米国の史上最大の景気対策は、経済を救えるのか?

6週間で3,000万人が失業給付の申請をした米国ですが、経済を救うために、政府・議会が「史上最大」の景気対策を取っています。この景気対策は、米国経済を救えるのでしょうか?

この記事を読むと、米国経済の現状の理解が深まると同時に、影響の大きい産業と小さい産業もわかり、投資にも役立つ可能性があります。

失業率の急上昇

米国では6週間で3,000万人が失業給付の申請を行いました。4月23日(木)に発表された新規失業申請の件数は440万人、4月30日(木)発表の数字は384万人。伸びは鈍化してきていますが、依然として高い水準です。

Jobless Claim Chart from BBC

米国で16歳以上の就労可能な人口の数は2億6000万人。労働者の数は、2月末の時点で約1億6,500万人で、労働参加率は63%、失業率は3.5%でした。

米国の失業のデータはUS Bureau of Labor Statisticsが毎月、月の始めに出しています。4月のレポートによると、3月末の就業者数は1億5570万人で300万人減少。失業者数は710万人で、150万人増加。失業率は前月から0.9%上昇して、4.4%でした。

TOTAL Feb.
2020
Mar.
2020
Mar – Feb
Civilian noninstitutional population 259,628 259,758 130
Civilian labor force 164,546 162,913 -1,633
Participation rate 63.4 62.7
Employed 158,759 155,772 -2,987
Employment-population ratio 61.1 60
Unemployed 5,787 7,140 1,353
Unemployment rate 3.5% 4.4%
Not in labor force 95,082 96,845 1,763
Persons who currently want a job 4,962 5,5

3月末からの6週間での新規失業申請は3,000万人。2月末の失業者数と合わせると、3,500万人。つまり、現在は、就労可能な人の約5人に1人が失業給付を受け取っている計算になります。

想像してみてください。単純計算で友人同士で5人集まると、1人が失業しているのです。

どこの産業がもっとも影響を受けているでしょうか?

特に旅行、レジャー、レストラン業界(Leisure and Hospitality)はほぼ壊滅状態です。3月の時点で20%の人が失業しました。下の表のように、3月の時点で、46万人がこの業界で職を失っています(U.S. Bureau of Labour Statisticsより)

業界 2020 MAR(1000人) 割合 3月の変化 (1000人)
Mining and logging 708 0% -7
Construction 7,605 5% -29
Manufacturing 12,839 9% -18
Trade, transportation, and utilities 27,781 19% -49
Information 2,899 2% 2
Financial activities 8,853 6% -1
Professional and business services 21,507 14% -52
Education and health services 24,523 16% -76
Leisure and hospitality 16,393 11% -459
Other services 5,919 4% -24
Government 22,759 15% 12

失業は労働者の観点からすると、収入、精神の健康面で問題ですが、国家の観点から見ても大きな問題です。

GDPは「労働可能な人口 x 労働参加率 x 生産性」で計算されます。

失業が増えると、労働参加率が減ります。つまり、GDPは減少します。

また、失業が長引くと、その人は価値を社会に生み出す機会を失います。何割かの人は諦めて労働市場から出て行ってしまい、社会福祉に頼ることになります。よって、GDPを短期的のみならず、長期的に押し下げるとともに、財政的にも負担になります。

そのため、国家運営の観点からすると、出来るだけ労働者が雇用されている状態を維持したく、失業者には一刻も早く職場に戻って欲しい、という動機があります。実際、米国の財政政策はこの2点を目標にして、巨額の支出を行なっています。

米国の第一四半期のGDP

外出禁止令が発令されたのは3月中盤からであり、第一四半期への影響は限られます。それでも米国の実質GDPは年率換算で4.8%の減少となりました。

前期が年率2.1%の成長だったことを考えると、大きな落ち込みです(出典:BEA “Gross Domestic Product, 1st Quarter 2020”

US 2020Q1 GDP

GDPは個人消費、設備投資、政府支出、純輸出、の4つに大きく分けられます。

米国の第一四半期は、個人消費、設備投資が落ち込んでいます。一方、政府支出は1%の増加で、設備投資の減少分と相殺しています。

US GDP 2020Q1 vs 2019Q4

米国は個人消費の国です。個人消費がGDPの約70%を占め、投資と政府支出が20%弱で、輸入が輸出よりも多い国です。

もっと言えば、クレジットカードやローンで借金をして消費を増やしているという国です。消費が減少しているというのは、赤信号です。

また、米国はサービス業の国でもあります、個人消費の約2/3をサービスへの消費が占めます(残りは車や食料品などのモノへの消費)。

個人消費のサービスのうち、特に支出の割合が大きいのは家庭・公共サービスで消費に占める割合は19%、ヘルスケアへの支出は次いで17%です。

US GDP Service 2020Q1

セクターごとに見てみると、家庭・公共サービス、金融サービスが好調な一方、その他のサービス業は大きな影響を受けていることがわかります。

食事・宿泊などの産業で失業が増えているのも納得できる数字ですね。

外出禁止の影響がよりはっきりとしてくるのは次の第二四半期のデータです。経済への影響はどの程度と予測されているのでしょうか?

米国の2020年、2021年の経済の見通し

米国のCBO (Congressional Budget Office)が4月24日に第二四半期以降の経済の見通しを発表しています。

CBO Economic Outlook (CBO Press Releaseより)

CBOによると、第二四半期のGDPは11.8%の減少、第三四半期、第四四半期は5.4%、2.5%と回復していく、と予想されています。

現在の21.6兆ドルのGDPは第二四半期には19兆ドルと、20兆ドルを切ることが予想されています。CBOの予想によると、2021年末の時点でも、GDPは2020年の第一四半期の水準まで戻りません

つまり、それだけ今回のコロナウイルスの危機の爪痕は大きいということです。

失業率は第三四半期に16%になると予測されています

こちらは経済が再開し、現在失業給付を受給している3,500万人の人たちの一部が職場に復帰することを想定していると考えられます。具体的には、失業給付を受給している人の数が現在の3,500万人から、2,640万人まで約850万人減ることを予想しています

今回の失業をきっかけに、現在の労働者の5%にあたる800万人の人が、労働市場に戻るのを諦める、つまり「就職するのを諦める」、と予想されています。それに伴い、労働参加率も2月末の63%から60%まで落ちると予想されています。

先に述べたように、労働参加率が落ちることは、GDPの下押し要因になります。それでは、どのようにこの経済・雇用危機に対応するべきでしょうか?

米国の財政対策

未曾有の経済危機に対応するため、米国は次々と財政対策を打ち出しています。

CARES Act

最も大規模で包括的な財政政策は、3月末に成立したCARES Actです、

この法案は、$2.2tn (240兆円)の史上最大の景気対策法案であり、国民・企業・州政府・自治体が危機を乗り切るために、以下の対策が含まれています(出典: US Department of The Treasury

国民の生活を守るための施策

  • 大人1人あたり$1,200、子供1人あたり$500の小切手での給付(所得制限あり)
  • 失業した場合、13週間の間、週$600を連邦政府が追加で支払い(州の失業給付に加えて)
  • コロナウイルスの検査は無料。また治療も民間保険でカバーされる。

大切なことは、国民が生活を送れるようにすることです。生活費を補助するため、夫婦・子供2人の4人家族であれば、$3,400 (37万円)がもらえます。かなり多額のバラマキです。

また失業しても月に$2,400連邦政府からもらえ、加えて州からも失業給付が出ます。

州により失業給付の額は異なりますが、平均すると週$900程度(10万円)もらえるため、パートタイムで働いている人によっては失業中の方が収入が高くなるケースも多いです。

具体的には、労働者の平均の収入は3月末で週$980でした。上乗せされた失業給付はこの平均額を元に計算されているとのことですが、「平均」ということは多くの人が平均以下の週給であるため、働かずに週$900というのはかなり寛大な額です。

特に失業が多く発生している、ホスピタリティ、飲食は一般的に低賃金の職業です。新規失業申請を出している人の中には、働き続ける選択肢がありながらも、失業給付を受給した方が、自分の時間をもて、かつ収入もよくなるために申請をしている、という人も多数含まれていると考えられます。

中小企業向けの施策

  • Pay Check Protection Program: 従業員500人以下の中小企業向け。一定条件を満たせば、8週間分の従業員の給与を国が提供(ローンだが返済義務がなくなる)
  • Emergency Economic Injury Disaster Loan Program: コロナ危機で大きな影響を受けた500人以下の中小企業向け。返済不要の$10,000の支給
  • Employee Retention Credit: 従業員あたり$10,000まで、税金を減らすことができるクレジットが与えられる(ただし対象となる企業には条件がある)

中小企業向けの施策は「潰れないようにすること」、「雇用を維持すること」に重点が置かれています。

コロナ危機が落ち着いた後に経済活動が素早く再開できるよう、緊急でつなぎの融資が受けられるような仕組みも用意されています。

大企業、州・自体体への支援

  • 特定業界への支援(例: 航空業界への$25bの給与支払い支援)
  • 州・自治体への支援
  • 借り入れのプログラム
Morgan Stanleyの記事より

何がなんでも経済・産業を崩壊させない、という意思を感じる、大企業、州政府向けの支援の法案です。

加えてFRBが無制限の国債・社債の買取も行なっており、金融政策の面からも援護射撃を行い、企業が資金切れにならないようにしています。

追加の支援

4月24日に$484bn (52兆円)の景気対策が議会を通過しました(the Paycheck Protection Program and Health Care Enhancement Act)。

大部分の$320bnはPaycheck Protection Programの枠の増加です。

中小企業が殺到して、第三弾で用意した分がわずか13日で枯渇したため、今回の景気対策で枠が増加されました。

$60bnは農家向けのローンと補助金です。

$75bn (8,200億円)は病院へ、$25bnはコロナウイルスの検査の拡充に回されます。$25bnのうち、$11bnは州に回される予定です。

参考:The White House Press Release

さらに追加の支援

さらに$1tn (110兆円)規模の第五弾の景気対策が民主党と共和党で議論されています。財政難に喘ぐ州を連邦が救済すべきか、が焦点になっています。

財政赤字

Bloombergより

これらの大盤振る舞いの結果、すでに合意されている政策だけでも2020年だけで$3.8tn (410兆円-米国GDPの約18%)の赤字が見込まれています。

2020年末の米国の債務残高はGDPを超える101%となる見込みです

FRBが国債の無制限の買取を行なっているため、実質的に米国では政府が借金をして、中央銀行がドルを刷る状態になっています。ドルが刷られるということは、それだけ世の中にドルが溢れるということです。

「現在は非常時であり、財政赤字はこの危機を乗り切ってから考えれば良い」と米国議会は大幅な財政政策を党派を超えてスピード合意しています。

しかし、家計・企業・政府に積み上がる債務は消えるわけではありません。コロナ後に膨れ上がった債務をどうするかは将来に持ち越される課題です。

景気対策は十分か?

3.8bnの景気対策に加えて、さらに$1tn(110兆円)の追加の支援が追加されると、1年のうち、3ヶ月分のGDPに相当するほどの景気対策が打たれようとしています

異なる言い方をすれば、日本のGDPは$4.9trillionのため、追加の景気対策が実現すれば、米国の景気対策はほぼ日本一国分になる、とも言えます。

その大部分は雇用の維持、生活給付、雇用の維持を前提とした企業救済、に割かれています。これだけの財政支出を行なって国民の所得を保障しているため、国民の所得へのダメージはかなり緩和されており、消費が急激に減少することにはならないでしょう。

そのため、仮に第二四半期の企業活動がかなりストップしてしまっても、6月末までに経済活動をある程度正常化できれば、国民の生活や企業の経済活動へのダメージをかなり緩和できると考えられます。

副作用はないのか

財政政策は無からお金を取り出す打ち出の小づちではなく、「国債」の発行により賄われています。この国債は保有者に利子を支払う必要があるため、将来にわたり、歳出を増やすことに繋がります。

利子の支払いが増えるとどうなるでしょうか? 将来、さらにお金を借りて利子を返済するか、税金をあげて歳入を増やすか、あるいは社会福祉などに回していた歳出を減らす、などしなければならなくなります。

もちろん、現時点での危機を放置することで将来に影響が出るため、大切なのは現時点と将来のバランスです。

現在の危機を乗り越えるために国債発行を増やせば増やすほど、将来の課題も大きくなること、は忘れてはならない点でしょう。

また、FRBが投資適格でない企業の社債まで含めて購入するなど、相当の緩和を行なっているので、市場はお金であふれています。FRBがバキュームカーのように国債、社債、ローン担保の債権を購入しているため、FRBのバランスシートが急速に膨れ上がっています。

これだけの規模の緩和ですから、当然FRBが資産を減らそうとした時の舵取りが難しくなります。FRBが緩和を続ければ住宅などの資産価格のバブルを生む可能性が高まりますし、緩和が早ければ市場は動揺して荒れる可能性が高まります。

また、何かあってもFRBが最後には買ってくれるだろう、という安心感から、投資不適格な債券にまでお金が大量に流れており、市場が適切にリスクを価格に織り込んでいません。これはある種のモラルハザードであり、どこかで揺り戻しがある可能性もあります。

財政政策、金融政策ともに、今は非常時の対応として市場最大の打ち手を打っており、薬漬けの状態です。

お薬の副作用がどの程度か、お薬が切れたときにどんな反応が来るのか、には注意を払っておいたほうが良いでしょう。

まとめ

  • 現在、起きているのは未曾有の経済・雇用危機であり、国民の5人のうち1人が失業状態にある。
  • 第一四半期のGDPは前期比1%減だが、第二四半期は11.8%の減少が見込まれている。
  • 米国の経済は2021年末になっても、コロナ危機前の水準には戻らない見通し。
  • 経済への影響を緩和するため、史上最大の財政政策が取られている。追加緩和を含めると、ほぼ3ヶ月分の経済活動に当たる額を政府が支出し、経済を支えようとしている。
  • 一方、債務は積み上がっているため、今回の危機時に増えた政府・企業の債務は、危機の後に副作用を及ぼす可能性が高い。
  • 財政政策・金融政策ともに今は非常時の対応だが、バブルを生みかねない規模の緩和。緩和の出口に市場が荒れる可能性があることに注意。

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はじめての経済:ストーリーでわかる、政府

中央銀行(日銀やFRB)の金融緩和、政府の大幅な財政支出、と連日ニュースが続きます。しかし、「そもそも経済はどのように回っているのか」は、あまり説明されたことがないのではないでしょうか。

前回の記事では、企業、家計、銀行について説明しました。

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今回は、前回の続きです。政府の役割を、わかりやすい例で説明します。この記事を読むと、経済ニュースを聞いた時の理解度が上がるかもしれません。

前回までのあらすじ

小さな100人の村に銀行ができたことにより、村のお店(企業)が投資を行い、ビジネスを拡大。

それに伴い、企業が人をより雇い、より多くを生産したことで、村の経済は豊かになりました。村の人口は100人から200人に増え、村の経済規模は月1,000万円から2,000万円へと倍増。

喜ぶ村長を尻目に突然の疫病が村を襲い、村に高熱で呼吸困難な人が増える。

村長は苦渋の決断として、村民に「不要不急の外出禁止令」を出す。これにより、村に10あるお店のうち、5つは必要なお店(クリニック、スーパー、薬局など)なので、社会的距離を保ちながらならば開けても良いけれど、残りの5つ(飲食、建設など)は不要不急ということでお店を1ヶ月間閉じることに。

5つのビジネスで働く100人の村民は、1ヶ月間、仕事がなくなり、収入もなくなります。蓄えがないので、収入が1ヶ月間なくなっては、生活できません。

お店のオーナー、従業員、銀行は大慌てで村長の所にやってきました。「村長、助けてください!」

政府の始まり:借金、税金

村長は悩みます。疫病が蔓延して村の人々の命が脅かされるのは村長として許容できませんし、同時に村民の半分の生活が成り立たず、食べるにも困ってしまうのも困ります。かと言って、村長には個人としてこれだけ多くの人を助けることもできません。

「仕方ない。お金を借りにいこう」

村長は、より豊かな隣町の町長の所へ行きました。

「町長さん、うちの村で疫病が蔓延してしまい、村の半分の人が収入が途切れて、困っているんだ。1人あたり月あたり平均10万円必要で、100人なので、1,000万円必要なのだけど、なんとか借りられないかな。疫病が落ち着いたら、村としてお金を集めて返すから」

町長は少し悩みますが、隣の村は大事な交易相手で、疫病で潰れられてしまっても困ります。「仕方ない。1年後に利子5%をつけて返してくれるならばいいよ」と言って、1,000万円を貸してくれることになりました。

村長はその1,000万円を村に持ち帰り、村民に伝えます。

「今回の疫病を皆で乗り越えるために、隣町から1,000万円を借りました。この1,000万円を、疫病のために仕事ができず、生活に苦しんでいる100人に割り振るつもりです。

ただし、これは借りたお金であり、1年後には隣町に返さなければなりません。今回、これはみんなの生活に影響することのため、今後1年間は1人当たり、毎月5,000円を集めさせてもらえないですか?」

お店が疫病の影響を受けていない村民は、毎月5,000円というお金を出すということにやや戸惑います。しかし、事態の深刻さを身を持って感じていますし、村の半分の人の生活が困窮してしまえば、最終的に自分たちのお店の売上も落ちてみんなの生活が苦しくなる、という村長の発言に納得しました。多数決の結果、賛成多数で、村長の提案を受け入れることにしました。

疫病の蔓延で仕事ができなくなった人たちは、1ヶ月の間、給与と同じ額の支援金を受け取ることができるという、村の決定に感謝しました。そして、全ての村民は、外出を控えることを可能な限り守りました。

1ヶ月の後、疫病は無事におさまりました。全ての村民は平均10万円の給与・支援金を受け取りました。200人が受け取った額は、2,000万円でした。

そして、村民が給与・支援金を受け取った時に、5,000円は自動的に「村口座」へ振り込まれました。そのため、実際に受け取った額は平均10万円ではなく、9万5,000円になりました。村民が消費できる額は、200人で1,900万円になりました。

村口座には、200人からそれぞれ5,000円が天引きされたため、100万円が振り込まれました。このままのペースでいけば、年間1,200万円が貯まるため、村が隣町へ借りている金額に利子を加えた1,050万円を返済することができます。

村長はほっと一息つきました。

今回のストーリーから学べること

ここで、今回のストーリーを振り返ってみましょう。

今回の危機で、村長は、個人を超えた、「村」という行政組織を設立しました

お店、村民、銀行だけでは、今回のような危機を乗り越えることができませんでしたが、村として外部からお金を借り入れ、村民にお金を支給することで、生活の危機に陥りそうだった村民を救い、村として危機を乗り切りました。

また、その条件として、村長は村民からお金を定期的に徴収することの仕組みを導入することに成功しました。

これらを言い換えると、村長は政府(村という行政単位)を設立し、債券(いくらを、どれくらいの利率で借りて、いつ返済するかの約束)を発行してお金を手に入れ、徴税(お金を定期的に徴収すること)の仕組みを作りました。

現実の社会とどう関係するの?

政府は個人や企業だけではできないような大胆な施策を打つことができる一方で、政府が施策を計画・実行するためには、お金が必要になります。

そのお金を政府に属する国民から得る仕組みが、徴税です。徴税を導入するのは権力者が力で行う場合もありますが、今回の村の例ですと、危機をきっかけにして「村」という単位で物事が動き始めました。

経済が大不況になった時に、政府が債券を発行して消費を増やすのは、今の社会でも行われる有力な処方箋です。コロナウイルス対策として各国が大規模な経済対策を打ち出しているのも、同じ考えに基づいています。

また、日本の例では、東日本大震災の後に、復興のために巨額の財政支出がくまれ、その後に「復興特別所得税」として所得税に増税が行われました。今回の村の例と同じですね。

もう一つ大事なポイントは、「危機の後に徴税が増えると、村民の所得が減り、消費も減る」ということです。

今回の場合のように、借金を返済するための税金は、消費を減らします。政府が税金を借金返済に回す場合、輸出が増えない限り、村の中の消費は縮小し、経済規模は小さくなります。

実は今回のストーリーの前提は、輸出(=村の外への売上)が増えないと成り立たない話です。村の中で消費される金額が1,900万円ですと、輸出がなければ、企業の売上の最大は1,900万円で、従業員の所得の最大も1,900万円になります。

1,900万円の所得から100万円の税がとられると、企業の売上の最大は1,800万円になり、従業員が受け取れる金額も減り、と繰り返していくともうお分かりですね。経済規模がする中で政府が税金を高止まりさせ、財政支出をしないと、経済規模は縮小していきます。

危機の際に借金を増やす国は多いですが、その借金がどのように処理されるか、には要注目です。

その後

早いもので、さらに11ヶ月が過ぎ、町長へ借金返済の時がやってきました。この1年間で「村口座」には毎月100万円が振り込まれたため、村口座には1,200万円が貯まっています。

村長は隣町の町長へ1,000万円と約束した利子の50万円の計1,050万円を支払いました。村口座には、まだ150万円が残っています。

村民の一部の人は、村が借金を返し終えたら1人あたり毎月5,000円を支払わなくてよくなり、より消費ができようになる、と楽しみにしています。

町から帰った後、村長は村民を集めて、借金を返し終わったことを伝えました。良いニュースを期待する村民に対して、村長は言いました。

「村として借金は返し終わりましたが、これからも月5,000円は自動的に村口座へ振り込まれます」

「なんで!!」

何人かの村人が叫びました。

続く、かもしれないです。

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はじめての経済:ストーリーでわかる、企業、家計、銀行

中央銀行(日銀やFRB)の金融緩和、政府の大幅な財政支出、と連日ニュースが続きます。しかし、「そもそも経済はどのように回っているのか」は、あまり説明されたことがないのではないでしょうか。

今回は、お金が世界をどう回るのかを、わかりやすい例で説明します。この記事を読むと、経済ニュースを聞いた時の理解度が上がるかもしれません。

企業と家計

小さな100人の村を考えてみましょう。10人はオーナー社長で、お店を運営しており(クリニック、スーパー、飲食など)、それぞれ1つのお店を持っています。残りの90人は従業員です。

それぞれのお店は毎月100万円稼いでおり(材料などは近くの山や川からとってきて無料で、かかる費用は人件費だけとします)、オーナー・従業員はそれぞれ毎月10万円もらって、10万円使うとします。

  • すると、企業が稼ぐお金は 100万円 x 10社 = 1,000万円
  • 社長・従業員がもらうお金(「家計」としましょう)と使うお金は 10万円 x 100人 = 1,000万円

企業が稼いでいるお金と、家計が受け取るお金、家計が使うお金、は等しくなります。お金は企業→家計→企業→家計、とぐるぐる回っていきます。世の中に回っているお金は1,000万円です。みんなその月暮らしですが、平等な村ですね。

この村のGDP (Gross Domestic Product)という経済の指標は、実はこの1,000万円になります。村が生み出した付加価値の合計です。多くの村が、このGDPを上げることが人々の幸せに繋がると考え、この指標を上げることを目指しています。

銀行と企業投資

ここで、村の1人が「僕が兼業で『銀行』をやるよ」、と言い始めました。この「銀行」ではお金を預けることも、お金を借りることもできるようです。また、「銀行」を通じてお金のやり取りをすると、現金を直接やり取りしなくても良いようです。

現金を持ち歩かずにすむのなら、と企業もお金を預け、家計もお金を預けます。企業も家計も全てのお金を銀行に預けました。銀行には企業・家計からの預金合わせて、1,000万円のお金が入っています。

あらゆる決済が銀行口座に紐づいて、銀行役に連絡をするだけですむので、誰も現金を企業や家計に置きません。みんなラクラクで嬉しそうです。

ここで、野心あふれるあるオーナーが牛丼のお店を増やしたいので、「お金を借りたい」と言い始めました。

「牛野屋」としましょう。牛野屋は新しいお店を開くのに、「300万円かかる」と言い、「300万円を1年間借りたい」と言ってきました。

銀行は、「毎月1%の利子を支払ってくれるならいいよ」、と言ったので、牛野屋は300万円を借り、銀行は牛野屋さんの口座のお金を増やしました。牛野屋は建築業者に300万円で仕事を依頼しました。

建築業者は、仕事をし、牛野屋から受け取った300万円を銀行に預けました。

するとどうでしょう。銀行の手元には1,300万円分の預金があります。あれ、不思議ですね。300万円増えています。牛野屋へ貸し出された300万円がまわりまわって、預金になりました

つまり、貸出を行なったことで、銀行は村の中に回るお金の量を増やしたことになります

牛野屋は新しいお店を開店し、隣町から新しく10人を雇用し、月100万円を売り上げるお店になりました。

牛野屋はビジネスがうまくいっていれば元本はまた来年借りればいいやと利子返済以外は従業員に支払うこととし、従業員には毎月9万7000円ずつ渡すことにしました。つまり、97万円は従業員に、毎月3万円分は利子返済に回すことにしました。

銀行役は月10万円の給与に加えて、月3万円の利子をもらい、消費に回しました。これらの従業員もお金を銀行に全てを預けたため、銀行に新しく100万円が預金され、銀行を回るお金は1,300万円 + 100 万円で、1,400万円になりました。

  • 村では、新しく牛丼屋が100万円を売り上げるようになったので、お店の数は11に増え、「企業」の売上は1,100万円です。
  • 110人が働き、平均給与が月10万円ですので、「家計」がもらうお金も、消費するお金も1,100万円です。
  • 村の中の預金額は1,400万円で、借金額は300万円です。

牛野屋の投資により、企業の売上・家計の収入・消費が100万円増えてますね。さらに、借り入れを行なったことで、その分村の中を回るお金も300万円増えてますね。

これが銀行の役割の一つです。銀行は、世の中に回るお金を増やして投資を促し、経済のパイを大きくします

投資ブーム

牛丼屋の成功を見た他の9人のオーナーも我も我もと同じ「300万円を1年間、利子月1%」の条件で借り入れを行い、新しいお店をオープンしました。新しいお店はそれぞれ従業員を10人雇用し、オーナーは売上100万円のうち、銀行に月3万円支払う以外は従業員に回しました。

銀行役の人は大喜びです。なにせ、1人で月10万円の給与に加えて、3,000万円を貸出した利子の1%である30万円が入ってきて、毎月40万円もらえているからです。しかし、銀行役は湯水のようにお金を使って、毎月全部消費します。

  • 村のお店の数は20に増え、隣町からさらに90人が移動してきて、人口も200人に増えました。企業の売上は2,000万円です。
  • 200人が働き、平均給与は月10万円で変わらず、家計がもらうお金も、消費するお金も2,000万円です(ただし、100人の給与は9万7000円、99人の給与は10万円、1人の給与は40万円です)
  • 村の中の預金額は5,000万円で、借金額は3,000万円です。

銀行がせっせと貸出を行なった結果、貸出金額が企業の売上高よりも大きくなりました。

このことからもわかるように、銀行は預金額以上の貸出を行うことができます。なぜなら、銀行は何か現物を右から左へ貸し出しているわけではなく、貸出を通じて、お金を創造しているからです

みんなの景気が良い時には、企業の投資意欲が高く、銀行が貸出を増やし、企業は投資をして、雇用が生まれ、消費が増えて、さらに企業の投資意欲が高まって、と良い循環が回っていきます。

村Aは人口が2倍のが200人、売上も2倍になり、GDPは2倍の2,000万円になりました。村長さんは大喜びです。

ブームの綻び

しかし、良い時はずっとは続きません。突然、村に疫病が蔓延、村長は村の住人に1ヶ月間の外出禁止令を出しました。

ここで大変なのは、ビジネスをしているオーナー達です。村にある10の事業のうち、5つは必要不可欠な事業(クリニック、スーパー、薬局など)なのに対して、残りの5つの事業は必要不可欠でない事業(飲食など)と見なされ、営業できなくなってしまいました。

  • 事業が継続できないオーナーはパニックです。売上が上がらなければ、従業員への給料も支払えませんし、銀行への利子も払えません。
  • 従業員もパニックです。給料が入ってこなければ、生活ができません。
  • 銀行もパニックです。融資をした企業が潰れてしまえば、お金を回収できません。

このような事態になった時に、村としてはどうしたら良いでしょうか? 企業、家計、銀行だけでは解決できません。ここで、「政府」の役割が重要になります。

政府のストーリーは、こちらです。

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投資だけでなく、本業にも役立つ、分析まとめ

企業、業界、社会についての分析記事も30を超えました。「投資だけでなく、本業にも役立つ」という嬉しいフィードバックを様々な方からいただけましたので、これまでに書いた記事をまとめてみます。

お好きな記事をどうぞ。これらを読むことで、「そんな見方もあるのか」という発見や、「新しい投資の機会」を見つけることができるかもしれません。

株式投資

米国株投資の先行指標

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投資手法

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米国業界

航空機業界(ボーイング、エアバス)

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原油価格

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米国の社会

マクロ経済

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コロナがヘルスケアに与える影響

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米国のヘルスケア制度の概要

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米国個別株

GAFAM (Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)

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グーグル (Google)

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アマゾン (Amazon)

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フェイスブック (Facebook)

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ジョンソン・アンド・ジョンソン(Johnson and Johnson)

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ボーイング (Boeing)

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アリババ (Alibaba)

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日本個別株

ソフトバンクグループ

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三菱商事

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三井住友フィナンシャルグループ

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メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)

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ホテルREIT

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インフラファンド

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日本の社会制度

MMT (現代貨幣理論)

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日本社会

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日本の財政

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国民年金

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企業分析・業界分析の方法

ANAとJALで学ぶ、はじめての業界分析

ANAとJALで学ぶ、はじめての企業分析

記事が参考になれば、嬉しいです。

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コロナが米国ヘルスケア株に与える影響(病院・製薬・医療機器)

新型コロナウイルス(以下コロナ)の広まりは、米国の病院、製薬・医療機器メーカーの経営にも大きな影響を及ぼしています。今回はどうしてコロナがビジネスに影響を与えるのか、どの業種に被害が大きいのか、今後の見通し、について書いていきます。

どうしてコロナがビジネスに影響を与えるのか

一言でいうと、新型コロナウイルスが病院の資源を奪うからです。


コロナは感染力が強く、医療従事者が感染から身を守るための個人用保護具(PPE – Personal Protective Equipment)が必要となります。わかりやすい例でいうと、医療用マスクです。これらの保護具は手術においても使われるため、コロナに保護具が回されると、他の手術に影響が出ます。

また、コロナの患者は他の患者から隔離する必要があるため、個室対応が必要になります。また、重症化しやすく、かつ症状が出ている期間が長いこともあり、集中治療室を占有する期間も長くなります。

加えて、コロナの患者さんのケアのために、感染症専門医、呼吸器専門医だけでは足りず、その他の専門の医者まで動員、または待機状態にされている病院も数多くあります。

上記のように、コロナへの対応は病院の人・モノの資源を多く必要とするため、必然的にその他の手術や外来が制限されます。これにより、手術や外来により処方または使われる医薬品・医療機器の販売に影響が出ます。

また、病院にとって、コロナの患者は「儲かりません」。なぜかというと、ベッドを利用する時間が長く、病院の人・モノを多く要求するわりに、保険請求できる額が少ないためです。米国の場合、特に重症化しやすい高齢者はメディケアでカバーされており、一般的にメディケアの保険償還額は民間保険より低いことも要因の一つです。

加えて、米国の私立病院では手術に特化し、手術の回転率を上げることで稼いでいる病院が多いため、コロナで手術を延期せざるを得なくなるのは、売上にはかなりの痛手です。

実際、手術と外来の下落により、病院はナースなど医療従事者を一時解雇し始めています。すでに数千を超える医療従事者が一時解雇されました。

どの業種への影響が大きいのか

医療の世界では、治療の「ガイドライン」があり、多くの病院、医療関係者はそのガイドラインを参照しながら、治療方法を決めていきます。

アメリカのコロナへの対応については、Centers for Medicare and Medicaid Services(CMS – 高齢者用のメディケアと低所得者用のメディケイドを管轄している政府機関)が医療機関宛に向けて、ガイドラインを出しています。

具体的には、「不急の」手術を延期して、コロナにかかった患者の受け入れを優先することを促す内容です。延期の目的は、医療関係者を守るPPEをコロナ対策に回せるようにし、院内感染のリスクを減らすためです。

このガイドライン自体に強制力はありませんが、CMSは国の保険機関であり、病院からすれば支払いを行ってくれる相手でもあるため、医療機関はある程度従うと考えられます。

手術が必要な緊急度と感染のリスクに応じて、3つのTier(階層)に分かれています。

Tier 1は不急の手術で、延期が強く推奨されています。手根管症候群(Carpal tunnel)や白内障手術(Cataracts)、内視鏡検査(Colonoscopy, Endoscopies)がこのカテゴリに含まれています。

アメリカは世界一大きな医療産業をもつため、グローバル企業でこのカテゴリの製品を扱っている企業は少なからず影響を受けるでしょう。具体例をあげると、内視鏡(Endoscopy)はオリンパスが高いシェアをもつので、オリンパスの医療機器部門は第二四半期(4月-6月)で影響を受ける可能性が高いです

Tier 2は緊急ではない手術で、低リスクのガンや整形外科(股関節や膝の人工関節手術など)、泌尿器の手術などが当てはまります。

整形外科はJ&JやStrykerなどが強い分野です。Strykerはコロナによる手術の延期により、相当の影響を第二四半期で見込んでおり、通期の売上見通しを取り下げています。

Tier 3は緊急性の高い手術です。ガン手術、心臓に関わる手術、移植手術、足を切り落とさなければならなくなる病気の手術などがあたります。これらの手術は緊急性が高いため、延期される可能性が比較的低いと想定されます。

Tiers Action Definition Locations Examples
Tier 1a Postpone surgery/procedure Low acuity surgery/healthy patient
Outpatient surgery
Not life-threatening illness
HOPD*
ASC**
Hospital with low/no COVID-19 census
Carpal tunnel release
EGD
Colonoscopy
Cataracts
Tier 1b Postpone surgery/procedure Low acuity surgery/unhealthy patient HOPD
ASC
Hospital with low/no COVID-19 census
Endoscopies
Tier 2a Consider postponing surgery/procedure Intermediate acuity surgery/healthy patient
Not life-threatening but potential for future morbidity and mortality.
Requires in-hospital stay
HOPD
ASC
Hospital with low/no COVID-19 census
Low risk cancer
Non-urgent spine & ortho: including hip, knee replacement and elective spine surgery
Stable ureteral colic
Elective angioplasty
Tier 2b Postpone surgery/procedure if possible Intermediate acuity surgery/unhealthy patient HOPD
ASC
Hospital with low/no COVID-19 census
Tier 3a Do not postpone High acuity surgery/healthy patient Hospital Most cancers
Neurosurgery
Highly symptomatic patients
Tier 3b Do not postpone High acuity surgery/unhealthy patient Hospital Transplants
Trauma
Cardiac with symptoms
Limb threatening vascular surgery

ガイドラインの中でTier 1/2の手術については、コロナの影響で延期される可能性が高く、第二四半期へのダメージが大きくなります

加えて、コロナ対策のためにベッドやICU(Intensive Care Unit – 集中治療室)を開けておく必要があるため、手術の件数自体が少なくなります。

手術の件数が少なくなるということは、病院の収益も減りますし、製薬・医療機器メーカーも業界として影響が出ます。なぜかと言うと、病院・医療機器メーカーにとっては、手術が売上の多くを占めるためです。製薬メーカーにとっても手術時、手術前後で用いられる薬があるため、こちらも売上に影響が出ます。

また、どの病院も今期は売上が厳しくなる可能性が高く、そうなると設備投資が減らされる可能性が高いです。例えばGEやシーメンスなどはMRIなど大型の医療機器を作っているため、今期の売上が厳しくなる可能性があります。

また、CMSのガイドラインはあくまでも全体をくくったざっくりとしたガイドラインであり、実際には各専門領域の中で、学会がガイドラインを策定しており、今回のコロナの件でも「どの手術は緊急性が高く、どの手術は延期すべきか」、というガイドラインをすでに出している専門領域が多いかと思います。

具体例(Johnson and Johnson)

具体例を見ていきましょう。例えば、J&Jの医療機器部門ですが、最も大きいのはOrthopedics(整形外科)でCMSのガイドラインでTier 2です。一般的に整形外科は緊急性が高い手術の割合がそこまで大きくないと考えられ、延期によりダメージを受ける可能性が高いです。

次に大きいのは、Surgeryですが、こちらも手術の件数が全体的に少なくなると、影響が出ます。

Visionは大半がコンタクトレンズのビジネスであり、こちらは日常的に利用されるものであり、影響は他の部署と比べると小さそうですが、人々が眼科に来ることを避けるようになれば、影響が出ます。

Interventional SolutionsはほとんどがElectrophysiology(電気生理学 – カテーテルによる焼灼です)であり、こちらは心臓を扱う部署でTier 3ですが、不整脈を対象とする手術が多く、緊急性がそこまで高くないことから、影響が大きいでしょう。

このように見ていくと、J&Jの医療機器のビジネスは第二四半期(4月-6月)はかなり影響を受けそうだ、ということがわかります。

今後の見通し

医療機器大手で、現時点でプレスリリースを出しているのはStrykerとBoston Scientificです。どちらも売上に影響が出ることをコメントしており、通期での売上予想を取り下げています。

また、上場している私立病院のQuorum Healthも売上減が背中を押して、破綻しています。

ただし、延期されたからといって、「病気がなくなるわけでも、手術の必要性がなくなるわけでもない」ため、次の四半期かその次の四半期に延期された手術が行われる可能性が高いと考えられます。

コロナの広まりがおさまり、正常な日々が戻った時には、私立病院も医療従事者も「今年の売上を上げるために、より長く働いて手術の予約をこなしていく」可能性が高いでしょう(米国私立病院での手術の場合、より多くの手術を行うと、より多くの報酬が支払われる場合が多いです)。

つまり、「一時的に売上は落ち込むでしょうが、需要は急回復する可能性が高い」と予想されます。

もし四半期決算で大幅に株価が落ち込むようなことがあれば、コロナによる混乱がおさまっていれば、狙い時かもしれません。

2020年通期では、外出規制が長引くと、人々が運動不足になり、ストレスも増え、生活習慣病になる人が増える可能性があります。特にアメリカはただでさえ糖尿病、高血圧の患者の人口が多い国であり、既往症がある人の悪化も心配です。

生活習慣病患者が増え、既往症のある人が悪化すると、より病院の必要性が増してしまうかもしれません。そうすると、保険会社にとっては支払額が増えるためにマイナスで、病院・製薬・医療機器メーカーにとっては、売上が上がるためにプラスになります。

また、長期的に見れば、今回のコロナの一件で州立病院への投資が進む可能性があり、患者さんの医療へのアクセスがよりよくなる可能性があります。こちらは長期的に見れば、患者さんにとっても、産業にとっても良い方向です。

米国の医療事情についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

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$30目前!急騰する原油価格はこのまま上がり続けるのか?

1バレル$20であった原油の価格が、2日で$29と急騰しています。世界の石油市場に、何が起こっているのでしょうか?供給側、需要側から見てみます。

この記事を読むと、職場で最も世界の石油市場に詳しい人になり、投資にも役立つ可能性があります。

石油の供給(OPEC、非OPEC)

世界の生産量は2017年末で日量約9,300万バレルです(バレルは単位)。

原油価格を維持するためのカルテル(連合)であるOPEC (Organization of Petroleum Exporting Countries) 加盟国の毎日の生産量は日量2,600万バレルで、1月は協調減産を行い、2,470万バレルでした。つまり、OPECは全世界の石油供給の25%を牛耳る連合になります。

特にサウジアラビアは世界最大の産油国で、OPECのほぼ40%、全世界で10%の原油を生産しています。

Reference Output
Pledged Cut Output Target Jan. 2020
OPEC+に占める割合
Saudi Arabia 10,633 -489 10,144 9,733 24%
Iraq 4,653 -191 4,462 4,501 11%
U.A.E. 3,168 -156 3,012 3,034 7%
Kuwait 2,809 -140 2,669 2,665 6%
Other OPEC 5,051 -192 4,859 4,775 12%
Total OPEC 26,314 -1,168 25,146 24,708 60%

OPECと協調して、減産を行なっている非OPEC産油国というグループもあります。非OPECの生産量は日量1,600万バレルで、特に生産量が多いのはロシアです。ロシア単独で、全世界の10%以上を生産しています。

Reference Output
Pledged Cut Output Target Jan. 2020
OPEC+占める割合
Russia 10,623 -300 10,323 10,389 25%
Mexico 1,744 -58 1,686 1,712 4%
Kazakhstan 1,689 -57 1,632 1,690 4%
Other non-OPEC 2693 -99 2594 2564 6%
Total Non-OPEC 16,748 -514 16,234 16,356 40%
Total OPEC+ 43,062 -1,682 41,380 41,064 100%

つまりOPEC+は全世界の40%の日量約4,000万バレルの生産をしていますサウジアラビアとロシアの2カ国が大きく、この2カ国で2,000万バレルを占めます。

OPEC+の枠組みの中では、サウジアラビアとロシアで世界の原油生産量の半分を占めるというのは大事なポイントです。(データはBloomberg “New Decade, New OPEC Oil Curbs. Same Mixed Results”より)。

サウジアラビアはOPECの盟主として、率先して減産を行なってきましたが、そのほかの国が必ずしもサウジアラビアに従ったわけはありませんでした。特にロシアはサウジアラビアほどは減産を行いませんでした。

原油の価格が暴落したのは、「サウジアラビアとロシアが減産で合意できなかったから」と報道されています。世界で3カ国しかない日量1,000万バレルを超える生産量を占める国々のうち2つが合意できなかったことが、市場にショックを与えました。

また、OPEC+以外の産油国が残りの半分以上を産出していることもポイントです。これは、OPEC+が必ずしも世界全体の石油供給をコントロールできていないことを示します。

特に、アメリカはシェールガスを中心として毎年100万バレル以上石油の生産を増やし続けてきました。

OPECからしてみれば、「俺たちは協調減産して価格を上げようとしているのに、アメリカが生産を増やすから俺たちだけが割りを食っている」という感じでしょう。

実際、アメリカの原油産出量は2019年に日量1,222万バレル、2020年には1,300万バレルです。アメリカは実は2018年にサウジアラビア、ロシアをすでに超えて世界最大の原油生産国になっています

世界の石油生産 (Bloombergより)

供給に関して、トランプ大統領が「日量1,000-1,500万バレル削減で合意できる」と言ったことで、石油価格は$20から$29まで急騰しました。

しかしながら、サウジアラビアとロシアの二国がここまでのカットに応じることができるかはやや懐疑的です。仮に2カ国で1,000万バレル削減するとすれば、両国の生産量のほぼ半分を削減することになります

何よりも、原油産出国からすれば、「原油価格が落ちているのはアメリカが生産を増やしているためだ」という思いがあるでしょう。生産量を削減するためにはアメリカがテーブルにつく必要があります。

しかし、近年のアメリカの石油産出増加の立役者はシェールガス業者であり、彼らの採算ラインは$40-50/バレルと言われています(Reuters Oil in the age of coronavirus: a U.S. shale bust like no other)

減産に応じればさらに採算ラインが引き上がるため(価格が上がっても、販売できる量がそれ以上に減れば売上は減る)、アメリカからしても容易には減産に応じられないでしょう。

サウジアラビアの生産コストは$3/バレルと圧倒的に低いため、このまま低い原油価格を続けて、アメリカのシェールガス会社を破綻させ、アメリカの生産量を減らした方が長期的に有利になると戦略的に考える可能性があります。これは現状の低い価格を保つ動機になります。

一方、中東をはじめとする産油国は国営の石油会社に歳入の多くを頼っており、石油価格が下落すると、国債を発行しなければ(=借金をしなければ)現状の歳出を維持できなくなります。中東の王政は、お金を国民にばら撒いて国民に良い暮らしを保証する事で現在の政治体制を維持している国が多く、歳出を減らして国民の生活を悪化させると、怒りが政治体制に向く可能性があり、それを避けたいのが現状です。

現状の1バレル$30以下という水準は、どの産油国からしても国の財政を維持できない状況であり、一刻も早く石油価格を上昇させたい、という思いもあります。これは減産に同意し、高い価格に誘導する動機になります。

どちらにせよ、鍵を握るのは、他国と協調せず、増産を続けてきた、世界最大の産油国であるアメリカがどこまで踏み込むかです。4月6日のOPEC+ロシアの会談で減産で合意ができるかどうか、注目です。

[4月15日追記]

OPEC+は4月12日(日)に日量970万バレルの減産で合意しました。メキシコが40万バレルの割り当てを拒否し、減産量を10万バレルに減らしたため、当初の目標であった1,000万バレルから30万バレル少なくなりました。

この減産は5月1日から6月30日まで継続され、7月以降は770万バレルの減産になる予定です(CNBCより)

US、カナダ、ノルウェーなどの非OPEC+参加国がどこまで減産を行うかは不透明です。原油市場は、現在の原油需要に対して、この減産の量では不十分だと判断し、WTI原油価格は4月14日(火)に再び$20台まで下落しました。

今後の供給側の焦点は、非OPEC加盟国がどこまで減産に協力を行うか、特にアメリカがどのように民間業者へ減産の協力を依頼するか、です。

石油の需要

一方の需要側ですが、2017年には日量9,800万バレルが需要としてありました。石油需要は毎年平均で1.3%、つまり年100万バレルずつ増加しています(資源エネルギー庁 エネルギー白書2019より)。

需要の65%は人やモノが動く時の輸送用(ジェット燃料・ガソリン・軽油など)、12%が石油化学原料、8%が産業用、5%が家庭用、残りの10%がその他です。

つまり、人・モノが動くと石油の需要は増加し、動かなくなると石油の需要は急減します

石油の需要推移

コロナウイルスの影響で人々が移動しなくなったことにより、ジェット燃料・ガソリン・軽油といった移動用途の需要が減り、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2月の石油需要は日量420万バレル減少しました(日経新聞 「サウジ・ロシア協調できるか 原油減産に高い壁」、より)。

買う人がいなければどうなるでしょうか?そんなに簡単に、石油の供給は減らせません。すると、価格を下げてでも売ろうとする供給先が出てきます。

供給側で減産ができなかったことに加え、コロナショックにより需要が急減したことが、石油価格の急落をもたらしました。

現在の原油価格の指標であるWTI原油価格は$29と、リーマンショック時と比べても低い価格になります(トランプによる口先の介入が入る前は$20/バレルでした)。

WTI石油価格の推移

需要側の鍵を握るのは何と言っても、コロナがいつ終息するか、です。人々の空の移動ができず、外出しない状況が続けば、いくら原油の減産が行われても、価格は上がらないままです。

また、景気が悪化すると石油化学製品の需要が減るなど、産業用途の石油の利用も減るため、景気の動向も要注意です。

つまり、「コロナ危機がいつ終息するか」、「政府が介入していかに景気を維持するか」、の2つが需要側の鍵となります。

石油価格の下落が株式市場に与える影響

石油価格が$30付近で推移すると、下記のような事態が起こり得ます

  • 米国のシェールガス業者が資金繰りに困り、倒産する(すでに一社、ウィッティング・ペトロリアムが倒産しました)。
  • シェールガス業者の倒産、もしくは信用不安からジャンク債(投資不適格と格付けされている企業の社債)の価格が下落し、それらを含んでいる仕組債(CLOなど)の価格が下落。市場が混乱する。
  • 産油国が歳出を維持するために大量の国債を発行しなければならなくなり、国の国債の格付けの下落に繋がる。格付けの下落は金利の高まりに繋がり、財政を中長期的に圧迫する(最悪は利払いができずに、デフォルトする国が出てくる)。
  • 大手石油会社(BP、エクソンモービル、シェルなど)は赤字が避けられない。キャッシュを維持するため、減配、もしくは無配にする可能性が高まる。
  • 石油の仕入れ価格が減るため、火力発電を行なっている発電業者や石油を元にして製品を作っている会社にとっては増益要因。

特にエネルギー会社の株式を保有している人、投資を考えている人にとっては、石油価格の動向は来週、目が離せない展開になると思います。

米国の現在の経済状況についてはこちらの記事をご覧ください。

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2週間で1000万人失業、アメリカで今何が起きているのか

新型コロナウイルスが株式市場だけでなく、雇用と生活に与える影響が見えてきました。この2週間で、新規失業保険申請は1,000万件となり、アメリカの労働者の16人に1人が失業したことになります。

どうしてこんなことになっているのか、株式市場へはどんな影響があるのか、をまとめてみます。

リストラ・レイオフ(一時解雇)

大前提としては、日本とアメリカでは解雇規制が異なり、アメリカの方が規制がかなり緩く、解雇までの動きも早いです。

アメリカでは自由意志での雇用 (Employment at Will)ですので、即日クビになることもあります。解雇の他に、一時解雇(レイオフ layoff)という形で将来また必要があれば雇い直すよというような解雇もありますし、無給休暇 (furlough)を一定期間取得させることもあります。

つまり、企業が危機になり、コストカットが必要であれば、容赦無く雇用を切りますし、社会がそれを前提として成り立っています。

具体例をあげると、米国百貨店のメーシーズ、ノードストローム、アパレルのGapなどが一時解雇を行なっています。百貨店、アパレル、宝飾品などは消費者が外出を控えていることもあり、売上が厳しくなっています。

また、ヒルトン、マリオット、ハイアットといったホテルチェーンもレイオフを行なっています。日経新聞によれば、米国のホテル稼働率は3月の4週目で23%まで落ち、前年同期比で68ポイントも下回っています。リーマンショック時の時ですら稼働率は50%はあったとのことですので、今がいかに異常な状態かがわかります。

ホテル業界団体のアメリカン・ホテル&ロッジング協会は、米ホテルのほぼ半数が閉鎖したとみています。

現状を反映して、マリオットの株価も1月から比べて、ほぼ半値まで落ち込んでいます。

また、航空業界も国境封鎖を行う国が増えていること、感染を避けるために出張や旅行を控える人が増えていることから減便・レイオフが相次いでいます。

小売、旅行、航空、エンターテインメントなどの業界が大きな影響を受けた結果として、先週、米国では328万3000件の失業保険申請がありました。今週は660万件の失業保険申請がありました。2週間で米国の労働者(1億6000万人)の6%近い人が失業しました。

2月時点での失業者は580万人で、失業率は3.5%でした。この2週間で労働者の10人に1人が失業する国になりました

倒産

従業員のリストラだけでは済まず、倒産まで至る企業も出てきています。小売のディーン・アンド・デルーカ (Dean and DeLuka)が破産申請をしました。日本でもおしゃれなカフェや海外雑貨で好きな方がいらっしゃると思います。

ディーン・アンド・デルーカは$50m(55億円)の資産に対して、$275m(300億円)の負債を抱えていたとのことです。親会社は実はタイの会社で、Paceです。

Paceは2014年に$140mでディーン・アンド・デルーカを買収し、これまでに$200m近く資金を投入していましたが、結局米国の事業を立て直すことはできませんでした。破産するのは米国の事業のみで、他の国の事業は継続される予定です。

また、米国のシェールビジネスを営む企業であるウィッティング・ペトロリアム(Whiting Petroreum)も破産を申請しました。

主な理由はサウジとロシアの原油価格戦争と世界中でコロナの影響で原油の需要が減少していることによる、原油安で、採算が取れなくなったためです。

ウィッティングは$585mの現金がまだ手元にあり、営業を継続する予定です。今後、債権保有者は$2.2bの債権を放棄する代わりに新会社の97%の株式を受け取り、株式保有者は新しい会社の3%の株式を受け取る予定とのことです。株価は1月から滑り台のように、$8から$0.4まで一気に落ちました。

どちらの企業も債務の割合が大きく、元々の財務基盤が弱かったことに加え、ビジネスもうまくいっていませんでした。

そこに、「消費者の外出控えからの需要減少」、「原油安」が背中を押して、破産法の申請に踏み切ったと考えられます。

この2つの要因は他の小売、シェール企業も蝕むため、4月に続いて倒産する企業が出てくると考えられます

家賃・テナント料の支払い猶予とREITの大幅な価格下落

「消費者の外出控えからの需要減少」のため、ショッピングセンターなどの商業施設は軒並み全滅です。テナントとなっているお店の売上が落ちているため、テナントの一部が家賃の減免や支払い延長を求めています。

同様の動きが賃貸でも起きており、一部の賃借人がオーナーに対して家賃の支払い延期や減免を求めています。失業者が1,000万人で、そのうちの何割が家賃を滞納するのか、と考えるとかなりのリスクがあります(アメリカは4割近くの人が急な$400の出費すら用意するのに苦労します)。

Small, unexpected expenses (FRBの調査2019より)

これらの動きは、家賃収入の減少に繋がり、ショッピングセンターなどの商業施設へ投資する商業施設REIT、住宅に投資する住宅REIT、住宅ローンをまとめて証券化した商品である住宅ローン担保証券(RMBS: Residential Mortgage Backed Securities)や商業用不動産ローン担保証券(CMBS: Commercial Mortgage Backed Securities) などの価格に影響を与えます。

実際に、RMBSやCMBSで運用する米インベスコ・モーゲージ・キャピタルはRMBSとCMBSの価格下落から追証を求められ、支払いがまだできていない状態となっています。「投資適格ならばなんでも買う」状態のFRBも、連邦保証がついていない住宅ローン担保証券までは購入してくれません。インベスコの株価も大幅に下落しています。

格付け会社も容赦なくローンの格付けを落としているので、投げ売りをせまられるファンドも出てくるでしょう。

これらの動きが長期化すると、オーナーも借金の金利支払いを債権者(銀行など)にできなくなり、債権者(主に金融機関)もダメージが大きくなります。

「コロナによる外出規制がどの程度長引くか」、「失業者が家賃を支払えるような支援を政府が行なっているか」、が米国のREITと金融機関の株価に大きく影響を与えます。

配当・自社株買いの中止

HSBC、Standard Charteredなどの英銀行が英国の中央銀行からの要請を受けて、配当・自社株買いの中止を発表。

米国議会がまとめた$2t (220兆円)の景気対策についても、一部には受け取った資金を「配当・自社株買い・経営陣への高額な給与支払いに使わない」という条件が含まれていることもあり、コロナショックの影響を受け、政府や中央銀行からの支援を必要とする企業の「配当・自社株買い」が減りそうです。

特にエネルギー、小売、旅行・ホスピタリティ、金融、は高配当で株価を維持している企業も多いため、減配・無配になった時には、株価に悪影響が出ます。実際、HSBCは配当停止を発表した翌日に10%近く株価が落ちました。

要は何が起きているの?

世界規模で「企業が生き残りをかけて、現金を確保しようとしている」、のが現在起きていることです。

過去10年近く、企業も家庭のどちらも借金を積み重ねることで経済を成長させてきました。しかし、今回のコロナショックにより多くのビジネスで収入が激減したため、借金の支払いが困難になっています。また、財務とビジネスに不安のある、「低格付け」企業の資金調達の環境も大幅に悪化しました。

そのため、企業はビジネスが戻るまではコストを削ろうとレイオフ・解雇を行い、政府・中央銀行からつなぎの支援を受けるために彼らの要請である配当・自社株買いの停止、を行なっています。また、倒産も借金を整理する方法の一つですので、倒産を利用して負債を軽くしている企業も出てきています。

その結果が、失業を生んでいます。

そして、失業は悪いサイクルを回します。失業者は消費を減らしますし、他の家計も失業の不安から支出を減らそうとします。すると、これらの人々の行動が消費減に繋がり、企業の収益を減らしています。すると、さらにコストカットのために人を切る企業が出てきます。

各国で「景気対策」と称して失業者へお金を直接渡したり、雇用主に雇用を持続させるための助成金を出しているのは、失業による実際の消費減を防ぐことに加え、精神的に消費できない消費者にもお金を使ってもらい、この悪いサイクルを引き起こさないようにするためです。

3月後半から売上が落ちた企業・家計が苦しくなるのが4月であり、これからしばらくは米国の失業者数は増えることが予想されます。次の焦点は、どこまで政府が踏み込んでくるか、そしていつ失業のピークがくるか、です。

米国のコロナウイルスへの対応についてはこちらの記事をご覧ください。

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2週間後の日本に起こること – 新型コロナ、景気対策

現在の日本でのコロナ対策、景気対策(金融、財政)をまとめ、今後2週間で起こりそうなことについて書いてみます。

日本のコロナウイルス対策

3月30日現在、厚生労働省の発表資料によると、日本のコロナウイルス感染者数は1,866人です。死亡者は54人。死亡率は約3%です。東京都の感染者が最も多く、436名となっています。一方、死亡者が最も多いのは愛知県で、19名です。

都道府県名 PCR検査陽性者 現在は入院等 退院者 死亡者
東京都 436 395 36 5
大阪府 209 159 48 2
北海道 176 48 121 7
愛知県 167 106 42 19
千葉県 160 140 19 1

厚生労働省の基本方針はこちらです(新型コロナウイルス感染症の基本的対処方針より)。

人と人との距離を取る

日本では、下記のような要請が行われています。

  • 東京都知事が3密(密閉、密集、密接)を避けることを要請 (3月25日)
  • 東京都知事、大阪府知事が週末の外出を自粛するように要請 (3月25日)
  • 小中高の一斉休校
  • 政府による大規模イベントの自粛要請 (2月20日)

学校の休校以外は基本的には要請であり、守らなくとも罰則はありません。

3月30日の東京都知事の会見では、都民に対して夜間営業の飲食店へ訪れること、不要不急の外出の自粛への要請が行われました。

海外からのウイルスの流入を防ぐ

現在は下記のような措置が取られています。

  • 米国、中国、韓国などへの渡航中止勧告(レベル3)、計40ヶ国 (3月30日時点)
  • 2週間以内にレベル3の国に滞在歴のある外国人の日本への入国を原則拒否
  • 日本人がレベル3の国から帰国する場合、PCR検査を実施し、結果が出るまで待機。陰性だとしても2週間は自宅や宿泊施設での待機、公共交通機関の不使用を要請。強制力はない。

日本人の渡航と帰国については勧告・要請であり、強制力はありません。

ハイリスクの人を守る

コロナの患者を感染症指定医療機関に隔離することで、感染が拡大することを防いでいます。一方、患者数の増大に伴い、都内ではすでに患者数が病床数を超えている状態です。

感染症指定病院(新型コロナウイルス対策ダッシュボードより)

この状態を踏まえ、現在感染症指定医療機関で入院をしている軽症患者に、自宅療養を依頼する可能性が示唆されました。

コロナウイルスを検査し、感染者を特定する

3月30日までのPCR検査の実施人数は約29,000人であり、陽性率は6.4%です。

日本PCR検査数(厚生労働省3月30日発表資料より)

日本ではCTを活用することで、PCR検査をコロナウイルスが疑わしい事例に絞っていることから、韓国などの他国と比べてPCR検査の数は少ないですが、陽性率が高くなっています。

正しい情報を発信する

厚生労働省はほぼ連日ホームページを更新しており、各都道府県のレベルでも情報発信が行われています。

他国と比較した日本の対策

西欧諸国(米国、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア)と比較して、日本の現在の対策は非常にゆるいものとなっています

下記の点が大きな違いです。

  • イベントの開催も外出も、自粛「要請」であり、強制力がない。罰則もない。
  • 入国・出国の制限に強制力がない。海外から帰国した人に自宅隔離することも「要請」であり、罰則もない。
  • 政府が統一的な方針を示さず、各自治体が個別で対応を行なっている。国のリーダーが前に出ていない。

罰則がないことから、一部の人は「要請」に従わず、行動を続けると考えられます。実際、K1グランプリは22日に「さいたまアリーナ」で行われ、6,500人が入場したと報道されています。これが事実であれば、感染を広める大きなリスクです。

また、政府が統一的な方針を示していないことも問題です。政府が自粛「要請」を行なっているレベルで、危機感が国民に伝わっておらず、「自分ごと」として捉えていない可能性が高いです(志村けんさんの死亡が恐らく、最も国民に事態の深刻さを伝えたでしょう)。

もちろん西欧の方が感染者数も死亡者数も多いためにより真剣になっているというのもありますが、外出禁止の国に住んでおり、日々増えていく死亡者数を毎日見ている身としては、日本の現状がかなり危うく見えます。

景気・金融政策

日本はまだコロナウイルスによる経済的損失への財政対策については、議論を重ねている段階です。

日本ではまだコロナウイルスによる経済的損失が一部の産業に限定されていることから(主に旅行、インバウンド関連:運輸、宿泊、観光、百貨店、など)、景気対策の議論の進捗は他国に比べて遅れています。

一方、金融政策については、日銀は下記のような決定を行いました。

  • 社債とコマーシャルペーパー(手形)の買い入れ枠を新たに2兆円設定
  • 融資用として、ゼロ金利で金融機関へ貸出
  • ETF購入を年間6兆円から12兆円に倍増

社債や手形の買い入れ枠を増やすこと、ゼロ金利での貸出を金融機関に行うことは資金不足で倒産してしまう企業が出ることを防ぐことを目的としています。

ETF購入は「期末に株式価格が大幅に下落し、銀行などの自己資本が減り、自己資本比率の規制に引っかかり、融資を減らしてしまう」という事態を避けようとしたのと、「株価が落ちて、資産が減ったと感じる人が消費を減らす」影響を考慮したためだと考えられます。

中央銀行で満期のない株式やREITを購入しているのは日銀くらいで、かなり特殊です。

今後、2週間で起こり得ること

このまま感染者が増え続ければ、どこかの段階で、政府が「非常事態宣言」を行い、外出「規制」を行う可能性が高いです。

外出「規制」が行われると、不要不急な用途の外出先のビジネスに大きな影響が及びます。

また、海外から帰国する人についても隔離「要請」ではなく、守らなければ罰則が生じる規制になる可能性が高いと考えられます。

金融政策はすでに中央銀行は量的緩和状態で買えるモノは買い、金利はゼロと、ほぼ限界に近いことをしているので、焦点は財政政策です。財政政策は数度にわたる景気対策として、GDPの10%を超える規模(50兆円を超える規模)が議論され、議会で可決される可能性があります。

日本は世界で有数の長寿国であり、人口の25%以上が65歳以上の超高齢社会でもあります。つまり、新型コロナウイルスで重症化しやすい、ハイリスクな人が多い国です。感染が広まり始めると、死亡率が高くなることが予想されます。

そのためには、日本政府が正しく危険性を伝え、国民に「自分がかからないから良いではなく、他の人にうつさないようにする」意識を徹底させる必要があります。連日のように政府がコロナウイルス対策の進捗を語り、連日のように新たな規制が課されることが予想されます。

他国の例として、オーストラリアのコロナウイルスへの対応はこちら

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東京の数週間後の姿? コロナで変わるシドニーでの生活

全世界で猛威をふるうコロナウイルスですが、シドニーでの生活もこの2週間でガラリと変わりました。東京の数週間後の姿かもしれません。

日本で生活する皆さんの参考になるかと思いますので、どのように生活が変わったかを書いていきたいと思います。

オーストラリアのコロナウイルス

3月25日時点でのオーストラリアのコロナウイルス感染者数は2,423人です。西欧諸国やアメリカと同じく、ここ1週間で1,000人未満から2,000人越えと急速に増加しています。

Australia Coronavirus Chart

先週までは海外からの入国規制などはありましたが、人々の集まりや施設に対する規制は緩いものでした。

そのため、皆そこまで危機感を抱いておらず、週末にはビーチで大勢の人がサーフィンや日光浴を楽しんでいました。

しかし、感染者数の急速な増加を背景に、感染の速度を遅くするため、ほぼ毎日のように、新たな規制が導入されていっています。この1週間で、世界が変わりました。

旅行規制

オーストラリアは1週間で、鎖国状態になりました。海外へ出ることも、海外から帰ることにも今では厳しい制限があります。

  • オーストラリア人の海外渡航中止の勧告(3月18日)から海外旅行禁止へ(24日)
  • オーストラリアは現在、国民と永住者以外は原則入国禁止
  • 海外から帰国した国民と永住者も、14日間の自主隔離を行う必要がある(守らないと多額の罰金)

25日には国内ですら、移動制限がかかりました。州を移動すると14日間の自主隔離を行う必要が出てくるので、州の移動もできなくなっています。

航空会社も大幅に減便しており、自分が現在住んでいる州からほぼ出られない状況になっています。

オーストラリア人は旅行が好きで、4月の大型連休(日本でいうゴールデンウィークのような連休があります)には多くの人が長い休みをとって海外旅行や国内旅行をするのですが、今年は皆キャンセルしています。

せっかくの連休なのにどこにも行けず、しかも後述するように友人と集まることも制限されて、「どうしても必要な用事がなければ、家から出るな」とも言われているので、何して過ごそうか・・・という感じです。

施設や集まりへの規制

3月23日、26日と規制が入り、オーストラリアでは下記のような制限が施設や集まりにかかっています。

  • 遊園地は閉鎖
  • 映画館、カジノ、バーなど娯楽施設は閉鎖
  • 屋内、屋外の子供の遊び場は閉鎖
  • 公共のプールは閉鎖
  • 美術館、図書館、歴史観光施設、コミュニティセンターは閉鎖
  • ジム、ヨガクラブ、サウナなどの健康施設は閉鎖
  • 美容院は30分以内ならOK
  • オークションハウスは閉鎖
  • 不動産のオークション、物件見学は禁止
  • 飲食店(レストラン、カフェなど)は持ち帰りのみ
  • 教会などで集まる場合の入場制限(1人あたり4平方メートル(2m×2m)のスペースを設けることが必須に)

いわゆる遊ぶ場所は公園以外、ほとんど閉鎖です。23日は飲食店、ジム、映画館などだけでしたが、26日にその範囲が大幅に拡大されました。

制限された後でもその制限に従わない人たちが多かったため、首相・閣僚がキレて制限を強化しました。

美容院は30分以内ならOK、はどういう基準なのか分からないですが、男性のカット時間を想定しているのでしょうか。髪の長い女性やカラーリングしている人は厳しそうです。。。

結婚式やお葬式にすら制限がかかっています。

  • 結婚式は5人までなら出席して良い
  • お葬式は10人までなら出席して良い
  • ホームパーティも禁止
  • 例え必須の集まりでも屋外で500人以上、屋内で100人以上は禁止
  • 必須の集まりで集まる場合でも、1.5メートル以上人と人との間隔を空け、衛生面での対応を取ること

冗談かと思うかもしれませんが、本当です(Australian Government Department of Health)。結婚式で爆発的に感染者が増えたことから、結婚式も規制の対象になりました。

首相は「必要がない限り、家から出ないでほしい。友人の家に行くことも」と言っています。

普通に空いている施設と言えば、スーパーマーケット、ドラッグストア、ガソリンスタンド、クリニック、学校、保育園といった生活にどうしても必要な施設くらいです。

街を走る車の数も日に日に減っていっています。運転がしやすくなるのは良いのですが、保育園への送り迎え以外、行く場所がないので寂しい気分になります。

今週末に予定されていた友人家族の子供の誕生日会もキャンセルになったので、ビデオメッセージを送りました。誕生日プレゼントも買ってあるのですが、いつ渡せるのか分かりません。

オフィス・学校について

多くの会社が自宅勤務 (work from home)を推奨して、オフィスには最小限の人しか行っていません。実際、政府はオフィスに行かないように推奨していますし、僕も過去2週間はオフィスへ行っていません。

多くの公立の学校は「まだ」開いています。これは、学校を閉鎖してしまうと

  • 教育や子供の精神に悪影響が出ることへの懸念
  • 親が働けなくなり、経済に影響が出ることへの懸念

があるためです。

しかし、子供がコロナウイルスにかかってしまうことへの懸念から多くの家庭が自主的に子供を学校に行かせないようにしています。

首相は子供が学校に行くのは問題ないと言っていますが、ニューサウスウェールズ州(シドニーがある州です)の州知事は「できるだけ子供を家にいさせてほしい」と発表するなど、連邦レベルと州レベルでの意見の違いも出てきており、人々の間で少なからず混乱を呼んでいます。

学校が完全閉鎖されるのも時間の問題かもしれません。そうすると、子供がいる家庭は家で働きにくくなるので、かなり困ります。

人と人との距離について

ここ数週間で最も大きく変わったのが、人と人との距離です。

オーストラリアはアメリカやヨーロッパと同じく、人と人との距離がとても近い文化です。挨拶で普通にハグをしますし、握手もします。

それが、コロナウイルスが流行り始めたこの2週間で、ガラリと変わりました。今は人と人との距離で1.5メートル間隔を保つように政府から言われているため、距離が遠いです。ハグも握手もできないため、挨拶の時には、皆どこか何をして良いのか分からないような表情を浮かべます。

また、近所の行きつけのカフェでは、店員の人がいつもうちの子を抱っこしてくれたりしていたのですが、今はそれができないようになっています。

極め付けはスーパーやカフェで、レジの前で並んでいる時ですら1.5メートル人と人との間隔を空けることを要請されているため、カフェで並んでいると店外まで出てしまい、すごく変な感じがします(※本記事のアイキャッチは近所のスーパーマーケットでの写真です)。

2週間前でしたらコントみたい、と笑い話でしたが、今ではそれが現実です。

同僚とは2週間前に冗談で、「次に会うのは冬になるかもね」(See you in winter! ※オーストラリアの冬は6月くらいからです)と言い合っていたのですが、オフィスはほぼ閉まっており、僕もしばらくは行く用事がないため、現実になりそうです。

病院について

戦時中です。

本日、3月25日にコロナウイルス対策に医療資源(人材、物資など)を割くために、国立のみならず私立病院まで含めて、緊急でない手術を全てキャンセルするよう連邦政府から要請がありました。

これをやられると、医薬品・医療機器業界は死にます。なぜかと言うと、医薬品・医療機器の中で検査・手術に用いられる商品はとても多く、その手術がなくなると売上がたたなくなるからです。

コロナウイルス対策で使われる人工呼吸器などは特需でしょうが、それ以外の商品は死にます。

数ヶ月ならばまだもつかもしれませんが、半年などとなると、飲食店などと同じく、キャッシュがもたない企業も出てくると思います。

私立病院も稼ぎ頭である手術ができなくなるために、売上が落ちます。

ヘルスケア企業もダメージが大きいとツイッターで書いたのも、この現象が世界の至る所で起きているからです。

経済への影響

これだけの規制が行われているため、当然経済への影響が出ています。以下は3月25日までに判明している数字です。

  • オーストラリアの人口は約2,500万人で、雇用されている人は1,300万人(フルタイム900万人、パートタイム400万人)。失業率は5.1%と2月までは割りと安定している社会(Australian Bureau of Statisticsより)
  • 旅行制限、店舗の営業制限などが始まってから飲食店をはじめとして一時解雇が多発
  • 失業者が失業給付金を申請するために訪れるmyGovという政府機関のサイトにて、1日で28万人もの社会保障の申請
  • 雇用されている人の2%以上が1日に社会保障を申請(失業率が1日で2%上昇)
  • 3月末までに100万人の失業が発生する可能性がある、と連邦政府が予測

並べて書くだけでも嫌になる数字ですが、これは始まりにすぎません。

首相は現在行なっている規制が、6ヶ月間は継続されることを見込んでおり、失業者数は増加していくと考えられます。大失業時代の幕開けです。

経済対策

失業で生活に困る人達を支援するため、連邦政府は下記のような支援策を決定しました。

  • 仕事を探している人向けの社会保障として、6ヶ月間、隔週で$550(約35,000円)を追加で支給。月で7万円の増額
  • 約650万人の社会保障受給者(障害年金、老齢年金受給者など)に$750(約5万円)を3月と7月に支給。計10万円のバラマキ

規制により失業した人が、生活を送れるようにすることを目指しています。

オーストラリアは家賃が高く、特にシドニー市内は1ベッドルームでも月で$2,000はするのですが、通常の失業給付に月7万円が増額されることで、何とか暮らせるレベルにはなると思います。

また、州ごとにビジネスを救済するために減税などの支援を行なっており、ビジネスが存続できるようにしています(ニューサウスウェールズ州はAUD$2.3bの支援法案を可決し、州の病院への投資と中小規模ビジネスへの支援を行っています)。

コロナウイルスが問うあるべき社会

コロナウイルスは、民主主義に一つの問いを投げかけました。

「命を救うために、いくらまでなら経済的な代償を支払えるか」

コロナウイルスに対しては、2つの解決策があります。

1つ目は、多くの欧米諸国が行なっているように、全員が大きな経済的な犠牲を支払いながら(旅行・外出規制などで産業を破壊して失業を生みながら)、ウイルスによる人命被害を最小化しようとする方法。これは、「国民の命は何よりも重く、国家は何をもっても優先して守るべき」、という原理原則論に基づいた考え方です。

2つ目は、ウイルスによる人命被害を少なくするコストと、旅行・外出規制を行うことで生じる経済的な損失のコストを比べて、バランスをとっていく方法。これは、功利主義的な考え方で、経済的な損失から命を断つ人もいるし生活苦でひどい思いをする人が出るコストと、一定割合の人が死亡するコストを比べて、最適なバランスをとろうよ、という考え方です。

オーストラリアは明確に1つ目の考え方で、「弱い人たちのために、みんなが協力して耐える必要がある。そのために生じる経済的犠牲(倒産・失業など)については国家がサポートする」という姿勢です。

一方、米国のトランプ大統領は、下記のように「治療法が問題そのものよりも悪かったらダメだろうが」と言っていますが、彼の主張は2つ目の考え方です。暗に意図しているのは、多少の死人が出たとしても、経済的に自殺して大勢が経済的に困窮するよりはマシだろう、ということです。

“WE CANNOT LET THE CURE BE WORSE THAN THE PROBLEM ITSELF,” Trump wrote in a tweet posted near midnight on Sunday. “AT THE END OF THE 15 DAY PERIOD, WE WILL MAKE A DECISION AS TO WHICH WAY WE WANT TO GO!”

功利主義的な考え方は人道的に批判されがちですが、一つの考え方です。特に、西欧・オーストラリアで行なっている外出規制などは経済的な自殺で長引けば長引くほど国家の財政、産業、失業者の負担が増えるので、デメリットが後遺症が出るレベルまで達してしまいます。

特に若い、健康な人からすると、自らが重症化するリスクが低いため、「なぜ高齢者や不健康な人のために自分が犠牲になって、失業しなければならないのか」と感じる人も多いのではないかと思います。そういう人には、功利主義的な考えの方が響きます。

一方、自らが命の危険に晒される高齢者を始めとするハイリスクの人たちからすると、国家は自分たちの命を救うために厳しくも必要な措置を取ってほしい、と思うでしょう。

どちらが正しいというわけではありません。政治的にはどちらの視点も持ちながら、現実解を探っていくことになります。

日本でコロナウイルスの感染が今後急速に拡大していくのかどうかは分かりませんが、すでに感染者は1,000人を超えており、オーストラリアのように1週間後に急に感染者が増えている可能性は十分にあります。

そうなった時に、直面するのは、上記の質問です。

「命を救うために、いくらまでなら経済的な代償を支払えるか」

現在の政権の議論や対策を、上記の視点で見てみると、また違った見方になるかもしれません。

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コロナウイルスが米国の経済・産業・社会に与える影響

コロナウイルスの広がりは世界中でさらに加速しています。世界中の株式市場に大きな影響を与えているコロナウイルスについて、現時点での米国での対策をまとめ、今回の危機が米国社会に何をもたらすか、について書いていきたい思います。

以下の記事の続きになります。こちらもご覧ください。

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コロナウイルスの現状

3月21日17:00(AEST)現在で、コロナウイルスの感染者数は276,462人。死亡者数は11,417人、死亡率は全体の平均で4.2%、トップ10ヶ国の中央値は4.0%ですworldometersより)。最も被害が多いのはイタリアで、死亡者数は4,032人と中国を超えました。

特にイタリアの死亡率は高く、8.6%と非常に高くなっています。

Country,
Other
Total
Cases
Total
Deaths
Mortality Rate
China 81,008 3,255 4.0%
Italy 47,021 4,032 8.6%
Spain 21,571 1,093 5.1%
Germany 19,848 68 0.3%
USA 19,773 275 1.4%
Iran 19,644 1,433 7.3%
France 12,612 450 3.6%
S. Korea 8,799 102 1.2%
Switzerland 5,615 56 1.0%
UK 3,983 177 4.4%
Total 239,874 10,941 4.6%

アメリカの感染者数は3月16日時点では3,802人でしたが、この5日間で4倍近い、19,773人まで拡大しました。感染者が多い州はニューヨーク州、ワシントン州、カリフォルニア州で、この3つの州は感染が急速に広まっている州になっています。死亡率は1.4%とまだ低いですが、今後、重症者の数が増えるに従い、増加していくと考えられます。

USA
State
Total
Cases
Total
Deaths
Mortality Rate
New York 8,515 56 0.7%
Washington 1,524 83 5.4%
California 1,254 24 1.9%
New Jersey 890 11 1.2%
Illinois 585 5 0.9%

アメリカでの感染者数は急激に増加しています。これは、感染が広まっていることに加えて、より多くの検査がされ、実態が把握されるようになってきたことによると考えられます。

アメリカのコロナウイルス(COVID-19)感染者の推移

感染者は幾何級数的に増えています。検査が行き渡れば、この先数週間は感染者数は増え続けると予想されます。

アメリカでのコロナウイルス対策

連邦のレベルでは、前回の記事から下記のようなアップデートがありました。

  • 国民に全世界への渡航中止を勧告(特定の国から全世界へ)
  • カナダとの国境閉鎖(18日)。メキシコとの国境の不要不急の往来を禁止(21日)
  • トランプ政権が国防生産法(the Defense Production Act)を発動し、医療物資や人工呼吸器の生産を要請

「社会距離戦略」(social distancing)の一環として、州のレベルでさらに厳しい規制がかかっています。特に3つの州で期限を定めない外出禁止令が出ています。

  • ニューヨーク州にて、全事業者に在宅勤務をするように要請(3月20日)
  • カリフォルニア州にて、外出禁止令。買い物や通院など必要不可欠な場合を除き、屋内への退避を義務付け。期限はなし(3月20日)
  • イリノイ州にて、不要不急の外出を禁止する命令(3月20日)

国境閉鎖と外出禁止により、人の移動が制限されてきています。

外出禁止令が出ているのはまだ3州ですが、今後他の州でも感染が増加し続ける場合、「外出禁止令が他の州でも発動されること」、「州と州の国内移動にも制限が加えられること」が想定されます。

アメリカの金融・財政対策

金融政策

FRBは利下げ、量的緩和を行なった後、金融市場の動揺を抑えるため、積極的に資金供給を行なっています。米ドルへの需要が急増しており、短期市場でのドル調達金利が高まっていることへの対策になります。

  • 14ヶ国の中央銀行へ米ドルの資金供給を始めました。
  • MMF(マネー・マーケット・ファンド)へ資金供給を始めました。
  • 企業が短期資金を調達するCP(commercial paper)市場への資金供給を始めました。FRBがCPを直接買い上げています。

FRBの行なっていることを一言で言えば、「流動性を確保するために何でもやる」です。資金が目詰まりをして資金繰りができない企業が出ると、倒産と金融システム全体へのパニックに繋がります。

そのパニックを防ぐよう、様々な方法でFRBが資金を市場に投入しています。

FRBは全力で資金供給を行なっていますが、CP市場ではコロナの影響を受けやすい航空、飲食、レジャーなどの企業のCPの金利上昇がおさまっておらず、市場はいまだに緊張しています。

残るのは社債です。アメリカの現行法ではFRBが社債や株式を直接購入することは禁じられていますが(日銀がETFやREITを大量購入しているのと違いますね)、このまま金融市場が動揺し続けるのであれば、法改正が行われ、アメリカでFRBによる社債の購入まで踏み切られるかもしれません。

実際、前FRB議長であるジャネット・イエレンらはFRBが社債の購入をできるようすることを提案しています。

財政政策

財政政策では、コロナウイルスの無償検査と有給の病気休暇の法案が可決されました。

現在は、第三弾として、$1 trillion (110兆円)を超える支援策が上院で議論されています。共和党案は所得に応じて個人に現金を最大$1,200、家庭に最大$2,400に渡すこと、中小企業への連邦保証付ローン$300b、航空会社など産業向け$200b連邦保証付ローンの提供、の3点セットです。

こちらは支援を受ける対象や条件で共和党の中からも、民主党からも反対が出ており、まだ法案とはなっておりません。

アメリカの失業

特に失業者数が多く出ると見込まれるのが、不要不急の旅行の停止に伴い需要が激減する、航空・宿泊・観光・レジャー関連(Leisure and hospitality)です。こちらは2020年2月時点で1,700万人近くを雇用している大きな産業であり、農業を除く被雇用者1.5億人のうち、11%を占めます。

また、人々が外出を避けることにより、カフェ、レストラン、バーなどの飲食やショッピングセンター・百貨店も大きな打撃を受けることが予想されます。小売(Retail trade)も1,600万人と被雇用者の約11%を雇用する大きな産業です

Employment by industry (US Bureau of Labor Statisticsより)

また、製造業も1,300万人を雇用する大きな産業です

人々が不況の到来を予測すると、耐久消費財(車、冷蔵庫など)や不要不急の商品の販売も減少します。つまり、レジャーや小売業界で解雇が始まり失業者が増えると、連鎖的にレイオフ(一時解雇)や解雇が始まります。

ビジネスサービス業(”Professional and Business Services” – コンサルティング、会計士、弁護士など)に雇用されている2150万人も、景気後退が起これば、顧客からの支出を減らされる可能性が高く、失業と無縁ではいられません。

これらの業種にいる「7000万人近い人の雇用が脅かされる」と聞けば、その深刻さが伝わるのではないでしょうか。

情報通信産業に関してはリモートワークや家でのエンターテインメント需要から恩恵を受けられる企業があります。しかし、情報通信業はわずか300万人の雇用でしかなく、恩恵を受けられる産業、人々は雇用を脅かされる人の数と比較すればわずかです。

加えて、アメリカは”Employment at Will” (自由意志での雇用)の国であり、雇用者も、被雇用者も西欧や日本と比べて比較的簡単に雇用を終了させることができる点も、失業者の急増を招く要因となります。

サービス業中心の世の中になってくるなか、人と人とが接する産業に雇用が集中しています。コロナウイルス対策はこの人と人とが接する産業を突然破壊したため、それだけに影響は過去の経済・金融ショックと比べてもより深刻だと言えます。

実際の数字を見てみると、米労働省が19日に発表した失業保険申請は3月14日までの1週間で281,000件でした(前週より7万件増)。

日経新聞の調査によると、失業保険の申請は急増しており、15-18日のオハイオ州で111,055件(前週の3,895件の28倍)、ミネソタでも95,352件と前週の20倍以上のペースとなっています

次の26日に発表される失業保険件数は急増し、現在の歴史的に低い失業率3.6%から急激に上昇すると考えられます。

産業への影響

航空機、航空・旅行・レジャー・小売が政府へ支援を要請しています。

航空機

航空機では、ボーイングが政府と金融機関に$60b(6兆6000億円)の支援を要請しています。

ボーイングは

  1. 米国だけでも10万人を雇用しており、雇用維持という点で重要
  2. 航空機産業が米国の主要輸出産業である
  3. 軍事部門も大きく安全保障上も重要である

3つの理由から米政府は支援を行うと考えられます。

ただし、民主党が「株主重視で経営をしており事業の安定性を省みてこなかったボーイングに、何の状況もなしの支援を行うこと」に反対しています。

潰れることはほぼないと考えられる会社ですが、株主や債権者は何かしらの損害を被るかもしれません。

航空会社

米国の航空会社は$50b (5兆5000億円)の支援を要請しています。

米国では国際線がほぼストップとなっていることから、アメリカン、ユナイテッド、デルタをはじめとした大手航空会社は大赤字の状態です。欧州の感染が拡大していること、中南米などでも感染拡大の傾向があることから、いつ国際線を復旧できるかの目処もたっていません。

ともに手元資金があまりないため、支援が得られないと大規模なレイオフを行わなければならなくなります。

旅行業界

旅行業界(宿泊、観光など)も同様に$150bの支援を要請しています。こちらも感染拡大に伴い、人々が不要不急の移動をしなくなると、大打撃を受ける産業です。

航空機、航空、旅行の3つの産業だけで、$260bと30兆円近い金額を要請していることになります。

小売

大手百貨店(メーシーズやノードストロームなど)・ショッピングセンター大手も一部で営業休止しており、政府へ支援を要請しています。

また、人がショッピングモールに来なくなると、ファッションなどの消費も減るため、メーカーにとっても大きな売上への打撃となります。

エネルギー

人の移動需要の減少と供給側での懸念(サウジ、ロシアなどの増産)からNY原油が$20割れていることもあり、シェール会社が苦境に追い込まれています。

生産コストが原油価格よりも上回っていることから、現状では生産を続けることができません。

破綻の事例として、テキサス州のエネルギー会社であるトリポイント・オイル・アンド・ガス・プロダクションは16日にチャプター11(破産)を申請しました。今後、続く企業が出てくると考えられます。

エネルギー会社が破綻すると、資金の貸し手である地銀に影響を与えることに加え、社債市場にも動揺を与えます。

低格付け社債をまとめたETFやCLO (collateralized loan obligation-ローン担保証券)はリーマンショックの時に問題となった証券化商品と同じく、複数の債券をまとめて一つの商品にしたもののため、元となっている債券(例えばシェール会社)への信頼性が低下すると、ETFやCLOの売りの圧力が強まり、価格が低下します。

売りが売りを呼び、ジャンク債(格付けが低い企業が発行する社債)市場の下落が止まらない場合、投資家がジャンク債市場から資金を引き上げ、低格付け企業へお金が回らなくなる可能性があります。すると、低格付け企業は資金を手当できずに事業が継続できず、破綻することになります。

するとこの破綻がまた市場の下落を招いて、と悪いサイクルが回り続け、債券の暴落と企業の連鎖破綻に繋がります。エネルギー会社の破綻が続くと、投資家が最も恐れるクレジットリスクの引き金を引きかねかねない怖さがあります。

今後の注目点

今回のコロナウイルスが引き起こした危機の特徴は、影響される産業が広いことです。

ほぼ全ての対人サービス業が大きな影響を受けることもあり、「広すぎて救えない」(too wide to save)可能性があります。

雇用に影響が出るのはほぼ確かであり、失業が景気後退を招く要因であるのは間違いありません。しかし、実は最も恐ろしいのはクレジットリスクです。

リーマンショック後、10年の景気拡大の間、米国企業は借金を重ねることで事業を拡大し、自社株買いで株主へ報いてきました。

借金を用いて事業を拡大させることは

  • ROE (Return on Equity – 自己資本利益率)を向上させること
  • 投資家はROEの高い企業を評価して株価が上がること
  • 経営陣は報酬が株価と連動されており、株価で経営者としての成果が評価されること

から借金を用いてROEを上げていくことは正しい経営行動の一つと見なされてきました。

不測の事態に備えて現金を多めに持とうとしても、株主より「現金があるなら還元せよ」と言われ、アクティビストを呼び寄せる原因の一つになってしまうことから、米国企業はできるだけ現金を最低限しか持たないようにしていました。

つまり、借金を重ねて株主の方を向く経営をしてきた結果、いわゆる「不測の事態」に脆い体制になっている企業が多くなりました。

加えて、どんな企業であれ資金調達がしやすい環境が長年続いたことから、利払いすら支払えないような、長年赤字で存続しているゾンビ企業がかなりの数あります。

ETFやCLOを通じてそれらの企業にもお金が入り続けていました。

コロナショックは、これらの米国企業が抱える、「不測の事態に備えがない」、「借金に頼ったゾンビ企業が多い」という脆弱さに急激なショックを与えます。

米国の金融システムが今回のショックを耐えられるかどうかは、わかりません。しかし、今後の社債市場の動きには注意を払った方が良いと考えています。

コロナウイルスが米国社会に与える影響

今回のコロナウイルスを発端とするショックは、米国が本質的に変わるきっかけになると考えています。

まず、医療制度で言えば、今回のコロナウイルスは米国の医療制度の脆弱性を浮き彫りにしました。国民皆保険制度でないこと、貧富の差が激しく医療へのアクセスがない層がいること、政府への不信感が強く政府の指示を聞かないこと、は感染症の広がりを止める上ではマイナスでしかありません。

また、病院(特に私立病院)は利益率改善のために手術の回転率をあげることに注力してきたため、ベッドの数も少なく、今回のような大規模な感染症が発生した時には脆さが出ます。

*米国の医療制度の概要についてはこちらをご覧ください
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今回の一件は、米国社会にあるべき医療の姿を考えさせるきっかけになるでしょう。

また、多くの人の生活基盤が脆弱であることを改めて認識する機会になるでしょう。

米国では若者は高等教育のために教育ローンを背負っていることが多く、失業するとローンが支払えない状態になります。また、物価の高騰から家賃が高く、都市部では職を失うと住む場所すら失いかねません。かと言って、高等教育を受けないと中間層並みの給与を得ることが難しい社会でもあります。

その結果、約半分の人が、$400(5万円)の急な支払いをするのにも苦労しています。

米国社会は、労働市場の柔軟性から、強い個人と強い企業を生みやすいです。

「強い個人」になれば、良い給与と早い昇進が見込めます。

一方、「強い個人」になれなかった場合、社会保障が弱いことから、不安定な地盤の上で生活を送ることになります。経済が好調であり、仕事につけているうちは良いですが、景気後退時には基盤の脆さが露呈します。

好景気の裏で、米国が見て見ぬ振りをしてきた不都合な真実です。

残念ながら、今回のコロナショックで大量の失業者が出て、苦しむ人が多く出るでしょう。そして、いかに米国が「強くない個人」にとって厳しい国かを知ることになるでしょう。

コロナショックは、米国の医療・社会の脆弱性を浮き彫りにしました。リーマンショックが大衆の怒りに繋がり、”Change”を求めて初の黒人大統領、オバマ大統領を誕生させたように、次の大統領選でも”Change”を求める流れが出ると予想しています。

残念ながら、バイデン(ほぼ民主党候補として当確でしょう)は典型的な白人、男性、職業政治家であり、”Change”の象徴としては弱いですが、景気後退時には現職大統領の責を問えるので有利な立場です。

トランプ大統領はより過激な手法に出て、景気後退の原因について責任転嫁をすることで、再選を狙うと考えられます。

彼がツイッターでウイルスを中国ウイルス(China Virus)と呼んでいること、国防生産法を持ち出したことから、以下のようなストーリーを作り出そうとしていると考えられます。

「ウイルスは中国が情報を隠蔽したから全世界に広まり、大災害を引き起こした。中国という国際ルールを守らない国に対しては、強いリーダーが彼らを変えていかなければならない。俺は中国と取引を成功させて、米国に対してより良い取引を勝ち取った。今はウイルスとの戦争状態でもあり、強いリーダーが必要な時期だ。だから、弱々しいバイデンよりも俺が大統領になる方がアメリカのためになる」

このストーリーを米国民がそのまま信じてトランプを再選させるか、それとも社会の脆弱性を改善させるストーリーを語るバイデンを信じて民主党の大統領が誕生するかどうかは分かりません。

しかし、今回のコロナウイルスが米国が自国の医療制度、社会制度の脆さに気づくきっかけとなり、後々の米国政治・社会に影響を与えていくのではないかと思います。

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