2週間で1000万人失業、アメリカで今何が起きているのか

新型コロナウイルスが株式市場だけでなく、雇用と生活に与える影響が見えてきました。この2週間で、新規失業保険申請は1,000万件となり、アメリカの労働者の16人に1人が失業したことになります。

どうしてこんなことになっているのか、株式市場へはどんな影響があるのか、をまとめてみます。

リストラ・レイオフ(一時解雇)

大前提としては、日本とアメリカでは解雇規制が異なり、アメリカの方が規制がかなり緩く、解雇までの動きも早いです。

アメリカでは自由意志での雇用 (Employment at Will)ですので、即日クビになることもあります。解雇の他に、一時解雇(レイオフ layoff)という形で将来また必要があれば雇い直すよというような解雇もありますし、無給休暇 (furlough)を一定期間取得させることもあります。

つまり、企業が危機になり、コストカットが必要であれば、容赦無く雇用を切りますし、社会がそれを前提として成り立っています。

具体例をあげると、米国百貨店のメーシーズ、ノードストローム、アパレルのGapなどが一時解雇を行なっています。百貨店、アパレル、宝飾品などは消費者が外出を控えていることもあり、売上が厳しくなっています。

また、ヒルトン、マリオット、ハイアットといったホテルチェーンもレイオフを行なっています。日経新聞によれば、米国のホテル稼働率は3月の4週目で23%まで落ち、前年同期比で68ポイントも下回っています。リーマンショック時の時ですら稼働率は50%はあったとのことですので、今がいかに異常な状態かがわかります。

ホテル業界団体のアメリカン・ホテル&ロッジング協会は、米ホテルのほぼ半数が閉鎖したとみています。

現状を反映して、マリオットの株価も1月から比べて、ほぼ半値まで落ち込んでいます。

また、航空業界も国境封鎖を行う国が増えていること、感染を避けるために出張や旅行を控える人が増えていることから減便・レイオフが相次いでいます。

小売、旅行、航空、エンターテインメントなどの業界が大きな影響を受けた結果として、先週、米国では328万3000件の失業保険申請がありました。今週は660万件の失業保険申請がありました。2週間で米国の労働者(1億6000万人)の6%近い人が失業しました。

2月時点での失業者は580万人で、失業率は3.5%でした。この2週間で労働者の10人に1人が失業する国になりました

倒産

従業員のリストラだけでは済まず、倒産まで至る企業も出てきています。小売のディーン・アンド・デルーカ (Dean and DeLuka)が破産申請をしました。日本でもおしゃれなカフェや海外雑貨で好きな方がいらっしゃると思います。

ディーン・アンド・デルーカは$50m(55億円)の資産に対して、$275m(300億円)の負債を抱えていたとのことです。親会社は実はタイの会社で、Paceです。

Paceは2014年に$140mでディーン・アンド・デルーカを買収し、これまでに$200m近く資金を投入していましたが、結局米国の事業を立て直すことはできませんでした。破産するのは米国の事業のみで、他の国の事業は継続される予定です。

また、米国のシェールビジネスを営む企業であるウィッティング・ペトロリアム(Whiting Petroreum)も破産を申請しました。

主な理由はサウジとロシアの原油価格戦争と世界中でコロナの影響で原油の需要が減少していることによる、原油安で、採算が取れなくなったためです。

ウィッティングは$585mの現金がまだ手元にあり、営業を継続する予定です。今後、債権保有者は$2.2bの債権を放棄する代わりに新会社の97%の株式を受け取り、株式保有者は新しい会社の3%の株式を受け取る予定とのことです。株価は1月から滑り台のように、$8から$0.4まで一気に落ちました。

どちらの企業も債務の割合が大きく、元々の財務基盤が弱かったことに加え、ビジネスもうまくいっていませんでした。

そこに、「消費者の外出控えからの需要減少」、「原油安」が背中を押して、破産法の申請に踏み切ったと考えられます。

この2つの要因は他の小売、シェール企業も蝕むため、4月に続いて倒産する企業が出てくると考えられます

家賃・テナント料の支払い猶予とREITの大幅な価格下落

「消費者の外出控えからの需要減少」のため、ショッピングセンターなどの商業施設は軒並み全滅です。テナントとなっているお店の売上が落ちているため、テナントの一部が家賃の減免や支払い延長を求めています。

同様の動きが賃貸でも起きており、一部の賃借人がオーナーに対して家賃の支払い延期や減免を求めています。失業者が1,000万人で、そのうちの何割が家賃を滞納するのか、と考えるとかなりのリスクがあります(アメリカは4割近くの人が急な$400の出費すら用意するのに苦労します)。

Small, unexpected expenses (FRBの調査2019より)

これらの動きは、家賃収入の減少に繋がり、ショッピングセンターなどの商業施設へ投資する商業施設REIT、住宅に投資する住宅REIT、住宅ローンをまとめて証券化した商品である住宅ローン担保証券(RMBS: Residential Mortgage Backed Securities)や商業用不動産ローン担保証券(CMBS: Commercial Mortgage Backed Securities) などの価格に影響を与えます。

実際に、RMBSやCMBSで運用する米インベスコ・モーゲージ・キャピタルはRMBSとCMBSの価格下落から追証を求められ、支払いがまだできていない状態となっています。「投資適格ならばなんでも買う」状態のFRBも、連邦保証がついていない住宅ローン担保証券までは購入してくれません。インベスコの株価も大幅に下落しています。

格付け会社も容赦なくローンの格付けを落としているので、投げ売りをせまられるファンドも出てくるでしょう。

これらの動きが長期化すると、オーナーも借金の金利支払いを債権者(銀行など)にできなくなり、債権者(主に金融機関)もダメージが大きくなります。

「コロナによる外出規制がどの程度長引くか」、「失業者が家賃を支払えるような支援を政府が行なっているか」、が米国のREITと金融機関の株価に大きく影響を与えます。

配当・自社株買いの中止

HSBC、Standard Charteredなどの英銀行が英国の中央銀行からの要請を受けて、配当・自社株買いの中止を発表。

米国議会がまとめた$2t (220兆円)の景気対策についても、一部には受け取った資金を「配当・自社株買い・経営陣への高額な給与支払いに使わない」という条件が含まれていることもあり、コロナショックの影響を受け、政府や中央銀行からの支援を必要とする企業の「配当・自社株買い」が減りそうです。

特にエネルギー、小売、旅行・ホスピタリティ、金融、は高配当で株価を維持している企業も多いため、減配・無配になった時には、株価に悪影響が出ます。実際、HSBCは配当停止を発表した翌日に10%近く株価が落ちました。

要は何が起きているの?

世界規模で「企業が生き残りをかけて、現金を確保しようとしている」、のが現在起きていることです。

過去10年近く、企業も家庭のどちらも借金を積み重ねることで経済を成長させてきました。しかし、今回のコロナショックにより多くのビジネスで収入が激減したため、借金の支払いが困難になっています。また、財務とビジネスに不安のある、「低格付け」企業の資金調達の環境も大幅に悪化しました。

そのため、企業はビジネスが戻るまではコストを削ろうとレイオフ・解雇を行い、政府・中央銀行からつなぎの支援を受けるために彼らの要請である配当・自社株買いの停止、を行なっています。また、倒産も借金を整理する方法の一つですので、倒産を利用して負債を軽くしている企業も出てきています。

その結果が、失業を生んでいます。

そして、失業は悪いサイクルを回します。失業者は消費を減らしますし、他の家計も失業の不安から支出を減らそうとします。すると、これらの人々の行動が消費減に繋がり、企業の収益を減らしています。すると、さらにコストカットのために人を切る企業が出てきます。

各国で「景気対策」と称して失業者へお金を直接渡したり、雇用主に雇用を持続させるための助成金を出しているのは、失業による実際の消費減を防ぐことに加え、精神的に消費できない消費者にもお金を使ってもらい、この悪いサイクルを引き起こさないようにするためです。

3月後半から売上が落ちた企業・家計が苦しくなるのが4月であり、これからしばらくは米国の失業者数は増えることが予想されます。次の焦点は、どこまで政府が踏み込んでくるか、そしていつ失業のピークがくるか、です。

米国のコロナウイルスへの対応についてはこちらの記事をご覧ください。

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米国株のビジネス・株式の分析は下記のボタンから飛べます。

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コロナウイルスが米国の経済・産業・社会に与える影響

コロナウイルスの広がりは世界中でさらに加速しています。世界中の株式市場に大きな影響を与えているコロナウイルスについて、現時点での米国での対策をまとめ、今回の危機が米国社会に何をもたらすか、について書いていきたい思います。

以下の記事の続きになります。こちらもご覧ください。

[st-card myclass=”” id=2247 label=”分析” pc_height=”” name=”” bgcolor=”” color=”” fontawesome=”” readmore=”on”]

コロナウイルスの現状

3月21日17:00(AEST)現在で、コロナウイルスの感染者数は276,462人。死亡者数は11,417人、死亡率は全体の平均で4.2%、トップ10ヶ国の中央値は4.0%ですworldometersより)。最も被害が多いのはイタリアで、死亡者数は4,032人と中国を超えました。

特にイタリアの死亡率は高く、8.6%と非常に高くなっています。

Country,
Other
Total
Cases
Total
Deaths
Mortality Rate
China 81,008 3,255 4.0%
Italy 47,021 4,032 8.6%
Spain 21,571 1,093 5.1%
Germany 19,848 68 0.3%
USA 19,773 275 1.4%
Iran 19,644 1,433 7.3%
France 12,612 450 3.6%
S. Korea 8,799 102 1.2%
Switzerland 5,615 56 1.0%
UK 3,983 177 4.4%
Total 239,874 10,941 4.6%

アメリカの感染者数は3月16日時点では3,802人でしたが、この5日間で4倍近い、19,773人まで拡大しました。感染者が多い州はニューヨーク州、ワシントン州、カリフォルニア州で、この3つの州は感染が急速に広まっている州になっています。死亡率は1.4%とまだ低いですが、今後、重症者の数が増えるに従い、増加していくと考えられます。

USA
State
Total
Cases
Total
Deaths
Mortality Rate
New York 8,515 56 0.7%
Washington 1,524 83 5.4%
California 1,254 24 1.9%
New Jersey 890 11 1.2%
Illinois 585 5 0.9%

アメリカでの感染者数は急激に増加しています。これは、感染が広まっていることに加えて、より多くの検査がされ、実態が把握されるようになってきたことによると考えられます。

アメリカのコロナウイルス(COVID-19)感染者の推移

感染者は幾何級数的に増えています。検査が行き渡れば、この先数週間は感染者数は増え続けると予想されます。

アメリカでのコロナウイルス対策

連邦のレベルでは、前回の記事から下記のようなアップデートがありました。

  • 国民に全世界への渡航中止を勧告(特定の国から全世界へ)
  • カナダとの国境閉鎖(18日)。メキシコとの国境の不要不急の往来を禁止(21日)
  • トランプ政権が国防生産法(the Defense Production Act)を発動し、医療物資や人工呼吸器の生産を要請

「社会距離戦略」(social distancing)の一環として、州のレベルでさらに厳しい規制がかかっています。特に3つの州で期限を定めない外出禁止令が出ています。

  • ニューヨーク州にて、全事業者に在宅勤務をするように要請(3月20日)
  • カリフォルニア州にて、外出禁止令。買い物や通院など必要不可欠な場合を除き、屋内への退避を義務付け。期限はなし(3月20日)
  • イリノイ州にて、不要不急の外出を禁止する命令(3月20日)

国境閉鎖と外出禁止により、人の移動が制限されてきています。

外出禁止令が出ているのはまだ3州ですが、今後他の州でも感染が増加し続ける場合、「外出禁止令が他の州でも発動されること」、「州と州の国内移動にも制限が加えられること」が想定されます。

アメリカの金融・財政対策

金融政策

FRBは利下げ、量的緩和を行なった後、金融市場の動揺を抑えるため、積極的に資金供給を行なっています。米ドルへの需要が急増しており、短期市場でのドル調達金利が高まっていることへの対策になります。

  • 14ヶ国の中央銀行へ米ドルの資金供給を始めました。
  • MMF(マネー・マーケット・ファンド)へ資金供給を始めました。
  • 企業が短期資金を調達するCP(commercial paper)市場への資金供給を始めました。FRBがCPを直接買い上げています。

FRBの行なっていることを一言で言えば、「流動性を確保するために何でもやる」です。資金が目詰まりをして資金繰りができない企業が出ると、倒産と金融システム全体へのパニックに繋がります。

そのパニックを防ぐよう、様々な方法でFRBが資金を市場に投入しています。

FRBは全力で資金供給を行なっていますが、CP市場ではコロナの影響を受けやすい航空、飲食、レジャーなどの企業のCPの金利上昇がおさまっておらず、市場はいまだに緊張しています。

残るのは社債です。アメリカの現行法ではFRBが社債や株式を直接購入することは禁じられていますが(日銀がETFやREITを大量購入しているのと違いますね)、このまま金融市場が動揺し続けるのであれば、法改正が行われ、アメリカでFRBによる社債の購入まで踏み切られるかもしれません。

実際、前FRB議長であるジャネット・イエレンらはFRBが社債の購入をできるようすることを提案しています。

財政政策

財政政策では、コロナウイルスの無償検査と有給の病気休暇の法案が可決されました。

現在は、第三弾として、$1 trillion (110兆円)を超える支援策が上院で議論されています。共和党案は所得に応じて個人に現金を最大$1,200、家庭に最大$2,400に渡すこと、中小企業への連邦保証付ローン$300b、航空会社など産業向け$200b連邦保証付ローンの提供、の3点セットです。

こちらは支援を受ける対象や条件で共和党の中からも、民主党からも反対が出ており、まだ法案とはなっておりません。

アメリカの失業

特に失業者数が多く出ると見込まれるのが、不要不急の旅行の停止に伴い需要が激減する、航空・宿泊・観光・レジャー関連(Leisure and hospitality)です。こちらは2020年2月時点で1,700万人近くを雇用している大きな産業であり、農業を除く被雇用者1.5億人のうち、11%を占めます。

また、人々が外出を避けることにより、カフェ、レストラン、バーなどの飲食やショッピングセンター・百貨店も大きな打撃を受けることが予想されます。小売(Retail trade)も1,600万人と被雇用者の約11%を雇用する大きな産業です

Employment by industry (US Bureau of Labor Statisticsより)

また、製造業も1,300万人を雇用する大きな産業です

人々が不況の到来を予測すると、耐久消費財(車、冷蔵庫など)や不要不急の商品の販売も減少します。つまり、レジャーや小売業界で解雇が始まり失業者が増えると、連鎖的にレイオフ(一時解雇)や解雇が始まります。

ビジネスサービス業(”Professional and Business Services” – コンサルティング、会計士、弁護士など)に雇用されている2150万人も、景気後退が起これば、顧客からの支出を減らされる可能性が高く、失業と無縁ではいられません。

これらの業種にいる「7000万人近い人の雇用が脅かされる」と聞けば、その深刻さが伝わるのではないでしょうか。

情報通信産業に関してはリモートワークや家でのエンターテインメント需要から恩恵を受けられる企業があります。しかし、情報通信業はわずか300万人の雇用でしかなく、恩恵を受けられる産業、人々は雇用を脅かされる人の数と比較すればわずかです。

加えて、アメリカは”Employment at Will” (自由意志での雇用)の国であり、雇用者も、被雇用者も西欧や日本と比べて比較的簡単に雇用を終了させることができる点も、失業者の急増を招く要因となります。

サービス業中心の世の中になってくるなか、人と人とが接する産業に雇用が集中しています。コロナウイルス対策はこの人と人とが接する産業を突然破壊したため、それだけに影響は過去の経済・金融ショックと比べてもより深刻だと言えます。

実際の数字を見てみると、米労働省が19日に発表した失業保険申請は3月14日までの1週間で281,000件でした(前週より7万件増)。

日経新聞の調査によると、失業保険の申請は急増しており、15-18日のオハイオ州で111,055件(前週の3,895件の28倍)、ミネソタでも95,352件と前週の20倍以上のペースとなっています

次の26日に発表される失業保険件数は急増し、現在の歴史的に低い失業率3.6%から急激に上昇すると考えられます。

産業への影響

航空機、航空・旅行・レジャー・小売が政府へ支援を要請しています。

航空機

航空機では、ボーイングが政府と金融機関に$60b(6兆6000億円)の支援を要請しています。

ボーイングは

  1. 米国だけでも10万人を雇用しており、雇用維持という点で重要
  2. 航空機産業が米国の主要輸出産業である
  3. 軍事部門も大きく安全保障上も重要である

3つの理由から米政府は支援を行うと考えられます。

ただし、民主党が「株主重視で経営をしており事業の安定性を省みてこなかったボーイングに、何の状況もなしの支援を行うこと」に反対しています。

潰れることはほぼないと考えられる会社ですが、株主や債権者は何かしらの損害を被るかもしれません。

航空会社

米国の航空会社は$50b (5兆5000億円)の支援を要請しています。

米国では国際線がほぼストップとなっていることから、アメリカン、ユナイテッド、デルタをはじめとした大手航空会社は大赤字の状態です。欧州の感染が拡大していること、中南米などでも感染拡大の傾向があることから、いつ国際線を復旧できるかの目処もたっていません。

ともに手元資金があまりないため、支援が得られないと大規模なレイオフを行わなければならなくなります。

旅行業界

旅行業界(宿泊、観光など)も同様に$150bの支援を要請しています。こちらも感染拡大に伴い、人々が不要不急の移動をしなくなると、大打撃を受ける産業です。

航空機、航空、旅行の3つの産業だけで、$260bと30兆円近い金額を要請していることになります。

小売

大手百貨店(メーシーズやノードストロームなど)・ショッピングセンター大手も一部で営業休止しており、政府へ支援を要請しています。

また、人がショッピングモールに来なくなると、ファッションなどの消費も減るため、メーカーにとっても大きな売上への打撃となります。

エネルギー

人の移動需要の減少と供給側での懸念(サウジ、ロシアなどの増産)からNY原油が$20割れていることもあり、シェール会社が苦境に追い込まれています。

生産コストが原油価格よりも上回っていることから、現状では生産を続けることができません。

破綻の事例として、テキサス州のエネルギー会社であるトリポイント・オイル・アンド・ガス・プロダクションは16日にチャプター11(破産)を申請しました。今後、続く企業が出てくると考えられます。

エネルギー会社が破綻すると、資金の貸し手である地銀に影響を与えることに加え、社債市場にも動揺を与えます。

低格付け社債をまとめたETFやCLO (collateralized loan obligation-ローン担保証券)はリーマンショックの時に問題となった証券化商品と同じく、複数の債券をまとめて一つの商品にしたもののため、元となっている債券(例えばシェール会社)への信頼性が低下すると、ETFやCLOの売りの圧力が強まり、価格が低下します。

売りが売りを呼び、ジャンク債(格付けが低い企業が発行する社債)市場の下落が止まらない場合、投資家がジャンク債市場から資金を引き上げ、低格付け企業へお金が回らなくなる可能性があります。すると、低格付け企業は資金を手当できずに事業が継続できず、破綻することになります。

するとこの破綻がまた市場の下落を招いて、と悪いサイクルが回り続け、債券の暴落と企業の連鎖破綻に繋がります。エネルギー会社の破綻が続くと、投資家が最も恐れるクレジットリスクの引き金を引きかねかねない怖さがあります。

今後の注目点

今回のコロナウイルスが引き起こした危機の特徴は、影響される産業が広いことです。

ほぼ全ての対人サービス業が大きな影響を受けることもあり、「広すぎて救えない」(too wide to save)可能性があります。

雇用に影響が出るのはほぼ確かであり、失業が景気後退を招く要因であるのは間違いありません。しかし、実は最も恐ろしいのはクレジットリスクです。

リーマンショック後、10年の景気拡大の間、米国企業は借金を重ねることで事業を拡大し、自社株買いで株主へ報いてきました。

借金を用いて事業を拡大させることは

  • ROE (Return on Equity – 自己資本利益率)を向上させること
  • 投資家はROEの高い企業を評価して株価が上がること
  • 経営陣は報酬が株価と連動されており、株価で経営者としての成果が評価されること

から借金を用いてROEを上げていくことは正しい経営行動の一つと見なされてきました。

不測の事態に備えて現金を多めに持とうとしても、株主より「現金があるなら還元せよ」と言われ、アクティビストを呼び寄せる原因の一つになってしまうことから、米国企業はできるだけ現金を最低限しか持たないようにしていました。

つまり、借金を重ねて株主の方を向く経営をしてきた結果、いわゆる「不測の事態」に脆い体制になっている企業が多くなりました。

加えて、どんな企業であれ資金調達がしやすい環境が長年続いたことから、利払いすら支払えないような、長年赤字で存続しているゾンビ企業がかなりの数あります。

ETFやCLOを通じてそれらの企業にもお金が入り続けていました。

コロナショックは、これらの米国企業が抱える、「不測の事態に備えがない」、「借金に頼ったゾンビ企業が多い」という脆弱さに急激なショックを与えます。

米国の金融システムが今回のショックを耐えられるかどうかは、わかりません。しかし、今後の社債市場の動きには注意を払った方が良いと考えています。

コロナウイルスが米国社会に与える影響

今回のコロナウイルスを発端とするショックは、米国が本質的に変わるきっかけになると考えています。

まず、医療制度で言えば、今回のコロナウイルスは米国の医療制度の脆弱性を浮き彫りにしました。国民皆保険制度でないこと、貧富の差が激しく医療へのアクセスがない層がいること、政府への不信感が強く政府の指示を聞かないこと、は感染症の広がりを止める上ではマイナスでしかありません。

また、病院(特に私立病院)は利益率改善のために手術の回転率をあげることに注力してきたため、ベッドの数も少なく、今回のような大規模な感染症が発生した時には脆さが出ます。

*米国の医療制度の概要についてはこちらをご覧ください
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今回の一件は、米国社会にあるべき医療の姿を考えさせるきっかけになるでしょう。

また、多くの人の生活基盤が脆弱であることを改めて認識する機会になるでしょう。

米国では若者は高等教育のために教育ローンを背負っていることが多く、失業するとローンが支払えない状態になります。また、物価の高騰から家賃が高く、都市部では職を失うと住む場所すら失いかねません。かと言って、高等教育を受けないと中間層並みの給与を得ることが難しい社会でもあります。

その結果、約半分の人が、$400(5万円)の急な支払いをするのにも苦労しています。

米国社会は、労働市場の柔軟性から、強い個人と強い企業を生みやすいです。

「強い個人」になれば、良い給与と早い昇進が見込めます。

一方、「強い個人」になれなかった場合、社会保障が弱いことから、不安定な地盤の上で生活を送ることになります。経済が好調であり、仕事につけているうちは良いですが、景気後退時には基盤の脆さが露呈します。

好景気の裏で、米国が見て見ぬ振りをしてきた不都合な真実です。

残念ながら、今回のコロナショックで大量の失業者が出て、苦しむ人が多く出るでしょう。そして、いかに米国が「強くない個人」にとって厳しい国かを知ることになるでしょう。

コロナショックは、米国の医療・社会の脆弱性を浮き彫りにしました。リーマンショックが大衆の怒りに繋がり、”Change”を求めて初の黒人大統領、オバマ大統領を誕生させたように、次の大統領選でも”Change”を求める流れが出ると予想しています。

残念ながら、バイデン(ほぼ民主党候補として当確でしょう)は典型的な白人、男性、職業政治家であり、”Change”の象徴としては弱いですが、景気後退時には現職大統領の責を問えるので有利な立場です。

トランプ大統領はより過激な手法に出て、景気後退の原因について責任転嫁をすることで、再選を狙うと考えられます。

彼がツイッターでウイルスを中国ウイルス(China Virus)と呼んでいること、国防生産法を持ち出したことから、以下のようなストーリーを作り出そうとしていると考えられます。

「ウイルスは中国が情報を隠蔽したから全世界に広まり、大災害を引き起こした。中国という国際ルールを守らない国に対しては、強いリーダーが彼らを変えていかなければならない。俺は中国と取引を成功させて、米国に対してより良い取引を勝ち取った。今はウイルスとの戦争状態でもあり、強いリーダーが必要な時期だ。だから、弱々しいバイデンよりも俺が大統領になる方がアメリカのためになる」

このストーリーを米国民がそのまま信じてトランプを再選させるか、それとも社会の脆弱性を改善させるストーリーを語るバイデンを信じて民主党の大統領が誕生するかどうかは分かりません。

しかし、今回のコロナウイルスが米国が自国の医療制度、社会制度の脆さに気づくきっかけとなり、後々の米国政治・社会に影響を与えていくのではないかと思います。

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コロナウイルスの現状と米国株の今後の展開

コロナウイルスが世界中で広まってきています。株式市場にも大きな影響を与えているコロナウイルスへの各国対策のまとめと、米国がこれからどのような対策を取っていくのか、について分析していきたいと思います。

コロナウイルスの現状

3月16日22:30現在で、コロナウイルスの感染者数は173,027人。死亡者数は6,663人、死亡率は全体の平均で3.85%、トップ10ヶ国の中央値は2.4%ですworldometersより)。最も被害が多いのは中国で感染者数は80,880人、死亡者数は3,213人で約半数を占めます。

トップ10ヶ国は以下です。感染者数では中国がトップですが、既に新規の感染者数は2桁と数字の上では抑え込みに成功しつつあるように見えます。イラン、ヨーロッパで感染が拡大しています。

一方、2位のイタリアは感染が広がり続けていることに加え、死亡率も7.3%とトップ10で最悪の数字となっています。

Country,
Other
Total
Cases
New
Cases
Rate of infection Total
Deaths
Mortality Rate
China 80,880 36 0% 3,213 4.0%
Italy 24,747 1,809 7.3%
Iran 14,991 1,053 8% 853 5.7%
Spain 8,794 806 10% 297 3.4%
S. Korea 8,236 74 1% 75 0.9%
Germany 6,215 402 7% 13 0.2%
France 5,423 127 2.3%
USA 3,802 122 3% 69 1.8%
Switzerland 2,217 14 0.6%
UK 1,391 35 2.5%

日本の感染者は1,000人未満で、上から数えて17番目です。新規の患者の増加数は前日から1%未満の6人と、数字の上ではかなり押さえ込めています。死亡率は3.2%と、全体の死亡率よりは低めです。

トップ10の国で死亡率ではかなり低い数字もありますが、これは感染からさほど時間が経っていない国が含まれるためです。

感染者が重体となり、その一定割合が死亡すると考えると、感染者と死亡者の数の間にはタイムラグがあります。現段階では、先進国でも死亡率は3%近くなると考えた方が良いかもしれません(特にハイリスクの高齢者、持病のある人の死亡率は高くなっています)。

WHOによる戦略ガイド

WHOによる各国へのアドバイスは下記です。

  • 人と人との接触を避けるように国民に促すこと(医療従事者への二次感染の防止、大規模なイベントの中止・延期勧告、国際移動の制限)
  • 早期に検査を行い、感染者を特定し、隔離し、治療すること
  • リスクと感染に関する正しい情報を国民に伝え、誤った情報については訂正すること

ほとんどの国でWHOに沿った対策が取られています。

例えば、韓国は、全国に500以上指定クリニックを設置し、ドライブスルーで検査を行うことができるようにして、早期の検査を徹底しました。また、感染者の情報を開示し、感染者が立ち寄った場所へ行くことへの注意を呼びかけました。また、不必要な外出や会合を避けるなど、他者との接触を最小限に抑えるようにも人々へ求めました。

これらの対策により、韓国では感染の速度を抑えることができています。

また、中国はより人と人との接触を避けること、感染者の隔離に重点を置き、民主主義国家ではできないようなかなり大胆な対応を行ったことで、感染の速度を低下させました。

アメリカでのコロナウイルス拡大

アメリカでのコロナウイルスの感染者数も増加の一途です。3月15日の段階で、感染者は3,000人、死者も60人を超えました。

アメリカでのコロナウイルス感染者数の推移

ただし、アメリカは検査器具不足のため、3月9日までで、8,554人にしかテストを行なっていません(worldometersより)。アメリカでは100万人あたり検査を受けた人はわずか26人で、韓国の4,099人と比べると1%以下です。つまり、感染者の数は過小評価されている可能性が高いです。

アメリカの感染の速度はイタリアとほぼ同じ毎日33%の速度で増え続けており、このままのペースが続き、検査をする人が増えれば、感染者が10,000人を超えるのも時間の問題です。

アメリカでのコロナウイルス対策

連邦のレベルでは下記のような方針・対策が出されています

  • トランプ大統領が非常事態を宣言
  • 検査を拡大する方針
  • CDC (Center for Disease Control and Prevention)が50人以上の人が集まるイベントの延期または中止をこの先8週間にわたって行うことを勧告
  • ヨーロッパ28ヶ国からの入国制限
  • 空港でのスクリーニングを開始(熱がないか、など)

下記のような対策が「社会距離戦略」(social distancing)の一環として、州のレベルで取られています:

  • 学校の閉鎖
  • バー、レストラン、娯楽施設、ジムなどの営業制限(持ち帰りのみ、席を一定以上離さなければならないなど)
  • 一定人数を超えるイベントの禁止(スポーツ観戦やブロードウェイなどを含む)

これらの対策は基本的には「人と人との接触を避けるように国民に促すこと」、「早期に検査を行い、感染者を特定すること」を目的としています。

財政では、「新型コロナの検査無料化、食糧支援、2週間の有給の病気休暇、学生ローンの利子支払いの猶予」などのコロナウイルス対策が法案として下院を通過しました。

また、経済的な影響を緩和するため、金融の側面では、3月15日FRBが利率を1%下げて、ゼロ金利(0-0.25%に金利を誘導)、国債を購入しての量的緩和も開始しました。リーマンショック時の、非常時対応に戻った、と言っても良いかもしれません。

これらの対策がまとまったのは、先週末です。つまり、ようやくアメリカはコロナウイルスに対する対応のスタートラインに立ったところである、と言えます。

今後予想される展開

中国、韓国の例を見る限り、国家が対策を総動員すれば、1-2週間で感染の速度を鈍化させることができると考えられます。

一方で、対策が後手に回り、医療がパンクするような事態(イタリア型)になると、外出禁止令などかなり大胆な対策を打たない限り感染の増加と死亡者の増加に歯止めがかからない可能性があります。

アメリカは、①ハイリスクである持病を抱えた高齢者が多く重症化しやすい、②無保険者が多い、ことからただでさえ被害が拡大しやすい土壌にあります。また、コロナの検査費用が無料化されても、治療や入院費までが無料化されておらず、検査へ行くのをためらわせる事情があることも懸念材料です。

さらに、州が強い権限を持っていて独自に対策を打っており、連邦レベルでの方針が出ていないことも課題です。ある州では感染を抑えることができ、違う州では感染が拡大している場合においても、国内での人の移動で感染が止まらない可能性があります。

今後の展開として

  • 国内移動の制限(列車、飛行機による移動の制限)
  • 入国制限の拡大(中南米などでコロナが拡大した場合)
  • レストラン、バー、ジム、美術館などの施設の強制的な営業制限が連邦レベルに拡大
  • 大規模イベントの禁止
  • 大学・学校の閉鎖(オンライン授業へ移行)
  • 外出制限

が実行される可能性があります。これらはドイツ・イタリア・フランスを始めとしたヨーロッパ各国で既に取り入れられている対策であり、アメリカも追随する可能性が高いです。

いずれにせよ、今後数週間はコロナの感染者数の増加とそれに対する対策で、荒れる相場になることが予想されます。

3月20日アップデート

  • 米感染者が10,000人突破。2日間で2.5倍に(3月19日)。ニューヨーク州で5,000人を超え、従業員の75%に在宅勤務を義務付け
  • 米国務省が全ての外国への渡航を中止するように米国人に勧告(3月19日)
  • カリフォルニア州全土に外出禁止命令(3月20日)

コロナウイルスにより影響を受ける産業・セクター

以下の産業・セクターは大きな影響を受けると考えられます

  • 航空、宿泊、観光、レジャー(不要不急かつ移動を伴うため、大きく影響を受けます)
  • 飲食(人との接触を控えるために、人々が外出を控え、需要が大きく減少します)
  • 百貨店、ショッピングモール(外出禁止のため、スーパーマーケットやドラッグストアなどの生活必需品を扱う以外の実店舗は大きな打撃を受けます)
  • エネルギー(人の移動が減ることで石油・ガソリンの消費量が減り、石油価格の下落に繋がります。特にシェール業者が痛手を受けます)
  • 金融(ゼロ金利に加え、上の産業で倒産する企業が出た場合、損失を被ります)
  • 広告(このような状況ですと、大企業は広告への支出を減らす可能性が高いです)

一方、宅配のアマゾンやネットフリックスなどオンラインの娯楽については、人々が家で時間を過ごす時間が増えると追い風かもしれません。

アメリカの医療制度についてより知りたい方は、こちらをご覧ください。

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ヘルスケア(医療)は権利か特権か:米国大統領選のポイント

米国のヘルスケア(医療)について、おそらく99%の日本人が知らないことを書きます。2020年の米国の大統領選でも国を二分するテーマの一つのため、知っておくとより大統領選についての理解が深まるかもしれません。

ヘルスケア(医療)の特殊性

医療は様々な点で特殊な業界ですが、その特殊性の一つに、人々が「特権」(privilege)ではなく、「権利」(right)だと考えていることがあります。つまり、「対価を払える人だけが手に入れられるものではなく、全ての人に与えられるべきものだ」という考え方です。

例をあげてみます。自動車は高級品で、新車の場合は100万円を超え、保有している人と保有していない人がいます。「国が全ての人に自動車を与えるべきだ」と考える人は少ないのではないでしょうか。

一方、日本人の主な死因の一つである、ガンの手術や治療でも100万円を超えることは珍しくありません。ガンも発症する人と、発症しない人がいます。しかし、日本人の多くが「国はガンの治療を全ての人が受けられるようにするべきだ」と考えるのではないでしょうか。

「医療のような人の命に関わるものに関しては、全ての人が受けられるようにするべきだ」、という考え方は医療を「人権」として捉えています。

一方、「医療もサービスの一種であり、高い金額を支払える人は高い医療サービスを受ければいい。お金がない人は質の低い医療サービスでも仕方ない、あるいは医療を受けられなくとも仕方ない」という考え方は、医療を「特権」として捉えています。

前者のように医療は「人権」であると捉える考え方が日本、西欧、オーストラリアでは主流です。これらの国は国民皆保険制度を持ち、国が標準治療(standard of care)を決め、国が保険の仕組みを用いて費用の全額・または大部分を支払う仕組みとなっています。

標準治療が決まっており、医療へのアクセスが保証されているため、たとえお金がない人であっても一定水準以上の医療を受けることができます。一方で、自由診療の幅は保険適用を行わないことによって、狭められている場合が多いです。

後者の「特権」として捉える考え方はアメリカ(特に共和党支持者)で根強いです。

「自堕落な人(ハードワークでない人)がお金を稼げない。自制心がない人が不健康な生活を送り、病気になる。そんな人たちを助けるために、どうして健康な自分が高い保険料を支払わなければならないのか。それならば、国に強制されるのではなく、自分で内容を選べる自由が欲しい」

つまり、「経済的に貧しい人や不健康な人は自己責任の要因が大きく、そんな人たちのために高い保険料は支払いたくない」という考え方です。また、「国民皆保険となり、標準治療が決められると、自由診療の幅が狭められて、自由度がなくなる」ことも懸念しています。

前者と後者でかなり考え方が違いますね。アメリカは国民皆保険制度を成立させようと1910年代、1930年代、1940年代、1960年代と過去何度も国民皆保険制度の法案が作られ、採決が行われましたが、全て失敗しました。背景にはヘルスケアは「特権」であるという考え方が根強いことがあります。

アメリカの医療制度

アメリカの保険は大きく分けると、連邦・州が運営する公的保険と民間保険の2種類です。詳しく説明すると論文にできるくらい長くなりますので、概要のみ説明しています。

連邦・州が運営する公的保険

Medicare (メディケア)は連邦が運営する、65歳以上の高齢者と障害者向けの公的保険で、Medicaid (メディケイド)は連邦と州が運営している、低所得者向けの公的保険です。また、少し特殊ですがVA (Veteran’s Administration)という軍人・退役軍人向けの保険もあります。

Medicareは6,000万人、Medicaidは5,700万人、VAは1,200万人と、米国の人口、3億3,000万人の1/3以上が公的保険に加入しています。

ただ、逆に言えば、残りの2億人は公的保険に入っておらず、民間保険に入ることになります。

民間保険

アメリカの民間保険は多種多様ですが、約半分の1億6,000万人は雇用主が提供している従業員向けの民間保険に入ります。

保険により、 (1)カバーされる病気、(2)通うことができる病院、(3)自己負担額の割合、(4) 加入者が支払われければならない金額(deductableと呼ばれます)、などが異なります。

日本人からすると馴染みにくいと思いますが、いつでもどの病院にでも行けるわけではなく、「保険により」、保険適用でかかれる病院、医者、待ち時間、受けることができる治療法が変わります。

一般的には、保険料が高い方がより病院と医者を選べる自由度が高く、より早く、幅広い治療方法へのアクセスがあり、支払い金額も少なくなります。

雇用者が提供する保険がない人は、保険市場(healthcare marketplace)から保険を買ったりしますが、こちらは州により異なったりと複雑です。

無保険

アメリカの保険料は高額であるため、保険に入っていない人も約9%の3,000万人近くいます

この3,000万人のうち、それなりの割合は保険料が高すぎるという理由で無保険状態になっている人たちだと考えられます。

オバマ政権時には無保険者は15%以上いたのですが、「オバマケア」と呼ばれる一連の公的医療保険改革の一つの施策として、Medicaid (メディケイド)に入れる人の収入を幅広くしたため、無保険者ですが保険に入りたい人の多くがMedicaid保有者になりました。

また、オバマケアでは既往症を持つ人を保険会社が断れないようにしたため(オバマケア以前は既往症を持つ人の多くが、医療費がかかることが理由で、民間保険会社に保険に入ることを断られていました)、既往症を持つために無保険であった人も民間保険に入れるようになりました。

一方で、既往症を抱えた人が保険に入れるようになったことにより、健康な人の保険料は上がりました。これがオバマケアに不満を持つ人の理由になっていますし、トランプがオバマケアを撤廃しようとした一つの理由でもあります。

なぜヘルスケアが大統領選の大きな論点になるか

一言で言うと、アメリカの医療制度は高額かつ不平等であり、誰もが不満をもっているからです。

アメリカ人は国民一人当たり、保険・医療費で毎年$10,500 (110万円)を支払っています。これは先進国の約2倍にあたる数字です。

国民一人当たりの医療費

それにも関わらず、平均寿命は他の先進国に比べて2歳近く短くなっています。一人当たり2倍の医療費を支払って、国全体の平均寿命が他国より低いというのは、医療システムが非効率であることを示しています。

先進国の平均寿命

また、米国の平均寿命は所得水準と人種で統計的に優位な差があります。

白人の中間層以上に生まれれば平均寿命は先進国の平均と同じかそれ以上の結果となります。一方、有色人種の貧困層に生まれれば平均寿命は短くなります。生まれや収入で医療へのアクセスが変わる現状に、中間層であっても不満を持つ人は増えていっています。

また、高齢化と医療の高度化に伴い、保険料は年々高騰していっています。保険料は、若者世代にとって特に大きな負担です。アメリカは大学の学費の高騰化に伴い、ほとんどの学生が数万ドルの学生ローンを背負って社会に出て行きます。そんな状況で毎月の高額の保険料を支払うことに、不満を募らせています。

そんな状況に対し、民主党候補(特にバーニー・サンダース)は「国民皆保険」を導入することが医療費、保険料を下げ、医療へのアクセスを万人に行き渡らせる方法だと提案しています。

医療は「特権」ではなく「権利」だ、というのがサンダースの主張です

一方、トランプをはじめとする共和党は、アメリカ人の「自由を尊ぶ」、「自己責任を重んじる」国民感情に訴えることで、国民皆保険を阻止しようとしています。

国が国民皆保険制度を作ると、「病院や治療法を選べる自由がなくなりますよ」、「自堕落で自制心のない人たちと一緒にされると保険料が上がりますよ」という反対意見です。
(ちなみにトランプ政権は、国民皆保険に代わる医療費を下げる方法として「医療費の透明性をあげれば競争が促進されて価格は下がる」ということを主張しています。これは逆効果になる可能性が高いのですが、今後機会があれば書きます。)

あなたの「自由」・「特権」が奪われますよ、というのが共和党の主張です

どちらを選ぶのかはアメリカ国民次第ですが、一部の国民が医療へのアクセスが制限されている環境は、コロナウイルスで症状が悪化する人が増える要因となります。そして、悪化する人が増えれば増えるほど、社会問題の顕在化に繋がります。

もしかしたら、コロナウイルスが天秤を動かす鍵になるかもしれません。

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株価の暴落はこのまま続くのか。経済指標のまとめ

本日の日経225は5%下落し、20,000円の大台を割りました。米国株も先物で5%下落しています。

リーマンショック以来の10年に1度の相場の荒れ方ですので、一度、現在の市場、関連する指標をまとめ、今後のポイントについても書いてみます。

こちらの記事で説明した先行指標をみていきます。

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EPS・PER・BPS(日本株)

日経平均PERの推移 投資の森より

2020年3月9日時点での日経平均225のEPS(Earnings per Share: 一株あたり利益)は1,630円。株価は19,700円です。EPSは12.1と過去3年の平均を割り込んでいます。

過去3年の最低PERは2018年末の10.7です。仮に、EPSの悪化を市場が織り込んで、PERがここまで落ち込むとすると

1,630円 x 10.7 = 17,600円

が株価となります。参考までに、日経225のEPSは下落傾向です。

日経平均一株あたり利益 2019年

次に、BPS(Book value per Share: 一株あたり純資産)を見てみます。

日経平均PBR 日経平均比較チャートより

2010年からの20年間をみてみると、BPS は2012年に0.89と最低をつけましたが、ほとんどの期間で1.0を上回っています。

BPS (Book value per share: 1株あたり純資産)は21,000円ですので、19,500円の株価はすでにBPSは93%で、7%下回っています

BPSからみると、日本株は売られ過ぎ、の水準に入ってきていると言えます。

17,600円まで落ちるとすると、BPSから見て、84%と16%下回ることになります。

BPSが過去20年最低の0.89まで落ちると仮定すると、

21,000円 x 0.89 = 18,690円

が株価となります。日経新聞によれば、日銀の平均取得単価は3月6日時点で19,443円とのことですので、中央銀行が含み損を抱える、という事態になります。

EPS・PER(米国株)

S&P500は$3,300から急激に10%下落し、$3,000を切りました。しかし、それでも昨年の10月時点の価格まで下落した程度です。5年前の$2,000からすると+50%であり、いぜんとして年率10%程度の成長と、歴史的な平均の8%よりは高い水準です。

S&P500の価格推移(Googleより)

過去2年の上昇はEPSの上昇ではなく、PERの上昇、つまり将来にわたって成長が続くだろうという楽観によりもたらされました。

元々、コロナを発端とする株価下落が始まる前から、S&P500のPERは18.7と過去20年でみても高すぎの水準でした。

S&P500の予想PERの推移

今回のコロナの1件で、下記のように、EPSの修正が入った後でも、PERはまだ高い水準にあります。EPSが2019年並となり、PERの修正が行われた時の株価は下記となります。

PERがさらにもう一段切り下がり、13.0程度まで下がれば、S&P500は$2,100となり、現状の$3,000から30%下落することになります。仮にリーマンショック並の事態となり、EPSが変わらないままPERが10.0まで落ちることがあれば、$1,760です。

米国金利

株価の急落を受けて、FRBは2020年3月3日に0.5%の利下げを行いました。短期金融市場への資金供給も行なっているため、金融緩和は継続中です。

Federal Reserve Bank Interest Rate (Trading Economics.comより)

10年満期の米国債の金利は急降下し、3月9日現在では0.5%で推移しています。

FRBの現在の金利よりも低いということは、市場はすでに今年利下げが行われて、さらにその低い利率が長期化することを織り込んでいるということです

10 Year Treasury Rate (Macrotrendsより)

さらに異例なのは、30年ものの国債の利率ですら1.56%と低い利率になっています。過去20年間で最低です。

通常、国債は期間が長ければ長いほどリスクが大きくなるため利率が高くなりますし、国債の利率はインフレ率にも影響されます。1.5%というのは、市場は今後30年でほとんどインフレが起こらないと仮定している数字であり、30年満期で1.5%は歴史上初です。

30 Year Treasury Rate(Macrotrendsより)

この債券の利率の低さをみる限り、債券市場はすでにパニックになっており、景気後退を織り込んでいると言っても過言ではないでしょう。

モノの動き

世界のモノの動き(輸出・輸入)を表す指標として、バルチック海運指数を見てみます。

Baltic Dry Index (Bloombergより)

こちらは2/7に$415をつけた後に、$617と上昇してきています。毎年2月から3月にかけては上昇しているのは主に季節性のためです。

現状の数字をみる限り、$617は3月としては過去5年の中で低い水準ですが、劇的に低いわけではありません。つまり、世界の貿易は動いていると考えられます。

原油相場

原油価格は1日で30%近く下落し、$30まで急落しました。

Crude Oil Price (WTI) Marketisnsiderより

$30というのは、2016年につけた$33をも下回り、過去10年で最も安い水準です。

OPECとロシアの間で減産の合意ができず、原油の供給過剰になるリスク、コロナウイルスの欧州、米国への広がりで原油の需要が減少するリスクの両方が意識されたことがきっかけです。

2016年の時にも減産の協調がうまくいかなかったことがきっかけで原油価格が$33まで急落し、その後にロシア・OPECが国債減産に合意して$50まで戻した経緯があります。

$30割れというのは、原油価格を前提に予算を組んでいる産油国(産油国の多くは国営の石油会社を持っており、原油収入をあてにして国家予算を組んでいます)の予算割れの水準となります。

この水準はロシア、OPEC諸国にとっても望ましい水準ではなく、何かしらの対策が早急にうたれると考えられます。

同じコモディティの銅の価格も下落していますが、石油ほどの下落ではありません。銅は電線、住宅、自動車など様々な用途に用いられるため、銅の価格が世界経済のバロメーターになっていると言われます。

Copper Price (Macrotrendsより)

銅の価格をみる限り、市場は生産やインフラ投資が大幅に減速するとは見ていないようです。

米国・住宅関係データ

米国の新規住宅着工件数は12月データ分までは右肩上がりです。今年に入ってからのデータはまだですが、少なくとも2019年12月までの米国経済の状況は好調です

米国住宅着工件数(macrotrendsより)

今後の論点

コロナウイルスを発端とする生産、物流への影響が株価に織り込まれ、過度な将来への楽観が現実的な水準に落ちてきている、というのが僕の相場の見方です。

今後の論点としては、

  • FRBをはじめとする各国の金融政策
  • 米国、日本、欧州の財政政策
  • OPECとロシアが再びの会合を開き、減産で合意できるか
  • コロナウイルスを原因とする消費への影響がどの程度広く、長く続くか
  • レバノンのデフォルトからの次のレバノン探しの影響(低格付け国債価格の下落。低格付け国債を保有している金融機関の損失)
  • 特にコロナ関連の影響の大きい旅行・空運・小売・飲食業界でのクレジットリスクと貸出を行なっている金融機関への影響
  • シェールガス業者などエネルギー関連業者のクレジットリスク(原油安が続くと、倒産します)。そして、倒産が波及するCLO (Collaterized Loan Origination – ローン担保証券)の暴落リスク。
  • 中国のクレジットリスク(すでにHNAグループが実質国有化されましたが、第二のHNAグループが出る可能性があります)

クレジットリスクに重点を置いているのは、世界経済が過去10年、国は国債、企業は社債、家計も住宅購入のための借り入れを増やしており、経済全体が債務に頼って成長を続けてきているためです。

特に財務基盤の弱い企業の社債、家計の住宅ローンは膨らみ続けている爆弾です。

爆弾が爆発した時にはリーマンショック級になる可能性があるため、特に注意をしてみる必要があると考えています。

一方、クレジットリスクが顕在化しない場合、中央銀行のさらなる金融緩和と各国の財政対策により、資産バブルが生じる可能性があります。こちらのシナリオの場合は株価の急反発になると予想されますので、その予兆にも注目です。

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2020年2月の株式取引まとめと相場の考察

大波乱の相場が続いています。今週1週間で日本株は23,388円から21,142円まで9.7%下落。S&P500は月曜から水曜まで$3,337から$2,978まで10.7%下落しています。

今回は自分が経験する初めての大きな下落のため、自分用のメモとして相場の考察をしていきたいと思います。

日本株

相場の流れ

日経225の価格推移日経225はコロナの報道が出た1月最終週に大きく下落しましたが、2月初旬にはすぐに元に戻りました。

この時点では、相場はコロナの影響は中国の局地的なものに止まると見ており、サプライチェーンや消費に与える影響を軽視していました。

その後、日本では2019年第4四半期の実質GDP速報により、GDP成長率がかなり弱く(年率換算でマイナス6.3%)、消費税増税が個人消費を冷やしたことが明らかになり、株価は一気に下落しました。

2月の最終週にはコロナがサプライチェーンに与える影響がより明らかになったことに加え(アップルの業績下方修正など)、コロナも韓国、日本での感染者が増え、イタリアやブラジルでも感染者が増加していることから、全世界的なパンデミックのリスクが高まりました。

結果とし、全世界の株価は大きく調整しました。日本株は1月につけた24,000円から10%以上下落したことになります。

PER・EPS

21,000円の水準でも日経225のPER(株価収益率)はまだ13.5と、過去3年の平均からさほど離れているわけではありません。むしろ、過去3年の平均程度の水準です。

日経225 PER推移(投資の森より)

日経225の一株あたりの利益は現在、1600円程度と予想されています。

まだ日経225に含まれる各社は明確な2020年の業績予想を出してはいませんが、2020年は増税による国内市場の縮小、コロナによるサプライチェーンやインバウンドへの影響、などを考慮すると一株あたり利益は減少することが予想されます。

仮に景気後退への不安が広がり、PERが2018年後半の12程度まで落ちて(▲15%)、今年の一株あたり利益が10%落ちると仮定したシナリオの場合、理論的な株価は

1,600円/株 X 90% (利益の下落) X 12 (PER)= 17,280 円

となります。現在の水準から、さらに20%落ちて2016年くらいの株価になるイメージです。

現実的にはその水準まで落ちる前に政府が財政、金融政策を総動員して景気を維持しようとする可能性が高いですし、日銀とGPIFが買い支えるのでそこまでは落ちないと思います。

ただし、コロナウイルスがパンデミックとなり、かつアメリカでサンダースが大統領に選ばれて、株式市場が悲観的になった場合には、十分あり得る水準かと思います。

一つの想定として、現状から20%落ちるリスクは念頭に入れると良いかもしれません。

投資判断と学び

GDPの速報が出た後に、今年の日本経済はかなり悪くなりそうだと予想し、日経225、三井住友、ソフトバンクグループを売却して利確しました。コロナ関連でここまで調整が入るのは予想外でしたが、結果的にこの判断は正解で、これらの銘柄については十分な利確ができました。

「船が沈みそうになったら飛び降りる」ことで、結果的にうまく利確ができ、功を奏しました。

一方で、太陽光設備に投資する、インフラファンドであるタカラレーベンインフラ法人を火曜日に少し買い増ししたのは悪手でした。

タカラレーベンインフラ投資法人は、

  • インフラファンドは収益と配当が安定していること
  • 現在の株価での配当水準は約6%と過去と比較しても適正水準であること
  • 4月の指数化で流動性が増すこと
  • 5月が配当が確定する月であり、配当月に向けて上昇する傾向があること
  • 米国・日本の金利が下がれば利回りのスプレッド上昇で株価も上昇する傾向があること
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)のトレンドに乗って需要が増える可能性が高いこと

から5月に向けて上げていくだろうと想定して購入しましたが、結果的には購入のタイミングが最悪でした。

120,000円で少量購入しましたが、全体の下げに引っ張られる形で、そこから5%程度下げています。

タカラレーベン インフラ株価推移

「リスク回避での売りが強い相場では、たとえディフェンシブな株でも結局下げからは逃れられない」ということを学べました。個別株を分析して銘柄を選定するのは大事ですが、「全体の相場の地合いがリスク回避になっている時には個別株の事情関係なく下がる」というのは良い学びでした。

今回の買うタイミングでは、焦って購入する必要はなかったはずです。反発するだろうから今のうちに賭けよう、という短期的、投機的な姿勢で投資をするのではなく、市場心理を見極めて、ファンダメンタルズを見て、十分に割安なタイミングで購入できるまで待つべきでした。焦って投資をして良いことはない、という失敗例です。

ロシア株も売却しました。こちらは原油相場の行方が怪しくなってきたことと、全体の相場がさらに落ちる可能性の方が高いと考え(特にアメリカでコロナが広まる事による米国企業の業績への悪影響が懸念されるため)利確しました。

こちらも利益は出ていますが、利確が遅すぎ、結局140円で手放すことにしました。160円で売る機会を逃したことが悔しいです。10%落ちたら売却、などと自分なりのルールを決めて、ルールに沿って売買をするべきでした

ロシア株(1324)

米国株

PER・EPS

S&P 500 PER

S&P500の予想PERは先週まで19.0と歴史的にもかなり高い水準にありました。

19.0というのは過去5年平均の16.7、過去10年平均の14.9より大幅に高く、2002年以来の高い水準です。特に 生活必需品、公共インフラ産業のPERが歴史的高値になっており、投資家がディフェンシブになっていることを示していました。

また、2020年の予想EPS(一株あたり利益)も2019年から7%増加する、というかなり楽観的な予想がされていました。

アナリストの一株あたり利益予想の推移

つまり、アメリカのS&P500の急上昇は、一株あたり利益の7%成長という楽観的な見通しと、それに伴う成長期待からのPERの高まりの二つの要素によってもたらされていました。

$3,300 (暴落前のS&P500の)= $176(一株あたり利益) x PER 19倍

ですね。

ゴールドマンサックスが2月27日に出したレポートによると、2020年の米国企業の一株あたり利益成長は0になる可能性がある、とのことです。つまり、一株あたり利益が2019年のS&P500企業のEPSの伸びは実はわずか0.6%ですし、2020年は中国の経済成長の減速、コロナによる消費の冷え込み、の影響を考慮すると十分あり得る数字です。

今週の株価の10%下落は、EPSの下落を反映した、始まりにすぎないかもしれません。

米国企業の株価は高い成長期待によるPERの伸びに支えられているので、もし市場参加者が米国企業の1株あたり利益成長率が鈍り、そのために成長期待(PER)が過去10年平均の15まで落ちるとすると、

$163(1株あたり利益 ) x PER 15倍  = 2,450

つまり、市場心理が悪化すれば、さらに20%、S&P500が落ちて、$2,450まで落ちることも十分ありえます。今週の10%と合わせて30%の下落。実際、2019年の株価は期待の上昇で30%とかなり急激にあげたため、期待が剥がれて、歴史的な株価上昇の軌道に戻る、といっても良いかもしれません。

S&P500 Price

投資判断と学び

米国株は売却はせず、火曜日に下落した後に、良い機会だとFacebookとAlibabaを少し購入しました。こちらも落ちるナイフを掴みにいった結果、見事に刺さって現在は5%くらいずつ含み損が出ています。唯一の救いは少額での試し買いであったため、傷が浅いことです。

FacebookもAlibabaも、コロナウイルスへの不安から人々が自宅にいるようになると、使用頻度が上がり、ビジネスとしては伸びるはずです。特にFacebookはインターネット上だけのサービスであるので、サプライチェーンへの影響も関係ありません。

どちらの株も、PERは市場での競争力と成長性の観点から見ると、適正だと考えています。

それにも関わらずFacebookが落ちた理由は、シンプルに相場の需給で売りが圧倒的に優先であったためでしょう。

日本株と同じ学びですが、「株価は個別の企業の業績よりも、全体の市場心理に影響される」ということです。特に今回のように市場が不確実性を感じてパニックになっている場合は、落ちるナイフを掴むと怪我をする可能性が高いと感じました。

オーストラリア株

オーストラリア株では、もともと持っていたポジションがあまりよくないことに加え(現金比率を減らすため、やや高値と感じながらも株を購入していました)、利確・損切りのタイミングを逸して、損失を広げてしまいました。

「損切りルールを守る」ことは基本だとは思いますが、実践してみてその難しさを感じました。損を確定するのは利確よりも抵抗がありますし、やっぱりやってみないと難しいです。良い経験、学びとなりました。

また、オーストラリア株は景気敏感株が多くを占める市場で、僕の知識が足りていないまま景気敏感株に投資をしていたので、結果的に日米株よりも大きなダメージを受けることになってしまいました。

やはり自分が詳しいと自信の持てない個別株に投資は避けたほうが良い、ということをあらためて学べました。

まとめ

  • 日本株、米国株共に10%落ちた現在もまだ高値圏にあり、市場心理の悪化が続いて成長への期待が剥がれれば、あと20%は落ちる可能性がある
  • 個別株のファンダメンタルズは大事だが、それ以上に市場心理が重要。全体が売り一色であれば、業績と関係なく下がる
  • 急激な値下がりが起きたときに保有株をどうするかの想定ができておらず、タイミングを逃した。何を新しく買うかだけでなく、保有株をどうするか、も考えておき、利確・損きりルールを設定しておくべきだった
  • 個別株へ投資をするときには、まず売り方を覚えること。売りのタイミングがリターンを決める

なぜFacebookなのか、はGAFA+Microsoftの分析をどうぞ。

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ソフトバンクを支える、アリババ(BABA)の事業・株価分析

ソフトバンクグループの価値の半分以上を占めていると言っても過言でない、中国でNo.1のeコマース企業であるアリババの株。けれど、アリババのビジネスについて、どのくらいご存知でしょうか?

今回はアリババの事業、株式について分析してみます。

アリババの事業

アリババ2019年12月期事業別売上、利益

国内eコマース事業

アリババの事業の中核はeコマース(オンラインショッピング)で、タオバオとTモールが主なサービスです。

タオバオは中国版のeBayで、個人が商品を売りに出しており、インフルエンサーがタオバオLiveを行い商品を販売するなど、インターネット上でありながらライブ感のある市場を作り出しています。日本企業の例では、メルカリのような感じです。

Tmallはローカルからインターナショナルのブランドが並ぶサービスです。日本企業で言えば近いモデルは楽天です。

こちらも都市部以外に順調に広がってきています。EBITA (利息、税金、償却前利益)の点では、アリババはオンラインショッピングが稼ぎ頭で、他の成長ビジネスの原資を稼ぎ出しています。

Freshippoは実店舗型のビジネスで、Tier 1、Tier 2都市に197店舗を持ちます。こちらは実店舗からの日用品の配送などの拠点にもなっています。

Kaolaは2019年9月にNetEaseから買収した、輸入商品を主に扱うプラットフォームです。Tmall Globalと競合するプラットフォームでしたが、アリババは買収を行うことでうまく競合を自社に取り込みました。巨大ネット企業が全世界でよくやる手口ですが、競合になりそうなサービスを早めに買収して、独占的な地位を保てるようにしています。

Cainiaoはデリバリーサービスで、アリババが注力している領域です。売上は前年比67%像のRMB7,518m (US$1,080m)とオンラインショッピングの5%を占めています。アマゾン、楽天と同じく、アリババは配送能力を高めることで、出品者、ユーザーの顧客満足度を高めようとしています。

アリババの売上の内訳(2019年12月期)

アリババは今期、Cainiaoへの出資額の引き上げを行い、RMB23.3b (US$3.3b)を投資して、持分を51%から63%へ引き上げました。

2019年のEBITDA(利子、減価償却前利益)はマーケットプレイスが稼ぎ頭で、前年比25%増。海外事業、そのほか事業の赤字は継続しているけれど、マーケットプレイスの稼いだ金額に比べて赤字の伸びが抑えられいるため、アリババ全体のEBITDAは36%増です。

年間の購入者数も右肩上がりで、2018年末の6億3600万人から7億1100万人まで増加(7500万人)しています。

Alibaba annual consumer 2019q4

モバイルの月間利用者数は増加の速度を早めており、前年比で1億2500万人多い、8億2400万人(17.9%増加)

Alibaba MAU 2019Q4

アリババは都市部ではすでに浸透しており、今後の成長は主に発展しているTier 1やTier 2の都市ではなく、Tier 3以下の都市から期待されます。

中国のeコマースのシェアでも、アリババは56%と非常に高いシェアを維持しています。アリババの購入者7億1000万人に対し、2019年6月末時点で、JD.comは3億2000万人、Pinduoduoは4億8000万人。

中国の2019年eコマースシェア

Pinduoduoはグルーポンのような仕組みで、安値を売りにしたサービスです。主にTier 3以下、特に価格に敏感な農村部で人気。アリババが今後ユーザーを増やしていく時に、Pinduoduoと競合することになります。

JD.comは流通に力を入れており、流通ネットワークでは中国のeコマースで最も大きなネットワークを持ちます。2019年の顧客獲得合戦ではアリババに軍配が上がっていますが、JD.comも年率20%で売上を伸ばしており、依然としてアリババにとっては脅威です。

価格競争力のある製品を提示してPinduoduoの顧客層をいかに攻略するか、流通網を整備してJD.comの優位性をいかに潰すか、がアリババにとって鍵になりますし、競争が事業上のリスクになります(ちなみにTencentはJD.comとPinduoduoの両方に投資をしています)。

国際eコマース事業

アリババの国際事業は東南アジア圏で展開しているラザードとAli Expressです。売上高は全体の5%程度。

ラザードは注文量が前年比97%で増えたと開示しています。国内事業の規模と比べれば小さいですが、前年度比27%と順調に伸びています。

クラウドコンピューティング

アリババのクラウドコンピューティングビジネスは売上の7%を占めます。こちらはシェアが50%近い1位であり、前年比62%で成長している、将来が楽しみなビジネスです。

2019年12月期では、RMB$10b (US$1,540b)を一四半期で売り上げました。Canalysの調査によれば、Alibaba CloudはグローバルでもGoogleに次ぐ4位で、シェアを1ポイント伸ばしています。

Cloud Computing 2019Q4 Share

中国のクラウドコンピューティングは、中国の機関の白書によると、2023年にRMB300b ($42.3b)まで拡大すると見込まれおり (中国語ニュースはこちら)、これは5年間で3倍になる速度です。

クラウドコンピューティングは規模が大きくなればなるほど、規模の経済が働いて単価を安くできるビジネスですので、国内シェアが1位であるということは、それだけアリババは有利なポジションにあります。

また、アリババは国内eコマースの基幹システムをアリババのクラウドコンピューティングに移管させていく方針でして、国内No.1のビジネスのクラウドコンピューティングへの移管が可能になれば、他の企業への売り込みもしやすくなると考えられます。

一方、2位のTencent、3位のBaiduもアリババ以上の速度でビジネスを伸ばしており、競争は激化していることは事業上のリスクです。

その他のビジネス

そのほかのビジネスは売上の5%を占めます。代表的なのは動画配信サービスのYouku (中国におけるYouTubeのようなもの)でして、日次のユーザーが対前年比で59%増えています。

しかし、eコマースと比較すると規模として小さく、BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)が激しく争う、競争が激しい領域です(百度のiQIYI、騰訊の騰訊ビデオが競合)。

IHS Markit Technology estimates that iQiyi has 99.4 million paying subscribers, Tencent has 94.9 million and Youku has 81.1 million. According to a recent report by Ampere Analysis, China will have 305 million SVoD subscribers by the end of 2019, compared to 158 million in the US (Screen Dailyより)

また、近年の中国政府の規制により外国産のビデオの割合や歴史ドラマの割合を規制されるなど、規制の影響によりユーザーのニーズに応えられなくなっていることも市場の成長を鈍化させています。

市場全体でサブスクリプションの伸びが鈍化しており、アリババも対前年比でわずか14%増と他の分野と比べてあまり伸びているビジネスではないです。アリババを考える上ではさほど重要ではないでしょう。

“Innovation Initiative”の中にもいくつかビジネスが入っていますが、そのうちの一つがAlibaba Mapビジネスです。ただし、こちらも売上はそこまでではないので、アリババを考える上で現状はさほど重要ではありません。

このセグメントで最も重要なのは、Ant financialです。

2019年9月23日に、アリババはAnt Financialの33%の株式を入手しました。Ant FinancialはAli Payを運営している会社で、2019年9月末時点で、全世界で12億人のユーザーがおり、そのうち9億人が中国にいるという、中国人にとっては必須のインフラになっています。

AliPayはWeChat Payと並んで、中国人であれば、ほぼ持たないといけないインフラの決済サービスです。決済の情報は広告の最適化にも役立ち、このインフラを握っているということがAlibabaのeコマースビジネスの強みにも繋がっています。

アリババの利益

オンラインのeコマースのEBITDA(利子、減価償却前利益)の伸びは26%と、売上の伸び38%に比べるとやや鈍化しています。これは、マージンがやや悪化していることを意味します。

ただそれでも、EBITDAのマージンは41%と依然としてかなり高いです。2019年12月期も投資分野の赤字の割合が縮小したことからビジネス全体のEBITDAの伸び率は上昇し、前年比39%増と順調に成長しています。

Alibaba 2019 Q4

アリババの株価分析

アリババの2019年の実績を見ると、売上高は42%、EBITDAは35%で伸びており、これはGAFAと比べてもかなり良い水準です。

利益の伸びが100%を超えているのは、2019年の第3四半期にAnt Financialの33%の株式引き受けを行ったことによる、特別計上があったためです。

(RMB) 2018 2019 2019 Growth
Revenue ¥345,278 ¥488,895 42%
Income from operations ¥57,540 ¥93,064 62%
EBITDA ¥116,231 ¥157,388 35%
Net Income ¥63,496 ¥163,381 157%

2019年の特殊要因を除いて比較すると、2020年2月15年時点での株価$219でのPERは32.7となります。こちらはAmazonよりは低いですが、GoogleやMicrosoftとほぼ同じ水準です。

2018E 2019 2019 Growth
EPS per ADS in RMB ¥26.4 ¥65.0 146%
EPS per ADS in US$ $ 3.8 $ 9.3 146%
Adjusted EPS per ADS in USD $ 3.8 $ 6.7 78%
Alibaba Stock Price 139.09 219.63 58%
PER (Adjusted) 36.8 32.7 -11%

アリババは中国国内のeコマースとクラウドコンピューティングでNo.1の地位を築いていること、中国国内のeコマース、クラウドコンピューティング市場の伸びを考慮すれば、この高いPERは理解できます。

また、アリババは2018年9月に$6bの自社株買いを発表し、2019年に自社株買いを行なっています。余剰のキャッシュを株主へ還元するのは、株主重視の姿勢が見え、株主にとってはプラスです。

まとめ

  • アリババはeコマースで中国国内で56%のシェアを握る、No.1企業であり、依然として高い成長率と高い利益率を誇る
  • アリババはeコマースで稼いだ資金をクラウドコンピューティングやエンターテインメントに投資をしている。特にクラウドコンピューティングはシェア50%近い1位であり、前年比60%以上で成長している
  • アリババのエンターテインメント事業は二桁前半で成長しているが、BATで競い合う厳しい競争環境かつ市場成長速度も鈍化してきており、あまり期待できない
  • アリババの利益率は減少傾向にあるが、依然としてEBITDA(利息、税、償却前利益)で32%と高い水準。
  • アリババの株価のPERは一時要因を除いたベースで32.7とGoogleやMicrosoft並。2019年度の一株あたり利益が78%伸びたことを考慮すれば、納得できる水準

GAFAの記事はこちらになります。

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高値づかみを防ぐための、株式投資に役立つ先行指標まとめ

いざ投資を始めようとした時に、「いつ投資をするか」、は迷いますよね。「高値づかみをする可能性を減らしたい」、という場合に、「今の価格が割高なのかどうか」を判断するのに役立つ指標を7つ紹介します。

基本となる指標

1、2. PER・EPS(日本株)

日経平均の価格は、EPS(Earnings per Share: 一株あたり利益) × PER (株価収益率:Price to Earnings Ratio: 株価を一株あたり利益で割った値)で表されます。

日経平均とPERの推移(投資の森より)

日経平均のPER(株価➗一株あたり利益)は現在14.51と、過去5年の平均程度まで上がってきています。直近2年間の安値である2018年12月に19,327円をつけた時のPERは10.8でした。また、2019年8月に20,618円まで落ちた時のPERは11.64でした。

実は、一株あたり利益は2019年は減少傾向です。米中の関税の応酬で、設備投資に関する企業の利益が特に落ちました。

2019年の日経平均一株あたり利益(株式マーケットデータより)

今の日本の株価をPERとEPSの観点から見ると、EPSは下落傾向である一方、全世界的な金融緩和と米中の貿易摩擦が緩和されるという期待から、PERが上昇し、株価の上昇に繋がっています

1. 2. EPS・PER(米国株)

米国株はほぼ一貫して上昇を続け、特に2019年は30%近い上昇をしました。

S&P500の株価の推移(Googleより)

米国株(S&P500)の予想PERの推移です。

S&P500の予想PERの推移(FACTSETより)

米国の予想PERはほぼ一貫して上昇を続け、2018年の冬に一度調整が入りましたが、その後も順調して伸びてきました。、現在は18.7と2017年に急落した水準まで上がってきています。

過去5年間の平均予想PERが16.7で、10年間の平均予想PERは約15.0ですので、現在は過去10年間の平均よりも予想PERが24%程度高いことになります。

米国のS&P500の企業のEPSは2014年から2016年までは停滞し、2017年からは大きく成長しています。2018年にEPSが大きく伸びているのはトランプ大統領が行なった連邦法人税を35%から21%へ減税した影響が大きいです。

S&P500のEPSの推移(FACTSETより)

一方、2019年のEPSは2018年と比較して、微増が予想されています(1%程度)。

つまり、この2つのチャートからは、2019年の株価の上昇の1%は実際のビジネスにもとづくEPSの上昇から、残りの27%以上は将来の成長期待に基づいての株価上昇ということがわかります。

2020年、2021年のEPS成長はアナリストによる予想ですが、過去の実績や現在のコロナウイルスによる中国経済への影響をみる限り、やや楽観的なように見えます。

株価が将来の成長期待を元に上がっている時には、実際のビジネスの成果であるEPSが伸びていない場合、期待が剥げ落ちた時の下落が大きくなる可能性があるため、注意が必要です。

景気の先行指標

3. ラッセル2000

米国の小型株2,000銘柄(米国の時価総額上位3,000銘柄のうち、下位2,000銘柄の時価総額加重平均型指数)です。

ラッセル2000の推移(Googleより)

小型株の方が景気の影響を受けやすいため、大型株の集合であるS&P500よりも先に株価が動きやすい、というのが先行指標としてラッセル2000が注目される理由です。

現状はコロナウイルスの広がりから少し落ちてまだ戻ってはいませんが、高値圏で推移しています

4. バルチック海運指数 (Baltic Dry Index)

バルチック海運指数は世界の不定期船の輸送レートを指数化したものです。不定期船のレートは、ざっくり言えば燃料となる原油価格と、船の輸送の需給によって決まります。

わかりやすく言えば、貿易でモノがどれくらい活発に流れているか、に関連のある指数です。

バルチック海運指数の推移(Trading Economicsより)

バルチック海運指数は昨年末から急落しており、過去5年で最低レベルまで落ち込んでいます。つまり、それだけモノの移動が滞っている=世界経済の状態があまりよくない、ことを示唆します。

5. 石油価格 (WTI Crude Oil Price)

輸送のみならず、様々な製品の原材料にも使われる石油価格も世界の経済状況を反映する先行指標の一つです。

石油価格の推移(WTI)

石油価格はコロナウイルスが中国の生産活動を低下させるという懸念から下落を続け、現在$50近くまで下落しています。

6. 米国新規住宅着工件数

住宅には様々な産業が関わってくるため、米国の新規住宅着工件数も重要な先行指数です。一般的に、景気がよくなればなるほど家を建てたいという人が増えると、住宅着工件数も増えます。

米国新規住宅着工件数の推移 (Trading Economicsより)

直近の2019年12月は年160万戸のペースと予想を大幅に上回る数字でした

7. 米国中古住宅販売

米国では住宅を資産と考え、住宅価格の値上がりは消費の活性化と関連があり(懐が緩くなる)、中古住宅販売の件数・価格も経済の好調さを表す一つの指標です。

米国中古住宅販売推移 (Bloombergより)

直近では中古住宅販売は在庫不足にも関わらず好調で、住宅購入の需要の力強さを表しています

まとめ

  • EPS(一株あたり利益)はビジネスの実態を、PER (株価収益率)は将来への期待を表し、株価を構成する二つの基本となる指標
  • 日本株のPERは歴史的には平均程度、米国株のPERは歴史的には高値の水準にある。
  • 米国の2019年のEPSは微増であり、2019年の株価の値上がりのほとんどはPERの上昇による
  • 株価の先行指標として、米国の小型株指数であるラッセル2000、バルチック海運指数、石油価格、新規住宅着工件数、米国中古住宅販売がある。どれもS&P500など大型株の株価に先行して動く指数だと考えられている。
  • バルチック海運指数、石油価格は歴史的な安値にあり、モノの流れと投資が滞っていることを示唆する
  • ラッセル2000の推移、新規住宅着工件数、米国中古住宅販売は上昇基調にあり、米国経済が依然として好調であることを示唆する

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アマゾン(Amazon)の株価は決算後どうして上がったか:ビジネス分析

GAFAの一角であるAmazon。Amazonは先週決算を発表し、株価は一気に10%近くまで上がりました。Amazonの決算のどこが好感されたのでしょうか? Amazonの事業は将来性があるのでしょうか? 現在の株価は適正なのでしょうか?

決算内容を元に、説明していきます。

Amazonの決算内容

2018 2019 Growth
Net product sales $ 141,915 $ 160,408 13.0%
Net service sales $ 90,972 $ 120,114 32.0%
Total net sales $ 232,887 $ 280,522 20.5%

Amazonお売上高は2019年に20.5%で成長しました。Net Service Sales (AWS – アマゾンのクラウドサービスやAmazon Prime会員の会員費など)の伸びが32%と、Net product sales (Amazonでの買い物)の13.0%よりも上回っています。

一方、費用の伸びは売上の伸びよりも早い20.6%で伸びている。Fulfillment (配達費など)の伸びが18.2%と売上の伸びよりも早いのは、AmazonがAmazon Fresh (生鮮食品のデリバリー)を$14.99からプライム会員は無料にしたことなどが影響しています。

また、Amazon Prime Video(NetflixやHuluと競合する、Amazon版のオンラインビデオサービス)への注力から、番組制作費が増えており、Technology and contentの費用の伸びも売上の伸びを上回っています。

Operating expenses: 2018 2019 Growth
Cost of sales $ 139,156 $ 165,536 19.0%
Fulfillment $ 34,027 $ 40,232 18.2%
Technology and content $ 28,837 $ 35,931 24.6%
Marketing $ 13,814 $ 18,878 36.7%
General and administrative $ 4,336 $ 5,203 20.0%
Other operating expense (income), net $ 296 $ 201 -32.1%
Total operating expenses $ 220,466 $ 265,981 20.6%

結果として、Operating Income (営業利益)の伸びは17.1%と売上の伸びよりも悪く、営業利益率はわずか5.18%で、GAFAの中ではダントツに低いです。

これは、Amazonが利益を物流や顧客の便益を上げるために使って、顧客満足度を最大化させることに注力しており、利益を出す気がないことによります。

2018 2019 Growth % of sales
Operating income $ 12,421 $ 14,541 17.1% 5.18%
Interest income $ 440 $ 832
Interest expense $ (1,417) $ (1,600)
Other income (expense), net $ (183) $ 203
Total non-operating income (expense) $ (1,160) $ (565)
Income before income taxes $ 11,261 $ 13,976 24.1% 4.98%
Provision for income taxes $ (1,197) $ (2,374) -0.85%
Equity-method investment activity, net of tax $ 9 $ (14)
Net income $ 10,073 $ 11,588 15.0% 4.13%

利益率が非常に低いことから、法人税額も売上と比較すると非常に低いです。利益の17%ではありますが、売上高から計算するとわずか0.85%。

一株あたり利益の成長は14.3%とGAFAの中では中程度ですが、PER (Price to Equity Ratio – 株価を一株あたりの利益で割った指標)は89でGAFAの中でダントツに高いです。

2018 2019 Growth
Basic earnings per share $ 20.7 $ 23.5
Diluted earnings per share $ 20.1 $ 23.0 14.3%
PER 89.0

この高いPERは、市場がAmazonは将来にわたり、一株あたり利益を成長し続けられる、もしくはAmazonが利益に目を向けるようになればすぐに利益率は改善されると期待していることを示しています。

次のAmazonのビジネスの章で説明しますが、株価がポジティブに反応したのは、市場の期待を上回る速度で売上が成長したことと、AWSという利益率が高いサービスの伸びが特に良かったためです。

Amazonのビジネス

Amazon (北米)

北米はAmazonの売上の中でも61%を占める主要な市場です。この括りには、Amazonのマーケットプレイスに加えて、プライムの年会費も含まれます。

AmazonはUSのオンラインショッピングの市場では圧倒的な存在感を持ち、2位のeBayを大きく引き離す47%のシェアを持っています。さらに、20%以上で売上を伸ばしていっています。

2019年の売上は前年比で22%成長で、利益の伸びはマイナス16%です。

利益の伸びがマイナスになったのは、プライム会員の配達料を無料にしており、プライム会員が小口の注文を増やせば増やすほど輸送費がかかる構造に加え、かつ1 dayデリバリーなど配達関連のサービスを充実させていること、プライム会員に付属している無料のAmazon Prime関連サービス(Music, Video)の費用が結構かかっていることが理由と推察されます。

その先行投資のかいもあり、Amazonのプライム会員は北米で1億人を超えていると推定され、実に約3人に1人がプライム会員という、すごい状況です (Statistaより)
流通、サービスに投資をして顧客を囲い込もうとしているのは、ライバルを引き離し、顧客を自らのプラットフォームに留めるためです。

実際、小売No.1のWalmartも赤字を出しながら実店舗を使って、オンラインショッピングの領域でもAmazonを追い上げてきており、コスト競争力に優れるこの強力なライバルとの戦いは、今後さらに熾烈になっていきます。

競争に勝ち、今のAmazonの独占状態を維持するためには、いかに顧客を囲い込んでいくか、が課題になります。そのため、音楽やビデオなどプライム会員が無料で利用できるサービスを増やすことで、一人当たり売上高の高いプライム会員を増やそうとしています。

[st-minihukidashi fontawesome=”” fontsize=”80″ fontweight=”” bgcolor=”#3F51B5″ color=”#fff” margin=”0 0 0 -6px”]ココがポイント[/st-minihukidashi]

[st-cmemo fontawesome=”fa-hand-o-right” iconcolor=”#3F51B5″ bgcolor=”#E8EAF6″ color=”#000000″ iconsize=”200″]

Amazonの北米事業は年率20%以上で成長している市場で、Amazonはシェア47%を持ち、1億人以上のプライム会員を抱えていると推定され、非常に良いポジションにある。売上高は19兆円弱。しかし、競争相手を引き離すためにも流通、サービスに投資をしている段階にあり、利益率は4%未満と低い

[/st-cmemo]

Amazon (北米以外)

Amazonは北米以外でもサービスを提供しています(日本、ヨーロッパ、オーストラリアなど)。売上高は約8兆円と巨大ですが、成長率は北米より低い14%です。北米以外の部門は投資段階にあり、赤字です(国によってはおそらく黒字ですが)。

北米以外の成長率がやや鈍いのは、各国でローカルの競合が存在することが大きな理由として考えられます。例えば、日本であれば楽天が競合やメルカリなどが競合にあたります。楽天はアマゾンに次ぐ2番手ですが、それでも北米と異なり、アマゾンと楽天はユーザー数でいえばあまりかわりはありません。
同様に、ヨーロッパにおいてもローカルの競合が存在します。そのため、アマゾンとしても競争のために先行投資を続けざるを得ず、結果として赤字が続いていると考えられます。

[st-cmemo fontawesome=”fa-hand-o-right” iconcolor=”#3F51B5″ bgcolor=”#E8EAF6″ color=”#000000″ iconsize=”200″]

Amazonの北米以外の事業は年率15%で成長している市場で。ただし、北米以外ではローカルの競合がおり、Amazonが市場を独占しているわけではない。売上高は約8兆円。競争相手を引き離すためにも流通、サービスに投資をしている段階にあり、利益は赤字。

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AWS (Amazon Web Service)

AWS (Amazon Web Service)はクラウドコンピューティングを提供するサービスです。企業はAmazonのAWSを使うことで、自社でサーバーを持つのではなく、Amazonのサーバーを借りて大量のデータを保管したり、クラウド上のコンピューターでデータ処理をしたりすることができます。

以前は自社でサーバーを持ち、データベース管理や分析を内製化する企業が多かったのですが、近年はAmazon、Microsoft、Googleが安価でクラウドサービスを提供していることから、だいぶ参入障壁が下がりました。

クラウドサービスを用いた方が自社でサーバーへの投資を行い、かつ運用・管理する手間が省けることから、今後もクラウドサービスの需要は拡大していくと考えられています。

AmazonはこのクラウドのサービスでNo.1で (Synergy Research Groupより)、約40%のシェアを保有しています。2位のMicrosoftのシェア (20%)の2倍、3位のGoogleのシェア(10%)の4倍です。
クラウドサービスの市場は上位3位が70%のシェアを持つ寡占市場であり、かつ年率30%以上で成長しています。規模が大きければ大きいほど規模の経済が働いてコストを安く提供できるため、シェアNo.1のAmazonはこの市場において非常に良いポジションにいます。

事実、AmazonのAWSの売上高は36.5%成長と、市場を上回る速度で成長しています。

AWS 2018 2019 Growth
Net sales $25,655 $35,026 36.5%
Operating Expenses $18,359 $25,825 40.7%
Operating Income $7,296 $9,201 26.1%

AWSは非常に利益率が高く、2019年の営業利益率は26%になります。Amazonらしく、利益率は前年比で悪化していますが、利益の絶対額は$2b (2,200億円)増加しています。

足元の第4四半期の成長はやや鈍っていますが、それでも十分早い速度です。

[st-minihukidashi fontawesome=”” fontsize=”80″ fontweight=”” bgcolor=”#3F51B5″ color=”#fff” margin=”0 0 0 -6px”]ココがポイント[/st-minihukidashi]

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AmazonのAWS事業は年率30%以上で成長している市場で、シェア40%を持ち、非常に良いポジションにある。売上高は4兆円弱で、営業利益率も26%と非常に高い。

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Amazonが抱えるリスク

Google、Facebookと同じく、独占的なプラットフォームを持つAmazonですので、規制当局の目が年々厳しくなってきています。独禁法違反の商取引や節税スキームなどの理由で刺される可能性があり、その場合は利益の減少理由になります。

また、どの分野でも競争が激しくなってきているのが事業のリスクです。北米のオンラインショッピングではWalmartが、北米以外の市場でもローカルのプレイヤーがアマゾンへ対抗しようと投資を加速させており、こちらもAmazonの売上や利益の伸びを鈍化させる要因になります。

また、Googleがショッピングの比較などをより真剣に始めた場合、AmazonへのSEO経由での流入が減り、売上に悪影響を与える可能性があります。

AWSについても、米国国防省の大型案件をMicrosoftが受注するなど、Microsoftの激しい追い上げにあっています。

これらの競争の激化は事業上のリスクです。

まとめ

  • Amazonの売上高は31兆円。北米事業が19兆円、北米以外が8兆円、AWSが4兆円。
  • 北米事業は1億人のプライム会員をもち、顧客を囲い込んで市場の約半分を支配しているが、Walmartによる猛追を受けており、競争が激しくなってきている。
  • 北米以外の事業は、年率15%以上で伸びてはいるが、ローカルの競合相手の競争と先行投資の影響で過去ずっと赤字。
  • プライム会員を増やし、囲い込むためにコンテンツ(ビデオ、音楽)と物流に利益の大半を使った投資を行なっている
  • AWSの成長は30%を超え、利益率も25%と高く、魅力的な市場で、良いポジションを取れている。

他の企業と比べてどうかという比較の記事はこちらになります。

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グーグル(Google)の株価はどうして下落したか: 市場と決算の分析

Alhabet(Googleの親会社)が2019年の第4四半期の決算を発表し、1年のビジネスの結果が出ました。新しいCEOのもとでより情報開示がされるようになり、これまで秘密のベールに隠されていたAlphabetのビジネスがかなり明らかになりました。

今回は、決算の情報をもとに、Alphabet(Google)の決算の解説とビジネスの分析をしていきます。なお、AlphabetはGoogleの親会社ですが、99%のビジネスはGoogleですので、以降はGoogleとして記載します。

下記のGAFA+Microsoftの記事の続きになりますので、こちらもどうぞ。

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Googleの2019年の売上

Category 2017 2018 2019 2018 Growth 2019 Growth % of revenue
Google Search & Other $ 69,811 $ 85,296 $ 98,115 22% 15% 61%
YouTube ads $ 8,150 $ 11,155 $ 15,140 37% 36% 9%
Google Network Member’s Properties $ 17,616 $ 20,010 $ 21,547 14% 8% 13%
Google Advertising $ 95,577 $ 116,461 $ 134,802 22% 16% 83%
Google Cloud $ 4,056 $ 5,838 $ 8,918 44% 53% 6%
Google Other $ 10,914 $ 14,063 $ 17,014 29% 21% 11%
Google Revenues $ 110,547 $ 136,362 $ 160,734 23% 18% 99%
Others (including Other Bets) $ 308 $ 457 $ 1,114 48% 144% 1%
Alphabet Total $ 110,855 $ 136,819 $ 161,848 23% 18% 100%

検索サービス

Googleは2019年も力強い売上の伸びを見せました。特に、検索・広告の部門の売上は全体の83%を占め、売上は10兆円を軽く超える会社でありながら、2019年も15%で成長しています。

ただし、流石に成長率は鈍化してきており、2018年の22%と比べると検索・広告の部門もやや成長速度が落ちてきています。

クラウドコンピューティング

クラウドコンピューティングのサービスを提供するGoogle Cloudは全体に占める割合は5%程度と小さいものの、2019年は前年度よりも早い53%で成長しています。

検索・広告以外のビジネスも順調に育ってきていることがわかります。Google Cloudだけですでに1兆円近い売上で、それが50%以上の速度で成長している、というのはすごいことです。

ただ、一方でAmazonのAWSビジネスの売上は$35b(約3兆8000億円)とGoogleのクラウドビジネスの4倍近くであり、かつ第4四半期での成長は34%と力強い成長をしています。Amazon、MicrosoftというGoogleよりもクラウドビジネスの規模の大きい2社と本格的な競争になった時にグーグルがどこまで伸びるか、は注目です。

その他Google

また、Google Otherには、Android、Pixel、Google Homeに加え、YouTubeのサブスクリプションサービスも含みます。YouTubeのMusic and Premium Serviceの加入者も2,000万人を突破し、YouTube TVの加入者も200万人を突破。広告以外でもYouTubeは$3b (3,300億円)を稼ぐようになっています。

特に、GoogleのアンドロイドのアプリストアであるGoogle Playには20億人のアクティブユーザーがおり、Googleにとって安定した収益源となっています。アンドロイドの開発者は合計で$80b (8800億円)以上を稼いでいます。

その他の長期投資

Other Betsには自動運転サービスのWaymoやヘルスケアサービスのVerilyなどが含まれます。

これらのサービスの売上はGoogle全体から見ると小さいですが、特にWaymoは自動運転に関する豊富なデータとコアになる技術を保有しており、車メーカーからは喉から手が出るほど欲しい企業です。CEOのSundar Pichaiは将来のために必要な投資、と言い切っています。

Googleの2019年の営業利益・純利益

2018 2019 YoY Growth
Revenues $ 136,819 $ 161,848 18.3%
Operating income $ 27,524 $ 34,231 24.4%
Operating Margin 20% 21%
Other Income $ 7,389 $ 5,394 -27.0%
Earnings before Tax $ 34,913 $ 39,625 13.5%
Tax $ 4,177 $ 5,282 26.5%
Net Income $ 30,736 $ 34,343 11.7%
Net Income % 22.5% 21.2%

Googleの2019年の営業利益率は21%と、前年比で改善していますが、純利益率は1.3%下落しています。これは、法人税の実効税率が12%から13.3%へ1.3%増加したことが主な要因です。しかし、多少法人税が上がったとしても、法人税の実効税率が13.3%というのはアメリカの法人税21%よりかなり低い数字で、Googleが変わらず節税策に優れていることを示しています(ダブルダッチサンドイッチ+アイルランドの利用、で合法的な範囲で節税を行なっています)

Googleの一株あたり利益は$49.2となりました。これは、前年度比12.5%の成長になります。2月4日時点での株価$1,480から考えると、PERは30倍になります。

2018 2019 YoY Growth
Diluted EPS $ 43.7 $ 49.2 12.5%

GoogleもFacebookなどと同じように、積極的に採用を行い、人を増やしています。従業員は2018年末から2019年まで98,771人から118,899人まで20.4%増えました。

規模が大きくなっても営業利益率が改善していないのは、採用を積極的に行うことで人件費が上がっていることが一つの理由です。

Googleの2019年の財務

資産の部では、現金、有価証券が全体の40%を占めています。これは、「いつでも買収をできるようにしている」、とも考えられます。

現金同等物以外で大きいのはProperty and equipment, net (不動産や設備など)で、主にデータセンターとオフィスです。こちらはGoogleが継続的に投資を行なっており、年々額が増えていっています。

負債を見ても何も問題がありません。キャッシュが毎期ごとに使い切れないほど溜まっていくビジネスの構造をしていること、負債以上の現金同等物を持つことから、会計上は無借金状態です。

また、営業キャッシュフローも順調に伸び、データセンターへ投資をし、余ったキャッシュで自社株買いや買収を行う、と綺麗にキャッシュが回っています。

Googleのビジネスの今後の可能性

Googleは全世界のインターネットの検索で圧倒的なシェアを保有しており、90%以上のシェアを持ちます(例外はGoogleが参入できていない中国とネイバーが強い韓国。日本のヤフーの検索の裏側はGoogleです)

Googleはモバイル端末のOSでも圧倒的なシェアを保有し、世界のスマートフォンの4台に3台はAndroidです。

また、YouTubeは世界で最も見られている動画サイトであり、20億人のユーザーを持ちます。

ブラウザにおいてもChromeが圧倒的なシェアを持ち、全世界の64%のシェアを持ちます。

これらの事実から言えることは、Googleは世界のインターネットユーザーが増えれば増えるほど、収益が増えていく企業だ、ということです。携帯の端末、ブラウザ、検索、Google Play Storeとユーザーがスマートフォンを使う際には、Googleのサービスを使わざるを得ないような環境がすでにできています。

これはユーザーのみならず、広告主にとっても同様です。オンラインで集客をしようと思った場合、Googleの集客力が圧倒的なため、アドワーズ(Googleの広告サービス)を使わざるを得ないような環境になっています。

GoogleとYouTubeについては、この2つのサービスを脅かすような競合が数年で出てくるとは考えにくいです。

そのため、キャッシュを産み出すコアのビジネスである、GoogleやYouTubeは、成長は多少緩やかになるかもしれませんが、順調に伸びていくと予想されます。

加えて、Googleは周辺のサービスへも積極的に入ろうとしています。

具体的には、Google Mapで航空券・ホテル検索のサービスを始めたり、ショッピングサービスを検索画面に出したりと、検索での独占的な地位を活かしてビジネスの領域を拡大しています。

また、豊富な資金を活かして、YouTubeのサブスクリプションサービスやハードウェアビジネス(Google HomeやPixel)、クラウドサービス(Google Cloud)にも注力しており、まだまだビジネスに拡大の余地が大きいです。

加えて、車用のOSも開発しており、車向けのOSも可能性が大きいビジネスです。

これらの成長余地が期待に繋がり、Googleの株価は一株あたり利益の30倍を超える価格で推移していると考えられます。

Googleのビジネスのリスク

法的なリスク

Googleは様々な領域で独占的な地位を築いており、各国の規制当局はその影響力の大きさと独占に懸念を強めています。この点は下記のFacebookと同じです。

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これは、マイクロソフトが1990年代にウインドウズで独占的な地位を築いた時に直面した問題と同じです。当時のマイクロソフトは独禁法違反で多額の課徴金を課され、加えて特定の地域でビジネスができなくなる可能性もありました。

Googleの場合はも検索とAndroid OSという圧倒的な地位を使ってビジネスを拡大させているので、すでに欧州委員会に3度刺されて1兆円以上の課徴金を支払っています。

米国民主党の大統領選の候補の一人であるエリザベス・ウォーレンなどはGoogleをはじめとする巨大テック企業への課税や規制に前向きですし、米国の大統領選次第では米国での事業環境が悪化する可能性があります。また他の国からも独禁法違反で訴えられ、課徴金を支払わなければならないリスクがあります。

ユーザーの行動変化のリスク

Googleはユーザーに検索結果を表示する、サイトを見た時に広告を出す、YouTubeへ広告を出す、ことから主な収益を得ています。

しかし、ユーザーが各サービスのアプリをダウンロードし、その中で検索や購入を行う場合には、Googleがユーザーに広告を表示する機会がありません。

例えば、ユーザーがAmazonのアプリを開いて、Amazonの中の商品を検索し、購入しても、そのユーザーの行動からGoogleは利益を得ることができません。

また、ユーザーがFacebook MessengerやFacebookを通じて友人と会話をし、Facebook Marketplaceで商品を購入した場合も、同様にGoogleは利益を得ることができません。

つまり、ユーザーがインターネットのブラウジングから離れて、直接アプリでサービスに行くようになると、Googleとしては売上をあげる機会を失うことになります。

実際に、ユーザーはインターネットのブラウジングよりもアプリを使う時間を増やしており、これはGoogleのビジネスの飯の種である、検索連動広告、バナー広告、にとって脅威になります。

また、同様に、Googleの広告を出さないようにするアドブロックなどのサービスや広告を排除するブラウザの普及の速度が早まった場合、こちらも売上の成長を妨げる要因になります。

Googleの株を購入する場合には、これらのユーザーの行動変化にも注意をした方が良いかもしれません。

まとめ

  • 2019年のGoogleの売上成長は18%、利益成長は11.7%。売上の83%を占める広告ビジネスの伸び率は16%で、特にYouTube向けの広告の伸びが36%と早い。全体の純利益率も20%を超えるという超がつく優良企業
  • Google Cloudは全体の売上の5%程度だが、売上成長率は53%と最も高い
  • Googleの財務は健全であり、買収と自社株買いの余地がかなりある
  • Googleは検索、動画、ブラウザ、OSで独占的な地位を築いており、その地位を短期間で失う可能性は少ない。インターネットのユーザーが増えれば増えるほど利益が上がるほど、ユーザーとの接点が多い
  • 一方、その影響力の大きさから政治から注目を浴びやすく、政治リスクが高い。また、ユーザーの行動が変化し、アプリに直接行くユーザーが増えると、Googleの成長を鈍化させる可能性がある
  • PERは30で、株価に成長期待がある程度反映されている。GAFAM (Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)の中では中程度

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