30代夫婦の家計簿 – 収入、支出、財産、住宅ローン残高

いわゆる「平均的な」30 代夫婦の家計簿はどのようでしょうか。 何に一番お金を使っているのでしょうか? 将来に向けて着々と貯金をしているのでしょうか? それとも、住宅ローンや家賃を支払うと、ほとんど収入が残らないのでしょうか?

国の統計をもとに、平均的な30代夫婦の家計簿をみていきたいと思います。

30代、世帯の平均収入

出典:厚生労働省 平成30年「国民生活基礎概況」

厚生労働省の2017年世帯データを使います。データによると、2017年の30代の世帯当たり平均所得金額は574万円です(こちらは単身、二人以上世帯の両方を含んでいます)。

社会保険料、所得税、住民税で20%程度引かれると仮定すると、手取りの年収は460万円。月になおすと、30代の世帯の手取りは平均して月38万円となります。

30代、2人以上世帯の支出

家計調査(2018年)によると、二人以上世帯、30代の支出の平均は下記のようになります。毎月、合計月28万円の支出です。

項目金額割合
食費¥68,63024.58%
交通・通信¥47,53616.76%
その他¥43,77615.57%
娯楽¥28,74310.07%
住居費¥23,1219.06%
光熱費・水道¥18,9136.85%
被服¥13,1204.68%
教育¥13,5234.61%
家具・家事用品¥10,9083.97%
保険医療¥10,5933.85%
合計¥278,863100.00%

データによると、世帯主の平均年齢は35歳。持ち家率は63.7%と約3人に2人は持ち家を持っています。30代、2人以上世帯の女性は1人に2人が就業しており、同居している人数の平均は3.7人です。

支出を割合のグラフにすると、どこにどれくらい支出しているのかわかりやすくなります。

出典:家計調査結果 2018(総務省統計局)

食費が約1/4を占め、交通・通信が次に大きな割合を占めています。

これは自動車関連費用(保険、車検など)で毎月平均27,000円かかっていることと、通信費が約15,000円かかっていることによります。

管官房長官が通信費の値下げにこだわる理由がわかるような気がしますね。

住居費は23,000円。大都市の家賃の水準から比較するとかなり低く見えますが、これは、3人に2人は持ち家のために家賃を払っていないことと、住宅ローン返済は上記の消費から除かれているためです。

その他は交際費やお小遣いや美容サービスなどです。

30代、2人以上世帯の貯蓄

出典:家計調査結果 2018(総務省統計局)

総務省の家計調査を用います。家計調査では20代、30代の貯蓄を40歳未満とまとめているため、上のデータは40歳未満のデータです。

貯蓄残高は単純平均で600万円です。定期預金が最も高い割合を占めています。

項目金額(万円)割合予想利回り(年, %)
定期預金27846%0.35%
普通預金14124%0.001%
貯蓄型生命保険11920%0%
有価証券(株・債券など)386%6.15%
その他264%0%
合計600100%0.55%

利回りの前提は定期預金 (5年、オリックス銀行)、普通預金は3大メガバンク。有価証券は日経225の過去5年のトータルリターンインデックスからです。

これはかなり興味深いです。2000年以降、ほとんどの定期預金の利回りが0.5%未満になり、15年以上経つにも関わらず、いまだに平均的な家庭で貯蓄の半分近くが定期預金です。

また、貯蓄型の生命保険にも金融資産の20%程度を割いています。

最も利回りが高い有価証券の割合はわずか6%。平均して38万円であることから、NISA(少額投資非課税制度)はこの世代であまり活用されていないことがわかります。

平均的な40歳未満が世帯主の家庭の予想利回りは0.55%です。

これは100万円を10年間預けて、約6万円を受け取る計算になります。

30代、2人以上世帯の負債

出典:家計調査結果 2018(総務省統計局)

20代、30代の負債残高の平均は1,248万円で、9割以上は土地・建物取得のための住宅ローンです。

これは負債のない人も含めた「平均」のため、実際に負債をもっている人(ほぼ住宅ローン)の負債残高平均は2,030万円となります (=1248万円/61.5%)

出典:家計調査結果 2018(総務省統計局)

この負債は2015年から年々増え続けています。要因としては、住宅価格の値上がりにより、住宅購入時に必要な住宅ローンの額が増えたことが考えられます。

住宅価格の値上がりを反映してか、平均的な貯蓄額も600万円前後を過去5年推移しています。

30代、2人以上世帯の収支

2,000万円の住宅ローンを20年で組んでいる場合支払い金利を1%と仮定した場合、約9万円になります。

あくまでも平均の数字ですが、38万円の世帯の手取りの中から、住宅ローンで9万円を支払い、さらに支出として28万円近くを支払う、と手取りとして残る金額はあまりないかもしれません。

これがNISAやiDeCoといった明らかに有利な仕組みの利用率が30代でもなかなか上がらない理由とも考えられます(NISAの30代の年代別比率は2019年6月でも12%)

出典:金融庁 NISA・ジュニアNISA利用状況調査

まとめ

  • 30代の平均世帯年収は574万円
  • 30代の2人以上世帯の支出は平均して月28万円。食費が25%、交通費・通信費の負担が17%と重い
  • 30代の2人以上世帯の貯金額は600万円で、ほとんどが定期預金か普通預金。株式・債権投資はわずか38万円。予想利回りは0.55%。
  • 30代の2人以上世帯の3人に2人は持ち家をもっている
  • 負債をもっている30代世帯の平均負債額(9割以上が住宅ローン)は2,000万円。
  • 住宅ローン、あるいは家賃を支払い、さらに平均支出28万円を行うと、月々の残りは数万円。
  • 30代の働き世代は住宅ローン・または家賃支払いのため、老後への蓄えがしにくい状況にあり、NISAの利用も約12%と普及はまだまだ。

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その他出典

高配当なオーストラリア株をポートフォリオのスパイスに(EWA)

高配当は好きだけれど、米国株は高すぎる気がするし、個別の株を買うと大きく下落しそうで怖い、と思うことはありませんか?

そんな方に、オーストラリア株はぴったりかもしれません。オーストラリア株は配当の利回りが高いことで有名です。

オーストラリア株の利回りと配当の利回り、特徴について書いてみます。

オーストラリア株に投資した時の利回りは?

オーストラリアASX300の推移 (VAS, 10年間)

過去10年のオーストラリアの株式市場は2009年のA$63から、資源バブルが終わり2012年に$52まで落ちましたが、現在はA$85まで上がってきています。

過去10年の成長率は年3.0%です。これだけ聞くと、あまり魅力的ではないように見えますが

その一方、配当が安定しており、利回りは高めです。2010年にA$63で購入していれば、配当で3.8%。2012年に底のA$52で買えていれば、利回りは5%近くなります。

しかも配当はだんだん増えていっており、そのまま保有していれば2019年には 配当の利回りが5.7%まで増加しています。

オーストラリア上場株の配当利回り

過去40年をみても、配当利回りは平均して4.2%となっており、リーマンショック以降はかなり安定しています。

株価の値上がりと合わせて、高配当で年利7.2%が平均的に見込める、というのはなかなか悪くないのではないでしょうか。

現在の価格は割安か

2019年10月30日現在、A$85で買ったとすると、来年の配当が今年と同程度であれば利回りは4.2%になります。これは過去40年平均の4.2%とほぼ同じ水準です。

オーストラリア上場株のPrice to Equity Ratio (株価収益率)の推移

一方、株価収益率でみると、オーストラリア上場株の加重平均の株価収益率は17近くと歴史的な平均である15を超えていて、やや高めの印象です。

ただし、配当水準からみると適正なので、高配当株としては魅力的です。

オーストラリア株への投資方法

米国に上場しているETFで、オーストラリア株のみに投資をしている銘柄はあまり選択肢がないのが残念ですが、取扱高が多いのはiSharesのEWAです。

iShares EWD 10年の価格推移

値動きが先ほどのオーストラリア株と違うのは、オーストラリアドルが弱くなり、米ドルベースでは安くなったためです。

豪ドル to 米ドルの為替の推移

豪ドルの為替が2014年から2015年、2017年から2019年にかけてどんどん弱くなっています。そのため、オーストラリア株自体は上がっていても、為替が弱くなっているために、米ドル建てのEWAでは安くなりました。日本円ベースでも同じような傾向です。

豪ドルが今の安値の水準から高くなっていくと考えるのであれば、さらに為替でもリターンが見込めます(逆もまた然りですが。。)

まとめ

オーストラリア株は株価の伸びは日本株や米国株よりも緩やかですが、一方で高い配当を維持しており、株式でいうと高配当株のような位置付けです。

特に配当は過去10年で維持か増加しており、高配当株を買う際の欲しい条件である「配当が毎年成長していく」、を満たしていると思います。

今の株価の水準は株価収益率の観点からはやや高めですが、配当の利回りは過去平均と同じです。

私はASX300というオーストラリアでいう日経平均のような指標に連動するETFを少額購入しています。もう少し安くなり、買い時になってから一気に書いたいなと思っています。

良い投資を! (投資は自己責任でお願いいたします)

【株式分析】S&P500連動ETF (SPY/IVV/VOO)はいつ買えば良いか

S&P500はアメリカを代表する500の会社の株価を加重平均した指標で、1926年の創設以来、年平均約10%のリターンを出している、長期投資家なら見逃せない投資先の一つです。

S&P500は魅力的な商品ですが、買う時期によっては長い間、損失を抱えてしまうことになります。「いつ買うか」は迷いますよね。

今回は今が買い時かどうかを判断する指標について書いてみます。

S&P500の長期的なパフォーマンス

S&P500の推移

S&P500は過去10年、堅調に推移しています。リーマンショック後の2008年には株価が大きく落ち込みましたが、2009年より株価は上昇し、2013年には2007年の水準を回復しています。

S&P500リターン計算 (DOYDJサイトより)

2019年10月現在は$3,000と5年間で1.5倍以上になり、過去5年間のリターンは、株価だけならば9.1%。配当を再投資していた場合は11.2%と高いリターンになっています。

それでは、今後もS&P500は堅調に推移すると予想されるのでしょうか。何を指標に、S&P500が割高か、割安かを判断すれば良いでしょうか。

一株あたり利益でみて割安か

Shiller PE Ratio S&P500 (multpl.comより)

Shiller PE Ratio (過去10年のデータを元に、ビジネスサイクル、季節変動、インフレーションを考慮して調整したPER)の値をみてみると、現在は29.84と1929年のブラックフライデー並の高値圏にあることがわかります。

また、2007年の金融危機前の水準より現在は高い値になっています。

Shiller PE Ratioからみると現在のS&P500は歴史的な高値圏にあります。長期的に見れば株価収益率は平均へ回帰することを考えると、近い将来に株価の調整が入る可能性が高いと考えられます。

米国GDPと比較して割安か?

S&P500は数多くのグローバル企業を含んでいますが、多くは売り上げ高の半分以上をアメリカで稼いでいます。

つまり、アメリカの経済が成長していけば、それだけ売り上げが上がる構造になっており、成長の速度とアメリカの経済成長率には一定の相関があると考えられます。

アメリカ上場株式時価総額/US GDPの比率 (Guru Focusより)

上図はアメリカの上場株式の時価総額をアメリカのGDPで割った値です。ドットコムバブル(1999)、金融危機 (2008)時点での比率は100%を超えており、現在はドットコムバブル時の150%近くまで上昇しています。

上場株式時価総額/GDPの値からみても、現在の株式相場は加熱しすぎの範囲に入っていると考えられます。

S&P500に連動するETFはどれを選べば良い?

S&P500連動ETFは数多く出ていますが、日々の取引量が多い代表的なのは下記の3つです。

銘柄名SPYIVVVOO
運営元State Street Global AdvisorBlackrockVanguard
年費用0.0945%0.04%0.04%

米国在住者でしたら税金の取り扱いの関係でSPYを選択するかもしれませんが、日本在住者の方が選択するならばIVYかVOOが年費用が安いために良いのではないかと思います。

まとめ

S&P500に連動するETFは、長期的に年平均10%のリターンを出している、長期投資家としては魅力的な投資先です。

特に個別企業を分析するのが好きでない、そこに時間は割きたくない方にはおすすめの投資先だと思いますし、積み立てていくのに良い商品です。

ただし現在の水準は一株あたり利益が歴史的にみて高すぎの水準となっています。

また、アメリカ市場全体が加熱しており、GDPと比較してもかなり高くなっています。

私はS&P500連動ETF(VOO)を保有してはいますが、上記のような理由から、現在は割合は減らして、より不況耐性がある投資先へ資金を割り振っています。。

良い投資を! (投資は自己責任でお願いします。)

【株式分析】J&J (JNJ-ジョンソン・エンド・ジョンソン)配当貴族の有名銘柄

オピオイドにまつわる訴訟やベビーパウダーのリコールなど、最近話題の、J&J (ジョンソン・エンド・ジョンソン)ですが、継続的に配当を増加させている企業としても有名です。

J&Jは投資先として「今」魅力的なのでしょうか? 株式を、分析してみます。

J&Jのビジネス

ジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)と聞くと、バンドエイドやベビー用品などが思い浮かぶかもしれませんが、実は売り上げの半分は製薬で、35%は医療機器で、残りの15%が消費者向けのビジネスです。

特に製薬事業の伸びが大きく、2018年の成長は主に製薬事業からきています。

2018 (billion $)成長率 vs 2017
消費者向け$13.81.8%
製薬$40.712.4%
医療機器$27.01.5%
全体$81.66.7%

製薬は、単純化していえば、

特許で保護された薬の数 x 価格 x 営業能力(数量)

で決まるビジネスです。

特許で保護されている期間が過ぎると、ジェネリック(分子量の小さい薬の機能同等薬)やバイオシミラー (分子量の大きい薬の機能同等薬)といった競争相手が出てきて価格が落ちるために、特許で保護されている期間でのビジネスが重要となります。

具体的には、2019年は下記の図のように、REMICADE、VALCADEといった売り上げの高い薬の特許が切れるため、製薬ビジネスへは逆風となります。

一方で、J&Jは新薬を継続的に出しており、新薬のパイプラインも充実しているため、これらの薬が治験で成果を出し、認可されれば、さらに売り上げの増加に繋がります。

医療機器のビジネスも同様ですが、違いとしては薬よりもメーカーをスイッチするコスト(スイッチングコスト)が高く、シェアを奪われにくいことがあります。

例えば、医者やナースが研修医の時から使っており、慣れている機器など、一般的に違う機器へ変更することを嫌がります。

また、医療機器会社の営業と医療関係者の付き合いが10年以上に及ぶことも多く、その信頼関係も価値となっています。

そのため、よほど価格か機能に差がないと、機器のスイッチが起きにくくなっています。医療機器の伸びが低いのは製品の競争力もありますが、このスイッチングコストの高さも理由の一つと考えられます。

消費者向けのビジネスは、小売りが寡占化してきていること(アメリカでいえばWalmart、CVS、Walgreenなどの大手に小売が集約されていっています)、小売りがジェネリックな製品を独自ブランドで安値で出してきていることから、競争が厳しい状況です。

J&Jはベイビーブランドに注力することを計画していましたが、最近、ベビーパウダーに滑石(talc)が混入していることがわかり、リコールしました。

このリコールをきっかけに、2019年10月現在では、米国の小売大手がJ&Jのベビーパウダーを取り扱うことを止めるなど影響が出ています。ベビーパウダーのみならず、他のJ&Jのベビーブランドにまで影響が及ぶと、さらに消費者向け事業の成長が遅くなるかもしれません。

一方、製薬、医療機器のビジネスは患者の数によって増えていくので、世界的に安定して成長が見込めるビジネスであり、特許で保護されており、かつプレイヤーも限られているため、市場としての魅力は高いビジネスです。

J&Jの収益の85%が製薬・医療機器という病院向けのB2Bビジネスのため、J&Jがビジネスを行なっている市場は安定しているといえます。

J&Jの売上高と利益の推移

J&J(JNJ)の売り上げ、利益率推移

J&Jの売り上げは2015年に減少したものの、2018年にかけて順調に増加しています。

粗利益率は2014年の69.4%から比べると2017年に66.8%まで落ちましたが、高い水準を保っています。

税利子前利益率も過去5年で低下してきていますが、24.27%とかなり高い率を保っています。

J&Jのキャッシュフロー

J&J(JNJ)のキャッシュフロー推移

2017年、2018年と$20 billion以上(2.2兆円)の営業キャッシュフローを生み出しています。業績の安定感は抜群。

財務CFがマイナスなのは配当や自社株買いのためで、2017年の投資キャッシュフローが突出して大きいのは買収のためです。

増資などをして株式が希薄化していない点は株主にとってプラスです。

J&Jの一株あたり利益の推移

J&J(JNJ) 一株あたり利益

J&Jの一株あたり利益は2018年から毎四半期$2.1付近で推移しており、上昇トレンドです。

過去5年のJ&J株価の推移

J&J(JNJ)の株価の水位

J&Jの株価は過去5年でみると、2015年10月の$107から2018年には$150近くまで上昇し、そこからは$120から$150の範囲で動いています。

J&Jの過去5年の上がり幅は年3.6%です。

一方で同時期のS&P(VOO)は$180から$275まで上昇しており、過去5年の上がり幅は。年8.8%です。

直近の株価の下落のため、配当を考慮しても、J&Jの株価はS&Pを下回るパフォーマンスです。

S&P500 (VOO)の株価推移

J&Jの配当の推移

JNJの5年間の配当利回り推移

J&Jの配当は毎年増加しており、2013年の$2.59から2018年の実績は$3.54まで増加しています。配当は年平均9.9%で増加しています。

また、2019年は$3,75の配当予定で、5.9%の成長予定です。安定的に配当を増加させていることが、J&Jが「配当貴族」(Dividend Aristocrat)と呼ばれる所以です。

2019年の一株あたり利益予想は$8.6と配当性向は43.6%前後となる予定です。配当余力は十分にあります。

配当の利回りは過去5年、2%-3%で推移しています。

直近の株価での配当利回りは3%に近づいており、配当の利回りで見れば現在の水準は歴史的に見れば割安です。

また、PERは株価$128、一株あたり利益$8.6の前提ですと14.9とS&P500の株式の中では割安です。

なぜ割安になっているのか

いくつかの訴訟がJ&Jの株価を引き下げています。

1つ目はオピオイド(鎮痛剤)の濫用により、米国で死者や中毒者が多数出ている件です。米国では製薬会社、流通会社がオピオイドの危険性を正確に伝えないまま販売を続けたとして集団訴訟が起きています。

J&Jは$4b(日本円で4400億円)を引き当てていますが、その金額ですむかどうか不明です。

また、2つ目としてベビーパウダーのリコールがあります。J&Jのベビーパウダーからアスベストが検出されたということから、J&Jは対象の製造バッチについてリコールを行なって調査をしています。

こちらも訴訟が起きており、引当金がどの程度になるかよめない状況です。

訴訟は米国の製薬・医療機器会社が避けられない問題ですが、特にオピオイド濫用はオピオイド中毒となった患者数が多いため、J&Jにも相当額が請求される可能性があります。

J&Jの評価

僕が投資判断をするときの5つの質問により評価したいと思います

J&Jの市場は魅力的か?

消費者向けビジネスは魅力的ではないが売り上げの15%であり、全体への影響は限られる。

売り上げの85%を占める製薬、医療機器の市場は、営業力が必要で新規参入が難しく、競争も寡占状態で比較的安定、特許で保護されているために代替品や供給業者の脅威も低く、市場も世界の高齢化・人口増加によって拡大している。

市場全体が伸びており、利益率も高く、今後もその状態が続くと想定されるため、魅力的。

J&Jのビジネスは理解できるか?

理解できる。

J&Jは競争力を持っており、それを維持できるか?

製薬、医療機器では築き上げた病院・医師との関係性、特許で保護された製品群がJ&Jの大きな資産であり、そう簡単には競争力を失わない。

毎年1兆円超のR&Dを行い自社での製薬のパイプラインを増やしている他、買収も積極的に行なってパイプラインの拡充につとめており、将来のパイプラインも現段階でも比較的充実しているため、長期的にも競争力の維持が見込める。

J&Jの経営陣は株主の方を向いているか?

向いている。継続的に配当を増加させ、自社株買いを行い余剰資金を株主に還元している。また、過去5年、EPS(一株あたり利益)を着実に増加させていっており、現経営陣にも信頼がおける。

J&Jは割安か?

配当利回り3%、PER14.9はJ&Jの歴史的にみて割安です。

オピオイド、ベビーパウダーなどの訴訟コストが膨らんだ場合、これらのコスト次第では一株あたり利益が大幅に減少する点に注意が必要ですが、これらは一過性のコストであり、本質的なキャッシュフローを生み出す力に変化はないとみなせます。

個人的にはJ&Jの株式はさらに下がったら買い増そうと思っています。

良い投資を!(投資は自己責任でお願いします)

投資についての方針

初心を忘れないよう、投資についての方針を定めたいと思います。

銘柄選択に対する5つの質問

魅力的な市場か?

ビジネスを行なっている市場が魅力的(成長率が高く、利益率も高い)であれば、企業は安定的に成長して利益を出し続けることができます。

理解できるビジネスか?

自分が理解できるビジネスであれば、そのビジネスがうまくいっているのかうまくいっていないのか理解しやすくなります。

ビジネスモデルに競争力があり、持続可能か?

競争力のあるビジネスモデルは競争に勝ち、売り上げの増加や、より高い利益率を獲得するのに役立ちます。最も重要な項目です。

経営陣が有能で、株主重視の姿勢か?

優秀な経営陣は継続的に高い成長をもたらし、かつ株主に利益を還元します。

過去5年程度の実績と今後の成長戦略を元に判断したいと思います。

割安か?

適切な価格よりも安く購入できるよう、PER(株価収益率)、EPS (一株あたり利益)、ROE (一株あたりのリターン)、BPS (一株あたり純資産)をみていきたいと思います。

投資の姿勢に対する6つのポイント

「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤が描く組織の変革物語

「ノーサイド・ゲーム」は一言で言うと、組織の変革を描いた物語。

ドラマ化もされた、企業が運営するラグビー部を舞台にした池井戸潤の小説「ノーサイド・ゲーム」のあらすじ、ビジネスの視点から学べることについての記事です。

あらすじ

主人公の君嶋は大手自動車であるトキワ自動車の経営戦略室で働くビジネスマンだが、ある日工場の総務部長に左遷させられ、総務部長の仕事に加え、トキワ自動車が所有するアストロズという企業ラグビーチームのゼネラル・マネジャー引き受けることになる。

アストロズは例年16億円の赤字を出しており業績の重荷になっていることに加え、成績も低迷して前年度は2部落ちをかろうじて免れたチームであり、チームの中と外に問題を抱えている。

加えて、ラグビー協会は変革を望まない重鎮が支配し、ラグビーチームの運営を改革する気すらない。

君嶋はラグビーチームの中と外の問題に対して、どう立ち向かうのか。

ビジネスの観点から学べること

本作品のいわゆる「悪役」としては

  • 自分の利益(金銭や出世)のことしか考えず、他人を貶めたり、蹴落とすことに躊躇がない
  • 人の意見を聞かず、自分の意見が正しいと信じている

いわゆる困った「偉い人」が今回も壁として立ちふさがる。

それに対して主人公の君嶋は

  • 変革をもたらして結果を出す(ビジョンを描き、変革をもたらす仲間を連れてきて、周囲を巻き込んで動かし、成功を示し、変革を定着させる)
  • 困難でも諦めず前に進み続ける

と王道で対抗し、壁を打ち破っていく。

印象的だったのは、新参者であった君嶋と柴門が選手から信頼を勝ち得ていくシーン。

どんな仕事であれ、まず一緒に働く人から信頼を得ることが必要で、そのためには姿勢と結果が重要となる。主人公は、真っ直ぐチームに向かって自分が何ができるか考え、一つ一つを愚直に実行していく。それが下のような評価に繋がる。

「お前は自覚していないかもしれないが、チーム愛みたいなものだ。お前は本気でアストロウズのことを良くしようと思っている。」

「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤 p.p. 1520

新たな監督となった柴門は一人一人に手書きで手紙を書いたことで、君嶋は土日の練習全てに共に参加したことで、選手から一員として認められた。ここからは一員となろうという姿勢や一人一人への思いやりが信頼を勝ち取るのにいかに重要かを学ぶことができる。

また、君嶋は観客を集めることで、柴門はチームを勝利に導くことで、選手からこのリーダーたちについていけば自分たちも優勝という目標を達成できる、という期待を抱かせ、信頼を得ることに成功している。こちらも、変化をもたらす時には早い段階で成功を見せることが必要、ということを示している。

相変わらずの池井戸節はエンターテインメント小説としても面白いし、ビジネスの観点からも学ぶことが多く、おすすめ。

芥川賞受賞 コンビニ人間 | 村田 沙耶香|社会から外れたところで生きる人たちが、居場所を探す物語

2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの「コンビニ人間」のあらすじ、キャラクターとテーマのレビュー、いかに本書がビジネスに役立つか、の記事です。

「コンビニ人間」は一言で言うと、社会から外れたところで生きる人たちが、居場所を探す物語。

あらすじ

36歳、女性、独身、職歴はコンビニ店員のアルバイト18年の主人公、古倉はある日、コンビニのアルバイトとして入ってきた男性、白羽と出会う。

白羽はお客さんの女性に付きまといアルバイトをクビになるも、主人公の古倉は生活の変化を求めてそんな白羽に共に住む提案をする。その結末とは。。。

作品のキャラクター

他人への感情への関心に疎く、社会的な価値観や他の人の感情を把握する能力が極端に低い主人公の古倉は、自閉症のような特徴を持ったキャラクターだ。

古倉は周囲から排除されないようにと、周囲の行動を観察し、人がどんな場面でどんな行動をしているのかを学び、蓄積していく。

そして場面に応じて、蓄積したデータベースから取り出した仮面を身につけることで、周囲に馴染もうとする。

古倉は常に一歩引いた視点で他人と自分を観察して、他人の感情がわからない分、言動だけ合わせることに注力している。

あ、私、異物になっている。ぼんやりと私は思った。

店をやめさせられた白羽さんの姿が浮かぶ。次は私の番なのだろうか。

正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処分されていく。

「コンビニ人間」村田 沙耶香 p.790 (Kindle)

古倉にとって落ち着ける場所は、コンビニだ。コンビニのアルバイトが行うことは大部分が定型化されており、古倉はそのルールに沿って働けば良い。

ルールにしたがって動いているだけで、変だと見なされずに居場所が確保されるのは、古倉にとって居心地が良い。

一方の白羽は、精神的な発達が未熟な子供のようなキャラクターだ。

白羽はうまくいかないことを社会のせいにして、自分に原因を向けることがない。

周囲の人が自分を助けるのは当然だとみなして、助けが得られないと相手を責める。人と合わせることをせず、自分のやりたいように行動し、周囲と軋轢を生んでいく。

「僕に言わせれば、ここは機能不全世界なんだ。世界が不完全なせいで、僕は不当な扱いを受けている」

「コンビニ人間」村田 沙耶香 p.829 (Kindle)

白羽は古倉と同じく、周囲から「異物」と見られている点で共通している。

ただし、社会を忌避しながらも、彼の人や自分を判断する基準が一貫して「社会から見てどうか」と言う点は古倉と大きく異なる。

つまり、善か悪か、良いか悪いか、の判断をする際に、白羽は気づいているのか、気づいていないのか、その嫌いな「社会」に頼っている。

その上で、社会から求められる行動を取ることを拒否している。

作品のテーマ

この作品のテーマの一つは、どう生きるかの価値基準をどこに置くのか、だと思う。

古倉の価値の基準はあくまでも自分だ。自分が楽しいと思うからやり、自分が正しいと思うからこそそれを行う。

古倉は最後には居場所を見つけて自由になる。それは、古倉が社会に価値観の基準を置いても彼女は居場所を見つけられず、コンビニこそが自分の居場所だと再発見したからだ。

その対比として描かれる白羽は社会に価値の基準を置いており、社会的に評価されるようなステータスを得ることが善であり、そのための自分の行動は正当化される、と考えている。

白羽自身は自分が社会の基準からして低い位置にいることに気づいており、だからこそそんな社会から逃げたいと思っている。

古倉白羽
排除されないこと人生のゴール成功すること
なし他者への関心あり
自分価値の基準社会
努力社会の同調圧力への対応拒否
コンビニ居場所押し入れ

白羽が居場所としているのは押し入れというのは象徴的で、彼は一人で、社会から目を向けられない場所を求めていることがわかる。社会に価値の基準を置いている彼は、望むステータスを手に入れないことには納得できない。

満足できていない状況を解決するために他者を自分と同じところまで落とそうとしているのは、心理学的な”認知的不協和”の典型例だ。

白羽は、彼の望むようなゴールにたどり着けず、押入れへ帰っていく。

この二人の対比は、異物が社会の中で異物として生きるためには、自分なりの価値観を持つべきだ、というメッセージにも取れる。

ビジネスに得られる洞察

社会には主人公の古倉と同じように他者・社会への関心を持たない、持てない人が少なからずいると思う。

また、白羽のような大人も、特にオンライン上ではたびたび見聞きするため、それなりの数がいるだろう。尖った二人のようなタイプの人を理解するのに、本書は参考になる。

また、物語の鍵となる一つが友人や同僚たちから「同調圧力」だ。特にクチコミで主人公が同僚と似た服やカバンを買う話などは、クチコミやインフルエンサー(影響力のある人)がどれだけマーケティングで重要かを再認識させてくれる。

「異物」と作品の中で称される古倉や白羽のような人も、ビジネスの世界ではお客さんになり得る。そんな一味違った感性と考え方を持つ人を理解したいと思う人には、「コンビニ人間」はおすすめだ。

ファイブフォース(5 forces)分析 | 解説と具体例

ファイブフォーシーズ(5 forces)分析はマイケルポーターが提唱した、業界を分析するフレームワークの一つです。業界の利益率に影響を与える5つの要素を分析し、その業界が魅力的なのかどうかを判断するのに使われます。

ファイブフォーシーズは下記の5つの要素から構成されています。

  • 企業同士の競争の激しさ (Rivalry among existing competitors)
    買い手の交渉力 (Bargaining power of buyers)
    売り手の交渉力(Bargaining power of suppliers)
    新規参入の脅威 (Threat of new entrants)
    代替品の脅威 (Threat of substituting products)

競争が激しくなく、買い手と売り手の交渉力が弱く、代替されにくく、新規参入されにくい、のであれば最高の業界です。コンビニの例をもとに、説明していきます。

競争の激しさ

競争が激しければ激しいほど、利益率は低下します。そして、競争の激しさは、下記のような場合により激しくなります。

  1. 競争する企業の数が多い
  2. シェアがばらけている
  3. 価格競争が価値パターンだという業界の認識がある
  4. 商品がコモディティである(商品間に差がないこと)
  5. 買い手が価格の変化に敏感である
  6. 顧客が移動しやすい(スイッチングコストが低い)

コンビニの例を見てみましょう。

コンビニは大手三社でシェア90%以上を占める寡占業界です(セブン、ファミリーマート、ローソンが大手3社。ミニストップが第4位)。大手3社は激しく競争しており、首都圏では200mおきにコンビニが1つあるような状態です。価格競争はお互いに避けており、賞味期限が近づいてきた商品であっても値引きは出来るだけ避けています。

セブンが商品開発力で頭一つ抜けていると言われますが、他2社も追いついてきており、扱っている商品も似通ってきています。また、お客さんが違うコンビニに行って買い物するときになんの障害もないため、お客さんも移りやすいと言えます。

特に商品の差別化が少なくなりつつあることと、大手3社の出店競争が激しいことから、競争環境としては厳しいと言えます。

買い手の交渉力

買い手の交渉力が高ければ高いほど、売る側としては値下げを飲まなければならない場面が増え、利益率が低くなります。買い手の交渉力は、下記のような場合により大きくなります。

  1. 買い手の数が少ない
  2. 一度の注文の量・額が大きい
  3. 代替品へ移りやすい
  4. 買い手が売り手の商品について正確な情報を持っている

コンビニの例では、買い手は私たちのような一般消費者となります。

お客さんは数が多く、一度の注文の量も多くなく、そもそも価格交渉をコンビニではしないので、買い手の交渉力としては弱いです。

代替品(スーパーマーケットなど)を選ぶことはできますが、コンビニの商品の豊富さと立地、24時間営業からくる利便性は多くのお客さんにとって、なかなか完全な代替が難しいです。

よって、買い手の交渉力は弱く、これはコンビニにとっては良い環境であると言えます。

売り手の交渉力

売り手の交渉力が高ければ高いほど、買い手としては高い価格で買わなければならず、利益率が低くなります。売り手の交渉力は下記のような場合に高くなります。

  1. 売り手の数が少ない
  2. 売り手の規模が大きい
  3. 売り手が買い手についての正確な情報を持っている
  4. 売り手の商品の代替が難しい

コンビニの例では、売り手はメーカーになります(飲料メーカー、お菓子メーカー、食品メーカーなど)。日本はメーカー大国でコンビニの棚を確保したいというメーカーが多い上、コンビニの規模と比べると小さいメーカーも多いため、売り手の数・規模からすると交渉力が低いです。

また、コンビニは今やプライベートブランドを幅広い商品で展開しているために、各製品を製造するといくらくらいかかるのかの情報を持っている上、メーカーに対してうちは代替品を用意できると主張できます。プライベートブランドの存在により、売り手の交渉力は低いです。

よって、大手三社に限れば、売り手の交渉力も弱く、良い環境であると言えます。

新規参入の脅威

業界に入りやすければ入りやすいほど、新規参入が増えて、競争が激しくなり、利益率が低くなります。新規参入の脅威は以下のような場合に高くなります。

  • 規制などがない、必要な設備投資の額が少ないなど、参入障壁が低い
  • 規模の経済がきかず、サイズが小さい事が不利益になりにくい
  • 買い手のブランドへの愛着が低く、新規参入の企業でもシェアを得やすい
  • ビジネスをするのに必要な流通にアクセスしやすい

コンビニの例を考えてみましょう。新しく企業がコンビニ事業に参入する場合、

  • 24時間体制の流通を始めとしたサプライチェーンの構築や店舗に大きな設備投資が必要
  • 規模が小さいため、供給業社への交渉力が弱く、仕入れ値が大手と比べて高くなる
  • 大手はプライベートブランドを多く扱っており、新規参入は商品面で劣りやすい
  • 良い場所についてはすでに大手3社が確保していることが多く、新規では良い場所を確保するのが難しい

以上の点から、新規参入のハードルが高いことがわかります。よって、新規参入してくる企業の脅威は低く、これは大手3社にとっては良い環境であると言えます。

代替品の脅威

商品が代替されやすければされるほど、代替品との競争にさらされて、利益率が低くなります。代替品の脅威は下記のような場合に高くなります。

  • 代替品の数が多い場合
  • 商品と代替品の差が少ない場合
  • 代替品の方が商品よりも相対的に安い場合
  • 買い手が代替品を選ぶのに障害が少ない場合

コンビニの例ですと、代替品としてはスーパーマーケットがあり、カフェとしてのコンビニの代替品としてはカフェが、食事を買う場所としてのコンビニの代替品としてはレストランやファーストフード店が、お金を下ろす場所としてはATMが代替品となります。

コンビニの一部の機能を代替するものは数多く存在しますが、「多様な商品とサービスを近くで、ワンストップで、買える」、というコンビニの機能は完全には代替されにくいです。よって、代替品の脅威はそこまで高くないと言えます。

ファイブフォース分析のまとめ

ファイブフォース分析は下記の5点から、業界の魅力度を評価します。

  • 企業同士の競争の激しさ (Rivalry among existing competitors)
  • 買い手の交渉力 (Bargaining power of buyers)
  • 売り手の交渉力(Bargaining power of suppliers)
  • 新規参入の脅威 (Threat of new entrants)
  • 代替品の脅威 (Threat of substituting products)

コンビニの例ですと、業界内では競争が激しいですが、買い手・売り手の交渉力は低く、コンビニが買い手、売り手の両方に対して強い交渉力を持っています。また、新規参入、代替品の脅威も低く、コンビニにとっては良い環境です。

よって、コンビニは大手3社に限って言えば、業界としては良い環境にあると言えます。

実際、コンビニの利益率はスーパーマーケットやデパートなど他の小売と比較しても高く、これは、業界自体が魅力的であるというファイブフォース分析と整合的です。

しかし、大手3社をみてみると、セブンイレブンが利益率で突出しています。つまり、業界だけが利益率を決めるのではなく、企業のとっている戦略が利益率に影響を与えるということです。次回は、より詳しく競争環境を分析する、3C分析のフレームワークについて、解説いたします。

次の記事 >> 3C/5C分析 | 競争環境を理解する | 解説と具体例

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ユーザーの感情に訴えるユーザビリティデザインの6つのポイント

ユーザビリティ設計はWebサービスやアプリを作る時に、最も大事な項目の一つです。他のサービスと比較してユーザビリティが悪いと、ユーザーはすぐに離脱・アンインストールしてしまいます。ユーザビリティは商品だけの話ではなく、プロモーションの一貫でキャンペーンサイトを作るときにも重要となります。

どうすればユーザーの満足度を高めて、継続的に使ってもらえるユーザビリティを実現できるでしょうか。感情に訴えて、ユーザーの利用頻度を高める6つのポイントを紹介いたします。

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1. 達成可能な小さな目標を与え続ける

人に行動を促したいなら、太刀打ちできない大きな目標ではなく、具体的でチャレンジしやすい小さな目標を与える方が有効なのだ。進歩している実感に励まさせれるし、ゴールラインが見えている方が前に進みやすい。

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 1677

人は目標を達成するのが好きで、目標を達成することに喜びを感じます。目標を達成したときに次の目標が見えていて、かつ少しの努力で達成可能だと感じれば、次の目標に向かう傾向があります。

この傾向を利用しているのが、多くのアプリの更新通知です。LINE、FacebookやTwitterのアイコンに表示される更新数、メールボックスの未読数は、「数字を0にする」という目標をユーザーに与えます。

数字を放置することもできますが、「未達成」のままにしておくことにユーザーは気持ち悪さを感じます。目標を達成するためには一定間隔でアプリを確認し続けないといけないため、結果的に利用頻度を増やすことに繋がっています。

異なる方法としては、定期的に進捗を伝えることを通じて、ユーザー自身に目標を設定させる例があります。

例えば、フィットビットなどのウェアラブルデバイスはユーザーがどのくらい運動したかを伝えます。人は見えるものを改善したがる傾向があるので、今日は15分走った、明日は15分以上走ろう、とユーザー自身が目標を設定するようになります。結果として、フィットビットは運動の実績を示すことで、継続してウェアラブルをつけて運動することを促しています。

2. ささいなことでもフィードバックを与える

子どもはボタンを押すのが大好きだ。しかもそれが光るボタンとなれば、是非とも全部押して確かめなくてはならない。人間には幼い頃から探究心があるが、実際に何かを調べて見るときは、目の前の環境からできるだけ即座に反応が返ってくることを望んでいる

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 2124

人は自分がした行動に対する反応(フィードバック)が返ってきたとき、喜びを感じます。さらに、脳科学的に、人は「予測可能な」報酬よりも「予測不可能なランダム性」のある報酬により喜びを感じるということがわかっています。そのため、ある程度のランダム性があるフィードバックが効果的です。

Twitterの例を見てみましょう。他のユーザーからのコメントや「いいね!」はフィードバックであり、かつどれくらいの反応があるかは予測できないため、予測不可能なランダム性のある報酬です。、投稿がTwitterやまとめサイトの中で話題になる、いわゆる「バズる」ことはさらにランダムな出来事で、大きな喜びを与えます。バズることは、ユーザーの承認欲求を満たし、ユーザーのサービスの利用を活発化させる効果があります。

ヒットしているソーシャルゲームやパチンコなどのギャンブルはこの設計が非常に巧みです。ガチャのランダム性と当たりの光と音の演出など、毎回毎回の操作に小さなフィードバックを入れることで、ユーザーを楽しませる仕組みがつまっています。

3. 進歩を実感させる

試験と、その試験をちょうどぎりぎりで克服する能力、その2つが組み合わさった貴重な状況で、人は強烈で持続的な幸福感を感じるのである

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 3110

人は進歩を実感しているとき、特に少しがんばって課題を解決できたときに、自己肯定感を感じ、心地よくなります。

例としては、航空会社のステータスプログラムがあります。航空会社のマイレージプログラムはブロンズ、プラチナ、ダイヤモンド、などどれくらい1年間の間にポイントを集めたかによってステータスが得られるようになっており、飛べば飛ぶほど高いステータスになるようになっています。

ANAマイレージプログラム

あるランクを達成したときにお祝いを送るなどすることで、次の目標を達成しようというモチベーションを与えることができます。

4. やめては勿体無いと思わせる

数分、もしくは数時間もどっぷり没頭してしまったなら、ラスボスが強いからと行って投げ出すなんて考えられない。せっかくがんばってきたのだから、ここで負けるわけには行かないのだ。喪失や敗北に対する拒否感に押されて、あと1回、あと1回と課金せずにはいられなくなる。

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 2749

人は時間や労力を費やした分だけ、これまで費やしてしまったものを途中でやめてしまうのは勿体無い、と感じます。そして、今まで費やしてしまった時間や労力を価値あるものとみなして、続けるようになります。

ほとんどのソーシャルゲームがこの仕組みを入れています。

初めて数分で「レベル」が上がり、その後も初めて数時間はレベルがすぐに上がりつつけてサクサク進み、ストレスを感じさせない作りになっています。一定以上進むと、スタミナが尽きたり、敵が強くなったりして、進めないようにする壁が出てくるのですが、その頃には時間も労力も費やしているので、やめるという選択肢を取りにくくなっています。

5. クリフハンガー(「引き」)を入れる

人間は完了した体験よりも、完了していない体験のほうに、強く心を奪われる。これが「ツァイガルニク効果」と呼ばれる現象だ

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 3396

人は「未解決」の状態を気持ち悪いと感じ、その状態を解決しようとする傾向があります。それを利用したのが、クリフハンガーと呼ばれる、結末を見せずに終了させる手法です。

この手法をうまく用いているのがNetflixのビデオ再生です。Netflixは自動で次の動画を再生するようにしているため、アメリカのドラマを見ていると一話一話の終わりに「引き」があるので、ユーザーを常に続きが気になる状態にさせ、サービスの利用時間を伸ばしています。

また、テレビCMで昔使われていた、CMを気になるところで切り、「続きはWEBで」と表示して終わるのも、クリフハンガーを利用した宣伝の例です。これもあえて結末を見せないことで視聴者を続きが気になる状態にさせ、より豊富な情報を見せやすいWEBへと導いています。

6. 社会的相互作用(帰属・承認欲求)を利用する

自分の格付けがみんなの格付けと一致していることが確認できるというのは、自分の集団帰属を確認する行為だ。仲間も物事を同じように見ているとわかって安心する。しかしこうした安心感は短期間しか続かないので、常に確認していなければならない。

「僕らはそれに抵抗できない 『依存症ビジネスのつくられ方』」アダム・オルター ダイヤモンド社(2019) Loc 3948

人はどこかに帰属を求め、帰属することで安心を感じ、承認を得ることで喜びを感じます。

Facebook、Instagramの「いいね!」は人のこの性質を利用した例です。投稿したとき、「いいね!」というフィードバックを他の人からもらえることでユーザーは承認欲求が満たされます。承認欲求が満たされたユーザーは、さらに多くの「いいね」をもらうことを求めてサービスの利用を増やすことに繋がっています。

また、ランキングを導入して、ユーザー間の競争を煽るのも社会相互作用を利用した例です。ユーザーは他のユーザーに負けたくないという気持ちから、利用を増やして、それがコミュニティの活性化に繋がることもあります(一方、「負ける」ことでやる気を失うユーザーもいるため、ランキングはもろ刃の剣になり得ます)。

ユーザビリティデザインの6つのポイント

まとめると、ユーザビリティデザインでユーザーの利用頻度を高める6つのポイントは、下記のようになります。

  • 達成可能な小さな目標を与え続ける
  • ささいなことにもフィードバックを与える
  • 進歩を実感させる
  • 今やめては勿体無いと思わせる
  • 「引き」を入れる
  • 社会的相互作用(帰属・承認欲求)を入れる

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セグメンテーション | なぜ必要か、どうやって行うかを具体例付きで解説

マーケティングにおけるセグメンテーション(市場細分化)とはお客さんをある軸で分類して、「誰に」商品を提供するのかを決めるためのプロセスです。

この記事では、そもそもどうしてセグメンテーションが必要なのか、セグメンテーションはどう作ればいいのか、を具体例とともに説明をしていきます。

なぜセグメンテーションが必要なのか

セグメンテーションが必要な理由は2つです。

  • 人により異なる好み・価値観を持っていること
  • 世の中に商品やサービスが溢れすぎて、特定のニーズに訴求しない商品では選ばれにくくなっていること

お客さんは一人一人によって求めるものが違うため、ある特定の欲求をもつ人に対して魅力あるものが、他の人に対しても魅力があるとは限りません。

例えば、スターバックスですごく甘いフラペチーノが好きな人もいれば、甘くないブラックコーヒーが好きな人もいるでしょう。この2人は異なる好みを持っています。フラペチーノとコーヒーを足して2で割ったような商品ではどちらのお客さんも満足させることができず、満足してもらうためには違う商品が必要になります。

また、現在はモノ・サービスの選択肢が過剰なほどある世の中のため、お客さんに選んでもらうためには、焦点を絞った訴求をする必要性が高まっています。

ある商品が1種類しかなければお客さんはそれを選ぶしかありませんが、ほとんどの商品の場合、お客さんは違うブランドの製品や代替品を見つけることができます。そのような場合、よりお客さんのニーズに直接訴えることができなければ、手にとってもらうことすらできません。

具体例として、ドラッグストアでのシャンプーのコーナーをみてみましょう。シャンプーだけでも10種類以上あり、「ダメージヘアに悩む方に」、「地肌をケアしたい方に」、「ふんわり弾力を出したい方に」、「敏感肌の方に」、と棚では「こんなお客さんにうちの製品を」とうたっています。

こんな棚に、「うちの商品はみんなにとって魅力的です」という商品を置いても、ダメージヘアで悩む方はダーメージヘア用のシャンプーを手に取るでしょうし、敏感肌で悩む方は「敏感肌の方に」というシャンプーを手に取る可能性が高くなります。

つまり、「みんなを狙う」というのは、誰も狙っていないのと同じなのです。結果として、特定のお客さんを狙った商品に競争で負けたり、お客さんの隠れたニーズに気づけていないことになります。

よりお客さんに寄り添った訴求をするために、セグメンテーションが必要となります。

セグメンテーションの作り方

セグメンテーションを考えるのにわかりすく、かつ実務上もよく使われるのは2つの軸を選ぶことです。

例えば、年齢と性別という軸を取ってみると

  • 18歳未満の男性
  • 18歳未満の女性
  • 18歳-64歳の男性
  • 18歳-64歳の女性
  • 65歳以降の男性
  • 65歳以降の女性

というように、分けられます。これだけでもセグメンテーションの一つの例です。18歳未満の大半は学生、18-65歳は大学または勤労、65歳以降は老後、と多く点で異なるニーズを持っていることが想像できるのではないでしょうか。

セグメンテーションは大きく分けると下記の4種類の軸を使って作ることができます。

  • 人口統計的属性(年齢、性別、世帯規模、職業、所得など)
  • 地理的変数(都市・地方、オフィス街・住宅街)
  • 心理的変数(好み、価値観、ライフスタイル)
  • 行動変数(購買頻度、有無、購買プロセスなど)

人口統計的属性

いわゆる年齢、性別、世帯規模、職業、所得などです。わかりやすく、今でもよく使われる軸です。先ほどの年齢、性別でのセグメンテーションも一つの例でして、街でも多くの事例を見つけることができます。

例えば、映画館のTOHOシネマズでは、一般の1900円の入場料の他に、大学生・高校生・中・小学生、と一般より低い料金を持っています。また、60歳以上はシニア割引ということで1,200円で、レディースデイは女性のみ1,200円です。

マーケティングの観点からは、TOHOシネマズが年齢、性別を用いたセグメンテーションを行なっていることがみて取れます。

地理的変数

どの国、都市、市町村に住んでいるのか、などです。特に国が異なれば好み・価値観が異なることが多く、ある国でうまくいくセグメンテーションが他の国ではうまくいかない、ということは特に消費財の世界では往々にしてあります。

インターネットが発達して情報が入手しやすくなったこと、通販を利用して居住地に関わらず商品を購入できるようになったことから、都市や市町村といった区切りでセグメンテーションする機会は減少してきているかもしれません。

心理的変数

好み、価値観、ライフスタイルなどの感情的な変数です。機能的な価値で差別化がしにくくなり、より感情的な価値に訴えることが重要になってきたため、心理的変数を用いてのセグメンテーションは消費者を相手にするB2Cマーケティング(Business to Consumers)ではよく使われます。

カメラの具体例でいえば、「最高の高画質で写真を撮って残したい、というプロ志向の強い人と、「気軽に撮ってシェアしやすいことが重要」、という人では求める商品が異なります。前者は一眼レフやミラーレスカメラのお客さんとなり得ますが、後者の多くはスマートフォンで満足でしょう。

行動変数

購買の頻度や有無、購買プロセスなどの購買行動に関わる変数です。売り上げを計画するのによく使われる軸でもあります。

例えば、観光庁が2018年に出した2017年の「訪日外国人の旅行者の訪日回数と消費動向の分析について」では初めて日本を訪れる人とリピーターの割合は約4:6でリピーターの方が多いと述べています。これは「新規のお客さんか、それとも既存のお客さんか」という一つの軸です。

また、同報告書では日本滞在中にそれぞれの国の観光客がどのように行動したか、も分析しています。ショッピング、観光・体験、食事、などどの行動を重点的に行なったか、を軸にしても行動変数でセグメンテーションすることができます。

セグメンテーションの具体例:携帯電話の通話プラン

商品を見ることによって、どのようにセグメンテーションが行われているかを推測することができます。身近な携帯電話の通話プランで見てみましょう。

携帯電話の大手3社のプラン(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)を見てみると、2019年9月14日現在、料金体系は以下の4種類になっています

  • スマホ向けデータ大容量プラン(ギガホ、auデータMaxプラン、データプラン50GB+):定額でデータ通信を30GB以上利用できるプラン
  • スマホ向けデータ従量課金プラン(ギガライト、auピタットプラン、データプランミニ):データ通信の量によって料金が変わるプラン
  • スマホ向け特定のサービスとの組み合わせ(auフラットプラン25 Netflixパック、auフラットワン7プラス):Netflix、Twitter、Instagramなど特定のサービスをデータ使用量から免除したプラン
  • フィーチャーフォン向け料金プラン

このプランをみる限り、大手三社はセグメンテーションの軸として1. データを使う量2. スマホかフィーチャーフォンか、の2軸の行動変数を用いて、それぞれのお客さんに向けた料金プランを出していることがわかります。

また、各社ともに割引では違うセグメントの切り方をしています。割引では、家族割、学割、他のサービスとのセット割(ドコモ光セット割、auスマートバリューなど)、継続割引、スマホへの移行割引、などがあります。

これは、お客さんを1. 世帯数(家族がいるかどうか)2. 学生かどうかという人口統計的属性に加えたセグメント、3. 他のグループ会社のサービスを利用しているか4. 自社のサービスをどれだけ長く使ってくれているかという行動変数を用いたセグメントを用いていると推測されます。

この携帯電話のデータプラン例のように、セグメンテーションの方法は一つではありません。複数の切り口からマーケティングの打ち手を考えていくことが重要です。

次のステップ

セグメンテーションでお客さんを分類することができました。次のステップは、「どのお客さんを狙うか」を決める「ターゲティング」です。ターゲティングはなぜ行う必要があり、どうやって行えば良いのか、そして具体例はどのようなものがあるのでしょうか。

次の記事ではターゲティングについて説明します。

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