現在$75程度で、年初の$65から15%程度上昇しています。

元々のビジネスが安定しており、かつ大きい分、コロナ関連のニュースによる株価の変動幅はワクチンで注目されているModernaやBioNtechなどと比べると小さくなっています(これらの企業の売上はほぼ0で、ワクチンの行方に売上がより大きく左右されるため)。

配当は直近四半期で$0.68となっており、配当利回りでも3.7%と高めです。2019年のEPSは$4.22で、PERは18程度。

ギリアドは、バイオ製薬企業としても、新型コロナに関連した銘柄としても、注目すると面白い企業かと思います。

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モデルナ (Moderna: MRNA) 新型コロナワクチンの先駆者

新型コロナ感染者数拡大とFRBの暗い経済の見通しから、今週ダウが史上4番目の下落をしました。新型コロナが市場を左右する状態はまだ終わっておらず、ワクチン・治療薬への期待が高まっています。

今回は世界でのワクチンの進捗と、ワクチン開発の先頭を走るModerna(モデルナ)について書きたいと思います。

新型コロナのワクチンの進捗

新型コロナに向けたワクチンは現在、100以上の候補の研究が行われています。

しかし、人に対して臨床試験が行われているのは数えるほどしかありません。代表的なのは下記の10のワクチン候補です。

参照:Mullard (2020) “COVID-19 vaccine development pipeline gears up”, THE LANCET

通常、製薬は10年かかることも珍しくないプロセスです。

製薬の臨床試験について、ざっくりと説明すると、動物において安全性(副作用が出ないか)と有効性(病気の治療に効果的か)を確認した後に、人での治験に入ります。フェーズ1 -> フェーズ2 -> フェーズ3、と通常は3段階の試験を行い、安全性と有効性を調べられます。

フェーズが進めば進むほど、治験は大規模になっていきます。

新型コロナ向けの薬・ワクチンの場合、有効性が確認されている既存の薬・ワクチンがまだないため、「フェーズ3(Phase 3)で安全性と有効性が確認されれば、薬として認可される」と捉えてもらえればOKです(既に標準治療として薬がある場合には異なる審査基準になります)。

製薬・医療機器の製品開発についてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

[st-card myclass=”” id=792 label=”製品開発” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

Moderna(モデルナ)のワクチン進捗

新型コロナ向けワクチン開発の先頭を走るのはモデルナ(Moderna)です。政府からの受注も行っており、米国の官民合同ワクチン開発促進プロジェクトであるOperations Warp Speedにも選定されている企業の一つです。

モデルナは既にPhase 3までの計画を発表しており、ワクチン進捗では他の企業に先んじています。

Phase 1

モデルナは2月よりPhase 1の臨床試験を始め、5月に中間報告を行いました。

Phase 1では健康な18-55歳のグループに25ug、100ug、250ugを投与して、有効性と安全性を確かめました(各15人)。

Phase 1では100ugを二度投与した時にできた抗体のレベルが新型コロナ回復患者よりも上回っており、副作用は他のワクチンと同程度で許容できる範囲でした。

そのため、Phase 2へ進み、以降の試験では容量として100ugが選択されました。

Phase 2

現在、Phase 2の試験が進捗しています。試験の枠組みは以下です。

  • 600人(300人の18-55歳のグループ、300人の55歳以上のグループ)
  • ランダム化試験。対照群にはプラシーボ(偽薬)
  • 50ug、100ugを2度投与 (28日間の間隔をあける)
  • 2度目の投与後から1年後に抗体のレベルを検査
  • エンドポイント(薬として「使える」かの指標)は1年後の有効性と安全性

こちらは結果が出るのは一年後です。

Phase 3

モデルナは6月11日に7月より、最終段階であるPhase 3の臨床試験を行うと発表しました (Moderna Press Release)。

発表の主な要点は下記です。

  • Phase 3の臨床試験の枠組みをFDA(Food and Drug Administration – 米の薬・医療機器の審査機関です)と合意。NIAID(National Institute of Allergy and Infectious Diseases – 米の政府機関です)のサポートを得ながら進める
  • Phase 3はランダム化試験、USの患者30,000人が対象
  • 対照群はプラシーボ。主要なエンドポイント(効果があるかどうかを判断する測定基準)は症候性のCOVID-19を防げるかどうか。第ニのエンドポイントは、深刻な症候性のCOVID-19を防げるかどうか
  • イベント・ドリブン分析(イベント=新型コロナにかかるかどうか)
  • 容量は100ugを2度投与
  • 年間5億人分のワクチンを生産する準備を進めている。Lonzaと提携して、2021年には10億人分まで生産を拡大できる可能性がある
  • BARDA(Biomedical Advanced Research and Development Authority)より試験や製造設備拡大のための資金援助を受ける

Phase 3では、Phase 2のように「ワクチン摂取後◯年後、◯ヶ月後にどれくらいの被験者が抗体を維持しているのか」を見るのではなく、「ワクチン摂取後に何%の被験者がどの段階で新型コロナにかかったか」を分析するイベント・ドリブン手法が取り入れられています。

そのため、Phase 3の結果は中間報告として1年経たずに発表されると考えられます。

モデルナのワクチン開発の進捗

このフェーズの進め方は、異例の早さです。

臨床試験には多額の投資が必要となることに加え、FDAの枠組みへの同意が必要となります。また、治験への登録者を集めるにも時間が必要となります。

通常はPhase 1の臨床試験結果の最終データをみ見てから、結果がよければFDAがPhase 2の計画承認。Phase 2の結果をみてから、結果がよければFDAがPhase 3の計画承認、と順に進捗させていきます。

それに対して、今回の例ではほぼPhase 1、2、3を同時並行で進めています。

これは、それだけ事態が深刻なため、

  • FDAが中間データでも次のステップに進めることを認めている
  • NIHが治験に協力をして、治験者登録をスムーズにしている
  • BARDAが治験の投資費用への援助を行うことで、投資リスクを減らしている

ことが大きな理由です。結果がわかる前から既に5億人分のワクチン製造能力に投資することは、普通の企業は取れない大きなリスクですが、BARDAの援助がそのリスクを大きく減らしています。

モデルナのワクチン候補は、「Operations Warp Speedに採択され、BARDAが資金を援助し、NIHが治験に協力を行い、FDAよりFast Track Designation(優先され、より短期間で審査される)の認可を得ている」、とアメリカが国として全力でサポートしています

モデルナは国策として応援されている企業、とも言えるでしょう。

モデルナの株価

新型コロナ向けワクチンの先駆者となる期待から、モデルナの株価は年初の$20の3倍以上の$60前後で推移しています

モデルナの株価はPhase 1の臨床試験の中間報告内容がよかった、というニュースを受けて$80をつけました。この時が今年に入ってからの最高値で、その後は$60前後で推移しています。

6月12日にはワクチンのマウスでの実験で効果が見られたという発表があり、株価は再び3%上昇しました。時価総額は既に2兆5000億円($24b)を超えています。

モデルナの株価推移

しかしながら、モデルナ自体は、まだ製品をローンチする前の会社です。直近の四半期の売上はわずか約8億円($8m)で赤字が130億円です。

モデルナの2020年第一四半期の業績

現在のキャッシュフローと新型コロナ向けワクチン以外のパイプラインだけでは正当化できない水準まで株価が上昇しています。

この企業の株価がどうなるかは、まさしく新型コロナのワクチンが成功するか否か次第でしょう。

今後は、

  • Phase 1、2の中間結果
  • Phase 3の進捗と結果(数ヶ月後に結果報告がされる可能性が高いです)
  • 新型コロナがどれだけ長引くか

が株価の材料になりそうです。

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コロナ後の世界を感染症の歴史から考える

米国株価は3月の底値から折り返し、年初から-13%まで急速に回復しました。背景にはロックダウンの解除と治療薬・ワクチンの開発の進展、再度の感染拡大リスクが低いと見積もられていることがあり、依然として新型コロナウイルスに左右される相場が続いています。

人類は過去にも世界規模の感染症を何度も経験してきています。歴史的な視点から、今後どのような展開になるかを考えてみましょう。

人類の歴史は感染症との戦いであった

人類の歴史は感染症との戦いの歴史でした。ハンセン病、コレラ、天然痘など現在でも知られている感染症は過去に世界で大流行し、多くの人の命を奪っています。

具体的には、13世紀にハンセン病、14世紀にペスト、15世紀に梅毒、17-18世紀に天然痘、19世紀にコレラと結核、20世記にインフルエンザとエイズ、そして21世紀には今回の新型コロナウイルス、が世界的に流行しました。

背景にあるのは、以下の3つです。

  • 人口が都市へ集中するようになり人口の密集度が上がったこと
  • 家畜化により動物との接触機会が増えて動物由来のウイルスが人に感染するようになったこと
  • 交通機関の発達により人が大陸を越えて移動するようになったこと

具体例を一つあげれば、クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見して以来、アステカ帝国はヨーロッパより持ち込まれた天然痘・麻疹・チフスにより壊滅状態に追い込まれ、滅亡しました。

アステカ王国は数十万人を超える人がいたのに対し、船で人を運んでこなければならず、圧倒的な数の不利があったスペインが新大陸を制覇できたのは、感染症を有効利用したためです。

また、感染症は戦争や飢饉など、衛生状態が悪化したときにも急速に広まり、非戦闘員を含めて命を奪ってきました。感染症は、戦争や天災を上回り、人類の歴史上、最も人の命を奪ってきた要因です

人類は対抗策をとってきた

人類もただ手をこまねいてきたわけではありません。

上下水道の整備はその最たる例です。上水道の整備は、水を媒介して感染する病気を防いできました(寄生虫、コレラ、赤痢、チフスなど消化器系の感染症)。

上下水道が整備される前は、排泄物を川に流し、その水が飲み水として使われていたため、排泄物を通じて感染が広まっていました。

飲み水と下水を分けることにより、感染症の広がりを抑えることができたことに加え、1800年代には水を浄化するということができるようになり、先進国では安全で清潔な水を手に入れました。

また、人類は医学・疫学を発達させ、薬やワクチンを発明してきました。現代に生きる私たちは当たり前に感じてしまいますが、200年前には病気にかかっても、抗生物質もなければ、抗ウイルス剤もない世の中です。ワクチンもありません。

どうして疫病が流行るのかすらわからないため多くの場合、感染症はかかるもので、生き残れるかは運次第で、個人の免疫と自然治癒力に頼るしかありませんでした。感染症にかかることは、文字通り命がけでした。

疫学の発展により、いかに感染が広がるかがわかったことは大きな進歩です。特に石鹸を用いての手洗いや身体を清潔に保つことは、多くの感染症の広まりを抑えました。

また、医療インフラの整備により医療へのアクセスが向上したこと、緑の革命により食糧生産が増加して食べ物が行き渡るようになって栄養状態が向上したこと、も感染症への抵抗力をあげることに貢献しています。

科学の発展により、新たな感染症が見つかったとしても、「発見し、隔離し、治療し、予防する」スピードが早くなりました。

  • 上水道の整理
  • 医学の発展(抗生物質、抗ウイルス剤)
  • ワクチンの接種
  • 疫学の発展
  • 医療インフラの整備
  • 衛生状態・栄養の向上

により人類は感染症の影響をかなりの程度抑えることに成功してきました。

例えば、天然痘は17-18世紀に中南米の人口を80%以上減らした人類への脅威ですが、WHOが1958年に根絶計画の決議をとって以来、治療法とワクチンの普及により、わずか22年でこの世界から根絶することに成功しました。

ポリオなどの小児がかかる重い感染症も、ワクチンが普及した結果、根絶に近づきつつあります。

終わりなき戦い

しかし、人類と感染症は終わりなき戦いを続けることになります。なぜなら、細菌・ウイルスは変異し、形を変えて襲いかかってくるためです。

例えば、馴染みの深いインフルエンザですが、定期的にワクチンを打つことが一般的です。これはその年により、流行るウイルスのタイプが異なるためです。ウイルスは細菌よりも変異の速度が早く、数ヶ月で既存の薬が効かなくなることもあります。

よって全ての感染症を、天然痘のように、根絶できるわけではありません。

また、野生動物は様々なウイルスを体内に保っており、それらが変異し、ヒトに感染することもあります。

例えば、SARSやエボラ出血熱はコウモリ由来と言われています。ヒトがコウモリを食べて、感染。そこからさらに他のヒトに感染、と感染の輪が広がっていきました。

家畜や生きた動物を扱うマーケットから、変異したウイルスを受けとることで、新たな感染症が広まることは過去20年でも何度か起きていますし(SARS、MERS、エボラ出血熱)、新型コロナも動物由来と言われています。

この終わりなき戦いは、私たちが生きている間にも、広まりの程度の差はあれ(ある地域で止まるか、全世界的に広まるか)、続くことでしょう。

新型コロナ後の世界

新型コロナは感染症の恐ろしさを人類に再び知らしめました。現在、モデルナ(Moderna)、バイオンテック(BioNTech)、ジョンソンアンドジョンソン(J&J)をはじめとしてワクチンの開発が急速に進んでいます。また、治療薬もギリアドのレムデシビルが入院期間を短縮する効果を示したたことに加え、多くの治験が行われています。

仮に、全てがうまくいったとしましょう。全てがうまくいく、というのは下記のようにワクチンと治療薬が発見、生産、分配されることを意味します。

  • ワクチンが安全性、有効性を示す
  • ワクチンが十分な量生産される
  • ワクチンが人々に行き渡る
  • 安全で、有効性が高い治療薬が発見される
  • 治療薬が十分な量生産される
  • 治療薬が人々に行き渡る

この条件が満たされて、初めて国際的な人の移動が元に戻ります。逆に言えば、この条件が満たされなければ、国ごとにどの国からなら人を受け入れることができるか、などという制限が設けられ、空の移動にも感染を防ぐための対策が持ち込まれる可能性が高いです。

ワクチンの普及速度を考えても、この制限は一定規模で数年間続き、来年東京で開かれる予定のオリンピックにも影響が出る可能性は高いです。つまり、航空会社、インバウンドを主なお客にしているビジネス、オリンピック需要をあてにしているビジネス、はこの先2年間はコロナ前の水準まで戻れない可能性が高いでしょう。

加えて、変異によりワクチン・治療薬が効かなくなること、新たな感染症が生まれてくることもリスクです。

今後、大勢のヒトが集まることで成り立つビジネスに投資をする際には(テーマパーク、空港、公共交通機関など)、このリスクが意識されるようになり、株価の重荷や特に借入金や社債の利率に影響が出てくると考えられます。

もしかしたら、多くの人と接触しない余暇がブームになるかもしれません(キャンプなど)。

安全保障の観点からは、今回の新型コロナは生物兵器の有効さとウイルスの脅威を示しました。ウイルスの研究は、核兵器について研究するよりも意図が見抜かれにくいです。感染力があり、重症化率の高いウイルスが大国の経済を破壊できるだけの力を持つことは、小国であっても、感染兵器を製造することで大国と交渉できるカードになり得ることを意味します。

歴史においても、感染症は相手の戦力を弱めるために使われてきました(天然痘など)。今後は、相手の国力を削ぐ、または抑止力として選択肢に入れる国が増えると考えられます。

同時に、各国ともに自国にウイルスが持ち込まれた時に対応できるような能力を持とうとする動きが出るでしょう。ワクチンの開発・製造、製薬の開発・製造について、国内企業を優遇、または育成しようとする国が増えると予想されます。

加えて、今回のマスクやPPE (Personal Protective Equipment)の不足は、医療物資を他国に依存することのリスクを顕在化させました。こちらもワクチン・製薬と同様に、医療用途の消耗品・医療機器についての産業育成に国が投資をする動機になるのではないかと思います。

実際にアメリカは自国に優先して薬が回るように他国の製薬会社に働きかけを行ったり、自国の製薬会社にアメリカ向けを優先するようにしむけています。ワクチン・治療薬を用いた外交はすでに始まっています。

まとめますと

  • ヒトが大勢集まることで成立するビジネスのリスクが高い状態が数年は続く(ショッピングセンター、テーマパーク、交通機関など)。借入金や債券の高い利率といった形でリスクが織り込まれる。
  • 製薬・医療機器は国策として重要となってくるため、国が何らかの産業保護または産業振興の政策を打つことが予想される。
  • 製薬・ワクチンが外交の道具としてみなされるようになる。

大きな流れで見ると、今回の感染症はヘルスケアメーカーにとって、一つの転機になるかもしれません。

参考図書:石弘之 『感染症の世界史』 洋泉社 2014

米国の医療事情についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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