三菱商事(8058) – 高配当・累進配当銘柄に潜む事業リスク

高い配当で個人投資家からも人気の三菱商事。10つの異なる事業を運営していることもあり、きちんと個別事業の分析された方は少ないのではないかと思います。

今回は三菱商事の事業分析を行なっていきます。

この記事を読むとわかること

  • 三菱商事の中期経営計画の数字(2021年に9000億円)は資源全面高の神風が吹かない限り、ほぼ達成不可能
  • 三菱商事は下落リスクの高い市況系と低成長の事業系の組み合わせ
  • 配当利回り、PBRの観点からは割安であり、自己株式を積極的に購入する姿勢も株主重視で評価できる
  • 累進配当銘柄ではあるが、すでに目標配当性向に達している上、事業リスクが高い。安定した高配当を狙う人は他の銘柄も見るか、三菱商事の比重を一定程度に抑えた方が良い。

三菱商事の中期経営方針

三菱商事は2018年に中期経営方針を発表しました。一言で言うと、「事業投資を行い、価値を上げ、時には売却することで利益を得ていく」です。

三菱商事中期経営戦略2021

大きな時代の流れでいくと、下記のように商社は機能を徐々に変えていきました。

  1. 貿易仲介・金融機能を提供していたトレーディングのビジネス
  2. マイノリティ投資(50%未満の投資)をして投資からのリターンを狙う事業投資のビジネス
  3. マジョリティ投資(50%以上の投資)をして経営権を握り、事業の経営を行い価値を上げ、事業運営・事業売却をして利益をあげるビジネス

今後は3の事業経営に注力する、というメッセージです。

三菱商事中期経営戦略2021

2021年度の目標としては、9000億円の利益、配当性向35% (配当一株あたり約200円)を目指す、とのことです。

この目標が達成できる可能性について、この記事では分析していきます。

三菱商事の事業概観

三菱商事のビジネスは大きく分けて、市況系と非市況系(事業系)に分かれます。

市況系は資源の価格が上がれば価値が上がり、下がれば下がる、という市況に左右されやすいビジネスです。一方、事業系は比較的資源の価格に左右されにくいビジネスです。

2019年11月 三菱商事 第二四半期決算発表より

2019年の見通しでは、事業系で4000億円、市況系で2000億円の予定でしたが、11月時点で、事業系から350億円、市況系から550億円引き下げ、2019年は800億円減の5,200億円の見込みです。

市況系(天然ガス、金属資源、産業インフラ)

市況系ビジネスの巡行利益(一時的な変動要素を除いた利益)を見ていきます。

事業部 事業内容 2018年第2四半期
巡行利益
2019年第2四半期
巡行利益
前年同期比
金属資源 石炭、銅 1,289 886 ▲403
天然ガス LNG事業 453 409 ▲44
産業インフラ プラント 145 142 ▲3
合計   1,887 1,437 ▲450

金属資源、天然ガス、産業インフラ、の3つの事業部が三菱商事を支える資源ビジネスです。

金属資源ビジネス

市況系の中では、金属資源が最も大きな利益貢献をしています。この中でもオーストラリアの原料炭ビジネスは2018年に1,000億円、2019年度も760億円とほぼ半分以上の利益を出しています。

金属資源ビジネスの減益要因の約80%はこのオーストラリアの石炭ビジネスの減益です。そして、金属資源ビジネスは市況系の60%を占めます。

言い換えれば、三菱商事の資源ビジネスの半分を支えているのはオーストラリアの石炭ビジネスであり、このビジネスがうまくいけば利益があがりますし、ここがこけるとかなり厳しくなります。

しかしながら、石炭はCO2排出量が多く、近年の環境意識の高まりから、忌避されるエネルギー源になってきました。2019年に入り、石炭価格はトンあたりUS$200超えから$150未満まで落ち込んできています。

環境省「燃料別二酸化炭素排出の例」より

金融機関が新規の石炭をエネルギー源にした火力発電所の建設への融資をしない例など、世界中で石炭に対して逆風が吹いており、今後も石炭価格が急激に上がる可能性は高くないでしょう。

また、チリの銅鉱山についても銅の価格が低迷しており、足を引っ張ってきています。銅は世界経済のバロメーターと呼ばれるように、世界経済が減速すると価格が伸びにくくなります。

世界経済の牽引役であった中国の景気が減速していることから、こちらも今後の価格の急激な伸びが期待しにくい状態です。

一方、2022年にはペルーの銅山が生産を始める予定で、予定通りに生産が進めば、銅の生産量は50%増となります(現状の銅の価格では利益貢献としてはおそらくそこまでではないでしょうが。。)

天然ガス

LNGの価格にも影響を与える石油価格は、OPECの協調減産のおかげでもあり、$60/バレルと比較的高値で安定しています。

Dubai 石油価格 Index Mundiより

しかしながら、米国のシェールオイルの生産が増加するにつれて上値が抑えられる可能性が高く、過去の資源バブルの時のように1バレル$100を超える未来が想像しにくい状態です。

一方、建設中のキャメロン・タングーが来年、再来年と本格的に生産を始めれば、生産能力が1.5倍となり、収益は大きく伸びると考えられます。

また、LNGカナダも2020年代中頃の生産開始の見通しであり、天然ガスビジネスは、価格が変わらなければ、伸びていく見通しです。

産業インフラ

産業インフラ(プラント)のビジネスは、レンタルのニッケンと千代田化工建設の2本柱。レンタルのニッケンの収益は過去5年で減少傾向にあり、主に千代田化工建設がキャメロン(アメリカ)とタングー(インドネシア)を計画通りに建設できるか、にかかっています。

そもそも千代田化工建設はこれらの工事の遅れから赤字となり、三菱商事の支援を仰ぐことになったため、工事がきちんと完了し、生産が始まるまで、まだリスクが残っていると言えます。

三菱商事の市況ビジネスについてまとめ

  • オーストラリアの石炭の権益が三菱商事の市況系ビジネスの鍵で、約50%のインパクト
  • 石炭価格は下落傾向にあり、今後もESG投資の流れから下落する可能性が高く、三菱商事の市況ビジネスにとっては頭の痛い問題
  • 次の柱のチリの銅資源は、世界経済の減速により銅の価格が低迷しており、収益の柱になれていない。2022年のペルーの銅山の生産開始がアップサイド。
  • 天然ガスは市況系の約30%を占める。石油価格が1バレル$60と安定しているために比較的安定している。石油価格が今後急上昇する可能性は高くないが、キャメロン・タングーといった現在建設中の施設が稼働することで、生産能力は2020年代前半に50%増加する。
  • 産業インフラの市況系に占める割合は10%程度であり、上昇余地も大きくない。むしろ、千代田化工建設がキャメロンとタングーを計画通り建設できず、追加で資金が必要になるリスクを抱える
  • 三菱商事に投資するのであれば、石炭価格、銅価格、石油価格、千代田化工建設のLNGプロジェクト進捗、に要注意

事業系(その他)

事業系は7つの事業部があります。下記の表を見ていただければわかるように、電力ソリューションをのぞく6つの事業部の巡行利益が、マイナス成長となっています。

事業部 事業例 2018年第2四半期 2019年第2四半期 前年同期比
自動車・モビリティ いすず・三菱自動車など 433 284 (149)
石油・化学 サウディ石油など 229 110 (119)
食品産業   223 142 (81)
複合都市グループ   182 157 (25)
コンシューマー産業 ローソンなど 181 152 (29)
総合素材 メタルワンなど 178 146 (32)
電力ソリューション   101 113
12
合計   1,527 1,104 (423)

三菱商事が発表した、修正後の2019年の見通しです。

事業部 事業例 2018 2019予定 差分
自動車・モビリティ いすず・三菱自動車など 972 690 (282)
石油・化学 サウディ石油など 358 (70) (428)
食品産業   99 530 431
複合都市グループ   324 340 16
コンシューマー産業 ローソンなど 315 250 (65)
総合素材 メタルワンなど 353 330 (23)
電力ソリューション   331 380 49
合計   2,752 2,450 (302)

石油・化学はシンガポールのデリバティブ取引による損失が331億円あるため、大きなマイナスになっています。しかし、それがなくとも前期比マイナス成長です。

食品産業が大きなプラスになっているのは、事業売却による利益を見込んでいるためであり、持続可能な利益ではありません。

つまり、三菱商事の事業系は実力値で言えば、電力ソリューションを除いた6事業部は、前年度比でマイナス成長の事業群です

三菱商事が目指すような2021年に利益9000億円の姿(事業系で70%とすると6,300億円)を達成するためには、利益を30%以上で伸ばして行かなければならないところを、2019年はむしろ10%以上のマイナス成長です。

加えて、コンシューマー産業のローソンや自動車・モビリティのいすず・三菱自動車のビジネスは市場構造的な問題を抱えており、利益を伸ばしていきにくい状態になっています。

電力ソリューションと複合都市の事業部の伸びで、低成長・マイナス成長している他の事業系を補って、事業系全体を成長させるには馬力が足りないように見えます。

前年度10%下落したビジネスを翌年40%成長できる可能性はどのくらいあるでしょうか? 中期計画の目標値はすでに絵に描いた餅になってしまっているように見えます。

経常利益・キャッシュフロー・配当の推移

以上の事業分析を踏まえて、財務を見てみます。

三菱商事の過去5年間の経常利益と当期純利益の推移

経常利益は2016年を底に改善傾向にあります(2016年はチリ銅山などの減損のために赤字へ転落)。2020年3月期の純利益は5200億円と前年度の5900億円から700億円減少する見込みです。

この数字は、三菱商事は低成長な事業系の集合体と市況次第の市況系の組み合わせ、ということを裏付けています。

三菱商事過去5年のキャッシュフロー

過去5年の営業キャッシュフローは6,000-8,000億円で、2015年より減少傾向です。営業キャッシュフローから投資キャッシュフローをひいた、フリーキャッシュフローは4,000億円程度で過去3年は推移しています。

三菱商事過去7年の配当推移

配当は2020年3月期は年間132円を予定しています。発行済株式数が15億9000万株のため、132円の配当のためには

132円 x 15億9000万 = 2,100億円

が必要となります。

5,200億円の利益予想が達成された場合においても、配当性向は

2,100億円 ÷ 5,200億円 = 40.3%

と40%を超えます。つまり、2020年3月時点で、すでに目安とする配当性向35%を超えています

4000億円のフリーキャッシュフローベースでは、50%を超えます。

三菱商事を購入する理由

安定した高配当

三菱商事は2019年に増配を発表し、125円から132円へ増配しました。2019年12月26日現在の株価は2,922円のため、配当の利回りは4.5%となります。

4.5%という水準は日本株のこのサイズの上場企業の中ではかなり高く、倒産リスクがほぼない銘柄としてはかなり魅力的です。

増配の可能性は今後の利益水準次第ですが、すでに目標としている35%の配当性向を超える40%の配当性向となっていることから、市況系が改善しない限り、今後の増配の可能性はやや低いように見えます。

しかし、三菱商事は累進配当政策(配当を増やしていくという方針)を宣言しているため、少なくとも中期計画終了の2021年までの減配リスクは低いと考えられます。

自己株式購入の継続

三菱商事は2019年3月に3,000億円、1億2000万株を上限とした自己株式取得の発表をしました。これは発行済株式の7.5%にあたります。自己株式はストックオプション用の500万株を除いたものが償却予定です。

自己株式の購入は2つの点で投資家にとっては魅力的です:

  • 単純に、一株あたり利益が増え、既存の株主にとっては利益となる(分子の利益は同じでも、分母の発行済株式数が減れば、「一株あたりの」利益が増えます)
  • 経営陣が投資家の方を向いているというシグナルになる

PBR(一株あたり純資産)で見ると割安

PBRは1倍を割っており、一株あたり3,500円程度です。三菱商事が保有している資産を売却して、自己株式購入に当てて投資家へ還元していけば、株価は上昇する可能性が高いです。

配当、自己株式購入、PBRで割安、という理由から、ある程度、価格の下支えがあると考えられます。

三菱商事を購入しない理由

事業のリスクが高い

これまで見てきたように、三菱商事は低成長の規模の大きな事業系と、市況次第で利益が大きく変動する市況系の組み合わせです。

市況系は石炭、銅、石油(LNG)の価格に大きく左右される上、ESG投資の流れで石炭を主とした火力発電所の建設の抑制もあり、特に石炭の価格は上がりにくいと予想されます。

また、千代田化工建設のキャメロン・タングーの建設が完了するかもリスクであり、さらなる遅延は数百億円の損失に繋がります。

高配当株であれば他により良い選択肢がある

高配当株を求めている人であれば、事業が安定している企業の株を購入する方が望ましいですが、三菱商事はこれまで見てきたように市況次第なところがあり、読みにくい銘柄です。

高配当により価格の下落リスクが軽減されるとはいえ、「石炭価格の大幅下落で大幅減損」、「キャメロンプロジェクトのさらなる遅延からの減損」、などの予想不可能なニュースで株価の下落を見るくらいならば、より事業の先行きが読みやすい銘柄の方が適していると思います。

また、資源株として持つにしても、低成長の事業系を持っていることは下落リスクを減らしますが、価格上昇も限定的になるため、中途半端です。

まとめ

  • 三菱商事の中期経営計画の数字(9000億円)は資源全面高の神風が吹かない限り、ほぼ達成不可能
  • 三菱商事は低成長の事業系と下落リスクの高い市況系の組み合わせ
  • 配当利回り、PBRの観点からは割安であり、自己株式を積極的に購入する姿勢も株主重視で評価できる
  • 累進配当銘柄ではあるが、すでに目標配当性向に達している上、事業リスクが高い。安定した高配当を狙う人は他の銘柄も見るか、三菱商事の比重を一定程度に抑えた方が良い。

日本株のビジネス・株式の分析の一覧はこちらです。

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ゼロから始める株式投資の基本 – 4つの投資戦略

全世界の株式市場が最高値を更新する中、株式市場にどのような戦略で投資をするべきか、を考えている人も多いかと思います。

これから投資を始める、または投資を始めたばかりの人、特に50歳未満の資産形成期の方を対象に、長期の株式投資をする上での4つの戦略について、説明していきます。今回は長いため、まとめからです。

まとめ

  • 株式投資の方法は大きく分けると4種類。
  • 「インデックス投資」は日経平均やS&P500などの市場をまとめた指標に連動する銘柄に継続的に投資を行う投資法。基本的な投資方法であり、ドルコスト平均法を用いて、定期的に定額を長期投資するのが初めての人には良い。特にリタイアまで長い時間のある若い人向け。
  • 「インデックスを用いたオールウェザー投資」はインデックスに債権や商品を組み込んで、リスクを減らし、どんな経済状況でも一定のリターンが確保できるようにする投資法。景気拡大期ではインデックス投資よりもリターンが小さくなるが、景気後退期には株式のみへの投資よりもリターンが高くなる。ETFを用いることで簡単に組むことができ、景気後退の可能性を意識するならば良い方法。また、資産下落リスクが低くなるため、リタイアが近い人にも良い。
  • 「高配当の個別株投資」は株式から得られる配当のリターンを最大化させる投資法。配当が毎年増えていくため、投資へのモチベーションを高めやすいという利点がある。ただし、配当が持続可能か、成長していくか、を分析するスキルが必要。また、高配当株は成熟市場にある企業のことが多く、平均的なリターンは成長企業を含むインデックス投資に比較して劣っていることに注意。
  • 「市場を上回ることを目指す個別株投資」、は個別の銘柄を分析して選択し、市場平均を上回るリターンを目指す投資法。割安株、成長株、マクロ経済に注目、など銘柄の選び方は多数ある。インデックス投資以上の成果を出すのは高い分析スキルか幸運が要求され、実は結構難しい。

投資で資産を増やすために

投資のリターンは下記の2つ、キャピタルゲイン(capital gain)とインカムゲイン(income gain)に分解できます。

投資のリターン = キャピタルゲイン + インカムゲイン

キャピタルゲインは、資産の売買によって生じる収益です。例えば、株を100円で買って、120円で売れば20円儲かります(日本株の売買の場合、税金を考慮すると16円になります)。この差額の利益がキャピタルゲインになります。

インカムゲインは配当や利子などで得られる収益です。例えば、1株100円で、毎年1株につき5円の配当を出す株を保有していれば、毎年5円(税金を考慮すると4円)の収入が得られます。この配当がインカムゲインとなります。

これから説明する4つの手法は

  • インデックス投資 → キャピタルゲイン重視
  • オールウェザー投資 → 2つのバランス型
  • 高配当個別株投資 → インカムゲイン重視
  • 市場以上の利益を追求する個別株投資 → キャピタルゲイン重視

インデックスを積み上げる投資戦略(ドルコスト平均法)

キャピタルゲインに重点を置き、初めて投資を始める方におすすめな手法として、インデックスファンドを定期的に一定額ずつ購入していくドルコスト平均法があります。

インデックスファンドとは

インデックスとは、複数の株式や債権をまとめた指標のことで、インデックスファンドとはこの指標に連動することを目指した金融商品です。ここでは株式を例に説明します。

例えば、ニュースで良く聞く日経平均(日経225)とは、日本を代表する225社の株価の加重平均です(トヨタ、ドコモ、ソニーなどが含まれています)。

インデックスを購入する大きなメリットの一つは、個別企業を分析する必要がなく、経済成長の恩恵を受けやすいことです。

一つの企業の株価は、大きく変動することがあります。

例えば、ソフトバンクグループの2019年の株価は、ジェットコースターのように上がって、下がって、です。1月に3,600円から始まり、6,000円近くまで上がり、現在は4,400円程度で推移しています。最低価格と最高価格の差は50%以上になります。

ソフトバンクグループ2019年株価推移

一方、ソフトバンクグループが含まれている日経平均も株価の変動はしていますが、19,000円から24,000円と最低価格と最高価格の幅は20%程度です。

ソフトバンクグループのように市場に比べて変動率が高い株を「ベータ」が高い、とも表現します。特に投資を始めた時には個別株の分析のハードルが高く、かつベータが高い人気のある株を選びがちなので、まずは市場全体のインデックスから始めるといいと思います。

ドルコスト平均法の例

次に、買うインデックスとタイミングです。米国株の代表的なインデックスであるS&P500の過去30年の価格推移を見てみましょう。

2000年、2008年にショックがありましたが、長期的に見ると綺麗な右肩上がりです。10年前の2009年12月に$1,100であった価格が順調に成長し、現在では3倍近い$3,170まで増加しています。

S&Pの株価も変動しています。例えば、2008年8月には$1,300であった株価は10月には27%減の$950近くまで落ちていますし、2018年9月で$2,900あった株価は12月に$2500近くまで約15%減少しました。

いつ、どこまで株価が上がるかを予想するのは困難ですが、一定額を定期的に購入する、と決めることで、この変動する相場の中で高値づかみする可能性と、相場の上昇を逃す機会損失の可能性を減らすことができます。

言い方をかえれば、買うタイミングを分散させることで、リスクを減らしています。

この手法は、「長期的に価値が増加すると考えられる資産」に投資をしてくのに適しています。

どの資産を選ぶのか

どの資産を選ぶのか、が1点目のポイントです。1926年以降、平均して約10%のリターンを得ている、前述の米国のS&P500に連動する上場投資信託が選択肢の一つです。

S&P500に連動する上場信託についてはこちら→S&P500連動ETF (SPY/IVV/VOO)はいつ買えば良いか

逆に、日本の日経225などは過去のパフォーマンスを見る限り、あまりお勧めできません。2016年以降のパフォーマンスは良いですが、過去20年でのリターンは米国株に長期投資するよりもはるかに劣ります。

今後の成長を見込んで中国株、ベトナム株などの新興国のインデックスを買うことも選択肢としてありますが、これらの市場は米国市場ほど洗練されていない(会計情報が信頼できるか、社会が安定しているか、など)ことに注意が必要です。

不況時にも継続して定期的に追加投資をしていくことによって、投資対象の資産が長期的に高値となり、報われるような戦略です。

注意点

S&P500連動のインデックスを積み立てるのは過去においては効果的な戦略でした。今後も継続して積み立てる前提は、「今後も米国企業が競争力を持ち続けて世界経済成長の恩恵を受け続ける」です。

米国は人口、GDPともに増加しており、特にITの分野で世界でシェアを拡大している企業が多いので、現在を見る限り上の前提は成り立つ可能性が高いと思いますが、前提が成り立っているかは時折見直した方が良いかと思います。

また、もし株式のインデックスのみに投資をする場合、数年の単位では暴落が発生して、資産がマイナスになる可能性があります。

そのため、あと数年で引退で資産を出来るだけ保ちたい、と考えている人にとっては、株式一本打法はややリスクが高いです。

投資へのリスクを減らしたい人は、次の章で説明する、インデックスを利用したオールウェザーポートフォリオの方を好むかもしれません。

「インデックス投資法」を実践している人の例

ブログを書かれている方ですと、「バンガードS&P500ETF(VOO)に投資するりんりのブログ」のりんりさんがこの投資法を実施して、VOOを積み立てていますので、参考になるかもしれません。

インデックスを用いたオールウェザー投資

前の章では株式を例に説明しました。実は株式は証券口座で取引ができる資産の1つで、他にも投資が可能な資産が複数あります、それぞれの資産は、どのような時に高くなるかが異なるため、複数の資産のタイプを組み合わせることで、より資産の価格変動リスクを減らすことができます。

ここではBridgewater のRay Dario(世界的に有名なファンドマネジャーです)がコンセプトの発明に携わった、「オールウェザーポートフォリオ」についてざっくり説明します。

ざっくり説明すると、

株式→企業の1株あたりの利益が高く、市場がこの企業は成長すると期待すればするほど価格が上がる。景気拡大局面に上がり、後退局面に下がる。

債権→各国の中央銀行が定める金利が高ければ高いほど価格が高くなり、金利が低ければ低いほど価格は高くなる。借りての信用度が高ければ高いほど価格は高くなり、低ければ低くなる。

コモディティ(金・小麦などの商品)→インフレが起きれば起きるほど高くなるし、デフレになれば安くなる。

景気は循環します。景気が拡大している時には株式が有利で、景気が後退している時には中央銀行が景気対策のために金利を下げ、債権価格が上がると考えられ、債権が有利です。

インフレーション率が高くなれば(物価が上がれば)、商品の価格が上がるため、コモディティと物価連動国債が有利です。

逆にデフレの状況であれば、同じ額で買えるものが増えるため、国債が有利になります。

From Bridgewater All Weather Strategy White Paper

これらの各資産の特性から、経済がどのような状況であっても一定のリスクを確保する目的で作られたのが下記のポートフォリオになります。

All Weather Portfolio

株式 (VOO)は30%、長期国債 (TLT) が40%、中期国債 (IEI)が15%、金(GLD)が7.5%、商品 (GSG)が7.5%の構成になっています。それぞれ()内の銘柄が米国市場でのそれぞれのETFに対応しています。

不況となっても債権の値上がりで株式の下落がカバーされることから、ポートフォリオ全体の収益は安定しています。一方で、景気が回復・拡大している局面では、株式の割合が低いためにリターンはインデックス投資よりも低くなります。

年間5-10%でリスクを抑えながら着実に増やしていきたい、または数年以内に引退を考えており資産をあまり減らしたくない景気後退局面に備えたい、という人に向いているポートフォリオです。

高配当株を積み立てる投資方法

インカムゲインに重点を置く手法として、株式から得られる配当を最大化する投資方法もあります。

代表的な上場投資信託の銘柄として、SPYD (S&P500のうち、高配当の株を中心に集めた上場投資信託)を見てみます。

SYPD (S&P 500 High Dividend ETF)

現在の配当利回りは3.12%です。これは、つまりSPYDを現在の$39で100株購入すると、$3,900(約43万円)を投資して、$120 (1万3000円)が年間の配当になります。

配当には税金が徴収されるため(米国株の場合、ADRなどの場合をのぞいて原則、米国で10%、日本で20%の計30%課税)、実際の手取りは70%の$84 (約9000円) となります。

個別の銘柄で、アルトリア(アメリカの大手タバコ会社です)をみてみましょう。

こちらは株価$50で、配当利回りが6.7%です。つまり、100株投資($5,000 – 55万円)を投資をすると、$335 (3万7000円)、税引き後は$240 (2万5000円)が配当としてもらえることになります。

高配当株を中心に投資をするメリット

インカムゲインを重視する一つのメリットは、成果が見えやすいことです。下記は、「三菱サラリーマン」さんのブログより引用している、三菱サラリーマンの配当金の推移になります。

三菱サラリーマンが株式投資でセミリタイア目指してみたより

2016年から2019年にかけて、毎年、毎月の配当金が増えているのがわかります。このように目に見える形で収入が毎月入ってきますので、投資をするモチベーションが続きやすく、それが節約志向に繋がるなど、資産形成にプラスの影響をもたらすと考えられます。

また、銘柄の選択によっては、高配当を維持できる銘柄の場合、配当利回りが株価の下支えになってくれ、景気後退時にも株価下落が限定的になる可能性があります。また、株価が下落したとしても、配当が継続的に入ってきて、長期的には株価は戻ると考えるのであれば、気持ちの面でもだいぶ楽でしょう。

高配当株中心に投資をするデメリット

配当に利益の大部分を回している高配当の企業は、「本業に投資をするよりも、株主にお金を返した方が良い」と考えている企業のため、成熟産業の低成長の株が多くなります(金融、エネルギーの大企業など)

実際に、S&P500全体に投資をするVOO (VanguardのS&P 500に連動するETF)とVYM (VanguardのS&P 500の高配当株に主に投資をするETF)を比較すると、VOOの方が1年の利回りを除き、パフォーマンスが良くなっています。

askfinny.comより

また、個別株の投資をするには分析の能力が必要ですが、高配当を目的とする場合には、その企業の配当が持続可能か、今後も伸びていくかどうか、の見極めが特に肝要です。

例えば、エネルギー大手のエクソンモービルなども5%を超える配当率で配当だけでいえば魅力的なのですが、石油価格の低迷とESG投資の流れで、業績と株価が低迷しています。

減配(配当金が減ること)になると当然利回りが減るため、今後も同じ水準の配当を支払い続けることができるか、の見極めが必要になります。この分析にはビジネスモデル、財務、キャッシュフローを分析できるスキルが要求されるため、ややハードルが高いです。

特に、業績がかなり悪化している企業(日産自動車など)は株価が下落し、見かけの配当利回りは高く見えます。配当目当てで株を買ったは良いものの、配当は減らされ、さらに株価も落ちるというダブルパンチ、を食らう可能性もありますので、見かけの配当が高すぎる企業の株には特に注意が必要です。

この投資法を実践している人の例

ブログを書かれている方ですと、上述の三菱サラリーマンさんに加え、「バフェット太郎の秘密のポートフォリオ」のバフェット太郎さん、「ゆーたん@東大卒のセミリタイア物語♪」のゆーたんさんなどこの投資法を実施していますので、参考になるかもしれません。

市場以上の利益を追求する投資法

個別株を分析し、市場平均以上のリターンを狙う投資法です。

こちらは割安株に投資する方法や成長株に投資する方法、マクロ経済に注目する方法など無数に方法があります。

産業・個別企業を分析し、キャピタルゲイン・インカムゲインを市場平均以上に得られそうな企業を見つけ、個別の企業に投資する点は共通しています。

不況時の対策としては、ヘルスケアや食品など、よりディフェンシブ(不況耐性がある)銘柄を選ぶことにより、下落リスクを少なくすることができます。

一例として、僕が行なった分析は以下のようになります。

インフラファンド(太陽光発電)は債権として優秀な投資先

ソフトバンクグループの株価はどうしてこんなに安いのか?

【株式分析】J&J (JNJ-ジョンソン・エンド・ジョンソン)配当貴族の有名銘柄

個別銘柄に投資をするのは楽しいのですが、市場参加者の半数以上はインデックスに負けているのも事実です。チンギスハンさんのブログによれば、15年間でインデックスに勝てたファンドマネジャー(投資を仕事としており、いわば投資のプロ)はわずか10人に1人だったそうです。

そのため、

  • 個別株を分析して投資することが楽しいと思う
  • 市場平均を上回れる銘柄を選ぶことができる、または選べるまで学べるという自信がある
  • 短期・中期のトレードで儲けたい
  • 株主優待が欲しい
  • 特に好き、もしくは応援したい企業がある

などの理由がなければ、インデックス投資またはオールウェザー投資から始めるのが時間との費用対効果を考えると良いかもしれません。

この投資法を実践している人の例

ほとんどの投資家が個別株を購入して市場以上のリターンをあげようとしており、このカテゴリに入ります(意識してかどうかはわかりませんが、個別株をメインで投資する場合は、市場に勝とうとするこのカテゴリです)

米国株でしたら、もみあげさんの「もみあげの米国株投資」、「チンギスハンのブログ」、のチンギスハンさんが個別株分析を多く行なっているので参考になるかもしれません。米国株全般でしたらたばぞうさんのブログもおすすめです。

まとめ(再掲)

  • 株式投資の方法は大きく分けると4種類。
  • 「インデックス投資」は日経平均やS&P500などの市場をまとめた指標に連動する銘柄に継続的に投資を行う投資法。基本的な投資方法であり、ドルコスト平均法を用いて、定期的に定額を長期投資するのが初めての人には良い。特にリタイアまで長い時間のある若い人向け。
  • 「インデックスを用いたオールウェザー投資」はインデックスに債権や商品を組み込んで、リスクを減らし、どんな経済状況でも一定のリターンが確保できるようにする投資法。景気拡大期ではインデックス投資よりもリターンが小さくなるが、景気後退期には株式のみへの投資よりもリターンが高くなる。ETFを用いることで簡単に組むことができ、景気後退の可能性を意識するならば良い方法。また、資産下落リスクが低くなるため、リタイアが近い人にも良い。
  • 「高配当の個別株投資」は株式から得られる配当のリターンを最大化させる投資法。配当が毎年増えていくため、投資へのモチベーションを高めやすいという利点がある。ただし、配当が持続可能か、成長していくか、を分析するスキルが必要。また、高配当株は成熟市場にある企業のことが多く、平均的なリターンは成長企業を含むインデックス投資に比較して劣っていることに注意。
  • 「市場を上回ることを目指す個別株投資」、は個別の銘柄を分析して選択し、市場平均を上回るリターンを目指す投資法。割安株、成長株、マクロ経済に注目、など銘柄の選び方は多数ある。インデックス投資以上の成果を出すのは高い分析スキルか幸運が要求され、実は結構難しい。

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毎年10万円損していませんか?- ビジネスマンが今日からできる節税・税金対策

ボーナスの季節ですね。給与明細をみて、税金けっこう取られているな、と思いませんか?

その税金、少しの工夫で10万円近く減らせるかもしれません。しかも、国が推奨している方法で。

今回は具体的な例をもとに、いくら節税できるかを説明していきたいと思います。

具体例:ビジネスマン 野原さん(仮名)の場合

野原ひろしさん(仮名)35歳は最近、長女が生まれたばかりの家族4人のビジネスマン。子供は5歳と0歳の子供と2人で、妻と2人の子供と埼玉県春日部市に住んでいます。

近くの認可保育園に共働きでないと入れないと言われたため、パートナーは二人の子供の育児をするために専業主婦です。

野原家の収入は下記のようになります。

給与収入480万円
配当収入20万円
児童手当30万円
合計530万円

児童手当は3歳未満までは月額15,000円、3歳から中学校卒業までは月額10,000円なので、合計で年間30万円となります。児童手当は非課税なので、そのまま受け取れます。

児童手当 (長男)120,000円
児童手当 (長女)180,000円
児童手当合計300,000円

野原さんは、投資をしており、上場株式からの配当で収入を得ています。上場株式は特定口座で取引をしており、税金は源泉徴収され、20.315%を税金として払っています。配当が20万円だったため、40,630円が引かれていました。

給与所得については、下記のような所得への控除が行われ、課税される所得が求められます。

給与所得4,800,000
給与所得控除1,500,000
基礎控除380,000
社会保険料控除702,280
配偶者控除380,000
課税所得1,837,720

課税所得は195万円まで5%のため、所得税は復興所得税込みで93,816円 (184万円 x 5%)になります。住民税も同様に求めます。配当所得への課税と合わせて、この家庭が支払う税金は下記のようになります。

社会保険料(健康保険、年金、雇用保険)702,780円
所得税93,816円
住民税193,600円
配当所得への課税40,630円
合計1,030,326円

※社会保険料は社会保険料の計算シミュレーターより。住民税は住民税の自動計算サイトより。

合計で、103万円! つまり、給与と配当で稼いだ額の約20%は税金として徴収されていることになります。つまり、手取りは児童手当を除けば約400万円になります。

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)を用いた節税

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、個人の老後に向けた資産形成を助けるための制度です。

毎月にいくら積み立てるかを決め、積み立てたお金をどう運用するかを選び、投資していきます。積み立てたお金は60歳以降に、退職金または年金として受け取ることができます。

iDeCoは企業型の拠出年金に加盟していない場合、月々2.3万円(年間27.6万円)まで積み立てることができます。

iDeCoの大きなメリットの一つは、積み立てたお金は税金の対象となる所得から減らすことができ、支払う税金を減らせることです。

野原さんの会社は企業の確定拠出年金がないため、野原さんは毎月2.3万円(年27万円)の全額まで拠出できます。

iDeCoで拠出する金額(年)276,000円
所得税節税分13,800円
住民税節税分27,600円
合計節税分41,400円

iDeCoでお金を積み立てることで、支払う税金を毎年41,400円も減らすことができます。これがiDeCoを用いるメリットの1つ目です。

しかもiDeCoで運用している投資は非課税なので、配当にかかる20.315%の税金もかかりません。再投資していくことで、手取りから同じ額を運用するよりも効率よく資産を増やしていくこともできます。これがiDeCoを用いるメリットの2つ目です。

NISA (少額投資非課税制度)を用いた節税

NISA (少額投資非課税制度)はiDeCoと同じく、個人の資産形成を促すための制度です。

NISAは年120万円までの「NISA」と年40万円までで長年積み立てる「つみたてNISA」の2つを選べますが、野原さんのパートナーが、「二人の子供のために、今のうちからできるだけ節税したい」とのことですので、通常のNISAを使います。

NISAでは新しくNISA用の口座を設立して、投資することになります。今回は、野原さんは年初に120万円分のJT(日本たばこ)の株を購入して、配当利回りが6% (72,000円)だったと仮定します。

投資額1,200,000円
JT株(NISA口座)の配当金72,000円
本来であれば課税された金額14,600円
NISA口座への課税0円
節税できた分14,600円

すると、配当金100万円のうち、72,000円分はNISAのおかげで非課税となるので、本来ならばそれにかかる14,600円がかからず、節税となります。

NISAは毎年120万円分、最大で600万円分まで追加できます。

5年間NISAに配当6%の株(例えばJTやインフラファンドなど)を購入し続ければ、5年後には年間73,000円の節税となります(14,600円 x 5年)

インフラファンドについてはこちら → インフラファンド(太陽光発電)は債権として優秀な投資先

ふるさと納税を用いた節税

ふるさと納税とは、寄付という形で、所得税・住民税の一部の納税先を変えることができる仕組みです。

自治体によっては返礼品という形で寄付された額に応じて「お返し」をしてくれるところがあり、自治体によっては寄付された額の半分以上の価値ある商品を返してくれます。

ふるさと納税をする場合には、2,000円は自己負担しなければなりませんが、手数料みたいなものです。

ふるさと納税として所得税・住民税から直接引ける額に上限はありますが、野原さんの例の場合ですと、67,500円までは自己負担2,000円のみですみます。

ふるさと納税額67,500円
返礼品のお返し割合(例)50%
返礼品の価値33,750円
自己負担2,000円
返礼品での実質節税31,750円

※納税額はふるさとチョイス「ふるさと納税シミュレーション」より

ふるさと納税を用いた節税は現金では返ってきませんが、それだけの価値があるモノ・サービスを手に入れることができます。

野原さんの例では返礼品の選び方にもよりますが、33,750円分の価値ある商品(例えば佐賀牛、新潟コシヒカリ、牛タン、など)を2,000円の出費で手に入れることができるので、大きな節税効果があります。

こちらでの節税分は、31,750円になります。

商品は、ふるさとチョイスなどのサイトを見るとカタログ式で選べます。

iDeCo、NISA、ふるさと納税の節税効果

さて、それではいくら節税ができたでしょうか。

iDeCo41,400
NISA14,600
ふるさと納税31,750
合計87,750円

野原さんの税金を年8万7750円減らすことができました。

項目金額所得への割合
所得500万円
節税前の税金103万円20.6%
節税9万円1.8%
節税後の税金94万円18.8%

税率でいうと、所得に対する税金の割合を20.6%から18.8%まで落とすことができました(児童手当の分の30万円は非課税なのでそのまま手取りになります)。

税金を抑える稼ぎ方のコツ

節税という観点では、稼ぎ方を変えることでさらに税金を減らすことができます。

所得税・住民税は累進課税ですので、もし野原さんが100万円追加でもらえたとすると、給与でもらったのか、それとも配当での所得なのかで税金が異なります。

具体的には、100万円を追加でもらえると、野原さんは課税対象となる所得(様々な控除を除いた後の所得)が所得税5%の上限となる195万円を超えます。

195万円分を超えた部分については、下記のように配当所得と同等の税金がかかります(復興所得税は簡略化のため省略)

所得の種類税率税額手取り
給与所得20%20万円80万円
配当所得20%20万円80万円

さらに稼ぎ、課税所得が330万円を超えてくると所得税と住民税で30%かかってくるので、配当所得で稼いだ方が、同じ10万円でも10%、つまり1万円の違いが出てきます。

10万円稼いで、1万円の違いは大きいですよね。配当所得に対する税率は一定ですので、特に高い給与を稼いでいる人は給与所得を増やすよりも、配当や株式の譲渡所得を増やす方が、税金的にはより効率的に資産を増やすことができます。

例えば、給与所得800万円・配当所得200万円の人と、給与所得900万円・配当所得100万円の人ですと、前者の方が税金で10万円支払いが少ないです

給与所得が高ければ、それだけ厚生年金に支払う金額が増え、将来もらえる年金が増えるというメリットもありますが、手取りが増えた方がメリットが多い人が多いでしょう。

給与所得が一定以上の人にとっては、配当・譲渡所得を増やす方が効率が良くなります。

まとめ

  • 節税をするかしないかで、年間10万円以上の違いが出ることもあります。
  • iDeCo(イデコ-個人型確定拠出年金)は所得税・住民税を減らすのみならず、非課税で投資ができて資産をより効率的に増やすことができます。
  • NISA(少額投資非課税制度)は非課税での投資ができるので高配当株に向いており、毎年続けることでより大きな節税額になります。
  • ふるさと納税は税金の分、商品がもらえるサービスのような制度です。うまく使えば支払う住民税に応じた商品を受け取ることができます。
  • 給与所得は税金という点で見れば、年収が一定以上高くなると税金で30%以上取られ、効率が悪い稼ぎ方となります。配当や株式譲渡による所得は申告分離課税にすれば税金が20.315%で一定となるので、手取りを増やしていく方法としておすすめです。

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国民年金を支払うのは結局得なの、損なの?

将来もらえないのではないか、払うだけ損でないか、と若者世代に不信感の強い国民年金。

国民年金の支払いは義務ではありますが、結局得なのか、損なのか、は気になるところです。今回はあなたが40歳だとして、これから国民年金を25年間支払い続けた時に、いったいどれくらい得になるのかを一緒に見ていきましょう。

国民年金に25年間でいくら払うのか

もしあなたが40歳で、会社員でも公務員でもないとします。すると、あなたは国民年金に加入する義務があり、自ら支払いを行う必要があります。支払わないでいると、最悪国が強制徴収しにきます。

では、国民年金の保険料はいくら支払わなければならないのでしょうか。

国民年金保険料の支払い

開始年次 (年)2020
開始年次の保険料 (月)¥16,410
保険料(年)¥196,920
名目賃金変動率0%
支払い年数 (年)25
支払い保険料 (円)¥4,923,000

参考:日本年金機構 「国民年金保険料の額は、どのようにして決まるのか

2019年の国民年金の保険料は月間16,410円、年間では196,920円です。

保険料は簡単にいえば、賃金が上がれば上がる仕組みになっています。ただ、過去15年間で名目賃金はむしろ微減していますので、ここでは名目賃金変動率を将来25年にわたって0%と仮定します。すると、

196,920円/年 x 25年 = 4,923,000円

つまり、約500万円を支払うことになります。

社会保険料控除の効果

国民年金保険料の支払いは、「社会保険料控除」、として所得から控除できます。ざっくり言うと、国民年金保険料を支払うことにより、所得税・住民税が安くなります。

所得税(国税庁「所得税の税率」より)

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円を超え 330万円以下10%97,500円
330万円を超え 695万円以下20%427,500円
695万円を超え 900万円以下23%636,000円
900万円を超え 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

住民税は均等割と所得割があるのですが、ざっくり10%です。

どれくらい所得税・住民税が安くなるかは所得の高さと控除の額によります。国税庁の事業所得者の統計より、自営業の平均年収が約380万円ということから、

  • 所得税で10%、住民税で10% (課税される所得が195万円から330万円)
  • 国民年金保険料を満額 196,920円/年支払う

という条件で節税の効果を計算すると

196,920 円/年 x (10% + 10%) = 39,384 円/年

つまり、この前提条件ですと、国民年金を支払うことには年約4万円の節税効果があります。20万円国民年金を支払っていますが、節税効果を考えると、実質16万円しか支払っていないことになります。

別の言い方をすると、国民年金を支払わないと、将来の年金が減額される上に、年4万円近く税金を多く取られる、ということです(所得がより高ければより多くなります)。

この節税効果を考えると、実質的な支払い額は25年間で、

(196,920円- 39,384円) x 25年 = 3,938,400円

つまり、1年間の実質的な支払額は毎年16万円、25年間で400万円です。

国民年金からいくらもらえるのか

国民年金は、2019年12月現在、40年間(480ヵ月)支払うと満額の780,100円をもらえる仕組みになっています。

将来受け取れる国民年金は

  • 物価変動率
  • 名目手取り賃金変動率
  • マクロ経済スライドによるスライド調整分

という要因で増減します。ただし、日本の物価は過去20年ほぼ変わっていないことと、前述のように日本の名目手取り賃金はあまり変化していないので、単純化のために、これらの変動率と調整分が今後25年間で0%をキープすると仮定します。

消費者物価指数半世紀の推移とその課題」 より

国民年金は納めた月の分だけ増える仕組みになっているため、25年間 (300ヵ月)納めた場合は、

780,1000円 x 25年間 ÷ 40年間= 487,563 円/年 (40,630円/月)

つまり、25年間、毎月16,410円を納めると、25年後(40歳から考えると、65歳になった時)には毎月約41,000円もらえる計算になります。

ここで、2019年時点での日本人の平均寿命が男性で81歳、女性で87歳ですから、87歳ちょうどまで生きると仮定します。つまり、年金を受け取れる期間は22年間です。

国民年金満額(40年)¥780,100
物価変動率0%
名目賃金変動率0%
マクロ経済スライド調整分0%
支払い年数による年金増額¥487,563
年金受取期間22
年金受取額¥10,726,375

すると、22年間で受け取れる金額は10,726,375円、つまり約1070万円になります(税金は公的控除内で支払わないと仮定)。

実質400万円を支払って、1,070万円もらえるならば、良い投資だと思いますか?

国民年金と同じだけもらうための利回り

国民年金保険料と同じ額を運用するといくらになるのか

25年間、毎年16万円で計400万円を投資するとき、利回りによって25年後にいくらになっているかは大きく異なります。

利回り2045年の資産額
1%4,449,321
3%5,743,647
4.4%6,925,690
5%7,518,736
7%9,964,000

利回り1%で運用すれば、投資した400万円は2045年に450万円になっています。一方、利回り7%で運用すれば、2045年には1,000万円近くまで増えています。

わずか数パーセントの差ですが、期間が長ければ長いほど、その差は大きくなります。

利回り4.4%ですと、2045年に700万円になっています

国民年金と同じだけもらうためにはいくら必要か

ここで、国民年金の話に戻ります。先ほど、国民年金を25年間支払うと、上に書いた前提のもとで、毎月4万1000円もらえ、22年間生きると仮定すると、もらえる年金額は1070万円になると説明しました。

これは、2045年時点で1070万円の価値がある、というわけではありません。なぜなら、2045年から2067年まで資産の運用ができ、その利回りを得ることができるからです。ざっくりいうと、運用する能力があればあるほど、国民年金と同額を受け取ることができるだけの資産の必要額は少なくなります。

利回り2045年に必要な資産額
1%9,720,000
3%7,950,000
4.4%6,990,000
5%6,630,000
7%5,620,000

ろうきんシミュレーションより

例えば、利回り1%で回せる場合は、2045年時点で必要な金額は972万円になりますが、利回り7%で回せる人は、必要な金額は562万円でよくなります。

利回り4.4%の場合、2045年に必要な金額は700万円になります。

つまり、マクロ経済スライドがずっと発動せず、87歳まで生きるという今回の前提のもとでは、国民年金と同じだけ受け取るために必要な利回りは4.4% になります。

その他の論点

障害年金、遺族年金

国民年金加入中に障害をおった場合には本人が障害年金を、死亡した場合は死亡した人に生計を維持されていた人が遺族年金を受け取ることができます。

特に遺族年金は子供が18歳になるまで年78万円に子供の数を加算した年金額が加わるためにかなり大きく、生命保険としての機能も果たします。

障害年金・遺族年金だけでも保険としてかなりの価値があるので(例、40歳で1,000万円の掛け捨ての生命保険に入ると月に約2,000円かかります)、障害年金・遺族年金の価値を割り引くと、利回りはさらに高くなります。

公的年金控除

公的年金は受け取る時に公的控除が使え、所得税・住民税を減らすことができ、これは利回りを高くしています。ほかの収入源、例えば配当所得でしたら約20%の税金がかかります(収入源次第では税金を0にできますし、今回のシミュレーションでは複雑になるので考慮していません)

マクロ経済スライド

マクロ経済スライドだけで1記事以上かけてしまうので今回の前提では省略しましたが、実際にはマクロ経済スライドが今後47年間のうち、ある程度の期間発動すると考えられます。発動した場合、受け取る実質的な年金が減少するため、利回りは低下します。

年金支給年齢の引き上げ

現在は年金支給は65歳からですが、今後25年のうち、年金支給年齢が引き上げになる可能性が高いです。平均的な寿命がどのくらい伸びるかにもよりますが、年金支給年齢の方が後ろ倒しになると、一般的に利回りは低下します。

国民基礎年金への国庫負担削減の可能性

現在の歳入と歳出のバランスは大きく崩れており、国は毎年社会保障を維持するために国債を発行している状態です。国民基礎年金の半分は国庫から負担されており、もし仮に「国がこれ以上借金できない」、となった場合は、国家負担の分が削減され、年金が減る可能性が有ります。そうなると、利回りは低下します。

長生きと早死に

国民年金は終身のため、長生きすればするほどもらえる額が増えて利回りはよくなりますし、早死にすればするほど損になります。つまり、健康に投資をすることが、国民年金の利回りを向上させます。

また、男性と女性は平均寿命に6歳の差がありますので、平均を見れば、女性の方が得になりやすいです。

まとめ

  • 今回のマクロ経済スライドが発動しない前提のもとでは、国民年金と同じだけ受け取るために必要な利回りは4.4%
  • 現状、4.4%の利回りを得られる金融商品はそう多くありません。日本国債の利率は0.5%以下ですし、日本株もバブルの時の株価をいまだに超えられていません。
  • これらの条件を考えると、47年 (25年 + 22年)にわたり利回り4.4%を出し続けることは、普通の日本国民には難しく、購入した方が良い商品だと思います(そもそも国民の義務なので、選択の自由はありませんが。。)
  • 国民年金は障害年金・遺族年金の保険機能は優秀で、月2,000円以上の価値があります
  • ただし、マクロ経済スライドの発動、年金支給年齢の引き上げ、国民基礎年金への国家負担削減の可能性が高いため、実際の利回りはさらに低下する可能性が高いと考えられます。
  • 長生きすると利回りがよくなります。利回りをよくしたいのであれば、健康で長生きするよう、健康に投資をしましょう。

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ソフトバンクグループ(9984)の株価はどうしてこんなに安いのか?

時価総額でトップ10に入り、株を保有している人も多いソフトバンクグループ。実は、保有株式の価値よりも大きく割引されていることで有名な銘柄です。

ソフトバンクグループの株価はどうしてこんなに安いのか、について分析していきます。

ソフトバンクグループの企業価値

ソフトバンクグループは投資会社です。

投資会社は、「他の企業に投資をし、投資をした企業の企業価値が上がれば利益が上がり、逆に下がれば損失がでる」、というビジネスです。

ソフトバンクグループは、「ソフトバンクグループの1株当たり株主価値については、11,300円ある」、と主張しています。

一方、実際の株価は12月7日時点で4,257円、とソフトバンクグループが主張する40%以下です。

ソフトバンクグループホームページより(2019年12月7日)

株式市場が合理的であるならば、60%も割安な株が長い間放置されることは考えにくいです。いったい、どうしてソフトバンクグループの株はこんなに割安なのでしょうか?

その秘密は、保有している株式(事業)を個別に見ると見えてきます

ソフトバンクグループホームページより(2019年12月7日)

アリババ

アリババは中国で最も大きなECサイトで、Alipayという中国で広く普及している決済手段でもよく知られています。ソフトバンクは13.3兆円分のアリババ株を保有しています。

ソフトバンクグループ決算説明資料より

これをソフトバンクグループの発行済株式で割り、一株あたりになおすと、6,600円になります。

株を売却した時には、売却額 – 取得額、の売却益に課税されます。ソフトバンクグループにおける、アリババの簿価は2兆3659億円です。

ソフトバンク2020年3月期 第二四半期決算説明資料より

節税のスキームにもよりますが、ここで仮に売却益への法人税の実効税率が30%と仮定すると

(13.3兆円 – 2.4兆円 ) x 30% = 3.3兆円

つまり13.3兆円のうち、3.3兆円(25%近く)は税金でもってかれる計算になります。

売却時の税金も含めて、一株あたりの価値を考えると

6,600円 x (100% – 25%) = 4,950 円/株

現実的にはソフトバンクグループがアリババ株全て売ります、といったら株が暴落するために、法人税のみの30%割引はかなり楽観的な見積もりですが、ソフトバンクグループは節税策に優れているため、売却による株価下落と法人税の支払いを含めても、30%程度の割引で済む可能性もあります。

この30%の割引前提でも、4,950円と現状の株価4,300円より高いです。

ソフトバンク(株)(ヤフー含む)

何度かグループの資本構成を変えた結果、現在はソフトバンクグループの子会社としてソフトバンク(株)が、そしてソフトバンク(株)の下にヤフー(Zホールディングス)があるという、3層構造になっています。

ソフトバンクグループはソフトバンク(株)の66.77%の株式を保有しており、ソフトバンクグループは時価総額7兆円の会社なので、ソフトバンクグループは4.8兆円分の株式をもっていることになります。

こちらも1株あたりになおすと2,200円です。簿価の情報がないので全額利益参入でき、アリババの時と同様に売却時の税金30%が割り引かれると考えると、1株あたりの価値は

2,200 x (100% – 30%) = 1,550 円

アリババ+ソフトバンク(ヤフー含む)で

4,950 円 + 1,550 円 = 6,500円/株

この計算からは、他の資産がマイナスでない限り、少なくとも6,500円/株の価値はあるという計算になります。

ソフトバンクの現在の株価は4,250円とかなり差があります。

ここまでが孝行息子たちの話で、ここから問題を抱えた子供達の話です。

スプリント

アメリカの大手通信会社スプリントは、ソフトバンクが2013年に2兆円で買収しました。

買収した当時のスプリントは全米の通信会社でVerizon、AT&Tに次ぐ3位でしたが、現在では当時の4番手のTモバイルに抜かされ、4番手です。

スプリントはTモバイルに2兆9000億円で売却予定ですが、規制当局と連邦・州レベルの承認を得る必要があります。現在、連邦レベルの承認は得られていますが、州レベルでの司法によるストップが複数の州でかかっているため、売却が成立するかどうかは不透明です。

スプリントの株価推移

スプリントの12月7日現在の企業価値は2.4兆円で、ソフトバンクグループは84%を保有しています。つまり、保有している株式の価値は2兆円です。

これは一株あたりになおすと、950円/株、になります。

しかし、数字上はスプリントはソフトバンクグループの株式を増やす資産に見えますが、実際のところ、キャッシュを奪っていくお荷物です。

米国スプリントはユーザー数が減少傾向にあり、2四半期連続で赤字です。負債の比率が高いことから、2019年は毎期、9000億円弱の売上、500億円以下の営業利益に対して、600億円以上の利子の支払いを行なっています。

Sprintの決算プレスリリースより

次世代の通信インフラである5Gのための巨額の投資をしなければならない中、現在でさえ負債の負担が重く赤字です(2019年9月時点でも4兆8000億円の負債)。

巨額の投資をしないとさらにユーザーを失っていき赤字が拡大する。投資をしたとしても、よりシェアの高いトップ2社が積極的に投資を行なっているので優位性には繋がらず、シェア獲得には繋がりにくい。端的に言って、単独ではかなり詰んでいる状況です。

スプリントは親会社の価値を毀損させる、撤退したいビジネスです。

ソフトバンクグループ連結有利子負債(第二四半期決算資料より)

確かにスプリントは株式自体の価値はあるのですが、火中の栗を拾うような買収相手はTモバイルくらいしか見当たりません。そのため、Tモバイルへの合併が承認されなければ、投資を必要としながらも、先が見えないまま赤字を垂れ流すビジネスとなり、むしろソフトバンクグループ全体のお荷物となります。

以上の理由から、合併の承認がおりるまで、株の価値がほぼない、むしろ価値を毀損する資産である、と市場から見なされている可能性があります。

ARM(アーム)

ソフトバンクは2016年にARM(半導体の開発・設計し、その知的財産を販売するビジネス)を3.3兆円(240億ポンド)で買収しました。

3.3兆円の価値があるのかどうかを見ていきます。

ARMのビジネスはシンプルです。半導体となる基盤となる技術を開発し、その技術を販売しています。具体的な収入源としては、半導体企業にテクノロジーを販売する一回払いのライセンス料と、チップの出荷数に応じたロイヤルティーフィーがあります。

ARMロードショー資料より

2019年の売上を見ると、ロイヤルティーフィーが売上の60%でライセンス料が40%です。

ライセンス料は各会計期間に契約が取れるかどうかによるために比較的変動が大きいですが、ロイヤルティーフィーは既に結ばれた契約の分に上乗せされるため、チップが生産される限り増えていき、比較的安定しています。

今後、新商品が発売された時にはライセンス料が増加すると考えられます。

ARMロードショー資料より

このビジネス、急成長していると考えるかもしれませんが、実は2019年の直近6ヶ月の売上高は885億円と前年同期比2.8%の減少です。

加えて、同期間の「利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前利益」(EBITDA)が37億円で、これらを考慮した同期間のセグメント利益は270億円の赤字です。

ARMロードショー資料より

赤字は急成長しているのであれば悪いことではありませんが、マイナス成長で、かつ赤字というのは赤信号です。

ARMのビジネスに近い業態としては、通信に用いられる半導体を開発・設計して知財を販売しているQualcommがあります。こちらは時価総額10兆円を越え、利益率も10%を超える優良上場企業であり、12月7日時点での、企業価値をEBITDAを割ったものは10.45です。

Qualcommを参考に、ARMの企業価値を算定してみます(類似企業比較法。企業価値を算出するのによく使われる手法の一つです。本来はより売上規模が近い企業を比較するのが望ましいですが、ビジネスモデルが近く、特定分野のシェアが高い半導体開発・設計企業でARMに近い企業が他に思い浮かばなかったため、Qualcommを用いています)。

2018年のARMのEBITDAが約300億円であったことから、Qualcommの企業価値 ÷ EBITDAの10.45をかけると

300億円 x 10.45 = 3145億円

つまり、3.3兆円で購入したARMの価値は、類似企業比較法によると3.000億円超の価値しかないことになります。

ソフトバンクグループは買収時に企業価値をDCF法(割引キャッシュフロー法)で算出したのだと思いますが、過去3年間の売上高とEBITDAの伸びを考慮すると、買収時の前提は成り立っておらず、普通に考えれば減損の必要があるかと思います。

現在、ソフトバンクの財務諸表にはアーム分だけで2.5兆円ののれん(買収の際に支払ったプレミアム)と5,000億円の無形資産があります。

ソフトバンク2020年3月期決算説明資料より

ソフトバンクグループは会計基準としてIFRSを利用しており、減損するべきかどうかの基準としてDCF法を用いています。

しかし、先に述べたように、過去3年で売上高が18%弱しか伸びておらず、EBITDAについては67%減の状態なので、よほど将来の前提を楽観的に見積もらない限り、減損すべきと考えられます。

節税策に長けているソフトバンクグループですので、おそらくアリババの株式を売却して含み益を出す段階、もしくはビジョンファンドからの利益を計上した段階でARMを減損して、法人税支払いを減らすと予想されます。

(12月9日修正。のれんの減損については、連結上ののれんが減損となっても、将来の回復可能性を否定する要件を満たすハードルが高く、損金扱いにならない可能性が高い、というご指摘を受けたため、修正させていただきます)

まとめると、

  • ソフトバンクは3.3兆円でARMを買収した
  • 現在でも2.5兆円ののれん・5000億円の無形資産が貸借対照表にのっている
  • ARMの売上高は2018年度、1,800億円でEBITDAは300億円。売上高は3年で18%しか伸びておらず、EBITDAは67%減
  • 類似企業比較法での価値は3,000億円程度。DCF法でも前提によるが、よほど無理な前提にしない限り、1兆円の企業価値にすらならない
  • よって、ソフトバンクは2.5兆円の「のれん」は一部もしくは全てを遅かれ早かれ減損せざるをえず、損失が発表される可能性が高い
  • 3000億円の企業価値前提では、ソフトバンクグループからすると1株100円程度と無視できる価値になる

ソフトバンクビジョンファンド

ソフトバンク ビジョンファンド6月末時点

ソフトバンクはソフトバンクビジョンファンドに、3.3兆円(10兆円ファンドのうち、約1/3)出資しています。成功報酬を除けば、ビジョンファンドの利益の1/3がソフトバンクグループの利益になることになり、逆に損失が出れば損失額の1/3がソフトバンクグループの損失となります。

そのビジョンファンドですが、6月から9月にかけて、Real Estate(WeWork)、Transportation + Logistics (Uber)、Enterprise (Slack)のために、価値が大きく減少しました。

2019年9月時点でのビジョンファンド

特に投資額が大きかったUberの株価は下記のように8月から大きく下落しています。Uberには77億ドル(8400億円)を投資して約16%を取得しましたが、現状の株価、1株$28ですとほぼ投資額と同程度です。

Uberの株価

Uberの株が1$落ちると、ビジョンファンド全体で約80億円の損失が出ることになり、ソフトバンクグループからのビジョンファンドへの出資は1/3のため、ソフトバンクグループへのダメージは25億円程度となります。

WeWorkについては、$47b (5兆円超え)の評価を80%減まで減損しました。この減損により、WeWorkだけですでに$4.8b(5000億円以上)以上の損失がソフトバンクグループに出ており、WeWorkがこのままさらにうまく行かなければ、損失が拡大します。

孫さんはWeWorkの可能性を信じており、さらにソフトバンクグループからお金をだす予定です。

Slackの株価も上場後に右肩下りです。

アメリカ株式市場全体は最高値の更新をうかがうくらい好調であるにも関わらず、WeWork、Uber、Slackと大型の投資先の価値が大幅に減少する自体が続いています。

ソフトバンクはビジョンファンドの価値が10兆円以上あり、ソフトバンクグループの持分だけで3.2兆円あると主張していますが、この価格が、今後下落していくことも十分考えられます。

ソフトバンクの保有株式

現状、ソフトバンクグループはビジョンファンドの持分だけで1,500円以上あると主張していますが、WeWork、Uber、Slackと大型の投資の失敗が続いているため、10%以上は割り引いて考えた方が良いかもしれません。

例えば10%、株価が下落するとすると、それだけでソフトバンクグループの営業損益に3000億円以上の下落圧力となります。

また、ビジョンファンドは出資者の一部に一定額の支払いを毎期ごとに行うような仕組みになっているため、保有株式の株価が下落した時に、ビジョンファンドが保有株の下落と支払いのダブルパンチを受けることも注意点です。

ペイペイ (PayPay)

PayPayの決算

他の事業の規模の大きさと比べると誤差かもしれませんが、PayPay(ペイペイ)事業も収益性を低下させる原因となっています。過去6ヶ月で350億円の投資をペイペイに行なっており、こちらも今後収益性がどうなるかはわかりません。

もし仮に毎年700億円の赤字が今後数年間予定されており、収益化の目処が立っていないと投資家が判断したならば、ペイペイもソフトバンクグループの株価を下落させる原因になります。

孫さんへの信頼の低下

ソフトバンクグループは、これまでのソフトバンク・スプリントを中心とした通信会社中心のビジネスから、ビジョンファンドと呼ばれる巨大な投資ファンドを設立し、「AIなど世界を変える会社に投資して大きなリターンをもたらす投資会社に変わる」、という野望を抱いていました。

その期待値から、ビジョンファンド1号は$93 billion (10兆円)を集め、そのうち$60 billionは中東(サウジアラビアとアブダビ)から2016年に集めました。

しかし、WeWork、Uberなどのライドシェア企業やSlack (コミュニケーション)など、大型投資をした企業の株価が下落傾向にあることから、1号ファンドのリターンが低下しています。

ビジョンファンド2号は約$100 billion (10.8兆円)を目指していたが、Bloombergの報道によると、1号ファンドの不振により、11月15日現在で$2b (2160億円)しか集まっていないとのことです。

ビジョンファンド以前に行なった大型投資、スプリントについては司法の判断次第、ARMについても将来次第ですが、どちらの大型投資も現段階ではうまく行っているとは言い難い状況です。

これらの大型の投資が連続して苦戦していることが、孫さんの投資の目利きへの疑いとなり、株価低迷の直接の理由になっていると考えられます。

言い方をかえれば、投資家は「孫さんは自らの能力を過信して株主利益を無視して振る舞い、価値を創造するよりも毀損している」と感じ、それが保有している株価よりも低いソフトバンクグループの株価になって反映されているのではないかと思います。

まとめ

  • ソフトバンクグループの株価は割安(4,300円/株)で放置されている
  • 優良資産である、アリババ、ソフトバンク(ヤフー含む)だけで、税金を考慮しても6,500円/株の価値はある
  • しかし、米国通信会社のスプリントは米国司法の判断次第では、赤字の金食い虫となる可能性があり、950円/株の価値は大きなリスクを抱えている
  • また、3.3兆円で買収したARMは2.5兆円の「のれん」の減損リスクを抱える。実際は100円/株、程度の価値
  • ソフトバンクビジョンファンド自体は現状で1,500円/株の価値があるが、主要な投資先の株価が下落傾向。今後の株価次第でさらに営業損失が生じる可能性がある
  • ペイペイ(PayPay)で半年で350億円の赤字が出ており、今後も損失が生じる可能性が高い
  • これらの大型投資の苦戦から、市場は孫さんの目利きへの信頼が低下している。この信頼の低下が、孫さんは企業価値をむしろ毀損させるという評価になり、株価の割引に繋がっている。

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パチンコ、FX、宝くじに100万円使うと、どれくらい儲かるの?

お金を増やせるかもしれない、という期待から人気のパチンコ、FX、宝くじ。

実際に100万円使うと、どれくらい儲かるのでしょうか? 確率を使って考えてみます。

どれくらい儲かるのか、の考え方

どれくらい儲かるのか、について有効な考え方に、「期待値」という考え方があります。ざっくり説明すると、「儲かる金額」に「どれくらいそれが起こりそうか」の確率をかけた値です。

例えば、コインを投げて、表ならば1万円もらえる遊びがあれば、表が出る確率は(イカサマしていなければ)、50%になります。よって、期待値は

1万円 x 50% = 5,000円

になります。期待値は、このときにもらえる金額が大きければ大きいほど、もらえる確率が高ければ高いほど大きくなります。

例えば、コインを投げて表ならば2万円もらえる遊びであれば、期待値は

2万円 x 50% = 1万円

で1万円と、もらえる金額と合わせて期待値も2倍になります。

パチンコ・パチスロ

2018年時点で、国内で900万人が楽しんでいるというパチンコ・パチスロ。

パチンコ・パチスロでは、お金を玉やメダルに変換し、それらを使ってパチンコ・パチスロ台で遊び、玉やメダルを増やし、それを換金します。

業界第二位のダイナムホールディングスジャパンの決算報告書より、パチンコ・パチスロ業界の粗利は20%と推定されます。

詳しくはこちらをどうぞ → 900万人がハマるパチンコ・パチスロ業界の分析

お店側が20%儲かっているというのは、その分、あなたのお財布からお金がお店に入っていることです。

言い換えると、100万円を使うと、あなたに80万円が返ってきて、お店が20万円取る、ということです。

パチンコ・パチスロで1万円を使う時間を1時間と仮定すると、100万円 = 100時間、です。

つまり、パチンコ・パチスロは、パチンコ・パチスロが確率的に運営されているのであれば、100時間遊んで、20万円損をする、ことになります。

1時間あたり2,000円払って、当たるかもしれない、というドキドキ感を楽しむ遊びといってもいいかもしれません。カラオケやボーリングより高いですね。

宝くじ

宝くじ2017年度売上(宝くじ公式サイトより)

一獲千金を願う人に人気の宝くじ。宝くじは地方自治体によって運営されています。

宝くじ公式サイトによれば、過去1年間で宝くじを購入した人は5,200万人と、約2人に1人は購入している計算になります。

これらのことは知っていても、売上のわずか46.9%しか当選者に支払われていないことをご存知の方は少ないのではないでしょうか。

これは、100万円分宝くじを購入した時の期待値は、46万9000円しかないことになります。つまり、当たるかも、とワクワクする権利に53万1000円支払っていることになります。

期待値が低いのは悪い点ですが、宝くじは3つの良い点があります

  • 支払った金額の40%は地方自治体に行き、社会保障費などに充てられ。あなたが損した分の半分以上は、地方自治体への寄付となり、誰かの社会保障のためになっている
  • 購入に時間がかからず、時間的な拘束が少ない
  • 当たった時の額が1億円を超えており、他の手段と比べても桁違いに大きい

そのため、一発逆転狙いとしては有効な手段です。

FX (外国為替証拠金取引)

FX(外国為替証拠金取引)では、外貨の取引を行うことで、為替の変動から利益を得ることができます。

具体的な例をあげましょう。例えば、2019年12月1日の1ドルは109.8円です。

ここで、100万円を投資するとします。SBI証券を使うこととして、円を使ってドルを購入するのに、0.2円かかるとします(スプレッド、と呼ばれるFX業者の取り分になります。通貨の組み合わせ、業者によってこの取り分は異なります)。

すると、1ドルを購入するのにかかるお金は 109.8円 + 0.2円 = 110円、です。

100万円を両替すると、約90,900ドルになります。

ここで、もし1ヶ月後に円が安くなり、1ドル120円になったとします。

すると、あなたが持っている90,900ドルは、90,900ドル x 120円/ドル= 約109万円、になります。つまり、円が安くなったことで、元手の100万円が109万円に9万円増える、ことになります。

一方、逆のことも起こり得ます。もし1ヶ月後に円が高くなり、1ドル100円になったとします。

すると、あなたが持っている90,900ドルは、90,900ドル x 100円/ドル = 約91万円、になります。つまり、円が高くなったことで、元手の100万円が91万円に、9万円減る、ということになります。

つまり、為替がどちらの方向に動くかによって、得をするか、損をするかが決まります。

また、自己資金以上の資金を使ってトレードすることができる(レバレッジ、といいます)。

例えば、100万円を使い、400万円を借り入れて、500万円分の取引をすることができます。

この場合、予想が当たれば得られる金額は5倍ですが、損失が出た場合の金額も5倍になります。

ただ、プロですら為替は読めないので、レバレッジをかけるのは基本的にお勧めできません。FXを始める前に、ゆーたんさんのブログを読むことをお勧めします→FXは基本的にやめたほうがいいと考える理由〜失敗談つきです〜

FXの世界で儲けようとするならば、相当の勉強と調査が必要になるため、時間効率はよくないかもしれません。

異なった使い方として、FXを外貨預金的に使う方法もあります。

FXではスワップレートと呼ばれる金利があり、金利の高い通貨を持つ場合、金利による収入も見込めます。例えば、ドルと円ですと、ドルの政策金利が1.5-1.75%で日本はゼロ金利ですので、その差の1.5%+が金利差で受け取れる利子になります。

FXではドル円の場合ですと、手数料は円→ドル、ドル→円、で約0.5%程度で、メガバンク等の通常の銀行で外貨預金をする際よりはレートが良いことが多いです。

FXをまとめますと

  • 100万円投資をした時の期待値は、為替がランダムに動くとすると、100万円(スワップレート、為替手数料を除く)です
  • レバレッジをかけることができ、自己資金以上の資金を扱うことができます。レバレッジをかけると、得られる金額も損する金額も大きくなります
  • スワップレートで金利差の分の利子をもらえる(または支払う)ので、金利差に着目した外貨預金的な使い方があり、その場合の期待値は100万円より高くなります

まとめ

これまでのことをざっくりまとめると下記のようになります。

期待値 (万円)時間効率当たった時の額
パチンコ・パチスロ80
宝くじ47
FX(スワップ・手数料除く)100低-中

パチンコ・パチスロは娯楽としてはともかく、時間効率・期待値共に低いです。宝くじは夢がありますが、期待値が低いです。FXはスワップを除けば期待値としては出資額と変わらないために中立的です。

実は、これらの選択肢よりも、長期的に見た時にお金が増えていく「投資」があります。それは株式・債権への投資でして、例えばアメリカのS&P500は1926年の創設以来、年平均10%で増えていますし、米国債も約2%の利率があります。

お金を増やしていく方法の記事についてはこちらにまとめています→ 資産形成・資産運用

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